(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】耐火主要構造部
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
E04B1/94 R
(21)【出願番号】P 2017148195
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直人
(72)【発明者】
【氏名】久保 隆司
(72)【発明者】
【氏名】金森 誠治
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-179177(JP,A)
【文献】特開2011-190614(JP,A)
【文献】特開2007-046286(JP,A)
【文献】特開2018-21407(JP,A)
【文献】特開2016-211288(JP,A)
【文献】特開2016-130424(JP,A)
【文献】新耐火防火構造・材料等便覧,2004年03月,第3-4頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/99
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の主要構造部を構成する木製芯材と、木製芯材の表面を被覆するように設けられた耐火材料部とを備え、
木製芯材は、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる隅角部を除去した断面欠損部を備え、
耐火材料部は、木製芯材の表面を被覆するように設けられた内側耐火板と、内側耐火板の表面を被覆するように設けられた外側耐火板とを備えた、少なくとも2層以上の積層構造により構成され、
内側耐火板の表面から木製芯材の内側に到達する金属製止着部材と無機質系接着剤とによって内側耐火板と木製芯材とが接合され、外側耐火板の表面から内側耐火板の内側に到達して木製芯材に到達しない金属製止着部材と接着剤とによって外側耐火板と内側耐火板とが接合され、かつ、金属製止着部材同士が互いに接触しないように配置され
たとともに、耐火材料部で囲まれた断面欠損部に無機質系接着剤が充填されたことを特徴とする耐火主要構造部。
【請求項2】
建築物の主要構造部を構成する木製芯材と、木製芯材の表面を被覆するように設けられた耐火材料部とを備え、
木製芯材は、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる隅角部を除去した断面欠損部を備え、
耐火材料部は、木製芯材の表面を被覆するように設けられた内側石膏ボードと、内側石膏ボードの表面を被覆するように設けられた火山性ガラス質複合板と、火山性ガラス質複合板の表面を被覆するように設けられた外側石膏ボードとを備えた積層構造であり、
内側石膏ボードの表面から木製芯材の内側に到達する金属製止着部材と無機質系接着剤とによって内側石膏ボードと木製芯材とが接合され、火山性ガラス質複合板の表面から内側石膏ボードの内側に到達して木製芯材に到達しない金属製止着部材と接着剤とによって火山性ガラス質複合板と内側石膏ボードとが接合され、外側石膏ボードの表面から火山性ガラス質複合板の内側に到達して内側石膏ボードに到達しない金属製止着部材と接着剤とによって外側石膏ボードと火山性ガラス質複合板とが接合され、かつ、金属製止着部材同士が互いに接触しないように配置され
たとともに、耐火材料部で囲まれた断面欠損部に無機質系接着剤が充填されたことを特徴とする耐火主要構造部。
【請求項3】
木製芯材の除去前の隅角部の頂角と隅角部除去後の断面欠損部の表面との間の最短距離を、1mm以上としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火主要構造部
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の柱や梁等の主要構造部となる木製芯材と、木製芯材の表面に設けられた耐火材料部とを備えた耐火主要構造部に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の柱や梁等の主要構造部となる木製芯材と、木製芯材の表面に設けられた「燃え止まり層」と呼ばれる耐火材料部とを備えた構成の耐火主要構造部が知られている。
例えば、木製芯材の表面を被覆するように石膏ボードを複数枚積層してなる燃え止まり層を形成した構成の「オメガウッド(登録商標)」、「クールウッド(登録商標)」と呼ばれる耐火主要構造部(非特許文献1,2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】初の汎用材による大スパン2時間耐火木造技術「オメガウッド(耐火)」を開発、[平成29年5月12日検索]、インターネット〈http://www.obayashi.co.jp/press/20160229_1〉
【文献】COOL WOOD(クールウッド)、[平成29年5月12日検索]、インターネット〈http://www.kes.ne.jp/coolwood/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
火災時において、「燃え止まり層」による耐火材料部を使用する場合、木製芯材のどの箇所でも焦げが発生しないことが耐火性能を有すると評価される。他方、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる隅角部は、複数の方向から火熱を受けることになるため、最も燃えやすくなる。このため、耐火主要構造部の耐火性能が悪くなるという課題があった。
本発明は、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる部分の耐火性能を向上させた耐火主要構造部を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る耐火主要構造部は、建築物の主要構造部を構成する木製芯材と、木製芯材の表面を被覆するように設けられた耐火材料部とを備え、木製芯材は、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる隅角部を除去した断面欠損部を備え、耐火材料部は、木製芯材の表面を被覆するように設けられた内側耐火板と、内側耐火板の表面を被覆するように設けられた外側耐火板とを備えた、少なくとも2層以上の積層構造により構成され、内側耐火板の表面から木製芯材の内側に到達する金属製止着部材と無機質系接着剤とによって内側耐火板と木製芯材とが接合され、外側耐火板の表面から内側耐火板の内側に到達して木製芯材に到達しない金属製止着部材と接着剤とによって外側耐火板と内側耐火板とが接合され、かつ、金属製止着部材同士が互いに接触しないように配置されたとともに、耐火材料部で囲まれた断面欠損部に無機質系接着剤が充填されたことを特徴とするので、火災時において、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる部分に火熱が伝わり難くなるため、耐火性能が向上する。また、金属製止着部材と接着剤との併用によって火災時に耐火板が崩落し難くくなるとともに、火災時において、金属製止着部材による木製芯材への熱橋が防止され、耐火性能が向上する。
また、本発明に係る耐火主要構造部は、建築物の主要構造部を構成する木製芯材と、木製芯材の表面を被覆するように設けられた耐火材料部とを備え、木製芯材は、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる隅角部を除去した断面欠損部を備え、耐火材料部は、木製芯材の表面を被覆するように設けられた内側石膏ボードと、内側石膏ボードの表面を被覆するように設けられた火山性ガラス質複合板と、火山性ガラス質複合板の表面を被覆するように設けられた外側石膏ボードとを備えた積層構造であり、内側石膏ボードの表面から木製芯材の内側に到達する金属製止着部材と無機質系接着剤とによって内側石膏ボードと木製芯材とが接合され、火山性ガラス質複合板の表面から内側石膏ボードの内側に到達して木製芯材に到達しない金属製止着部材と接着剤とによって火山性ガラス質複合板と内側石膏ボードとが接合され、外側石膏ボードの表面から火山性ガラス質複合板の内側に到達して内側石膏ボードに到達しない金属製止着部材と接着剤とによって外側石膏ボードと火山性ガラス質複合板とが接合され、かつ、金属製止着部材同士が互いに接触しないように配置されたとともに、耐火材料部で囲まれた断面欠損部に無機質系接着剤が充填されたことを特徴とするので、火災時において、木製芯材の互いに隣り合う側面と側面との境界となる部分に火熱が伝わり難くなるため、耐火性能が向上する。また、金属製止着部材と接着剤との併用によって火災時に耐火板が崩落し難くくなるとともに、火災時において、金属製止着部材による木製芯材への熱橋が防止され、耐火性能が向上する。また、耐火材料部(燃え止まり層)の厚さを薄くできて、建物内空間を広くできるとともに、火山性ガラス質複合板を備えたことで熱抵抗値の低下を改善できて、さらに、火山性ガラス質複合板を備えたことで内側石膏ボード及び外側石膏ボードの欠けや割れ部分に対する防御的機能を備えた構成となる。
また、木製芯材の除去前の隅角部の頂角と隅角部除去後の断面欠損部の表面との間の最短距離を、1mm以上としたので、1時間耐火性能を有する耐火主要構造部を構成しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図5】各種石膏ボード及び火山性ガラス質複合板の特徴を示す比較図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1の耐火主要構造部は、例えば
図1乃至
図4に示すように、無垢材(純木)、又は、集成材、又は、CLT(Cross Laminated Timber)により形成されて建築物の主要構造部を構成する木製芯材2と、木製芯材2の表面(外表面(側面))21を被覆するように設けられた耐火材料部(耐火層)10とを備え、耐火材料部10は、木製芯材2の表面21を被覆するように設けられた内側耐火板3と、内側耐火板3の表面(外表面(外側板面))31を被覆するように設けられた中間耐火板4と、中間耐火板4の表面(外表面(外側板面))41を被覆するように設けられた外側耐火板5と、外側耐火板5の表面(外表面(外側板面))51を被覆するように設けられた図外の木製化粧材とを備え、木製芯材2が、木製芯材2の互いに隣り合う側面(表面)21と側面(表面)21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22を備えた構成である。
【0008】
実施形態1の耐火主要構造部は、以下のように作成される。
木製芯材2の表面(外表面(側面))21と内側耐火板3の内側板面(内表面)32とが耐火性能に優れた無機質系接着剤25で接着されるとともに、内側耐火板3で囲まれた木製芯材2の断面欠損部22に無機質系接着剤25が充填される。この無機質系接着剤25を用いた木製芯材2の表面21と内側耐火板3の内側板面32と接着は、防火対策上の観点から全面接着とすることが好ましい。
そして、木製芯材2の表面21と内側耐火板3の内側板面32との間に設けられた無機質系接着剤25と、内側耐火板3の表面(外側板面(外表面))31から木製芯材2の内側に到達する金属製止着部材としてのタッカー針6と、の併用によって、内側耐火板3と木製芯材2とが接合される。
また、内側耐火板3の表面(外側板面(外表面))31と中間耐火板4の内側板面(内表面)42との間に設けられた接着力に優れた酢酸ビニル系接着剤35と、中間耐火板4の表面(外側板面(外表面))41から内側耐火板3の内側に到達して木製芯材2に到達しないタッカー針6と、の併用によって、中間耐火板4と内側耐火板3とが接合される。
さらに、中間耐火板4の表面(外側板面(外表面))41と外側耐火板5の内側板面(内表面)52との間に設けられた接着力に優れた酢酸ビニル系接着剤35と、外側耐火板5の表面(外側板面(外表面))51から中間耐火板4の内側に到達して内側耐火板3に到達しないタッカー針6と、の併用によって、外側耐火板5と中間耐火板4とが接合される。
この酢酸ビニル系接着剤35を用いた耐火板の板面同士の接着は、全面接着でもよいし、部分接着でもよい。
そして、タッカー針6,6…同士が互いに接触しないように配置された構成となっている。
また、外側耐火板5の表面(外側板面(外表面))51に図外の木製化粧材が接着剤等によって取付けられる。
尚、木製芯材2の表面21と内側耐火板3の内側板面32と接着は、防火上の観点から無機質系接着剤を使用することが好ましい。
また、中間耐火板4、外側耐火板5を接着する接着剤は、接着力を優先して酢酸ビニル系接着剤35を用いたが、無機質系接着剤25を用いてもよい。
【0009】
主要構造部とは、建築基準法第二条の五に「構造耐力上主要な部分」として定められた、「壁、柱、床、梁、屋根又は階段」のことである。
尚、
図1,
図3では、建築物の主要構造部を構成する木製芯材2の例として「柱」を図示している。
【0010】
集成材は、張り合わせる板の繊維方向が並行方向となるように複数の板を張り合わせて構成された木材である。
CLTは、張り合わせる板の繊維方向が直交するように複数の板を張り合わせて構成された木材であり、直交集成板と呼ばれている。
【0011】
内側耐火板3、中間耐火板4、外側耐火板5としては、例えば、石膏ボード、あるいは、火山性ガラス質複合板等の耐火板が用いられる。
【0012】
図1乃至
図4に基づいて実施形態1の耐火主要構造部1の形成方法について説明する。ここでは、木製芯材2が柱である場合について説明する。
まず、
図2に示すように、木製芯材2により形成された柱の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22を形成する。当該断面欠損部22は、例えば、柱の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を面取り加工して、柱の互いに隣り合う側面21と側面21とに亘って連続する平面部23とすることにより形成される。当該平面部23としては、例えば、柱の互いに隣り合う各側面21,21とのなす角度αがそれぞれ135°に設定された平面部23を形成する。言い換えれば、断面欠損部22は、隅角部20が断面直角二等辺三角形の形状に除去された部位により形成される。
【0013】
そして、
図1,
図3に示すように、柱の4つの側面21,21…に個々に、例えば厚さ12.5mmの内側耐火板3を取付けていって、柱の4つの側面21,21…を被覆する。
この場合、柱の断面における側面21の幅長+12.5mm程度の寸法にあわせて切断した内側耐火板3を用意する。そして、当該内側耐火板3を柱の一の側面21に取付ける際には、当該内側耐火板3の一方の端面33と当該一の側面21と隣り合う一方の側面21とが同一平面上に位置して、かつ、当該内側耐火板3の他方の端部34を当該一の側面21と隣り合う他方の側面21よりも12.5mm程度突出させる。
そして、柱の隅角部20を除去した断面欠損部22の外側においては、互いに隣り合う一方の内側耐火板3の端面33と他方の内側耐火板3の突出する端部34の内側板面(内表面)32とが耐火性能に優れた無機質系接着剤25で接着されるとともに、各内側耐火板3の内側板面32と柱の側面21とが無機質系接着剤25で接着され、かつ、各内側耐火板3の表面(外側板面(外表面))31側から柱に向けてタッカー針6が打ち込まれることによって、柱の各側面21,21…にそれぞれ内側耐火板3,3…が取り付けられる。以上により、柱の各側面21,21…が内側耐火板3で被覆された断面四角形の内側耐火板巻き柱が構成される。
【0014】
さらに、内側耐火板巻き柱の各側面に、例えば厚さ12.5mmの中間耐火板4を取付けて、内側耐火板巻き柱の表面を被覆する。
この場合、内側耐火板巻き柱の断面における側面の幅長+12.5mm程度の寸法にあわせて切断した中間耐火板4を用意する。そして、当該中間耐火板4を内側耐火板巻き柱の一の側面に取付ける際には、当該中間耐火板4の一方の端面43と当該内側耐火板巻き柱の一の側面と隣り合う内側耐火板巻き柱の一方の側面とが同一平面上に位置して、かつ、当該中間耐火板4の他方の端部44を当該内側耐火板巻き柱の一の側面21と隣り合う内側耐火板巻き柱の他方の側面よりも12.5mm程度突出させる。
そして、柱の隅角部20を除去した断面欠損部22の外側においては、互いに隣り合う一方の中間耐火板4の端面43と他方の中間耐火板4の突出する端部44の内側板面(内表面)42とが接着力に優れた酢酸ビニル系接着剤35で接着されるとともに、各中間耐火板4の内側板面(内表面)42と内側耐火板巻き柱の側面とが無機質系接着剤25で接着され、かつ、各中間耐火板4の表面(外側板面(外表面))41側から内側耐火板3に向けて柱に到達しないタッカー針6が打ち込まれることによって、内側耐火板巻き柱の各側面にそれぞれ中間耐火板4,4…が取り付けられる。
以上により、内側耐火板巻き柱の各側面が中間耐火板4で被覆された断面四角形の2重耐火板巻き柱が構成される。
【0015】
そして、内側耐火板巻き柱の各側面に中間耐火板4を取付けて2重耐火板巻き柱を構成した場合と同様な方法によって、2重耐火板巻き柱の各側面に、例えば厚さ12.5mmの外側耐火板5を取付けて、2重耐火板巻き柱の表面を被覆した3重耐火板巻き柱を構成する。
【0016】
尚、タッカー針6は、内側耐火板3の側面の幅方向の両端側において、木製芯材2により形成された柱の除去前の隅角部20の頂角20tから側面21の中央側に向けて所定距離離れた位置で打ち込む。また、タッカー針6は、中間耐火板4、外側耐火板5の幅方向の両端側において、各耐火板4,5の幅方向の端面から幅方向の中央側に向けて所定距離離れた位置で打ち込む。この所定距離は例えば15mm程度とすることが好ましい。
また、
図4に示すように、タッカー針6は、柱の中心軸に沿った方向において、所定間隔Aを隔てて打ち込むようにすればよい。当該所定間隔Aは、例えば150mm程度とすることが好ましい。また、タッカー針6は、柱の幅方向において、所定間隔Bを隔てて互いに接触しないように打ち込む。
【0017】
以上により、柱を形成する木製芯材2と、木製芯材2の表面(外表面)21を被覆するように設けられた3重の耐火板による三層の耐火層により形成された耐火材料部10とを備えた耐火主要構造部を構成できる。
【0018】
実施形態1の耐火主要構造部によれば、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22を形成したので、火災時において、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる部分となる平面部23に火熱が伝わり難くなるため、耐火性能が向上し、例えば1時間耐火性能を満たす耐火主要構造部を実現可能となる。
【0019】
尚、1時間耐火性能とは、「建築基準法第2条第7項耐火構造」に記載されている「耐火性能」であり、その具体的内容が書かれている「建築基準法施行令第107条耐火性能に関する技術的基準」の壁、柱、床、はりの主要構造部にあって、「通常の火災による火熱が1時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものである」との基準を満たすものである。試験内容としては、例えば主要構造部(木製芯材2)が柱の場合、長さ3m以上の試験体に対して、耐火炉にて柱に荷重をかけつつ4面から1時間の火災を想定した加熱(バーナー)をし、柱芯の燃焼状況や最大軸方向収縮量などの試験判定に合格し、国土交通大臣の認定を取得することで1時間耐火性能を有する柱であるとなるものである。
この1時間耐火性能試験による評価では、耐火主要構造部中の木製芯材2の表面が0.6mm焦げた場合、1時間耐火性能を満たさないと評価される。
従って、1時間耐火性能を得るためには、木製芯材2の除去前の隅角部20の頂角20tと隅角部除去後の断面欠損部22の表面となる平面部23との間の最短距離Xを、1mm以上とすることが好ましいが、より耐火性能を向上させるためには、当該最短距離Xを、4mm~6mmとすることが好ましい。
【0020】
従来の例えば「オメガウッド」、「クールウッド」と呼ばれる耐火主要構造部では、火災時において構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないようにするため、本願のような断面欠損部を設けないようにしているが、本願では、耐火主要構造部の最も内側に位置される木製芯材2の表面のうち最も焦げやすい部分を焦げ難くすることを目的として、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22を形成しているので、木製芯材2の表面のうち最も焦げやすい部分が焦げ難くなり、1時間耐火性能を有する耐火主要構造部を構成しやすくなる。
【0021】
また、「燃え止まり層」を形成する耐火材料部10に石膏ボード等の板状固形質材料を使用した場合、耐火材料部10と木製芯材2とが固形物同士の接合となることから、この部分に隙間等が起こり焦げやすい状況になるという課題があったが、実施形態1の耐火主要構造部によれば、木製芯材2の表面(外表面)21と耐火材料部10の内側耐火板3の内側板面(内表面)32とが無機質系接着剤25で接着されるとともに、耐火材料部10で囲まれた断面欠損部22に無機質系接着剤25が充填された構成としたことにより、木製芯材2と内側耐火板3とが耐火性能に優れた無機質系接着剤25により密着されるため、耐火材料部10と木製芯材2との隙間をなくすことができるようになり、火災時において、火熱が木製芯材2の表面に到達し難くなり、耐火性能が向上する。
【0022】
実施形態1の耐火主要構造部によれば、内側耐火板3の表面(外側板面(外表面))31から木製芯材2の内側に到達する金属製止着部材としてのタッカー針6と耐火性能に優れた無機質系接着剤25とによって内側耐火板3と木製芯材2とが接合され、中間耐火板4の表面(外側板面(外表面))41から内側耐火板3の内側に到達して木製芯材2に到達しない金属製止着部材としてのタッカー針6と接着力に優れた酢酸ビニル系接着剤35とによって中間耐火板4と内側耐火板3とが接合され、外側耐火板5の表面(外側板面(外表面))から中間耐火板4の内側に到達して内側耐火板3に到達しないタッカー針6と酢酸ビニル系接着剤35とによって外側耐火板5と中間耐火板4とが接合された構成としたので、タッカー針6と接着剤との併用によって火災時に各耐火板3,4,5が崩落し難くくなり、耐火性能が向上する。
【0023】
また、耐火材料部10である石膏ボード等を固定する場合、一般にタッカー針6等の金属製止着部材を使用するが、この金属製止着部材が熱橋となり木製芯材2を焦がす原因ともなっていたが、実施形態1の耐火主要構造部によれば、各耐火板3,4,5を止着するタッカー針6,6同士が互いに接触しないように配置されたので、火災時において、耐火材料部10から木製芯材2へのタッカー針6等の金属製止着部材による熱橋(ヒートブリッジ)を防止することができるようになり、耐火性能が向上する。
【0024】
実施形態2
実施形態2の耐火主要構造部は、実施形態1の耐火主要構造部の内側耐火板3及び外側耐火板5として石膏ボードを用いるとともに、中間耐火板4として火山性ガラス質複合板を用いた構成とした。
【0025】
火山性ガラス質複合板は、ロックウール等の鉱物繊維とシラス等の火山性ガラス質材料とで形成された耐火材料であり、例えば、シラスを圧縮して形成されたシラス圧縮板の両方の板面に、ロックウールを圧縮して形成されたロックウール圧縮板の板面を接合して構成された複合板である。
火山性ガラス質複合板としては、例えば、大建工業株式会社製の「ダイライトMU(登録商標)」、「SD耐火パネル(登録商標)」等を用いればよい。
【0026】
石膏ボードの種類としては、例えば、一般的な所謂石膏ボード、当該石膏ボードよりも密実に構成された強化石膏ボード、当該強化石膏ボードよりもさらに密実に構成された硬質石膏ボードがある。
これら各種石膏ボード、及び、火山性ガラス質複合板としてのSD耐火パネルの特徴を
図5に示す。
図5に示すように、各石膏ボードの厚さが同じ12.5mmである場合、重量及び結晶水含有量の関係は、石膏ボード<強化石膏ボード<硬質石膏ボードであるのに対して、熱抵抗値の関係は、石膏ボード>強化石膏ボード>硬質石膏ボードである。これは、石膏ボードの単位体積当たりの重量が増えると、結晶水含有量が増えるが、ボード内の気泡が少なくなって、熱抵抗値が低くなるからである。
また、石膏ボードとSD耐火パネルとを比較した場合、重量の関係は、SD耐火パネル<石膏ボードであり、熱抵抗値の関係は、SD耐火パネル>石膏ボードである。即ち、火山性ガラス質複合板としてのSD耐火パネルは、軽量でかつ熱抵抗値が高く、かつ、火災時において石膏ボードと比べて欠けや割れ等が生じ難いので、石膏ボードと比べた場合、扱いやすく、断熱性能が高い。
【0027】
上述した「クールウッド」において、1時間耐火性能を確保する場合、例えば、
図6(a)に示すように、21mmの強化石膏ボード3bを2枚積層した2層構造の燃え止まり層(耐火材料部)を形成している。この場合、燃え止まり層の厚さは42mm、結晶水含有量が6.8kg/m
2となる。
一方、「クールウッド」において、建物内空間を広くするために、
図6(b)に示すように、12.5mmの硬質石膏ボード3cを2枚積層した2層構造の燃え止まり層を形成した場合、燃え止まり層の厚さは25mmと薄くなり、結晶水含有量が6.3kg/m
2となる。しかしながら、当該燃え止まり層の場合、21mmの強化石膏ボード3bを2枚積層した2層構造の燃え止まり層と比べて、熱抵抗値が小さくなるとともに、ボードの厚さが薄くなることから火災時においてボードに欠けや割れ等が生じる可能性が高くなり、火災時において、ボードに欠けや割れ等が生じた場合、火熱が当該欠けや割れ部分を介して木製芯材2に早く到達しやすくなる。
従って、
図6(b)に示すように、12.5mmの硬質石膏ボード3cを2枚積層した2層構造の燃え止まり層を形成した場合、耐火性能が悪くなり、1時間耐火性能を確保できない可能性がある。
【0028】
これに対して、実施形態2では、例えば、
図6(c)に示すように、12.5mmの硬質石膏ボード3cによる内側石膏ボード(内側耐火板3)と外側石膏ボード(外側耐火板5)との間に12.5mmの火山性ガラス質複合板(中間耐火板4)としてのSD耐火パネルを設けて形成された3層構造の燃え止まり層(耐火材料部10)を備えた耐火主要構造部1としたので、燃え止まり層の厚さを37.5mmとできて、1時間耐火性能を実現した「クールウッド」の厚さ42mmよりも薄くできて、建物内空間を広くできるとともに、火山性ガラス質複合板を備えたことで熱抵抗値の低下を改善できて、さらに、火山性ガラス質複合板を備えたことで内側石膏ボード及び外側石膏ボードの欠けや割れ部分に対する防御的機能を備えた構成となる。
つまり、実施形態2の耐火主要構造部によれば、燃え止まり層(耐火材料部10)の厚さを薄くできて建物内空間を広くでき、かつ、耐火性能に優れた耐火主要構造部1を提供できるようになる。
【0029】
実施形態2の耐火主要構造部によれば、火災時において木製化粧材が燃えた後、まず、外側石膏ボード(外側耐火板5)が結晶水の熱分解での水蒸気放出による耐火性能を発揮する。その後、中間層にある断熱性能の高い火山性ガラス質複合板(中間耐火板4)が断熱層として耐火性能を発揮し、最終的に最も内側に位置する内側石膏ボード(内側耐火板3)が耐火性能を発揮する。この場合、万一、外側石膏ボードに欠けや割れ等が生じた場合には、中間層にある火山性ガラス質複合板が、当該外側石膏ボードの欠けや割れ部分から侵入する火熱に対する耐熱層としての機能を発揮する。また、内側石膏ボードは、結果的に結晶水を耐火時間中保持できれば、水蒸気の放出に伴う蒸発潜熱の効果により、木製芯材2の表面21が100℃を超えないように働くことになり、木製芯材2に焦げが発生しないようになる。
即ち、実施形態2の耐火主要構造部によれば、実施形態1の効果に加え、厚さの薄い燃え止まり層(耐火材料部10)を備えたので、建物内空間を広くでき、また、外側と内側の2層の石膏ボード(内側耐火板3,外側耐火板5)を備えたことによって耐火性能を向上でき、また、火山性ガラス質複合板を備えたことで熱抵抗値の低下を改善でき、さらに、火山性ガラス質複合板を備えたことで石膏ボードの欠けや割れ部分に対する防御的機能が得られるようになるので、耐火性能に優れた耐火主要構造部となる。
【0030】
実施形態2の耐火主要構造部の耐火試験を行った結果、実施形態2の耐火主要構造部1は、1時間耐火性能を有するものであることを確認できた。
【0031】
尚、上記では、木製芯材2の隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22は、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を面取り加工して平面部23とすることにより形成される例、言い換えれば、断面欠損部22は、隅角部20が断面直角二等辺三角形の形状に除去された部位により形成される例を示したが、断面欠損部22は、隅角部20が除去されて形成された構成であれば、形状はどのような形状であっても構わない。例えば、断面欠損部22は、隅角部20が断面直角二等辺三角形以外の三角形状に除去された部位により形成されていてもよいし、隅角部20が断面四角形の形状に除去された部位により形成されてもよいし、隅角部20が隅角部20の頂角20tを扇の要とする断面扇形の形状に除去された部位により形成されてもよい。
【0032】
また、上記では、耐火板を3枚積層した3層構造の耐火材料部10(燃え止まり層)を備えた構成の耐火主要構造部を例示したが、耐火板を2枚積層した2層構造の耐火材料部を備えた構成の耐火主要構造部、あるいは、耐火板1枚による耐火材料部を備えた構成の耐火主要構造部、あるいは、耐火板を4枚以上積層した4層以上の積層構造の耐火材料部を備えた構成の耐火主要構造部としてもよい。
このような構成の耐火主要構造部であっても、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる隅角部20を除去した断面欠損部22を備えた構成とすることで、火災時において、木製芯材2の互いに隣り合う側面21と側面21との境界となる部分に火熱が伝わり難くなるため、耐火性能が向上するからである。
【0033】
また、上記では、金属製止着部材としてタッカー針6を用いた例を示したが、タッカー針6以外の金属製止着部材として、例えば、釘、ビス、ピンなどを用いても構わない。
【0034】
また、耐火材料部10は、上記複合板でもよいし、石膏ボードの積層板やけい酸カルシウム板などの積層または組合せ積層板でもよく、不燃性の板状固形質材料の積層であれば、どのような組合せでもよい。
【0035】
また、上記では、最も外側に木製化粧材を備えた構成の耐火主要構造部を例示したが、最も外側に木製化粧材の代わりにクロス等のシート状の化粧材を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
2 木製芯材、3 内側耐火板、4 中間耐火板、5 外側耐火板、
6 タッカー針(金属製止着部材)、10 耐火材料部、20 隅角部、20t 頂角、21 側面、22 断面欠損部、25 無機質系接着剤、35 酢酸ビニル系接着剤。