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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/38 20060101AFI20220105BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20220105BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20220105BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F02D41/38
F02D41/40
F02D41/04
F02D45/00 368S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018053967
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019167826
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和久
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 松栄
(72)【発明者】
【氏名】永岡 真
(72)【発明者】
【氏名】森安 竜大
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-31845(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046311(WO,A1)
【文献】特開2015-68284(JP,A)
【文献】特開2009-138657(JP,A)
【文献】特開2017-20445(JP,A)
【文献】特開2004-100566(JP,A)
【文献】特開2012-31844(JP,A)
【文献】特開2016-151259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/38
F02D 41/40
F02D 41/04
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃料噴射装置であって、
要求トルクを発生させるためのメイン噴射と、メイン噴射前においてメイン噴射における燃料噴射量より少ない燃料噴射量で行われるパイロット噴射と、で構成され、
前記パイロット噴射の回数は少なくとも3回以上であり、
前記パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点から前記パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点までの期間において、熱発生率のピーク値とボトム値との差が熱発生率のピーク値に対して60%以下の範囲で推移するように前記パイロット噴射のタイミングを設定することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置であって、
前記パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点から前記メイン噴射による熱発生率のピーク時点まで熱発生率を低下させないように前記パイロット噴射の最終回目の噴射のタイミングを設定することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射装置であって、
前記パイロット噴射のi+1回目の噴射による熱発生率の上昇開始時点が前記パイロット噴射のi回目の噴射による熱発生率のピーク時点と略等しくなるように前記パイロット噴射のタイミングを設定することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記パイロット噴射による燃料噴射量の総計は、前記メイン噴射と前記パイロット噴射による燃料噴射量の総計の20%以上であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記パイロット噴射の燃焼期間が前記エンジンのクランク角において10deg以上であることを特徴とする燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所望トルクを得る為に必要な量の燃料を噴射(メイン噴射)する直前に、少量の燃料を噴射(パイロット噴射)する等、1燃焼サイクル中に燃料を複数回噴射(多段噴射)させる燃料噴射制御装置が開示されている。これにより、メイン噴射に起因した燃焼(メイン燃焼)による熱発生の上昇速度を遅くさせ、メイン燃焼に伴い生じる燃焼騒音の低減を図っている。
【0003】
例えば、内燃機関での燃焼に伴い生じる騒音のうち所定周波数の騒音と相関のある物理量(燃焼振動量)を取得し、1回の燃焼で用いる燃料を複数回に分割して噴射させる、すなわちメイン噴射を複数回に分割して行う技術が開示されている(特許文献1)。また、エンジン高負荷域の少なくとも低速域において、拡散燃焼用のメイン噴射を複数回に分割して行い、1段目の分割噴射の噴射量よりも2段目の分割噴射の噴射量を多くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-151259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、メイン噴射の前に行われるパイロット噴射を分割する燃料噴射制御についての言及はない。また、メイン噴射を分割する方法では、燃料の燃焼期間が長期化し、燃費が悪化する。したがって、燃焼騒音の低減と燃費の向上を両立できる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、エンジンの燃料噴射装置であって、要求トルクを発生させるためのメイン噴射と、メイン噴射前においてメイン噴射における燃料噴射量より少ない燃料噴射量で行われるパイロット噴射と、で構成され、前記パイロット噴射の回数は少なくとも3回以上であり、前記パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点から前記パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点までの期間において、熱発生率のピーク値とボトム値との差が熱発生率のピーク値に対して60%以下の範囲で推移するように前記パイロット噴射のタイミングを設定することを特徴とする燃料噴射装置である。
【0007】
ここで、前記パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点から前記メイン噴射による熱発生率のピーク時点まで熱発生率を低下させないように前記パイロット噴射の最終回目の噴射のタイミングを設定することが好適である。
【0008】
また、前記パイロット噴射のi+1回目の噴射による熱発生率の上昇開始時点が前記パイロット噴射のi回目の噴射による熱発生率のピーク時点と略等しくなるように前記パイロット噴射のタイミングを設定することが好適である。
【0009】
また、前記パイロット噴射による燃料噴射量の総計は、前記メイン噴射と前記パイロット噴射による燃料噴射量の総計の20%以上であることが好適である。
【0010】
また、前記パイロット噴射の燃焼期間が前記エンジンのクランク角において10deg以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼騒音の低減と燃費の向上を両立できる燃料噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施の形態における燃料噴射装置の構成を示す図である。
図2】第1の実施の形態におけるパイロット噴射による熱発生率例を示す図である。
図3】第1の実施の形態におけるパイロット噴射によるフラットな熱発生率例示す図である。
図4】第1の実施の形態におけるパイロット噴射のケース1~3を説明する図である。
図5】第1の実施の形態におけるパイロット噴射の回数とケース1~3の関係例を示す図である。
図6】第1の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と燃焼騒音との関係を示す図である。
図7】第1の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と等容度との関係を示す図である。
図8】第1の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と燃焼消費率との関係を示す図である。
図9】第1の実施の形態における燃料消費率と燃焼騒音との関係を示す図である。
図10】第1の実施の形態における熱発生率の変動率を説明する図である。
図11】第1の実施の形態における熱発生率の変動率と燃料消費率との関係を示す図である。
図12】第1の実施の形態における熱発生率の変動率と燃焼騒音との関係を示す図である。
図13】第1の実施の形態における燃料噴射装置の制御方法を示すフローチャートである。
図14】第2の実施の形態におけるパイロット噴射及びメイン噴射による熱発生率例を示す図である。
図15】第2の実施の形態におけるパイロット噴射及びメイン噴射の例を示す図である。
図16】第2の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と燃焼騒音との関係を示す図である。
図17】第2の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と等容度との関係を示す図である。
図18】第2の実施の形態におけるパイロット噴射の回数と燃焼消費率との関係を示す図である。
図19】第2の実施の形態における燃料消費率と燃焼騒音との関係を示す図である。
図20】第2の実施の形態におけるパイロット噴射を2回行うときの噴射パターン例を示す図である。
図21】第2の実施の形態におけるパイロット噴射を5回行うときの噴射パターン例を示す図である。
図22】第2の実施の形態におけるパイロット噴射及びメイン噴射によるブーツ型の熱発生率例を示す図である。
図23】第2の実施の形態における燃料消費率と燃焼騒音との関係を示す図である。
図24】第2の実施の形態における燃料噴射装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施の形態>
本発明の実施の形態における燃料噴射装置100は、図1に示すように、エンジン10及びコントローラ102を含んで構成される。
【0014】
エンジン10は、既知のように、シリンダ12とシリンダヘッド14とピストン16とを備える。シリンダ12、シリンダヘッド14及びピストン16によって形成される燃焼室に対して吸気ポート18および排気ポート20が設けられる。吸気ポート18は吸気弁22によって開閉され、排気ポート20は排気弁24によって開閉される。燃料噴射弁26は、シリンダヘッド14に設けられる。燃料噴射弁26は、燃焼室内に燃料を供給できるように配置される。燃料噴射弁26は、コモンレール式の燃料噴射手段(図示しない)に接続されており、燃焼室内に高圧の燃料が噴射できるように構成されている。
【0015】
吸気ポート18に連なる吸気通路30には、その上流側から下流側に向けて順次、エアクリーナ32,第1排気ターボ式過給機34のコンプレッサホイール34a、第2排気ターボ式過給機36のコンプレッサホイール36a、インタークーラ38,スロットル弁40,サージタンク42が設けられる。そして、サージタンク42とエンジン10の各気筒とが個々独立して接続される。なお、吸気通路30には、バイパス通路44を設けてもよい。バイパス通路44により、第2排気ターボ式過給機36により過給されない状態で吸気を行うことができる。
【0016】
排気ポート20に連なる排気通路50には、その上流側から下流側に向けて順次、第2排気ターボ式過給機36のタービンホイール36b、第1排気ターボ式過給機34のタービンホイール34b、酸化触媒52、DPF54が設けられる。排気通路50は、バイパス通路56とウエストゲート通路58とを有する。これにより、第2排気ターボ式過給機36や第1排気ターボ式過給機34を介さずに排気することを可能にしている。
【0017】
吸気通路30と排気通路50とは、EGR通路60を介して接続される。このEGR通路60の上流側端は、タービンホイール36bの上流側の排気通路50に通じている。また、EGR通路60の下流側端は、スロットル弁40とサージタンク42の間の吸気通路30に通じている。EGR通路60には、EGRクーラ62が接続されると共に、EGRクーラ62の下流側においてEGR弁64が配設される。EGR通路60には、EGRクーラ62をバイパスするバイパス通路66が設けられる。そして、バイパス通路66には、制御弁68が配置される。これにより、EGRクーラ62を介したEGRとEGRクーラ62を介さないEGRを切り替えることができる。
【0018】
第1排気ターボ式過給機34は、第2排気ターボ式過給機36に比べて大型であり、高負荷域では主として第1排気ターボ式過給機34による過給が行われる。第2排気ターボ式過給機36は、小型であり、低回転、低負荷域では、主として第2排気ターボ式過給機36による過給が行われる。
【0019】
本実施の形態では、燃料噴射弁26からの燃料噴射制御は、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ102によって行われる。コントローラ102には、少なくともエンジン10での燃焼状態を示す状態量(燃料噴射量、負荷(アクセル開度や過給圧)、エンジン回転数、筒内温度、筒内圧力、酸素モル濃度等)を検出する各センサ等からの信号が入力される。コントローラ102は、これらの状態量に応じて燃料噴射弁26からの燃料噴射(燃料噴射タイミング、燃料噴射量、燃料噴射期間等)を制御する。
【0020】
燃料噴射は、予混合燃焼用となるパイロット噴射と、拡散燃焼用となるメイン噴射とを組み合わせて行われる。メイン噴射は、圧縮上死点(TDC)付近からTDC後の膨張行程に掛けて拡散燃焼が行われるようにその噴射タイミングが設定される。メイン噴射は、エンジン10において要求トルクを発生させるために行われる。パイロット噴射は、TDCよりも前に行われる。パイロット噴射は、メイン噴射の着火遅れ期間を短縮させ、燃焼騒音を低下させるために行われる。
【0021】
以下、図2及び図3のタイミングチャートを参照して、本実施の形態におけるパイロット噴射とメイン噴射の制御について説明する。パイロット噴射は、TDC前において少なくとも3回以上行われる。また、図2に示すように、噴射の回数をn回とし、i回目のパイロット噴射による燃焼室内における熱発生率の開始時点ca_i,ig、i回目のパイロット噴射による燃焼室内における熱発生率の最大時点(ピーク時点)及び最大熱発生率をそれぞれca_i,max、Vp_iとする。
【0022】
3回以上のパイロット噴射を行う場合、図4(a)~図4(c)に示すように、3つのパターンが考えられる。図4(a)のケース1では、パイロット噴射の各々による熱発生率が重なり合い、これらを足し合わせた全体としての熱発生率のピーク値Vpが単独のパイロット噴射による熱発生率のピーク値Vp_iより大きくなる。図4(b)のケース2では、パイロット噴射の各々による熱発生率が重なり合い、これらが適度に干渉し合い、これらを足し合わせた全体としての熱発生率のピーク値Vpが単独のパイロット噴射による熱発生率のピーク値Vp_iより大きくならず、略フラットな形状となる。図4(c)のケース3では、パイロット噴射の各々による熱発生率が離れており、これらが干渉せず、それぞれの立ち上がりと立ち下がりが明瞭になる。
【0023】
これらのパイロット噴射の3つのパターンについてエンジン10での燃焼についてシミュレーションを行った。シミュレーションには、高速かつ高精度な燃焼シミュレータ(UniDES:参考文献「自動車技術会論文集vol.43(2012)No.1,p109-114」)を用いて行った。シミュレーションでは、熱発生率のパターンを入力し、それぞれ2~5回のパイロット噴射を行った場合のケース1~3のパターンについて燃焼騒音(Combustion noise)、熱効率(等容度)、図示燃料消費率(ISFC)を算出した。図5(a)~図5(d)は、それぞれ2~5回のパイロット噴射を行った場合のケース1~3のパターンについてエンジン10での熱発生率のパターンを示す。なお、図5(a)~図5(d)では、ケース1を一点破線、ケース2を実線、ケース3を破線で示している。
【0024】
ここで、パイロット噴射の回数をn回とするとき、パイロット噴射による全体の投入発熱量は20J×nとした。また、メイン噴射とパイロット噴射を合わせた合計の投入発熱量は640Jとした。すなわち、パイロット噴射による投入発熱量が増加した分だけメイン噴射による投入発熱量を減少させた。また、メイン噴射の熱発生率はクランク角において0deg~20degの期間(20deg)で固定し、熱発生率の形状は二等辺三角形パターンとした。
【0025】
図6は燃焼騒音、図7は等容度、図8は燃料消費率(ISFC)のシミュレーションの結果を示す。図6に示されるように、ケース1ではパイロット噴射の回数が増加するにつれて燃焼騒音が増加した。これに対して、ケース2及び3ではパイロット噴射の回数が増加するにつれて燃焼騒音が減少した。一方、図7に示されるように、ケース1及び2ではパイロット噴射の回数が増加しても等容度は略一定であった。これに対して、ケース3ではパイロット噴射の回数が増加するにつれて等容度は大きく減少した。また、図8に示されるように、ケース1及び2ではパイロット噴射の回数が増加してもISFCは略一定であった。これに対して、ケース3ではパイロット噴射の回数が増加するにつれてISFCは大きく増加した。
【0026】
図9は、横軸を図示燃料消費率(ISFC)、縦軸を燃焼騒音(Combustion noise)としてケース1~3の各々のシミュレーション結果を示す。ケース1の場合、熱発生率のピーク値Vpが大きくなり、燃焼騒音が大きくなった。また、ケース3の場合、パイロット噴射の回数が増加するほど、パイロット噴射による発熱の時期が進角側になるので、等容度が低下し、燃費が悪化する。これに対して、ケース2の場合、ケース3に対して同じパイロット噴射の回数でも燃焼騒音を低下させることができる。また、パイロット噴射の回数が増加しても発熱のタイミングが進角側になり過ぎず、パイロット噴射の増量に対して燃焼騒音を低下させつつ、等容度の低下を抑制でき、燃費性能も向上させることができる。
【0027】
図10は、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間における熱発生率の変動率を示す。熱発生率の変動率は、数式(1)のように、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間における熱発生率のピーク値Vpとボトム値Vbとの差(Vp-Vb)の熱発生率のピーク値Vpに対する比として定義される。
(数1)
変動率=(Vp-Vb)/Vp・・・(1)
【0028】
ここで、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間における熱発生率の変動率は60%以下となるようにパイロット噴射のタイミングを設定することが好適である。すなわち、当該条件を満たす場合をケース2の熱発生率を略フラットな形状ということができる。
【0029】
例えば、パイロット噴射のi+1回目の噴射による熱発生率の上昇開始時点ca_i+1,igがパイロット噴射のi回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxと略等しくなるようにパイロット噴射のタイミングを設定することにより熱発生率を略フラットな形状に維持することができる。
【0030】
図11は、熱発生率の変動率に対する燃料消費率(ISFC)の変化を示す。また、図12は、熱発生率の変動率に対する燃焼騒音の変化を示す。図11及び図12に示されるように、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間における熱発生率の変動率を60%以下とすることで燃料消費及び燃焼騒音の低減を両立することができる。
【0031】
なお、パイロット噴射による燃料噴射量の総計は、メイン噴射とパイロット噴射による燃料噴射量の総計の20%以上とすることが好適である。また、パイロット噴射の燃焼期間がエンジン10のクランク角において10deg以上とすることが好適である。これは、図5(c)及び図5(d)に示すパイロット噴射の回数が3回以上に相当し、燃焼騒音と等容度及び燃費とのバランスが最も良い状態となる。
【0032】
ただし、これらの条件に限定されるものではなく、燃焼騒音をより向上させたいときにはパイロット噴射の回数をより増加すればよいし、燃費をより向上させたいときにはパイロット噴射の回数をより減少させればよい。
【0033】
図13は、本実施の形態における燃料噴射装置100の制御方法を示すフローチャートである。以下の制御は、コントローラ102によって燃料噴射装置100の各部を制御することにより実現される。
【0034】
ステップS10では、エンジン10における燃料噴射量、回転数及びトルクの状態量が取得される。これらの状態量は、エンジン10に設けた各種センサによってコントローラ102へ入力される。
【0035】
ステップS12では、吸気弁22の閉鎖時点(IVC)でのエンジン10の筒内温度、筒内圧力及び酸素モル濃度が取得される。これらの状態量は、IVCのタイミングに合わせてエンジン10に設けた各種センサによってコントローラ102へ入力される。
【0036】
ステップS14では、パイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量が決定される。コントローラ102では、ステップS10で取得された状態量及びS12で取得されたエンジン10の筒内温度、筒内圧力及び酸素モル濃度の組み合わせに応じてパイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量を設定する。例えば、状態量、筒内温度、筒内圧力及び酸素モル濃度の組み合わせに対して適切なパイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量を求めてマップ(データベース)として記憶させておき、当該マップを参照することで設定することができる。
【0037】
ステップS16では、パイロット噴射の熱発生率のピークが略フラットとなるようにパイロット噴射のタイミングを設定する。コントローラ102は、ステップS14で設定されたパイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じて、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間において、熱発生率のピーク値Vpとボトム値Vbとの差(Vp-Vb)が熱発生率のピーク値Vpに対して60%以内の範囲で推移するようにパイロット噴射のタイミングを設定する。具体的には、パイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じて当該条件を満足するパイロット噴射のタイミングを予め求めてマップ(データベース)として記憶させておき、当該マップを参照することでパイロット噴射の熱発生率のピークが略フラットとなるようにパイロット噴射のタイミング設定することができる。例えば、パイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じて当該条件を満足するパイロット噴射のタイミングは、燃焼シミュレータ(UniDES)を用いて予め算出すればよい。また、例えば、実際のエンジン10においてパイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じた熱発生率を測定し、熱発生率のピークが略フラットとなるパイロット噴射のタイミングを実験的に求めればよい。
【0038】
なお、ステップS14及びS16においてマップ(データベース)を用いる態様としたが、ステップS12及びS14で取得されたパラメータを引数とする関数等でパイロット噴射の回数、噴射期間、噴射量及びタイミングを求めるようにしてもよい。
【0039】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態では、メイン噴射とパイロット噴射の噴射タイミングの制御も行う。本実施の形態では、第1の実施の形態で示した一連のパイロット噴射による熱発生率とメイン噴射による熱発生率とが時間的に切れ間無く繋がるようにメイン噴射とパイロット噴射のタイミングを制御する。
【0040】
図14は、パイロット噴射とメイン噴射のタイミングと熱発生率の関係を示す。ここで、パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxからメイン噴射による熱発生率のピーク時点ca_main,maxまで熱発生率を低下させない、すなわちパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク値Vp_nより熱発生率が下がらないようにパイロット噴射の最終回目の開始時点ca_n,igを設定することが好適である。例えば、メイン噴射の熱発生率の開始時点ca_main,igがパイロット噴射の最終回目(n回目)の熱発生率のピーク時点ca_n,maxと同時になるようにパイロット噴射のタイミングを設定する。これにより、パイロット噴射による熱発生率とメイン噴射による熱発生率とが時間的に切れ間無く繋がったブーツ型の熱発生率を実現することができる。
【0041】
上記ケース1~3に加えて、パイロット噴射による熱発生率とメイン噴射による熱発生率が切れ目無く繋がったブーツ型となるようにパイロット噴射のタイミングを制御した場合をケース4として、パイロット噴射の回数を2~5回まで変化させてシミュレーションを行った。図15は、パイロット噴射の回数を5回としたケース2(破線)とケース4(実線)におけるクランク角に対する熱発生率の変化例を示す。
【0042】
ここでも、パイロット噴射の回数をn回とするとき、パイロット噴射による全体の投入発熱量は20J×nとした。また、メイン噴射とパイロット噴射を合わせた合計の投入発熱量は640Jとした。すなわち、パイロット噴射による投入発熱量が増加した分だけメイン噴射による投入発熱量を減少させた。また、メイン噴射の熱発生率はクランク角において0deg~20degの期間(20deg)で固定し、熱発生率の形状は二等辺三角形パターンとした。
【0043】
図16は燃焼騒音、図17は等容度、図18は燃料消費率(ISFC)のシミュレーションの結果を示す。図16に示されるように、ケース4ではケース1~3のいずれよりも燃焼騒音が低減できた。また、パイロット噴射の回数が増加するにつれて燃焼騒音が低下した。一方、図17に示されるように、ケース4ではパイロット噴射の回数が増加しても等容度は略一定であった。また、図18に示されるように、ケース4ではパイロット噴射の回数が増加してもISFCは略一定であった。
【0044】
図19は、横軸を図示燃料消費率(ISFC)、縦軸を燃焼騒音(Combustion noise)としてケース1~4の各々のシミュレーション結果を示す。ケース4の場合、ケース1~3に対して同じパイロット噴射の回数でも燃焼騒音を低下させることができた。
【0045】
なお、パイロット噴射の各々の噴射タイミングは、第1の実施の形態と同様に設定することが好適である。すなわち、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間において、熱発生率のピーク値Vpとボトム値Vbとの差(Vp-Vb)が熱発生率のピーク値Vpに対して60%以内の範囲で推移するようにパイロット噴射のタイミングを設定することが好適である。
【0046】
本実施の形態におけるブーツ型の熱発生率を実現するためのパイロット噴射とメイン噴射の条件をシミュレーションにて確認した。図20は、パイロット噴射を2回行うパターンを示す。図21は、パイロット噴射を5回行うパターンを示す。なお、パイロット噴射とメイン噴射との総噴射燃料量は同じであるので、パイロット噴射を5回行った場合には2回行った場合に比べてメイン噴射における燃料噴射量は少なくなる。
【0047】
図22は、これら2つのパターンについて、クランク角に対する熱発生率の変化をシミュレーションした結果を示す。図22に示されるように、5回の多段パイロット噴射のタイミングを調整することで、ブーツ型の熱発生率を実現することができることを確認した。なお、図23に示すように、これら2つのパターンにおいて燃焼騒音及び燃料消費率はいずれも2回よりも5回のパイロット噴射を行った方が優れていた。
【0048】
パイロット噴射では燃料噴射量が少量であるのでエンジン10の燃焼室内における貫通(ペネトレーション)が弱く、燃焼室内の壁面まで燃料は到達しないと考えられる。そうすると、気流に起因する熱損失と噴霧に起因する熱損失について考察すると、噴霧に起因する熱損失はメイン噴射によるものと推察できる。そして、メイン噴射における燃料噴射量はパイロット噴射の回数が増加するほど少なくなるので、メイン噴射における噴霧に起因する熱損失は小さくなり、燃費が低減するものと考えられる。
【0049】
図24は、本実施の形態における燃料噴射装置100の制御方法を示すフローチャートである。以下の制御は、コントローラ102によって燃料噴射装置100の各部を制御することにより実現される。ステップS10~S14の処理は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
【0050】
ステップS18では、パイロット噴射の熱発生率のピークが略フラットとなり、かつメイン噴射とパイロット噴射の熱発生率がブーツ型となるようにパイロット噴射とメイン噴射のタイミングを設定する。
【0051】
コントローラ102は、ステップS14で設定されたパイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じて、パイロット噴射の1回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_i,maxからパイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxまでの期間において、熱発生率のピーク値Vpとボトム値Vbとの差(Vp-Vb)が熱発生率のピーク値Vpに対して60%以内の範囲で推移するようにパイロット噴射のタイミングを設定する。さらに、パイロット噴射の最終回目の噴射による熱発生率のピーク時点ca_n,maxからメイン噴射による熱発生率のピーク時点ca_main,maxまで熱発生率を低下させないようにメイン噴射とパイロット噴射のタイミングを設定する。
【0052】
具体的には、パイロット噴射の回数、噴射期間及び噴射量に応じて当該条件を満足するパイロット噴射とメイン噴射のタイミングを予め求めてマップ(データベース)として記憶させておき、当該マップを参照することでパイロット噴射の熱発生率のピークが略フラットとなり、パイロット噴射とメイン噴射の熱発生率がブーツ型となるように噴射のタイミング設定することができる。マップ(データベース)は、燃焼シミュレータ(UniDES)を用いて予め算出したり、実際のエンジン10において実験的に求めたりすればよい。
【0053】
なお、ステップS14及びS16においてマップ(データベース)を用いる態様としたが、ステップS12及びS14で取得されたパラメータを引数とする関数等でパイロット噴射の回数、噴射期間、噴射量及びパイロット噴射とメイン噴射のタイミングを求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 エンジン、12 シリンダ、14 シリンダヘッド、16 ピストン、18 吸気ポート、20 排気ポート、22 吸気弁、24 排気弁、26 燃料噴射弁、30 吸気通路、32 エアクリーナ、34 第1排気ターボ式過給機、34a コンプレッサホイール、34b タービンホイール、36 第2排気ターボ式過給機、36a コンプレッサホイール、36b タービンホイール、38 インタークーラ、40 スロットル弁、42 サージタンク、44 バイパス通路、50 排気通路、52 酸化触媒、54 DPF、56 バイパス通路、58 ウエストゲート通路、60 EGR通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、66 バイパス通路、68 制御弁、100 燃料噴射装置、102 コントローラ。
図1
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