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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20220105BHJP
   F16J 15/38 20060101ALI20220105BHJP
   F16J 15/50 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/38
F16J15/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018156524
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020029922
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】穴沢 貴光
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050653(JP,A)
【文献】特許第3058631(JP,B1)
【文献】特開2001-141074(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040163(WO,A1)
【文献】特開2008-008317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/38
F16J 15/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに固定されるシールカバーと、
前記シールカバーに保持される固定密封環と、
前記ハウジングに挿入される回転軸と、
該回転軸に回動不能に取付けられたホルダと、
該ホルダに保持される回転密封環と、を備え、
前記回転密封環の摺動面と前記固定密封環の摺動面を相対回転摺動させ、被密封流体を密封する軸封装置であって、
前記回転密封環と前記回転軸または前記ホルダとの間、若しくは前記固定密封環と前記ハウジングまたは前記シールカバーとの間に設置され、前記回転密封環または前記固定密封環の内径側より前記回転密封環または前記固定密封環を支持するフロートと、
前記回転密封環と前記回転軸または前記ホルダとの間、若しくは前記固定密封環と前記ハウジングまたは前記シールカバーとの間に設置され、かつ前記フロートよりも被密封流体側に設けられる二次シールと、をさらに備え、
前記回転密封環または前記固定密封環の少なくとも一方の内周面に前記フロート及び前記二次シールが両方とも接触し、
前記二次シールは、前記回転密封環と前記ホルダの少なくとも一方、または前記固定密封環と前記シールカバーの少なくとも一方に形成されていて被密封流体領域と接続する凹部に設けられており、かつ前記二次シールは前記被密封流体と接触し、
前記フロートは、前記回転密封環の内周と前記回転軸または前記ホルダの外周にそれぞれ形成される段部、若しくは前記固定密封環の内周と前記ハウジングまたは前記シールカバーの外周にそれぞれ形成される段部により軸方向に挟持されていることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記フロートは、前記二次シールよりも前記摺動面側に配置されている請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記フロートは、Oリングである請求項1または2に記載の軸封装置。
【請求項4】
前記二次シールはOリングであり、前記フロート用のOリングと同サイズである請求項3に記載の軸封装置。
【請求項5】
前記二次シールはOリングであり、前記フロート用のOリングよりも断面小径である請求項3に記載の軸封装置。
【請求項6】
前記回転密封環の内周面が、前記フロート及び前記二次シールと接触する場合には、前記回転密封環の内周面と前記フロートとの接触円と、前記回転密封環の内周面と前記二次シールとの接触円と、が同半径であり、
前記固定密封環の内周面が、前記フロート及び前記二次シールと接触する場合には、前記固定密封環の内周面と前記フロートとの接触円と、前記固定密封環の内周面と前記二次シールとの接触円と、が同半径である請求項1ないし5のいずれかに記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を軸封する軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軸封装置として、種々の形態のものがあるが、高圧の流体の密封にはメカニカルシールが用いられることが多い。メカニカルシールは、ハウジングに固定される固定密封環の摺動面と、回転軸に固定され回転軸とともに回転する回転密封環の摺動面とを相対回転摺動させることにより、ハウジングと回転軸との間の隙間を軸封している。
【0003】
このようなメカニカルシールにおいては、ハウジングと固定密封環の間に設けられるスプリングの付勢力により固定密封環の摺動面を回転密封環の摺動面に対して軸方向に押し付けるとともに、回転軸に固定されるホルダに回転密封環の背面側を当接させることにより、摺動面間の接触圧を調整する構成が一般的であるが、ホルダの精度不良やホルダに圧力変形が生じた場合には、回転密封環の摺動面がこれらの影響を受け固定密封環の摺動面との密封性が低下してしまう虞がある。
【0004】
このようなことから、ホルダの精度不良やホルダの圧力変形への対処も検討されている。例えば、特許文献1のメカニカルシールは、回転密封環をいわゆるフロート支持することによって対処している。具体的には、メカニカルシールは、ハウジングに取り付けられるカバーと、カバーの内周にOリングを介在させた状態で取り付けられる固定密封環と、回転軸に固定されるホルダと、ホルダの外周にフロート(Oリング)を介在させた状態で取り付けられる回転密封環と、固定密封環の摺動面を回転密封環の摺動面に対して軸方向に押し付けるように付勢するスプリングと、から主に構成されており、回転密封環の背面側をホルダから軸方向に離間させ、回転密封環を固定密封環の軸方向移動に追従可能とするとともに、内周に接触するフロートを支点として回転密封環の傾きを許容するように構成されている。
【0005】
また、特許文献1のメカニカルシールは、カバーにおけるOリングの接触面の径および回転密封環におけるフロートの接触面の径(いわゆる圧力バランス径)と、固定密封環の摺動面(シール領域)の内外径とのバランス比が所定値に設定されることにより、固定密封環および回転密封環に作用する被密封流体の圧力のバランスが軸方向両側で一定となるバランス形メカニカルシールとして構成されているため、摺動面に過大な接触圧が作用しないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-35294号公報(第5頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にあっては、被密封流体の圧力の変化や回転密封環が固定密封環に追従する動きに伴って発生する傾きによっては、フロートが変形し回転密封環におけるフロートの圧力バランス径が変動して固定密封環および回転密封環に作用する被密封流体の圧力のバランスが崩れる虞があり、摺動面における接触圧が過大となれば摺動面の焼付きや欠損が発生し、摺動面における接触圧が弱まればシール性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、密封環の摺動面における接触圧を安定させ、シール性を高めることができる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の軸封装置は、
フロートにより支持される密封環の摺動面を相対回転摺動させ、被密封流体を密封する軸封装置であって、
前記密封環には、前記フロートよりも前記被密封流体側に二次シールが設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、被密封流体が二次シールによりシールされ、フロート側への被密封流体の侵入が防止されるとともに、密封環がフロートと二次シールにより支持され、被密封流体の圧力の変化や密封環の傾きによるフロートの変形を抑制することにより、密封環に被密封流体の圧力が不均一なバランスで作用することを防止できるため、密封環の摺動面における接触圧を安定させ、シール性を高めることができる。
【0010】
好適には、前記フロートは、前記二次シールよりも前記摺動面側に配置されている。
これによれば、フロートは軸方向において密封環の摺動面の近傍で密封環に当接するため、密封環を安定して傾動させることができる。
【0011】
好適には、前記フロートは、Oリングである。
これによれば、密封環におけるフロートの接触面を小さくして摩擦を低減することにより、密封環が軸方向移動しやすくなり傾きが抑えられるため、密封環の摺動面における接触圧をより安定させることができる。また、密封環用の二次シールに加えて、フロートも二次シール機能を有するため、回転密封環側の二次シール機能に優れる。
【0012】
好適には、前記二次シールはOリングであり、前記フロート用のOリングと同サイズである。
これによれば、二次シールとフロートの取り付け間違いがなくなるため、密封環の組み付けが容易である。
【0013】
好適には、前記二次シールはOリングであり、前記フロート用のOリングよりも断面小径である。
これによれば、密封環を小さくすることができるため、コンパクト設計、そして低コスト化に対応できる。
【0014】
好適には、前記二次シールと前記フロートは、前記密封環に対して同軸上で接触している。
これによれば、密封環の軸方向移動時における傾きを抑えることができる。
【0015】
好適には、前記二次シールは、回転軸の外周に固定されるホルダに形成される凹部に設けられている。
これによれば、密封環における圧力バランス径を一定にすることができる。
【0016】
好適には、前記フロートは、前記密封環の内周と前記ホルダの外周にそれぞれ形成される段部により軸方向に挟持されている。
これによれば、密封環にフロートからの反力を常に作用させることにより、軸方向への追従性を高めることができるため、密封環の摺動面の接触状態を維持しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1における軸封装置の構造を示す断面図である。
図2】実施例1における軸封装置の要部拡大断面図である。
図3】実施例1におけるOリング(二次シール)が被密封流体の圧力により圧縮された状態を示す拡大断面図である。
図4】本発明の実施例2における軸封装置の構造を示す拡大断面図である。
図5】本発明の実施例3における軸封装置の構造を示す拡大断面図である。
図6】本発明の実施例4における軸封装置の構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る軸封装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る軸封装置につき、図1から図3を参照して説明する。尚、本実施例においては、紙面右側を大気側、紙面左側を機内側として説明する。
【0020】
図1に示されるように、本実施例の軸封装置1は、摺動面の外周から内周に向かって漏れようとする被密封流体をシールするインサイド形のメカニカルシールであり、ポンプやコンプレッサ等の回転機械の回転軸2と図示しない回転機器のハウジングに固定されるシールカバー3との間に設けられており、シールカバー3に固定された円環状の固定密封環30と、回転軸2に回動不能に取付けられたホルダ4を介して回転軸2に固定される円環状の回転密封環40(密封環)と、から主に構成され、コイルスプリング60によって固定密封環30が軸方向左方(回転密封環40側)に付勢されることにより、固定密封環30の摺動面30aと回転密封環40の摺動面40aを互いに密接摺動させ、機内の高圧の被密封流体を軸封できるようになっている。尚、後段にて詳述するが、軸封装置1は、固定密封環30および回転密封環40に作用する被密封流体の圧力のバランスが軸方向両側で一定となるバランス形メカニカルシールとして構成されている。
【0021】
固定密封環30および回転密封環40は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0022】
図2および図3に示されるように、固定密封環30は、軸方向左端に摺動面30aが形成される環状突起30bが形成される第1円筒部30cと、第1円筒部30cの外周側から軸方向右方に延び第1円筒部30cよりも大径の第2円筒部30dと、第2円筒部30dから軸方向右側に延び第2円筒部30dと同外径かつ内径の大きい第3円筒部30kと、を有する略円筒形状に形成されている。また、固定密封環30は、第3円筒部30kの外周側に切り欠き状の挿入部30eが形成され、この挿入部30eにシールカバー3から軸方向左方に延びる回り止め部材であるノックピン61が挿入されることにより、シールカバー3に対して回り止めされている。
【0023】
また、固定密封環30の内周には、第2円筒部30dの内周側と第3円筒部30kの内周側とにより環状の段部30hが形成されている。詳しくは、第3円筒部30kの内周面30fと、第3円筒部30kの内周面30fの軸方向左端から内径方向に延び第2円筒部30dの内周面の軸方向左端と直交して連なる環状面部30gとにより環状の段部30hが形成されている。尚、環状の段部30hは、固定密封環30の軸方向右端の内周側から軸方向左方に挿入部30eと略同じ深さ凹むことにより形成されている。
【0024】
図2および図3に示されるように、シールカバー3は、機内側に延びる小径の第1円筒部3aと、第1円筒部3aよりも軸方向右方に延び第1円筒部3aよりも大径に形成される第2円筒部3bと、第2円筒部3bよりも軸方向右方に延び第2円筒部3bよりも大径に形成される第3円筒部3cと、を有する段付き略円筒形状に形成されている。
【0025】
シールカバー3の外周には、第1円筒部3aと第2円筒部3bとの径寸法差により環状の段部3fが形成されている。詳しくは、第1円筒部3aの外周面3dと、第1円筒部3aの外周面3dの軸方向右端から外径方向に延び第2円筒部3bの外周面の軸方向左端と直交して連なる環状面部3eとにより環状の段部3fが形成されている。
【0026】
図2および図3に示されるように、固定密封環30は、シールカバー3に対して外嵌された状態において、第3円筒部3cの軸方向右端がシールカバー3から軸方向に離間しているとともに、固定密封環30の内周に形成される段部30hと、シールカバー3の外周に形成される段部3fとの間に配置されるフロート31によりシールカバー3に対して軸方向移動可能に支持されている。尚、フロート31は、樹脂製のOリングであり、二次シールの機能を有し、フロート31により固定密封環30の段部30h(第2円筒部30dの軸方向右側の内周面30f)とシールカバー3の段部3f(第1円筒部3aの外周面3d)との間における被密封流体の漏れが防止されている。
【0027】
また、フロート31は、内周側がシールカバー3の第1円筒部3aの外周面3dに接触しており、シールカバー3におけるフロート31の内周側の接触面の径が固定密封環30の圧力バランス径R30を構成している。固定密封環30の圧力バランス径R30は、図2に示されるように、固定密封環30の摺動面30a(シール領域S)の内外径R1,R2に対してR1≦R30≦R2、言い換えればバランス比が1以下となるように設定されているため、高圧条件下において良好なシール性を発揮できるようになっている。
【0028】
図2および図3に示されるように、回転密封環40は、軸方向右端に摺動面40aが形成される第1円筒部40bと、第1円筒部40bの外周側から軸方向左方に延びる第2円筒部40cと、を有する略円筒形状に形成されている。また、回転密封環40は、第2円筒部40cの外周側に切り欠き状の挿入部40dが形成され、この挿入部40dにホルダ4から軸方向右方に延びる回り止め部材であるドライブピン41が挿入されることにより、回転軸2と一体的に回転可能となっている。
【0029】
また、回転密封環40の内周には、第1円筒部40bの内周側と第2円筒部40cの内周側とにより環状の段部40gが形成されている。詳しくは、第2円筒部40cの内周面40eと、第2円筒部40cの内周面40eの軸方向右端から内径方向に延び第1円筒部40bの内周面の軸方向左端と直交して連なる環状面部40fとにより環状の段部40gが形成されている。尚、環状の段部40gは、回転密封環40の軸方向左端の内周側から軸方向右方に挿入部40dよりも深く凹むことにより形成されている。
【0030】
図2および図3に示されるように、ホルダ4は、大気側に延びる小径の第1円筒部4aと、第1円筒部4aよりも軸方向左方に延び第1円筒部4aよりも大径に形成される第2円筒部4bと、第2円筒部4bよりも軸方向左方に延び第2円筒部4bよりも大径に形成される第3円筒部4cと、第3円筒部4cよりも軸方向左方に延び第3円筒部4cよりも大径に形成される第4円筒部4dと、を有する段付き略円筒形状に形成されている。
【0031】
ホルダ4の外周には、第2円筒部4bと第3円筒部4cとの径寸法差により、環状の段部4gが形成されている。詳しくは、第2円筒部4bの外周面4eと、第2円筒部4bの外周面4eの軸方向左端から外径方向に延び第3円筒部4cの外周面の軸方向右端と直交して連なる環状面部4fとにより環状の段部4gが形成されている。
【0032】
図2および図3に示されるように、回転密封環40は、ホルダ4に対して外嵌された状態において、第2円筒部40cの軸方向左端がホルダ4から軸方向に離間しているとともに、回転密封環40の内周に形成される段部40gと、ホルダ4の外周に形成される段部4gとの間に配置されるフロート42によりホルダ4に対して軸方向移動可能に支持されている。また、フロート42は、樹脂製のOリングであり、回転密封環40の段部40g(環状面部40f)と、ホルダ4の段部4g(環状面部4f)とにより軸方向に挟持された状態で保持されている。これにより、回転密封環40は、ホルダ4の精度不良やホルダ4の圧力変形の影響を受けず、さらに摺動面40aに受ける接触圧の変化に対してフロート42を弾性変形させることで、固定密封環30の軸方向移動に対する追従性を高めることができるため、固定密封環30の摺動面30aに対する回転密封環40の摺動面40aの接触状態を維持しやすい。
【0033】
また、ホルダ4の第3円筒部4cの外周には、内径方向に凹む環状凹部4hが形成されており、この環状凹部4hに装着される樹脂製の二次シールであるOリング43により、回転密封環40の第2円筒部40cの内周面40eとホルダ4(第3円筒部4c)の外周面との間における被密封流体の漏れが防止されている。また、環状凹部4hは、Oリング43の径よりも軸方向に長く形成されており、環状凹部4h内において、Oリング43は被密封流体の圧力により軸方向右方に移動して環状凹部4hの軸方向右側の内壁に接触している。
【0034】
また、フロート42およびOリング43は、共に外周側が回転密封環40の第2円筒部40cの内周面40eに接触しており、言い換えれば回転密封環40に対して同軸上に接触しており、回転密封環40におけるOリング43の外周側の接触面の径が回転密封環40の圧力バランス径R40を構成している。また、二次シールとして機能するOリング43は、ホルダ4の環状凹部4h内に配置されることにより、回転密封環40の第2円筒部40cの内周面40eに対して常にOリング43の外周側が接触面となるため、図3に示されるように、被密封流体の圧力の高まりにより、Oリング43が環状凹部4hの軸方向右側の内壁に押し付けられた場合にも、回転密封環40の圧力バランス径R40を一定にすることができる。さらに、回転密封環40の圧力バランス径R40は固定密封環30の圧力バランス径R30と同一径寸法になっているため、回転密封環40および固定密封環30に作用する被密封流体の圧力のバランスが軸方向両側で一定となる。すなわち、被密封流体の圧力が高まったとしても常に軸方向両側からの力がバランスしているため、回転密封環40および固定密封環30は安定した姿勢を保持することができる。
【0035】
これによれば、フロート42により支持される回転密封環40を有する軸封装置1において、被密封流体が二次シールであるOリング43によりシールされ、フロート42側への被密封流体の侵入が防止されるとともに、回転密封環40がフロート42とOリング43が同軸上に接触した状態で支持され、被密封流体の圧力の変化や回転密封環40の傾きによるフロート42の変形を抑制することにより、回転密封環40に被密封流体の圧力が不均一なバランスで作用することを防止できるため、回転密封環40の摺動面40aと固定密封環30の摺動面30aとの間における接触圧を安定させ、シール性を高めることができる。
【0036】
また、フロート42は、二次シール用のOリング43よりも回転密封環40の摺動面40a側に配置されており、フロート42は軸方向において回転密封環40の摺動面40aの近傍で回転密封環40に当接するため、回転密封環40を安定して傾動させることができる。また、フロート42は、Oリングであるため、回転密封環40の第2円筒部40cの内周面40eにおけるフロート42の接触面を小さくして摩擦を低減することにより、回転密封環40が軸方向移動しやすくなり傾きが抑えられるため、回転密封環40の摺動面40aと固定密封環30の摺動面30aとの間における接触圧をより安定させることができる。さらに、二次シール用のOリング43に加えて、フロート42も二次シール機能を有するため、回転密封環40側の二次シール機能に優れる。
【0037】
また、二次シール用のOリング43は、フロート42よりも断面小径であることから、回転密封環40およびホルダ4を小さくすることができるため、コンパクト設計、そして低コスト化に対応することができる。また、フロート42よりも二次シール用のOリング43のつぶし代が大きくなるため、回転密封環40のわずかな傾きにも対応することができる。さらに、フロート42および二次シール用のOリング43は、回転密封環40に対して同軸上に2箇所で接触しているため、回転密封環40の軸方向移動時における傾きを抑えることができる。また、回転密封環40の内径を軸方向に平滑にできるため、回転密封環40を精度よく簡単に加工することができる。
【実施例2】
【0038】
次に、実施例2に係る軸封装置につき、図4を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0039】
実施例2における軸封装置201について説明する。図4に示されるように、本実施例において、軸封装置201は、ホルダ204の環状凹部204h内に配置される二次シールであるOリング243が、フロート42と同じ外形、同じ材質、同じ特性の同一のOリングから構成されている。
【0040】
これによれば、軸封装置201の組み立て時において、二次シールであるOリング243とフロート42の取り付け間違いがなくなるため、回転密封環40の組み付けが容易である。
【実施例3】
【0041】
次に、実施例3に係る軸封装置につき、図5を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0042】
実施例3における軸封装置301について説明する。図5に示されるように、本実施例において、軸封装置301は、回転密封環340の第2円筒部340cの内周面340eに外径方向に凹む環状凹部340hが形成され、環状凹部340h内にOリング43が配置され、Oリング43の内周側がホルダ304の第3円筒部304cの外周面に接触している。
【実施例4】
【0043】
次に、実施例4に係る軸封装置につき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
実施例4における軸封装置401について説明する。図6に示されるように、本実施例において、軸封装置401は、摺動面の内周から外周に向かって漏れようとする被密封流体をシールするアウトサイド形のメカニカルシールであり、ホルダ404の第2円筒部404bに環状凹部404hが形成されることにより、段部404gに配置されるフロート42と環状凹部404hに配置されるOリング43とを軸方向に入れ換えて構成されている。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではない。
【0046】
例えば、実施例4の軸封装置に実施例2,3の構成を適用してもよい。
【0047】
また、前記実施例では、回転密封環にのみフロートと二次シール用のOリングが設けられる態様について説明したが、これに限らず、固定密封環にのみフロートと二次シール用のOリングが設けられてもよいし、回転密封環と固定密封環の両方にフロートと二次シール用のOリングが設けられてもよい。また、二次シールは、Oリング以外のシールから構成されていてもよい。
【0048】
また、前記実施例では、密封環を支持するフロートにOリングを用いることにより、フロート構造を簡素に構成しながら二次シール機能を持たせた態様について説明したが、これに限らず、フロート構造を構成できれば、フロートはOリング以外の部材により構成されていてもよく、二次シール機能を有していなくてもよい。
【0049】
また、前記実施例では、固定密封環がコイルスプリング60により回転密封環側に付勢される態様について説明したが、これに限らず、コイルスプリング以外の付勢手段により付勢されていてもよく、付勢手段は回転密封環側に配置されていてもよい。
【0050】
また、前記実施例では、固定密封環がホルダを介して回転軸2に固定される態様について説明したが、これに限らず、ホルダをなくして、回転密封環を回転軸に直接固定するようにしてもよい。尚、バランス形とする場合には、段付き回転軸とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 軸封装置
2 回転軸
3 シールカバー
3f 段部
4 ホルダ
4g 段部
4h 環状凹部(凹部)
30 固定密封環
30a 摺動面
30h 段部
31 フロート
40 回転密封環(密封環)
40a 摺動面
40g 段部
42 フロート
43 Oリング(二次シール)
60 コイルスプリング
204 ホルダ
204h 環状凹部(凹部)
243 Oリング(二次シール)
304 ホルダ
304c 第3円筒部
340 回転密封環(密封環)
340h 環状凹部
404 ホルダ
404g 段部
404h 環状凹部(凹部)
S シール領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6