(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】無絶縁超電導コイル用の超電導体及びそれを用いた超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20220105BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20220105BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01B12/06
H01F6/06 140
H01F6/06 120
C01G1/00 S
(21)【出願番号】P 2017149934
(22)【出願日】2017-08-02
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡部 智則
(72)【発明者】
【氏名】長屋 重夫
(72)【発明者】
【氏名】福井 聡
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-228479(JP,A)
【文献】特開2017-068931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01F 6/06
C01G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の片面に
中間層を介して希土類系酸化物超電導体による超電導層が設けられ
、該超電導層上に保護層を介して導電性金属よりなる安定化層が被覆されて構成されたテープ状の超電導線材を
2枚重ね合せて超電導線材のバンドルを構成した無絶縁超電導コイル用の超電導体
であって、
前記バンドルを構成する2枚の前記超電導線材の前記安定化層同士を直接接触させた無絶縁超電導コイル用の超電導体。
【請求項2】
基板の片面に
中間層を介して希土類系酸化物超電導体による超電導層が設けられ
、該超電導層上に保護層を介して導電性金属よりなる安定化層が被覆されて構成されたテープ状の超電導線材を
3枚
以上重ね合せて超電導線材のバンドルを構成した無絶縁超電導コイル用の超電導体
であって、
前記バンドルを構成する3枚以上の前記超電導線材のうち両側に超電導線材が位置する超電導線材の安定化層とその両側の超電導線材の安定化層とを直接接触させた無絶縁超電導コイル用の超電導体。
【請求項3】
前記バンドルは偶数枚の超電導線材が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材の超電導層が対向するように重ね合されている請求項
1又は請求項2に記載の無絶縁超電導コイル用の超電導体。
【請求項4】
前記バンドルは奇数枚の超電導線材が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材は超電導層が対向するように重ね合されるとともに、残りの1枚の超電導線材は超電導層が超電導コイルの中心側に位置するように配置されている請求項
2に記載の無絶縁超電導コイル用の超電導体。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の無絶縁超電導線コイル用の超電導体のバンドルをコイル状に巻回して構成される超電導コイルであって、
前記コイル状に巻回されるバンドル間には電気抵抗性を有する離隔層が設けられている超電導コイル。
【請求項6】
前記電気抵抗性を有する離隔層は、電気抵抗率が1×10
-6~1×10
-5Ωmの金属層である請求項
5に記載の超電導コイル。
【請求項7】
臨界電流に対するコイルの通電電流の割合を示す負荷率(%)は、バンドルを構成する超電導線材の枚数をxとしたとき、〔(x-1)/x〕×100で表される値に設定される請求項
5又は請求項
6に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状に巻回されるテープ状の超電導線材間が電気的に絶縁されない無絶縁の超電導コイルに使用される超電導体及びそれを用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材間を電気的に絶縁しない無絶縁の超電導コイルにおいては、常電導転移(クエンチ)が発生したとき隣接する超電導線材間に電流が流れることにより、超電導線材の発熱が抑えられて超電導コイルの損傷を防止することができる。この種の超電導線材及びそれを用いた超電導コイルが、例えば特許文献1に示されている。すなわち、この超電導線材は、基板上に中間層を介して超電導層が形成され、該超電導層上に保護層を介して銅よりなる安定化層が形成され、さらにその安定化層上には銅よりも柔らかい金属で形成された金属層が設けられている。
【0003】
このため、超電導コイルに常電導転移が発生したとき、電流は超電導層から保護層及び安定化層を介して金属層へ流れ、さらに隣接する超電導線材の金属層へと流入する。従って、常電導転移が引き起こされた超電導層から電流を超電導コイルの全周に拡散させることができ、超電導コイルの電圧上昇を抑制して超電導線材の局部的な発熱を回避でき、超電導線材の損傷を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1に記載されている従来構成の超電導線材は、その長手方向における超電導特性のばらつきが大きく、低臨界電流箇所(低特性箇所)で超電導線材間が結合して超電導コイルの径方向への電流が発生し、所望とするコイル磁場を得ることが困難になる。
【0006】
よって、このような従来の超電導コイルでは、臨界電流に対する超電導コイルへの通電電流の割合を示す負荷率を高めることが難しく、安定した状態で高負荷率通電を行うことが困難であった。
【0007】
また、励磁の際、超電導線材間に電流が流れたときには直ちに超電導コイルの周方向への電流が減少し、コイル磁場の励磁遅れが発生する。すなわち、超電導コイルの中心磁場の立ち上がりが遅れ、所定磁場に到達するまでに時間を要し、言い換えれば励磁速度を増大させることができなくなる。
【0008】
このような従来の超電導コイルでは、臨界電流に対する超電導コイルへの通電電流の割合を示す負荷率を高めることが難しく、安定した状態で高負荷率通電を行うことが困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、コイル磁場の励磁遅れを抑制できるとともに、安定した高負荷率通電を行うことができる無絶縁超電導コイル用の超電導体及びそれを用いた超電導コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の無絶縁超電導コイル用の超電導体は、基板の片面に希土類系酸化物超電導体による超電導層が設けられたテープ状の超電導線材を複数枚重ね合せて超電導線材のバンドルを構成したものである。また、本発明の超電導コイルは、前記超電導体のバンドルをコイル状に巻回して構成され、コイル状に巻回されるバンドル間には電気抵抗性を有する離隔層が設けられている。
【0011】
このため、1枚の超電導線材では通電量が臨界電流により制限されるのに対し、バンドルでは複数の超電導線材に通電が可能であるため通電量を増大させることができる。従って、臨界電流に対するコイルの通電電流の割合を示す負荷率を高めることができるとともに、高い負荷率で安定した通電を行うことができる。
【0012】
さらに、バンドル間には電気抵抗性を有する離隔層が設けられていることから、超電導コイルへの通電時にコイルの径方向への電流の流れがバンドル内に制限され、コイルの周方向への電流量を十分に確保でき、励磁遅れを抑制できるとともに、十分な励磁速度を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無絶縁超電導コイル用の超電導体によれば、コイル磁場の励磁遅れを抑制できるとともに、安定した高負荷率通電を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における無絶縁超電導コイルを一部破断して示す模式的な概略斜視図。
【
図2】
図1に示す無絶縁超電導コイルを構成する超電導線材のバンドルを拡大して示す断面図。
【
図3】バンドルを構成する超電導線材を示す断面図。
【
図4】(a)は隣接する2枚の超電導線材の超電導層を対向させて配置した状態における電流の流れを示すバンドルの断面図、(b)は隣接する2枚の超電導線材の超電導層を対向させないように配置した状態における電流の流れを示すバンドルの断面図。
【
図5】2枚の超電導線材で構成したバンドルを、電気抵抗性を有する離隔層を介して巻回した状態を示す断面図。
【
図6】5枚の超電導線材で構成したバンドルを、電気抵抗性を有する離隔層を介して巻回した状態を示す断面図。
【
図7】超電導線材の長さ(mm)と臨界電流Ic(A)との関係を示すグラフ。
【
図8】通電時間(秒)と中心磁場(T)との関係を示すグラフ。
【
図9】垂直磁場(T)と臨界電流の比(磁場中の臨界電流/自己磁場下の臨界電流)との関係を示すグラフ。
【
図10】通電電流(A)と中心磁場(mT)との関係を示すグラフ。
【
図11】通電電流(A)と中心磁場(mT)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、実施形態における無絶縁超電導コイル11(単に超電導コイル11ともいう)用の超電導体は、基板12の片面に希土類系酸化物超電導体による超電導層13が設けられたテープ状の超電導線材14を複数枚重ね合せたバンドル15により構成されている。すなわち、バンドル15は複数枚の超電導線材14を重ね合せて束ねた集合体を意味する。前記無絶縁超電導コイル11は、コイル状に巻回されるバンドル15間を電気的に絶縁することなく、バンドル15間での電流の転流を許容する超電導コイル11である。この超電導コイル11では電流密度を高めることができるとともに、常電導転移が生じたときにバンドル15内で超電導線材14間に電流が流れて発熱が抑えられ、超電導コイル11の損傷を抑制できる。
【0016】
超電導線材14は長手方向における超電導特性のばらつきがあり、超電導特性の低い箇所(低特性箇所)すなわち臨界電流の低い箇所で超電導線材14間が結合して電流が超電導コイル11の径方向へ流れ、周方向への電流が減少して磁場減衰が生じる傾向を示す。
【0017】
図3に示すように、前記超電導線材14はテープ状に形成され、基板12上には電気絶縁性の中間層16を介して希土類系酸化物の超電導体による超電導層13が形成されている。その超電導層13上には保護層17を介して導電性金属よりなる安定化層18が超電導線材14の外周部を被覆するように形成されている。
【0018】
前記基板12は、ニッケル合金(ハステロイ)、銀、銀合金等の金属により形成される。中間層は、酸化マグネシウム(MgO)、イットリウム(Y)酸化物、アルミニウム(Al)酸化物、ランタン・マンガン酸化物(La・Mn酸化物)等の化合物により形成されている。
【0019】
超電導層13は、希土類系酸化物超電導体のCVD法(化学蒸着法)等により形成される。希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。希土類系酸化物としては、RE・Ba・Cu・O等が挙げられる。前記REは希土類元素を表す。この超電導層として具体的には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)、ガドリニウム・バリウム・銅酸化物(Gd・Ba・Cu酸化物)、イットリウム・ガドリニウム混合体(Y:Ga=7:3)・バリウム・銅酸化物〔(Y,Ga)Ba/Cu〕等が挙げられる。
【0020】
保護層17は、銀等の金属のスパッタリング等により形成される。安定化層18は、銅等の金属のメッキ等により形成される。超電導層13上に保護層17や安定化層18を形成することにより、超電導層13を保護できるとともに、過電流を超電導層13から保護層17や安定化層18に流すことができる。前記超電導線材14の幅は、実用的な観点から1~12mm程度が好ましい。
【0021】
図5及び
図6に示すように、前記バンドル15は超電導線材14が複数枚重ね合せて構成されるが、無絶縁超電導コイル11の特性を良好に発現するために超電導線材14を2~5枚重ね合せてバンドル15を構成することが好ましい。
【0022】
図5に示すように、前記バンドル15は偶数枚(2枚)の超電導線材14が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材14の超電導層13が対向するように重ね合せることが好ましい。
【0023】
図4(a)の矢印に示すように、隣接する一対の超電導線材14の超電導層13を対向させることにより、常電導転移時に一方の超電導線材14の超電導層13から他方の超電導線材14の超電導層13へ直線的にかつ瞬時に転流させることができる。
【0024】
その一方、
図4(b)の矢印に示すように、隣接する一対の超電導線材14の超電導層13が対向せず、他方の超電導線材14の超電導層13が基板12の反対側に位置する場合には、常電導転移時に一方の超電導線材14からの電流は他方の超電導線材14の安定化層18を流れて基板12の反対側から超電導層13へ流れる。この場合には、電流が安定化層18を迂回して流れることから、超電導線材14が発熱するおそれがあって好ましくない。
【0025】
図6に示すように、前記バンドル15は奇数枚(5枚)の超電導線材14が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材14は超電導層13が対向するように重ね合されるとともに、残りの1枚(最外周側)の超電導線材14は超電導層13が超電導コイル11の中心側に位置するように配置することが好ましい。一般に、超電導線材14を巻回して超電導コイル11を作製する場合には、超電導層13により大きな圧縮力を作用させて超電導層13を保護する観点から超電導層13は基板12よりも超電導コイル11の中心側に配置される。そのため、偶数枚の超電導線材14は隣接する超電導線材14間で超電導層13を対向配置し、残り1枚の超電導線材14の超電導層13を基板12より超電導コイル11の中心側に配置する。
【0026】
次に、上記無絶縁超電導コイル11用の超電導体を用いた超電導コイル11について説明する。
図1に示すように、超電導コイル11としてのシングルパンケーキコイルは、前記バンドル15がコイル状(渦巻き状)に巻回されるとともに、巻回されるバンドル15間には電気抵抗性を有する離隔層19が設けられて構成されている。なお、バンドル15の両端部には、図示しない通電用の電極が接続される。前記電気抵抗性を有する離隔層19は、バンドル15間での電流の転流を許容するが、比較的高い一定の電気抵抗性を示す金属層により構成され、バンドル15間での結合を抑制する。
【0027】
このように、超電導コイル11はバンドル15間を電気的に絶縁することなく、離隔層19を介在させてバンドル15をコイル状に巻回して無絶縁コイルとしたものである。このような無絶縁超電導コイル11は、常電導転移の発生時にバンドル15内の超電導線材14間に電流が流れて発熱が抑えられ、超電導コイル11の損傷を抑制することができる。
【0028】
前記離隔層19の電気抵抗率は1×10-6~1×10-5Ωmであることが好ましい。この電気抵抗率が1×10-5Ωmよりも大きい場合、常電導転移が発生したときバンドル15間での転流が生じ難いことから、発熱により超電導コイル11が損傷を受けるおそれがある。その一方、離隔層19の電気抵抗率が1×10-6Ωmよりも小さい場合、バンドル15間における転流が起きやすく、超電導コイル11の径方向への電流の流出が生じて周方向への電流が減少し、磁場が急速に減衰して好ましくない。
【0029】
前記超電導線材14を構成する安定化層18の電気抵抗率は、1×10-7~1×10-9Ωmであり、離隔層19の電気抵抗率は離隔層19としての機能を有効に発揮させるために安定化層18の電気抵抗率より高く設定される。
【0030】
離隔層19を構成する材料としては、ステンレス鋼等の金属、表面酸化処理された金属、表面を粗面化した金属、導電性樹脂等が使用される。離隔層19の厚さは10~200μm程度の範囲が好ましい。
【0031】
前記超電導コイル11において、バンドル15間の結合によりコイルの径方向電流が増大して磁場減衰を引き起こす指標として、臨界電流に対するコイルへの通電電流の割合を示す負荷率がある。この負荷率(%)は、バンドル15を構成する超電導線材14の枚数をxとしたとき、〔(x-1)/x〕×100で表される値に設定されることが好ましい。
【0032】
ここで、負荷率について説明する。超電導線材14の臨界電流を詳細に測定すると、超電導線材14の長さ(mm)と臨界電流Ic(A)との関係は
図7に示すようになる。臨界電流の平均値は152A、最小値は79A、最大値は202Aである。このため、超電導線材14を1枚で使用する場合には、最小値の79Aより小さい通電電流で運転する必要がある。すなわち、負荷率は52%〔(79/152)×100〕より小さく設定する必要がある。
【0033】
一方、2枚の超電導線材14で構成されるバンドル15の場合には、1枚の超電導線材14は最小値の79Aであるが、もう1枚の超電導線材14は平均値の152A程度まで通電が可能である。すなわち、負荷率は76%〔(152+79)×100/(152×2)〕であり、バンドル15の場合の方が1枚の超電導線材14の場合より高い負荷率を得ることができる。
【0034】
例えば、1枚の超電導線材14を使用し、その超電導線材14が常電導転移して臨界電流の最小値が0Aとなったときには、負荷率は0%である。これに対し、
図5に示すように、バンドル15が2枚の超電導線材14で構成される場合(x=2)には、負荷率は50%である。すなわち、この場合には負荷率が50%で安定して通電が可能である。バンドル15が3枚の超電導線材14で構成される場合(x=3)には、負荷率は67%である。すなわち、この場合には3枚の超電導線材14の低特性箇所が重ならない限り、3枚の超電導線材14のうちの1枚の超電導線材14の低特性箇所で転流が発生し、2枚の超電導線材14で3枚の超電導線材14分の電流を維持することになるため負荷率が67%で安定して通電が可能となる。
【0035】
図1及び
図2に示すように、バンドル15が4枚の超電導線材14で構成される場合(x=4)には、負荷率は75%である。すなわち、この場合には同様に3枚の超電導線材14で4枚の超電導線材14分の電流を維持することになるため負荷率が75%で安定して通電が可能である。
図6に示すように、バンドル15が5枚の超電導線材14で構成される場合(x=5)には、負荷率は80%である。すなわち、この場合には同様に4枚の超電導線材14で5枚の超電導線材14分の電流を維持することになるため負荷率が80%で安定して通電が可能である。
【0036】
次に、本実施形態の無絶縁超電導コイル11用の超電導体及び超電導コイル11について作用を説明する。
さて、
図4(a)に示すように、超電導コイル11のバンドル15中における超電導線材14の低特性箇所で常電導転移が生じたときには、電流はその超電導線材14の超電導層13から保護層17及び安定化層18を介して隣接する超電導線材14の安定化層18、保護層17を経て超電導層13へ直線的に流れ込む。このため、バンドル15を構成する超電導線材14は局部的に発熱する事態が回避され、超電導線材14の損傷が抑えられる。
【0037】
また、1枚の超電導線材14では通電量が臨界電流により制限される一方、バンドル15では複数枚の超電導線材14に通電が可能であるため通電量を増大させることができる。このため、臨界電流に対するコイルの通電電流の割合を示す負荷率を高めることができるとともに、そのような高い負荷率で安定した通電が可能となる。
【0038】
加えて、バンドル15間には電気抵抗性を有する離隔層19が設けられていることから、超電導コイル11への通電時にコイルの径方向への電流の流れがバンドル15内に制限され、コイルの周方向への電流量を十分に確保でき、励磁遅れや磁場減衰を抑制し、かつ十分な励磁速度を得ることができる。
【0039】
以上詳述した実施形態によって得られる効果を以下にまとめて記載する。
(1)この実施形態の無絶縁超電導コイル11用の超電導体は、基板12の片面に希土類系酸化物超電導体による超電導層13が設けられたテープ状の超電導線材14を複数枚重ね合せて超電導線材14のバンドル15を構成したものである。このため、超電導コイル11への通電時にバンドル15内における複数枚の超電導線材14に通電可能であり、負荷率を高く設定でき、安定した通電を行うことができる。
【0040】
また、バンドル15を用いた超電導コイル11では、バンドル15間に電気抵抗性を有する離隔層19が設けられることから、コイルの径方向への電流を抑え、周方向への電流を確保でき、通電時の励磁遅れを回避することができる。
【0041】
従って、実施形態における無絶縁超電導コイル11用の超電導体によれば、コイル磁場の励磁遅れを抑制できるとともに、安定した高負荷率通電を行うことができる。
(2)前記超電導線材14は、基板12の片面に中間層16を介して希土類系酸化物超電導体による超電導層13が設けられ、その上に保護層17を介して導電性金属よりなる安定化層18が被覆されて構成されている。このため、超電導線材14は超電導層13が保護された状態で超電導特性を持続して発揮することができる。
【0042】
(3)前記バンドル15は、超電導線材14が2~5枚重ね合せて構成されている。そのため、バンドル15を用いた超電導コイル11は、バンドル15に基づく効果を有効に発揮させることができる。
【0043】
(4)前記バンドル15は偶数枚の超電導線材14が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材14の超電導層13が対向するように重ね合される。従って、常電導転移時には電流を隣接する超電導線材14の超電導層13へ直線的に流すことができ、超電導線材14の発熱や損傷を効果的に抑制することができる。
【0044】
(5)前記バンドル15は奇数枚の超電導線材14が重ね合されて構成されるときには、隣接する一対の超電導線材14は超電導層13が対向するように重ね合されるとともに、残りの1枚の超電導線材14は超電導層13が超電導コイル11の中心側に位置するように配置される。
【0045】
このため、偶数枚の超電導線材14は上記と同様の効果を発揮できるとともに、残りの1枚の超電導線材14は超電導層13に圧縮力を作用させて拡径力に対抗させることができ、超電導線材14の損傷を抑制することができる。
【0046】
(6)超電導コイル11は、前記超電導体のバンドル15をコイル状に巻回して構成され、バンドル15間には電気抵抗性を有する離隔層19が設けられる。従って、超電導コイル11への通電時にコイルの径方向への電流をバンドル15内に制限でき、コイルの周方向への電流量を確保でき、励磁遅れを抑制することができる。
【0047】
(7)前記電気抵抗性を有する離隔層19は、電気抵抗率が1×10-6~1×10-5Ωmの金属層で構成される。そのため、バンドル15間での転流を抑制できるとともに、常電導転移時にバンドル15間での転流を可能とし、超電導線材14を保護することができる。
【0048】
(8)臨界電流に対するコイルの通電電流の割合を示す負荷率(%)は、バンドル15を構成する超電導線材14の枚数をxとしたとき、〔(x-1)/x〕×100で表される値に設定される。従って、超電導コイル11は、高負荷率通電を安定した状態で継続することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1、2及び比較例1~3)
実施例1では、希土類系酸化物超電導体の超電導層13を有する超電導線材14を2枚重ね合せてバンドル15を構成し、実施例2では同じ超電導線材14を5枚重ねてバンドル15を構成した。比較例1~3では、超電導線材14を1枚で使用した。
【0050】
前記超電導線材14は、基板12上に中間層16を介して超電導層13を形成し、その上に保護層17を介して安定化層18を被覆して構成した。前記基板12はニッケル合金(ハステロイ)により厚さ50μmに形成され、中間層16は酸化マグネシウム(MgO)により厚さ80nmに形成されている。中間層16上には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)により厚さ1μmの超電導層13を形成した。超電導層13上には銀(Ag)により厚さ8μmの保護層17を形成し、その保護層17上には銅(Cu)による厚さ20μmの安定化層18を、超電導線材14の外周部を覆うように形成した。超電導線材14の幅は4mmである。
【0051】
次に、実施例1では前記バンドル15を30ターン(巻)巻回して超電導コイル11を調製し、実施例2ではバンドル15を12ターン巻回して超電導コイル11を調製し、比較例1~3では超電導線材14を60ターン巻回して超電導コイル11を調製した。いずれの超電導コイル11もシングルパンケーキコイルである。また、実施例1及び2では、バンドル15間に電気抵抗性を有する離隔層19として、厚さ30μmのステンレス鋼(SUS316)製テープを介在させて無絶縁超電導コイル11とした。実施例1の無絶縁超電導コイル11の内径は60mm、外径は73mm、実施例2の無絶縁超電導コイル11の内径は60mm、外径は72.5mmであった。
【0052】
また、
図5に示すように、実施例1のバンドル15を構成する2枚の超電導線材14の超電導層13は対向するように配置され、実施例2のバンドル15を構成する隣り合う各2枚の超電導線材14の超電導層13は対向するように配置され、残り1枚の超電導線材14の超電導層13はコイルの中心側に配置されている。
【0053】
比較例1では、超電導線材14間に離隔層19として、厚さ15μmのステンレス鋼(SUS316)製テープを介在させて無絶縁超電導コイル11とした。比較例2では、超電導線材14間に何も介在させない無絶縁超電導コイル11とした。比較例3では、超電導線材14間に絶縁テープとして厚さ15μmのポリイミドテープを介在させて絶縁超電導コイルとした。比較例1の無絶縁超電導コイル11の内径は60mm、外径は73mm、比較例2の無絶縁超電導コイル11の内径は60mm、外径は71mm、比較例3の絶縁超電導コイルの内径は60mm、外径は73mmであった。
【0054】
前記超電導線材14の通電特性は前記
図7に示した通りであって、臨界電流の平均値は150Aであり、超電導線材14の長さ10mで臨界電流が100Aを下回るような低特性箇所を有する超電導線材14を使用した。
【0055】
そして、これらの超電導コイル11を液体窒素の温度(77K)に冷却し、バンドル15を用いない超電導コイル11の場合には15A/秒の掃引速度で30Aまで通電し、保持した。バンドル15を用いた超電導コイル11の場合にはコイル巻線の電流密度が1枚の超電導線材14を用いた場合と同じになるように、2枚の超電導線材14を重ね合せた実施例1のバンドル15では30A/秒、5枚の超電導線材14を重ね合せた実施例2のバンドル15では75A/秒で掃引した。このように、超電導コイル11への通電により励磁した際の通電時間(秒)と超電導コイル11の中心磁場(T)の変化を測定し、その結果を
図8に示した。
【0056】
図8に示した結果において、1枚の超電導線材14による無絶縁超電導コイル11を使用した比較例2では中心磁場の励磁遅れが生じているのに対し、バンドル15による無絶縁超電導コイル11を使用した実施例1及び2ではそのような励磁遅れは生じないことが示された。
【0057】
次に、高負荷率通電における安定性について試験を行った。
超電導コイル11を液体窒素中で1A/秒の掃引速度で励磁電流を通電した際の通電電流(A)と超電導コイル11の中心磁場(T)の変化を測定し、その結果を
図10に示した。
図10中の破線は実施例1、一点鎖線は実施例2及び実線は比較例1を表す。
【0058】
この
図10において、1枚の超電導線材14による超電導コイル11を使用した比較例1では、通電電流が30Aを超えると中心磁場の増大傾向が鈍くなり、臨界電流に達したことがわかる。
【0059】
一方、通電電流30Aのときの超電導線材14のテープ面に垂直に作用する垂直磁場は115mTである。また、超電導層13を形成する希土類系酸化物がY・Ba・Cu酸化物である場合とGd・Ba・Cu酸化物である場合について、垂直磁場(mT)と、臨界電流の比(磁場中の臨界電流/自己磁場下の臨界電流)との関係は
図9に示されている。実線はY・Ba・Cu酸化物の場合を示し、破線はGd・Ba・Cu酸化物の場合を示す。この
図9のグラフにおいて、垂直磁場が115mTのときの臨界磁場の比は0.4である。すなわち、通電時の臨界電流の平均値は自己磁場下の臨界電流である150Aの40%程度まで低下し、60Aとなる。このため、通電電流が30Aのときには負荷率は50%となるが、これは前記のように比較例1の超電導コイル11の臨界電流である。従って、比較例1の超電導コイル11では、負荷率50%においては超電導状態を部分的に維持できなくなっており、負荷率50%を確保することは困難である。
【0060】
これに対し、2枚の超電導線材14でバンドル15を構成した実施例1では、通電電流85Aで中心磁場の増大傾向が鈍っており、臨界電流に達している。一方、通電電流が85Aのときの垂直磁場は164mTであり、前記
図9に基づいてそのときの臨界磁場の比は0.33である。このため、2枚の超電導線材14では自己磁場下の平均値150Aから導出したバンドル15の臨界電流は0.33×2×150で約100Aとなる。
図10に示す実施例1のバンドル15の臨界電流85Aは負荷率85%に相当し、1枚の超電導線材14と比較して高い負荷率での通電が可能である。2枚の超電導線材14によるバンドル15の場合に〔(x-1)/x〕×100により算出される負荷率50%に対して余裕があり、通電電流を十分に高い負荷率で設定することができ、安定した高負荷率通電を行うことができる。
【0061】
続いて、5枚の超電導線材14でバンドル15を構成した実施例2では、通電電流220Aで中心磁場の増大傾向が鈍っており、臨界電流に達している。一方、通電電流が220Aのときの垂直磁場は171mTであり、前記
図9に基づいてそのときの臨界磁場の比は0.31である。このため、5枚の超電導線材14では自己磁場下の平均値150Aから導出したバンドル15の臨界電流は0.31×5×150で約233Aとなる。
図10に示す実施例2のバンドル15の臨界電流220Aは負荷率94%に相当し、1枚の超電導線材14と比較して一層高い負荷率での通電が可能である。5枚の超電導線材14によるバンドル15の場合に〔(x-1)/x〕×100により算出される負荷率80%に対して余裕があり、通電電流を2枚の超電導線材14によるバンドル15の場合よりもさらに高い負荷率で設定することができ、安定した高負荷率通電を行うことができる。
【0062】
(実施例3,4及び比較例4)
実施例3及び4では、超電導層13をGd・Ba・Cu酸化物で構成し、その他は実施例1及び2と各々同様に構成して超電導コイル11を調製した。また、比較例4では、超電導層13をGd・Ba・Cu酸化物で構成し、その他は比較例1と同様に構成して超電導コイル11を調製した。
【0063】
そして、前記実施例1と同様にして、超電導コイル11への通電により励磁した際の通電時間(秒)と超電導コイル11の中心磁場(T)の変化を測定した。その結果、バンドル15による無絶縁超電導コイル11を使用した実施例3及び4では、実施例1及び2と同様に励磁遅れは生じないことが明らかになった。
【0064】
さらに、実施例1と同様に超電導コイル11を液体窒素中で1A/秒の掃引速度で励磁電流を通電した際の通電電流(A)と超電導コイル11の中心磁場(T)の変化を測定し、その結果を
図11に示した。
図11中の破線は実施例3、一点鎖線は実施例4及び実線は比較例4を表す。
【0065】
この
図11において、比較例4では、通電電流が35Aを超えると中心磁場の増大傾向が鈍くなり、臨界電流に達したことがわかる。
一方、通電電流35Aのときの超電導線材14のテープ面に垂直に作用する垂直磁場は137mTである。また、前記
図9のグラフにおいて、垂直磁場が137mTのときの臨界磁場の比は0.45である。すなわち、通電時の臨界電流の平均値は自己磁場下の臨界電流である160Aの45%程度まで低下し、72Aとなる。このため、通電電流が35Aのときには負荷率は49%となるが、これは前記のように比較例4の超電導コイル11の臨界電流に相当する。従って、比較例4の超電導コイル11では、負荷率49%においては超電導状態を部分的に維持できなくなっており、負荷率49%を確保することは困難である。
【0066】
これに対し、2枚の超電導線材14でバンドル15を構成した実施例3では、通電電流100Aの手前で中心磁場の増大傾向が鈍っており、臨界電流に達している。一方、通電電流が95Aのときの垂直磁場は166mTであり、前記
図9のグラフに基づいてそのときの臨界磁場の比は0.35である。このため、2枚の超電導線材14では自己磁場下の平均値160Aから導出したバンドル15の臨界電流は0.35×2×160で約112Aとなる。
図11に示す実施例3のバンドル15の臨界電流95Aは負荷率85%に相当し、1枚の超電導線材14と比較して高い負荷率での通電が可能である。2枚の超電導線材14によるバンドル15の場合に〔(x-1)/x〕×100により算出される負荷率50%に対して余裕があり、通電電流を十分に高い負荷率で設定することができ、安定した高負荷率通電を行うことができる。
【0067】
続いて、5枚の超電導線材14でバンドル15を構成した実施例4では、通電電流250Aでも中心磁場の増大傾向が維持されている。一方、通電電流が250Aのときの垂直磁場は193mTであり、前記
図9に基づいてそのときの臨界磁場の比は0.33である。このため、5枚の超電導線材14では自己磁場下の平均値160Aから導出したバンドル15の臨界電流は0.33×5×160で約264Aとなる。
図10に示す実施例4のバンドル15の臨界電流250Aは負荷率95%に相当し、1枚の超電導線材14と比較して高い負荷率での通電が可能である。5枚の超電導線材14によるバンドル15の場合に〔(x-1)/x〕×100により算出される負荷率80%に対して余裕があり、通電電流を2枚の超電導線材14によるバンドル15の場合よりもさらに高い負荷率で設定することができ、安定した高負荷率通電を行うことができる。
【0068】
(実施例5及び6)
実施例5及び6では、超電導層13を(Y,Ga)Ba/Cu酸化物で構成し、その他は実施例1及び2と各々同様に構成して超電導コイル11を調製した。
【0069】
そして、前記実施例1と同様にして、超電導コイル11への通電により励磁した際の通電時間(秒)と超電導コイル11の中心磁場(T)の変化を測定した。その結果、バンドル15による無絶縁超電導コイル11を使用した実施例5及び6では、実施例1及び2と同様に励磁遅れは生じないことが明らかになった。
【0070】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・前記バンドル15を構成する超電導線材14の枚数に応じて、電気抵抗性を有する離隔層19の電気抵抗率を設定してもよい。
【0071】
・前記バンドル15を奇数枚の超電導線材14で構成した場合、偶数枚の超電導線材14について隣接する超電導線材14の各超電導層13が対向するように配置し、残り1枚の超電導線材14を超電導コイル11の最内周側に配置してもよい。
【0072】
・前記超電導コイル11は、ダブルパンケーキコイルやソレノイドコイルであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
11…超電導コイル、12…基板、13…超電導層、14…超電導線材、15…バンドル、16…中間層、17…保護層、18…安定化層、19…離隔層。