(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】多管式の排熱回収熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28F 3/04 20060101AFI20220105BHJP
F28D 9/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F28F3/04 A
F28D9/00
(21)【出願番号】P 2017144768
(22)【出願日】2017-07-26
【審査請求日】2020-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000113942
【氏名又は名称】マルヤス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹也
(72)【発明者】
【氏名】澤村 晶寛
(72)【発明者】
【氏名】榊原 康文
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194324(JP,A)
【文献】特開2014-181855(JP,A)
【文献】特開2009-052495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 3/04
F28D 9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺で半筒状に形成した2つのケースを放熱フィンを介して組み付けてなり、偏平な中空角柱状に形成される伝熱管と、その伝熱管を複数平行に積層させた状態で収納する外管とを備え、
前記伝熱管内を流れる流体と、前記伝熱管と前記外管との隙間及び隣接する前記伝熱管同士の間を流れる冷却液との間で熱交換を行わせる多管式の排熱回収熱交換器であって、
前記ケース表面の短手方向に、
根元となる一方の端から
先端となる他方に
かけて幅がテーパ状に変化する先細り形状の突条を、互い違いに突設して前記突条間に冷却液の流路を蛇行状に形成し、
下流側の前記流路が、上流側の前記流路よりも幅が狭く形成されることを特徴とする多管式の排熱回収熱交換器。
【請求項2】
前記突条の先細り形状の拡がり角度が、3°以上5°以下であることを特徴とする請求項1に記載の多管式の排熱回収熱交換器。
【請求項3】
前記突条には、平坦な頂上部と、その頂上部から裾拡がり状に連設される傾斜側面と、が形成され、
隣接する前記伝熱管の前記頂上部同士が当接して、隣接する前記傾斜側面同士が繋がることで流路外縁部を形成し、
前記流路外縁部を形成する前記傾斜側面間に形成される角度が鈍角であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多管式の排熱回収熱交換器。
【請求項4】
前記角度が、90°以上150°以下であることを特徴とする請求項3に記載の多管式の排熱回収熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスから熱を回収する多管式の排熱回収熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、排気ガス(流体)から熱を回収する多管式の排熱回収熱交換器としては、熱交換器内に冷却水(冷却液)を流入させ、排気ガスの熱を吸収して温水として排出することにより、排気ガスを冷却させるものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような多管式の排熱回収熱交換器では、排気ガスの熱を吸収する冷却液が冷却水流通路内に停留すると、この冷却液がその位置で沸騰して気泡が発生し、気泡の周囲にスケールやすきま腐食を発生させるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来の熱交換器の問題を解消し、排気ガスの熱を吸収する冷却液が通路内に停留せず、スケールやすきま腐食を発生させることがなく、安定して熱交換を行うことが可能な多管式の排熱回収熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち、請求項1 に記載された発明は、長尺で半筒状に形成した2 つのケースを放熱フィンを介して組み付けてなり、偏平な中空角柱状に形成される伝熱管と、その伝熱管を複数平行に積層させた状態で収納する外管とを備え、
前記伝熱管内を流れる流体と、前記伝熱管と前記外管との隙間及び隣接する前記伝熱管同士の間を流れる冷却液との間で熱交換を行わせる多管式の排熱回収熱交換器であって、
前記ケース表面の短手方向に、根元となる一方の端から先端となる他方にかけて幅がテーパ状に変化する先細り形状の突条を、互い違いに突設して前記突条間に冷却液の流路を蛇行状に形成し、
下流側の前記流路が、上流側の前記流路よりも幅が狭く形成されることを特徴とするものである。
請求項2に記載された発明は、請求項1に加え、前記突条の先細り形状の拡がり角度が、3°以上5°以下であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明に加え、前記突条には、平坦な頂上部と、その頂上部から裾拡がり状に連設される傾斜側面と、が形成され、
隣接する前記伝熱管の前記頂上部同士が当接して、隣接する前記傾斜側面同士が繋がることで流路外縁部を形成し、
前記流路外縁部を形成する前記傾斜側面間に形成される角度が鈍角であることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明に加え、前記角度が、90°以上150°以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載された発明は、冷却液の流れが加速されて流路内に停滞しないことから、スケールやすきま腐食の発生を防止し、安定した熱交換が可能である。更に、空気が混入した場合でも、冷却液と同様に流路内に停滞することがない。
請求項2に記載された発明は、更に冷却液の流れが加速され、より一層安定した熱交換が可能となる。
請求項3に記載された発明は、冷却液が流路内に停滞しないことから、スケールやすきま腐食の発生を防止し、安定した熱交換が可能である。他にも、流路外縁部に形成される角度が鋭角の場合に比べて熱交換量が減少し、流路内で沸騰しにくくなる。
請求項4に記載された発明は、更に冷却液が流路内に停滞しにくくなり、より一層安定した熱交換が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】多管式の排熱回収熱交換器を示す説明図である。
【
図2】
図1における縦中心断面を示す説明図である。
【
図3】(a)は
図2の流路を拡大した状態を、(b)は集合部を拡大した状態を示す説明図である。
【
図6】
図5における伝熱管のB-B線断面図を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の多管式の排熱回収熱交換器(以下、熱交換器とする)の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
<熱交換器の構造>
図1は、熱交換器を示す説明図である。
図2は、
図1における縦中心断面を示す説明図である。
図3は、
図2の流路と集合部の拡大した状態を示す説明図である。
図4は、外管を取り外した状態を示す説明図である。
図5は、伝熱管の表面を示す説明図である。
図6は、
図5におけるB-B線断面を示す説明図である。
【0011】
図1に示す熱交換器1は、排気ガスGの熱を冷却液に吸収させて熱交換を行い、排気ガスGを冷却させるものである。この熱交換器1は、図示しない配管の上流側に取り付けられる吸気側フランジ20と、下流側に取り付けられる排出側フランジ22と、これらの間に設けられ熱交換を行う本体部2とで構成される。
本体部2は、
図2や
図4に示すように、内部に複数の伝熱管5,5・・を積層した伝熱積層体4を、その外管3内に収納させて溶接(ロウ付)することによって形成したものである。
【0012】
伝熱管5は、排気ガスGの熱を冷却液に伝熱させるために、長尺で半筒状(コ字状)に折り曲げ形成した金属製の左ケース6,右ケース7に、放熱フィン24を介して組み付け、偏平な中空角柱状に形成したものである。そして、
図5に示すように、伝熱管5は、上端に吸気口18を、下端に排出口19を形成し、排気ガスGが吸気口18側から内部へと流れ込み、排出口19側から外部へ流下する一方、左ケース6の表面を矢印の示す方向に冷却液Wが流れ、反対側の右ケース7の表面も、同様に冷却液Wが流れる構造である。
【0013】
左ケース6の表面には、排出口19側に下段溝30が形成されており、この下段溝30内には複数の突起部16,16・・が突設されている。
下段溝30の上方には、左ケース6表面の短手方向に、左端から右方に向けて先細り形状の第1突条8が突設されている。この第1突条8は、左端から右端に亘って左ケース6の短手方向に対して右上がりに約2°で傾斜する手前側の第1傾斜側面9と、左端から右端に亘って左ケース6の短手方向に対して右下がりに約2°で傾斜する奥側の第2傾斜側面10とで構成される。第1突条8の先細り形状の拡がり角度Cは、約4°である。また、第1突条8には、平坦な頂上部50と、その頂上部50から裾拡がり状に第1傾斜側面9と第2傾斜側面10とが連設されている。
【0014】
第1突条8の上方には、この第1突条8とは反対に右端から左方に向けて先細り形状の第2突条11が突設されている。この第2突条11は、下端に左端から右端に亘って左ケース6の短手方向に対して右下がりに約2°で傾斜する第3傾斜側面12と、上端に左端から右端に亘って左ケース6の短手方向に対して右上がりに約2°傾斜する第4傾斜側面13とで構成される。第2突条11の先細り形状の拡がり角度Dは約4°である。また、第2突条11には、平坦な頂上部51と、その頂上部51から裾拡がり状に第3傾斜側面12と第4傾斜側面13とが連設されている。
【0015】
他にも、第2突条11の上方で上端の吸気口18側には、段状の壁部14が形成されている。この壁部14の下端には、左端から右端に亘って左ケース6の短手方向に対して右上がりに約2°で傾斜する第5傾斜側面15が形成されている。また、壁部14には、平坦な頂上部52と、その頂上部52に第5傾斜側面15が連設されている。
【0016】
これらの構成により、第1突条8と第2突条11との間には、幅Eが約8mmの中段溝31が形成され、第2突条11と壁部14との間には、幅Fが約5mmで中段溝31より幅の狭い上段溝32が形成されている。下段溝30と中段溝31とは逆L字形に湾曲するように繋がっており、中段溝31と上段溝32とは倒U字状に繋がって、矢印が示す方向に蛇行状に冷却液Wが流れることを可能としている。
【0017】
そして、
図2,3(a)に示すように、複数の伝熱管5,5・・を積層すると、最も左側に位置する伝熱管5の右ケース7側に形成される下段溝30に、隣接する伝熱管5の左ケース6側に形成される下段溝30が重なることにより、第1流路40が形成される。
この時、
図3(b)に示すように、最も左側に位置する伝熱管5の第1傾斜側面9と、隣接する伝熱管5の第1傾斜側面9とで形成される流路外縁部41は、
図3(b)に示す角度Aが約120°の鈍角に形成されており、第1流路40内に気泡が発生しても、この角度Aが鋭角でないことから、気泡が停留しない構造である。
【0018】
また、中段溝31,31についても同様に重なることで、第2流路42が形成され、この時も、第2傾斜側面10,10で形成される流路外縁部43の角度と、第3傾斜側面12,12で形成する流路外縁部44の角度とが、角度Aと同様に約120°の鈍角に形成される。
【0019】
更に、上段溝32,32についても同様に重なることで、第3流路45が形成される。この第3流路45においても、流路外縁部43や流路外縁部44の場合と同様に、第4傾斜側面13,13で形成する流路外縁部46の角度と、第5傾斜側面15,15で形成する流路外縁部47の角度とが、角度Aと同様に約120°の鈍角に形成される。
以降、他の伝熱管5を重ね合わせることで第1流路40、第2流路42、第3流路45の各流路が同様に形成される。
【0020】
<熱交換器の組み付け>
熱交換器1は、左ケース6,右ケース7に放熱フィン24を組み付けることによって各伝熱管5,5・・を形成し、これらを積層して仮止めすることによって、
図4に示す伝熱積層体4を形成する。そして、上側アウターケースと下側アウターケースとを溶接(ロウ付)して外管3を形成する際に、伝熱積層体4を、その外管3内に収納させて溶接(ロウ付)することによって形成される。
【0021】
次に、熱交換器1による排気ガスGと冷却液Wとの熱交換は、以下のようにして行われる。
図1に示す高温(約150~300℃)の排気ガスGが配管から吸気側フランジ20内に流入すると、
図2に示すように、本体部2の各伝熱管5,5・・に分流することとなる。そして、
図3,5に示すように、各伝熱管5,5・・の吸気口18,18・・からそれぞれの内部に流れ込む。
【0022】
この時、外管3の入水側ポート25から約25℃の冷却液Wが本体部2内に供給されており、外管3と各伝熱管5,5・・との間に流れ込む構造となっている。
このうち、
図4に示すように、伝熱管5の左ケース6の表面では、冷却液Wの一部が下段溝30上の排出口19付近に流れ込む。
図5に示すように、下段溝30上では、突起部16,16・・の間を流れると、第1突条8の第1傾斜側面9に当接し、この第1傾斜側面9に沿って左端から右端手前に向かって流れた後、中段溝31に流れ込むこととなる。そして、中段溝31に流れ込んだ冷却液Wが、中段溝31内を第2傾斜側面10と第3傾斜側面12とに沿って流れた後、第2突条11の左先端部を通過して向きを変えると、上段溝32に流れ込むこととなる。この時の流速は、0.05m/s以上であり、流路の途中で淀むことはない。
次に、上段溝32では、第4傾斜側面13と第5傾斜側面15とに沿って流れ、流出口17側に排出されることとなる。この冷却液Wは、左ケース6の表面上を流れる間に排気ガスGの熱を左ケース6を介して吸収することとなる。
【0023】
また、伝熱管5の右ケース7側と、隣接する伝熱管5の左ケース6側とで構成される第1流路40、第2流路42、第3流路45を流れる冷却液Wでも同様に、排気ガスGの熱を右ケース7と左ケース6とを介して吸収した後、約60~80℃で流出口17、17側に排出されることとなる。他の伝熱管5,5・・でも同様に、排気ガスGの熱を冷却液Wが吸収することとなる。
そして、各流出口17,17・・から出て合流した冷却液Wは、出水側ポート26から本体部2の外部へと流れ出ることとなる。一方、冷却液Wによって冷却された排気ガスGが排出口19,19・・から出て合流し、約25~35℃で排出側フランジ22の排出口23へ流れることとなる。
【0024】
上記の如く構成される熱交換器1は、左ケース6表面の短手方向に、一方の端から他方に向けて先細り形状の第1突条8,第2突条11を、互い違いに突設して第1突条8,第2突条11間に冷却液Wの第2流路42、第3流路45を蛇行状に形成し、下流側の第2流路42が、上流側の第3流路45よりも幅が狭く形成されることにより、冷却液Wの流れが加速されて第2流路42、第3流路45内に停滞しないことから、スケールやすきま腐食の発生を防止し、安定した熱交換が可能である。更に、空気が混入した場合でも、冷却液Wと同様に第2流路42、第3流路45内に停滞することがない。
【0025】
更に、第1突条8の先細り形状の拡がり角度Cと、第2突条11の先細り形状の拡がり角度Dとが、3°以上5°以下であることにより、更に冷却液Wの流れが加速され、より一層安定した熱交換が可能となる。
【0026】
また、第1突条8には、平坦な頂上部50と、その頂上部50から裾拡がり状に連設される第1傾斜側面9と第2傾斜側面10と、が形成され、隣接する伝熱管5の頂上部50,50同士が当接して、隣接する第1傾斜側面9,9同士が繋がることで流路外縁部41を形成し、流路外縁部41を形成する第1傾斜側面9,9間に形成される角度Aが鈍角であることにより、冷却液Wが第1流路40内に停滞しないことから、スケールやすきま腐食の発生を防止し、安定した熱交換が可能である。他にも、流路外縁部41に形成される角度Aが鋭角の場合に比べて熱交換量が減少し、第1流路40内で沸騰しにくくなる。
【0027】
更に、角度Aが、90°以上150°以下であることにより、更に冷却液Wが第1流路40内に停滞しにくくなり、より一層安定した熱交換が可能となる。
【0028】
なお、本発明にかかる熱交換器は、上記した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、突条や壁部、流路の形状や大きさを適宜変更することができる。
【0029】
他にも、冷却液Wとしては、一般的には水が用いられるが、他に吸熱性に優れた液体であっても良い。また、本発明の流体である排気ガスGは、気体であるが、液体であっても良く、伝熱管を介して熱交換の可能なものであれば適宜変更可能である。
【0030】
具体的な使用例としては、例えば自動車のEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムに用いることにより、燃焼期間の排気マニホールドから排気ガスの一部を導入して所定の温度まで冷却し、冷却後の排気ガス(所謂、EGRガス)を、EGR弁を介して吸気マニホールドに排出させることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・熱交換器(排熱回収熱交換器)、2・・本体部、3・・外管、4・・伝熱積層体、5・・伝熱管、6・・左ケース、7・・右ケース、8・・第1突条、9・・第1傾斜側面、10・・第2傾斜側面、11・・第2突条、12・・第3傾斜側面、13・・第4傾斜側面、14・・壁部、15・・第5傾斜側面、16・・突起部、17・・流出口、18・・吸気口、20・・吸気側フランジ、22・・排気側フランジ、24・・放熱フィン、25・・入水側ポート、26・・出水側ポート、30・・下段溝、31・・中段溝、32・・上段溝、40・・第1流路、41・・流路外縁部、42・・第2流路、43・・流路外縁部、44・・流路外縁部、45・・第3流路、46・・流路外縁部、47・・流路外縁部、50・・頂上部、51・・頂上部、52・・頂上部、G・・排気ガス、W・・冷却液。