(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】アルミニウム負極および固体ポリマー電解質を有するバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20220127BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220127BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220127BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220127BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20220127BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220127BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20220127BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/50
H01M4/62 Z
H01M10/0565
(21)【出願番号】P 2017563519
(86)(22)【出願日】2016-06-07
(86)【国際出願番号】 US2016036176
(87)【国際公開番号】W WO2016200785
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-06-03
(32)【優先日】2015-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516164276
【氏名又は名称】イオニツク・マテリアルズ・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン,マイケル・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリロフ,アレクセイ・ビー
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ティン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,キース
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0155559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 4/13
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/50
H01M 4/62
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムおよび固体イオン伝導性ポリマー材料を含む負極もしくはアノードであって、
アルミニウムが電気化学的に活性なアルミニウム粒子として固体イオン伝導性ポリマー材料に組み込まれているか、かつ/又は
アルミニウムが固体イオン伝導性ポリマー材料に分散されているか、かつ/もしくは微細なアルミニウム粉末が固体イオン伝導性ポリマー材料に分散されているか、かつ/もしくはアルミニウムが固体イオン伝導性ポリマー材料と混合されている、負極と、
電気化学的に反応することで還元により水酸化物イオンを生成することができる減極剤を含み、ここで、減感剤が金属酸化物である、正極もしくはカソードと、
負極と正極との間に挿入されて前記電極間に水酸化物イオンをイオン伝導する電解質と
を含んでなるバッテリー。
【請求項2】
電解質がさらに固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなる、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
正極がさらに固体イオン伝導性ポリマー材料を含む、請求項1に記
載のバッテリー。
【請求項4】
減極剤が二酸化マンガンを含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項5】
負極がさらに電導性材料を含む、請求項2に記載のバッテリー。
【請求項6】
減極剤が二酸化マンガンを含み、かつ、正極がさらに固体イオン伝導性ポリマー材料を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項7】
固体イオン伝導性ポリマー材料が30%より高い結晶化度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項8】
固体イオン伝導性ポリマー材料の電導率が室温で1×10
-8S/cm未満である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項9】
固体イオン伝導性ポリマー材料の融解温度が250℃より高い、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項10】
固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導度が室温で1.0×10
-5S/cmより大きい、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項11】
固体イオン伝導性ポリマー材料が少なくとも1つのカチオン性拡散イオンを含み、カチオン性拡散イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、またはポスト遷移金属からなる群から選択される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項12】
1リットルの固体イオン伝導性ポリマー材料あたり少なくとも1モルのカチオン性拡散イオンが存在する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項13】
固体イオン伝導性ポリマー材料がポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応により形成され、ここで、イオン化合物がそれぞれ少なくとも1つの、カチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンを含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項14】
固体イオン伝導性ポリマー材料が熱可塑性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項15】
固体イオン伝導性ポリマー材料のカチオン輸率が0.5以下であり、そしてゼロより大きい、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項16】
固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導性が等方性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項17】
固体イオン伝導性ポリマー材料が室温で1×10
-4S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項18】
固体イオン伝導性ポリマー材料が80℃で1×10
-3S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項19】
固体イオン伝導性ポリマー材料が-40℃で1×10
-5S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項20】
水酸化物イオンの拡散率が室温で1.0×10
-13m
2/sより大きい、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項21】
固体イオン伝導性ポリマー材料のヤング率が3.0MPa以上である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項22】
固体イオン伝導性ポリマー材料が基材ポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応生成物から形成される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項23】
基材ポリマーがPPSまたは液晶ポリマーである、請求項
22に記載のバッテリー。
【請求項24】
アルミニウムが固体イオン伝導性ポリマー材料と混合され、かつ、負極が熱可塑性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項25】
減極剤が二酸化マンガンを含み、かつ、二酸化マンガンがβ-MnO2(パイロルース鉱)、ラムズデル鉱、γ-MnO2、ε-MnO2、λ-MnO2,EMD、CMDおよびそれらの組み合わせを含んでなる群から選択される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項26】
固体イオン伝導性ポリマー材料が、30%より高い結晶化度、ガラス状態、ならびに少なくとも1つのカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方を含んでなり、ここで、少なくとも1つの拡散イオンがガラス状態で可動性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項27】
固体イオン伝導性ポリマー材料が、該固体イオン伝導性ポリマー材料の融解温度未満の温度で存在するガラス状態を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に電気化学的に活性な負極材としてアルミニウムを含む電気化学バッテリー、そしてより詳細にはアルミニウムバッテリー、その構成要素であるアルカリ正極および固体イオン伝導性ポリマー材料を含む電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルミニウムは、その高い理論的電圧および比エネルギーにより特に魅力的な負極材である。しかしアルミニウムは大変反応性の金属であり、そして水性系で腐食反応(1)に参加し、このことが二次系で実用的ではなくする:
Al+H2O→Al(OH)3+3/2H2 (1)
【0003】
アルミニウムイオンバッテリー中でイオンとしてのアルミニウムも調査されてきた。しかし現実的なアルミニウムインターカレーション正極は無い。アルミニウムイオンは電解質中で低イオン伝導性を有する。
【0004】
非特許文献1に記載されたイオン性液体電解質は、再充電反応を可能にするかもしれないが、コストがかかり、式(2)に記載するようにAlCl4
-イオンが酸化還元工程に参加する時、系に低容量を生じる:
Al+4AlCl4
-+3Cn[AlCl4]→3Cn+4Al2Cl7
-(2)
【0005】
例えば式(2)は、114mAh/g(Al+4AlCl4
-)の負極比容量をもたらすが、インターカレーショングラファイト正極はn=32で70mAh/gを生じる。
【0006】
本観点および態様はアルミニウムを高容量バッテリーで使用することを制限している上記課題を克服し、ならびにさらなる利点を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
発明の要約
本発明の一態様によれば、アルミニウム負極の構成要素を含む電気化学バッテリーが提供され、これはまた固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなる。
【0009】
一つの態様では、バッテリーは:アルミニウムを含んでなる負極;電気化学的に反応して還元で水酸化物イオンを生成することができる減極剤を含んでなる正極;および負極と正極との間に挿入されて電極間に水酸化物イオンをイオン伝導する固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなる電解質、を含んでなる。
【0010】
バッテリーのさらなる態様は、1もしくは複数の以下を含むことができる:
正極がさらに固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなるバッテリー。
【0011】
減極剤が金属酸化物であるバッテリー。
【0012】
減極剤が二酸化マンガンを含んでなるバッテリー。
【0013】
負極がさらに電導性材料を含んでなるバッテリー。
【0014】
正極がさらに電導性材料を含んでなるバッテリー。
【0015】
負極がさらに固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなり、そしてアルミニウムが固体イオン伝導性ポリマー材料中に分散されているバッテリー。
【0016】
減極剤が二酸化マンガンおよび固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなるバッテリー。
【0017】
固体イオン伝導性ポリマー材料が、30%より高い結晶化度、ガラス状態、そして少なくとも1つのカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方を含んでなり、少なくとも1つの拡散イオンがガラス状態で可動性である、バッテリー。
【0018】
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンが水酸化物を含んでなるバッテリー。
【0019】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数の電荷移動錯体を含んでなるバッテリー。
【0020】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そして各電荷移動錯体がモノマー上に位置しているバッテリー。
【0021】
固体イオン伝導性ポリマー材料の電導率が室温で1×10-8S/cm未満であるバッテリー。
【0022】
固体イオン伝導性ポリマー材料が、固体イオン伝導性ポリマー材料の融解温度未満の温度で存在するガラス状態を有するバッテリー。
【0023】
電荷移動錯体が、ポリマーおよび電子受容体の反応により形成されるバッテリー。
【0024】
固体イオン伝導性ポリマー材料の融解温度が250℃より高いバッテリー。
【0025】
固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導度が室温で1.0×10-5S/cmより大きいバッテリー。
【0026】
固体イオン伝導性ポリマー材料が単一のカチオン性拡散イオンを含んでなり、そしてカチオン性拡散イオンの拡散率が室温で1.0×10-12m2/sより大きいバッテリー。
【0027】
固体イオン伝導性ポリマー材料が単一のアニオン性拡散イオンを含んでなり、そしてアニオン性拡散イオンの拡散率が室温で1.0×10-12m2/sより大きいバッテリー。
【0028】
少なくとも1つのカチオン性拡散イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、またはポスト遷移金属を含んでなるバッテリー。
【0029】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そしてモノマーあたり少なくとも1つのアニオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0030】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そしてモノマーあたり少なくとも1つのカチオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0031】
1リットルの固体イオン伝導性ポリマー材料あたり少なくとも1モルのカチオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0032】
固体イオン伝導性ポリマー材料がポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応により形成されるバッテリー。
【0033】
固体イオン伝導性ポリマー材料が少なくとも1つのイオン化合物から形成され、イオン化合物がそれぞれ少なくとも1つのカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンを含んでなるバッテリー。
【0034】
固体イオン伝導性ポリマー材料が熱可塑性であるバッテリー。
【0035】
少なくとも1つの各カチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンが拡散率を有し、アニオン性拡散率がカチオン性拡散率より大きいバッテリー。
【0036】
拡散カチオンが一価であるバッテリー。
【0037】
少なくとも1つの拡散アニオンおよび拡散カチオンの両方が一価であるバッテリー。
【0038】
固体イオン伝導性ポリマー材料のカチオン輸率が0.5以下であり、そしてゼロより大きいバッテリー。
【0039】
少なくともカチオン性拡散イオンの1つが1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0040】
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンの1つが1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0041】
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよび少なくともカチオン性拡散イオンの両方の1つが1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0042】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、各モノマーがモノマーの骨格に位置する芳香族または複素環構造を含んでなるバッテリー。
【0043】
固体イオン伝導性ポリマー材料がさらに、環構造に包含されるかまたは環構造に隣接する骨格上に位置するヘテロ原子を含むバッテリー。
【0044】
ヘテロ原子が硫黄、酸素または窒素からなる群から選択されるバッテリー。
【0045】
ヘテロ原子が環構造に隣接するモノマーの骨格上に位置するバッテリー。
【0046】
ヘテロ原子が硫黄であるバッテリー。
【0047】
固体イオン伝導性ポリマー材料がパイ共役であるバッテリー。
【0048】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、各モノマーの分子量が100グラム/モルより大きいバッテリー。
【0049】
固体イオン伝導性ポリマー材料が親水性であるバッテリー。
【0050】
固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導性が等方性であるバッテリー。
【0051】
固体イオン伝導性ポリマー材料が室温で1×10-4S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0052】
固体イオン伝導性ポリマー材料が80℃で1×10-3S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0053】
固体イオン伝導性ポリマー材料が-40℃で1×10-5S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0054】
水酸化物イオンの拡散率が室温で1.0×10-13m2/sより大きいバッテリー。
【0055】
固体イオン伝導性ポリマー材料が不燃性であるバッテリー。
【0056】
固体イオン伝導性ポリマー材料のヤング率が3.0MPa以上であるバッテリー。
【0057】
固体イオン伝導性ポリマー材料がイオン化合物の存在下に電子受容体によりドープされた後にイオン導電性となり、イオン化合物はカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方を含むか、または、電子受容体との反応を介してカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方に変換可能であるかのいずれかである、バッテリー。
【0058】
固体イオン伝導性ポリマー材料が基材ポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応生成物から形成されるバッテリー。
【0059】
基材ポリマーが共役ポリマーであるバッテリー。
【0060】
基材ポリマーがPPSまたは液晶ポリマーであるバッテリー。
【0061】
アルミニウムが固体イオン伝導性ポリマー材料と混合され、そして負極が熱可塑性であるバッテリー。
【0062】
減極剤が二酸化マンガンを含んでなり、そして二酸化マンガンがβ-MnO2(パイロルース鉱)、ラムズデル鉱、γ-MnO2、ε-MnO2、λ-MnO2,EMD、CMDおよびそれらの組み合わせを含んでなる群から選択されるバッテリー。
【0063】
基材ポリマーはPPS,PEEK,LCP,PPyまたはそれらの組み合わせである。
【0064】
ドーパントはDDQ,TCNE、クロラニル、SO3,オゾン、遷移金属酸化物、MnO2、酸素または空気から選択される。
【0065】
イオン化合物は塩、水酸化物、酸化物または水酸化物イオンを含むか、水酸化物に転換可能な他の材料である。
【0066】
イオン化合物がLiOH、NaOHまたはKOHを含んでなる。
【0067】
これらのおよび他の特徴、利点および目的は、以下の明細書、請求の範囲および添付の図面を参照にして当業者によりさらに理解そして熟考されることになろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図面では:
【
図1】一態様のエネルギー密度を他の電気化学システムに対して比較したエネルギー密度曲線である。
【
図2】NaOH-系電解質中、1mV/sの走査速度で記録したアルミニウムホイル、および固体イオン伝導性ポリマー材料に分散したアルミニウム電極の動電位曲線である。
【
図3】分散したAl負極対Alホイル負極(双方とも対電極としてMnO
2正極を持つ)の放電曲線を示す。
【
図4】0.5mAの放電電流で50回の反復充電/放電サイクルにわたり、分散したアルミニウム負極およびMnO
2正極を含むセルの充電/放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
好適な態様の詳細な説明
本出願は、引用により本明細書に編入する2015年6月8日に出願した米国特許仮出願第62/172,467号明細書の利益を主張し;そしてまた引用により2015年5月8日に出願された米国特許仮出願第62/158,841号明細書;2014年12月3日に出願された米国特許出願第14/559,430号明細書;2013年12月3日に出願された米国特許仮出願第61/911,049号明細書;2013年4月11日に出願された米国特許出願第13/861,170号明細書;および2012年4月11日に出願された米国特許仮出願第61/622,705号明細書を編入する。
【0070】
一態様では、電気化学的に活性なアルミニウム粒子が固体イオン伝導性ポリマー材料に包含されて、活性材料の比容量をそれらの各理論的放電に近いレベルにまで上げることができるようにする。2e-MnO
2正極をアルミニウム負極と対にするとさらにエネルギー密度が上がり、再充電バッテリーに理想的な高い容積性能(volumetric performance)をもたらす。
図1について、この態様のエネルギー密度を他の電気化学的システムと比較する。そのような二次バッテリーは、豊富に存在し、廉価で、環境に優しい正極および負極材料の両方からもたらされるという利点がある。
【0071】
負極の電気化学的反応は式(3)により説明される:
Al+3OH-→Al(OH)3+3e- (3)
【0072】
MnO2が正極の減極剤として使用される態様では、正極の電気化学的反応は、式(4)により説明される:
MnO2+H2O+e-→MnOOH+OH- (4)
【0073】
すなわち二酸化マンガンは、オキシ水酸化物に還元された時、水酸化物イオンを生成する。別の態様では、正極は、電気化学的に反応して還元で水酸化物イオンを生成することができる別の減極剤(例えば金属酸化物)を含んでなることができる。
【0074】
理論的には、アルミニウムはZnよりも約0.9Vより大きい負の(negative)電圧で放電し、そして両負極がMnO
2正極に対する場合には2倍以上の比エネルギー(Wh/Kg)およびほとんど2倍のエネルギー密度(Wh/L)を生じる。しかしアルカリ水溶液中で、アルミニウムは安定ではなく、そしてZnよりも厳しい腐食を受けている。本明細書に記載する固体イオン伝導性ポリマー材料中に分散されたアルミニウム粉末を含む電極は、アルミニウムホイルの負極よりも高い負電圧(more negativ
e voltages)で腐食を表す。
図2について、NaOH-系電解質中で1mV/sの走査速度で記録したアルミニウムホイルおよび固体イオン伝導性ポリマー材料に分散したアルミニウム電極の動電位曲線を示す。
【0075】
固体イオン伝導性ポリマー材料に微細なアルミニウム粉末を分散するとアルミニウムの表面積が上がり、これにより有効な電流密度が下がって表面の不活性化(passivation)が軽減する。分散されたアルミニウム負極およびMnO
2正極を有するセルは、Alホイルに匹敵する放電容量を示した。
図3に関して、対の電極として双方ともMnO
2正極を有する、分散したAl負極対Alホイル負極の放電曲線を示す。放電電圧は、分散したアルミニウムを有するバッテリーがAlホイルより約1V高く、これは他の構成要素が同じであることを考慮すると2倍のエネルギー密度を意味する。
【0076】
これらのセルは、典型的な充電/放電挙動を示す。
図4について、分散したアルミニウム負極およびMnO
2正極を有するセルの0.5mAの放電電流での充電/放電曲線を示す。セルは50回反復した充電/放電サイクルを示し、この態様の再充電性を証明した。
【0077】
以下の用語の説明は、この章で説明する観点、態様および目的をより詳細に説明するために提供される。説明または別段の定めがない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解している意味と同じ意味を有する。開示する様々な態様を検討し易くするために、以下の特定の用語の説明を提供する:
減極剤は、電気化学的活性物質、すなわち、電気化学反応および電気化学活性物質中の電荷移動工程で、酸化状態を変えるか、または、化学結合の形成もしくは破壊に加わる物質と同義語である。電極が1より多くの電気活性物質を有する場合、それらを共減極剤(codepolarizer)と呼ぶことができる。
【0078】
熱可塑性は、しばしばその融解温度またはその付近の特定温度より上でしなやか(pliable)または成形可能になり、そして冷却すると固まる塑性物質またはポリマーの特性である。
【0079】
固体電極は溶媒を含まないポリマー、およびセラミック化合物(結晶およびガラス)を含む。
【0080】
「固体」は、その形状を無期限にわたって維持する能力を特徴とし、そして液相の材料とは区別され、そして異なる。固体の原子構造は結晶または非晶質のいずれかであることができる。固体は複合構造の成分と混合することができ、またはその成分となることができる。
【0081】
本出願および特許請求の範囲の目的では、固体イオン伝導性ポリマー材料は、当該材料が固体を通ってイオン伝導性であるが、特に記載しない限り、いかなる溶媒相、ゲル相、または液相を通ってもイオン伝導性ではないことが要求される。本出願および請求の範囲の目的に関して、イオン伝導性が液体に依存するゲル化(または湿潤)ポリマーおよび他の材料は、それらがそれらのイオン伝導性を液相に寄る点で固体電解質(固体イオン伝導性ポリマー材料)とは定義されない。
【0082】
ポリマーは一般に有機であり、そして炭素に基づく高分子から構成され、その各々が1もしくは複数の種類の繰り返し単位またはモノマーを有する。ポリマーは軽重量で、延性であり、通常は非伝導性で、そして比較的低温で融解する。ポリマーは、射出、吹込および他の成形法、押出し、プレス、スタンピング、三次元プリント、機械加工(machining)および他のプラスチック加工により製品に作製されることができる。ポリマー
は一般にガラス転移温度Tg未満の温度でガラス状態を有する。このガラス温度は鎖の柔軟性の関数であり、それは、系内に十分な振動(熱)エネルギーがあって、ポリマー高分子の一連のセグメントが単位として同時に動くのを許容する自由容積が創出される時に発生する。しかしポリマーのガラス状態では、ポリマーのセグメント運動は起こらない。
【0083】
ポリマーはセラミックスとは区別され、セラミックスは無機の非金属性物質であり、一般に、酸素、窒素または炭素に共有結合している金属からなる化合物で脆く、硬質(strong)で非伝導性と定義される。
【0084】
幾つかのポリマーで起こるガラス転移は、ポリマー材料が冷却された時の過冷却液体状態とガラス状態との間の中間点温度である。ガラス転移の熱力学的測定は、ポリマーの物理的特性、例えば容積、エンタルピーまたはエントロピーおよび温度の関数として他の誘導的特性を測定することにより行われる。ガラス転移温度は、転移温度で選択した特性(エンタルピーの容積)の急な変化(break)としてのプロット、あるいは傾斜の変化(熱容量または熱的膨張係数)から観察される。ポリマーをTgより上からTg未満に冷却すると、ポリマー分子の移動度はポリマーがそのガラス状態に達するまでゆっくりと下がる。
【0085】
ポリマーは非晶質および結晶相の両方を含んでなることができるので、ポリマーの結晶化度はポリマーの量に対するこの結晶相の量であり、そして百分率として表される。結晶化度の割合は、非晶質および結晶相の相対的領域の分析により、ポリマーのX線回折を介して算出することができる。
【0086】
ポリマーフィルムは一般にポリマーの薄い部分と説明されるが、300マイクロメートル厚以下と考えるべきである。
【0087】
イオン伝導性(ionic conductivity)は電導性(electrical conductivity)とは異なることに注目することが重要である。イオン伝導性はイオンの拡散性に依存し、そしてその特性はNernst-Einsteinの式により関連づけられる。イオン伝導性およびイオン拡散性は双方ともイオンの移動度の尺度である。イオンは材料中でのその拡散性が正ならば(ゼロより大きい)、その材料中で可動性であり、すなわちイオンは正の伝導性に貢献する。そのような全てのイオン移動度の測定は、特に言及しないかぎり室温(約21℃)で行われる。イオンの移動度は温度に影響されるので、低温で検出することは困難になる。装置の検出限界が、小さい移動量を測定する因子となり得る。移動度は、少なくとも1×10-14m2/s、そして好ましくは少なくとも1×10-13m2/sのイオン拡散率と考えることができ、これらは両方ともイオンが材料中で可動性であると伝えている。
【0088】
固体ポリマーイオン伝導性材料は、ポリマーを含んでなる固体であり、そしてさらに記載するようにイオンを伝導する固体である。
【0089】
一態様には、少なくとも3つの別個の成分:ポリマー、ドーパントおよびイオン化合物から固体イオン伝導性ポリマー材料の合成法を含む。成分および合成法は、材料の特定の応用に選択される。ポリマー、ドーパントおよびイオン化合物の選択も、材料の所望する性能に基づき変動することができる。例えば所望の成分および合成法は、所望する物理的特性(例えばイオン伝導性)の至適化により決定することができる。
【0090】
合成
また合成法も、特定の成分および所望する最終材料の形態(例えばフィルム、粒子等)により変動することができる。しかし方法には少なくとも2つの成分を最初に混合し、第
三成分を任意の第二混合工程で加え、そして加熱工程で成分/反応物を加熱して固体イオン伝導性ポリマー材料を合成する基本工程を含む。本発明の1つの態様では、生じた混合物は任意に所望のサイズのフィルムに形成することができる。ドーパントが第一工程で生成された混合物に存在しなければ、ドーパントは引き続き混合物に加熱そして場合により圧をかけながら(陽圧または真空)加えることができる。全ての3成分が存在し、そして混合され、そして加熱されて、単回工程で固体イオン伝導性ポリマー材料の合成を完了することができる。しかしこの加熱工程は、いかなる混合からも分かれた工程の時に行われることができ、あるいは混合が行われている間に完了することができる。加熱工程は混合物の形態(例えばフィルムまたは粒子等)にかかわらず行うことができる。合成法の態様では、全ての3成分が混合され、そして次にフィルムに押し出される。フィルムは加熱されて合成が完了する。
【0091】
固体イオン伝導性ポリマー材料が合成された時、変色が生じ、これは反応物の色が比較的明るい色であり、そして固体イオン伝導性ポリマー材料が比較的暗いか、または黒色であるので視覚的に観察することができる。この変色は電荷移動錯体が形成された時に生じ、そして合成法に依存して徐々に、または迅速に起こることになると考えられる。
【0092】
合成法の態様は、基材ポリマー、イオン化合物およびドーパントを一緒に混合し、そして混合物を第二工程で加熱することである。ドーパントはガス相にあることができるので、加熱工程はドーパントの存在下で行うことができる。混合工程は押出し機、ブレンダ―、ミルまたは他の一般的なプラスチック加工装置中で行うことができる。加熱工程は数時間続く可能性があり(例えば24時間)、そして変色は合成が完了または一部完了した信頼できる表示である。
【0093】
合成法の態様では、基材ポリマーおよびイオン化合物を最初に混合することができる。次いでドーパントがポリマー―イオン化合物混合物と混合され、そして加熱される。加熱は第二混合物工程中、または混合工程に続いて混合物に適用することができる。
【0094】
合成法の別の態様では、基材ポリマーおよびドーパントが最初に混合され、そして加熱される。この加熱工程は混合後、または混合中に適用することができ、そして電荷移動錯体の形成、およびドーパントと基材ポリマーとの間の反応を示す変色を生じる。次いでイオン化合物が反応したポリマードーパント材料と混合されて固体イオン伝導性ポリマー材料の形成が完了する。
【0095】
ドーパントの一般的な添加法は当業者には既知であり、そして基材ポリマーおよびイオン化合物を含有するフィルムの蒸気ドーピング、および当業者には知られている他のドーピング法も含むことができる。固体ポリマー材料のドーピングでイオン伝導性となり、そしてドーピングが固体ポリマー材料のイオン成分を活性化するように作用するのでそれらが拡散イオンになると考えられる。
【0096】
他の非反応性成分を、上記の混合物に初期混合工程、第二混合工程または加熱に引き続く混合工程中に加えることができる。そのような他の成分には限定するわけではないが、減極剤または電気化学的に活性な物質、例えば負極または正極活性材料、炭素のような電導性材料、結合剤または押出助剤(例えばエチレンプロピレンジエンモノマー“EPDM”)のようなレオロジー改質剤(rheological agent)、触媒および混合物の所望する物理特性を達成するために有用な他の成分がある。
【0097】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に反応物として有用なポリマーは、電子供与体または電子受容体により酸化され得るポリマーである。30%より高い、そして50%より高い結晶化指数の半結晶ポリマーは、適切な反応物ポリマーである。完全(totall
y)結晶のポリマー材料、例えば液晶ポリマー(“LCPs”)も有用な反応物ポリマーである。LCPsは完全結晶であり、したがってこれによりそれらの結晶化指数は100%と定義される。非ドープ共役ポリマーおよびポリフェニレンスルフィド(“PPS”)のようなポリマーも適切なポリマー反応物である。
【0098】
ポリマーは一般に電導性ではない。例えば新品(virgin)PPSは、10-20Scm-1の電導性を有する。非電導性ポリマーが適切な反応物ポリマーである。
【0099】
一つの態様では、反応物として有用なポリマーは各繰り返しモノマー基の骨格中に芳香族または複素環成分を、ならびに、複素環中に包含されるか、または芳香族環に隣接して位置する骨格に沿って位置するいずれかのヘテロ原子を有することができる。ヘテロ原子は骨格に直接位置することができ、あるいは骨格上に直接位置する炭素原子に結合することができる。ヘテロ原子が骨格に位置するか、あるいは骨格上に位置する炭素原子に結合している両方の場合で、骨格の原子は芳香族環に隣接する骨格に位置している。本発明のこの態様に使用されるポリマーの非限定的例は、PPS、ポリ(p-フェニレンオキシド)(“PPO”)、LCPs、ポリエーテルエーテルケトン(“PEEK”)、ポリフタルアミド(“PPA”)、ポリピロール、ポリアニリンおよびポリスルフォンを含む群から選択することができる。列挙したポリマーのモノマーを含むコポリマーおよびこれらポリマーの混合物のモノマーを含むコポリマーも使用することができる。例えばp-ヒドロキシ安息香酸のコポリマーは、適切な液晶ポリマー基材ポリマーとなり得る。
【0100】
表1は固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に有用な反応物ポリマーの非限定的例を、モノマー構造および幾らかの物理特性情報と一緒に詳細に示すが、これらもポリマーがそれらの物理的特性に影響を及ぼすことができる多くの形態をとることができるので、非限定的と考えるべきである。
【0101】
【0102】
【0103】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に反応物として有用なドーパントは、電子受容体または酸化物である。ドーパントはイオン輸送および移動のためにイオンを放出すると考えられ、そして電荷移動錯体に類似の部位またはポリマー内でイオン伝導性を可能にする部位を作成すると考えられる。有用なドーパントの非限定的例はキノン類、例えば:“DDQ”としても知られている2,3-ジシアノ-5,6-ジクロロジシアノキノン(C8Cl2N2O2)、およびクロラニルとしても知られているテトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(C6Cl4O2)、TCNEとしても知られているテトラシアノエチレン(C6N4)、三酸化硫黄(“SO3”)、オゾン(三酸素すなわちO3)、酸素(O2、空気を含む)、二酸化マンガン(“MnO2”)を含む遷移金属酸化物、あるいは適切な電子受容体等、およびそれらの組み合わせである。ドーパントは、合成の加熱工程の温度で温度安定性のものが有用であり、そして温度安定性で、しかも強力な酸化剤キノンの両方であるキノン類および他のドーパントが大変有用である。表2はドーパントの非限定的一覧をそれらの化学的図解と共に提供する。
【0104】
【0105】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成で反応物として有用なイオン化合物は、固体イオン伝導性ポリマー材料の合成中に所望のイオンを放出する化合物である。イオン化合物は、イオン化合物とドーパントの両方を必要とする点でドーパントとは異なる。非限定的例には、Li2O、LiOH,NaOH,KOH,LiNO3,Na2O,MgO,CaCl2,MgCl2,AlCl3,LiTFSI(リチウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、リチウムビス(オキサレート)ボラート(LiB(C2O4)2“LiBOB”)、ならびに他のリチウム塩およびそれらの組み合わせがある。これら化合物の水和形(例えば一水素化物)を使用して化合物を取扱い易くすることができる。無機酸化物、塩化物および水酸化物は、それらが合成中に解離して少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる点で適切なイオン化合物である。解離して少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる任意のそのようなイオン化合物も同様に適切である。好適となり得る多くのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる多数のイオン化合物も有用となり得る。合成に含まれる特定のイオン化合物は、材料の所望する用途に依存する。例えば水酸化物アニオンを有することを望む場合の応用では、水酸化物イオンに転換可能な水酸化リチウムまたは酸化物が適切であろう。水酸化物含有化合物のように、それは拡散水酸化物アニオンを合成中に放出する。そのような水酸化物イオン性化合物の非限定的群には金属水酸化物がある。水酸化物イオン性化合物には、合成の反応物であるイオン化合物として適切な所望するカチオン性拡散種およびアニオン性拡散種の両方を生成することができる形態のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、およびポスト遷移金属を含むことができる。
【0106】
材料の純度は、いかなる意図しない副反応も防ぎ、そして合成反応の効率を最大にして高度に伝導性の材料を生成するために潜在的に重要となる。一般に高純度のドーパント、基材ポリマーおよびイオン化合物を含む実質的に純粋な反応物が有用であり、そして98%より高い純度がより有用であるが、さらに高い純度、例えばLiOH:99.6%、DDQ:>98%、そしてクロラニル:>99%も有用である。アルミニウム粉末中の不純物は、望ましくない腐食反応を生じる恐れがあり、したがって5N純度の粉末のような相対的に純粋なアルミニウムが望ましい。
【0107】
アルミニウム負極の態様では、純粋なアルミニウム粉末の代わりに特定のアルミニウム合金を使用すること、およびMgO、Na2SnO3のような電解質添加物を利用すること、およびその他を使用することができる。さらなる至適化には所望する添加物を負極構造に包含させることを含んでよい(アルミニウムまたは合金粉末と混合する)。2000,5000および7000シリーズの合金および他の合金、またはガリウム、マグネシウム、マンガン、銅、亜鉛、カドミウム、錫、インジウム、バリウムのようなドーパント元素、およびそれらの混合物がアルミニウム合金の安定性を維持するために有用となり得る。一態様では、アルミニウムを、亜鉛、錫、ガリウム、マグネシウムまたはそれらの2以上の元素の組み合わせで合金とする。
【0108】
合金とすることに加え、粒子サイズを変動させることができ、酸化亜鉛を混合して腐食率を下げることができ、ならびに他の機能的添加物を加えてメッキを促進し、そして凝集および樹状形成、例えばリン酸塩、フッ化カリウム、水酸化カルシウム、窒化チタンなどの形成を抑えることができる。
【0109】
アルミニウムは、固体イオン伝導性ポリマー材料と混合することによりそれに分散させることができる。追加の電導性材料を負極に加え、そしてアルミニウムと固体イオン伝導性ポリマー材料とを分散/混合することができる。グラファイト、炭素、アルミニウムフレークおよびアルミニウム粉末の二峰性分布を使用して負極の電導性を上げることができる。
【0110】
一つの態様では、正極は二酸化マンガンを含んでなる。具体的には、正極の電気化学的に活性な正極材料は、β-MnO2(パイロルース鉱)、ラムズデル鉱、γ-MnO2、ε-MnO2、λ-MnO2,ならびに限定するわけではないがEMDおよびCMDを含む他のMnO2相およびそれらの混合物の形態で加えることができる。
【0111】
別の態様では、還元で水酸化物イオンを生成することができる他のアルカリバッテリー正極材料が有用となり得る。酸化銀および二酸化銀、他の金属酸化物および金属オキシ水酸化物(例えばNiOOH)も電気化学的還元で水酸化物イオンを生成させるために有用である。
【0112】
固体イオン伝導性ポリマー電解質は、電気化学的に活性な正極材料および電導性材料と混合することができる。アルカリ正極に一般的なグラファイト、炭素および他の電導性材料が必要な電導性を維持するために有用である。また水性電解質を正極に加え、そして負極と正極との間に挿入された固体イオン伝導性ポリマー電解質により負極に対して密閉することができる。カリウム、および水酸化物ナトリウムは適切な水性電解質である。
【0113】
一態様では電解質は固体イオン伝導性ポリマーを含んでなることができ、そして負極と正極にとの間に挿入されるフィルムに熱形成または押し出すことができる。固体イオン伝導性ポリマー電解質は正極に、そして正極から水酸化物イオンをイオン伝導するように作用する。このように固体イオン伝導性ポリマー電解質は、負極および正極の電気化学的に
活性な材料間にイオン経路を提供する必要がある。
【0114】
電解質として、負極および正極はすべて固体イオン伝導性ポリマー電解質を含んでなることができ、各バッテリーの構成要素は固体イオン伝導性ポリマー電解質が熱可塑性であるため熱形成することができる。バッテリーの構成要素は、加熱により互いに接着することができ、または同時押し出しすることができる。
【0115】
固体イオン伝導性ポリマー材料の用途、および固体イオン伝導性ポリマー材料の上記合成法の多様性をさらに説明するために、多数の電気化学的応用に有用で、それらの応用により識別される数種の固体イオン伝導性ポリマー材料を記載する。
【実施例1】
【0116】
固体イオン伝導性ポリマー材料は、バッテリーの設計という異なる観点でどのように材料を使用できるかを説明するために、2つの観点で合成する:
【0117】
実施例1A
PPSポリマーはイオン化合物LiOH一水和物と、それぞれ約10-40重量%の比率の金属水酸化物で混合し、そしてジェットミルを使用して混合した。この非ドープ混合物を320~380℃の間で加熱し、そして10~15マイクロメートル厚のフィルムに押し出した。次いで押し出したフィルムは、150℃で約2時間アニールし、そして混合PPSポリマーの結晶化度を上げた。クロラニルドーパントは蒸気ドーピングを介して、生じた混合物に190~200℃の間の温度で1~16時間、真空下のチューブ炉中で加えて固体イオン伝導性ポリマー材料(PPS/LiOH/クロラニル)を合成した。合成した材料はドーピング中に変色を受け、化学反応が起こったことを示し、そして固体イオン伝導性ポリマー材料の形成を示す。
【0118】
実施例1B
一態様では、固体イオン伝導性ポリマー材料(PPS/LiOH/DDQ)は、最初にDDQドーパントおよび基材ポリマーPPSを1モルのDDQあたり4.2モルのPPSモノマーの比率で混合し、そして250~325℃の間で加熱して粒子形を作成することにより合成する。イオン性LiOHを粒子形と混合し、固体イオン伝導性ポリマー材料を作製する。
【0119】
実施例1Aおよび1Bの両方の材料の電導性は、ブロッキング電極間の定電位法を使用して測定し、そして約6.5×10-9S/cm(1×10-8S/cm未満すなわち未満の電導性)と測定された。
【0120】
イオン拡散性の測定は、基本的なNMR技法を使用してPPS/LiOH/DDQ材料の圧縮成形粒子形について行った。具体的にはリチウムおよび水酸化物イオンの拡散率は、パルス化勾配スピンエコー(pulsed gradient spin echo:PGSE)リチウムNMR法により評価した。PGSE-NMR測定はVarian-S
Direct Drive 300(7.1T)分光計を使用して行った。固体ポリマーイオン伝導性材料は、室温で5.7×10-11m2/sのLi+拡散率の値を有し、そしてOH-イオンの拡散率は室温で4.1×10-11m2/sであった。これらの拡散率はアニオンおよびカチオン輸率の両方を算出するために使用することができる。関連はするが、水酸化物の拡散率がアルカリバッテリーに重要なのでアニオン輸率がより関連性が高い。
【0121】
実施例2
正極は、実施例1Bで調製した固体イオン伝導性ポリマー材料を電導性炭素粉末、EM
D、結合剤(溶媒としてDMAまたはNMPを含むPVDFまたはKraton)と所望の比率で混合し、そして電導性(例えば正極抵抗に対してコレクターを下げるために、薄層のグラファイトプライマーを有する金属、チタンまたはステンレス鋼)集電体上にスラリーで流延して作製する。次いで正極を80~120℃で2~12時間乾燥し、カレンダー処理し、そしてボタン電池またはパウチセルに望ましい寸法にスライスした。
【0122】
実施例3
アルミニウム粉末(超純粋粉末または合金粉末)を実施例1Bからの固体イオン伝導性ポリマー材料、電導性炭素、添加剤、例えば酸化亜鉛および/または他の腐食耐性添加剤と混合した。PVDFまたはKratonは結合剤として使用し、そしてDMAまたはNMPは溶媒として含む。次いで混合スラリーは、薄層のグラファイトプライマーを有するチタンまたはステンレス鋼集電体上に流延する。次いで電極を80~120℃で2~12時間乾燥し、カレンダー処理し、そしてボタン電池またはパウチセルに望ましい寸法にスライスした。
【0123】
固体イオン伝導性ポリマー材料は、その基材ポリマーの熱可塑性の物理特性を維持する。例えば、熱形成され、押し出されまたは別法で無数の蜘蛛の巣状、輪、粉末、メッシュ、渦巻、コーティング、フィルムおよび他の有用な形に形成されることができる。電極材料は固体イオン伝導性ポリマー材料でカプセル化されるので、電極もこのカプセル化を維持している間、成形できるように熱可塑性である。この固体イオン伝導性ポリマー材料の特性は、電極が複数の形状に成形できる点でバッテリーに特に有用である。
【0124】
上記負極、正極およびポリマー電解質フィルムを使用して異なる種類のセルを構築し、それらには2032型ボタン電池、パウチセルおよびバイポーラパウチセルを含む。典型的なセルでは、正極、ポリマー電解質および負極の層が下から上へスタックされ、そして試験のために密閉される。
【0125】
実施例4
バッテリーは実施例2および3に記載の構成要素から組み立てた。添加剤を含むNaOH溶液を電解質として使用した。ニッポンコドシコーポレーション(Nippon Kodoshi Corpoation)からの不織セパレータ(VLS55L200)を使用した。
図3に示すように放電電圧は、Alホイル負極に比べて約1V高かった(他の構成要素は同じ)。
【0126】
実施例5
バッテリーは、実施例1~3に記載の構成要素から組み立てた。15マイクロメートルのフィルムに形成し、そして実施例3からの負極と実施例2からの正極との間の電解質として挿入した実施例1Aからの固体イオン伝導性ポリマー材料を用いて、アルミニウム-MnO
2バッテリーを構築し、そして試験した。
図4に示すようにバッテリーは典型的な充電-放電挙動を示した。
【0127】
本発明を特定のその好適な態様に従い本明細書に詳細に記載してきたが、それらの多くの改変および変更は、当業者により本発明の精神から逸脱せずになされ得るであろう。したがって我々は本発明が添付の請求の範囲により限定されるだけであり、本明細書に記載した態様の詳細および手段によってはどのようにも限定されないことを意図している。記載した観点の概念から離れることなく前記構造に様々な変更および改良を行うことができると理解され、そしてさらにそのような概念は明白に別段の定めがある場合を除き、以下の請求の範囲により網羅されることを意図していると理解される。