(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】軌道回路装置
(51)【国際特許分類】
B61L 1/18 20060101AFI20220105BHJP
B61L 3/08 20060101ALI20220105BHJP
H04L 27/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B61L1/18 H
B61L3/08 A
H04L27/18 Z
(21)【出願番号】P 2018047834
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 恭嗣
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐也
(72)【発明者】
【氏名】香川 卓也
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-173486(JP,A)
【文献】特開昭64-41348(JP,A)
【文献】特開2003-121420(JP,A)
【文献】実開平3-42477(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/18
B61L 3/08
H04L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道回路に列車検知信号を送信する送信機と前記軌道回路から前記列車検知信号を受信して前記軌道回路における列車の有無を検知する受信機とを含む軌道回路装置であって、
前記送信機は、交流電源からの交流信号を分周変調器によって分周すると共にPSK(Phase Shift Keying)変調して前記列車検知信号を生成するように構成され、
前記分周変調器は、
センタータップを有する一次巻線と二次巻線とを有し、前記一次巻線の一方の端部が第1スイッチング素子を介して前記交流電源の一端に接続されていると共に前記一次巻線の他方の端部が第2スイッチング素子を介して前記交流電源の前記一端に接続されており、前記センタータップが前記交流電源の他端に接続されているトランスと、
前記交流電源からの前記交流信号がゼロレベルと交差するゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出部と、
前記二次巻線に発生する出力波形を平滑化する平滑部と、
前記ゼロクロス点検出部によって検出されるゼロクロス点、あらかじめ設定された分周比及びあらかじめ設定されたビットパターンに基づいて、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子のいずれか一方をON制御する制御部と、
を含む、
軌道回路装置。
【請求項2】
前記交流電源として商用電源が用いられている、請求項1に記載の軌道回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の在線を検知する軌道回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、商用電源などから供給される交流信号(交流電力)を1/2に分周して信号電流として軌道回路に流すように構成された軌道回路装置が知られている。この種の軌道回路装置の多くは、前記交流信号を分周するために、2個のロの字型の鉄心と、前記鉄心に巻かれた3個のコイルと、シリコン整流素子と、サージ対策用のバリスタ及びコンデンサと、共振コンデンサとで構成された分周器を用いている。また、商用周波数の1/2の周波数の搬送波をデジタル変調して変調信号を生成し、生成された変調信号を列車検知信号として軌道回路に送信するように構成された軌道回路装置も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
【文献】鉄道技術者のための信号概論 軌道回路〔改訂二版〕 (社)日本鉄道電気技術協会 P.93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような構成の従来の分周器は、製造に手間がかかるため、製造コストが高いという課題を有している。また、前記従来の分周器の安定供給が難しい状況になってきているという実情もある。このため、前記従来の分周器を用いない構成の軌道回路装置が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、前記従来の分周器を用いることなく交流信号を分周し且つPSK変調して列車検知信号を生成することのできる軌道回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、軌道回路に列車検知信号を送信する送信機と前記軌道回路から前記列車検知信号を受信して前記軌道回路における列車の有無を検知する受信機とを含む軌道回路装置が提供される。前記軌道回路装置において、前記送信機は、交流電源からの交流信号を分周変調器によって分周し且つPSK(Phase Shift Keying)変調して前記列車検知信号を生成するように構成されている。また、前記分周変調器は、センタータップを有する一次巻線と二次巻線とを有し、前記一次巻線の一方の端部が第1スイッチング素子を介して前記交流電源の一端に接続されていると共に前記一次巻線の他方の端部が第2スイッチング素子を介して前記交流電源の前記一端に接続されており、前記センタータップが前記交流電源の他端に接続されているトランスと、前記交流電源からの前記交流信号がゼロレベルと交差するゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出部と、前記二次巻線に発生する出力波形を平滑化する平滑部と、前記ゼロクロス点検出部によって検出されるゼロクロス点、あらかじめ設定された分周比及びあらかじめ設定されたビットパターンに基づいて、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子のいずれか一方をON制御する制御部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
前記軌道回路装置によると、前記従来の分周器を用いることなく、比較的簡単な構成の前記分周変調器によって、前記交流電源からの前記交流信号を分周し且つPSK変調して前記列車検知信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る軌道回路装置の概略構成を示す図である。
【
図2】前記軌道回路装置の送信機の構成を示す図である。
【
図3】前記軌道回路装置の受信機の構成を示す図である。
【
図4】交流電源から供給される交流信号を分周する場合における前記送信機の分周変調器の動作を説明するための図である。
【
図5】前記交流信号を分周すると共にPSK変調する場合における前記分周変調器の動作を説明するための図である(ビット値=0)。
【
図6】前記交流信号を分周すると共にPSK変調する場合における前記分周変調器の動作を説明するための図である(ビット値=1)。
【
図7】前記分周変調器によって生成される列車検知信号の一例を示す図である。
【
図8】交流電源から供給される交流信号を分周する場合における前記送信機の分周変調器の他の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る軌道回路装置の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、実施形態に係る軌道回路装置1は、列車Tが走行するレールRを利用した軌道回路TCに列車検知信号を送信する送信機2と、軌道回路TCから前記列車検知信号を受信して軌道回路TCにおける列車Tの有無を検知する受信機3と、を含む。
【0011】
送信機2は、軌道回路TCの列車進出側に設けられている。具体的には、送信機2は、整合変成器(マッチングトランス)4A及び共振コンデンサ5Aを介して、軌道回路TCと軌道回路TCの列車進出側に隣接する軌道回路TC-Aとの境界に設置されたインピーダンスボンド6Aの3次コイル7Aに接続されている。
【0012】
受信機3は、軌道回路TCの列車進入側に設けられている。具体的には、受信機3は、整合変成器(マッチングトランス)4B及び共振コンデンサ5Bを介して、軌道回路TCと軌道回路TCの列車進入側に隣接する軌道回路TC-Bとの境界に設置されたインピーダンスボンド6Bの3次コイル7Bに接続されている。
【0013】
図2は、送信機2の構成を示す図である。
図1、
図2に示されるように、本実施形態において、送信機2は、交流電源10と分周変調器20とを有する。そして、送信機2は、交流電源10から供給される交流信号(交流電力)を分周変調器20によって分周し且つPSK(Phase Shift Keying)変調して前記列車検知信号を生成し、生成した前記列車検知信号を軌道回路TCに送信するように構成されている。
【0014】
交流電源10は、交流信号を発生又は供給する装置等であればよく、特に制限されないが、例えば商用電源や発振器が交流電源10として使用され得る。
【0015】
分周変調器20は、変成器(トランス)21と、第1スイッチング素子SW1と、第2スイッチング素子SW2と、ゼロクロス点検出部22と、電文記憶部23と、平滑部24と、制御部25と、を含む。
【0016】
トランス21は、図示省略の磁性材料からなるコアと、前記コアに巻かれた一次巻線211と、前記コアに巻かれた二次巻線212と、を有する。一次巻線211にはセンタータップ213が設けられている。一次巻線211の一方の端部(巻き始め側の端部)211aは、ON/OFF制御される第1スイッチング素子SW1を介して、交流電源10の一方の出力端10aに接続されており、同様に、一次巻線211の他方の端部(巻き終わり側の端部)211bは、ON/OFF制御される第2スイッチング素子SW2を介して、交流電源10の一方の出力端10aに接続されている。また、センタータップ213は、交流電源10の他方の出力端10bに接続されている。
【0017】
したがって、第1スイッチング素子SW1がON制御され且つ第2スイッチング素子SW2はOFF制御されると、一次巻線211における前記一方の端部211aからセンタータップ213までの第1巻線部214に交流電源10から供給される交流信号が印加される。また、第1スイッチング素子SW1がOFF制御され且つ第2スイッチング素子SW2がON制御されると、一次巻線211における前記他方の端部211bからセンタータップ213までの第2巻線部215に交流電源10から供給される交流信号が印加される。そして、一次巻線211の第1巻線部214に印加される交流信号と一次巻線211の第2巻線部215に印加される交流信号とは互いに逆位相である。
【0018】
ゼロクロス点検出部22は、交流電源10から供給される交流信号がゼロレベルと交差するゼロクロス点を検出する。
【0019】
電文記憶部23は、軌道回路装置1で使用可能な複数の電文(デジタル信号)の情報を記憶している。具体的には、本実施形態において、電文記憶部23は、前記複数の電文のそれぞれの電文識別IDとあらかじめ設定されたビットパターンとを対応付けて記憶している。特に制限されるものではないが、本実施形態においては、7ビットの電文が使用されている。そして、電文記憶部23は、電文識別IDとしての電文番号とこれに対応する7ビットのビットパターンとを記憶している。例えば、電文記憶部23は、「電文1:0010011」、「電文2:0010101」、「電文3:0010111」及び「電文4:0011101」を記憶している。
【0020】
平滑部24は、例えばローパスフィルタで構成されており、二次巻線212の出力、すなわち、一次巻線211(第1巻線部214、第2巻線部215)への交流信号の印加によって二次巻線212に生じる出力波形を平滑化して出力する。
【0021】
制御部25には、図示省略の分周比設定部によってあらかじめ設定された分周比D(Dは2以上の整数)及び図示省略の電文決定部によって決定された電文識別IDが入力される。制御部25は、電文識別IDが入力されると、入力された電文識別IDに対応してあらかじめ設定されたビットパターンを電文記憶部23から読み出す。例えば、入力された電文識別IDが電文1を示す場合、制御部25は、電文記憶部23から電文1のビットパターン「0010011」を読み出す。また、制御部25には、ゼロクロス点検出部2によって検出される前記ゼロクロス点が入力される。
【0022】
そして、制御部25は、事前に入力された分周比D、事前に入力された電文識別IDに基づいて電文記憶部23から読み出したビットパターン及びゼロクロス点検出部22によって検出される前記ゼロクロス点に基づいて第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2のいずれか一方をON制御する。これにより、交流電源10から供給される交流信号が分周変調器20において1/Dに分周され且つPSK変調されてPSK信号としての前記列車検知信号が生成され、生成された前記列車検知信号が軌道回路TCに送信される。なお、分周変調器20の動作、主に制御部25による第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2の制御については後述する。
【0023】
図3は、受信機3の構成を示す図である。
図3に示されるように、本実施形態において、受信機3は、レベル判定部31と、復調部32と、検定符号記憶部33と、符号判定部34と、在線判定部35と、を有する。
【0024】
レベル判定部31は、軌道回路TCから受信した前記列車検知信号のレベル(受信レベル)とあらかじめ設定された閾値とを比較する。そして、レベル判定部31は、前記受信レベルが前記閾値以上であれば「受信レベル:高」と判定し、前記受信レベルが前記閾値未満であれば「受信レベル:低」と判定する。レベル判定部31の判定結果は、在線判定部35に出力される。
【0025】
復調部32は、軌道回路TCから受信した前記列車検知信号を復調して受信符号(受信ビットパターン)を取得し、取得された受信符号を符号判定部34に出力する。
【0026】
検定符号記憶部33は、前記複数の電文のそれぞれの電文識別IDとあらかじめ設定された検定符号とを対応付けて記憶している。特に制限されるものではないが、本実施形態においては、前記各電文(7ビットの電文)に対して7つの検定符号が設定されている。例えば、検定符号記憶部33は、「電文1(0010011)」の検定符号として、「0010011」、「0100110」、「1001100」、「0011001」、「0110010」、「1100100」及び「1001001」を記憶している。
【0027】
符号判定部34には、分周変調器20の制御部25に入力される電文識別IDと同一の電文識別IDが入力される。符号判定部34は、電文識別IDが入力されると、入力された電文識別IDに対応する複数(ここでは7つ)の検定符号を検定符号記憶部33から読み出す。そして、符号判定部34は、復調部32から入力した前記受信符号と検定符号記憶部33から読み出した複数の検定符号とを比較し、前記受信符号が前記複数の検定符号のいずれかと一致すれば「符号一致」と判定し、前記受信符号が前記複数の検定符号のいずれにも一致しなければ「符号不一致」と判定する。符号判定部34の判定結果は、在線判定部35に出力される。
【0028】
在線判定部35は、レベル判定部31の判定結果が「受信レベル:高」であり且つ符号判定部34の判定結果が「符号一致」である場合には軌道回路TCに列車Tが存在しない(列車無し)と判定する。一方、在線判定部35は、レベル判定部31の判定結果が「受信レベル:低」である場合及び/又は符号判定部34の判定結果が「信号不一致」である場合には軌道回路TCに列車Tが存在している(列車有り)と判定する。
【0029】
次に、送信機2における分周変調器20に動作について説明する。
本実施形態において、分周変調器20は、交流電源10から供給される交流信号の分周とPSK変調とを同時に行って前記列車検知信号を生成するように構成されている。以下では、説明の便宜上、まず交流電源10から供給される交流信号の分周について説明し、次いで交流電源10から供給される交流信号の分周及びPSK変調について説明し、最後に前記列車検知信号の生成について説明する。
【0030】
なお、以下の説明において、分周変調器20は、交流電源10から供給される交流信号を1/3の周波数に分周するもの(すなわち、分周比D=3に設定されているもの)とする。また、第1スイッチング素子SW1をON制御することは、同時に第2スイッチング素子SW2をOFF制御することを含み、第2スイッチング素子SW2をON制御することは、同時に第1スイッチング素子SW1をOFF制御することを含むものとする。
【0031】
[交流信号の分周]
図4は、交流電源10から供給される交流信号を分周する場合の分周変調器20(第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2)の動作を説明するための図である。
図4において、入力1は、交流電源10から供給される交流信号の波形、さらに言えば、第1スイッチング素子SW1がONであり且つ第2スイッチング素子SW2がOFFである場合に一次巻線211(の第1巻線部214)に印加される交流信号の波形を示している。入力2は、第1スイッチング素子SW1がOFFであり且つ第2スイッチング素子SW2がONである場合に一次巻線211(の第2巻線部215)に印加される交流信号の波形を示している。出力1は、二次巻線212に生じる出力波形を示している。出力2は、平滑部24(すなわち、分周変調器20)の出力波形を示している。
【0032】
分周変調器20の制御部25は、まず交流電源10から供給される交流信号における所定のゼロクロス点X0において第1スイッチング素子SW1をON制御する。なお、前記ゼロクロス点X0は、前記列車検知信号の生成開始点に相当する。その後、分周変調器20の制御部25は、ゼロクロス点X1、X4、X7、X10、・・・において第2スイッチング素子SW2をON制御し、また、ゼロクロス点X2、X5、X8、X11、・・・において第1スイッチング素子SW1をON制御する。これにより、二次巻線212には出力1に示されるような出力波形が生じ、平滑部24(すなわち、分周変調器20)からは出力2に示されるような出力波形が出力される。これにより、交流電源10から供給される交流信号が1/3の周波数に分周される(入力1→出力2)。
【0033】
[交流信号の分周及びPSK変調]
本実施形態においては、交流電源10から供給される交流信号の9周期分の長さが1シンボル期間Tに設定されている。但し、これに限られるものではなく、前記1シンボル期間Tは、前記交流信号のN周期分の長さとして任意に設定可能である。また、分周変調器20の制御部25は、電文記憶部23から読み出したビットパターンのビット値を順次読み取り、ビット値が「0」であれば前記1シンボル期間の波形をそのままとし、ビット値が「1」であれば前記1シンボル期間の波形を逆位相に反転させる。具体的には、分周変調器20の制御部25は、以下に説明するように、第1スイッチング素子SW1又は第2スイッチング素子SW2をON制御することによって、交流電源10から供給される交流信号の分周及びPSK変調を行う。
【0034】
図5、
図6は、交流電源10から供給される交流信号を分周し且つPSK変調する場合の分周変調器20(第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2)の動作を説明するための図である。
図5はビット値が「0」である場合を示し、
図6はビット値が「1」である場合を示している。なお、
図5及び
図6における入力1、入力2、出力1及び出力2は、
図4のそれらと同じである。
【0035】
ビット値が「0」である場合、分周変調器20の動作は、基本的には交流電源10から供給される交流信号を分周する場合(
図4)と同じである。すなわち、ビット値が「0」である場合、分周変調器20の制御部25は、
図5に示されるように、1シンボル周期T内におけるゼロクロス点X
m、X
m+2、X
m+5、X
m+8、X
m+11、X
m+14及びX
m+17において第1スイッチング素子SW1をON制御し、ゼロクロス点X
m+1、X
m+4、X
m+7、X
m+10、X
m+13及びX
m+16において第2スイッチング素子SW2をON制御する。これにより、交流電源10から供給される交流信号の周波数の1/3の周波数を有し且つビット値(データ)「0」を示す1シンボル周期Tの波形(出力2)が生成される。
【0036】
ビット値が「1」である場合、分周変調器20の制御部25は、出力2(平滑部24からの出力波形)が、ビット値が「0」である場合の出力2に対して逆位相となるように、すなわち、第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2をON制御するタイミングをビット値が「0」である場合とは逆にする。具体的には、分周変調器20の制御部25は、
図6に示されるように、1シンボル周期T内におけるゼロクロス点X
n、X
n+2、X
n+5、X
n+8、X
n+11、X
n+14及びX
n+17において第2スイッチング素子SW2をON制御し、ゼロクロス点X
n+1、X
n+4、X
n+7、X
n+10、X
n+13及びX
n+16において第1スイッチング素子SW1をON制御する。これにより、交流電源10から供給される交流信号の周波数の1/3の周波数を有し且つビット値(データ)「1」を示す1シンボル周期Tの波形(出力2)が生成される。
【0037】
[列車検知信号の生成]
図7は、分周変調器20によって生成される前記列車検知信号の一例を示す図であり、分周変調器20の制御部25に入力される電文識別IDが電文4を示す場合、すなわち、分周変調器20の制御部25が電文記憶部23からビットパターン「0011101(電文4)」を読み出した場合に生成される前記列車検知信号の一部を示している。なお、
図7における入力1、出力1及び出力2は、
図4のそれらと同じである。
【0038】
分周比Dが3に設定され、且つ、電文記憶部23から読み出されたビットパターンが「0011101」である場合、分周変調器20の制御部25は、所定のゼロクロス点X0で第1スイッチング素子SW1をON制御することによって前記列車検知信号の生成を開始する。そして、分周変調器20の制御部25は、最初のシンボル周期T1、2番目のシンボル周期T2及び6番目のシンボル周期T6において、上述のビット値が「0」である場合(
図5参照)と同様に第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2を制御する。また、分周変調器20の制御部25は、3-5番目のシンボル周期T3-T5及び7番目のシンボル周期T7において、上述のビット値が「1」である場合(
図6参照)と同様に第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2を制御する。このようにして、7ビットの電文(ここでは電文4)に相当する前記列車検知信号が生成される。そして、分周変調器20は、前記列車検知信号の生成を繰り返し行って軌道回路TCに送信する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る軌道回路装置1において、送信機2は、交流電源10から供給される交流信号を分周変調器20によって分周し且つPSK変調して前記列車検知信号を生成するように構成されている。分周変調器20は、センタータップ213を有する一次巻線211と、二次巻線212とを有するトランス21を含んでいる。トランス21において、一次巻線211の一方の端部(巻き始め側の端部)211a及び他方の端部(巻き終わりの端部)211bはそれぞれ第1スイッチング素子SW1又は第2スイッチング素子SW2を介して交流電源10の一方の出力端10aに接続されており、一次巻線211のセンタータップ213は交流電源10の他方の出力端10bに接続されている。また、分周変調器20は、交流電源10から供給される交流信号のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出部22と、二次巻線212に発生する出力(すなわち、交流電源10から供給される交流信号の一次巻線211への印加によって二次巻線212に生じる出力波形)を平滑化する平滑部24と、第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2を制御する制御部25と、をさらに含んでいる。そして、制御部25は、あらかじめ設定された分周比D、あらかじめ設定されたビットパターン及びゼロクロス点検出部22によって検出されるゼロクロス点に基づいて第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2のいずれか一方をON制御し、これによって、交流電源10から供給される交流信号を分周し且つPSK変調して前記列車検知信号を生成するように構成されている。
【0040】
したがって、本実施形態に係る軌道回路装置によれば、前記従来の分周器を用いることなく、前記従来の分周器に比べて構成が簡単な一つ分周変調器によって、交流電源から供給される交流信号を分周し且つPSK変調して軌道回路に送信する列車検知信号を生成することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【0042】
例えば、上述の実施形態において、分周変調器20は、交流電源10から供給される交流信号を1/3の周波数に分周している。しかし、これに限られるものではない。分周変調器20の制御部25が第1スイッチング素子SW1又は第2スイッチング素子SW2をON制御するゼロクロス点を適宜変更することにより、分周変調器20は、交流電源10から供給される交流信号を1/2の周波数に分周したり、1/4の周波数に分周したりすることも可能である。例えば分周比Dが2に設定されている場合、分周変調器20の制御部25は、
図8に示されるように、まずゼロクロス点X0において第1スイッチング素子SW1をON制御し、その後、ゼロクロス点X1、X5、X9、・・・において第2スイッチング素子SW2をON制御し、ゼロクロス点X3、X7、X11、・・・において第1スイッチング素子SW1をON制御するようにすればよい。
【符号の説明】
【0043】
1…軌道回路装置、2…送信機、3…受信機、10…交流電源、20…分周変調器、21…トランス、22…ゼロクロス点検出部、23…電文記憶部、24…平滑部、25…制御部、211…一次巻線、212…二次巻線、213…一次巻線のセンタータップ、214…一次巻線の第1巻線部、215…一次巻線の第2巻線部、R…レール、SW1…第1スイッチング素子、SW2…第2スイッチング素子、T…列車、TC…軌道回路