(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】立体構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
B32B27/00 B
(21)【出願番号】P 2017157691
(22)【出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】枡田 一志
(72)【発明者】
【氏名】武蔵 直樹
【審査官】團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-312232(JP,A)
【文献】実開平07-010783(JP,U)
【文献】特開昭59-029534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0113899(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0728847(KR,B1)
【文献】特開平09-152838(JP,A)
【文献】特開2015-120309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00-43/00
H01M 4/86- 4/98
12/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に一体化されるフィルムとを備え、
前記フィルム側から測定される弾性率が
2MPa以上30MPa以下であり、
前記フィルム側から測定されるショアA硬度が40以上80以下であ
り、
前記フィルムの厚みと引っ張り弾性率との積が100N/mm以下である
ことを特徴とする立体構造体。
【請求項2】
前記基材のショアA硬度は、前記立体構造体の前記フィルム側から測定されるショアA硬度よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の立体構造体。
【請求項3】
前記立体構造体の前記フィルム側から測定されるショアA硬度と前記基材のショアA硬度との差は8以上15以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の立体構造体。
【請求項4】
前記基材のショアA硬度が30以上80以下である
ことを特徴とする請求項1
から3のいずれか1項に記載の立体構造体。
【請求項5】
前記フィルムは少なくとも一つの凹部を有するように成形され、前記凹部に前記基材が充填される
ことを特徴とする請求項1
から4のいずれか1項に記載の立体構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾等に用いられる立体構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の内装品や外装品、家電製品等の表面には、装飾等の目的で、立体的なエンブレムのような構造体が貼り付けられる場合がある。
【0003】
このようなエンブレムとしては、従来、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)などを用いた射出成型品にクロムめっき処理を施して金属光沢を持たせたものがある。また、下記特許文献1には、金属からなる装飾層を含むフィルムを凹部が形成されるように熱成形した後、当該凹部に熱硬化性樹脂を注ぎ、被覆シートを用いて封止した後、熱硬化性樹脂を硬化させることで立体的なエンブレムを製造する方法が開示されている。また、下記特許文献2には、透明樹脂層の一方の面に光沢層を積層し、他方の面に成形補助層を積層し、成形補助層側が突出するように凹部を形成し、この凹部に熱硬化性樹脂を注ぎ、被覆シートで熱硬化性樹脂を封止し、熱硬化性樹脂を硬化させた後、成形補助層を剥離する立体エンブレムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-506309号公報
【文献】特開2015-120309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の射出成型めっき品に用いられているABS樹脂は硬質な樹脂である。そのため、従来の射出成型めっき品で作られるエンブレムは硬直である。従って、例えば車体等の曲面に合わせて貼りつけるためには、エンブレムを被着面の形状に合わせて設計しなければならない。
【0006】
上記特許文献1には、凹部に注ぐ熱硬化性樹脂としてウレタン樹脂を使用し、柔軟性を有するエンブレムを製造できることが記載されている。しかし、上記特許文献1に記載されているエンブレムでは、熱成形可能なプラスチックから成る層を有するフィルムが用いられており、このフィルムは加熱された後に雄雌型で成型される。よって、このフィルムにはある程度の厚みと強度が必要であり、室温においてこのフィルムは十分に柔軟ではないと考えられる。また、特許文献1の[0022]には、「熱成形したフィルムは強固で実質的に自立しているため」との記載があることからも、エンブレムに用いられるフィルムは十分に柔軟ではないと考えられる。したがって、特許文献1に記載されているエンブレムは、車体等の曲面に十分に追従できる柔軟性を有していないと考えられる。以上より、特許文献1に記載の方法を用いたエンブレムを車体等の曲面に貼り付ける場合、エンブレムが折れ曲がったり、エンブレムの反発力が粘着剤の接着力に打ち勝つことでエンブレムの端が浮く、所謂エッジリフト現象が起きたりする。また、特許文献1のエンブレムにおいて仮に柔軟なフィルムを使用すると、請求項1に記載されているような高温でフィルムを熱成形する際にフィルムが軟化し過ぎてしわが入りやすくなり、エンブレムの外観に不備が生じる懸念がある。
【0007】
また、上記特許文献2に記載されている立体エンブレムの製造方法では、成形補助層を用いて熱成形を行い、熱可塑性樹脂を充填・封止後に成形補助層を取り除く。 そのため特許文献1に記載の方法では必要であった熱成形可能なプラスチックからなる層をエンブレムに使用する必要が無く、最終製品の立体エンブレムの柔軟性を高める事ができると特許文献2に記述されている。しかし、熱成形可能なプラスチックからなる層を省略して立体エンブレムの柔軟性を高めたとしても、立体エンブレムの表面の弾性率が高い場合には、立体エンブレムを曲げた際に外側と内側の長さの変化を吸収できなくなり、立体エンブレムの内側側面にシワが発生するという懸念がある。すなわち、メタクリル酸メチル(MMA)が主成分のアクリルフィルムの様な弾性率が高いフィルムを使った場合、立体エンブレムを曲げた際に外側と内側の長さの変化を吸収できなくなり、立体エンブレムの内側側面にシワが発生するという懸念がある。
【0008】
そこで、本発明は、曲面への追従性が向上され、外観の変化が抑制され得る立体構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の立体構造体は、基材と、前記基材の表面に一体化されるフィルムとを備え、前記フィルム側から測定される弾性率が30MPa以下であり、前記フィルム側から測定されるショアA硬度が40以上80以下であることを特徴とする。
【0010】
本明細書において「弾性率」とは、特に断りがない限り、ブルカー・エイエックスエス株式会社製のTMA4000SAを用いて、23℃において、直径1mmの侵入プローブによって50g/分で0gから50gまで荷重を変化させながら加圧して求められる値を意味する。
【0011】
また、本明細書において「ショアA硬度」とは、株式会社テクロック製のデュロメーターGS-706Nを用いて、荷重1KgでタイプAのセンサを測定対象の表面に垂直に押し当てた際の最大値を意味する。
【0012】
上記本発明の立体構造体では、立体構造体の弾性率が上記のように30MPa以下とされることによって、立体構造体の曲面への追従性がより向上される。このため、立体構造体を曲面に貼り付ける際に折れやしわ等の外観の変化が抑制され得る。
【0013】
また、フィルム側から測定されるショアA硬度が40以上とされることによって、フィルム側の表面に押し痕や傷が付くことが抑制され得る。また、フィルム側から測定されるショアA硬度が80以下とされることによって、立体構造体を曲面に貼り付ける際にエッジリフト現象が生じることが抑制され得る。よって、上記本発明の立体構造体は、曲面への追従性が向上される。
【0014】
また、前記基材のショアA硬度が30以上80以下であることが好ましい。
【0015】
基材のショアA硬度が30以上とされることによって、立体構造体の表面に押し痕や傷が付くことがより抑制され得る。また、基材のショアA硬度が80以下とされることによって、立体構造体を曲面に貼り付ける際にエッジリフト現象が生じることがより抑制され得る。
【0016】
また、前記フィルムは少なくとも一つの凹部を有するように成形され、前記凹部に前記基材が充填されることが好ましい。
【0017】
凹部の形状を様々な形状に適宜調整することによって、立体構造体の意匠性を向上し得る。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、曲面への追従性が向上され、外観の変化が抑制され得る立体構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る立体構造体の断面を各層の厚みを強調して概略的に示した図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る立体構造体の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る立体構造体を曲げた様子を示す斜視図である。
【
図4】フィルム側(表面側)から測定される弾性率が30Mpaを超える立体構造体を曲げた様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る立体構造体の断面を各層の厚みを強調して概略的に示す図である。本実施形態の立体構造体30は、基材20と、基材20の表面に一体化されるフィルム10と、基材20のうちフィルム10とは反対側に設けられる接着層5と、を備える。
【0022】
本実施形態のフィルム10は、表面層1、プライマー層2、および金属層3を有する積層体である。また、フィルム10は必要に応じて裏面層4を有しても良い。
【0023】
以下、これらの構成について説明する。
【0024】
[表面層1]
本実施形態の表面層1は、熱可塑性樹脂(A)と、ポリカプロラクトンポリオール(B)と、架橋剤(C)と、を含有するインキを硬化して成る。
【0025】
上記熱可塑性樹脂(A)としては、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などの樹脂が挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルの一方または両方を意味する。これらの熱可塑性樹脂は、1種が単独で用いられても良く、2種類以上が併用されても良い。ただし、後述するポリカプロラクトンポリオールや架橋剤、その他の成分としてインキに含まれ得る安定剤等との相溶性の観点から、上記熱可塑性樹脂のうち(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。また、立体構造体30の弾性率を低くする観点からは、ウレタン樹脂を用いることが特に好ましい。さらに、表面層1の耐水性、耐熱性、耐薬品性やインキにおける相溶性等を向上させ得るという観点からは、ポリカーボネート単位を含むウレタン樹脂を用いることが好ましい
【0026】
また、本実施形態のインキに含有される熱可塑性樹脂(A)は、水酸基価が0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である。このように本実施形態のインキに含有される熱可塑性樹脂の官能基は少ないことが好ましく、実質的にほぼ官能基が存在しないことがより好ましい。ここで、実質的にほぼ官能基が存在しないとは、分子構造上官能基が存在しない又は末端にのみ官能基が存在することを意味する。熱可塑性樹脂の官能基が少ないことによって、本実施形態のインキに含まれる架橋剤と熱可塑性樹脂との反応が抑制され得る。このため、フィルム10を熱成形する際に表面層1に必要な熱可塑性が低下することが抑制され得る。
【0027】
また、上記ポリカプロラクトンポリオール(B)は、例えば、分子中に複数の水酸基を有する化合物にカプロラクトンを反応させることにより得られる。または、ポリカプロラクトンポリオールとして市販品を使用してもよい。ポリカプロラクトンポリオールの市販品としては、株式会社ダイセル製のプラクセル208(分子量830、水酸基の数2個)、プラクセル210(分子量1000、水酸基の数2個)、プラクセル212(分子量1250、水酸基の数2個)、プラクセル220(分子量2000、水酸基の数2個)、プラクセル303(分子量300、水酸基の数3個)、プラクセル305(分子量550、水酸基の数3個)、プラクセル308(分子量850、水酸基の数3個)、プラクセル309(分子量900、水酸基の数3個)、プラクセル312(分子量1250、水酸基の数3個)、プラクセル320(分子量2000、水酸基の数3個)及びプラクセル410(分子量1000、水酸基の数4個)、並びにパーストープジャパン社製のCAPA2085(分子量830、水酸基の数2個)、CAPA2100(分子量1000、水酸基の数2個)、CAPA2121(分子量1250、水酸基の数2個)、CAPA2125(分子量1250、水酸基の数2個)、CAPA2200(分子量2000、水酸基の数2個)、CAPA2201(分子量2000、水酸基の数2個)、CAPA2205(分子量2000、水酸基の数2個)、CAPA2209(分子量2000、水酸基の数2個)、CAPA3091(分子量900、水酸基の数3個)、CAPA3121J(分子量1200、水酸基の数3個)、CAPA3201(分子量2000、水酸基の数3個)及びCAPA4101(分子量1000、水酸基の数4個)が挙げられる。ポリカプロラクトンポリオールは、1種が単独で使用されてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0028】
本実施形態のインキにおけるポリカプロラクトンポリオール(B)の含有量は、上記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して100質量部以上280質量部以下であることが好ましい。ポリカプロラクトンポリオールの含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して100質量部以上とされることによって、表面層1の耐燃料性、耐水性、耐摩耗性がより向上され得る。また、ポリカプロラクトンポリオールの含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して280質量部以下とされることによって、乾燥工程だけで十分に硬化が進行するため、表面層1の耐ブロッキング性や熱成形性がより向上され得る。また、ポリカプロラクトンポリオールの含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して280質量部以下とされることによって、フィルム10が熱成形される際に、表面層1の弾性が高くなることを抑制し得る。このため、立体構造体30を被着体に貼り付ける場合に、表面層1が被着体の表面形状に追従し易くなる。さらに、フィルム10を熱成形した後の冷却時に表面層1が収縮し、表面層1がフィルム10に備えられる他の層から剥がれたり、立体構造体30が被着体から剥がれたりすることが抑制され得る。
【0029】
また、上記架橋剤(C)は、その架橋性基が少なくとも上記ポリカプロラクトンポリオールが有する水酸基と反応することで架橋構造を形成し、本実施形態のインキを硬化させる。本実施形態のインキは、架橋剤(C)として少なくとも脂環を有するイソシアネート架橋剤を含有することが好ましい。脂環を有するイソシアネート架橋剤としては、例えば、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)由来のイソシアネート架橋剤、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(H6MDI)由来のイソシアネート架橋剤、イソホロンジイソシアネート(IPDI)由来のイソシアネート架橋剤が挙げられる。上記脂環を有するイソシアネート架橋剤の内、耐摩耗性向上の観点から、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)由来のイソシアネート架橋剤を用いられることが好ましい。
また、本実施形態のインキでは、架橋剤として水添キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を含むポリイソシアネートとが併用されることが好ましい。架橋剤として水添キシリレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートを含むポリイソシアネートとが併用されることによって、表面層1の柔軟性を向上し得る。
【0030】
ただし、本実施形態のインキは、上記架橋剤以外の他の架橋剤を含んでもよい。他の架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及びこれらの水添物、並びに、キシリレンジイソシアネート(XDI)の少なくとも一つを含むポリイソシアネートが挙げられる。
【0031】
本実施形態のインキ中の架橋剤(C)の含有量は、架橋剤中の架橋性基が上記ポリカプロラクトンポリオールの水酸基(B)に対して、0.5当量以上2.0当量以下となる量であることが好ましく、0.7当量以上1.5当量以下となる量であることがより好ましく、0.8当量以上1.2当量以下となる量であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が、上記のようにポリカプロラクトンポリオールの水酸基に対して0.5当量以上となる量とされることによって、表面層1の耐燃料性、耐水性が向上され得る。また、架橋剤の含有量が、上記のようにポリカプロラクトンポリオールの水酸基に対して2.0当量以下となる量とされることによって、表面層1の耐ブロッキング性、耐候性、耐熱性が向上され得る。
【0032】
本実施形態のインキは、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、溶剤、レベリング剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、着色剤、光輝剤、フィラー等が挙げられる。
【0033】
溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレンングリコールなどのアルコール系溶剤、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット、ケロシン等の脂肪族炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、1,2,4-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、及び塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶剤が挙げられる。溶剤は、1種が単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0034】
本実施形態のインキをスクリーン印刷に用いる際には、蒸発速度比が0.3以下の溶剤を用いることが好ましい。ここで蒸発速度比とは、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした際の各溶剤の蒸発速度の相対的な値である。溶剤の蒸発速度比の数値が小さいほど、蒸発は遅いという関係にある。インキの溶剤が蒸発速度比で0.3以下である場合、スクリーン印刷時の版乾きが抑制され、作業性が向上する傾向にある。
【0035】
表面層1の厚さは特に制限されず、用途に応じて選択される。表面層1の厚さは、例えば、2μm以上200μm以下とされる。作業性や金属層3の保護、耐摩耗性等の観点から、表面層1の厚さは、5μm以上150μm以下であることが好ましく、30μm以上100μm以下であることがより好ましく、40μm以上70μm以下であることが更に好ましい。
【0036】
[プライマー層2]
プライマー層2は、表面層1と金属層3との間に設けられ、金属層3との密着性を向上し得る。
【0037】
プライマー層2は、ウレタン樹脂(I)とイソシアネート架橋剤(II)とを含有し、ウレタン樹脂(I)はシリル基を有するウレタン樹脂を含有する。
【0038】
ウレタン樹脂(I)にシリル基を有するウレタン樹脂を含有することによって、プライマー層2と金属層3との間にカップリング反応が生じるため、プライマー層2と金属層3の密着性を高められる。また、シリル基同士及びシリル基と水酸基の間で架橋反応が生じるため、フィルム10の耐水性、耐薬品性が向上し得る。また、ウレタン樹脂(I)に含まれるシリル基を有するウレタン樹脂は、エステル系ウレタン樹脂またはエーテル系ウレタン樹脂から成ることが好ましく、成形性の観点からは、エーテル系ウレタン樹脂であることが特に好ましい。
【0039】
上記ウレタン樹脂(I)のガラス転移温度(Tg)は、110℃以下であることが好ましい。ウレタン樹脂(I)のガラス転移温度が110℃以下とされることによって、プライマー層2と金属層3との密着性がより高まる。プライマー層2と金属層3の密着性を向上、あるいは組成物の粘度を調整するため、ウレタン樹脂(I)は、シリル基を有するウレタン樹脂であれば一種が単独で用いられても良く、2種類以上が併用されても良い。また、シリル基を含有しないウレタン樹脂を併用しても良い。成形性の観点から、エーテル系ウレタン樹脂と、エステル系ウレタン樹脂またはカーボネート系ウレタン樹脂を併用することが好ましく、耐水性、耐薬品性の観点からは、シリル基を有するウレタン樹脂を併用することが好ましい。
【0040】
また、プライマー層2にイソシアネート架橋剤(II)が添加されることによって、プライマー層2の耐燃料性、耐水性が向上し得る。
【0041】
上記イソシアネート架橋剤(II)としては特に制限はなく、脂肪族炭化水素鎖を有するイソシアネート架橋剤や脂環を有するイソシアネート架橋剤、芳香環を有するイソシアネート架橋剤の内、一つまたは複数を選ぶことができる。
【0042】
上記ウレタン樹脂組成物に添加されるイソシアネート架橋剤(II)の量は、ウレタン樹脂(I)の固形分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。イソシアネート架橋剤(II)の添加量を1質量部以上にすることで、プライマー層2の耐水性、耐燃料性がより向上し得る。また、イソシアネート架橋剤(II)の添加量を20質量部以下とすることで、ポットライフが短くなることを抑制し得る。
【0043】
プライマー層2の厚さは特に制限されないが、例えば、0.1μm以上10μm以下とすることができ、0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0044】
[金属層3]
金属層3は、例えば、金属をプライマー層2上に蒸着することによって形成される。このように蒸着によって金属層3が形成されることによって、フィルム10の厚みが過度に厚くなることを抑制し得る。フィルム10がこのような金属層3を備えることによって、フィルム10に金属調の外観が付与される。金属層3に用いられる金属としては、例えばアルミニウム、スズ、インジウム等が挙げられる。これらの中でも成形性の観点から特にインジウムやスズが好ましい。金属層3にインジウムやスズが用いられることによって、他の金属が用いられる場合に比べて、フィルム10を成形するときに金属層3の白化が抑制され得る。
【0045】
金属層3の厚さは特に制限されないが、例えば、金属層3の全光線透過率が2%以上10%以下程度となる厚さとすることができる。金属層3の全光線透過率が2%以上となるように金属を蒸着することによって、フィルム10に金属特有の風合いを付与し得る。また、金属層3の全光線透過率が10%以下となるように金属を蒸着することによって、フィルム10に金属光沢を付与し得る。
【0046】
[裏面層4]
本実施形態では、必要に応じて裏面層4を、金属層3の表面層1側とは反対側の面を保護するために設けても良い。この場合、裏面層4には、例えば、上記プライマー層2と同様の材料を用いることができる。また、裏面層4は立体構造体の意匠性を向上させるために設けても良い。
【0047】
裏面層4の厚さは特に制限されないが、例えば、0.1μm以上500μm以下程度とすることができる。
【0048】
例えば金属層3の保護を目的として裏面層4を形成する場合、裏面層4の厚さは、0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上とすることで、他工程への搬送時に金属層3が傷付くことが防止され、金属層3の耐水性、耐薬品性が向上し得る。また、裏面層4の厚さを20μm以下とすることで、一体成形時の被着体への追従性を損なうことなく、加飾や成形性向上等を目的として、他の層を積層し得る。また、金属層3の保護の観点からは、裏面層4には上記プライマー層2と同様の材料を用いることがより好ましい。
【0049】
また、加飾の観点から、裏面層4の厚みとしては、例えば、5μm以上であることが好ましい。裏面層4を着色層とした場合、5μm以上とすることで、成形により裏面層4が伸長された場合にも成形前の色調を保持し得る。
【0050】
裏面層4の成形性向上の観点からは、例えば、裏面層4の厚さは150μm以上500μm以下が好ましい。150μm以上とすることで、インサート成形等のフィルム10単体で形状を保持する必要のある成形方法であっても、フィルム10が成形補助層を用いることなく成形し得る。また、500μm以下にすることで、真空成形や圧空成形、あるいは真空圧空成形等による一体成形時に、フィルム10を被着体の細かな形状に追従させ得る。
【0051】
本実施形態のフィルム10は、少なくとも一つの凹部10aを有するように形成され、当該凹部10aに基材20が充填される。基材20としては、例えば、2液硬化型ウレタン樹脂を用いることができる。
【0052】
接着層5は、立体構造体30を被着体に貼り付けるために設けられる層である。また、接着層5は、フィルム10に形成された凹部10aに基材20を封止するために設けられる。よって、接着層5は凹部10aを覆うように設けられ、凹部10aより外側ではフィルム10に密着している。このような接着層5を構成する接着剤は、フィルム10及び基材20に密着し、かつ立体構造体30を被着体に接着できるものであれば特に限定されない。
【0053】
以上に説明した立体構造体30は、フィルム10と基材20とが重なる位置において、フィルム10側から測定される弾性率が30MPa以下となるように、フィルム10及び基材20を構成する材料が選択される。立体構造体30の弾性率がこのように30MPa以下とされることによって、立体構造体30の曲面への追従性がより向上され、立体構造体30を曲面に貼り付けた際に折れやしわ等の外観の変化が抑制され得る。例えば、
図1に示す破線に沿って立体構造体30を裁断し、立体構造体30を
図2に示す斜視図のような形状とし、
図3に示す本実施形態の斜視図のようにフィルム10側から測定される弾性率が30MPa以下である立体構造体30を曲げた場合、しわの発生が抑制され得る。一方、
図4は、フィルム側(表面側)から測定される弾性率が30MPaを超える立体構造体130を曲げた様子を示す斜視図である。立体構造体の弾性率が30MPaを超える場合には、
図4に示すように、曲げた際に外側と内側の長さの変化を吸収できなくなり、内側側面にしわが発生する。
【0054】
また、本実施形態の立体構造体30では、フィルム10側から測定されるショアA硬度が40以上とされることによって、フィルム10側の表面に押し痕や傷が付くことが抑制され得る。以上のような観点から、フィルム10側から測定されるショアA硬度は、45以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。また、フィルム10側から測定されるショアA硬度が80以下とされることによって、立体構造体30を曲面に貼り付ける際にエッジリフト現象が生じることが抑制され得る。このような観点から、フィルム10側から測定されるショアA硬度は、75以下であることが好ましい。このように、立体構造体30は、曲面への追従性が向上され、外観の変化が抑制され得る。
【0055】
なお、立体構造体30のフィルム10側から測定されるショアA硬度には、フィルム10の硬度及び基材20の硬度が反映される。よって、基材20のショアA硬度は、30以上80以下であることが好ましく、45以上75以下であることがより好ましく、60以上70以下であることがさらに好ましい。
【0056】
立体構造体30のフィルム10側から測定される弾性率は、立体構造体30における硬化後の基材20のショアA硬度並びにフィルム10の厚さ及び引っ張り弾性率が大きく寄与し得る。「引っ張り弾性率」とは、JIS K7217(ISO527-3)に準じた方法で測定される弾性率である。
【0057】
フィルム10の厚みと引っ張り弾性率との積は、100N/mm以下とされることが好ましく、70N/mm以下とされることがより好ましく、55N/mm以下とされることがさらに好ましい。この様なフィルム10およびショアA硬度が40以上80以下の熱硬化性樹脂からなる基材20から、フィルム10側から測定される弾性率が30MPa以下の立体構造体30が得られる。
【0058】
また、本実施形態の立体構造体30では、上記のようにフィルム10が凹部10aを有するように形成され、凹部10aに基材20が充填されている。フィルム10に設ける凹部10aの形状を適宜調整することにより、立体構造体30の意匠性を向上し得る。なお、凹部10aの数及び形状は特に限定されない。
【0059】
本実施形態の立体構造体30は、例えば、車両の内装品や外装品、家電製品、または屋外に設置される物体の表面に貼り付けるためのエンブレム、ステッカー等としての使用に好適である。
【0060】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、フィルム10の層構成は上記実施形態に限定されない。例えば、金属層3、裏面層4は必須の構成ではなく、金属層3にかえて着色された層や印刷層が備えられることによって意匠性が向上されても良い。また印刷層は、例えば、樹脂、着色剤、溶剤等を含むインキをスクリーン印刷等の方法で印刷し、必要に応じて乾燥、硬化等の工程を経ることによって形成されてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
<立体構造体の作製>
表1に示すフィルムと表2に示す基材を構成する材料とを用意し、表3に示す組み合わせでフィルムと基材とを一体化して実施例及び比較例に係る立体構造体を作製した。
【0063】
表1に示すフィルムAは、ABS樹脂からなる層の一方の面にインジウムが蒸着されたフィルム(株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー製、商品名:MTIA6236)である。また、フィルムBは、塩化ビニル樹脂からなる層の一方の面にアルミニウムが蒸着されたフィルム(日本カーバイド工業製、商品名:ハイエスカル メタルフェース 70-100E)である。また、フィルムCは、ウレタン樹脂からなる層の一方の面にアルミニウムが蒸着されたフィルム(紀和化学工業株式会社製、商品名:7U-100E)である。また、フィルムD及びフィルムEは、以下に説明するようにして作製した。
【0064】
フィルムDは、以下に説明するようにして作製した。熱可塑性樹脂(A)として、カーボネート系ウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製、商品名:レザミンNE-8836、固形分:25%、官能基なし)100質量部と、ポリカプロラクトンポリオール(B)としてプラクセル305(ダイセル工業株式会社製、固形分:100%、重量平均分子量:550、水酸基価:300~310mgKOH/g)37.5質量部と、溶剤としてtert-ブチルアルコール10質量部およびメチルエチルケトン(MEK)30.0重量部と、を混合し、更に架橋剤(C)として水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)由来のイソシアネート架橋剤タケネートD-120N(三井化学株式会社製、H6XDIのトリメチロールプロパン(TMP)アダクト体を含有する酢酸エチル溶液、NCO%:11%、固形分:75%)77.3質量部を添加し、表面層用のインキを調製した。その後、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック株式会社製、商品名:P756050、厚さ75μm)上に、乾燥後の層厚が50μmになるように当該インキを塗工し、150℃で5分間乾燥させた。その後、60℃で2日間養生し、PETフィルム上に厚さ50μmの表面層が形成された透明フィルムを作製した。
【0065】
次に、この透明フィルムのうち表面層側の面に、シラノール基含有エーテル系水系ウレタン樹脂タケラックWS-6021(三井化学株式会社製、固形分:30%)57質量部と、シラノール基含有カーボネート系水系ウレタン樹脂タケラックWS-5100(三井化学株式会社製、固形分:30%)43質量部と、に水分散イソシアネート架橋剤タケネートWD-725(三井化学株式会社製、固形分:100%)2.8質量部と、を混合したコーティング液を乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗工して乾燥させ、プライマー層を形成した。その後、プライマー層上に、全光線透過率が5%となるようにインジウムを蒸着して金属層を形成した。その後、金属層上に、乾燥後の膜厚が1μmとなるように上記コーティング液を塗工して乾燥させ、裏面層を形成した。最後に、上記PETフィルムを剥がして金属調のフィルムを作製し、これをフィルムDとした。
【0066】
フィルムEは、以下に説明するようにして作製した。架橋剤(C)であるタケネートD-120Nを38.7質量部とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)由来のイソシアネート架橋剤コロネートHX(日本ポリウレタン工業株式会社製、商NCO%:20%、固形分:100%)21.3質量部とを添加した以外はフィルムDと同様にして、表面層用のインキを調製した。その後、フィルムDと同様にして金属調のフィルムを作製し、これをフィルムEとした。
【0067】
上記のように用意したフィルムA~Eの「厚み」、「引っ張り弾性率」及び「厚み×引っ張り弾性率」を表1に示す。表1に示す「引っ張り弾性率」は、JIS K7217(ISO527-3)に準じた方法で測定される弾性率である。また、表1に示す「厚み×引っ張り弾性率」は、それぞれのフィルムについての厚みと引っ張り弾性率との積である。
【0068】
【0069】
表2に示す基材Aは、主剤(ペルウレタンMU-662A、ペルノックス株式会社製)100質量部と硬化剤(ペルウレタンMU-210B、ペルノックス株式会社製)20.5質量部をと混合してなる2液硬化型ウレタン樹脂である。また、基材B及び基材Cは、表2に示すように主剤と硬化剤との割合を変更した以外は基材Aと同様である。表2に、これらの基材A~CのショアA硬度を示す。基材のショアA硬度の測定は、基材単独で5mm厚、φ30mmのシートを作製し、ガラス板上で株式会社テクロック製のデュロメーターGS-706Nを用いて行った。より具体的には、硬化したそれぞれの基材の中心に荷重1KgでタイプAのセンサを5秒押し当て、最大値を測定し、それぞれの基材のショアA硬度とした。
【0070】
【0071】
(実施例1)
フィルムDの表面層側に成形補助層としてA-PET(ポリテック株式会社製、PT-700M N―N0、厚さ200μm)を重ね、niebling社製のSAMK400-42を用いて圧力85bar、上下ヒーター温度340℃、加熱時間5秒、加圧時間4秒の条件でフィルムDの裏面層側を押圧し、高さ2.3mm、文字底面幅10mm、文字転部幅7mm、縦30mmの大きさで「NCI」の文字を熱成形して凹部を形成した。この凹部に基材Aとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を、フィルムDとの間に空気が入らないように充填した。その後、当該組成物との間に空気が入らないように、フィルムDの凹部を接着層となる3M株式会社製の両面テープ(468MP)で覆い、23℃で24時間静置して上記組成物を硬化させた。このようにして得られた成形品を打ち抜き、成形補助層を取り除いて、「NCI」の立体文字を有する実施例1に係る立体構造体を作製した。
【0072】
(実施例2)
フィルムDにかえてフィルムEを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る立体構造体を作製した。
【0073】
(実施例3)
フィルムDにかえてフィルムCを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る立体構造体を作製した。
【0074】
(実施例4)
フィルムDにかえてフィルムBを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る立体構造体を作製した。
【0075】
(実施例5)
実施例4と同様にフィルムBに凹部を形成した後、この凹部に基材Bとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を充填した以外は実施例4と同様にして、実施例5に係る立体構造体を作製した。
【0076】
(実施例6)
実施例2と同様にフィルムEに凹部を形成した後、この凹部に基材Bとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を充填した以外は実施例2と同様にして、実施例6に係る立体構造体を作製した。
【0077】
(実施例7)
実施例4と同様にフィルムBに凹部を形成した後、この凹部に基材Cとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を充填した以外は実施例4と同様にして、実施例7に係る立体構造体を作製した。
【0078】
(比較例1)
フィルムDにかえてフィルムAを使用した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る立体構造体を作製した。
【0079】
(比較例2)
比較例1と同様にフィルムAに凹部を形成した後、この凹部に基材Cとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を充填した以外は比較例1と同様にして、比較例2に係る立体構造体を作製した。
【0080】
(比較例3)
実施例2と同様にフィルムEに凹部を形成した後、この凹部に基材Cとなる上記主剤と硬化剤とを混合した組成物を充填した以外は実施例2と同様にして、比較例3に係る立体構造体を作製した。
【0081】
<評価方法>
上記のようにして作製した実施例及び比較例に係る立体構造体を以下に説明するようにして評価した。
【0082】
(外観)
上記のようにして作製した実施例及び比較例に係る立体構造体の接着層を直径140mmの円柱の外周面に、外周に沿う方向で貼り付け、立体構造体にしわや折れなどの外観変化が生じるかを目視で確認した。その結果を下記の基準で評価し、表3に示す。
◎:変化が全く見られなかった。(
図3に示すような状態)
○:わずかに見える程度のしわが生じた。
△:はっきりと判るしわが生じた。(
図4に示すような状態)
×:折れたり割れたりしていた。
【0083】
(柔軟性)
上記のようにして作製した実施例及び比較例に係る立体構造体の接着層を直径140mmの円柱の外周面に立体構造体の長手方向が円柱の外周面に沿う方向に貼り付け、立体構造体の端が円柱から浮いていないかを目視で確認した。その結果を下記の基準で評価し、表3に示す。
○:全く浮きが見られなかった。
△:2mm以下の浮きが生じていた。
×:2mm以上浮いていた。
【0084】
(傷付き性)
株式会社テクロック製のデュロメーターGS-706Nを用いて、以下の手順で実施例及び比較例に係る立体構造体の傷付き性を評価した。立体構造体の接着層とは反対側の面のうち「N」の文字が形成された部位の中心に荷重1KgでタイプAのセンサを5秒押し当て、センサを除去した直後と24時間後との外観を目視で確認した。その結果を下記の基準で評価し、表3に示す。
○:キズが形成されなかった。
△:24時間後には消えるキズが形成された。
×:24時間後にも消えないキズが形成された。
【0085】
(立体構造体の弾性率)
ブルカー・エイエックスエス株式会社製のTMA4000SAを用いて、上記のようにして作製した実施例及び比較例に係る立体構造体の弾性率を評価した。具体的には、23℃において、直径1mmの侵入プローブによって50g/分で0gから50gまで荷重を変化させながら立体構造体の接着層とは反対側の面を加圧し、弾性率を求めた。
【0086】
(立体構造体のショアA硬度)
株式会社テクロック製のデュロメーターGS-706Nを用いて、以下の手順で実施例及び比較例に係る立体構造体のショアA硬度を測定した。立体構造体の接着層とは反対側の面のうち「N」の文字が形成された部位の中心に荷重1KgでタイプAのセンサを5秒押し当て、その際の最大値を測定した。
【0087】
【0088】
表3に示すように、実施例1から7に係る立体構造体は、曲面への追従性が優れており、曲面に貼り付けた際の外観の変化が抑制されていた。立体構造体の弾性率が30MPaを超えた比較例1及び2に係る立体構造体は、貼り付けた際の外観が悪かった。また、ショアA硬度が80を超えた比較例1及び2に係る立体構造体は、曲面への追従性が劣っていた。また、ショアA硬度が40未満の比較例3に係る立体構造体は、曲面への追従性は十分であったが、傷が付き易かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、曲面への追従性が向上され、外観の変化が抑制され得る立体構造体が提供され、自動車等の車両や家電製品等の装飾等の分野で利用することが期待される。
【符号の説明】
【0090】
1・・・表面層
2・・・プライマー層
3・・・金属層
4・・・裏面層
5・・・接着層
10・・・フィルム
10a・・・凹部
20・・・基材
30・・・立体構造体