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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱建具
(51)【国際特許分類】
   F24D 11/00 20220101AFI20220105BHJP
   F24H 15/00 20220101ALI20220105BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20220105BHJP
   E04C 2/30 20060101ALI20220105BHJP
   E04C 2/36 20060101ALI20220105BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F24D11/00 Z
F24H7/02 603Z
F24F5/00 102C
E04C2/30 Z
E04C2/36 G
E06B5/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017248820
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019113285
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓樹
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006370(JP,A)
【文献】特開2002-130739(JP,A)
【文献】特開2013-023977(JP,A)
【文献】特開2014-016060(JP,A)
【文献】特開2006-183970(JP,A)
【文献】特開2017-048943(JP,A)
【文献】特開2005-048990(JP,A)
【文献】特開2010-156170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24D 11/00
F24H 7/02
F24F 5/00
E04C 2/30
E04C 2/36
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の成分を有した潜熱蓄熱材を封入する複数のセルと、
ユーザによる操作が可能な操作手段と、
前記操作手段に対して操作が行われた場合に前記潜熱蓄熱材の前記2以上の成分のうち特定の成分を偏在させる偏在手段と、を備え、
前記潜熱蓄熱材は、磁性を有して分散する第1成分と磁性を有さず分散する第2成分とを有し、
前記偏在手段は、磁性素材であって、
前記操作手段は、ユーザによる操作により、前記潜熱蓄熱材に対して前記磁性素材を近づけて前記第1成分を偏在させた状態と離間させて前記第1成分を前記潜熱蓄熱材内において分散させた状態とで切り替えることで、前記潜熱蓄熱材の相変化温度を変化させる
ことを特徴とする潜熱蓄熱建具。
【請求項2】
前記操作手段は、ユーザによる操作に応じて動作するコード部材を有し、
前記磁性素材は、前記コード部材に連結され、前記コード部材の動作に応じて前記潜熱蓄熱材に近づいた状態と離間した状態とで切り替えられる
ことを特徴とする請求項1に記載の潜熱蓄熱建具。
【請求項3】
前記複数のセルを有したセル配列板材を備え、
前記操作手段は、前記セル配列板材を上下方向に少なくとも半回転させるものであり、
前記磁性素材は、前記セル配列板材が前記上下方向に半回転させられる前において前記潜熱蓄熱材から離間した状態となり、前記セル配列板材が前記上下方向に半回転させられる後において前記潜熱蓄熱材に対して近づいた状態となる
ことを特徴とする請求項1に記載の潜熱蓄熱建具。
【請求項4】
2以上の成分を有した潜熱蓄熱材を封入する複数のセルと、
ユーザによる操作が可能な操作手段と、
前記操作手段に対して操作が行われた場合に前記潜熱蓄熱材の前記2以上の成分のうち特定の成分を偏在させる偏在手段と、を備え、
前記潜熱蓄熱材は、磁性を有して分散する第1成分と磁性を有さず分散する第2成分とを有し、
前記偏在手段は、前記潜熱蓄熱材に対して近接又は接触配置される電磁石であって、
前記操作手段は、ユーザによる操作により、前記電磁石に対して通電して前記第1成分を偏在させた状態と通電を遮断して前記第1成分を前記潜熱蓄熱材内において分散させた状態とで切り替えることで、前記潜熱蓄熱材の相変化温度を変化させる
ことを特徴とする潜熱蓄熱建具。
【請求項5】
磁性を有して分散する第1成分と磁性を有さず分散する第2成分とを有した潜熱蓄熱材と、
前記潜熱蓄熱材に対して磁力を作用させる状態と磁力を略作用させない状態とで切替可能な磁性素材と、を備え、
前記第1成分は、前記磁性素材が前記潜熱蓄熱材に対して磁力を作用させた状態において前記磁性素材側に吸着され、前記磁性素材が前記潜熱蓄熱材に対して磁力を略作用させない状態において前記潜熱蓄熱材内で分散することで、前記潜熱蓄熱材の相変化温度を変化させる
ことを特徴とする潜熱蓄熱建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化温度を調整可能な潜熱蓄熱材を有した潜熱蓄熱建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の天井裏、床材、壁材、及び室内調度類に潜熱蓄熱材を備え、室内空気の温度調整に供する技術は多く提案されている。中緯度地域では、夏季には冷房が必要となり、冬季には暖房が必要となる。室内空間の温度調整の目標となる温度レベルは暖房においても冷房においてもほぼ一定で、18℃~26℃程度、より好ましくは20℃~24℃程度である。蓄熱材からの放熱・吸熱によりこのような温度帯に室内空気を調整するには室内空気と蓄熱材との間にある程度の温度差が必要であり、冷房に使用する場合の理想的な蓄熱温度は20℃~24℃より低く、暖房に使用する蓄熱温度は20℃~24℃より高いことが理想的である。
【0003】
しかし、このような温度帯に相変化温度を有する潜熱蓄熱材を用いた場合、空調対象となる室内空気の温度が快適域にある程度近づくと急激に効きが悪くなる課題を抱えている。そこで、暖房用途を意図して26℃程度かそれ以上の相変化温度を持つ潜熱蓄熱材と、冷房用途を意図して18℃程度かそれ以下の相変化温度を持つ潜熱蓄熱材とを備え、これらを季節に応じて空調利用する冷暖房装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-174656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の冷暖房装置においては、冷房用の潜熱蓄熱材と暖房用の潜熱蓄熱材とを備えるため、総重量や体積が大きくなり過ぎてしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、冷房用の潜熱蓄熱材と暖房用の潜熱蓄熱材とを備える必要がなく、相変化温度を自己調整することができる潜熱蓄熱建具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る潜熱蓄熱建具は、複数のセルと、操作手段と、偏在手段とを備えている。複数のセルは、2以上の成分を有した潜熱蓄熱材を封入したものである。操作手段はユーザによる操作が可能なものである。偏在手段は、操作手段に対して操作が行われた場合に潜熱蓄熱材の2以上の成分のうち特定の成分を偏在させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ユーザによる操作に応じて特定の成分を偏在させるため、偏在させた場合には、偏在箇所を除く他の部分において特定の成分比率を下げることができ、潜熱蓄熱材の相変化温度を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る潜熱蓄熱建具を示す構成図であり、(a)は全体構成図であり、(b)は一部構成図である。
図2】第1実施形態に係る潜熱蓄熱窓の作用を示す要部構成図であり、(a)は磁石が潜熱蓄熱材に近づいた状態を示し、(b)は磁石が潜熱蓄熱材から離間した状態を示している。
図3】第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す構成図である。
図4】第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す斜視図であって、回転機構を示すものである。
図5】第2実施形態に係る複数のセルの1つを示す第1の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図6】第2実施形態に係る複数のセルの1つを示す第2の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図7】第3実施形態に係る複数のセルの1つを示す第1の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図8】第3実施形態に係る複数のセルの1つを示す第2の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図9】第4実施形態に係る複数のセルの1つを示す第1の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図10】第4実施形態に係る複数のセルの1つを示す第2の拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。
図11】第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す断面図である。
図12図11に示したスロープの詳細を示す斜視図である。
図13】第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す斜視図であって、回転機構を示すものである。
図14】第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す構成図である。
図15】変形例に係る潜熱蓄熱窓を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る潜熱蓄熱建具を示す構成図であり、(a)は全体構成図であり、(b)は一部構成図である。なお、以下では、窓(開閉の可否を問わない)として適用可能な潜熱蓄熱窓を潜熱蓄熱建具の一例として説明するが、潜熱蓄熱建具は潜熱蓄熱窓に適用されるものに限らず、窓として機能しない外壁材等であってもよい。さらには、天井や床下等に用いられてもよい。
【0012】
図1(a)に示す例に係る潜熱蓄熱窓1は、概略的に2枚の板材10と、周端部材20と、セル配列板材30と、動作機構(操作手段)40と、磁石筒50とを備えている。
【0013】
2枚の板材10は、互いに略平行配置される透明性の板材である。これらの板材10は例えばガラス材によって構成されている。周端部材20は、2枚の板材10の周端部において2枚の板材10の間に介在するものである。2枚の板材10の周端部に周端部材20が設けられることによって、2枚の板材10と周端部材20とによって閉じられた内部空間が形成される。
【0014】
セル配列板材30は、2枚の板材10と周端部材20とによって形成される内部空間に設けられるものである。このセル配列板材30は、複数のセルSとなる複数の空隙部分が上下方向に配列された板材である。各セルS内には透明性の潜熱蓄熱材PCMが封入されている。
【0015】
潜熱蓄熱材PCMは、2以上の成分を有しており、例えば潜熱蓄熱材PCMは、NaSO10HOと、凝固点降下剤との2つの成分を有したものから構成されている。本実施形態において凝固点降下剤は、磁性を有して分散する成分であり、例えば特開2007-131608号公報に記載の、アニオンとしてテトラクロロジスプロサートを持つ水溶性の磁性イオン液体、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロジスプロサートが挙げられる。このような水溶性のイオン液体は水中では電離したイオンとして分散しながらもアニオン(DyCl )、カチオン(BMIM)が互いに近傍にある状態を保つと考えられるが、便宜上、以下では磁性を持つDyCl について記述する。
【0016】
また、本実施形態においてセル配列板材30は、セルSが上下方向に一列に配置される目の字断面材であるが、これに限らず、セルとなる空隙部分がハニカム状に上下左右に配列されたハニカム断面材が採用されてもよい。すなわち、セル配列板材30は、潜熱蓄熱材を保持できれば、上記に限られるものではない。
【0017】
動作機構40は、磁石筒50を動作させるものであって、図1(a)及び(b)に示すように、上プーリ41と、下プーリ42と、ラダーコード(コード部材)43と、内部磁石44と、外部磁石45とを備えている。上プーリ41及び下プーリ42は、それぞれ潜熱蓄熱窓1の上部側と下部側とに設けられた滑車部材である。ラダーコード43は、上プーリ41及び下プーリ42に対して巻き回された無端状の紐部材である。このラダーコード43は、磁石筒50の両側(第1板材10a側及び第2板材10b側の双方)に接続されて、間接的に後述の磁石Mに連結された状態となっている。
【0018】
内部磁石44は、2枚の板材10と周端部材20とによって形成される内部空間に配置される磁石部材であって、ラダーコード43に接続されている。外部磁石45は、一方の板材10a(図1(b)においては一部のみを図示)を介して内部磁石44を引き合っている。内部磁石44及び外部磁石45は例えばネオジム磁石等の強力磁石で構成されている。
【0019】
磁石筒50は、内壁に磁石Mが取り付けられた筒体である。この磁石筒50は、図1(a)に示すように、セルS内の上部側に配置されている。さらに、セルSは、その上部が気相となっている。このため、潜熱蓄熱材PCMが液相状態である場合に、磁石筒50の下半分は潜熱蓄熱材PCMに漬かっており上半分は潜熱蓄熱材PCMに漬かっていない状態となっている。
【0020】
このような潜熱蓄熱窓1において、ユーザが外部磁石45を上方に移動させると、外部磁石45と引き合う内部磁石44も上方移動する。内部磁石44はラダーコード43に接続されていることから、ラダーコード43は上プーリ41及び下プーリ42に沿って回動し、磁石筒50を横ブラインド方式で回転させることとなる。これにより、磁石筒50内の磁石Mを潜熱蓄熱材PCMに漬けたり(近づけたり)、漬けないようにしたり(離間させたり)することができる。
【0021】
次に、第1実施形態に係る潜熱蓄熱窓1の作用を説明する。図2は、第1実施形態に係る潜熱蓄熱窓1の作用を示す要部構成図であり、(a)は磁石Mが潜熱蓄熱材PCMに近づいた状態を示し、(b)は磁石Mが潜熱蓄熱材PCMから離間した状態を示している。
【0022】
まず、図2(a)に示すように、動作機構40の外部磁石45(図1参照)が操作されて磁石筒50の磁石Mが潜熱蓄熱材PCMの液面LSよりも下方に位置したとする。この場合、磁石Mは潜熱蓄熱材PCMに近接して、その磁力が潜熱蓄熱材PCM内の磁性を有した成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )に作用する。このため、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は磁石M側に偏在した状態となり、潜熱蓄熱材PCMにおける磁石Mの近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低下する。この結果、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点(相変化温度)を例えば26℃程度の高めにすることができ、潜熱蓄熱窓1を冬季用のものとして機能させることができる。
【0023】
また、図2(b)に示すように、動作機構40の外部磁石45(図1参照)が操作されて磁石筒50の磁石Mが潜熱蓄熱材PCMの液面LSよりも上方に位置したとする。この場合、磁石Mは潜熱蓄熱材PCMから離間して、その磁力が四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )に作用し難くなる。このため、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は潜熱蓄熱材PCM内で分散した状態となる。これにより、凝固点降下剤を通常通り作用させ、潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、潜熱蓄熱窓1を夏季用のものとして機能させることができる。
【0024】
このようにして、第1実施形態に係る潜熱蓄熱窓1によれば、ユーザによる操作に応じて特定の成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )等を偏在させるため、偏在させた場合には、偏在箇所を除く他の部分において特定の成分比率を下げることができ、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0025】
また、磁石Mを有し、潜熱蓄熱材PCMは磁性を有して分散する四塩化ジスプロシウム等の成分を有し、ユーザによる操作により、潜熱蓄熱材PCMに対して磁石Mを近づけた状態と離間させた状態とで切替可能とされている。このため、磁石Mを近づけて磁力を作用させた状態においては磁性を有した成分を磁石Mに吸着させることとなり、磁石Mの近傍を除く部分における潜熱蓄熱材PCMの成分比率を調整できることとなる。よって、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0026】
また、ユーザによる操作に応じて動作するラダーコード43を有し、磁石Mはラダーコード43の動作に応じて潜熱蓄熱材PCMに近づいた状態と離間した状態とで切り替えられるため、ラダーコード43という狭い隙間にも配索可能な部材を利用して潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0027】
なお、第1実施形態において潜熱蓄熱材PCMは、磁性を有して分散する成分を凝固点降下剤として有するものでなくともよく、当該成分を潜熱蓄熱材の1成分として有していてもよい。さらに、潜熱蓄熱材PCMは、2つの成分に限らず、3つ以上の成分から構成されていてもよい。
【0028】
次に本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓は以下の構成となっている。以下、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付すものとする。
【0029】
図3は、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2を示す構成図である。図3に示すように、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2は、2枚の板材10と、周端部材20と、セル配列板材30とを備えている。これらは第1実施形態のものと同様である。
【0030】
なお、第2実施形態において複数のセルS内の潜熱蓄熱材PCMは、磁性を有して分散する成分を有していなくともよい。
【0031】
図4は、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2を示す斜視図であって、回転機構を示すものである。なお、以下の説明において、潜熱蓄熱窓2のうち回転機構(操作手段)60を除く構成(2枚の板材10、周端部材20、及びセル配列板材30)を積層体Lと称する。
【0032】
図4に示すように、潜熱蓄熱窓2は、積層体Lの室外側にジャロジー窓とも呼ばれる透明ルーバーTL1を備えている。また、潜熱蓄熱窓2は、積層体Lの室内側に室内ルーバーTL2を備えている。さらに、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2は回転機構60を備えている。回転機構60は、ユーザによる操作(回転操作)が可能なものであって、ピボット61と、窓枠62と、不図示のロック手段とを備えており、積層体LがルーバーTL1,TL2に接触することなく半回転可能となっている。
【0033】
具体的に説明すると、ピボット61は積層体Lの上下いずれか一方の端部LT2に設けられた回転軸部材である。このようなピボット61は、積層体Lの左右辺にそれぞれ設けられている。窓枠62は、積層体Lが嵌め込まれるものであり、窓枠62に嵌め込まれた積層体Lは不図示のロック手段によって嵌め込まれた状態を維持するロック状態とされる。また、ピボット61は窓枠62の左右部材62aに対してスライド可能となっている。なお、室内ルーバーTL2は、室内方向に開閉動作可能となっている。
【0034】
このような構成であるため、以下のようにして回転動作を行うことができる。まず、窓枠62の下端にピボット61が位置しているものとする。この状態から室内ルーバーTL2が開かれる。次に、ロック手段が解除され、積層体Lのうちピボット61が設けられていない側の端部LT1が室内側に引き出される。次いで、積層体Lのピボット61側の端部LT2が、窓枠62に対して上方向にスライドさせられる。その後、積層体Lの端部LT2が窓枠62の上端に達すると、積層体Lが窓枠62に嵌め込まれ、ロック手段によりロックされる。最後に室内ルーバーTL2が閉じられる。
【0035】
図5及び図6は、第2実施形態に係る複数のセルSの1つを示す拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。図5(a)に示すように、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2は、セルSの内部に膜部材(偏在手段)S1を備えている。膜部材S1は、特定イオンと他のイオンとの透過速度を異ならせるイオン交換膜(偏在手段、膜部材)IEM1である。また、図6(a)に示すように、膜部材S1は、イオンと水分との透過速度を異ならせる半透膜(偏在手段、膜部材)SPM1から構成されていてもよい。
【0036】
ここで、膜部材S1は、セルS内において高さ方向に隔たった位置に設けられている。より詳細に膜部材S1は、セルSの上面US(又は下面BS)に近い位置に設けられ、セルS内を小空間SSと主空間MSとに仕切っている。なお、図5(b)及び図6(b)に示すように、膜部材S1は、積層体Lが回転機構60によって上下方向に半回転させられても、潜熱蓄熱材PCMが液相状態であるときには漬かったままである位置に設けられている。
【0037】
次に、図5を参照して、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図5に示す例において潜熱蓄熱材PCMは、NaSOとNaClと水との3つの成分を有したものであって、詳しくはNaSO・10HOに凝固点降下剤であるNaClが添加された共晶型・共融型の蓄熱材である。
【0038】
まず、冬季においてセルSは図5(a)に示す向きとなっている。すなわち、イオン交換膜IEM1が下側に位置した状態となっている。ここで、イオン交換膜IEM1は例えば1価イオン選択透過性陰イオン交換膜である。このため、塩素イオン及び水はイオン交換膜IEM1を透過可能であり、小空間SSには塩素イオン及び水が位置することとなる。よって、主空間MSに硫酸ナトリウム(特定の成分)を偏在させ、主空間MSにおいては潜熱蓄熱材PCMに対して相対的に凝固点降下剤の濃度が低くなる。ここで、共晶型・共融型と呼ばれる蓄熱材において、凝固点降下度は蓄熱材(共晶・共融の第1成分)に対する凝固点降下剤(共晶・共融の第2成分)の濃度に影響されることから、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば26℃程度の高めにすることができ、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0039】
一方、夏季には例えば図4に示すような回転機構60を利用して積層体Lの左右位置を維持したまま積層体Lを上下方向に半回転させる。この場合には、図5(b)に示すようになる。すなわち、小空間SSの多くが気相GPとなる。また、図5(a)において小空間SSに存在した塩素イオン及び水の多くが主空間MSに移行する。この結果、主空間MSにおける凝固点降下剤の濃度が潜熱蓄熱材PCMに対して相対的に高くなる。ここで、共晶型・共融型と呼ばれる蓄熱材において、凝固点降下度は蓄熱材に対する凝固点降下剤の濃度に影響されることから、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、室内を冷房する調温効果をもたらす夏季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0040】
更に、図6を参照して、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図6に示す例において潜熱蓄熱材PCMは、NaSO・10HOと過剰水との2つの成分を有したものであって、詳しくはNaSO・10HO水溶液(溶解析出型の蓄熱材)である。なお、これに加えて、凝固点降下剤であるNaClが添加されていてもよい。
【0041】
まず、冬季においてセルSは図6(a)に示す向きとなっている。すなわち、半透膜SPM1が下側に位置した状態となっている。ここで、半透膜SPM1はイオンの透過速度が非常に遅いことから、小空間SSには水が位置することとなり、主空間MSにおいて硫酸ナトリウムを偏在させてその濃度を高くすることとなる。ここで、溶解析出型の蓄熱材は対水濃度が高くなることにより凝固点が上昇することから、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば26℃程度の高めにすることができ、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0042】
一方、夏季には図4に示すような回転機構60を利用して積層体Lの左右位置を維持したまま積層体Lを上下方向に半回転させる。この場合には、図6(b)に示すようになる。すなわち、小空間SSの多くが気相GPとなる。また、図6(a)において小空間SSに存在した水の多くが主空間MSに移行する。この結果、主空間MSにおける水分量が上昇して硫酸ナトリウムの濃度が低くなる。ここで、溶解析出型の蓄熱材は対水濃度が低くなることにより凝固点が低下することから、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、室内を冷房する調温効果をもたらす夏季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0043】
このようにして、第2実施形態に係る潜熱蓄熱窓2によれば、第1実施形態と同様に、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0044】
また、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させる際に回転操作を伴うこととなり、潜熱蓄熱材PCMの長期使用により沈殿物が発生して蓄熱能力の低下が生じたとしても、回転操作によって沈殿物を砕くことができ、蓄熱容量の回復を図ることができる。
【0045】
さらに、第2実施形態によれば、複数のセルS内において、その高さ方向に偏った位置で設けられて内部を小空間SSと主空間MSとに隔てる膜部材S1を備えるため、上下回転させることにより、膜部材S1の上下における凝固点降下剤や潜熱蓄熱材PCMの濃度を変化させて潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0046】
次に本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る潜熱蓄熱窓は以下の構成となっている。以下、第3実施形態の説明において、第2実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付すものとする。
【0047】
図7及び図8は、第3実施形態に係る複数のセルSの1つを示す拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。図7(a)に示すように、セルSには、その内部に更に第2膜部材(偏在手段)S2が設けられている。第2膜部材S2は、膜部材S1と同じものであって、図7に示す例においては第2イオン交換膜(偏在手段、第2膜部材)IEM2であり、図8に示す例においては第2半透膜(偏在手段、第2膜部材)SPM2である。
【0048】
また、第2膜部材S2は、膜部材S1によって形成される小空間SSと高さ方向に略対称となった第2小空間SS2を形成するものである。すなわち、小空間SSがセルSの下面BSに近い位置に設けられている場合、第2膜部材S2は、セルSの上面USに近い位置に設けられると共に、小空間SSの容積と第2小空間SS2の容積とは略同じとされる。よって、第2膜部材S2は膜部材S1と同様に、積層体Lが回転機構60によって上下方向に半回転させられても、潜熱蓄熱材PCMが液相状態であるときには漬かったままである。
【0049】
次に、図7を参照して、第3実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図7に示す例において潜熱蓄熱材PCMは、NaSOとNaClと水との3つの成分を有したものであって、詳しくはNaSO・10HOに凝固点降下剤であるNaClが添加された共晶型・共融型の蓄熱材である。また、図7に示す例において、膜部材S1及び第2膜部材S2は、特定イオンと他のイオンとの透過速度を異ならせるイオン交換膜IEM1,IEM2(1価イオン選択透過性陰イオン交換膜)である。
【0050】
まず、図7(a)に示すように、イオン交換膜IEM1が第2イオン交換膜IEM2よりも下方に位置しているとする。この場合において、塩素イオンは主空間MS及び小空間SSに存在すると共に、硫酸イオンは主空間MSのみに存在するはずである。しかし、図7(a)に示す状態で長期間放置されると、硫酸イオンについてもイオン交換膜IEM1を透過して小空間SSに移動してしまう。このため、主空間MSと小空間SSとはほぼ同じ組成となってしまう。
【0051】
そこで、回転機構60を利用して上下方向に半回転させると、図7(b)に示すようになる。この場合、塩素イオンと水とはイオン交換膜IEM1を透過して主空間MSに移動する。一方、硫酸イオンは原則的にイオン交換膜IEM1を透過し難いはずであるが、小空間SSの水溶液体積が激減することから、小空間SSにおける硫酸イオンの濃度が突出して上昇することとなり、相応の速度で硫酸イオンも主空間MSに流出する。
【0052】
さらに、主空間MSからは、第2小空間SS2に対して水と塩素イオンとが流出する。また、主空間MSの硫酸イオンについては、主空間MSと第2小空間SS2との硫酸イオンの濃度差が極端でないことから、第2イオン交換膜IEM2をほぼ透過しない。この結果、主空間MSにおいて硫酸ナトリウムが偏在状態となり、主空間MSにおける凝固点降下剤の濃度が潜熱蓄熱材PCMに対して相対的に高くなる。
【0053】
ここで、共晶型・共融型と呼ばれる蓄熱材では、凝固点降下度は蓄熱材に対する凝固点降下剤の濃度に影響されることから、図7(b)に示す状態は、図5(a)に示す状態と同様に、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0054】
次に、図8を参照して、第3実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図8に示す例において潜熱蓄熱材PCMは、NaSOとNaClと水との3つの成分を有したものであって、詳しくはNaSO・10HOに凝固点降下剤であるNaClが添加された(溶解析出型の蓄熱材)ものとする。
【0055】
まず、図8(a)に示すように、半透膜SPM1が第2半透膜SPM2よりも下方に位置しているとする。この場合において、水が小空間SSに存在すると共に、塩素イオン及び硫酸イオンが主空間MSのみに存在するはずである。しかし、図8(a)に示す状態で長期間放置されると、塩素イオン及び硫酸イオンについても半透膜SPM1を透過して小空間SSに移動してしまう。このため、主空間MSと小空間SSとはほぼ同じ組成となってしまう。
【0056】
そこで、回転機構60を利用して上下方向に半回転させると、図8(b)に示すようになる。この場合、水は半透膜SPM1を透過して主空間MSに移動する。一方、塩素イオンと硫酸イオンとは原則的に半透膜SPM1を透過し難いはずであるが、小空間SSの水溶液体積が激減することから、小空間SSにおける塩素イオンと硫酸イオンとの濃度が突出して上昇することとなり、相応の速度で塩素イオンと硫酸イオンとが主空間MSに流出する。
【0057】
さらに、主空間MSからは、第2小空間SS2に対して水が流出する。また、主空間MSにおける塩素イオンと硫酸イオンとについては、主空間MSと第2小空間SS2との塩素イオンの濃度差及び硫酸イオンの濃度差が極端でないことから、第2半透膜SPM2をほぼ透過しない。結果として主空間MSには、硫酸ナトリウムを偏在させることとなる。
【0058】
ここで、溶解析出型の蓄熱材は対水濃度が高くなることにより凝固点が上昇することから、図8(b)に示す状態は、図6(a)に示す状態と同様に、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0059】
このようにして、第3実施形態に係る潜熱蓄熱窓2によれば、第2実施形態と同様に、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。また、回転操作によって沈殿物を砕くことができ、蓄熱容量の回復を図ることができる。さらに、膜部材S1の上下における凝固点降下剤や潜熱蓄熱材PCMの濃度を変化させて潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0060】
加えて、第3実施形態によれば、小空間SSと高さ方向に略対称となった第2小空間SS2を形成する第2膜部材S2をさらに備え、第2膜部材S2は膜部材S1と同じものによって構成されているため、例えば長期間の放置によってセルS内が膜部材S1を隔てて同じような成分になってしまった場合においても、上下回転することにより、第2膜部材S2の上下における凝固点降下剤や潜熱蓄熱材の濃度を変化させて潜熱蓄熱材の融点及び凝固点を変化させることができる。
【0061】
次に本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係る潜熱蓄熱窓は以下の構成となっている。以下、第4実施形態の説明において、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付すものとする。
【0062】
図9及び図10は、第4実施形態に係る複数のセルSの1つを示す拡大図であり、(a)は非回転状態を示し、(b)は回転状態を示している。図9(a)に示すように、セルSには、その内部に磁石(偏在手段、磁性素材)Mが設けられている。磁石Mは磁石カバーMC内に収納されている。磁石カバーMCは、セルS内において高さ方向に偏った位置(図9においては上面US)に設けられており、図9(a)に示す非回転状態においては気相GPに位置するようになっている。一方、図9(b)に示す回転状態において磁石カバーMC(磁石M)は液相LPに漬かった状態となる。
【0063】
また、図10(a)に示すようにセルSは内部に気相GPを有していなくともよい。この例において磁石Mは磁石ケースMBに収納されている。磁石ケースMBは、内部が空洞となり内部への潜熱蓄熱材PCMの浸入を防止するものである。磁石ケースMBは下面BSに取り付けられている。磁石Mは、図10(a)に示す非回転状態において磁石ケースMBのうち下面BS側に位置することとなり、図10(b)に示す回転状態において磁石ケースMBのうち上面US側に位置することとなる。なお、磁石ケースMBは上面USに取り付けられていてもよい。
【0064】
さらに、第4実施形態において潜熱蓄熱材PCMは、磁性を有して分散する成分を凝固点降下剤として有している。このような凝固点降下剤は、第1実施形態において説明したものと同様である。以下では第1実施形態と同様に磁性を持つDyCl について記述する。
【0065】
図9を参照して、第4実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図9に示す例において潜熱蓄熱材PCMは、NaSO・10HOに凝固点降下剤である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )が添加された磁性型の蓄熱材であるとする。
【0066】
まず、夏季においてセルSは図9(a)に示す向きとなっている。すなわち、磁石Mが気相GPに位置した状態となっている。ここで、磁石Mは気相GPに位置することから、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は、液相LP内で分散した状態にある。これにより、凝固点降下剤を適切に作用させ、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、室内を冷房する調温効果をもたらす夏季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0067】
一方、冬季には例えば図4に示すような回転機構60を利用して積層体Lの左右位置を維持したまま積層体Lを上下方向に半回転させる。この場合には、図9(b)に示すようになる。すなわち、磁石Mは液相LPに位置することから、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は磁石Mに引きつけられて磁石M付近に集中した状態となる。この結果、磁石M付近を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低くなる。よって、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば26℃程度の高めにすることができ、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0068】
更に、図10を参照して、第4実施形態に係る潜熱蓄熱窓2の作用を説明する。なお、図10に示す例においても潜熱蓄熱材PCMは、NaSO・10HOに凝固点降下剤であるDyCl が添加された磁性型の蓄熱材であるとする。
【0069】
まず、夏季においてセルSは図10(a)に示す向きとなっている。すなわち、磁石ケースMBがセルS内において下側に位置すると共に、磁石Mは磁石ケースMB内の下側に位置する。このとき、磁石Mと潜熱蓄熱材PCMとは磁石ケースMBの空洞分の距離が離間した状態となり、磁石Mの磁力が潜熱蓄熱材PCMに及び難くなる。よって、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は、液相LP内で分散した状態となる。これにより、凝固点降下剤を適切に作用させ、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、室内を冷房する調温効果をもたらす夏季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0070】
一方、冬季には図4に示すような回転機構60を利用して積層体Lの左右位置を維持したまま積層体Lを上下方向に半回転させる。この場合には、図10(b)に示すようになる。すなわち、磁石ケースMBがセルS内において上側に位置すると共に、磁石Mは磁石ケースMBの下側に位置する。このとき、磁石Mと潜熱蓄熱材PCMとの距離は、磁石ケースMBの厚み分だけとなり、磁石Mの磁力が潜熱蓄熱材PCMに及び易くなる。よって、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は、磁石Mに引きつけられて磁石M付近に集中した状態となる。この結果、磁石M付近を除く部分において凝固点降下剤の濃度が低くなる。よって、セルS内の潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば26℃程度の高めにすることができ、室内を暖房する調温効果をもたらす冬季用の潜熱蓄熱窓2とすることができる。
【0071】
このようにして、第4実施形態に係る潜熱蓄熱窓2によれば、第2実施形態と同様に、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。また、回転操作によって沈殿物を砕くことができ、蓄熱容量の回復を図ることができる。
【0072】
さらに、第4実施形態によれば、磁石Mを有し、潜熱蓄熱材PCMは磁性を有して分散する四塩化ジスプロシウム等の成分を有するため、磁石Mに磁性を有して分散する成分を集中させる等でき、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0073】
次に本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓は以下の構成となっている。以下、第5実施形態の説明において、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付すものとする。
【0074】
図11は、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す断面図である。図11に示すように、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3は、第2実施形態において説明したセル配列板材30及び周端部材20が第1及び第2構造体ST1,ST2によって挟持されて両者間に介在した構成となっている。
【0075】
第1及び第2構造体ST1,ST2は、概略的に2枚の板材10と、真空周端部材70と、スロープ80と、作動液(液体)HFとを備えている。
【0076】
2枚の板材10は、互いに略平行配置される透明性の板材である。これらの板材10は例えば水蒸気を不透過とするガラス材等によって構成されている。真空周端部材70は、2枚の板材10の周端部において2枚の板材10の間に介在するものである。2枚の板材10と真空周端部材70とによって形成される内部空間は、断熱性の観点から真空状態とされている。なお、内部空間は、真空状態に限らず、所定の気体で満たされていてもよい。
【0077】
スロープ80は、2枚の板材10の間に介在する透明性の部材であり、図10に示す断面視状態において2回90度に折られて断面略N字状の屈曲体となっている。このスロープ80は、一方の端部80a(後述の図12参照)が第1板材(一方の板材)10aの内壁に接しており、他方の端部80b(後述の図12参照)が第2板材(他方の板材)10bの内壁に接して設けられている。このようなスロープ80は、一端側において、第1板材10aと共に作動液HFを貯留可能な貯留部Resを構成している。
【0078】
図12は、図11に示したスロープ80の詳細を示す斜視図である。図12に示すように、スロープ80は、下板81と、この下板81と平行配置される上板82と、これらを接続する接続板83とから構成されている。
【0079】
下板81は、上記した端部80aを有すると共に、端部80aの反対側が櫛歯状に突出する櫛歯部81aとなっている。櫛歯部81aの各端面EFは第2板材10bの内壁に接する部位となる。上板82は、接続板83を挟んで下板81と点対称構造となっている。すなわち、上板82は、端部80bの反対側が櫛歯状に突出する櫛歯部82aとなっており、櫛歯部82aの各端面EFが第1板材10aの内壁に接する部位となる。このように、スロープ80は、下板81の両端部(端部80a及び端面EF)、並びに、上板82の両端部(端部80b及び端面EF)が2枚の板材10にそれぞれ接する。これにより、スロープ80は、真空状態とされる2枚の板材10をその内側から支えることとなる。
【0080】
再度図11を参照する。本実施形態において作動液HFは水等の透明性の液体である。なお、作動液HFは水に限られるものではない。このような作動液HFは、貯留部Resに貯留されている。貯留部Resの作動液HFは、第1板材10aからの熱によって蒸発可能となっている。蒸発した作動液HFは、蒸気となって第2板材10bに至る。蒸気となった作動液HFは、第2板材10bにおいて凝縮液化する。液化した作動液HFは、第2板材10bの内面を流下していき、スロープ80の上板82(図12参照)上に溜まる。一定量以上の作動液HFが上板82上に溜まると、作動液HFは、上板82の櫛歯部82aの隙間から貯留部Resに落下する。ここで、第1板材10aは、作動液HFが蒸発することから蒸発器として機能し、第2板材10bは、作動液HFが凝縮することから凝縮器として機能する。よって、第1板材10a側は蒸発熱が奪われて冷却化され、第2板材10b側からは凝縮熱が破棄されることとなる。
【0081】
このような潜熱蓄熱窓3において、第2構造体ST2の第1板材10aは、例えば21℃以上の温度で水(作動液HF)が蒸発する。蒸発した水(水蒸気)は第2板材10bに触れると冷却されて液化し、スロープ80の上板82を経て貯留部Resに戻る。この過程において、第1板材10a側は蒸発熱が奪われて冷却化され、第2板材10b側からは凝縮熱が破棄される。第2板材10b側から破棄された凝縮熱は潜熱蓄熱材PCMによって蓄熱される。
【0082】
さらに、第1構造体ST1の第2板材10b側が21℃未満の温度となると、潜熱蓄熱材PCMに蓄熱される熱により、第1構造体ST1側の貯留部Resにおいて作動液HFが蒸発し、第2板材10b側から凝縮熱が破棄される。
【0083】
結果として第2構造体ST2側の熱がバッファとなる潜熱蓄熱材PCMを介して第1構造体ST1側へ貫流することとなる。これにより、例えば夏季では室内側が第2構造体ST2となることで、湿気を取り込むことなく室内を冷房する調温効果を得ることができる。
【0084】
特に、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3は、外気温の方が高くても室温が例えば21℃以上であれば、潜熱蓄熱材PCMを利用して冷房効果を得ることができる。すなわち、潜熱蓄熱材PCMは21℃で固定化されていることから、室温が21℃以上であれば、室内の熱を潜熱蓄熱材PCMに移送でき、室内において冷房効果を得ることができる。潜熱蓄熱材PCMに蓄えられた熱は、例えば夜間等の外気温が21℃以下となる場合に破棄されることとなる。よって、潜熱蓄熱窓3は、潜熱蓄熱材PCMをバッファとして備えることにより、室内の快適化を行う頻度を高めることができるようになっている。
【0085】
なお、上記潜熱蓄熱窓3においてスロープ80は、第1板材10aと共に貯留部Resを形成しているが、第1板材10aの内面に伝熱部材が貼り付けられており、伝熱部材と共に貯留部Resを形成するようになっていてもよい。すなわち、スロープ80は、他の部材と共に第1板材10a側に貯留部Resを形成するものであってもよい。さらに、本実施形態において作動液HFは、第2板材10bに到達して凝縮液化しているが、これに限らず、第2板材10bの内面に伝熱部材が貼り付けられており、伝熱部材に到達して凝縮液化するようになっていてもよい。
【0086】
加えて、スロープ80は、作動液HFを循環させる液体循環構造であれば、図11及び図12に示したような構造に限られるものではなく、例えば単なる傾斜構造(端部80aから端部80bに向かって傾斜する傾斜構造)であってもよい。
【0087】
また、第1板材10aは、蒸発能力向上のため熱吸収ガラス(ガラス組成物の中に鉄分等の金属を含むガラス)であってもよい。さらに、2枚の板材10は、断熱時の断熱性向上のために、少なくとも一方の内面に赤外線反射処理が施されていてもよい。
【0088】
加えて、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3は、図13に示すような回転機構60を備え、上下方向のみならず、上下方向と直交する左右方向にも回転可能となっている。
【0089】
図13は、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3を示す斜視図であって、回転機構60を示すものである。なお、図13に示す例において、潜熱蓄熱窓3のうち回転機構60を除く構成(第1及び第2構造体ST1,ST2、周端部材20、及びセル配列板材30)を複合積層体(平板体)CLと称する。
【0090】
図13に示すように、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3は、室外側に更に固定ガラスFGを備えている。このため、図13に示す潜熱蓄熱窓3は、固定ガラスFGに複合積層体CLが接触することなく上下方向及び左右方向に半回転可能に構成されている。
【0091】
図13に示す例において回転機構60は、第1ピボット63aと、第2ピボット63bと、第1窓枠64aと、第2窓枠64bと、不図示の第1及び第2ロック手段とを備えている。
【0092】
第1窓枠64aは、建物側に固定された矩形枠である。第2窓枠64bは左右のいずれかの端部LW1に第1ピボット63aが設けられると共に、第1ピボット63aは第1窓枠64aの上下部材62bに対してスライド可能となっている。また、第2ピボット63bは、複合積層体CLの高さ方向中間部に取り付けられると共に、矩形の第2窓枠64bの左右部材62a2の中央部にそれぞれ回転自在に設けられている。
【0093】
このため、以下のようにして回転動作を行うことができる。まず、第1窓枠64aの左右部材62a1のうちの一方に、第2窓枠64bの第1ピボット63a側の端部LW1が位置しているとする。この状態から、第1ロック手段が解除され、第2窓枠64bの第1ピボット63aが設けられていない側の端部LW2が室内側に引き出される。次に、第2ロック手段を解除し、第2ピボット63bを中心にして複合積層体CLが上下方向に半回転させられる。そして、第2ロック手段によりロックされる。次いで、第2窓枠64bの第1ピボット63a側の端部LW1が、第1窓枠64aの左右部材62a1のうちの他方にスライドさせられる。その後、第2窓枠64bの端部LW2が左右部材62a1のうちの一方側となるように第2窓枠64bが第1窓枠64aに嵌め込まれ第1ロック手段でロックされる。
【0094】
以上のように、室外側に固定ガラスFGを有する潜熱蓄熱窓3において、複合積層体CLを上下方向及び左右方向の双方に回転可能となっている。
【0095】
なお、図12にも示したように、スロープ80は下板81と上板82との形状が接続板83を挟んで点対称構造となっていることから、複合積層体CLが上下方向に半回転させられた場合においても、スロープ80は貯留部Resを形成する。すなわち、上下方向に半回転させられた場合、上板82と第2板材10bとによって貯留部Resが形成されることとなる。
【0096】
次に、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3の作用を説明する。まず、図11に示すように、第2構造体ST2の第1板材10aが室内側となり、第1構造体ST1の第2板材10bが室外側になっているものとする。
【0097】
この状態において、例えば室温が21℃以上になると、貯留部Resの作動液HFが蒸発する。蒸発した作動液HFは室外側の第2板材10bに到達して液化し、第2板材10bの内面を流下する。流下した作動液HFはスロープ80の上板82を介して再度貯留部Resに戻る。この過程において、第1板材10aは作動液HFの蒸発による蒸発熱によって冷却され、第2板材10bからは作動液HFの凝縮熱が破棄される。破棄された熱は潜熱蓄熱材PCMによって蓄えられる。よって、室内側の熱を潜熱蓄熱材PCMに移送させて、室内を冷却する空調効果をもたらすことができる。
【0098】
なお、第1構造体ST1については、外気温が21℃以下となると、上記と同様にして、作動液HFが蒸発と凝縮を繰り返すこととなり、潜熱蓄熱材PCMに蓄えられた熱が外気に破棄される。
【0099】
さらに、図13に示すような回転機構60を利用して、複合積層体CLを上下位置を維持したまま左右方向に回転させた場合には、上記と動作が逆になり、冬季等において室内を暖房する空調効果を得ることができる。また、回転機構60を利用して、上下方向及び左右方向に回転させた場合には、さらに潜熱蓄熱材PCMの沈殿物PRを砕く効果があり、蓄熱量を回復させることとなる。
【0100】
このようにして、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3によれば、第2実施形態と同様に、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。また、回転操作によって沈殿物を砕くことができ、蓄熱容量の回復を図ることができる。さらに、膜部材S1の上下における凝固点降下剤や潜熱蓄熱材PCMの濃度を変化させて潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0101】
また、2枚の板材10と作動液HFの貯留部Resとスロープ80とを有する第1及び第2構造体ST1,ST2を備え、これらの間にセル配列板材30が介在するため、まず、第2構造体ST2の第1板材10a側における熱によって作動液HFが蒸発すると、第1板材10a側は蒸発熱が奪われて冷却化される。これに対して、蒸発した作動液HFは第2板材10b側に到達すると冷却されて凝縮液化し、第2板材10b側からは凝縮熱が破棄されることとなる。第1構造体ST1においても同様である。よって、室内に冷房効果をもたらすことができる。
【0102】
ここで、1枚の構造体を建具として使用した場合には、構造体の一方の板材10a側と他方の板材10b側との双方の温度環境が整わない限り、一方の板材10a側から他方の板材10b側へ熱貫流しない。しかし、第1及び第2構造体ST1,ST2の間に、セル配列板材30を備えるため、潜熱蓄熱材PCMをバッファとして備えることとなり、この潜熱蓄熱材PCMの温度が一定化されていると考えられることから、例えば室温よりも外気温の方が高くなる場合であっても室温が特定温度範囲以上であれば室内の熱を潜熱蓄熱材PCMに移送し、夜間等特定温度範囲よりも室外が涼しくなるときに潜熱蓄熱材PCMの熱を外気に破棄することができる。このように、潜熱蓄熱材PCMをバッファとして有することで、室内の快適化を行う頻度を高めることができる。
【0103】
また、回転機構60は、左右方向に少なくとも半回転可能に構成されているため、夏季と冬季や昼間と夜間等、熱貫流させる方向を変えたいときに左右方向に回転させて、冷暖房を選択することができる。
【0104】
次に本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓は以下の構成となっている。以下、第6実施形態の説明において、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付すものとする。
【0105】
図14は、第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓を示す構成図である。図14に示すように、第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓4は、第1実施形態において説明した2枚の板材10、周端部材20及びセル配列板材30を備えると共に、セルS内の上部に第1実施形態に示した磁石筒50を備えている。潜熱蓄熱材PCM側となる磁石筒50内の下部側には電磁石EMが設けられている。
【0106】
さらに、第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓4は、電磁石EMと通電状態と非通電状態とで切り替えるための通電部(操作手段)90を備えている。ユーザは通電部90をオンオフすることにより、電磁石EMに対して通電する状態と通電を遮断する状態とを切り替えることができ、通電部90による通電時には電磁石EMからの磁力を潜熱蓄熱材PCMに作用させ、非通電時(通電を遮断したとき)には磁力を作用させないようにすることができる。
【0107】
このような潜熱蓄熱窓4では、通電部90の通電時に磁性を有した成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )を電磁石EM側に偏在させることで、電磁石EMの近傍を除く部分において凝固点降下剤の濃度を低下させる。この結果、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点(相変化温度)を例えば26℃程度の高めにすることができ、潜熱蓄熱窓4を冬季用のものとして機能させることができる。
【0108】
一方、通電部90の通電を遮断した場合には、四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )は潜熱蓄熱材PCM内で分散した状態となる。これにより、凝固点降下剤を通常通り作用させ、潜熱蓄熱材PCMの凝固点を例えば18℃程度の低めにすることができ、潜熱蓄熱窓4を夏季用のものとして機能させることができる。
【0109】
このようにして、第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓4によれば、ユーザによる操作に応じて特定の成分である四塩化ジスプロシウムイオン(DyCl )等を偏在させるため、偏在させた場合には、偏在箇所を除く他の部分において特定の成分比率を下げることができ、潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0110】
さらに、第6実施形態によれば、通電部90は、電磁石EMに対して通電する状態と通電を遮断する状態とで切替可能とされているため、2枚の板材10と周端部材20との内部空間に複雑な機構を搭載する必要がなく、また、2枚の板材10という大きめの部材を回転させる必要もなく、簡易に潜熱蓄熱材PCMの融点及び凝固点を変化させることができる。
【0111】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で異なる実施形態同士の技術を組み合わせてもよい。さらに、可能な範囲で公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0112】
例えば、上記実施形態においては図4,13に示す回転機構60を示したが、回転機構60は図示したものに限られるものではない。また、第2~第4実施形態に係る潜熱蓄熱窓2においても左右方向に半回転可能となっていてもよい。
【0113】
加えて、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3については霧状の水分を噴霧する噴霧手段を備えていてもよい。例えば図11に示す状態において第1構造体ST1の第2板材10bに対して霧状の水分を噴霧すると外気温が高い場合でも露点近くまで第2板材10bを下げようとする効果が得られる。この結果、疑似的に外気温が低くなったときと同様の状態を作り出して潜熱蓄熱材PCM側の熱を室外に貫流させることができる。また、回転機構60による左右回転によって第1構造体ST1が室内側に位置する場合において噴霧を行ってもよい。
【0114】
さらに、第5実施形態に係る潜熱蓄熱窓3では、セル配列板材30の両側に構造体ST1,ST2を備える構成を示したが、これに限らず、いずれか一側のみに1つの構造体ST1,ST2を有するものであってもよい。
【0115】
また、上記において潜熱蓄熱材PCMの成分(磁性を有した成分)は、潜熱を発生する成分や、融点・凝固点調整剤だけではなく、例えば分散剤や核形成剤等であってもよい。
【0116】
加えて、上記実施形態ではユーザの操作を契機として潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を変化させるが、これに限らず、例えば自動的に潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を変化させるようになっていてもよい。
【0117】
図15は、変形例に係る潜熱蓄熱窓を示す構成図である。変形例に係る潜熱蓄熱窓5は、第6実施形態に係る潜熱蓄熱窓4と同様であるが、制御部100を備え、制御部100の判断により通電部90が自動制御される点が第6実施形態と異なっている。なお、制御部100はCPU等によって構成することができる。
【0118】
変形例において制御部100は、例えばカレンダー情報を有しており、現在が何月何日であるかを把握可能となっている。このため、制御部100は、現在が何月何日であるかに基づいて季節を判断でき、潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を高めにすべきと判断した場合には、通電部90を通電状態とする。これにより、電磁石EMの磁力を潜熱蓄熱材PCMに作用させ、凝固点降下剤となる磁性を有した成分を電磁石EMに吸着させて潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を高めとする。一方、制御部100は、潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を低めにすべきと判断した場合には、通電部90を遮断状態とする。これにより、電磁石EMの磁力を潜熱蓄熱材PCMに作用させず、磁性を有した成分を潜熱蓄熱材PCM内で分散させて潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を低めとする。以上より、ユーザの操作によらず、潜熱蓄熱材PCMの相変化温度を適切化することができる。
【0119】
なお、変形例ではカレンダー情報に基づいて通電部90を制御したが、これに限らず、例えば制御部100が冷暖房機等と連動しており、冷房時に通電部90を遮断状態とし、暖房時に通電部90を通電状態としてもよい。さらには、潜熱蓄熱窓5が照度センサを備え、制御部100が照度センサからの信号に基づいて日照時間を算出して季節を判断し、判断した季節に基づいて通電部90を制御するようになっていてもよい。同様に、制御部100は、天気情報(予報の情報でも可)を入力可能にされ、入力した天気情報に基づいて潜熱蓄熱材PCMを高温設定とすべきか低温設定とすべきかを判断して通電部90を制御するようにしてもよい。
【0120】
また、さらに制御部100は通電部90を制御するものに限らず、動作機構40を制御するものであってもよい。この場合、動作機構40の外部磁石45の動きを制御してもよいし、外部磁石45等を備えず上下プーリ41,42を回転制御するようにしてもよいし、磁石筒50を直接回転制御してもよい。
【符号の説明】
【0121】
1~5 :潜熱蓄熱窓(潜熱蓄熱建具)
10 :2枚の板材
10a :第1板材(一方の板材)
10b :第2板材(他方の板材)
30 :セル配列板材
40 :動作機構(操作手段)
43 :ラダーコード(コード部材)
60 :回転機構(操作手段)
80 :スロープ
90 :通電部(操作手段)
S :複数のセル
S1 :膜部材(偏在手段)
S2 :第2膜部材(偏在手段)
IEM1 :イオン交換膜(偏在手段、膜部材)
IEM2 :第2イオン交換膜(偏在手段、第2膜部材)
SPM1 :半透膜(偏在手段、膜部材)
SPM2 :第2半透膜(偏在手段、第2膜部材)
PCM :潜熱蓄熱材
MS :主空間
SS :小空間
SS2 :第2小空間
M :磁石(偏在手段、磁性素材)
HF :作動液(液体)
Res :貯留部
ST1 :第1構造体
ST2 :第2構造体
EM :電磁石(偏在手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図15