(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】分割型メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220105BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220105BHJP
F04D 29/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F16J15/34 E
F16J15/10 C
F16J15/10 T
F04D29/12 B
(21)【出願番号】P 2018145902
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭雄
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044832(JP,A)
【文献】特開平10-148263(JP,A)
【文献】実公平08-003765(JP,Y2)
【文献】特開2018-080795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/10
F04D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が周方向に分割された静止密封環及び回転密封環
と、
前記分割型の密封環を被密封流体側において径方向から保持するリテーナと、
を備え、
前記静止密封環、前記回転密封環及び前記リテーナがセットボルトにより一体化されて機器に装着される分割型メカニカルシールにおいて、
前記分割型の密封環と前記リテーナとを周方向に亘り接するシール面と、前記被密封流体に向けて露出する受圧面とを有し弾性を備えた二次シール
を備え、
前記分割型の密封環と前記リテーナとにより、前記被密封流体に向けて軸方向に開口し、前記二次シールが嵌合される嵌合凹部が形成され、
前記二次シールの前記シール面は、前記嵌合凹部の内底面を構成する前記密封環または前記リテーナと接し、
前記メカニカルシールは、前記静止密封環及び前記回転密封環よりも内周側の前記被密封流体をシールするアウトサイド型メカニカルシールであり、
前記
嵌合凹部は、前記受圧面と逆側に形成され前記密封環及び前記リテーナの少なくとも一方から構成される前記内底面と、該内底面と接続し軸方向受圧面側に延びるリテーナ側軸方向面と、前記内底面と接続し軸方向受圧面側に延びる密封環側軸方向面と、から形成され、前記内底面の反対側で軸方向に開口し、
前記二次シールは、前記リテーナ側軸方向面、前記密封環側軸方向面及び前記内底面と周方向全周に亘って接することを特徴とする分割型メカニカルシール。
【請求項2】
前記嵌合凹部は、前記密封環に形成された段差部と、前記リテーナに形成された段差部とを接合することで構成される請求項
1に記載の分割型メカニカルシール。
【請求項3】
前記二次シールは、断面視O型のOリングから構成されている請求項1
または2に記載の分割型メカニカルシール。
【請求項4】
前記静止密封環及び前記回転密封環のいずれもが、周方向に分割された分割型の密封環であり、前記二次シールは、前記静止密封環及び前記回転密封環のいずれにも設けられている請求項1ないし
3のいずれかに記載の分割型メカニカルシール。
【請求項5】
前記静止密封環に設けられた前記二次シールの前記受圧面と、前記回転密封環に設けられた前記二次シールの前記受圧面とは、前記回転軸の軸方向に対向している請求項1ないし
4のいずれかに記載の分割型メカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポンプ、コンプレッサーなどの各種回転機械の軸封に適用されるものであって、静止密封環と回転密封環との摺動面により被密封流体をシールするように構成されたメカニカルシールに関し、特に、メンテナンス時の分解が困難な大型ポンプ等の機器の軸封部に装着され、静止密封環及び回転密封環の少なくとも一方が周方向に分割された分割型メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分割型メカニカルシールの周方向に分割された密封環は、円環状の密封環を周方向に複数の分割片に破断して形成されている。このように分割された密封環は、分割片同士の分割面を突き合わせ、破断面同士の不規則且つ微細な凹凸面同士を密接させ円環状にした状態で、外径側から締結バンドやテーパ付きのホルダーによって締め付けることで分割面の隙間を小さくして軸の外周に装着されている。
【0003】
例えば、特許文献1の分割型メカニカルシールは、静止密封環が周方向に二分割されており、静止密封環の内径側にはリテーナが配置され、静止密封環の外径側に配置されたテーパ付きのホルダーをリテーナに固定することで、分割片同士は周方向に締め付けられ環状に保持されている。リテーナの外周に形成され内径側に凹む環状凹部にOリング等の二次シールを嵌入し、二次シールを静止密封環の内周面に当接させることで、被密封流体の漏れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-185976号公報(第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような分割型メカニカルシールに用いられる二次シールにあっては、リテーナの環状凹部に嵌入した状態でその外周部分を静止密封環の内周面に当接させるものであり、回転機械の運転時の振動や被密封流体の圧力変動、温度変化等により当該二次シールの外周部と静止密封環の内周面との間を通って被密封流体が漏洩する虞が生じていた。特に特許文献1で示されるように、被密封流体の密封環の内径側から外径側への漏れを防止するアウトサイド型のメカニカルシールの場合、高圧側である被密封流体の圧力が密封環の内周部に作用し、すなわち分割面を開放させようとする外径方向に加わるため、被密封流体側に配置される二次シールがそのシール機能を十分に発揮できないという問題が生じる虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、周方向に分割された密封環のシール性を向上させることができる分割型メカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の分割型メカニカルシールは、
静止密封環及び回転密封環を備え、前記密封環の少なくともいずれか一方は周方向に分割された分割型メカニカルシールにおいて、
前記分割型の密封環を被密封流体側において径方向から保持するリテーナと、
前記分割型の密封環と前記リテーナとを周方向に亘り接するシール面と、前記被密封流体に向けて露出する受圧面とを有し弾性を備えた二次シールとを備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、分割型メカニカルシールの被密封流体側に配置された二次シールは、弾性を備えており、この被密封流体に向けて露出する受圧面に当該被密封流体の高い圧力を受けて二次シールが弾性変形し、密封環及びリテーナに接するシール面の接触圧力を高め、シール性を向上させることができる。
【0008】
好適には、前記分割型の密封環と前記リテーナとにより、前記被密封流体に向けて軸方向に開口し、前記二次シールが嵌合される嵌合凹部が形成されている。
これによれば、嵌合凹部内に嵌合された二次シールの径方向の両端部分をそれぞれシール面とするとともに、嵌合凹部の開口部に位置する二次シールの側面部分を受圧面として構成できる。また、二次シールを嵌合凹部に軸方向から簡便に取り付けることができる。
【0009】
好適には、前記嵌合凹部は、前記密封環に形成された段差部と、前記リテーナに形成された段差部とを接合することで構成される。
これによれば、密封環とリテーナとの接合面よりも二次シール側に段差部が形成されているので、二次シールから漏洩した被密封流体が直接接合面に流入し難い。
【0010】
好適には、前記二次シールは、断面視O型のOリングから構成されており、該二次シールの前記シール面は、前記嵌合凹部の内底面を構成する前記密封環または前記リテーナと接している。
これによれば、Oリングから構成された二次シールのシール面が、密封環とリテーナとの接合部に接することを回避できるため、二次シールがその変形に伴い接合部に入り込む等の不具合を未然に防止することができる。
【0011】
好適には、前記メカニカルシールは、前記静止密封環及び前記回転密封環よりも内周側の前記被密封流体をシールするアウトサイド型メカニカルシールである。
これによれば、静止密封環及び回転密封環よりも内周側にて密封された被密封流体により、二次シールが弾性変形し、シール性を確保することができる。
【0012】
好適には、前記静止密封環及び前記回転密封環のいずれもが、周方向に分割された分割型の密封環であり、前記二次シールは、前記静止密封環及び前記回転密封環のいずれにも設けられている。
これによれば、周方向に分割された静止密封環及び回転密封環のいずれもシール性を高めることができる。
【0013】
好適には、前記静止密封環に設けられた前記二次シールの前記受圧面と、前記回転密封環に設けられた前記二次シールの前記受圧面とは、前記回転軸の軸方向に対向している。
これによれば、静止密封環側の二次シールの受圧面と回転密封環側の二次シールの受圧面とが、被密封流体を介し対向しているため、これらの受圧面間に介在する被密封流体の圧力を均等に受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1における分割型メカニカルシールを示す断面図である。
【
図2】
図1における静止密封環を機外側から軸方向に見た図である。
【
図3】
図1における静止密封環及び回転密封環の要部拡大図である。
【
図4】Oリング及び嵌合凹部を示す要部拡大図である。
【
図5】
図4の状態から分割体がリテーナに対して傾くような外力が生じた状態を示す概略図である。
【
図6】本発明の嵌合凹部の変形例1を示す概略図である。
【
図7】本発明の嵌合凹部の変形例2を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る分割型メカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1に係る分割型メカニカルシールにつき、
図1から
図5を参照して説明する。先ず
図1の符号1に示す分割型メカニカルシールは、静止密封環10と回転密封環20の両方が周方向に分割された構造を有するものである。
【0017】
分割型メカニカルシール1は、これら密封環10,20の摺動面Sをシール面として、高圧の被密封流体側Hである内周側から、低圧流体側L(例えば大気側)である外周側へ向かって漏れようとする流体をシールするアウトサイド形式、かつ静止密封環10を軸方向に付勢するスプリング8がハウジング2側に設けられた静止形式であるアウトサイド・静止形のメカニカルシールに適したものであるが、摺動面の外周から内周方向へ向かって漏れようとする流体をシールする形式であるインサイド形のメカニカルシールにも適用可能であるし、またスプリングが回転軸側に設けられた回転形のメカニカルシールにも適用可能である。
【0018】
以下においては、アウトサイド・静止形のメカニカルシールの場合について説明する。
【0019】
図1に示されるように、分割型メカニカルシール1(以下、単に「メカニカルシール1」ともいう)は、ハウジング2の内周面2aと回転軸3との間の被密封流体側Hの被密封流体をシールするために装着される。
【0020】
分割型メカニカルシール1は、ケース4と、リテーナ5A,5Bと、スプリング8と、静止密封環10と、回転密封環20と、カラー6と、から主に構成されており、その使用前においてはセットボルト25により一体に構成されるものである。このメカニカルシール1は、後述するように、セットボルト25を取り外した状態で使用するものである。尚、
図1では、セットボルト25を取り外す前の状態を示している。
【0021】
ハウジング2は、機内側が回転軸3を挿入可能な内周面2aが形成されるとともに、機外側が開放されており、機外側の端面には、固定ボルト9を接続するための雌ネジ部2bが螺設されている。
【0022】
ケース4は、固定ボルト9の軸部が挿通される挿通孔4aを備えた環状を成し、ハウジング2の内周面2aに沿って延出する延出部4bを備えている。これによれば、ケース4の挿通孔4aに固定ボルト9を挿入してハウジング2の雌ネジ部2bにねじ込むことにより、ケース4をハウジング2に固定することができる。このときケース4の延出部4bがハウジング2の内周面2aに沿って挿入されるに伴い、ケース4とハウジング2の位置合わせが行われ、また固定ボルト9による固定状態では、延出部4bの外周面の凹部に設けられたOリング31が、ハウジング2の内周面2aに密接して被密封流体をシールする。
【0023】
またリテーナ5Aの外周面には、メカニカルシール1を保護するためにカラー6の外径側まで延設された筒状の保護カバー23が被覆されている。この保護カバー23は、その外周に巻回されるバンド21により、リテーナ5Aと後述するホルダー14との外周面に対し固着されている。
【0024】
リテーナ5Aは、回転軸3が挿通される筒状をなし、該筒状部は、ケース4内に挿入される延出部51と、静止密封環10が外周面に取り付けられる延出部52と、を備える。また、筒状部の軸方向中央部には、外径方向に張り出す鍔部53が形成されており、鍔部53とケース4との間にスプリング8が介装されている。詳しくは、スプリング8は、ケース4の機外側に軸方向に開口した凹部4cと、リテーナ5Aの鍔部53との間に、圧縮された状態で軸方向に配置されている。よって静止密封環10の機内側の側端面は、リテーナ5Aを介しスプリング8から軸方向の付勢力が負荷されることにより、静止密封環10の機外側の側端面(摺動面S)は、回転密封環20の側端面(摺動面S)に対して密着している。これによれば、回転密封環20の側端面に対する静止密封環10の側端面の軸方向の追従性を高めることができる。そのため、メカニカルシール1の摺動面Sにおけるシール性を高めることができる。
【0025】
延出部51の外周面の凹部に設けられたOリング32が、ケース4の内周面に密接してシールする。また延出部52は、静止密封環10と回転密封環20との摺動面Sに近接する位置(後述する凸部10dの基端部である静止密封環10の機外側端部の位置)まで軸方向に延設されており、延出部52の外周面における先端側(機外側)には、延出部52と静止密封環10との隙間をシールするOリング33(二次シール)が配置されている。尚、Oリング33によるリテーナ5Aと静止密封環10との隙間のシール態様については、後に詳述する。
【0026】
リテーナ5Aとケース4との間にはノックピン7が配置され、リテーナ5Aとケース4との相対回転を規制するようになっている。ノックピン7は、ケース4から機外側に突出するように固定されており、リテーナ5Aの周方向に複数設けられた孔12に挿入されている。
【0027】
静止密封環10は、リテーナ5Aの鍔部53に接して延出部52の外周面に取り付けられている。リテーナ5Aの鍔部53には、静止密封環10を外径側から押さえるホルダー14がソケットボルト16により周方向の複数個所で固定されている。また、ホルダー14と静止密封環10との間には、Oリング34が配置されている。
【0028】
静止密封環10は、後述するように周方向に2分割される分割体10a,10b(
図2参照)とからなる分割構造であって、例えば、炭化珪素又はカーボン材により形成されている。この静止密封環10の機外側端部には、機外側に突出する凸部10dが形成されており、凸部10dの機外側端面が摺動面Sとなっている。また、静止密封環10とリテーナ5Aとの間にはドライブピン13が配置され、静止密封環10とリテーナ5Aとの相対回転を規制するようになっている。ドライブピン13は、リテーナ5Aの鍔部53から静止密封環10側に突出するように固定されており、静止密封環10の周方向に複数形成されたドライブピン用切欠き15に挿入されている。なお、静止密封環10の分割数は、2分割に限定されることなく、3分割以上でもよい。
【0029】
カラー6は、回転軸3が挿通されるように筒状を成しており、回転軸3から外径方向に張り出して配置されている。カラー6には、径方向に貫通するとともに内周面に雌ネジ部を有する貫通孔6cが形成されている。この貫通孔6cの雌ネジ部に押圧ネジ28を螺挿して、押圧ネジ28の先端が回転軸3の外周面を押圧することで、カラー6を回転軸3に対し固定可能となっている。
【0030】
また、カラー6の機内側には、リテーナ5Bが配置されている。リテーナ5Bは、回転軸3が挿通される筒状部54と、筒状部54の機外側端部から外径方向に張り出す鍔部55と、を備えている。筒状部54の機外側内周縁には、機外側に開口する環状切欠部54aが形成されており、環状切欠部54aには、Oリング35が配置されており、Oリング35の機外側には、カラー6により機内側に押圧される環状のスペーサ17が配置されている。すなわち、Oリング35は、環状切欠部54aとスペーサ17とで軸方向に挟圧されており、回転軸3とリテーナ5Bとの間をシールしている。
【0031】
また、リテーナ5Bとカラー6との間にはノックピン18が配置され、リテーナ5Bとカラー6との相対回転を規制するようになっている。ノックピン18は、カラー6から機内側に突出するように固定されており、リテーナ5Bの周方向に複数設けられた孔27に挿入されている。
【0032】
また、リテーナ5Bの筒状部54の外周面には、回転密封環20が取り付けられている。また、筒状部54の機内側端部の外周面には、Oリング36(二次シール)が配置され、リテーナ5Bの筒状部54と回転密封環20との隙間をシールする。尚、Oリング36によるリテーナ5Bと回転密封環20との隙間のシール態様については、後に詳述する。
【0033】
また、リテーナ5Bの鍔部55には、回転密封環20を外径側から押さえるホルダー22がソケットボルト24により周方向の複数個所で固定されている。また、ホルダー22と回転密封環20との間には、Oリング37が配置されている。
【0034】
回転密封環20は、静止密封環10と同様に周方向に2分割される分割構造であって、例えば炭化珪素またはカーボンなどの材料で製作される。この回転密封環20の機内側端面は、平坦に形成されており、凸部10dと摺接する摺動面Sとして機能している。また、回転密封環20とリテーナ5Bとの間にはドライブピン19が配置され、回転密封環20とリテーナ5Bとの相対回転を規制するようになっている。ドライブピン13は、リテーナ5Bの鍔部55から回転密封環20側に突出するように固定されており、回転密封環20の周方向に複数形成されたドライブピン用切欠き26に挿入されている。なお、回転密封環20の分割数は、2分割に限定されることなく、3分割以上でもよい。
【0035】
セットボルト25は、メカニカルシール1のセット状態の軸長を設定するとともに、メカニカルシール1を一体化するものであり、機器への装着の完了後に取り外されるものである。
【0036】
次に、
図2を参照しながら、本実施例の静止密封環10及び回転密封環20(以下、静止密封環及び回転密封環をまとめて総称する場合には単に「密封環」ということがある)の周方向の分割面について説明する。なお、本発明は、静止密封環10及び回転密封環20のいずれにも同様に適用できるものであるが、以下においては、静止密封環10を例にして説明する。さらに尚、
図2では、静止密封環10を機外側から軸方向に見た状態を図示している。
【0037】
図2に示されるように、静止密封環10は、一体環状に形成した環状体に外力を付与することで分割された分割体10a,10bとから構成されている。すなわち、分割体10a,10bの分割面11,11は、機械加工することなく自然破断された自然破断面であり、複雑且つ微小な多数の凹凸面(
図2の拡大部)からなり、破断により生じた分割面11同士は互いの凹凸面を精緻に補完して符合するため、高いシール機能を得ることができる。
【0038】
次に、
図3ないし
図5を参照しながら、本実施例の密封環の取付態様について説明する。尚、静止密封環10の取付態様は、回転密封環20の取付態様とほぼ同一であるため、静止密封環10のリテーナ5A及びホルダー14への取付態様を例にして説明する。
【0039】
図3に示されるように、静止密封環10は、軸方向機内側に向けて漸次拡径するように傾斜するテーパ面10cを外周面の軸方向略中央部に有している。また、ホルダー14は、リテーナ5Aの鍔部53に固定される基部14aと、基部14aの内径側から軸方向に延び且つその先端が内径方向に屈曲して延びる鉤状部14bと、を備えている。前述したOリング34は、静止密封環10のテーパ面10cと、ホルダー14の鉤状部14bとの間に配置されている。
【0040】
静止密封環10をリテーナ5A及びホルダー14に取り付ける際には、リテーナ5Aの延出部52の外周面に静止密封環10を配置した後、ホルダー14と静止密封環10のテーパ面10cとの間にOリング34を配置した状態で、ホルダー14をソケットボルト16によりリテーナ5Aの鍔部53に固定する。尚、静止密封環10は、前述のように、分割体10a,10bから構成されるので、延出部52の外周面に外径側から取付けることができ、取付作業が簡便となっている。
【0041】
ソケットボルト16を緊締すると、ホルダー14がリテーナ5Aの鍔部53に向けて軸方向に近接し、Oリング34が静止密封環10のテーパ面10cを軸方向機内側に押圧するようになる。ホルダー14がリテーナ5Aの鍔部53に当接すると、静止密封環10がリテーナ5Aの鍔部53に当接するとともに、テーパ面10cは、軸方向機内側に向けて漸次拡径するように傾斜しているため、Oリング34を介して静止密封環10に伝わる軸方向機内側への押圧力がテーパ面10cにより内径方向への押圧力に変換され(
図2の黒破線矢印参照)、静止密封環10を構成する分割体10a,10bの分割面11,11同士が互いに突き合わせられた状態で周方向に押圧されることで、分割面11,11間のシール性が向上する(
図2拡大部の白矢印参照)。これにより、被密封流体が分割面11,11間から漏洩することが防止されている。また、Oリング33によりリテーナ5Aの延出部52と静止密封環10との隙間から被密封流体が漏洩することが防止されている。
【0042】
このOリング33は、静止密封環10と延出部52との間に形成された嵌合凹部40に嵌合されている。
図4に示されるように、嵌合凹部40は、静止密封環10の機外側内周縁に設けられた段差部41と、リテーナ5Aの延出部52の機外側外周縁に設けられた段差部42と、から構成されており、軸方向機外側に向けて開口する断面矩形状に形成されている。
【0043】
段差部41は、静止密封環10の機外側の端面10eから機内側に向けて軸方向に延びる水平面10fと、水平面10fの機内側端部から内径方向に延びる垂直面10gと、垂直面10gの内径側端部から機内側へ軸方向に延び延出部52に当接する当接面10hと、から構成されており、軸方向機外側及び内径方向に開放するように形成されている。
【0044】
段差部42は、延出部52の機外側の端面52aから機内側に向けて軸方向に延びる水平面52bと、水平面52bの機内側端部から外径方向に延びる垂直面52cと、垂直面52cの外径側端部から機内側へ軸方向に延び当接面10hに当接する当接面52dと、から構成されており、軸方向機外側及び外径方向に開放するように形成されている。また、段差部41の垂直面10gの径方向の寸法L1は、段差部42の垂直面52cの径方向の寸法L2よりも長寸に形成されている(L1>L2)。
【0045】
段差部41及び段差部42は、機械加工、成型、鋳造等により切欠き形状に形成されている。
【0046】
このOリング33は、断面視O型のOリングであり、嵌合凹部40の周面(水平面10f及び水平面52b)と、嵌合凹部40の内底面(垂直面10g及び垂直面52c)に接触している。詳しくは、前述のように、段差部41の垂直面10gの径方向の寸法L1は、段差部42の垂直面52cの径方向の寸法L2よりも長寸に形成されているため、当接面10h及び当接面52dは、嵌合凹部40の内底面において内径側に寄せて配置されており、Oリング33は、嵌合凹部40の底面における垂直面10g(当接面10h及び当接面10hの外径側)に接触している。尚、以下、説明の便宜上、Oリング33と垂直面10gとの接触部分を接触部PT1(シール面)、Oリング33と水平面52bとの接触部分を接触部PT2(シール面)、Oリング33と水平面10fとの接触部分を接触部PT3(シール面)として説明する。
【0047】
また、Oリング33は、断面視において軸方向機外側の半面33a(紙面左側半面)が嵌合凹部40の開口(軸方向機外側)を介して被密封流体側Hに露出している。すなわち、Oリング33の半面33aは、被密封流体からの圧力P1(
図4の黒矢印)を受ける受圧面として機能しており、Oリング33は圧力P1により圧縮される。したがって、Oリング33には、嵌合凹部40に設置時に生じる接触部PT1、PT2、PT3への弾性反発力に加え、被密封流体からの圧力P1を受けるため、接触部PT1への押圧力P2、及び接触部PT2,PT3への押圧力P3が生じ、当接面10hと当接面10hとの隙間のシール性が向上している。尚、Oリング33の弾性とは、被密封流体の圧力により変形可能であり、静止密封環10よりも弾性変形しやすければよい。
【0048】
図5に示されるように、運転時の回転軸3の振動、被密封流体の圧力変動、温度変化等によりリテーナ5Aに対して静止密封環10が傾いた場合、本実施例のOリング33は、その断面視軸方向機外側の半面33aが被密封流体からの圧力P1を受けて、接触部PT1,PT2,PT3に押圧力P2,P3が生じているため、Oリング33が変形して追従し、押圧力P2,P3によりOリング33と垂直面10g、水平面10f、水平面52bとの接触部PT1,PT2,PT3を維持でき、Oリング33と嵌合凹部40との間のシール性が保たれる。
【0049】
したがって、弾性反発力の高いOリング33を使用しなくても当接面10hと当接面10hとの隙間に被密封流体が入り込むことを防止できる。特に、本実施例のようにアウトサイド型のメカニカルシール1において、当接面10hと当接面10hとの隙間に被密封流体が入り込みにくいので、被密封流体の圧力が分割体10a,10bの分割面11,11を開放する方向に作用することを抑制でき、分割面11,11のシール機能を十分に発揮することができる。また、比較的弾性反発力の低い安価なOリング33を使用することで、メカニカルシール1の組み立て作業も簡便であるとともに、Oリング33を径方向に大きく圧縮できる(径方向に嵩張らない)ので、メカニカルシール1の構造をコンパクトにすることができる。尚、
図5では、わかりやすく説明するために、実際よりもリテーナ5Aに対して静止密封環10が大きく傾いた状態を図示している。
【0050】
また、リテーナ5Aの延出部52は、静止密封環10と回転密封環20との摺動面Sに近接する位置(凸部10dの基端部である静止密封環10の機外側端部の位置)まで延びており、該延出部52の外周面における先端側(機外側)にOリング33が配置されているので、分割面11,11の軸方向の大部分を密封することができ、被密封流体が分割面11,11に流入し難い。
【0051】
尚、リテーナの先端側とは、一方のリテーナにおける軸方向に延びる部分(延出部)の軸方向中心よりも対向する他方のリテーナ側を指し、二次シールが取り付けられる位置は、リテーナの先端側(摺動面Sに近い位置)であるほど分割面のシール性が向上するので好ましい。
【0052】
さらに、Oリング33の軸方向機内側には、嵌合凹部40の垂直面10gに接触する接触部PT1が設けられているので、Oリング33の半面33aが被密封流体の圧力を受けたときにOリング33を径方向に膨出するように変形させやすく、接触部PT1,PT2,PT3のシール性を向上させることができる。また、Oリング33の受圧面は、Oリング33における断面視軸方向機外側の半面33aであるため、被密封流体の圧力を広く受けることができる。
【0053】
また、静止密封環10とリテーナ5Aとで形成された嵌合凹部40にOリング33が配置されているので、Oリング33の設置位置を安定させることができる(外れにくい)。また、嵌合凹部40の開口部から軸方向にOリング33を設置することができるため、従来のように、Oリング33を拡径させて外径方向から取り付ける態様に比べて、嵌合凹部40に対するOリング33の取付作業が簡便である。また、嵌合凹部40内に嵌合されたOリング33の嵌合部分(接触部PT1、PT2、PT3)をシール面とするとともに、嵌合凹部40の開口部に位置するOリング33の半面33aを受圧面として構成できる。
【0054】
また、嵌合凹部40は、静止密封環10の段差部41とリテーナ5Aの段差部42とを接合することで構成されているので、嵌合凹部40を簡便に構成できるとともに、密封したい静止密封環10とリテーナ5Aとの間の接合面(当接面10hと当接面10h)を、嵌合凹部40の内底面(垂直面10g,52c)の径方向中央寄りに配置することができる。これによれば、被密封流体が経年などによりOリング33から微量に漏洩しても、段差部41(垂直面10g)及び段差部42(垂直面52c)により堰き止められるので、漏洩した被密封流体が当接面10hと当接面10h間に被密封流体が直接入り込むことを防止できる。
【0055】
また、Oリング33は、断面視O型を成しているので、いずれの部位に外力を受けても均一な力で変形することができるようになっている。また、段差部41の垂直面10gの径方向の寸法L1は、段差部42の垂直面52cの径方向の寸法L2よりも長寸に形成されているため、当接面10h及び当接面10hは、嵌合凹部40の底面において内径側に寄せて配置されており、Oリング33は、嵌合凹部40の底面における垂直面10g(当接面10h及び当接面10hの外径側)に接触している。これによれば、Oリング33のシール面(接触部PT1)が、静止密封環10とリテーナ5Aとの接合部(当接面10hと当接面10hの間)に接することを回避できる。すなわち、Oリング33がその変形に伴い当接面10hと当接面10hの間に入り込む等の不具合を未然に防止することができる。
【0056】
尚、段差部41の垂直面10gの径方向の寸法を段差部42の垂直面52cの径方向の寸法よりも短寸に形成し、Oリング33が嵌合凹部40の底面における垂直面52cに接触するようになっていてもよく、この場合であっても上記と同様の効果を発揮することができる。
【0057】
また、静止密封環10及び回転密封環20のいずれもが、周方向に分割された分割型の密封環であり、静止密封環10及び回転密封環20のいずれにもOリング33及びOリング36が設けられている。これによれば、静止密封環10及び回転密封環20をいずれも周方向に分割したので、静止密封環10及び回転密封環20の設置作業が簡便であるとともに、Oリング33及びOリング36により静止密封環10及び回転密封環20のいずれもシール性を高めることができる。
【0058】
また、
図3に示されるように、Oリング33の受圧面(半面33a)と、Oリング36の受圧面とは、回転軸3の軸方向に対向している。これによれば、静止密封環10側のOリング33の受圧面と回転密封環20側のOリング36の受圧面とが、被密封流体を介し対向しているため、これらの受圧面間(所定領域)に介在する被密封流体の圧力を均等に受けることができる。
【0059】
また、嵌合凹部の変形例1として次のようなものもある。
図6に示されるように、変形例1の嵌合凹部401は、静止密封環10の段差部41とリテーナ50Aの延出部521とから構成されている。延出部521は、段差部が設けられていない平坦な環形状を成している。このような形状であっても、Oリング33の半面33aは、被密封流体側Hに露出しているので、被密封流体の圧力を利用してOリング33と嵌合凹部401との間のシール性が保たれる。
【0060】
また、嵌合凹部の変形例2として次のようなものもある。
図7に示されるように、本変形例2の静止密封環100は、凸部100dが機外側端面100aの内径側に寄せて配置されている。また、リテーナ500Aの延出部522の機外側端面522aは、静止密封環100の機外側端面100aよりも軸方向機外側に配置され、且つ静止密封環100(凸部100d)の摺動面Sよりも若干軸方向機内側に配置されている。嵌合凹部402は、凸部100dの機外側内周縁と、延出部522の機外側外周縁とを周方向に切り欠いて形成されている。また、Oリング33の軸方向左端はリテーナ500Aの機外側端面522aと径方向視重なる位置に配置されている。すなわち、実施例1に比べ、嵌合凹部402及びOリング33を軸方向及び径方向に摺動面Sに近い位置に配置することができるため、静止密封環100の分割面のシール性が向上する。なお、軸方向または径方向に近い位置に配置する形態であってもよい。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、少なくとも3面が囲まれた嵌合凹部について説明したが、これに限られず、密封環とリテーナとで直交する2面から成る段差部を構成し、該段差部に二次シールの弾性保持力により保持されるようになっていてもよい。
【0063】
また、前記実施例では、アウトサイド型のメカニカルシールについて説明したが、これに限られず、外周側から内周側に向かって漏れようとする被密封流体をシールするインサイド型のメカニカルシールであってもよい。
【0064】
また、前記実施例では、断面視O型のOリングを二次シールとして利用する形態を例示したが、これに限られず、断面視矩形状や断面視多角形、断面視X型等の二次シールを利用してもよい。
【0065】
また、二次シールは、自然状態で環状を成すことに限られず、密封環とリテーナとの間に取り付けられた状態において周方向に連続していれば、自然状態において周方向に分割されていてもよい。二次シールが自然状態において周方向に分割されていても、被密封流体の圧力により二次シールを構成する分割部材同士が密着してシール性を保持することができる。また嵌合凹部は、軸方向に開口しているので、分割構造の二次シールを嵌合凹部に対して取り付ける作業が簡便である。
【0066】
また、前記実施例では、静止密封環10と回転密封環20の両方が周方向に分割する構造を有するものについて説明したが、少なくともいずれか一方の密封環が分割構造を有していればよい。
【符号の説明】
【0067】
1 分割型メカニカルシール
2 ハウジング
3 回転軸
5A,5B リテーナ
10 静止密封環
10a,10b 分割体
11 分割面
20 回転密封環
33 Oリング(二次シール)
33a 半面(受圧面)
36 Oリング(二次シール)
40 嵌合凹部
41,42 段差部
50A リテーナ
100 静止密封環
401,402 嵌合凹部
500A リテーナ
H 被密封流体側
L 低圧流体側
P1 圧力
P2,P3 押圧力
PT1,PT1’ 接触部
PT2,PT2’ 接触部
PT3,PT3’ 接触部
PT4 接触部
S 摺動面