(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法、ポリエステル系熱可塑性フィルム、ポリエステル系熱可塑性フィルム又はその樹脂材料の検査方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20220127BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20220127BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20220127BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220127BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20220127BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/08
B29C48/305
C08J5/18 CFD
B29K67:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2018551052
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2017034254
(87)【国際公開番号】W WO2018092414
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2016222809
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】特許業務法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 輝久
(72)【発明者】
【氏名】白川 智恵
(72)【発明者】
【氏名】泉 孝平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由実
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-111872(JP,A)
【文献】特開2003-313413(JP,A)
【文献】特開2003-306536(JP,A)
【文献】特開平07-207002(JP,A)
【文献】特開2005-187763(JP,A)
【文献】国際公開第97/045483(WO,A1)
【文献】特開平10-180844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
C08J 5/18
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後、冷却固化してフィルムを成形するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法において、
樹脂を加熱溶融し、前記溶融した樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[1]の関係を
満たすか否かを検査する検査工程を有することを特徴とする、ポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【請求項2】
前記加熱溶融樹脂の重合反応の触媒として、アンチモン化合物、チタン化合物及びゲルマニウム化合物のいずれかあるいはそれらの組み合わせが用いられることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記触媒の少なくとも一部が失活処理されていることを特徴とする、請求項2に記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項4】
ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後、冷却固化してフィルムを成形するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法において、
前記フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式[3]の関係を
満たすか否かを検査する検
査工程を有することを特徴とする、ポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【請求項5】
前記テレフタル酸以外のジカルボン酸成分として、イソフタル酸を0~20%含有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項6】
フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式
[5]の関係を満たすことを特徴とする、ポリエステル系熱可塑性フィルム。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート
≦0.09・・・
[5
]
【請求項7】
前記総量の比が次式[4]の関係を満たす、請求項6に記載のポリエステル系熱可塑性
フィルム。
0.02≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・
・[4]
【請求項8】
樹脂を加熱溶融し、前記樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)が、次式[1]の関係を満たすか否かを検査することを特徴とする、ポリエステル系熱可塑性フィルムの樹脂材料の検査方法。0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【請求項9】
成形したポリエステル系熱可塑性樹脂フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)が、次式[3]の関係を満たすか否かを検査することを特徴とする、ポリエステル系熱可塑性フィルムの検査方法。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法に関するものである。より詳細には、溶融押出法により、平滑性に優れたポリエステル系熱可塑性フィルムを製造する方法に関するものである。
さらに、本発明は、ポリエステル系熱可塑性フィルム、ポリエステル系熱可塑性フィルム又はその樹脂材料の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば下記特許文献1~4に記載されるように、溶融押出法によりポリエステル系熱可塑性フィルムを製造する際に、ダイスから吐出する加熱溶融樹脂から昇華物が発生することが知られていた。また、該昇華物がダイスの吐出口に付着して成長すると、成形後の樹脂フィルムに筋状の欠点(以下、「ダイライン」とも称する。)が生じ、良好な樹脂フィルムが得られ難くなる等の問題が知られていた。
【0003】
これらの問題に対する解決策として、例えば特許文献5ではポリエステル系熱可塑性樹脂に対してダイリップ部で発生する昇華物を吸引ノズルによって除去する方法が提案されている。また、特許文献6乃至8にはポリエステル系熱可塑性樹脂ペレット中のモノマー・オリゴマー量を規定することで成形時の金型汚れを抑制する方法が提案されている。これらの特許文献はいずれも、樹脂フィルム成形時に、ダイラインの原因となる昇華物や樹脂ペレット中のモノマー・オリゴマーを除去するか制限することでダイラインの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4292912号公報
【文献】特許第4320985号公報
【文献】特開2009-107180号公報
【文献】特許第3552821号公報
【文献】特開2001-71370号公報
【文献】特許第3938647号公報
【文献】特開2000-319373号公報
【文献】特開2001-172372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、短時間の製造では樹脂フィルム表面にダイラインの発生は認められない。一方で、連続生産を想定した場合、1日~2日の生産で樹脂フィルム表面にダイラインが発生し、樹脂フィルムの外観に悪影響を及ぼす。
【0006】
ダイラインが一度発生すると、その後の連続的な製造において樹脂フィルム表面のダイラインを消滅させることは困難である。なぜなら、ダイラインの原因となるダイスの吐出口の堆積物は、溶融樹脂材料に溶けず、また、フィルム製造温度では融解しないからである。
そのため、その後の製造において樹脂フィルム表面のダイラインを消滅させるためには、一般的には、ダイスを取外し、分解・清掃することが必要となる。
【0007】
ダイラインの発生初期にダイスの先端部をこまめに掃除することにより、樹脂フィルム表面のダイラインの増加を少なからず遅らせることはできる。
しかしながら、ダイスの清掃時は樹脂フィルムの製造をすることができず、生産性が悪化してしまうことは避けられない。
また、たとえダイスの清掃を行ってダイラインが消滅したとしても、製造を再開すればまた数日後には樹脂フィルム表面にダイラインが発生する。このようにダイスの清掃はあくまで応急処置的対応であって、ダイライン発生の根本的解決と言えるものではない。
【0008】
また、このダイラインの発生における最大の問題は、樹脂フィルムにおけるダイラインの発生の有無を事前に見積もれない点にあった。実際に樹脂フィルムの製造を開始してしばらくして初めてダイラインの発生有無が顕在化すると、樹脂フィルムを製造すればする程、ダイライン消滅のためのダイス清掃の手間が生じ、樹脂フィルム製造コストの増加の一因となる。
【0009】
一方で、樹脂フィルムの製造に至る前にダイラインの発生の有無を見積もることができれば、ダイラインの発生し難い樹脂ペレットをあらかじめ選択することができる。あらかじめダイラインの発生し易い材料を回避して樹脂フィルムの量産を開始することができれば、従来よりも長期間ダイラインの発生を抑制することができる。
また、ダイスを取外して分解・清掃する頻度を減少させることができるばかりか、ダイス清掃時に樹脂フィルムの製造ができない時間を減らすことができるため、大幅なコスト削減に寄与できる。
本発明者らは上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、本発明を想到するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、(1)ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後、冷却固化してフィルムを成形するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法において、樹脂を加熱溶融し、前記
溶融した樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[1]の関係を満たすか
否かを検査する検査工程を有することを特徴とする、
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【0011】
なお上記(1)に記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、(2)前記加熱溶融樹脂の重合反応の触媒として、アンチモン化合物、チタン化合物及びゲルマニウム化合物のいずれかあるいはそれらの組み合わせが用いられることが好ましい。
また、上記(2)に記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、(3)前記触媒の少なくとも一部が失活処理されていることが好ましい。
【0012】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、(4)ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後、冷却固化してフィルムを成形するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法において、前記フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式[3]の関係を満たすか否かを検査する検査工程を有すること
を特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【0013】
なお上記(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、(5)前記テレフタル酸以外のジカルボン酸成分として、イソフタル酸を0~20%含有することが好ましい。
【0014】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムは、(6)フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式[5]の関係を満たすことを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・・[5
]
また上記(6)において、(7)フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と
、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式[4]の関係
を満たすことが好ましい。
0.02≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・
・[4]
【0015】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムの樹脂材料の検査方法は、樹脂を加熱溶融し、前記樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)が、次式[1]の関係を満たすか否かを検査することを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【0016】
さらに上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムの樹脂材料の検査方法は、成形したポリエステル系熱可塑性樹脂フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)が、次式[3]の関係を満たすか否かを検査することを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイラインの発生有無を事前に見積もることができるため、ダイラインの発生し難い樹脂ペレットをあらかじめ選択することができる。そしてこの選択した樹脂ペレットを用いて樹脂フィルムの量産を開始することができる。また、従来よりも長期間にわたりダイラインの発生を抑制することができるため、ダイスを取外して分解・清掃する頻度を減少させることができる。またダイス清掃時の樹脂フィルムの製造できない時間を減らすことができるため、樹脂フィルムの大幅なコスト削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態において使用する昇華物補足装置を示す模式図である。
【
図2】樹脂フィルムの製造時における経時でのダイラインの発生を示す図である。
【
図3】昇華物中のTAとBHETの相関関係を示す図である。
【
図4】樹脂フィルム中のTAとBHETの相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法>
以下、本実施形態にかかるポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法について詳細に説明する。
本実施形態のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後、冷却固化してフィルムを成形するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法において、前記加熱溶融樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[1]式を満たすことを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【0020】
まず、本実施形態においてポリエステル系熱可塑性フィルムとは、ポリエステル系熱可塑性樹脂を用いて製造したフィルムをいう。本実施形態においてポリエステル系熱可塑性樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートを主骨格に持つ共重合ポリエステル樹脂のような芳香族ポリエステル樹脂をいう。
【0021】
この中でも特に、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を含む芳香族ポリエステル樹脂が好ましいが、これに制限されるものではない。
なお、全ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の割合は、80モル%以上とするのが好ましい。テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体のジカルボン酸成分に占める割合が前記範囲未満では、得られる樹脂フィルムとしての機械的強度が低下する傾向がある。
【0022】
なお、本実施形態において、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステル等が挙げられる。
【0023】
また、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。中でも特にイソフタル酸が、得られる樹脂フィルムの機械的特性の観点から好ましい。
【0024】
本実施形態におけるポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法は、ダイスより加熱溶融樹脂を吐出した後に冷却固化する、いわゆる溶融押出製膜法が好ましいが、特にこれに制限されるものではない。例えば溶液流延法やカレンダー法も適用可能である。
【0025】
溶融押出成膜法で樹脂フィルムの製造を行う場合、ダイスを用いる方法やインフレーション法などが挙げられる。そのうち、生産性や厚さ精度に優れる点でダイスを用いる方法が好ましい。ダイスを用いる方法としては、一般的には、次の工程を経て樹脂フィルムを製造する。
【0026】
すなわちまず、加熱溶融した樹脂材料を、押出機の先端に設置したダイスから押し出す。ダイスのリップ空隙より平たく吐出された樹脂材料は、鏡面処理された冷却ローラー(チルドロール)に密着させて冷却される。このようにして、ダイスを用いる溶融押出成膜法により、連続的に樹脂フィルムが製造される。
【0027】
上記方法で使用されるダイスとしては特に制限されず、例えば、Tダイやコートハンガーダイなどの公知のダイスが挙げられる。ダイスの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
なお、本実施形態におけるポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法におけるダイラインの発生の抑制は、単層フィルムの製造方法を例として以下説明する。しかしながら本実施形態は単層フィルムの製造方法に限定されず、多層フィルムの製造方法やフィルムラミネート金属板の製造方法等にも適用することが可能である。
【0029】
従来、溶融押出法によりポリエステル系熱可塑性フィルムを製造する際に、ダイスから吐出する加熱溶融樹脂から昇華物が発生することが知られていた。また、該昇華物がダイスの吐出口に付着成長すると、成形後の樹脂フィルムにダイラインが生じるという問題が知られていた。
【0030】
本発明者らは、ポリエステル系熱可塑性樹脂を溶融押出して樹脂フィルムを製造した際の、上記したダイラインの発生メカニズムの特定に取り組んだ。その結果、ダイラインの発生要因が、従来提唱されていた樹脂材料中に含まれるモノマーやオリゴマーではなく、樹脂フィルム製造中に生じる低分子量体がダイス先端部に堆積したものであることをつきとめた。
【0031】
ポリエステル系熱可塑性樹脂を溶融押出して樹脂フィルムを製造した場合、ダイラインの発生原因としては、樹脂の熱分解によって生成した低分子量体(以下、「低分子量成分」とも称する。)がダイス先端部に堆積して固着するためと考えられる。すなわち、この低分子量体が、樹脂フィルムの製造中に少しずつダイスの先端部に堆積する。ある一定量以上の堆積が起こった場合、樹脂フィルムの表面に影響が現れ、ダイラインが発生する。しかしながら前記堆積物自体は熱で変質しているので、溶融樹脂材料、および有機溶剤に溶けず、また、フィルム製造温度では融解しないため、分析することが困難である。そこで本実施形態においては、樹脂の熱分解時に前記低分子量体と共に生じるTA及びBHETに着眼した。
以下にTA及びBHETの構造式を示す。
【0032】
【0033】
【0034】
より詳細には、上記物質TA及びBHETのうち、一部はダイスより吐出した溶融樹脂から昇華物として揮発し、一部は製造後の樹脂フィルムに残存すると推測される。
よって、ダイスより吐出した溶融樹脂から発生する昇華物中のTA及びBHETの量、あるいは製造後の樹脂フィルムに残存したTA及びBHETの量を定量することにより、樹脂フィルムを量産する段階に至る前でも、ダイラインが発生しやすいかどうかを見積もることが可能となる。
【0035】
すなわち本実施形態によれば、少なくとも樹脂フィルムの試験的製造の段階において、上記TA及びBHETの量を測定することにより、樹脂フィルムの量産が開始された後のダイラインの発生のし易さを見積もることができる。
さらには、樹脂フィルムを製造することなく一定条件下で樹脂材料を加熱した場合に生じる昇華物中のTA及びBHETの量を測定すること等により、樹脂フィルムの製造時のダイラインの発生し易さを見積もることも可能である。
【0036】
すなわち、本実施形態においては、ポリエステル系熱可塑性樹脂を、樹脂フィルムの製造時と同等の条件において加熱した場合に発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[1]の関係を満たすポリエステル系熱可塑性樹脂材料を選定する。これにより、樹脂フィルム表面のダイライン発生を抑制し、長期間、平滑性に優れたダイラインのない樹脂フィルムを製造することができる。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【0037】
またさらに、本実施形態においては、昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[2]の関係を満たすことがより好ましい。
0.20≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.92・・・[2]
【0038】
上記において、ポリエステル系熱可塑性樹脂を、樹脂フィルムの製造時と同等の条件において加熱する場合には、不活性ガス雰囲気下、樹脂の融点以上の温度で加熱することが必要である。
ここで樹脂の融点以上の温度は、ポリエステル系熱可塑性樹脂の組成により異なる。例えば、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸を15mol%含有するポリエチレンテレフタレートの場合は、融点である約215℃以上の加熱温度が好ましい。また、イソフタル酸の含有量が0mol%の場合、融点である約255℃以上の加熱温度が好ましい。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等の公知のガスを使用可能である。また、加熱時間としては、1~10時間であることが好ましい。
【0039】
このように本実施形態においては、溶融樹脂の熱分解挙動における昇華物に着目した点に特徴があり、樹脂ペレット中に含まれているTA及びBHETの量を単に比較することとは一線を画している。
【0040】
一方で、ポリエステル系熱可塑性樹脂を樹脂フィルムの製造時と同等の条件において加熱した場合に発生する昇華物が、上記式[1]の関係を満たすようにする方法として、触媒を失活させる方法が挙げられる。以下、詳細に説明する。
【0041】
すなわち、一般的に、樹脂ペレットには重合のための触媒が残存しているので、樹脂フィルム製造のための加熱により、分解反応も生ずる。そこで、この樹脂ペレット中に残存する触媒を失活させることにより、上記式[1]を満たすように調整することが可能である。
触媒を失活させる方法としては、触媒の種類により異なる。例えば、失活剤を添加することにより触媒を失活させる、あるいは熱水処理(所望の温度に加熱された液体を触媒に添加する処理)により触媒を失活させることが可能である。
【0042】
なお、本実施形態において触媒としては、アンチモン(Sb)化合物、チタン(Ti)化合物、及びゲルマニウム(Ge)化合物のうちのいずれかであることが好ましい。
熱水処理により触媒を失活させる方法としては、90℃~100℃の条件で1~10時間加熱することが好ましい。
触媒の失活剤としては、ポリエステル系樹脂に対して一般的に用いられるものが使用される。例えば特開2007-204515号公報に開示されるような、トリメチルリン酸、トリエチルリン酸等のリン酸エステルやこれらの塩等のリン系失活剤等、公知の失活剤が挙げられる。
また、失活剤の添加量としては、通常の添加量で良く、例えば0.1~1.0質量部程度を添加することができる。
【0043】
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂に含まれるTA及びBHETの好ましい含有量は、目的とする樹脂フィルムの物性や、樹脂フィルムの製造設備によって異なる。本実施形態においては、上記式[1]を満たすようにすることにより、上記したダイラインの抑制を達成できることを見いだしたものである。
【0044】
ここで、加熱溶融樹脂から発生する昇華物に含まれるテレフタル酸の量、及び、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの量の測定方法について説明する。
昇華物中の物質量の測定に使用される一般的な方法を用いることができる。例えば、
図1に示される昇華物補足装置を使用して、窒素(不活性ガス)雰囲気下で樹脂を加熱し、補足した昇華物を採取する。採取した昇華物をクロロホルム等の有機溶媒に溶解する。その後、被測定物質の含まれた有機溶媒を用いて測定試料を作成し、高速液体クロマトグラフィー等を用いて各種物質を定量することが可能である。
【0045】
次に、製造後の樹脂フィルム(換言すれば加熱履歴を有する樹脂フィルム)中に含まれる(残存する)遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量を規定することにより、ダイラインを抑制する方法について説明する。
本実施形態においては、ポリエステル系熱可塑性樹脂フィルム中に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比を、次式[3]の関係を満たすようにすることを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【0046】
またさらに、本実施形態においては、樹脂フィルム中に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が、次式[4]の関係を満たすことが好ましい。
0.02≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・・[4]
【0047】
上記式[3]の関係を満たすことにより、ポリエステル系熱可塑性樹脂フィルムの製造において、樹脂フィルム表面のダイラインの発生を抑制することが可能となる。
なお、樹脂フィルム中のテレフタル酸及びビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの測定方法としては、一般的な方法を使用することができる。例えば、樹脂フィルムを溶解して測定試料を作成し、高速液体クロマトグラフィー等を用いて各種物質を定量することが可能である。
【0048】
<ポリエステル系熱可塑性フィルム>
本実施形態のポリエステル系熱可塑性フィルムは、フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比が次式[3]の関係を満たすことを特徴とする。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
また本実施形態のポリエステル系熱可塑性フィルムに関して、上記[3]式を満たす場合においては、さらに次式[4]を満たすことがより好ましい。
0.02≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・・[4]
【0049】
上記のような構成により、本実施形態のポリエステル系熱可塑性フィルムは、その表面にダイラインの発生を抑制することが可能となる。
【0050】
<ポリエステル系熱可塑性フィルムの樹脂材料の検査方法>
上に、本実施形態に関するポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法について説明した。なお、上記の内容は、樹脂フィルムの表面のダイラインの発生を抑制するために、樹脂材料を選択する際の、樹脂材料の検査方法にも応用可能である。
【0051】
すなわち、本実施形態の樹脂材料の検査方法は、樹脂フィルムを製造する前の段階において、樹脂を加熱溶融した際に、前記樹脂から発生する昇華物に含まれる遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)を測定することを主とした特徴としている。
そして、上記総量の比が次式[1]の関係を満たすときに、後の樹脂フィルムの製造時においてダイラインの発生が抑制されると判定できる。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<1.02・・・[1]
【0052】
また、上記[1]式を満たす場合においては、さらに次式[2]を満たすことがより好ましい。
0.20≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.92・・・[2]
【0053】
<ポリエステル系熱可塑性フィルムの検査方法>
また、樹脂フィルム中に含まれる(残存する)遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量を検査することにより、樹脂フィルム製造時のダイライン発生のし易さを明らかにすることも可能である。
以下、本実施形態におけるポリエステル系熱可塑性フィルムの検査方法について説明する。
【0054】
すなわち、本実施形態においては、ポリエステル系熱可塑性樹脂フィルム中に残存する遊離したテレフタル酸の総量と、遊離したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの総量の比(テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート)を測定する。
そして、上記総量の比が、次式[3]の関係を満たすときに、樹脂フィルムの表面に発生し得るダイラインが、実用可能な程度に少ないということが判定できる。
0<テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート<0.33・・・[3]
【0055】
また、上記[3]式を満たす場合においては、さらに次式[4]を満たすことがより好ましい。
0.02≦テレフタル酸/ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート≦0.09・・・[4]
【0056】
≪実施例≫
以下に、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
【0057】
<昇華物中のテレフタル酸及びビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートの定量>
樹脂ペレットを粉砕し、1.0~1.4mmサイズの粉末とした。当該粉末を1g秤量し、ステンレス製の昇華物補足装置(
図1)に入れた。昇華物補足装置に1.0L/minで窒素を流し、ホットプレート表面温度280℃で4時間加熱した。昇華物を採取しクロロホルムに一晩溶解させた。クロロホルムを濃縮乾固し、得られた白色固体をジメチルホルムアミドに溶解させて測定試料とした。
【0058】
テレフタル酸(TA)、イソフタル酸(IA)、モノヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、環状二量体、環状三量体を標本として、HPLC(HITACHI製Chromaster)にて検量線を作成し、測定試料中に含まれる各種モノマー、オリゴマーを定量した。
【0059】
<樹脂フィルム中に含まれるTA及びBHETの定量>
樹脂フィルムを1g秤量し、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液に溶解させた。その後テトラヒドロフランにてポリエステル樹脂を再沈殿し、ろ液を濃縮乾固し、ジメチルホルムアミドに溶解させて測定試料とした。TA、IA、MHET、BHET、環状二量体、環状三量体を標本としてHPLCにて検量線を作成し、測定試料中に含まれる各種モノマー、オリゴマーを定量した。
【0060】
<樹脂フィルム表面のダイラインの評価>
図2に示すように、製造した樹脂フィルムに暗室中でキセノンランプを照射し、白色スクリーンに投影した画像をCCDカメラで撮影した。画像の濃淡でダイライン発生有無を評価した。
【0061】
<実施例1>
表1に示すPET樹脂A(IA=5mol%、IV=0.92dl/g、重合触媒=Sb触媒)を加熱し、昇華物中に含まれるTAとBHETの含有量を求めた。結果を表1及び
図3に示す。
次いで、二軸押出し機を用いて、以下の条件で溶融押出法により樹脂フィルムを製造した。
押出し機:Φ47mm二軸押出し機、L/D=31.5、2ベント
ダイス出口幅:380mm
押出し温度:270℃~280℃
吐出量:18Kg/hr
冷却ロール引取り速度:3~4rpm
試験時間:46hr
【0062】
樹脂フィルム製造開始から終了まで2時間毎に、一定時間経過時の樹脂フィルム表面のダイライン有無について評価を行った。その結果を表1に示す。
また、樹脂フィルム製造開始から46時間経過時における、得られた樹脂フィルム中のTA及びBHETの含有量を求めた。その結果を表2及び
図4に示す。
【0063】
<実施例2>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂B(IA=5mol%、IV=0.83dl/g、重合触媒=Ti触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0064】
<実施例3>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂C(IA=5mol%、IV=0.85dl/g、重合触媒=Ti触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0065】
<実施例4>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂D(IA=0mol%、IV=0.75dl/g、重合触媒=Ge触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0066】
<実施例5>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂E(IA=2mol%、IV=0.84dl/g、重合触媒=Sb触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0067】
<実施例6>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂F(IA=2mol%、IV=0.81dl/g、重合触媒=Sb触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0068】
<比較例1>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂G(IA=5mol%、IV=0.92dl/g、重合触媒=Ge触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0069】
<比較例2>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂H(IA=0mol%、IV=0.75dl/g、重合触媒=Ge触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0070】
<比較例3>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂I(IA=15mol%、IV=0.92dl/g、重合触媒=Ge触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0071】
<比較例4>
使用したPET樹脂を、表1のPET樹脂J(IA=0mol%、IV=0.91dl/g、重合触媒=Ge触媒)に変更した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを製造した。
【0072】
【0073】
【0074】
以上、本発明による樹脂フィルム製造方法によれば、表面にダイラインのない樹脂フィルムの製造が可能であった。一方で、上記比較例に示される製造方法によれば、樹脂フィルムの表面にダイラインが発生した。
【0075】
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明のポリエステル系熱可塑性フィルムの製造方法によれば、事前にダイラインの発生有無を見積もることができる。本発明は、単層の樹脂フィルムに限られず、多層樹脂フィルム、PETボトル、樹脂被覆ラミネート板等、幅広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 PET樹脂
20 昇華物
30 昇華物補足部
40 窒素又は空気導入管
41 窒素又は空気
50 冷却水導入管
51 冷却水
60 ホットプレート
1 排気口