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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】発泡性エアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/69 20060101AFI20220105BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220105BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K8/69
A61K8/02
A61K8/19
A61K8/36
A61Q19/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017192978
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019064967
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 尊胤
(72)【発明者】
【氏名】松井 和弘
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183134(JP,A)
【文献】特開2017-119699(JP,A)
【文献】特開2000-344623(JP,A)
【文献】特開2000-095671(JP,A)
【文献】特開平02-247115(JP,A)
【文献】特開2015-229666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸塩および水を含む原液と、発泡剤とからなり、
前記発泡剤は、ハイドロフルオロオレフィンを含み、
前記脂肪酸塩は、脂肪酸と無機アルカリとの反応生成物であり、
前記脂肪酸塩は、前記原液中、18~50質量%含まれる、発泡性エアゾール組成物。
【請求項2】
前記ハイドロフルオロオレフィンは、発泡性エアゾール組成物中、2~30質量%含まれる、請求項記載の発泡性エアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性エアゾール組成物に関する。より詳細には、本発明は、脂肪酸塩が高濃度に含まれる場合であっても脂肪酸が析出することなく安定であり、また安定に吐出することができ、皮膚への刺激が小さく、濃密で艶のあるクリームのような塗り伸ばしやすいフォームを形成することのできる発泡性エアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリーム状のフォームを形成することのできる発泡性エアゾール組成物が知られている(特許文献1~3)。特許文献1~2に記載のエアゾール組成物は、液化ガス(ジメチルエーテルや液化石油ガス)と炭酸ガスとを含んでおり、エアゾール組成物の発泡性を抑制することによってクリーム状の吐出物を得ている。また、特許文献3に記載のフォーム皮膚洗浄料は、アニオン性界面活性剤と水を含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エンを含有する噴射剤とからなり、クリーミーな泡質のフォームが得られるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-253409号公報
【文献】特開2001-72543号公報
【文献】特開2016-183134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~2に記載のエアゾール組成物は、顔等の粘膜に近い部分に適用されると、刺激を与える場合がある。また、炭酸ガスは溶解性圧縮ガスであり、水性原液に溶解するとpHを変動させやすい。そのため、これらのエアゾール組成物は、たとえば脂肪酸塩を含む場合において、脂肪酸塩を分解し、脂肪酸を析出させる場合がある。その結果、エアゾール組成物は、分離し、所望の性状のフォームが形成されない場合がある。また、特許文献3に記載のフォーム皮膚洗浄料は、配合される脂肪酸塩の濃度によっては、中身が固化して吐出できない。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、配合される脂肪酸塩の濃度の影響を受けにくく、脂肪酸が析出することがなく安定であり、また安定に吐出することができ、皮膚への刺激が小さく、濃密で艶のあるクリームのような塗り伸ばしやすいフォームを形成することのできる発泡性エアゾール組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)脂肪酸塩および水を含む原液と、発泡剤とからなり、前記発泡剤は、ハイドロフルオロオレフィンを含み、前記脂肪酸塩は、脂肪酸と無機アルカリとの反応生成物である、発泡性エアゾール組成物。
【0008】
このような構成によれば、発泡性エアゾール組成物は、脂肪酸塩が高濃度で含まれる場合であっても粘度の上昇が抑制されて安定に吐出することができる。噴射された発泡性エアゾール組成物は、濃密でクリーム状のフォームを形成することができる。また、得られたフォームは発泡しており、塗り伸ばされやすい。さらに、発泡性エアゾール組成物は、皮膚への刺激が小さい。また、発泡性エアゾール組成物は、圧縮ガス(炭酸ガス)が必須でない。そのため、発泡性エアゾール組成物は、圧縮ガスによりpHが変動しにくく、脂肪酸塩が分解されにくく、脂肪酸が析出しにくい。
【0009】
(2)前記脂肪酸塩は、前記原液中、15~50質量%含まれる、(1)記載の発泡性エアゾール組成物。
【0010】
このような構成によれば、有効成分としても作用する脂肪酸塩を高濃度に含有しているため、少量の使用で従来品と同等の効果が得られる。特に従来品と同じ使用回数に製品を設計すれば内容量を少なくすることができ、製品全体を小型化することができる。
【0011】
(3)前記ハイドロフルオロオレフィンは、発泡性エアゾール組成物中、2~30質量%含まれる、(1)または(2)記載の発泡性エアゾール組成物。
【0012】
このような構成によれば、噴射された発泡性エアゾール組成物は、濃密で艶のあるクリーム状のフォームを形成しやすく、塗り伸ばしやすい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、配合される脂肪酸塩の濃度の影響を受けにくく、脂肪酸が析出することがなく安定であり、また安定に吐出することができ、皮膚への刺激が小さく、濃密で艶のあるクリームのような塗り伸ばしやすいフォームを形成することのできる発泡性エアゾール組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<発泡性エアゾール組成物>
本発明の一実施形態の発泡性エアゾール組成物(以下、「エアゾール組成物」ともいう)について詳細に説明する。本実施形態のエアゾール組成物は、脂肪酸塩および水を含む原液と、発泡剤とからなる。発泡剤は、ハイドロフルオロオレフィンを含む。脂肪酸塩は、脂肪酸と無機アルカリとの反応生成物である、以下、それぞれについて説明する。
【0015】
(原液)
原液は、エアゾール組成物の液体成分であり、脂肪酸塩および水を含む。
【0016】
・脂肪酸塩
脂肪酸塩は、クリーム状のフォームを形成する、洗浄成分として作用すること等を目的として配合される。脂肪酸塩は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等の脂肪酸と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリとの塩である。
【0017】
脂肪酸塩が脂肪酸と無機アルカリとからなる反応生成物である場合において、脂肪酸塩を構成する脂肪酸と無機アルカリとは、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比が、0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は、1.3以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。脂肪酸に対する無機アルカリのモル比が上記範囲内であることにより、エアゾール組成物は、脂肪酸塩が高濃度に含まれる場合であっても粘度の上昇が抑制されて安定に吐出することができる。また、発泡剤として配合されるハイドロフルオロオレフィンによって、よりきめ細かなクリーム状のフォームが形成されやすい。
【0018】
脂肪酸塩の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、脂肪酸塩の含有量は、原液中、15質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましい。また、脂肪酸塩の含有量は、原液中、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。脂肪酸塩の含有量が15質量%未満である場合、噴射された発泡性エアゾール組成物は、発泡が弱く垂れ落ちやすい傾向がある。一方、脂肪酸塩の含有量が50質量%を超える場合、原液の粘度が急激に高くなり、発泡性エアゾール組成物は、吐出しにくくなる傾向がある。
【0019】
・水
水は、原液の主溶媒であり、精製水、イオン交換水等である。
【0020】
水の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、水の含有量は、原液中、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、水の含有量は、原液中、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。水の含有量が上記範囲内であることにより、濃密でクリーム状のフォームが得られやすい。
【0021】
原液は、上記脂肪酸塩、水以外に、アルコール、油分、界面活性剤、有効成分、パウダー等が含まれてもよい。
【0022】
・アルコール
アルコールは、水に溶解しにくい有効成分を溶解させるための補助溶剤や、エアゾール組成物の発泡性を調整する等の目的で適宜配合される。アルコールは特に限定されない。アルコールは、たとえば、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数が2~5個の1価アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール等である。アルコールは、併用されてもよい。
【0023】
アルコールが配合される場合において、アルコールの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、アルコールの含有量は、原液中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、アルコールの含有量は、原液中、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。アルコールの含有量が1質量%未満である場合、エアゾール組成物は、アルコールを配合することによる上記効果が得られにくい。一方、アルコールの含有量が30質量%を超える場合、エアゾール組成物は、発泡しにくくなる傾向がある。
【0024】
・油分
油分は、クリーム状のフォームを形成しやすくする等の目的で適宜配合される。油分は特に限定されない。たとえば、油分は、セチルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、ラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、オレイン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸エチル、イソオクタン酸セチル、ジオクタン酸エチレングリコール、ジオレイン酸エチレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ2-エチルへキサン酸トリメチロールプロパン、ネオペンタン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、クエン酸トリエチル、コハク酸ジオクチル、アジピン酸ジイソプロピル、コハク酸ジエトキシエチルなどのエステル油、オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、ホホバ油、麦芽油、ヤシ油、パーム油などの油脂、流動パラフィン、イソパラフィン、スクワレン、スクワランなどの炭化水素油、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、シクロペンタシロキサンなどのシリコーンオイル等である。油分は、併用されてもよい。
【0025】
油分が配合される場合において、油分の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、油分の含有量は、原液中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、油分の含有量は、原液中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。油分の含有量が1質量%未満である場合、エアゾール組成物は、クリーム状のフォームが得られにくい傾向がある。一方、油分の含有量が20質量%を超える場合、エアゾール組成物は、発泡しにくくなる傾向がある。
【0026】
・界面活性剤
界面活性剤は、発泡性を調整してクリーム状のフォームを得られやすくする等の目的で適宜配合される。界面活性剤は特に限定されない。一例を挙げると、界面活性剤は、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤等である。界面活性剤は、併用されてもよい。
【0027】
界面活性剤が配合される場合において、界面活性剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、界面活性剤の含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、界面活性剤の含有量は、原液中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量%未満である場合、界面活性剤の効果が得られにくい傾向がある。一方、界面活性剤の含有量が10質量%を超える場合、エアゾール組成物は、塗布した箇所において残りやすくなる傾向がある。
【0028】
・有効成分
有効成分は特に限定されない。一例を挙げると、有効成分は、ヒアルロン酸などの保湿剤、l-メントールなどの清涼化剤、アダパレンなどのにきび治療薬、レゾルシン、尿素などの角質軟化剤、グリチルリチン酸ジカリウムなどの抗炎症剤、ビタミンEなどのビタミン類、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどの殺菌剤、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノールなどの防腐剤、p-フェニレンジアミン、p-アミノフェノール、o-フェニレンジアミン、o-アミノフェノールおよびこれらの誘導体などからなる酸化染料、各種抽出液、香料等である。
【0029】
有効成分が配合される場合において、有効成分の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、有効成分の含有量は、原液中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、有効成分の含有量は、原液中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。有効成分の含有量が0.01質量%未満である場合、有効成分を配合することによる効果が充分に得られにくい傾向がある。一方、有効成分の含有量が20質量%を超える場合、有効成分の含有量に応じた効果が得られにくくなる傾向がある。
【0030】
パウダーは、汚れを除去しやすくするなどの目的で適宜配合される。パウダーは特に限定されない。一例を挙げると、パウダーは、タルク、カオリン、雲母、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、シリカ、ゼオライト、セラミックパウダー、炭粉末、ナイロンパウダー、シルクパウダー、ウレタンパウダー、シリコーンパウダー、ポリエチレンパウダー等である。
【0031】
パウダーが含まれる場合、パウダーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、パウダーの含有量は、原液中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、パウダーの含有量は、原液中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。パウダーの含有量が0.1質量%未満である場合、パウダーを配合することによる効果が得られにくい。一方、パウダーの含有量が5質量%を超える場合、エアゾール組成物は、充填されるエアゾール装置において、詰まりを生じやすくなる可能性がある。
【0032】
原液の含有量は特に限定されない。たとえば、原液は、エアゾール組成物中、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。また、原液は、エアゾール組成物中、98質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。原液の含有量が70質量%未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、濃密で艶のあるクリーム状のフォームが得られにくい傾向がある。一方、原液の含有量が98質量%を超える場合、噴射されたエアゾール組成物は、充分に発泡しにくく、塗り伸ばしにくくなる傾向がある。
【0033】
原液の調製方法は特に限定されない。原液は、従来周知の方法により調製することができる。たとえば、原液は、加温した状態で脂肪酸や有効成分等を水(好適には温水)に添加し、次いで、アルカリ水溶液を添加して脂肪酸塩を形成させることにより調製することができる。
【0034】
原液の20℃での粘度は、10mPa・s以上であることが好ましく、20mPa・s以上であることがより好ましい。また、原液の20℃での粘度は、5000mPa・s以下であることが好ましく、4000mPa・s以下であることがより好ましい。原液の粘度が10mPa・s未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、濃密で艶のあるクリーム状のフォームになりにくい傾向がある。一方、原液の粘度が5000mPa・sを超える場合、エアゾール組成物は、吐出されにくくなる傾向がある。
【0035】
(発泡剤)
発泡剤は、噴射されたエアゾール組成物を濃密で艶のあるクリーム状に発泡させるために配合される。発泡剤は、ハイドロフルオロオレフィンを含む。ハイドロフルオロオレフィンは特に限定されない。一例を挙げると、ハイドロフルオロオレフィンは、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、トランス-2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等である。
【0036】
ハイドロフルオロオレフィンの含有量特に限定されない。一例を挙げると、ハイドロフルオロオレフィンの含有量は、エアゾール組成物中、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、ハイドロフルオロオレフィンの含有量は、エアゾール組成物中、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。ハイドロフルオロオレフィンの含有量が2質量%未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、充分に発泡しにくく、塗り伸ばしにくくなる傾向がある。一方、ハイドロフルオロオレフィンの含有量が30質量%を超える場合、噴射されたエアゾール組成物は、濃密で艶のあるクリーム状のフォームが得られにくい傾向がある。
【0037】
発泡剤は、ハイドロフルオロオレフィンのほかに、噴射されたエアゾール組成物の発泡性や、エアゾール容器にエアゾール組成物が充填された際の圧力を調整する等の目的で、ノルマルブタン、イソブタン、プロパンおよびこれらの混合物である液化石油ガス、ジメチルエーテル等の液化ガスが併用されてもよい。ただし、これらの他の発泡剤は、皮膚への刺激が起こらないように、配合される場合であっても、エアゾール組成物中、5質量%以下、3質量%以下となるよう配合されることが好ましい。
【0038】
以上、本実施形態のエアゾール組成物は、脂肪酸塩が高濃度に含まれる場合であっても安定に吐出することができ、濃密で艶のあるクリーム状のフォームを形成することができる。また、得られたフォームは発泡しており、塗り伸ばされやすい。さらに、エアゾール組成物は、皮膚への刺激が小さい。また、エアゾール組成物は、圧縮ガス(炭酸ガス)が必須でない。そのため、エアゾール組成物は、圧縮ガスによりpHが変動しにくく、脂肪酸塩が分解されにくく、脂肪酸が析出しにくい。
【0039】
<エアゾール製品>
上記エアゾール組成物を充填したエアゾール製品について説明する。本実施形態のエアゾール製品は、上記エアゾール組成物を充填する容器本体と、容器本体に取り付けられるエアゾールバルブと、エアゾール組成物を噴射する噴射孔が形成された噴射ノズルを有するスパウトとを備える。以下、それぞれの構成について説明する。なお、エアゾール製品の構成は、本実施形態に限定されず、上記エアゾール組成物を充填でき、適切に噴射できる構成であればよい。そのため、以下に示されるエアゾール製品の構成は例示であり、適宜設計変更を行うことができる。
【0040】
(容器本体)
容器本体は、エアゾール組成物を加圧状態で充填するための耐圧容器である。容器本体は、汎用の形状であってよい。たとえば、耐圧容器は、上部に開口を有する有底筒状である。開口は、原液を充填するための充填口である。容器本体は、開口に後述するエアゾールバルブを取り付けて閉止することによりエアゾール容器となる。
【0041】
容器本体の材質は特に限定されない。容器本体は、エアゾール組成物を加圧状態で充填できる程度の耐圧性を有していればよい。このような材質は、アルミニウム、ブリキ等の金属、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂、耐圧ガラス等である。
【0042】
(エアゾールバルブ)
エアゾールバルブは、容器本体の開口部に取り付けられるマウンティングカップと、マウンティングカップの中央内部に支持される弁機構を有する。弁機構は、開口部の外周部分がマウンティングカップの中央内部に支持される有底筒状のハウジングを有する。ハウジング内部には、容器本体の内外を連通するステム孔を有するステムと、ステム孔の周囲に取り付けられるステムラバー、およびステムとステムラバーとを上方方向へ付勢するスプリングとが設けられている。ステムとステムラバーとは、常時はスプリングにより上方へ付勢されており、ステムラバーによってステム孔がシールされている。そして、ステムに嵌合してスパウトが設けられている。
【0043】
なお、エアゾールバルブの構造は特に限定されない。たとえば、エアゾールバルブは、容器本体の内部のエアゾール組成物をハウジング内部に導入するための液相導入孔を有するハウジングを備えている。
【0044】
容器本体にエアゾール組成物を充填する方法は特に限定されない。たとえば、エアゾール組成物は、容器本体の開口から原液を充填し、エアゾールバルブを開口に取り付けて密封し、エアゾールバルブの弁機構から発泡剤を充填して原液と混合して乳化物を形成する方法が採用され得る。
【0045】
エアゾール組成物が充填されることにより、容器本体の内圧は、25℃において0.2~0.6MPa程度に調整され得る。
【0046】
(スパウト)
スパウトは、操作によりエアゾールバルブを開放し、エアゾールバルブを経て取り込まれたエアゾール組成物を噴射するための部材である。スパウトは、内部にエアゾール組成物が通過する噴射通路を備える。噴射通路の一端はステム内の通路と連通しており、他端はエアゾール組成物を噴射するための噴射孔が形成されている。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0048】
(実施例1)
以下の処方に従って原液1を調製し、アルミニウム製耐圧容器に充填した。容器本体の開口部にエアゾールバルブを取り付け、エアゾールバルブから発泡剤(トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン1、以下HFO-1234zeとも表記する)を充填した。容器内で原液と発泡剤とを混合することにより発泡性エアゾール組成物を調製した。なお、原液1の脂肪酸塩の含有量は19.8質量%であり、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は0.95であり、20℃での粘度は300mPa・sであった。
【0049】
<原液1>
ステアリン酸(*1) 6.3
ミリスチン酸(*2) 5.0
ヤシ油脂肪酸(*3) 5.0
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 13.0
水酸化カリウム45質量%水溶液 7.7
精製水 58.0
合計 100.0(質量%)
*1:ステアリン酸750V(商品名)、花王(株)製
*2:Lunac MY-98(商品名)、花王(株)製
*3:Lunac L-55(商品名)、花王(株)製、主要脂肪酸の組成が、ラウリン酸57%、ミリスチン酸22%、パルミチン酸10%
<エアゾール組成物>
原液1 90.0
HFO-1234ze 10.0
合計 100.0(質量%)
【0050】
(実施例2)
原液1を96.0質量%、HFO-1234zeを4.0質量%配合した以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。
【0051】
(実施例3)
原液1を95.0質量%、HFO-1234zeを5.0質量%配合した以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。
【0052】
(実施例4)
原液1を85.0質量%、HFO-1234zeを15.0質量%配合した以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。
【0053】
(実施例5)
原液1を80.0質量%、HFO-1234zeを20.0質量%配合した以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。
【0054】
(実施例6)
原液1を75.0質量%、HFO-1234zeを25.0質量%配合した以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。
【0055】
(実施例7)
以下の処方の原液2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。なお、原液2の脂肪酸塩の含有量は15.1質量%であり、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は0.97であり、20℃での粘度は50mPa・sであった。
【0056】
<原液2>
ステアリン酸(*1) 4.8
ミリスチン酸(*2) 3.8
ヤシ油脂肪酸(*3) 3.8
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 13.0
水酸化カリウム45質量%水溶液 6.0
精製水 63.6
合計 100.0(質量%)
【0057】
(実施例8)
以下の処方の原液3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。なお、原液3の脂肪酸塩の含有量は29.9質量%であり、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は0.99であり、20℃での粘度は2000mPa・sであった。
【0058】
<原液3>
ステアリン酸(*1) 9.5
ミリスチン酸(*2) 7.5
ヤシ油脂肪酸(*3) 7.5
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 13.0
水酸化カリウム45質量%水溶液 12.0
精製水 45.5
合計 100.0(質量%)
【0059】
(実施例9)
以下の処方の原液4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。なお、原液4の脂肪酸塩の含有量は40.0質量%であり、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は0.95であり、20℃での粘度は2300mPa・sであった。
【0060】
<原液4>
ステアリン酸(*1) 13.0
ミリスチン酸(*2) 10.0
ヤシ油脂肪酸(*3) 10.0
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 13.0
水酸化カリウム45質量%水溶液 15.6
精製水 33.4
合計 100.0(質量%)
【0061】
(比較例1)
以下の処方の原液5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物を調製した。なお、原液5の脂肪酸塩の含有量は20.0%であり、脂肪酸に対する無機アルカリのモル比は0.97であり、20℃での粘度は10000mPa・sであった。
【0062】
<原液5>
ステアリン酸(*1) 4.7
ミリスチン酸(*2) 4.0
ヤシ油脂肪酸(*3) 4.0
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 13.0
トリエタノールアミン50質量%水溶液 14.7
精製水 54.6
合計 100.0(質量%)
【0063】
(比較例2)
発泡剤として液化石油ガス(25℃における圧力が0.45MPa)を用いた以外は、実施例1と同様にして発泡性エアゾール組成物およびエアゾール製品を調製した。
【0064】
(比較例3)
発泡剤として液化石油ガス(25℃における圧力が0.20MPa)を用い、炭酸ガスを充填して25℃における容器内の圧力を0.45MPaに調整した以外は、実施例1と同様にしてエアゾール組成物およびエアゾール製品を調製した。
【0065】
実施例1~9および比較例1~3において得られたエアゾール製品等に関して、以下の評価方法により、エアゾール組成物の吐出状態、噴射されたエアゾール組成物の刺激性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
<吐出状態>
エアゾール製品を25℃の恒温水槽中に1時間浸漬し、エアゾール組成物を吐出したときの吐出物の状態、塗り伸ばしやすさ、析出の有無を、以下の評価基準に沿って評価した。
(評価基準)
◎:エアゾール組成物は、濃密でクリームのような艶のあるフォームを形成した。
○:エアゾール組成物は、クリームのようなフォームを形成した。
△:エアゾール組成物は、弱いクリームのようなフォームを形成した。
×:エアゾール組成物は、大きく発泡し、艶のないフォームを形成した。
-:エアゾール組成物は、吐出できなかった。
【0067】
<刺激性>
エアゾール組成物を目の周囲に塗布したときの刺激の有無を、以下の評価基準に沿って評価した。
(評価基準)
◎:全く刺激が感じられなかった。
○:刺激がほとんど感じられなかった。
×:ピリピリする刺激が感じられた。
-:吐出できなかったため評価できなかった。
【0068】
<塗り伸ばしやすさ>
エアゾール製品を25℃の恒温水槽中に1時間浸漬し、人工革に対して、フォームの直径が2cmとなるようエアゾール組成物を吐出し、吐出物を指で横に塗り伸ばした。フォームが途切れたときの長さを測定した。なお、「-」は吐出できなかったため評価できなかったことを示す。
【0069】
<析出の有無>
アルミニウム製耐圧容器に代えて、エアゾール組成物を透明な耐圧ガラス容器に充填し、25℃の恒温室に6ヶ月間保管し、析出の有無を、以下の評価基準に沿って目視で評価した。
(評価基準)
○:析出物は確認できなかった。
×:白い固形物(析出物)が確認された。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示されるように、実施例1~9の発泡性エアゾール組成物を用いた場合、脂肪酸塩を高濃度に含んでいるにもかかわらず安定に吐出することができ、艶のあるクリーム状のフォームが形成され、かつ、それらは塗り伸ばしやすく、塗布面で刺激がなく、保存による析出も生じなかった。一方、有機アルカリを用いた比較例1の発泡性エアゾール組成物は、粘度が高くなりすぎ吐出できなかった。ハイドロフルオロオレフィンと同じ圧力の液化石油ガスを用いた比較例2の発泡性エアゾール組成物は、発泡が大きくなり過ぎて艶が無く、かつ、強い刺激が感じられた。比較例2よりも低圧の液化石油ガスを用い、炭酸ガスを充填して製品圧力が実施例1と同じになるように調整した比較例3の発泡性エアゾール組成物は、発泡が大きくなり過ぎて艶が無く、かつ、強い刺激が感じられた。また、比較例3の発泡性エアゾール組成物は、保存により析出を生じた。