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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】製紙用経緯2層織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20220105BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20220105BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D11/00 Z
D03D1/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018012919
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019131901
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053067(JP,A)
【文献】特表2008-531866(JP,A)
【文献】特開2003-342889(JP,A)
【文献】特開2015-105448(JP,A)
【文献】特開2007-046188(JP,A)
【文献】特開2017-145518(JP,A)
【文献】特開2000-160493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙面側経糸及び製紙面側緯糸からなる製紙面側織物層と、
走行面側経糸及び走行面側緯糸からなる走行面側織物層とを有し、
完全組織における前記製紙面側経糸は、前記製紙面側緯糸を織り込む複数個の第1繰り返し単位と、前記走行面側緯糸を織り込む少なくとも1個の第1接結単位とからなり、
前記完全組織における前記製紙面側経糸において、前記第1繰り返し単位の個数は、前記第1接結単位の個数よりも多く、
前記第1繰り返し単位は、前記製紙面側経糸が、前記走行面側緯糸の上において、所定数の前記製紙面側緯糸の下を通った後、所定数の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、
前記第1接結単位は、前記第1繰り返し単位に対して、前記製紙面側経糸が、前記製紙面側緯糸の上を通ることに代えて、その製紙面側緯糸の近傍の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成され、
前記完全組織における前記走行面側経糸は、前記走行面側緯糸を織り込む複数個の第2繰り返し単位と、前記製紙面側緯糸を織り込む少なくとも1個の第2接結単位とからなり、
前記完全組織における前記走行面側経糸において、前記第2繰り返し単位の個数は、前記第2接結単位の個数よりも多く、
前記第2繰り返し単位は、前記走行面側経糸が、前記製紙面側緯糸の下において、所定数の前記走行面側緯糸の上を通った後、所定数の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成され、
前記第2接結単位は、前記第2繰り返し単位に対して、前記走行面側経糸が、前記走行面側緯糸の下を通ることに代えて、その走行面側緯糸の近傍の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、
互いに隣接する前記製紙面側経糸及び前記走行面側経糸において、前記第1接結単位で織り込まれた前記走行面側緯糸と前記第2接結単位で織り込まれた前記製紙面側緯糸とは、経方向において互いに隣接し、
前記完全組織における経糸群は、前記製紙面側経糸、前記走行面側経糸、前記走行面側経糸及び前記製紙面側経糸の順で並んだ経糸ユニットの繰り返しによって構成されたことを特徴とする製紙用経緯2層織物。
【請求項2】
各々の前記経糸ユニットにおける一方の前記製紙面側経糸の前記第1接結単位の位置は、他方の前記製紙面側経糸の前記第1接結単位の位置に対して経方向にずれていることを特徴とする請求項1に記載の製紙用経緯2層織物。
【請求項3】
前記完全組織の前記経糸群は、2のn乗(nは1以上の整数)個の前記経糸ユニットからなることを特徴とする請求項2に記載の製紙用経緯2層織物。
【請求項4】
前記完全組織において、前記製紙面側緯糸の数と前記走行面側緯糸の数との比は、2:1であり、
前記第1繰り返し単位は、前記製紙面側経糸が、3本の前記製紙面側緯糸の下を通った後、1本の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、
前記第2繰り返し単位は、前記走行面側経糸が、1本の前記走行面側緯糸の上を通った後、1本の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成されたことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の製紙用経緯2層織物。
【請求項5】
前記完全組織における前記製紙面側経糸の各々に含まれる前記第1接結単位は1個であり、
前記完全組織における前記走行面側経糸の各々に含まれる前記第2接結単位は1個であり、
前記完全組織において、前記経糸群は4つの前記経糸ユニットからなり、前記製紙面側緯糸及び前記走行面側緯糸の数の合計は48本~72本であることを特徴とする請求項4に記載の製紙用経緯2層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙面側経糸及び製紙面側緯糸を有する製紙面側織物層と、走行面側経糸及び走行面側緯糸を有する製紙面側織物層とを有する製紙用経緯2層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
経糸及び緯糸を製織することによって構成した製紙用織物は、抄紙用のワイヤーやプレスフェルト、プレスベルト、ドライヤーカンバス等の多くの用途に使用されている。抄紙機のワイヤーパートにおいて使用される抄紙用ワイヤーは、製造される紙の品質向上や、製造速度の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、皺なく蛇行せずに安定して走行する走行性、原料液から水をより多く除去する脱水性や通気性、表面の凹凸が転写して紙に残ることを抑制する表面性(紙面性)、目詰まりや粘着成分の付着を抑制する防汚性、摩耗に耐える耐摩耗等が求められている。
【0003】
ワイヤーとして経緯2層織物を使用すると、製紙面側織物層は表面性を重視した構造とし、走行面側織物層は耐摩耗性を重視した構造とすることにより、両特性を併せ持つワイヤーとなる。製紙面側織物層と走行面側織物層と接結するため、両層に織り込まれる接結糸が用いられることがある。例えば、製紙面側経糸、走行面側経糸、製紙面側経接結糸、及び走行面側経接結糸の4種類の経糸と、製紙面側緯糸及び走行面側緯糸の2種類の緯糸とで経緯2層織物を形成するものがある。
【0004】
また、特許文献1には、製紙面側経糸と走行面側経糸とが交互に配置され、互いに隣接する製紙面側経糸及び走行面側経糸がペアとなり、各ペアにおける接結部分(製紙面側経糸が走行面側緯糸を織り込む部分、走行面側経糸が製紙面側緯糸を織り込む部分)が互いに隣接する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4758446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経糸と経接結糸とを用いる構造では、経糸と経接結糸とでは屈曲率が異なるため、製織時、屈曲の小さい経糸が弛み、そのため表面性に影響するという問題があった。また、特許文献1に記載の構造では、製紙面側経糸と走行面側経糸とが交互に配置されているため、走行面側経糸同士が互いに密着せず、走行面側緯糸の摩耗可能範囲小さくなり、そのため、耐摩耗性が低く使用期間が短くなるという問題があった。更に、特許文献1に記載の構造では、互いに隣接する4本の経糸(2本の製紙面側経糸及び2本の走行面側経糸)毎に互いに密集した状態になるため、2本ずつ製紙面側経糸がペアリングした状態になって製紙面側経糸の間隔に疎密が生じ、表面性を悪くするという問題があった(図8(特許文献1に記載の構造に類似する構造の比較例を示す図)参照)。
【0007】
このような問題を鑑み、本発明は、表面性及び耐摩耗性の高い製紙用経緯2層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用経緯2層織物(1)は、製紙面側経糸(2)及び製紙面側緯糸(3)からなる製紙面側織物層(4)と、走行面側経糸(5)及び走行面側緯糸(6)からなる走行面側織物層(7)とを有し、完全組織における前記製紙面側経糸は、前記製紙面側緯糸を織り込む複数個の第1繰り返し単位(8)と、前記走行面側緯糸を織り込む少なくとも1個の第1接結単位(9)とからなり、前記完全組織における前記製紙面側経糸において、前記第1繰り返し単位の個数は、前記第1接結単位の個数よりも多く、前記第1繰り返し単位は、前記製紙面側経糸が、前記走行面側緯糸の上において、所定数の前記製紙面側緯糸の下を通った後、所定数の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、前記第1接結単位は、前記第1繰り返し単位に対して、前記製紙面側経糸が、前記製紙面側緯糸の上を通ることに代えて、その製紙面側緯糸の近傍の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成され、前記完全組織における前記走行面側経糸は、前記走行面側緯糸を織り込む複数個の第2繰り返し単位(10)と、前記製紙面側緯糸を織り込む少なくとも1個の第2接結単位(11)とからなり、前記完全組織における前記走行面側経糸において、前記第2繰り返し単位の個数は、前記第2接結単位の個数よりも多く、前記第2繰り返し単位は、前記走行面側経糸が、前記製紙面側緯糸の下において、所定数の前記走行面側緯糸の上を通った後、所定数の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成され、前記第2接結単位は、前記第2繰り返し単位に対して、前記走行面側経糸が、前記走行面側緯糸の下を通ることに代えて、その走行面側緯糸の近傍の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、互いに隣接する前記製紙面側経糸及び前記走行面側経糸において、前記第1接結単位で織り込まれた前記走行面側緯糸と前記第2接結単位で織り込まれた前記製紙面側緯糸とは、経方向において互いに隣接し、前記完全組織における経糸群は、前記製紙面側経糸、前記走行面側経糸、前記走行面側経糸及び前記製紙面側経糸の順で並んだ経糸ユニット(12)の繰り返しによって構成されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、経糸ユニットが製紙面側経糸、走行面側経糸、走行面側経糸及び製紙面側経糸の順に並んでいるため、走行面側緯糸の摩耗可能部分が大きくなって耐摩耗性が高くなるとともに、製紙面側経糸同士の間隔も略均一になるため表面性が高くなる。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用経緯2層織物は、上記構成において、各々の前記経糸ユニットにおける一方の前記製紙面側経糸の前記第1接結単位の位置は、他方の前記製紙面側経糸の前記第1接結単位の位置に対して経方向にずれていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、接結部分が分散するため、表面性が高くなる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用経緯2層織物は、上記構成において、前記完全組織の前記経糸群は、2のn乗(nは1以上の整数)個の前記経糸ユニットからなることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、接結部分を分散して配置することができ、表面性が高くなる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用経緯2層織物は、上記構成の何れかにおいて、前記完全組織において、前記製紙面側緯糸の数と前記走行面側緯糸の数との比は、2:1であり、前記第1繰り返し単位は、前記製紙面側経糸が、3本の前記製紙面側緯糸の下を通った後、1本の前記製紙面側緯糸の上を通ることによって構成され、前記第2繰り返し単位は、前記走行面側経糸が、1本の前記走行面側緯糸の上を通った後、1本の前記走行面側緯糸の下を通ることによって構成されたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、通気性や耐摩耗性のバランスが良好となる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用経緯2層織物は、上記構成において、前記完全組織における前記製紙面側経糸の各々に含まれる前記第1接結単位は1個であり、前記完全組織における前記走行面側経糸の各々に含まれる前記第2接結単位は1個であり、前記完全組織において、前記経糸群は4つの前記経糸ユニットからなり、前記製紙面側緯糸及び前記走行面側緯糸の数の合計は48本~72本であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1接合単位及び第2接合単位を分散して配置できるとともに、良好な表面性及び通気性を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面性及び耐摩耗性の高い製紙用経緯2層織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る製紙用経緯2層織物の経糸の織り込み態様を示す断面図
図2】実施形態に係る製紙用経緯2層織物の経糸同士の間隔を示す断面図
図3】実施形態に係る製紙用経緯2層織物を製紙面側から見た説明図
図4】実施形態に係る製紙用経緯2層織物を走行面側から見た説明図
図5】製紙面側から見た組織の写真(A:実施形態、B:比較例)
図6】走行面側から見た組織の写真(A:実施形態、B:比較例)
図7】比較例に係る製紙用経緯2層織物の経糸の織り込み態様を示す断面図
図8】比較例に係る製紙用経緯2層織物の経糸同士の間隔を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1図4図5(A)及び図6(A)は、実施形態に係る製紙用経緯2層織物(以下、単に「織物」と記す)1を示す。織物1は、抄紙機のワイヤーパート(ウェットパート)において、紙料(液)から湿紙を形成するためのワイヤーとして使用される。織物1は、抄紙機のロールに掛け渡され、ロールの回転に応じて走行する。織物1の紙料及び湿紙と接触する面を製紙面、製紙面と相反する側の面を走行面という。織物1の製紙面上には、紙料が載せられ、脱水によって湿紙が形成される。抄紙機に取り付けられた織物1は、無端のベルト状の形状となるが、以下の説明においては、便宜上、製紙面側を上方、走行面側を下方という。なお、走行面側から見た説明図である図4は、製紙面側から見た説明図である図3と比較して説明する便宜上、左右を反転させた状態で示している。
【0021】
織物1は、製紙面側経糸2及び製紙面側緯糸3からなる製紙面側織物層4と、走行面側経糸5及び走行面側緯糸6からなる走行面側織物層7とを有する。織物1の組織は、完全組織を基礎としてその繰り返しによって構成されるが、その完全組織は、8本の製紙面側経糸2、40本の製紙面側緯糸3、8本の走行面側経糸5及び20本の走行面側緯糸6によって構成される。図1の断面図、並びに図3及び図4に示す完全組織の説明図において、経糸No.1´,4´,5´,8´,9´,12´,13´及び16´の経糸が製紙面側経糸2であり、経糸No.2´,3´,6´,7´,10´,11´,14´及び15´の経糸が走行面側経糸5である。また、緯糸No.1,3,4,6・・・(3l-2及び3l(lは、1から20の整数))の緯糸が製紙面側緯糸3であり、緯糸No.2,5・・・(3l-1(lは、1から20の整数))の緯糸が走行面側緯糸6である。以下、経糸No.m´の製紙面側経糸2及び走行面側経糸5をそれぞれ、経糸No.m´T及び経糸No.m´Bと記し、緯糸No.mの製紙面側緯糸3及び走行面側緯糸6をそれぞれ、緯糸No.mT及び緯糸No.mBと記す。
【0022】
完全組織における各々の製紙面側経糸2は、製紙面側緯糸3を織り込む9個の第1繰り返し単位8と、走行面側緯糸6を織り込む1個の第1接結単位9とからなる。第1繰り返し単位8は、製紙面側経糸2が、走行面側緯糸6の上において、3つの製紙面側緯糸3の下を通った後、1つの製紙面側緯糸3の上を通ることによって構成される。第1接結単位9は、第1繰り返し単位8に対して、製紙面側経糸2が、製紙面側緯糸3の上を通ることに代えて、その製紙面側緯糸3の近傍の走行面側緯糸6の下を通ることによって構成される。例えば経糸No.1´Tは、緯糸No.3T,4T,6Tの下を通り、緯糸No.7Tの上を通って1つの第1繰り返し単位8を構成し、続いて、緯糸No.9T,10T,12Tの下を通り、緯糸No.13Tの上を通って別の第1繰り返し単位8を構成するように、第1繰り返し単位8が9回繰り返される。第1繰り返し単位8が9回繰り返された後、経糸No.1´Tは、緯糸No.57T,58T,60Tの下を通った後、第1繰り返し単位8が繰り返されるのであれば緯糸No.1Tの上を通るところ、緯糸No.1Tに最も近接する走行面側緯糸6である、緯糸No.2Bの下を通る。
【0023】
完全組織における各々の走行面側経糸5は、走行面側緯糸6を織り込む9個の第2繰り返し単位10と、製紙面側緯糸3を織り込む1個の第2接結単位11とからなる。第2繰り返し単位10は、走行面側経糸5が、製紙面側緯糸3の下において、1つの走行面側緯糸6の上を通った後、1つの走行面側緯糸6の下を通ることによって構成される。第2接結単位11は、第2繰り返し単位10に対して、走行面側経糸5が、走行面側緯糸6の下を通ることに代えて、その走行面側緯糸6の近傍の製紙面側緯糸3の上を通ることによって構成される。例えば経糸No.2´Bは、緯糸No.5Bの上を通った後、緯糸No.8Bの下を通って1つの第2繰り返し単位10を構成し、続いて、緯糸No.11Bの上を通った後、緯糸No.14Bの下を通って別の第2繰り返し単位10を構成するように、第2繰り返し単位10が9回繰り返される。第2繰り返し単位10が9回繰り返された後、経糸No.2´Bは、緯糸No.59Bの上を通った後、第2繰り返し単位10が繰り返されるのであれば緯糸No.2Bの下を通るところ、緯糸No.2Bに最も近接する製紙面側緯糸3の1つである、緯糸No.1Tの上を通る。
【0024】
互いに隣接する製紙面側経糸2及び走行面側経糸5において、第1接結単位9及び第2接結単位11は互いに隣接し、製紙面側経糸2に第1接結単位9で織り込まれた走行面側緯糸6は、隣接する走行面側経糸5がそこを第2繰り返し単位10で織り込むならばその走行面側経糸5に織り込まれるべきであったものである。同様に、走行面側経糸5に第2接結単位11で織り込まれた製紙面側緯糸3は、隣接する製紙面側経糸2がそこを第1繰り返し単位8で織り込むならばその製紙面側経糸2に織り込まれるべきであったものである。よって、互いに隣接する製紙面側経糸2及び走行面側経糸5において、第1接結単位9で織り込まれた走行面側緯糸6と第2接結単位11で織り込まれた製紙面側緯糸3とは、経方向において互いに隣接している。例えば、経糸No.1´Tの第1接結単位9で織り込まれた走行面側緯糸6は、経糸No.2´Bの第2接結単位11の部分が第2繰り返し単位10であったならば経糸No.2´Bに織り込まれていたはずの緯糸No.2Bに一致する。同様に、経糸No.2´Bの第2接結単位11で織り込まれた製紙面側緯糸3は、経糸No.1´Tの第1接結単位9の部分が第1繰り返し単位8であったならば経糸No.1´Tに織り込まれていたはずの緯糸No.1Tに一致する。また、緯糸No.1Tと緯糸No.2Bとは、経方向において互いに隣接している。
【0025】
完全組織における経糸群は、製紙面側経糸2、走行面側経糸5、走行面側経糸5及び製紙面側経糸2の順で並んだ経糸ユニット12が4つ繰り返されることによって構成される。具体的には、経糸No.1´~4´、経糸No.5´~8´、経糸No.9´~12´及び経糸No.13´~16´のそれぞれが経糸ユニット12を構成している。
【0026】
図3及び図4に示す丸印は、第1接結単位9及び第2接結単位11において、製紙面側経糸2及び走行面側経糸5が、それぞれ接結すべく織り込んでいる走行面側緯糸6及び製紙面側緯糸3を示す。各々の経糸ユニット12に属する一方の製紙面側経糸2の第1接結単位9の位置は、他方の製紙面側経糸2の第1接結単位9の位置に対して経方向にずれている。好ましくは、そのずれの長さは、完全組織に含まれる第1繰り返し単位8の数の1/2又は1/2に最も近い整数の分の第1繰り返し単位8の長さである。例えば、経糸No.1´の第1接結単位9で織り込まれる走行面側緯糸6は、緯糸No.2Bであり、経糸No.1´Tと同じ経糸ユニット12に属する経糸No.4´Tの第1接結単位9で織り込まれる走行面側緯糸6は、緯糸No.2Bから、4個(完全組織において、1つの製紙面側経糸2における第1繰り返し単位の数は9個であり、その1/2に最も近い整数は4又は5個)の第1繰り返し単位8の分の長さだけずれた位置の緯糸No.26Bである。同様の位置関係が、各々の経糸ユニット12に属する2つの走行面側経糸5の第2接結単位の位置について成立する。更に、任意の経糸ユニット12における第1接結単位9及び第2接結単位11の位置は、他の3つの接結ユニットにおける第1接結単位9及び第2接結単位11の位置に対して経方向にずれている。
【0027】
なお、製紙面側経糸2、製紙面側緯糸3、走行面側経糸5及び走行面側緯糸6の形態は特に限定されないが、モノフィラメントの単糸及び撚糸を用いることができ、特に単糸を用いることが好ましい。更に、各糸は捲縮加工や嵩高加工等を施した加工糸でもよく、非加工糸であってもよい。これらの中では非加工糸が好ましい。
【0028】
製紙面側経糸2、製紙面側緯糸3、走行面側経糸5及び走行面側緯糸6を構成する材料は特に限定されないが、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、製紙面側経糸2、製紙面側緯糸3、走行面側経糸5及び走行面側緯糸6は、互いに同一材料から構成されても、異なる材料から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。走行面側緯糸6は、製紙面側緯糸3より太いことが好ましい。製紙面側経糸2と走行面側経糸5とは、屈曲率が等しくなるように互いに同種同径の糸を用いることが好ましい。
【0029】
図5(B)、図6(B)、図7及び図8は、比較例に係る織物101を示す。図1及び図7を参照すると、比較例に係る織物101は、実施形態に係る織物1に対して、経糸No.3´及び経糸No.4´の配置、並びに経糸No.7´及び経糸No.8´の配置が互いに逆となっている。すなわち、実施形態に係る織物1の経糸ユニット12では、製紙面側経糸2、走行面側経糸5、走行面側経糸5及び製紙面側経糸2の順で並んでいるが、比較例に係る織物101の経糸ユニット112では、製紙面側経糸102、走行面側経糸105、製紙面側経糸102及び走行面側経糸105の順で並んでいる。なお、製紙面側経糸102の各々における第1繰り返し単位108及び第1接結単位109の配置、並びに走行面側経糸105の各々における第2繰り返し単位110及び第2接結単位111の配置は、実施例に係る織物1と同様である。
【0030】
実施形態に係る織物1は、製紙面側経糸2と走行面側経糸5とは、互いに同種同径の糸等、屈曲率が互いに等しい又は近似する糸を用いることにより、屈曲率の異なる接結糸を用いて製紙面側織物層4と走行面側織物層7とを互いに接結した場合に生じる、製紙面側経糸2及び走行面側経糸5の弛みという問題を回避でき、表面性が良好である。この点は、比較例に係る織物101も同様である。
【0031】
しかし、図8に示すように、比較例に係る織物101は、製紙面側経糸102及び走行面側経糸105は、互いに交互に配置されているため、製織時の影響で、経糸ユニット112毎に、すなわち、互いに隣接する製紙面側経糸102及び走行面側経糸105の合計4本毎に密集する。そのため、図5(B)に示すように、製紙面側経糸102同士の間隔は、比較的広い部分と比較的狭い部分とが交互に現れる。一方、図2及び図5(A)に示すように、実施形態に係る織物1は、経糸ユニット12において、製紙面側経糸2、走行面側経糸5、走行面側経糸5及び製紙面側経糸2の順に配置されているため、製織後に製紙面側経糸2同士の間隔を略均等にすることができる。よって、実施形態に係る織物1は、比較例に係る織物101に比べて表面性に優れる。
【0032】
また、図6に示すように、実施形態に係る織物1は、製紙面側経糸2、走行面側経糸5、走行面側経糸5及び製紙面側経糸2の順に並んだ経糸ユニット12が繰り返されることにより、製紙面側経糸102及び走行面側経糸105が交互に繰り返される比較例に係る織物101に比べて、走行面側緯糸6の摩耗可能範囲が大きくなっている。そのため、実施形態に係る織物1は、耐摩耗性が高い。
【0033】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0034】
完全組織における経糸及び緯糸の本数は適宜変更できる。例えば、上記実施形態と同様に、製紙面側緯糸2本及び走行面側緯糸1本を1セット(製紙面側緯糸と走行面側緯糸との比が2:1)とし、完全組織に8箇所の接結部分を設ける場合について検討する。緯方向に並ばないように、8箇所の接結部分を経方向に分散させるためには、経方向に8セット分の緯糸が必要になる。よって、緯糸の最低本数は、3本×8セットで24本(製紙面側緯糸16本、走行面側緯糸8本)となる。
しかし、緯糸を最低本数とした場合、経方向の何れかに接結部分が存在するため、表面性や通気性が悪化する。そこで、接結部分が最低1セットの間を置いて経方向に並ぶことが好ましく、この場合、緯糸の本数は、3本×(8セット×2)で、48本(製紙面側緯糸32本、走行面側緯糸16本)となる。
【0035】
なお、3/1組織(製紙面側経糸が3本の製紙面側緯糸の下を通った後、1本の製紙面側緯糸の上を通る構成)という組織の並びの分散と合わせると、48本の緯糸では、3/1組織を経方向に均一に分散させることができず、間が開かない部分や開きすぎの部分ができる。そこで、緯糸セットを少し追加する形で、3/1組織を守りながら、分散もある程度均一にするようにすると、実施形態に係る織物のように、3本×(8セット×2)+3本×4セットで、緯糸を60本(製紙面側緯糸40本、走行面側緯糸20本)とすることが好ましい。更に、3本×(8セット×3)で、緯糸を72本(製紙面側緯糸48本、走行面側緯糸24本)とすれば、経方向に均一に近い分散が可能となる。このように、完全組織における緯糸本数は、48本~72本が好ましい。
【0036】
また、経糸の本数を変更する場合は、経糸ユニットの数が2のn乗(nは1以上の整数)とすることが好ましい。このようにすれば、nが1つ増えるごとに、増やす部分の接結部分の経方向の位置を、既存の部分の接結部分間の経方向距離の半分だけずらすことにより、接結部分を分散して配置することができる。
【0037】
また、製紙面側織物層及び走行面側織物層の組織の並びも変更可能である。例えば、製紙面側の組織の並びを、1/1組織や、2/2組織、1/3組織に変更してもよい。また、完全組織における1つの経糸に第1及び第2接結単位を複数設けてもよく、1つの経糸に含まれる第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位の数を変更してもよい。本発明に係る織物を、製紙用フェルトの基布等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1:製紙用経緯2層織物
2:製紙面側経糸
3:製紙面側緯糸
4:製紙面側織物層
5:走行面側経糸
6:走行面側緯糸
7:走行面側織物層
8:第1繰り返し単位
9:第1接結単位
10:第2繰り返し単位
11:第2接結単位
12:経糸ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8