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特許6991839耐火積層体及びこれを用いた筒状積層体並びに電池隔離構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】耐火積層体及びこれを用いた筒状積層体並びに電池隔離構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/293 20210101AFI20220105BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 50/213 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 50/28 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 50/282 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20220105BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20220105BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01M50/293
H01M50/204 401F
H01M50/213
H01M50/209
H01M50/28
H01M50/282
H01M10/653
H01M10/658
B32B27/18 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017222831
(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公開番号】P2019096410
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000108498
【氏名又は名称】タイガースポリマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島 嗣典
(72)【発明者】
【氏名】江草 史典
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089257(JP,A)
【文献】特開2009-021223(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054633(WO,A1)
【文献】特開2017-109428(JP,A)
【文献】特開2009-138147(JP,A)
【文献】特開2013-246920(JP,A)
【文献】特開2017-162724(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103102682(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 10/52-10/667
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性熱発泡層と熱膨張層とを含む耐火積層体であって、
耐火積層体の少なくとも片面は絶縁性であり、
絶縁性熱発泡層は亜リン酸アルミニウムと第1合成樹脂とを含有し、亜リン酸アルミニウムが第1合成樹脂100重量部に対して20~900重量部含有され、
熱膨張層は熱膨張性黒鉛と第2合成樹脂とを含有し、熱膨張性黒鉛が第2合成樹脂100重量部に対して20~700重量部含有される耐火積層体。
【請求項2】
絶縁性熱発泡層は、層の厚さが2.0mm以下である請求項1に記載の耐火積層体。
【請求項3】
第1合成樹脂は、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリウレタン及びポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種を含む請求項1又は2に記載の耐火積層体。
【請求項4】
第2合成樹脂は、塩化ビニル又はポリウレタンの少なくとも一方を含む請求項1~3いずれか一項に記載の耐火積層体。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項に記載の耐火積層体を備える筒状積層体であって、内周側から絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に配置され、内周側に絶縁性熱発泡層が露出した筒状積層体。
【請求項6】
電池と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並び、絶縁性熱発泡層が電池に面するように配置された電池隔離構造であって、
絶縁性熱発泡層は亜リン酸アルミニウムと第1合成樹脂とを含有し、亜リン酸アルミニウムが第1合成樹脂100重量部に対して20~900重量部含有され、
熱膨張層は熱膨張性黒鉛と第2合成樹脂とを含有し、熱膨張性黒鉛が第2合成樹脂100重量部に対して20~700重量部含有される電池隔離構造。
【請求項7】
請求項6に記載の電池隔離構造を備える電池ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火積層体及びこれを用いた筒状積層体並びに電池隔離構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池等に代表される二次電池の用途が拡大しており、二次電池には更なる大容量化やコンパクト化等が要求されている。これに伴い、より大容量なものや電池ホルダー内に多数の二次電池を集積した電池ユニットの利用が進んでいる。
しかし、このような電池ユニットはエネルギー密度が高く、火災事故を生じうる。例えば、収納された一部の電池が異常発火を生じた場合、周囲の電池へ類焼して連鎖的に発火を生じうる。また、電池ホルダーに類焼すると、電池ホルダーからさらに電池ユニット内蔵機器へ類焼し、内蔵機器の火災につながる危険性がある。
従って、電池ユニットには、このような火災事故を予防するための防火機構を設けることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-218210
【文献】特開2008-115359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エネルギー密度が高い電池は爆発的に発火することがある。このため、電池ユニットの防火機構には、火炎の遮蔽性と共に、電池ホルダー側の急激な温度上昇を抑制できるよう、高い断熱性が確保されることが望ましい。
【0005】
文献1の技術は、電池ユニット中の隙間に無機材料からなる耐火材を載置したものである。このような無機材料は成形加工性が低く、薄いと強度に劣り、ひび割れの発生などにより断熱性が損なわれやすい。一方、強度確保のために厚くすると、省スペース性が重視される電池ユニットへの適用が困難になる。
【0006】
一方、文献2の技術のように熱膨張性黒鉛を含む樹脂組成物は、高い断熱性と成形加工性を有するため、耐火性が求められる種々の樹脂成形体に応用することが期待される。しかしながら、熱膨張性黒鉛は通常、導電性を有し、高熱により大きく膨張するという特性から、これを含む樹脂組成物は絶縁性が求められる用途には適していない。例えば、電池ホルダーの電池ケースに用いると、電池の短絡を生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、成形性に優れると共に少なくとも片面が絶縁性であり、有事の際に高い断熱性が発揮される、電池ユニット内部の電池隔離構造等に好適な耐火積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、絶縁性熱発泡層と熱膨張層とを含む耐火積層体であって、耐火積層体の少なくとも片面は絶縁性であり、絶縁性熱発泡層は亜リン酸アルミニウムと第1合成樹脂とを含有し、亜リン酸アルミニウムが第1合成樹脂100重量部に対して20~900重量部含有され、熱膨張層は熱膨張性黒鉛と第2合成樹脂とを含有し、熱膨張性黒鉛が第2合成樹脂100重量部に対して20~700重量部含有される耐火積層体である(第1発明)。
【0009】
第1発明において、絶縁性熱発泡層は、層の厚さが2.0mm以下であることが好ましい(第2発明)。また、第1合成樹脂は、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリウレタン及びポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい(第3発明)。また、第2合成樹脂は、塩化ビニル又はポリウレタンの少なくとも一方を含むことが好ましい(第4発明)。
【0010】
また、本発明の別の態様は、第1~4発明のいずれかの耐火積層体を備える筒状積層体であって、内周側から絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に配置され、内周側に絶縁性熱発泡層が露出した筒状積層体である(第5発明)。
【0011】
さらに、本発明の別の態様は、電池と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並び、絶縁性熱発泡層が電池に面するように配置された電池隔離構造であって、絶縁性熱発泡層は亜リン酸アルミニウムと第1合成樹脂とを含有し、亜リン酸アルミニウムが第1合成樹脂100重量部に対して20~900重量部含有され、熱膨張層は熱膨張性黒鉛と第2合成樹脂とを含有し、熱膨張性黒鉛が第2合成樹脂100重量部に対して20~700重量部含有される電池隔離構造である(第6発明)。
【0012】
さらに、本発明は、第6発明の電池隔離構造を備える電池ユニットである(第7発明)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐火積層体(第1発明)は、成形性に優れると共に少なくとも片面が絶縁性であり、有事の際に高い断熱性を発揮できる。このため、本発明の耐火積層体は、特に絶縁性が求められる用途において、発火源をあらかじめ隔離して周囲への類焼を抑制する発火源隔離構造を形成できる。
【0014】
本発明の耐火積層体は、特に、電池ユニットの電池隔離構造の形成に有用である(第6,7発明)。本発明の耐火積層体において、第2発明のように絶縁性熱発泡層の厚さが2.0mm以下であると、熱膨張層が迅速に膨張してクッション効果を高められる。また、第3,4発明のように絶縁性熱発泡層や熱膨張層が特定の耐熱性樹脂から形成されると、より安定的に耐火性を発揮しやすい。第5発明のように、本発明の耐火積層体を備える筒状積層体は、防火用の電池スリーブ等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の耐火積層体の断面図。
図2】第1実施形態の耐火積層体を電池ユニットの上カバー部側の電池隔離構造として適用した使用例を示す断面図。
図3】第1実施形態の耐火積層体を電池ごとの隔離構造として適用した使用例を示す断面図。
図4】第2実施形態の耐火積層体の断面図。
図5】第2実施形態の耐火積層体を電池間の隔離構造として適用した使用例を示す断面図。
図6】第2実施形態の耐火積層体を電池間の隔離構造として適用した使用例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照しながら、耐火積層体の電池ユニットへの使用を例として、発明の実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。なお、本明細書における「電池ユニット」とは、いわゆる電池パックや電池モジュール等を含む概念であり、1つ又は複数の電池と電池ホルダーとからなるものを表すが、特定の構造に限定されるものではない。電池ホルダーは、通常、電池を収納する電池ケースと電極の他、電池のセパレータや固定機構等の部材から構成される。
【0017】
図1に、本発明の耐火積層体である第1実施形態の積層シート10を示す。後述するように、この積層シート10は電池の周囲に設けられて、異常発火した電池からの火炎や熱を遮蔽するための電池隔離構造として用いられうる。
【0018】
積層シート10は、絶縁性熱発泡層である亜リン酸アルミニウム含有層1と、熱膨張層である熱膨張性黒鉛含有層2を含む。本実施形態の積層シート10において、亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2は接着されている。接着は、接着剤等を用いて各層間に接着層を介在させることでなされてもよいし、積層状態で加熱したり、半溶融状態で両者を積層したりする等、熱によって各層間を溶着や密着させることでなされてもよい。また、各層は共押出成形等により一体的に積層形成されてもよい。後述の作用効果を得やすい観点からは、各層が隣接していることが好ましい。積層シート10を耐火用途に用いる際は、絶縁性熱発泡層側が発火源に面するように、すなわち、発火源と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並ぶように配置することが好ましい。
【0019】
積層シート10における亜リン酸アルミニウム含有層1は、亜リン酸アルミニウムを第1合成樹脂100重量部に対して20~900重量部含む絶縁性の層である。なお、本明細書にいう絶縁性とは、電気絶縁性を意味する。亜リン酸アルミニウム含有層1は、可塑剤や難燃剤等の任意成分を含有してもよい。ただし、絶縁性を確保する観点から、亜リン酸アルミニウム含有層1は熱膨張性黒鉛の含有量が全成分中1.0重量%以下であることが好ましく、熱膨張性黒鉛を実質的に含まないことがより好ましい。亜リン酸アルミニウム含有層1は、高熱に暴露された際、後述の亜リン酸アルミニウムの作用により多孔質の焼結体を形成できるため、火炎や熱に対して優れた遮蔽性を発揮する。亜リン酸アルミニウム含有層1は、厚みが2.0mm以下であることが好ましい。
【0020】
亜リン酸アルミニウムは、アルミニウムの亜リン酸塩であればよく、その組成は特に限定されない。本発明における使用に際して、亜リン酸アルミニウムには前駆体や誘導体などが含まれていてもよく、例えば、ホスホン酸塩や水和物等を含んでもよい。亜リン酸アルミニウムとしては、高発泡性のものが好ましく、例えば、太平化学産業株式会社の「APA100」等が使用できる。中でも、亜リン酸アルミニウムの発泡開始温度が380℃~480℃であり、膨張率が10倍ないし70倍程度のものが好ましい。
【0021】
亜リン酸アルミニウム含有層1のマトリクス成分となる第1合成樹脂は、少なくとも絶縁性のものであれば特に限定されず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、ゴム等が使用できる。亜リン酸アルミニウム含有層1が熱変形を起こしにくく、遮蔽性を損ないにくい観点からは、第1合成樹脂は難燃性の樹脂であることが好ましく、融点が130℃以上の熱可塑性樹脂であるか、熱硬化性樹脂であることがより好ましい。一方、熱加工の容易性の観点からは、第1合成樹脂は軟化点が亜リン酸アルミニウムの発泡開始温度より低いものが好ましい。難燃性の樹脂としては、例えばフッ素樹脂、塩化ビニル(PVC)樹脂やウレタン(PUR)樹脂やポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂が挙げられる。中でも、亜リン酸アルミニウム含有層1の成形性を向上する観点からは、第1合成樹脂はフッ素樹脂であるか、フッ素樹脂を含むことが好ましい。フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられ、ダイキン工業株式会社製の「ポリフロンMPA FA-500H」等が使用できる。上記合成樹脂は、単独で、あるいはブレンドして使用できる。
【0022】
耐火性を高める観点から、亜リン酸アルミニウムの配合量は、第1合成樹脂100重量部に対して20重量部以上であり、40重量部以上であることが好ましく、60重量部以上であることがより好ましい。また、亜リン酸アルミニウム含有層1の成形性や加工性の観点から、亜リン酸アルミニウムの配合量は、第1合成樹脂100重量部に対して900重量部以下であり、600重量部以下であることが好ましく、300重量部以下であることがより好ましい。特に、亜リン酸アルミニウム含有層1をロール加工機や押出機等の樹脂成形機により製造する場合は、プロセス制御の容易性の観点からは、亜リン酸アルミニウムの配合量は、第1合成樹脂100重量部に対して300重量部以下であることが好ましく、200重量部以下であることがより好ましく、100重量部以下であることがさらに好ましい。
【0023】
必須ではないが、亜リン酸アルミニウム含有層1には難燃剤を配合することが好ましい。難燃剤を添加することにより、亜リン酸アルミニウム含有層1を構成する第1樹脂成分が燃焼を起こすことを抑制しやすくなる。難燃剤としては、ハロゲン系やリン系の難燃剤を用いてよいが、樹脂から可燃性ガスの発生を抑制しやすいハロゲン系難燃剤であることがより好ましい。
【0024】
積層シート10における熱膨張性黒鉛含有層2は、熱膨張性黒鉛を第2合成樹脂100重量部に対して20~700重量部含む層である。熱膨張性黒鉛含有層2は、可塑剤や難燃剤等の任意成分を含有してもよい。熱膨張性黒鉛含有層2は、高熱に暴露された際、後述するように熱膨張性黒鉛の作用により膨張体を形成できるため、優れたクッション効果を発揮できると共に、火炎や熱に対して遮蔽性を発揮できる。
【0025】
熱膨張性黒鉛とは、一般に黒鉛の層状結晶と熱分解成分とを含み、加熱によって急激に膨張する性質を有するものをいう。熱膨張性黒鉛は、火炎に暴露されるなどして加熱されると、熱分解成分がガス化することで黒鉛結晶の層間を押し広げることで膨張する。このような熱膨張性黒鉛としては市販のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、エア・ウォーター株式会社の「TEG」シリーズや鈴裕化学「GREP-EG」シリーズ等が使用できる。
【0026】
熱膨張性黒鉛含有層2のマトリクス成分となる第2合成樹脂としては、第1合成樹脂と同様な樹脂を使用できるが、熱加工の容易性の観点からは、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度よりも軟化点が低いものが好ましい。第2合成樹脂として好ましい難燃性の樹脂としては、例えば塩化ビニル(PVC)樹脂やウレタン(PUR)樹脂や樹脂が挙げられる。これら合成樹脂は、単独で、あるいはブレンドして使用できる。
【0027】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、樹脂組成物に添加した際の成形加工性の観点から、第2合成樹脂の軟化点よりも高いことが好ましく、例えば200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましい。また、熱膨張性黒鉛の膨張率は100倍以上であるものが好ましい。
【0028】
膨張力を高める観点から、熱膨張性黒鉛の配合量は、第2合成樹脂100重量部に対して20重量部以上であり、40重量部以上であることが好ましく、60重量部以上であることがより好ましい。また、熱膨張性黒鉛含有層2の成形性や加工性の観点から、熱膨張性黒鉛の配合量は、第2合成樹脂100重量部に対して700重量部以下であり、450重量部以下であることが好ましく、200重量部以下であることがより好ましい。特に、熱膨張性黒鉛含有層2を樹脂成形機により製造する場合は、プロセス制御の容易性の観点からは、熱膨張性黒鉛の配合量は、第2合成樹脂100重量部に対して200重量部以下であることが好ましく、130重量部以下であることがより好ましく、60重量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
必須ではないが、熱膨張性黒鉛含有層2には難燃剤を配合することが好ましい。難燃剤を添加することにより、熱膨張性黒鉛含有層2を構成する樹脂成分が燃焼を起こすことを抑制しやすくなる。難燃剤としては、ハロゲン系やリン系の難燃剤を用いてよいが、樹脂から可燃性ガスの発生を抑制しやすいハロゲン系難燃剤であることがより好ましい。
【0030】
第1合成樹脂や第2合成樹脂に用いる樹脂については、軟質樹脂と硬質樹脂のいずれであってもよいが、積層シート10を発火源に巻き付けたり、発火源を包装したりして用いる場合は、配置の自由度や加工性が高められるよう軟質樹脂であることが好ましい。積層シート10が軟質樹脂を主体として構成される場合、例えば、積層シート10はデュロ硬度が85度以下であることが好ましく、75度以下であることがより好ましい。
【0031】
第1合成樹脂と第2合成樹脂に用いる樹脂については、それぞれ独立して選択すればよいが、接着性が良好な樹脂を組み合わせて用いることが好ましく、同種の樹脂を用いることがより好ましい。それぞれの層が同種の樹脂からなる場合、共押出成形した場合のようにそれぞれの層が連続的な1つの層を形成していてもよく、この場合は層内の亜リン酸アルミニウムと熱膨張性黒鉛の分布をもとに各層の厚みを定めてよい。
【0032】
本実施形態では二層の積層シート10の例を示したが、樹脂シートはさらに他の層、例えばガラス繊維の織布層等を有していてもよい。
【0033】
一般的な耐火シートは、耐火断熱性の観点からは厚くすることが好ましい。一方で、積層シート10は、表面層である亜リン酸アルミニウム含有層1が薄いと、高熱に暴露された際に下地層である熱膨張性黒鉛含有層2に熱が伝わりやすくなり、後述の作用効果を発揮しやすくなる。この観点から、亜リン酸アルミニウム含有層1の厚さは2.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましく、0.75mm以下であることが特に好ましい。一方、成形性と機械的強度を確保する観点から、亜リン酸アルミニウム含有層1の厚さは0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。
【0034】
熱膨張性黒鉛含有層2の厚さは、成形性やコンパクト化を重視する観点からは、2.0mm以下とすることが好ましく、1.5mm以下とすることがより好ましく、1.0mm以下とすることがさらに好ましい。一方、成形性と機械的強度を確保する観点から、積層シート10全体としての耐火性を確保する観点から、熱膨張性黒鉛含有層2の厚さは0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、0.7mm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
積層シート10の厚さは、亜リン酸アルミニウム含有層1、熱膨張性黒鉛含有層2及びその他の層を含めた総厚によって定まり、特に限定されるものではないが、コンパクト性が重視される電池ユニット等の用途では、2.5mm以下とすることが好ましく、1.5mm以下とすることがより好ましく、1.0mm以下とすることがさらに好ましい。一方、成形性と機械的強度を確保する観点から、積層シート10の厚さは0.3mm以上であることが好ましい。ただし、積層シート10の厚さは、耐火性の要求水準や用途によっては0.30mm未満の積層フィルム状としてもよい。
【0036】
積層シート10の製造方法の一例について説明する。
まず、亜リン酸アルミニウム含有層1を構成する第1樹脂組成物と熱膨張性黒鉛含有層2を構成する第2樹脂組成物を準備する。
第1樹脂組成物は、亜リン酸アルミニウム含有層1のマトリクス成分となる第1合成樹脂に対し、所定量の亜リン酸アルミニウム粉末や他の配合剤を溶融混練することで得られる。第2樹脂組成物も同様に、第2合成樹脂に熱膨張性黒鉛粉末等を溶融混練することで得られる。樹脂組成物の溶融混練時には、混練温度が亜リン酸アルミニウムや熱膨張性黒鉛の反応温度を超えないように制御する。混練温度は、亜リン酸アルミニウムや熱膨張性黒鉛の反応温度を超えない限り、樹脂組成物の組成に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
得られた各脂組成物を成形材料として、ロール成形、加圧成形、射出成形、押出成形等により、所定の厚みのシート状に成形する。本成形工程により、第1合成樹脂と亜リン酸アルミニウムとを含む第1シートと、第2合成樹脂と熱膨張性黒鉛とを含む第2シートが得られる。
【0038】
次に、得られた各シートを積層して接着することで、本実施形態の積層シート10が得られる。積層シート10において、第1シートが積層シート10における亜リン酸アルミニウム含有層1に、第2シートが積層シート10における熱膨張性黒鉛含有層2に対応する。接着は、公知の方法により行えばよく、接着剤や熱溶着等を用いることができる。接着工程においても、加熱工程を伴う場合は、亜リン酸アルミニウムや熱膨張性黒鉛の反応温度を超えないように温度制御を行う。
【0039】
なお、上記説明では各層を構成するシートを個別に成形し、後にそれらを接着して積層シート10となす製造方法を例に説明したが、成形工程と積層一体化工程は同時に行うものであってもよい。例えば、押出成形を用いる場合は、各脂組成物を共押出成形することにより、あらかじめ第1シートと第2シートが接着された状態に一体成形して積層シート10を得てもよい。
【0040】
積層シート10の製造上の留意点として、亜リン酸アルミニウムや熱膨張性黒鉛は樹脂成分を劣化させることがあり、これらを含む樹脂組成物を長時間加熱すると成形加工性等を悪化させるおそれがある。このため、上記一連の積層シート10の製造工程は、各工程を連続化するなどして極力短時間に行うことが好ましい。樹脂組成物の熱劣化を防ぐ観点からは、別途の基材を準備し、この基材上に上記樹脂組成物による樹脂コーティング等を施すことで積層シート10を形成してもよい。
【0041】
積層シート10の使用方法の例について説明する。
積層シート10は、火炎等の高熱に暴露された際に、亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2との相乗的な作用により、効果的に火炎や熱を遮蔽できる。このため、積層シート10によって発火源をあらかじめ取り囲むなどして周囲から隔離しておくことで、発火が生じても周囲への類焼を抑制できる。このように、積層シート10は発火源の隔離構造として有用である。また積層シート10は、膨張して耐火断熱作用を有する層となるので、未膨張の積層シート10としては薄型化できる。特に、積層シート10は成形性に優れ、かつ、未膨張の薄型化された状態で配置可能であるため、省スペース性が重視される電池ユニットの電池の隔離構造に好適に使用できる。
【0042】
積層シート10を電池隔離構造に使用する際は、積層シート10の亜リン酸アルミニウム含有層1を電池側に面するように配置し、電池と亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2がこの順に並んだ電池隔離構造とすることが好ましい。以下、具体的な使用例を示して説明する。
【0043】
図2は、第1実施形態の積層シート10を電池ユニットのカバー部31に適用した使用例を示す断面図である。図2の例では、略直方体状の形状を有する電池集合体40が、ケース部32とカバー部31とからなる電池ホルダーに収容されている。なお、図面上では電池ホルダーの電極等は省略しており、電池ケース構成部分のみを示している。電池集合体40は複数の電池を配列させて組電池を構成したものである。ケース部32は金属製(鉄製やアルミニウム製)であり、カバー部31は合成樹脂製である。ケース部32とカバー部31は、ケース部32の開口部をカバー部31で覆って一体化することで、電池集合体40を収容可能な電池ケースを構成している。上記第1実施形態の積層シート10は、カバー31の内側を覆うように、かつ、亜リン酸アルミニウム含有層1の側が電池集合体40に面するように、カバー31の内側に配置されている。
【0044】
電池集合体40とカバー部31とは積層シート10によって隔離されているため、電池集合体40が発火した場合、その火炎や熱による樹脂製のカバー部31への類焼を抑制できる。すなわち、積層シート10の遮蔽作用により、火炎や熱が樹脂製のカバー部31へ達することを抑制できる。類焼をより確実に抑制する観点から、積層シート10は、樹脂製のカバー部31の内面全体を覆うように設けられることが好ましいが、特定部分のみを覆うように設けてもよい。また、短絡防止の観点から、積層シート10は、少なくとも熱膨張性黒鉛含有層2側が電池ホルダーの電極部に面しないようにすることが好ましい。
【0045】
なお、この使用例のように、ケース部32が金属製とされていて類焼の問題が生じないのであれば、ケース部32と電池集合体40の間には、積層シート10を設けなくてもよい。ただし、ケース部32の外周面に近接して電子機器などが配置される等、熱の伝達を遮蔽する目的でケース部32と電池集合体40の間にも積層シート10を設けてもよい。
【0046】
本使用例における積層シート10を例に、本発明の耐火積層体が有する作用効果を説明する。
本発明者らは、図2に示すように、電池ホルダーの内面側において、所定の厚みの亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2とからなる積層シート10を所定の配置とすることで、電池に異常発火を生じてもカバー部31への類焼を抑制できることを見出した。すなわち、積層シート10の亜リン酸アルミニウム含有層1側を電池集合体40側に面するように配置することで、電池から生じた火炎や熱に対して高い遮蔽効果が見込め、かつ、表面側の絶縁性が維持されるものである。
【0047】
本実施形態の積層シート10がこのような高い遮蔽効果を発揮する理由は、特に限定されるものではないが、以下のように推察される。
【0048】
亜リン酸アルミニウムは、400℃付近で組成変化が起こり、発泡して粉状体から多孔体に変化する性質を有する。このため、亜リン酸アルミニウム含有層1は高熱に暴露された際、上記のような亜リン酸アルミニウムの作用によって多孔質の焼結体を形成できると考えられる。この焼結体は面状に形成され、耐火断熱性を発揮する。ただし、亜リン酸アルミニウムは反応温度が約400℃程度と熱に対する反応性が低いため、亜リン酸アルミニウム含有層1のみを耐火材として用いた場合、直接的に火炎や熱に暴露される表面側では迅速に焼結体が形成されるものの、背面側では焼結体が形成されず、または、その形成が遅れることがある。この結果、亜リン酸アルミニウム含有層1のみでは、焼結体による断熱効果が発揮される前に、熱が背面側へと達するおそれがある。
【0049】
さらに、亜リン酸アルミニウム含有層1は、焼結体に変化すると、塑性や弾性を失い、脆くなって割れやすくなるという難点がある。もし、焼結体が割れると、その割れ目から火炎や熱が貫通してしまったり、焼結体の脱落を生じてしまうため、亜リン酸アルミニウム含有層1のみを耐火材として用いた場合、必ずしも充分な火炎や熱の遮蔽を果たせないおそれがある。
【0050】
熱膨張性黒鉛は、少なくとも200℃以上で膨張作用を示し、特に火炎等の高熱に暴露されると急激に膨張する性質を有する。このため、熱膨張性黒鉛含有層2は高熱に暴露された際、上記のような熱膨張性黒鉛の作用によって断熱性の膨張体を形成できると考えられる。
【0051】
ここで、本実施形態の積層シート10は、これらの熱に対する反応性が異なる亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2とを組み合わせたものである。そして、発火源である電池集合体40に対して、表面側が亜リン酸アルミニウム含有層1、背面側がより熱に対する反応性が高い熱膨張性黒鉛含有層2となるよう積層シート10を配置した場合、上記亜リン酸アルミニウム含有層1の難点が改善され、高い断熱性が実現できるものと考えられる。
【0052】
すなわち、積層シート10における背面側の熱膨張性黒鉛含有層2は、直接的に火炎や熱に暴露されずとも、比較的低温でしかも急速に膨張体を形成できる。従って、仮に表面側の亜リン酸アルミニウム含有層1の焼結体形成による熱の遮蔽が間に合わない場合であっても、背面側の熱膨張性黒鉛含有層2の膨張体形成によって熱の遮蔽を行うことができる。
【0053】
また、膨張体は焼結体と比べると膨張度合が大きく、柔らかい。このため、膨張体は焼結体の背後でクッションのように作用し、焼結体の割れや脱落をも抑制しやすくなる。
【0054】
以上のような作用によって、焼結体と膨張体の効果が相乗的に発揮され、電池の異常発火による火炎や熱が遮蔽される。従って、本実施形態の積層シート10は、電池の異常発火時にケース部32への類焼を効果的に抑制できる。なお、電池集合体40に対向する面に形成される焼結体は絶縁性であるため、膨張体が電池に接触することがなく、電池の短絡を起こしにくい。
【0055】
また、積層シート10において、亜リン酸アルミニウム含有層1が比較的薄く構成されていると、熱膨張性黒鉛含有層2へ早期に熱が達しやすく、より迅速に膨張体が形成されやすくなるため好ましい。このような構成であれば、それぞれの層で焼結体と膨張体が同時的に、または、焼結体に先んじて膨張体が形成される。これにより、亜リン酸アルミニウム含有層1が焼結体に変化していく間に、熱膨張性黒鉛含有層2が膨張し、クッションのように亜リン酸アルミニウム含有層1を電池集合体40の側に押し付けるようにするので、焼結体が割れにくく、かつ、割れても膨張体に押さえられて、割れ目が拡大しにくい。また、焼結体の割れ目からの火炎や熱の貫通も、背面側の膨張体によって抑制される。
【0056】
亜リン酸アルミニウム含有層1を通じて熱膨張性黒鉛含有層2に早期に熱が達しやすくする観点からは、亜リン酸アルミニウム含有層1の厚みは、例えば2.0mm以下の厚さであることが好ましい。また同様な観点から、亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2は隣接していることが好ましく、これらの層の間には他の層が存在しないことが好ましい。
【0057】
なお、本発明の耐火積層体は、必ずしも亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2が同時的に作用しなければ発明の効果を発揮できないものではない。例えば、電池が急激に発火せず、徐々に高温となり発火に至るようなケースでは、表面側の亜リン酸アルミニウム含有層1単独もしくは下地側の熱膨張性黒鉛含有層2単独の作用でも遮蔽効果を発揮できる。
【0058】
上記実施形態の説明においては、積層シート10が使用される対象を、主に電池の隔離構造を中心として説明したが、本発明の耐火積層体の適用対象は、これに限定されず、耐火性や断熱性の要求のある物品や部位に広く利用できる。例えば、本発明の耐火積層体は、電池以外の発火性の物品のための隔離構造としても有用である。具体的には、発火性の物品の保存容器や梱包資材に使用できる。また、本発明の耐火積層体は、電気設備の通電部のための隔離構造としても有用である。具体的には、スイッチボックスや、電流遮断装置、パワートランジスタ回路の収容ボックス等に使用できる。
【0059】
また、本発明の積層シート10を電池ユニット中の電池の隔離構造に使用する場合も、隔離対象とする電池の具体的態様は特に限定されず、組電池であっても単電池であってもよく、電池の種類は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンポリマー電池等であってもよい。
【0060】
図3は、第1実施形態の積層シート10を電池ユニット中の電池41ごとの隔離構造として適用した使用例を示す断面図である。この使用例では、円筒状の電池41,41が並んで配置され、これら複数の電池41,41が対をなすケース部材51,52により収容されて電池ユニットが構成されている。
【0061】
この使用例においては、第1実施形態の積層シート10を亜リン酸アルミニウム含有層が内周側になるように円筒状に丸めた筒状体、すなわち、円筒状積層シート11となし、各電池41を取り囲むように配置している。これにより、電池と亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2がこの順に並んだ、電池隔離構造を形成できる。このような構成であれば、電池41の1つが発火しても、その電池41の周囲の円筒状積層シート11により火炎や熱が遮蔽され、周囲の電池41やケース部材51,52への類焼を抑制できる。このように、個々の電池41を周囲から確実に隔離する観点からは、積層シート10は亜リン酸アルミニウム含有層1を内周側に配置した筒状積層シート11の形態とすることが好ましい。
【0062】
また、図3に示したような電池隔離構造においては、電池と亜リン酸アルミニウム含有層1の間や亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2の間に他の層が設けられていてもよい。また、亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2とは積層シート状に一体化されていなくてもよく、それぞれ亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2とを独立したシートとし、これらを組み合わせて電池隔離構造を形成してもよい。
【0063】
また、電池41から吹き出す火炎を遮蔽すると共に、酸素の供給を断って火炎の発生自体を抑制するとの観点からは、本使用例のように、積層シート11が、電池41の外周面に密着するように配置されることが好ましい。また、同様の観点から、積層シート11が、電池41の外周面に接着されて隙間がないことが好ましい。
【0064】
円筒状積層シート11の製造方法の例について説明する。
円筒状積層シート11は、矩形状の積層シート10を準備し、これを丸めて積層シート両端を突き合せて接着させて製造することができる。接着には、公知の方法を用いてよく、接着剤や熱溶着を用いてよい。接着工程において積層シート10が加熱される場合は、亜リン酸アルミニウムや熱膨張性黒鉛の反応温度を超えないように温度制御する。なお、矩形状の積層シート10は、上述した製造方法に従って製造すればよい。
【0065】
また、積層シート11はあらかじめ円筒状に成形してもよい。例えば、まず、上述した製造方法に従って各層形成用の樹脂組成物を準備する。これらを成形材料として、中空押出成形により不定長の円筒積層中空管を作製しながら、円筒積層中空管を所望の長さにカットすることで、円筒状積層シート11を得ることができる。
【0066】
中空押出成形により積層構造を形成する方法は特に限定されず、共押出成形によって亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2とを形成と同時に一体的に積層してもよい。または、まず亜リン酸アルミニウム含有層1からなる円筒中空管を押出形成した後、次に円筒中空管の外周を被覆するようにさらに熱膨張性黒鉛含有層2を押出成形する等して、各層を逐次的に積層してもよい。各押出成形には、汎用の押出成形機と押出金型を用いることができる。このような押出成形によって製造された円筒状積層シート11は、シートの継ぎ目がなく、厚みが均質であるため好ましい。このようにして製造した筒状積層体を用いれば、火炎の遮蔽をより確実にすることができる。
【0067】
本使用例における筒状積層シート11は、電池ユニットにおける電池隔離構造としてのみならず、汎用の電池スリーブとして用いることも好ましい。筒状積層シート11を電池スリーブとして電池に直接一体化して用いることで、電池ホルダーの形態や電池の使用形態に関わらず、電池の異常発火による周囲への類焼をより効果的に抑制することができる。このような、本発明の耐火積層体であって、内周側に絶縁性熱発泡層が配置された筒状積層体も、本発明の好ましい一態様である。
【0068】
なお、本使用例では、円筒状の電池41の隔離構造として積層シート10を使用する例を示したが、角筒状の電池の隔離構造としても同様に積層シート10を使用することができる。この場合、積層シート10を角筒状に形成し、角筒状積層シートとして使用すればよい。この場合も、所定の押出金型を用いて、押出成形によって角筒状積層シートを製造してもよい。
【0069】
なお、本使用例では、積層シート10を円筒状積層シート11として電池41の外周を取り囲んだ電池隔離構造を示したが、他の電池隔離構造を採用することも可能である。その際、電池41が、必ずしも他の電池41とケース部材51,52のいずれからも隔離された構造としなくてもよい。
例えば、積層シート10を図3における各カバー部材51,52の内壁面に沿うように配置することで、各電池41とカバー部材51,52とを隔離することができ、電池41発火時にケース部材51,52への類焼を抑制することができる。このような電池隔離構造を採用すれば、各カバー部材51,52の内周面に直接耐火積層体を一体成形することができ、耐火性を備えた電池ホルダーないし電池ユニットとすることができる。
【0070】
なお、円筒状積層シート11では、その内部に発火源を隔離し、内周側から外周側への火炎の伝播を遮蔽するため内周側に亜リン酸アルミニウム含有層を配置したが、別の目的であれば外周側に亜リン酸アルミニウム含有層を配置してもよい。例えば、特定の物品を周囲の火災から保護したい場合、外周側に亜リン酸アルミニウム含有層を配置した別態様の円筒状積層シートとし、その内部に特定物品を隔離すればよい。この場合、当該円筒状積層シートの外周側から内周側への火炎の伝播を遮蔽することができ、特定物品を火災から保護できる。
【0071】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0072】
図4に、本発明の耐火積層体の第2実施形態の積層シート20を示す。本実施形態では、積層シート20が絶縁性熱発泡層である亜リン酸アルミニウム含有層1と、熱膨張層である熱膨張性黒鉛含有層2とを含み、亜リン酸アルミニウム含有層1と熱膨張性黒鉛含有層2が隣接し、互いに接着されている点は第1実施形態と同様である。本実施形態では、積層シート20は、さらに、別の亜リン酸アルミニウム含有層3を有しており、熱膨張性黒鉛含有層2が亜リン酸アルミニウム含有層1,3の間にサンドイッチされている。
【0073】
第2実施形態の積層シート20の各層は、第1実施形態の積層シート10の各層と同様の構成とすることができる。それぞれの亜リン酸アルミニウム含有層1,3は、通常、同一の構成とすることが好ましいが、必要に応じて厚さや組成を異なる構成としてもよい。積層シート20の厚さは、特に限定されるものではないが、3.0mm以下とすることが好ましく、2.0mm以下とすることがより好ましく、1.5mm以下とすることがより好ましい。耐火性の要求水準や用途によっては、0.5mm以下の積層フィルム状としてもよい。
【0074】
第2実施形態の積層シート20は、第1実施形態の積層シート10の熱膨張性黒鉛含有層2側に更に亜リン酸アルミニウム含有層3を積層することで製造することができる。また、共押出成形等により、3層を一体として形成することもできる。
【0075】
本実施形態の積層シート20は、上記のような構成により、シートのいずれの面でも高い火炎遮蔽性と絶縁性を発揮することができるため、シートのいずれの面側でも電池隔離構造を形成することが可能である。従って、積層シート20は、特に、電池同士の間を隔離する用途に好適であり、いずれの側の電池が異常発火したとしても、優れた火炎遮蔽性と絶縁性を発揮できる。以下、具体的な使用例を示して説明する。
【0076】
図5には、図3に示した電池ユニットにおいて、第1実施形態の積層シート10に代えて第2実施形態の積層シート20を用い、さらに異なる形態の電池隔離構造に使用した例を示している。本使用例の積層シート21は両面に亜リン酸アルミニウム含有層1を有しており、各電池41,41の間を折り返すように波型状に配置されることで、各電池41,41の間を隔離している。このような電池隔離構造であれば、電池41が発火した際に、電池間の類焼を抑制することができる。
【0077】
図6には、図4に示す実施形態の積層シート20を電池42,42間の隔離構造として用いた例を示す。図6の例において、積層シート22は、全体が凹凸状に折れ曲がった積層シート22に形成されている。本実施形態の凹凸状積層シート22は、この凹凸状の隙間構造により、電池42の間に冷却風を流すことができるため、いわゆるセパレータとして冷却機構を有する電池ユニットに好適に用いられうる。
【0078】
上記各実施形態では、いずれも亜リン酸アルミニウム含有層と熱膨張性黒鉛含有層によって積層シートが構成される例を示したが、本発明の耐火積層体はこれに限定されない。例えば、亜リン酸アルミニウム含有層と熱膨張性黒鉛含有層の他、これら以外の任意層も含んだ多積層シートも本発明に含まれる。任意層としては、耐熱樹脂層や接着層等が挙げられる。
【0079】
また、本発明の耐火積層体はシートの形態に限定されず、例えば、基材上の被覆層の形態であってもよい。この場合、耐火性を付与したい基材に対して、樹脂組成物の塗工によって、その表面に亜リン酸アルミニウム含有層や熱膨張性黒鉛含有層を順次形成することで、被覆層として耐火積層体を作製することができる。この方法によって、電池ケースの内周面に直接耐火積層体を一体成形することで、耐火性を備えた電池ケースとしてもよく、電池外周面に直接耐火積層体を形成することで、周囲への類焼防止機能を備えた電池としてもよい。また、耐火性を付与したい基材がフィルム状やシート状である場合、当該基材を1つの層として含む積層体として、本発明の耐火積層体を構成してもよい。このように、任意の基材に対して亜リン酸アルミニウム含有層と熱膨張性黒鉛含有層が積層された形態も本発明に含まれる。
【0080】
その他、図6のセパレータの例のように電池ホルダーの構成部材そのものを亜リン酸アルミニウム含有層と熱膨張性黒鉛含有層のみで形成し、耐火積層部材としてもよい。この場合、電池ホルダーの構成部材そのものが電池隔離構造として耐火性を有するので、電池ホルダー構成が簡素化される。図6のセパレータの例のように、やや複雑な形状に本発明の耐火積層体を形成したい場合、射出成形や樹脂組成物の塗工を用いて各層を形成することが好ましい。
【0081】
また、本発明は、上記各実施形態で示した絶縁性熱発泡層と熱膨張層とを含む耐火積層体に限定されず、本発明の作用効果を発揮しうる限り、絶縁性熱発泡層と熱膨張層とが配置された耐火構造であればよく、それぞれの層は積層一体化されたものでなくてもよい。すなわち、本発明はこのような耐火構造であって、発火源と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並ぶように配置された発火源の隔離構造を含む。例えば、発火源が電池である場合は、本発明は電池と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並ぶように配置された電池隔離構造として構成され、発火源が電線である場合は、本発明は電線と絶縁性熱発泡層と熱膨張層とがこの順に並ぶように配置された電線隔離構造として構成される。
【0082】
絶縁性熱発泡層と熱膨張層の形態は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。例えば、それぞれの層は独立したシート、フィルム、板又は壁であってもよく、別途の基材に一体化された塗膜であってもよい。また、上述した各実施形態のように、それぞれの層は互いに一体化されたものであってもよい。
【0083】
発火源と絶縁性熱発泡層と熱膨張層のそれぞれの配置の形態は特に限定されないが、熱膨張層の熱膨張作用を迅速に発揮させる観点からは、発火源からの熱が伝わりやすいよう、発火源と熱膨張層との距離が近接していることが好ましい。また、同様な観点から、発火源と絶縁性熱発泡層と熱膨張層のそれぞれの間には、空気層などの断熱性の層や膜を含まないことが好ましく、それぞれの要素は密着していることがより好ましい。また、上述した各実施形態における積層体としての絶縁性熱発泡層と熱膨張層のそれぞれの組成や構造は、他の形態における絶縁性熱発泡層や熱膨張層にそのまま採用することができる。
【実施例
【0084】
以下に示す層構成を有する各積層シートについて、後述の耐熱実験に基づいて耐火断熱性能の評価を行った。
【0085】
(実施例1)
以下の層構成を有する積層シートを作製した。
第1層:塩化ビニル樹脂40重量部と亜リン酸アルミニウム60重量部を含有する亜リン酸アルミニウム含有層/厚さ0.75mm
第2層:塩化ビニル樹脂50重量部と熱膨張性黒鉛50重量部を含有する熱膨張性黒鉛含有層/厚さ0.75mm
【0086】
本層構成の積層シートの作製手順を以下に示す。
まず、以下の原材料をもとに、亜リン酸アルミニウム含有樹脂組成物と熱膨張性黒鉛含有樹脂組成物をそれぞれ作製した。
塩化ビニル樹脂: カネカ社製 プリクトマーGX
亜リン酸アルミニウム: 太平化学産業社製 APA100
熱膨張性黒鉛: エア・ウォーター社製 TEG SS-3
なお、成形用の添加剤として、熱安定化剤としてESO(エポキシ化大豆油)、安定剤としてバリウム/亜鉛系安定剤、ポリエステル系加工助剤を用いた。
樹脂組成物の作製には二軸式混練機を用い、各成分を溶融混練して、上記それぞれの樹脂組成物とした。溶融混練の際、混練温度は150℃以下に制御した。
【0087】
得られたそれぞれの樹脂組成物を成形原料として、Tダイを備えた押出成形機によって幅1mかつ所定厚みのシート状に成形した。得られた白色の亜リン酸アルミニウム含有樹脂シートと黒色の熱膨張性黒鉛含有樹脂シートを熱溶着により接着し、上記積層シートを得た。
【0088】
(比較例1)
以下の単層シートを作製した。
塩化ビニル樹脂40重量部と亜リン酸アルミニウム60重量部とからなるシート/厚さ1.5mm。
単層シートは、厚みを変更した以外は、実施例1にかかる亜リン酸アルミニウム含有樹脂シートと同様にして作製した。
【0089】
(耐熱実験)
上記実施例、比較例にて作製した各シートを3cm×10cmにカットし、市販の厚さ2mmの透明ポリカーボネート板(融点約200℃)に熱膨張性黒鉛含有層側を対向させて接地し、試験用サンプルとした。
それぞれの試験用サンプルの積層シート側の表面へ、表面温度800℃に熱せられた接触式棒状ヒーター(カートリッジヒーター)を押し付ける熱源接触試験を行い、ポリカーボネート板側への影響を目視にて評価した。
【0090】
実施例1サンプルでは、ポリカーボネート板側への影響は特に確認できなかった。積層シートの熱源接触表面には灰黒色で硬質の焼結体が形成されると共に、背面には黒色の膨張体が形成されていた。焼結体には、ひび割れや脱落は確認できなかった。膨張体は焼結体よりも大きく膨張しており、焼結体と共に膨張体によってポリカーボネート板への伝熱が遮蔽されたものと考えられる。
【0091】
一方、比較例1サンプルでは、ポリカーボネート板の熱源接触側表面が溶融し、陥没していた。単層シートの熱源接触表面には灰黒色で硬質の焼結体が形成されていたが、背面は変色したのみであった。このことから、比較例1サンプルでは断熱が不充分であり、ポリカーボネート板が融点以上に加熱されたものと推測される。さらに、焼結体の一部に押圧力によるひび割れが生じており、部分的な脱落も観察された。このため、焼結体の一部では火炎や熱の遮蔽ができなくなるおそれも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の耐火積層体は、種々の発火源を隔離するための防火用途に使用でき、特に、耐火性と共に絶縁性が求められる電池ユニット等における防火用途として産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0093】
10,11,20,21 積層シート
1 亜リン酸アルミニウム含有層
2 熱膨張性黒鉛含有層
3 亜リン酸アルミニウム含有層
31 カバー部
32 ケース部
40 電池集合体
41,42 電池
51,52 ケース部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6