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特許6992004パーキンソン病患者において転倒を低減するためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびイダロピルジンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】パーキンソン病患者において転倒を低減するためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびイダロピルジンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4045 20060101AFI20220127BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61K31/445
A61P25/16
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018555748
(86)(22)【出願日】2017-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2017059739
(87)【国際公開番号】W WO2017186686
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】PA201600248
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】591143065
【氏名又は名称】ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】デ ジョン,インゲ,イー,エム
(72)【発明者】
【氏名】クチンスキー,アーロン
(72)【発明者】
【氏名】サーター,マーティン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528471(JP,A)
【文献】Neurology, (2010), 75, [14], p.1263-1269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61P 25/00-25/36
A61K 31/445
A61K 31/4045
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病の処置用の、ドネペジルと組み合わせて用いられる、イダロピルジンを含む医薬組成物であって、前記処置がパーキンソン病を有する患者において転倒を低減することからなる、医薬組成物。
【請求項2】
ネペジルの用量は、1~30mg、例えば5~23mgであ、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ダロピルジンの1日用量は、10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~90mg、例えば30mg~60mgである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病を有する高齢の患者などの高齢の患者において転倒を低減するためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびイダロピルジンの使用に関する。本発明は、パーキンソン病に罹患している患者において転倒を低減するためのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびイダロピルジンの組み合わせにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
転倒は、高齢者において死亡の主な原因であり、パーキンソン病(PD)を有する大多数の患者では、入院および長期介護の主なレボドパ非感受性の原因である。PDにおける転倒は、線条体ドーパミンの損失と相互作用して、バランス、歩行および運動の認知制御を損なう前脳コリン作動性ニューロンの変性に起因した。
【0003】
主として線条体ドーパミンの損失を反映する、疾患を特徴付ける運動性の症状に加えて、顕著な自律神経性の症状、行動性の症状および認知性の症状は、転倒の傾向を含めて、パーキンソン病(PD)がより広範囲の多系統神経変性進行をベースとすることを示す。PD患者2,3、さらに健康な高齢者における転倒は、多くの場合、身体障害者となる事象である5,6。エクササイズをベースとするプログラム7~9およびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤による処置10,11は、高齢者およびPD患者において転倒率を低減するが、転倒の傾向をさらに低減する必要性が残っており、依然として対処されていない。
【0004】
患者の転倒は、多数の危険因子に関連しているが12~14、運動の注意警戒における障害は、特に不慣れな地面および障害物または二次課題が歩行、バランスおよび運動の制御を脅かす場合に主要な要因となる15~22。歩行、バランスおよび運動を誤ると、通常、代償性の注意制御が誘起される。しかしながら、疾患の進行が脳の注意系にも影響を与えるため、そのような注意する手段である代償的な備えは、運動を促進し、転倒を予防するのに一層役立たなくなる。この見解と一致して、脳の主要な注意系である終脳領域および視床領域への前脳基底核(BF)のコリン作動性の投射23,24、ならびに視床および基底核へのコリン作動性の脳幹の投射の変性の両方は、PD患者における遅い歩行速度、歩行のすくみおよび転倒と相関する25~29
【0005】
レビー小体認知症(LBD)、核上性麻痺(PSP)および多系統萎縮症(MSA)などの他のCNS疾患でも、バランス、歩行および運動は、コリン作動性ニューロンの変性のために損なわれている30
【0006】
上記から、パーキンソン病を有する患者において、かつコリン作動性ニューロンの変性がバランス、歩行および運動障害をもたらす他のCNS疾患を有する患者において転倒を低減するために使用するための処置の必要性が残っているが、依然として対処されていないことが明らかである。INN名称「イダロピルジン」を有するN-(2-(6-フルオロ-1H-インドール-3-イル)エチル)-3-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)ベンジルアミン(下記に示す)は、国際公開第02/078693号パンフレットで初めて開示され、それは、統合失調症に関連する認知障害の処置およびADの処置のために臨床開発中である強力で選択的な5-HT受容体アンタゴニストである。
【化1】
【0007】
2012年に、アルツハイマー病(AD)の処置において使用されたイダロピルジンによる臨床研究が報告された。データは、イダロピルジンおよび10mg/日のドネペジルが、AD Assessment Scale-cognitive sub-scale(ADAS-cog)によって測定した場合、プラセボおよびドネペジルと比較して、ADを有する278人の患者において認知機能を有意に改善したことを実証した。イダロピルジンは、ドネペジルにより処置された患者と比較して、全体的な所見および毎日の生活行動の尺度を含むセカンダリーエンドポイントにおいて陽性の結果を示した。次の第III相試験は、その結果を確認することができなかった。
【0008】
本特許出願に含まれる結果は、電子公報で部分的に開示されている(doi:10.111/ejn.13354、2016年7月29日に公開)31。さらに、転倒、歩行および運動中止に対する処置の影響力に関する評価に使用されるMichigan Complex Motor Control Task(MCMCT)は、Kucinski et al.による論文に記載されている32
【発明の概要】
【0009】
本発明は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減することによるパーキンソン病の処置において使用するための、イダロピルジン(IDL)などの5-HT受容体アンタゴニストおよびドネペジル(DON)、リバスチグミン(Riva)またはガランタミン(GAL)などのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)に関する。本発明者らは、驚くべきことに、ドネペジルおよびイダロピルジンまたはリバスチグミンおよびイダロピルジンによる同時の処置が二重線条体ドーパミン作動性皮質コリン作動性系損傷(DL)ラットにおいて転倒を低減することを発見した。これらの結果は、AChEIおよび5HT受容体アンタゴニストによる同時の処置が、PD患者において、特に注意をそらすものによって誘起されるかまたは無意識に生じる比較的短時間の運動中止の傾向も示すPD患者において、転倒の傾向を低減し得ることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】棒を通過する間の転倒である(N=70、1群当たりn=14および7/性別)。すべての試験条件にわたり、DLラットは、SH/VEHラットよりも頻繁に転倒した。さらに、DL/VEHラットと比較して、DON+IDLによる処置は、転倒率を有意に下げた(A)。個々の試験条件(B~E)についての検証は、不慣れな時計回り(cw)方向に回転し、かつcwおよび反時計回り(cc)方向に交互に回転する棒を通過することに関連する転倒の低減が、主としてDLラットにおけるDON+IDLの全体的な効果に寄与したことを示した。この図および以下の図は、結果において記載されるANOVAからの有意な結果をベースとしたpost hoc多重比較の結果を示す(*****、P<0.05、0.01、0.001;この図および他の図において使用される略語:SH、偽手術;DL、二重前脳基底核コリン作動性および線条体ドーパミン作動性損傷;DON、ドネペジル、IDL、イダロピルジン、Riva、リバスチグミン)。
図2】注意をそらす戸枠の影響である(N=70、1群当たりn=14および7/性別)。すべてのDLラットは、DL/DON+IDLラットを除いて、この受動的な注意をそらすものにさらされた場合、SH/VEHラットよりも頻繁に転倒した(A、B)。DON+IDLの効果を媒介する有望な行動メカニズムに対する洞察を得るために、DL/VEHラットおよびDL/DON+IDLラットの戸枠に関連する行動についてさらに分析した。戸枠に関連する転倒は、ラットが枠に近づくかたまたは到達したときの運動の中止または歩行のすくみに関連した。概して、すくみが長いほど、DL/VEHラットおよびDL/DON+IDLラットの両方において転倒が多くなることに関連した(C)。実際に、より長いすくみに関連した転倒は、群間で異ならなかった(D)。しかしながら、DON+IDL処置ラットは、すくみが比較的短いままである(<2秒)場合、それほど頻繁に転倒せず、有意であった。短いすくみ自体の割合は、群間で異ならなかった。Eにおいて示されるように、短いすくみ後にさらにラットが転倒しなかった場合、DL/VEHラットは、前方運動を比較的遅く再開し、概して尾の位置は比較的低く、姿勢は前かがみであった(このラットが戸を通過した後にスリップすることに注意されたい)。対照的に、DL/DON+IDLラットは、ときに初めに跳んで前方運動を再開すると(ここに示されるように)、ラットは、通常の通過速度および流れるような前方運動を迅速に取り戻し、尾の位置は高くしっかりしており、姿勢はまっすぐであった。
図3】能動的な注意をそらす課題の遂行である(N=70、1群当たりn=14および7/性別)。二次課題の影響力をモデル化するために、ラットが回転する棒を通過するときに水を与えた(上の写真を参照されたい;並行した毎日のSAT試験のためにラットに水を与えていなかった)。水を摂取しようとする回数が少ないことによって示されるように、DLラットは、概して、この相容れない活動にあまり関わろうとしなさそうであった(A)。DLラットは、転倒を被ることなく水を摂取する可能性も低かった(B)。いずれの薬剤による処置も(ドネペジル(DON)もしくはイダロピルジン(IDL)のみまたはその組み合わせ)、この能動的な注意をそらすものがあるとDLラットの遂行を有意に改善しなかった。
図4】2日目から5日目までを合わせた転倒の総数である。10日間のビヒクル、1mg/kgリバスチグミン、10mg/kgイダロピルジンまたは処置の組み合わせによる処置後に二重損傷(DL)ラットまたは偽手術ラットにおいて記録した転倒の総数(Y軸)を示す。バーは、平均値±sem、***P<0.001 参照DL+ビヒクルを示す。N値を括弧内に示す。
図5】交互に回る棒からの転倒の総数である(5日目)。10日間のビヒクル、1mg/kgリバスチグミン、10mg/kgイダロピルジンまたは処置の組み合わせによる処置後に二重損傷(DL)ラットまたは偽手術ラットにおいて記録した転倒の総数(Y軸)を示す。バーは、平均値±sem、***P<0.001、**P<0.01 参照DL+ビヒクルを示す。N値を括弧内に示す。
図6】反時計回りの棒からの転倒の総数である(4日目)。10日間のビヒクル、1mg/kgリバスチグミン、10mg/kgイダロピルジンまたは処置の組み合わせによる処置後に二重損傷(DL)ラットまたは偽手術ラットにおいて記録した転倒の総数(Y軸)を示す。バーは、平均値±sem、***P<0.001 参照DL+ビヒクルを示す。N値を括弧内に示す。
図7】静止している棒からの転倒の総数である。10日間のビヒクル、1mg/kgリバスチグミン、10mg/kgイダロピルジンまたは処置の組み合わせによる処置後に二重損傷(DL)ラットまたは偽手術ラットにおいて記録した転倒の総数(Y軸)を示す。バーは、平均値±sem、***P<0.001 参照DL+ビヒクルを示す。N値を括弧内に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書の全体にわたり、用語「イダロピルジン」(ときにIDLと省略される)は、遊離塩基および薬学的に許容される塩などの化合物の任意の形態を含むことが意図される。遊離塩基および薬学的に許容される塩は、無水形態および水和物などの溶媒和形態を含む。無水形態は、アモルファスおよび結晶形態を含み、溶媒和化合物は、結晶形態を含む。同様に、用語「ドネペジル」(ときにDONと省略される)は、遊離塩基および薬学的に許容される塩などの化合物の任意の形態を含むことが意図される。
【0012】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(本発明において「AChEI」と省略される)は、アセチルコリンエステラーゼ酵素がアセチルコリンを分解するのを阻害し、それにより神経伝達物質アセチルコリンのレベルおよびその作用の持続時間の両方を増加させる化学物質または薬剤である。本発明において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の例は、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンを含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書の全体にわたり、用語「高齢の患者」は、少なくとも60歳、少なくとも65歳など、少なくとも70、75、80、85または90歳などの人を指す。本発明において、イダロピルジンがAChEIと組み合わせて使用される場合、これは、一実施形態において、前記2つの化合物が、例えば両方の化合物を含む医薬組成物において同時に投与され得ることを示す。別の実施形態では、イダロピルジンがAChEIと組み合わせて使用される場合、これは、前記2つの化合物が、適した個々の医薬組成物において別々に投与されることを示す。
【0014】
これらの個々の組成物は、例えば、規則的な間隔で毎日1回、朝もしくは夕に同時に投与され得、またはそれらは、独立して、例えば一方の化合物が規則的な間隔で毎日1回、朝に、および他方の化合物が規則的な間隔で毎日1回、夕に投与され得る。
【0015】
本発明において、「医薬組成物」は、用量形態、例えば固体経口用量形態、典型的に錠剤またはカプセルなどの経口用量形態を指す。「本発明の医薬組成物」は、請求項および本明細書によって包含されるすべての医薬組成物を指す。
【0016】
本発明において、「薬学的賦形剤」は、例えば、本発明の医薬組成物において使用される不活性固体希釈剤または増量剤、滅菌水溶液および様々な有機溶媒を含む。
【0017】
本発明において、「単位剤形」は、医薬組成物の製剤単位、例えば1つの錠剤または1つのカプセルを指す。
【0018】
本発明において、化合物の「治療有効量」は、前記化合物の投与を含む治療的介入において特定の疾患およびその合併症の臨床症状を治すか、軽減するか、または部分的に抑えるのに十分な量を意味する。これを達成するのに適当な量は、「治療有効量」として定義される。各目的のための有効量は、疾患または傷害の重症度ならびに対象の体重および全身状態に依存するであろう。適切な投薬量の決定は、値のマトリックスを作り、マトリックスにおける様々なポイントについて試験することにより、ルーチン的な試験を使用して実現され得、これは、すべて熟練の医師の通常の能力の範囲内にあることが理解されるであろう。
【0019】
用語「コリン作動性ニューロンにおける機能障害」は、コリン作動性ニューロンの正常な機能が最大能力に達していない健康状態である。
【0020】
用語「コリン作動性ニューロンの変性」は、脳中のコリン作動性ニューロンの進行性増悪である健康状態である。
【0021】
本発明において、「処置」または「処置すること」は、疾患の臨床症状を軽減するか、抑えるか、部分的に抑えるか、もしくはその進行を遅延させるか、または疾患を治す目的のための患者の管理およびケアを示すことが意図される。本発明の一態様では、「処置」および「処置すること」は、予防的な(防止的な)処置を指す。別の態様では、「処置」および「処置すること」は、(根治的な)処置を指す。処置される患者は、好ましくは、哺乳動物、特に人間である。
【0022】
「DLラット」は、二重線条体ドーパミン作動性皮質コリン作動性系損傷を受けたラットである。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、イダロピルジンおよびドネペジルまたはイダロピルジンおよびリバスチグミンの組み合わせが動物モデルにおける転倒を低減し得、PDを有する患者および高齢の患者において転倒を低減する治療上の処置に対するこれらの2つの物質の組み合わせの可能性を示したことを確認した。手短に言えば、ドネペジル(DON)およびイダロピルジン(IDL)の効果は、回転する棒を通過し、かつ持続的注意課題(SAT)を実行する、皮質コリン作動性の損失および線条体ドーパミン作動性の損失を有するラット(DLラット)において試験した。主な発見は、DON+IDLによる処置が、回転している棒上での転倒および注意をそらす戸枠によって誘起される転倒を低減したことを示す。DON+IDLは、主として、比較的短時間の運動中止後、回転している棒の通過を再び開始する有効性および勢いを増強することによって転倒を予防した。DON+IDLにより処置したDLラットは、回転している棒を通過する間、他のDL群よりも少ない転倒を示し、それらは、比較的短い戸枠によって誘起された中止と関連して、それほど転倒しなかった。さらに、Riva+IDLによるDLラットの処置も、ビヒクルのみにより処置したDLラットと比較した場合、DLラットにおいて転倒の数の低減を示した。さらなる詳細については、実験の部を参照されたい。
【0024】
転倒するヒトでは、DLラットでのように、注意をそらすものによって誘起されるかまたは明らかな原因を伴うことなく生じる遅い歩行速度および運動中止は、前方運動を不安定にし、転倒の危険性を増加させる。歩行の中止またはすくみは、姿勢および歩行の制御の不安定ならびに運動の選択および計画の崩壊の両方を伴い、したがって、そのような中止は、線条体ドーパミンの損失と全く対立するものとして皮質-線条体伝達の崩壊を反映し得る。
【0025】
したがって、本発明は、転倒を低減することによる高齢の患者の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEIに関する。本発明は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減することによるパーキンソン病の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEIにさらに関する。本発明は、医薬として許容される賦形剤と一緒にイダロピルジンおよびAChEIを含む医薬組成物にも関する。
【0026】
本発明によれば、イダロピルジンおよびAChEIまたはこれらの2つの化合物のいずれかの薬学的に許容される塩は、任意の適した方法において、例えば経口的に、経粘膜的に、または非経口的に投与され得、イダロピルジンおよび/またはAChEIは、そのような投与に適した任意の形態で提供され得る。一実施形態においてかつ本発明の目的に従って、イダロピルジンおよびAChEIは、固体薬学的実体の形態において、適切には錠剤もしくはカプセルとしてまたは注射用の懸濁剤、水剤もしくは分散液の形態で共に投与される。
【0027】
本発明による医薬組成物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22 Edition,Hauber,Ed.,Lippincott Williams&Wilkins,2013において開示される技術などの従来の技術に従って、医薬として許容されるキャリアまたは希釈剤ならびに任意の他の既知の補助剤および賦形剤と共に製剤され得る。錠剤は、したがって、補助剤および/または希釈剤などの通常のキャリアと活性成分を混合し、続いて打錠機で混合物を圧縮することによって調製され得る。
【0028】
適した医薬キャリアおよび賦形剤は、不活性固体希釈剤または増量剤、滅菌水溶液および様々な有機溶媒を含む。固体キャリアの非限定的な例は、コーンスターチ、ラクトース、白土、スクロース、シクロデキストリン、滑石、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびセルロースの低級アルキルエーテルである。液体キャリアの非限定的な例は、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレンおよび水である。
【0029】
着色剤、芳香および保存剤などの任意の他の補助剤または添加剤も使用され得、ただし、それらが活性成分と適合性であることを条件とする。本発明の医薬組成物は、したがって、有効量イダロピルジンおよび/またはAChEIならびに1つ以上の医薬として許容されるキャリアを典型的に含む。
【0030】
本発明において使用される化合物および医薬の許容されるキャリアを組み合わせることによって形成される医薬組成物は、次いで、開示される投与ルートに適した様々な投薬形態で容易に投与される。
【0031】
医薬品活性成分は、本発明を使用したものであり、すなわちイダロピルジンおよびAChEIは、1回の用量または複数回の用量のいずれかにおいて、純粋な化合物として単独でまたは医薬として許容されるキャリアもしくは賦形剤と組み合わせて投与され得る。
【0032】
医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、肺、局所(頬側および舌下を含む)、経皮、ならびに非経口(皮下、筋肉内および静脈内を含む)ルートなどの任意の適したルートによる投与のために特別に製剤され得るが、経口ルートが好ましい。投与ルートは、処置される対象の全身状態および年齢、処置される状態の性質、ならびに選択される活性成分に依存し得ることが十分に理解されるであろう。
【0033】
経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉剤および顆粒剤などの固体経口投薬形態;ならびに水剤、エマルション、懸濁剤およびシロップなどの液体経口投薬形態ならびに適切な液体に溶解または懸濁される粉剤および顆粒剤を含む。
【0034】
固体経口投薬形態は、個別の単位(例えば、錠剤またはハードカプセルもしくはソフトカプセル)として提供され得、それぞれが所定量の活性成分および好ましくは1つ以上の適した賦形剤を含有する。適切な場合、固体投薬形態は、腸溶コーティングなどのコーティングと共に調製され得、またはそれらは、当技術分野においてよく知られている方法による遅効放出もしくは長期放出など、活性成分の放出の調整をもたらすように製剤され得る。適切な場合、固体投薬形態は、例えば、口内で分散する(orodispersible)錠剤など、唾液で崩れる投薬形態であり得る。固体経口製剤に適した賦形剤の例は、結晶セルロース、コーンスターチ、ラクトース、マンニトール、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、スクロース、シクロデキストリン、滑石、ゼラチン、ペクチン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびセルロースの低級アルキルエーテルを含むが、これらに限定されない。同様に、固体製剤は、モノステアリン酸グリセリンまたはヒプロメロースなどの当技術分野で知られている遅効放出製剤または長期放出製剤のための賦形剤を含み得る。固体材料が経口投与に使用される場合、製剤は、例えば、固体賦形剤と活性成分とを混合し、続いて従来の打錠機で混合物を圧縮することによって調製され得、または製剤は、例えば、ハードカプセル、例えば粉剤、ペレット剤もしくはミニ錠剤形態に入れられ得る。固体賦形剤の量は、広く変動するであろうが、典型的に、1投薬単位当たり約25mg~約1gの範囲にわたるであろう。
【0035】
液体経口投薬形態は、例えば、エリキシル剤、シロップ、経口点滴剤または液体充填カプセルとして提供され得る。液体経口投薬形態は、水性または非水性液体中の水剤または懸濁剤のための粉剤としても提供され得る。液体経口製剤に適した賦形剤の例は、エタノール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ソルビトール、ポリソルベート、モノおよびジグリセリド、シクロデキストリン、ヤシ油、パーム油および水を含むが、これらに限定されない。液体経口投薬形態は、例えば、水性もしくは非水性液体中に活性成分を溶解もしくは懸濁することにより、または水中油型もしくは油中水型の液体エマルション中に活性成分を組み込むことにより調製され得る。さらなる賦形剤は、着色料、調味料および保存剤などの固体および液体経口製剤中で使用され得る。
【0036】
非経口投与のための医薬組成物は、注射または注入のための滅菌水性および非水性水剤、分散液、懸濁剤またはエマルション、注射または注入のための濃縮物、ならびに使用前に注射または注入のために滅菌溶液または分散液中で還元される滅菌粉剤を含む。非経口製剤に適した賦形剤の例は、水、ヤシ油、パーム油およびシクロデキストリンの水溶液を含むが、これらに限定されない。水性製剤は、必要に応じて適切にバッファーを加え、十分な食塩水またはグルコースにより等張にするべきである。
【0037】
他のタイプの医薬組成物は、坐剤、吸入剤、クリーム、ゲル、皮膚パッチ、移植片および頬側または舌下投与のための製剤を含む。
【0038】
イダロピルジンおよびAChEIの同時投与が想定される場合、イダロピルジンおよびAChEIの両方を含有する組成物は、特に好都合であり得る。代わりに、イダロピルジンおよびAChEIは、適した組成物の形態で別々に投与され得る。組成物は、上記に記載されるように調製され得る。本発明の一実施形態では、イダロピルジンおよびAChEIの別々の単位形態は同時に投与され、例えば、両方の化合物は、規則的な間隔で毎日1回、朝または夕に投与され得る。別の実施形態では、イダロピルジンおよびAChEIの別々の単位形態は独立して投与され、例えば、イダロピルジンは規則的な間隔で毎日1回、朝に投与され、かつAChEIは規則的な間隔で毎日1回、夕に投与され、または逆も同様である。本発明は、イダロピルジンを含有する個別の単位剤形およびAChEIを含有する個別の単位剤形を含むキットも含み、すべて同じ容器またはパック、例えばブリスターパック中に含有される。
【0039】
本発明による医薬組成物およびキットは、好ましくは、イダロピルジンおよびAChEIを治療有効量で含む。イダロピルジンの1日用量は、好ましくは、10~200mg、例えば10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~90mg、例えば30mg~60mgである。ドネペジルの1日用量は、好ましくは、1mg~30mg、例えば5mg~23mg、例えば10mgである。リバスチグミンの1日用量は、好ましくは、1mg~20mgである。ガランタミンの1日用量は、好ましくは、4mg~24mg、例えば8mg~24mg、例えば8mg、12mg、16mg、20mgまたは24mgである。
【0040】
本発明による実施形態
以下に本発明の実施形態が開示される。第1の実施形態は、E1と示され、第2の実施形態は、E2と示され、以下同様である。
E1.転倒を低減することによる高齢の患者の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEI。
E2.前記高齢の患者は、パーキンソン病と診断されている、実施形態1に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEI。
E3.レビー小体認知症(LBD)、核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)およびパーキンソン病からなる群から選択されるCNS疾患の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEIであって、パーキンソン病の処置は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減すること、パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善すること、パーキンソン病を有する患者において運動中止を低減すること、パーキンソン病を有する患者において歩行のすくみを低減すること、およびパーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善することからなる群から選択される、イダロピルジンおよびAChEI。
E4.前記AChEIは、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンから選択される、実施形態1~3のいずれか一項に記載のイダロピルジンおよびAChEI。
E5.AChEIがドネペジルである場合、ドネペジルの用量は、1~30mg、例えば5~23mgであり、AChEIがガランタミンである場合、用量は、4~24mgであり、およびAChEIがリバスチグミンである場合、リバスチグミンの用量は、1~20mgである、実施形態1~4のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEI。
E6.イダロピルジンの1日用量は、10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~90mg、例えば30mg~60mgである、実施形態1~5のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEI。
E7.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、同時に投与される、実施形態1~6のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびAChEI。
E8.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、独立して投与される、実施形態1~6のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびドネペジル。
E9.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、別々の単位剤形に含有される、実施形態1~8のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびドネペジル。
E10.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、同じ単位剤形に含有される、実施形態1~7のいずれか一項に記載の処置において使用するためのイダロピルジンおよびドネペジル。
E11.転倒を低減することによる高齢の患者の処置のための方法であって、それを必要としている患者への治療有効量のイダロピルジンおよびAChEIの投与を含む方法。
E12.前記高齢者は、パーキンソン病と診断されている、実施形態11に記載の方法。
E13.レビー小体認知症(LBD)、核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)およびパーキンソン病からなる群から選択されるCNS疾患の処置のための方法であって、パーキンソン病の処置は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減すること、パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善すること、パーキンソン病を有する患者において運動中止を低減すること、パーキンソン病を有する患者において歩行のすくみを低減すること、およびパーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善することからなる群から選択され、方法は、それを必要としている患者への治療有効量のイダロピルジンおよびAChEIの投与を含む、方法。
E14.前記AChEIは、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンから選択される、実施形態11~13のいずれか一項に記載の方法。
E15.AChEIがドネペジルである場合、ドネペジルの治療有効量は、1~30mg、例えば5~23mgであり、AChEIがガランタミンである場合、用量は、4~24mgであり、およびAChEIがリバスチグミンである場合、リバスチグミンの前記治療有効量は、1~20mgである、実施形態11~14のいずれか一項に記載の方法。
E16.前記治療有効量イダロピルジンは、10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~90mg、例えば30mg~60mgである、実施形態11~15のいずれか一項に記載の方法。
E17.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、同時に投与される、実施形態11~16のいずれか一項に記載の方法。
E18.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、独立して投与される、実施形態11~16のいずれか一項に記載の方法。
E19.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、別々の単位剤形に含有される、実施形態11~18のいずれか一項に記載の方法。
E20.前記イダロピルジンおよび前記AChEIは、同じ単位剤形に含有される、実施形態11~17のいずれか一項に記載の方法。
E21.転倒を低減することによる高齢の患者の処置のための医薬の製造のためのイダロピルジンおよびAChEIの使用。
E22.前記高齢者は、パーキンソン病と診断されている、実施形態21に記載のイダロピルジンおよびAChEIの使用。
E23.レビー小体認知症(LBD)、核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)およびパーキンソン病からなる群から選択されるCNS疾患の処置のための医薬の製造のためのイダロピルジンおよびAChEIの使用であって、パーキンソン病の処置は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減すること、パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善すること、パーキンソン病を有する患者において運動中止を低減すること、パーキンソン病を有する患者において歩行のすくみを低減すること、およびパーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善することからなる群から選択される、使用。
E24.前記AChEIは、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンから選択される、実施形態21~23のいずれか一項に記載のイダロピルジンおよびAChEIの使用。
E25.AChEIがドネペジルである場合、前記医薬は、1~30mg、例えば5~23mgのドネペジルを含み、AChEIがガランタミンである場合、用量は、4~24mgであり、およびAChEIがリバスチグミンである場合、前記医薬は、1~20mgのリバスチグミンを含む、実施形態21~24のいずれか一項に記載のイダロピルジンおよびAChEIの使用。
E26.前記医薬は、10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~90mg、例えば30mg~60mgの量のイダロピルジンを含む、実施形態21~25のいずれか一項に記載のイダロピルジンおよびAChEIの使用。
E27.医薬として許容される賦形剤と一緒にイダロピルジンおよびAChEIを含む医薬組成物。
E28.前記AChEIは、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンから選択される、実施形態27に記載の医薬組成物。
E29.30mg~60mgのイダロピルジンを含み、AChEIがドネペジルである場合、前記医薬は、1~30mg、例えば5~23mgのドネペジルを含み、AChEIがガランタミンである場合、前記医薬は、4~24mgを含み、およびAChEIがリバスチグミンである場合、前記組成物は、1~20mgのリバスチグミンを含む、実施形態27~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
E30.30mg~60mgのイダロピルジンを含む、実施形態27~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
E31.転倒を低減することによる高齢の患者の処置において使用するための、実施形態27~30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
E32.前記高齢の患者は、パーキンソン病と診断されている、実施形態31に記載の処置において使用するための医薬組成物。
E33.レビー小体認知症(LBD)、核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)およびパーキンソン病からなる群から選択されるCNS疾患の処置において使用するための、実施形態27~30のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、パーキンソン病の処置は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減すること、パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善すること、パーキンソン病を有する患者において運動中止を低減すること、パーキンソン病を有する患者において歩行のすくみを低減すること、およびパーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善することからなる群から選択される、医薬組成物。
E34.イダロピルジンおよびAChEIを含むキット。
E35.前記AChEIは、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミンから選択される、実施形態34に記載のキット。
E36.前記イダロピルジンおよび前記AChEIの同時の投与に適している、実施形態34~35のいずれか一項に記載のキット。
E37.前記イダロピルジンおよび前記AChEIの独立した投与に適している、実施形態34~35のいずれか一項に記載のキット。
【0041】
本明細書において引用される刊行物、特許出願および特許を含むすべての参考文献は、その全体が参照により、および本明細書において別記される特定の文献の組み込みが別々に提供されるにもかかわらず、あたかもそれぞれの参考文献が参照により組み込まれるように個々にかつ詳細に示され、本明細書においてその全体が示されるのと同じ程度まで(法律によって許可される最大限の程度まで)本明細書に組み込まれる。
【0042】
本発明を説明する文脈における用語「1つの(a)」、および「1つの(an)」、および「その」ならびに類似する指示物の使用は、特に指定のない限りまたは文脈によって明らかに否定されない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈される。例えば、「化合物」という言葉は、特に指定のない限り、本発明の様々な「化合物」または特定の記載される態様を指すとして理解されるべきである。
【0043】
1つまたは複数の要素に関して「含む」、「有する」、「包含する」または「含有する」などの用語を使用する本発明の任意の態様または態様の本明細書における記載は、特に指定のない限りまたは文脈によって明らかに否定されない限り、その特定の1つまたは複数の要素「からなる」、「から本質的になる」または「を実質的に含む」本発明の類似する態様または態様について支持を提供することが意図される(例えば、特定の要素を含むとして本明細書において記載される組成物は、特に指定のない限りまたは文脈によって明らかに否定されない限り、その要素からなる組成物についても説明することが理解されるべきである)。
【0044】
本明細書において言及される本発明の様々な態様、実施形態、実施および特徴は、別々にまたは任意の組み合わせで特許請求され得ることが理解されるべきである。
【0045】
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【実施例
【0046】
実施例1 ドネペジルおよびイダロピルジンにより処置されたDLラットの転倒の低減
材料および方法
対象
3~6月齢の成体のオスおよびメスのスプラーグドーリーラット(Harlan;N=70;35匹のオスおよび35匹のメス)を、温度および湿度を管理した環境(23℃、45%)で不透明な1匹用の標準的なケージ(27.70cm×20.30cm)に個々に収容した。実験の全体にわたり、オスのラットは、メスよりも重かった(F(1,69)=460.29、P<0.001;オス:359.86+4.27g メス:249.24+2.48g)が、体重は実験群間で異ならなかった(群の主効果および性別×群:共にF<0.29、共にP>0.88)。動物は、12:12時間明/暗スケジュール下で維持された(午前8:00に点灯)。えさ(げっ歯動物固形飼料;Harlan Teklad)は、適宜取ることができた。水の摂取は、外科手術前および後の行動試験前の週に7日間の期間にわたって徐々に制限された(1日当たり12、8、5、3、1、0.5、0.25時間の水の摂取)。試験中、水は、SATの遂行および次に続くMCMCTでの梁の通過中の正しい応答に対する報酬として与えられた(下記を参照されたい)。ラットはまた、毎日、SATの遂行後に15分間にわたり適宜水を与えられた。
【0047】
実験のスケジュール表
動物は、最初にSATで訓練された(約2か月間にわたり毎日訓練;およそ午前9:00~11:00)。訓練の最終ステージに到達すると同時に、動物は、14日間連続してこのステージに残った。訓練の最後の6日間にわたり、ラットはまた、午後(およそ午後2:00~4:00)にMCMCTで訓練された。以前の実験は、ラットを同じ日に両方の課題で訓練しても、いずれの課題の遂行も影響されなかったことを示した。さらに、本発明者らは、ラットの概日リズムが毎日のSATの実施に同調し、堅調な昼行性の表現型をもたらしたことを以前に実証したため、行動試験は、すべて動物が活動的なその日の時間帯に大抵行われた。
【0048】
外科手術前の訓練後、動物は定位損傷手術を受け、その後、4週間回復させた。回復の最終週中、動物は徐々に水を制限された。次いで、薬剤の効果は、12日間連続のSATセッションおよびMCMCTセッションにより判断された(一連のMCMCT試験条件については、表1を参照されたい)。
【0049】
【表1】
【0050】
薬剤またはビヒクルの注射をSATの遂行の30分前(およそ9:30に注射、SAT試験午前10:00~10:45)およびMCMCT試験(およそ午後3:30~6:00)前の午後に投与した。MCMCTの実行のために、トライアルが各動物の注射のちょうど30分後に始まるようにラットに個々に注射した。
【0051】
損傷
70匹のラットのうちの56匹(28匹のメスおよび28匹のオス)は、二重線条体ドーパミン作動性皮質コリン作動性系損傷(DL)を受け、外科手術後、4つの処置条件に無作為に割り当てた(n=14/群、7/性別)。14匹のラット(7/性別)は、偽損傷を受けた。6-OHDAを背側線条体におけるドーパミン終末に両側に送達した(Sigma-Aldrich;6.0μg/2μL/注入、ボーラス;0.1%アスコルビン酸を有する0.9% NaCl中に溶解;1半球当たり2つの注入部位:ブレグマに関してAP +1.2および+0.2mm;ML ±2.5および±3.0mm;DV 頭蓋から-4.8および-5.0mm)。塩酸デシプラミン(10mg/kg;i.p.;Sigma-Aldrich)を、ノルアドレナリン作動性ニューロンの保護のために外科手術の30分前に6-OHDAの注入を受けたラットに投与した。前脳基底核コリン作動性ニューロンは、基底核に位置し、無名質をaCSF中の免疫毒素192 IgG-サポリン(Advanced Targeting Systems)により標的にし、両側に注入した(120ng/μL;0.5μL/半球;AP -0.8;ML ±2.9;DV -7.8)。偽ラットは、等容量の0.1%アスコルビン酸を有する0.9% NaCl(線条体)および神経毒なしのaCSF(前脳基底核)を受けた。
【0052】
Michigan Complex Motor Control Task(MCMCT)
転倒の傾向を含む複合運動遂行尺度は、MCMCTを使用して判断された(詳細および説明については、Kucinski,A.et al(2013)Modelling fall propensity in Parkinson’s disease:Deficits in the attentional control of complex movements in rats with cortical-cholinergic and striatal-dopaminergic deafferentation.J Neurosci,33,16522-16539を参照されたい)。この梁通過装置は、狭い四角い棒の面(2.54cm2)を渡りながら注意を要する運動を実行し、ステッピングエラー(stepping error)を修正するラットの能力に負担をかけるように設計された。梁(長さ2.0m)の端は、梁要素の一端につながれた歯車モーター(10RPM)によって棒を回転させるソケット中に保持された。棒の通過は、特に回転している場合、線条体ドーパミン作動性皮質コリン作動性入力の二重損傷を有するラットにおいて転倒および他の運動障害を確実に起こした。平らな板の面(幅13.3cm)も基本的な運動能力を判断するためにおよび装置への慣れのために使用された。梁の両端に位置する2つ同一の台(面積23.0×31.5cm)は、引き込み式の壁(高さ27.0cm)で囲み、端に箱の構造物を作った。壁を手で上下させて、台の下の支持構造物の垂直の溝に支えられた摩擦クランプによって位置を固定した。梁に面する壁には開口(幅9.0cm)があり、ラットは端の箱に入りかつそれから出ることができる。銅製の水カップ(直径2.7cm、深さ3cm)を端の箱の床に埋め、ラットは、各通過後に約150μLの水を提供された。これらの報酬は、自ら通過を開始する誘因として意図され、したがって試験中の実験者の操作を制限した。
【0053】
試験セッションの初めに、ラットは、端の箱から約10cmの棒または板上に置いて、箱に入らせ、報酬の水を飲ませた。最初のトライアルおよび次のトライアルで箱の内部に入ると、水を飲みかつ探索するようにラットに約45秒与えた。ラットは、いかなるときにも端の箱を出て梁の反対側まで通過することができた。45秒後にラットが通過を開始しなかった場合、通過を始めるための手掛かりとして壁を下げた。大多数のラットは、壁を下げると、通過を自ら開始したが、そうでなければ、ラットは、実験者によって板または棒まで移動された。転倒が起こった場合、動物は、梁要素から20cm下に置かれたバトミントン用ネット(ノーブランド)の安全網(0.7×0.2m)に転倒した。網枠は、様々なカメラ、鏡および注意をそらす要素を取り付けるための場所としての役割も果たした。
【0054】
転倒、スリップおよび通過時間は、Kucinski,A.et al(2013)Modelling fall propensity in Parkinson’s disease:Deficits in the attentional control of complex movements in rats with cortical-cholinergic and striatal-dopaminergic deafferentation.J Neurosci,33,16522-16539)において記載されるように判断された。転倒は、以下の場合にスコア化された:スリップ/踏み外しによりラットが前方運動を停止し、まっすぐな歩行姿勢を失い、結果として動物の下側が棒の面に衝突した場合、ラットが完全に転倒し、棒から棒の下にある網に落ちるかまたはラットの足で棒からぶら下がった場合、ラットが前方運動を止めて回転しながら棒にしがみついた(したがって回転して上下逆さまになった)場合、またはラットが前方運動を止め、前方運動を再開しようとするが、失敗して、2秒以上にわたり棒上に座りっぱなしであった場合。スリップは、ラットの足のいずれかが棒の面と接触しなくなり、棒の水平の低い方の境界線より下に伸びた場合にスコア化された。通過時間は、梁の全距離を通過するための潜伏時間として定義された。トライアル中に転倒が起きた場合、スリップまでの時間および通過時間は、後肢が転倒中に棒と接触しなくなった距離に対する全通過距離の比率を乗じることによって比例配分された。
【0055】
2つの注意をそらすものを通過中に提供した。最初に、受動的な注意をそらす戸枠は、フォームコアから作製された20cm×10cmを切り抜いた戸枠の形状を有する46.0×39.4cmの面から構成され、MCMCT試験の順番に組み込んだ。注意をそらすものを、両側の棒の面から3.5cmの側面にわき柱を有し、かつ平らな棒の面から11cm上に戸枠の切り抜きの上部の境界線を有する梁に沿って中間点に置いた(100cmの目印)。本発明者らは、この注意をそらすものが、歩行のすくみおよび転倒などの運動崩壊を引き起こすことを以前に発見し、そのため、PD患者におけるそのような注意をそらすものの影響をモデル化した。次に、動物は、能動的な注意をそらす課題によって試験され、通過中に水の報酬(3滴の水;約150μL)が台(直径4.9cm)上に提供された。台も100cmの目印のところに置き、棒および台は2~3cm離された。
【0056】
ラットは、最初に4回の行動形成トライアル(試験8および9日目)で課題に順応された。これらのトライアルにおいて、ラットは、台(梁のほぼ中央)に隣接する静止している(回転していない)棒上に直接置かれ、台から水を飲ませた。行動形成トライアル後、ラットは、4回の試験トライアルを受け、ラットは、回転している棒(交互の方向)を独力で通過し、水が報酬として提供された。他の2日間の試験(10および12)において、ラットは、1日当たり10回の予試験を実行した。転倒に加えて、≧1秒にわたり台から水をなめる/飲むと定義される、獲得した水の報酬の数をカウントした。すべてのトライアルは、4台のバレットカメラ(KT&C;1/3’’SONY Super HAD CCDを備えたモデルKPCS190SH Black/White Bullet Camera)のシステムを、ハンドクランプによって装置の外側の外部支持枠に固定された回転可能な土台と共に使用して記録した。遂行の尺度は、ラットの損傷状態および処置レジメンを知らされていない実験者により、ビデオ再生によって分析された。
【0057】
持続的注意課題(SAT)
装置。
訓練および試験は、個々の防音キュービクル内に収容した12台のオペラントチャンバー(MED Associates Inc.)を使用して行われた。各チャンバーは、2本の引き込み式のレバー、中央にあるパネル白色ライト(2.8W)およびパネルライトと同じ壁に置かれた水のディスペンサーが装備された。水のディスペンサーは、1回の供給当たり45μLの水を与えることができた。シグナル提示、レバー操作、供給強化およびデータ収集は、Pentium PCおよびMed-PC for Windows software(バージョン4.1.3;MED Associates)によって制御された。
【0058】
習得。
水を与えていなかったラットは、最初に、水強化のために、調整した固定比率-1(FR1)スケジュールに従って水の報酬のためにレバーを押すように訓練された。訓練のこのフェーズ中、いずれのレバーが押されても、水は供給された。典型的に、動物は、いずれのレバーを押すかに関して右側に偏ったり、左側に偏ったりしないが、一方のレバーが5回連続して押された場合、FR1スケジュールは、次の報酬を得ることができる前に動物に反対のレバーを押すように強いるように調整された。各120回の強化レバー押しを3日間連続した後、ラットは、シグナル(中央にあるパネルライトの1秒間の照明)および非シグナル(照明なし)イベントを区別するための訓練を始めた。シグナルまたは非シグナルイベント後の2秒間(s)、両方のレバーは、オペラントチャンバー中まで伸びて、4秒間またはレバーが押されるまで伸びたままであった。4秒後に押されなかった場合、レバーを引っ込ませ、オミッションをスコア化した。反応(正しくても正しくなくても)の直後に両方のレバーを引っ込め、調整可能なトライアル間の間隔(ITI;12±3秒)をリセットした。シグナルトライアルでは、左のレバーの押しは強化され、「ヒット」と呼ばれたのに対し、右のレバーの押しは強化されず、「ミス」と呼ばれた。非シグナルトライアルでは、右のレバーの押しは強化され、「正しい拒絶」と呼ばれたのに対し、左のレバーの押しは強化されず、「フォールスアラーム」と呼ばれた。
【0059】
動物は、正しい応答に対してのみ水の報酬を受けた(各ヒットおよび正しい拒絶に対して45μL)のに対し、正しくない応答(ミスおよびフォールスアラーム)は、報酬を与えなかった。選択の偏りの可能性を排除するために、動物の半分を反対のパターンで訓練した。シグナルイベントおよび非シグナルイベントは、セッションごとに各81回のトライアルについて擬似乱数的な順で提供された(合計162回のトライアル)。訓練のこのフェーズ中、正しくない応答後に修正トライアルを続け、前のトライアルを繰り返した。修正トライアルで正しくない応答が3回連続した場合、動物は、強制的トライアルを受け、レバーを90秒間または動物が応答をするまで伸ばした。強制的選択トライアルがシグナルトライアルであった場合、レバーが伸びている限り、シグナル光は照らしたままであった。ハウスのライトは、この訓練のステージ中に照らさなかった。動物は、3日間連続してシグナルトライアルおよび非シグナルトライアルの両方で≧70%まで正確に応答した場合、次のステップの行動形成に進んだ。
【0060】
第3フェーズの行動形成中、複数のシグナル持続時間(500、50および25ミリ秒)を導入し、ITIを9±3秒まで低減した。修正トライアルおよび強制的選択トライアルも排除した。トライアルのタイプおよびシグナル持続時間は、各トライアルについて擬似乱数的に決定された。セッションの長さは、40分に設定された。500ミリ秒のシグナルに対する少なくとも70%のヒット、70%の正しい拒絶および≦30%のオミッションによって定義される少なくとも3日間の安定した遂行後、動物は、課題の最終バージョンで訓練を始めた。最終バージョンは、ハウスのライトをセッションの始めから終わりまで照らしたこと以外、前の訓練のステージと同一とした。ハウスのライトの照明の追加は、持続的注意を試験する必要不可欠な要素に相当し、それにより、動物は、課題遂行中に行動を抑制し、かつ中央にあるパネルライトに集中するように強いられた。損傷外科手術前に訓練の最終ステージに到達すると同時に、動物は、14日間連続してこのステージに残り、遂行の最後の5日間からのスコアを、各動物について外科手術前のスコアを決定するために平均した。薬剤効果についての外科手術後の試験中、ラットは、12日間連続して最終ステージでのみ試験され、最後の5日間からのスコアを最終の分析のために再度平均した。
【0061】
SAT遂行の尺度。
以下の行動の尺度を各SATセッション中に記録した:ヒット、ミス、フォールスアラーム、正しい拒絶およびオミッション。ミスおよびフォールスアラームは、それぞれヒットおよび正しい拒絶の反対である。各シグナル長のヒットの相対数(ヒット/ヒット+ミス)および正しい拒絶の相対数(正しい拒絶/正しい拒絶+フォールスアラーム)を算出した。そのうえ、注意の傾向についての全体的な尺度であるSATスコアは、ヒット(h)の相対数およびフォールスアラーム(f)の相対数の両方を統合するが、これについても各シグナル持続時間で決定した。SATスコアは、以下の式を使用して算出された:(h-f)/[2(h+f)-(h+f)]。したがって、SATスコアは、オミッションのエラーによって混同されない。SATスコアは、1.0~-1.0の範囲にわたり、1.0は、すべての応答がヒットおよび正しい拒絶であったことを示し、0は、シグナルイベントおよび非シグナルイベントを区別することができなかったことを示し、-1.0は、すべての応答がミスおよびフォールスアラームであったことを示す。オミッションのエラーは別々に記録された。
【0062】
損傷の組織像および評価
外科手術後の薬剤による試験が終了した後、ラットに強い麻酔をかけ、2分間にわたり0.1Mリン酸バッファー溶液(PBS)により50mL/分の速度で経心的に灌流し、その後、9分間にわたり0.4M リン酸Na溶液中4%パラホルムアルデヒドおよび15%ピクリン酸(pH7.4)により灌流した。脳は速やかに摘出され、4℃で2~6時間にわたり後固定し、次いで0.1M PBS中ですすぎ、30%スクロース溶液中で保存し、沈めた。冠状切片(厚さ40μM)を、凍結ミクロトーム(CM 2000R;Leica)を使用してスライスし、不凍液中で保存した。チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色およびChAT免疫染色を文献に記載されるように実行した。
【0063】
TH免疫染色切片は、Leica DM400Bデジタル顕微鏡を使用して4×倍率で画像化された。SPOT 5.1ソフトウェア(Spot Imaging Solutions)を、画像を取り込むために使用した。両側の損傷のサイズおよび程度を表す単一のスコアを生成するために、2つの切片(AP +1.2および+0.2mm)を使用した。6-OHDA注入は、内側および外側の境界間の中心にある背側線条体を標的にした。損傷サイズは、背側線条体において観察されたTH損失の面積のサイズに基づいて採点され、10のスコアは、TH損失を示す100%の背側線条体に、5のスコアは50%に、および1のスコアは10%に対応した。損傷サイズエリア内のTH排除の度合い(TH損失の程度)も1~10のスケールに基づいて決定され、10の採点は、損傷スペース内のTHの完全な枯渇に対応し、それより低い値は、残っているTHのパーセントに対応する(例えば、5は50%のTH損失であり、2は20%のTH損失である)。損傷サイズおよび度合いについてのスコアを切片および半球の両方から平均し、各ラットの単一の損傷スコアを得た。
【0064】
コリン作動性細胞の損失の度合いを判断するために、コリン作動性ニューロンの数の半定量的な推定値を以前に行われたように生成した。2つの半球のChAT染色前脳基底核の写真を、Leica DM400Bデジタル顕微鏡を使用して5×倍率で撮影した。細胞数の推定値は、680μm×680μmの領域内のマイネルトの基底核(nbM)および無名質(SI)のエリアから、かつ1000μm×1300μmの領域内の対角帯/視索前野から得られた。Photoshop CS6の「カウント」機能を、ACh細胞の数を定量化するために使用した。この機能はまた、二重にカウントされるのを予防するために、既にカウントされた各ニューロンにタグを付け、第2のカウンターによる見なおしを可能にする。2つの半球からのこれらの半定量的な推定値は、ラットごとに単一の推定値を得るために平均した。損傷の程度および遂行の尺度間の関係を決定し、DL損傷群間の損傷の類似について検証するために、2つの系の損傷の重症度を反映する単一の混合コアを各ラットについて生成した。この目的のために、半球ごとの2つの前脳基底部のコリン作動性細胞の損失を5~1で採点した(5:コントロールに比べて>90%の細胞の損失;4:>80%;3:>70%;2:>60%;1:>30~50%の損失)。2を乗じたこのスコアを、上記に記載されるTH損傷スコアと共に平均し、DLラットごとの(10のうちの)単一の混合スコア(composite core)を生成した。
【0065】
薬剤の投与および用量
ドネペジルおよびイダロピルジンを5% 2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンビヒクル溶液中に溶解した。ラットは、以下の薬剤投与群(1群当たり14匹、性別ごとに7匹)に分けられた:偽損傷およびビヒクル投与(SH/VEH)、DLおよびビヒクル(DL/VEH)、DLおよびドネペジル(DL/DON)、DLおよびイダロピルジン(DL/IDL)、ならびにDLおよびイダロピルジンとドネペジル(DL/DON+IDL)。溶液は、投与前の夜に調製され、6日ごとに交換された。DONおよびIDLは、併用処置のために同じ溶液中に溶解された。ラットは、4つの交互の注射部位にs.c.注射された(2.0mL/kg)(左の首、右の脇腹、右の首、左の脇腹;順番に繰り返した)。ラットは、朝、SATを実行する30分前におよび午後、MCMCTを実行する30分前に注射された。
【0066】
薬剤用量は、それぞれ4匹のDLラットにおいて、DONのみ、0.1、0.3および1.0mg/kgのDONまたはIDL(5.0mg/kg)と組み合わせて投与した効果を判断した試験的実験からのデータに基づいて選択された。結果は、DLラットのMCMCTの遂行が、中間の用量のDONを伴う処置の併用から最も明らかに利益を得ることができることを示唆した。
【0067】
統計分析
SATおよびMCMCTの遂行尺度は、5つの群間において、主として対象内反復測定ANOVAおよび一元配置または二元配置ANOVAを適用可能な場合に使用して比較した。性別は、すべての分析において要因とした。SATスコアおよびヒットの分析は、対象内要因シグナル持続時間(500、50および25ミリセカンド)も含んだ。棒上でのMCMCTの実行について(試験2~5日目)、通過時間、スリップおよび転倒は、対象内要因として条件(静止、反時計回り(cc)もしくは時計回り(cw)に回転または交互の方向に回転)を使用して判断した。各条件(または日)について、遂行尺度をその日の各ラットの6回の実行にわたって平均し、これらの平均値を統計分析に使用した。戸枠による試験の日(6、7および11)において、注意をそらす戸枠によって誘起された転倒を群および性別間で比較した。能動的な注意をそらす条件中に得られた転倒および報酬は、二元配置ANOVAを使用して比較された。DL/VEHおよびDL/DON+IDLラット間の戸枠により誘起されたすくみの行動および他の遂行尺度の比較は、二元配置ANOVAを使用して実行された。二元配置ANOVAは、薬剤群および性別間のTH/ChAT混合損傷スコアを比較するためにも使用された。主効果が有意である場合、post hoc多重比較を、最小有意差(LSD)検定を使用して行った。群および他の因子の効果間に有意な交互作用がある場合、群の効果についての一元配置ANOVAおよびLSD多重比較検定を続けた。統計分析は、SPSS for Windows(バージョン17.0:SPSS)を使用して実行された。球面性の仮定(sphericity assumption)が満たされない場合、Huynh-Feldtにより調整したF値を、調整していない自由度と共に示す。アルファを0.05に設定した。以前に推奨されたように正確なP値を報告する。分散について報告し、標準誤差(SEM)として示す。選択した効果についての効果量は、Cohen’s dを使用して報告される。
【0068】
結果
外科手術前のSATおよびMCMCTの遂行
外科手術前に、ラットは、安定した標準的な遂行に到達し、MCMCTに慣れるまでSATの訓練を受けた。
【0069】
DON+IDLは、DLラットにおける転倒率を低減した
外科手術後のMCMCT試験の1日目に(表1)、ラットは板の面を通過した。この面は、ほとんどスリップまたは転倒を引き起こさない、したがって、通過時間のみを判断した。通過時間は、群および性別間で異ならなかった(主効果および交互作用:すべてF<1.46、すべてP>0.23;1回の通過当たり4.02±0.16秒)。
【0070】
2、3、4および5日目に、ラットは、棒の面を通過し、通過時間ならびにスリップおよび転倒について判断された(1日当たり6回の通過、合計24回の実行)。2日目に棒は静止したままであり(回転なし)、その後、3日目に、馴染んだ左回りの(cc)方向に棒を回転させた(10RPM)。4日目に棒の方向を不慣れな時計回りの(cw)方向に逆転させ、5日目に回転の方向を連続トライアル中に交互にした(cc-cw-cc-cw-cc-cw)。遂行の尺度は、群、性別および対象内因子としての試験条件(静止している棒、cc、cw、交互)の効果について分析された。
【0071】
転倒。
回転している棒の通過は、概して、すべての動物で転倒の数を増加させた(試験条件の主効果:F(3,180)=6.48、P<0.001;静止している棒からの転倒:21.67±1.90%、反時計回りに(cc)回転:32.62±1.90%、時計回り(cw):30.00±2.34%、交互:30.00±2.00%;他のすべての条件よりも静止している棒上での転倒は少ない;すべてP<0.001)。これらのトライアルにおいて、転倒の頻度に対する群の主効果(F(4,60)=2.62、P=0.04)は、DL/VEHラットにおける転倒の頻度と比較して、SH/VEHラットおよびDL/DON+IDLラットは、それほど頻繁に転倒せず、有意であったことを反映した(Cohen’s d=0.96;多重比較については、図1Aを参照されたい)。さらに、SH-VEHラットにおいて見られたものと統計的に類似している転倒の頻度を有するDL/DON+IDLラットとは対照的に、IDLのみにより処置したラットは、未処置DLラット(DL/VEH)と同程度に頻繁に転倒した。DL/DONラットにおける転倒の頻度は、DL/VEHラットよりも低い傾向があったが、効果は有意にならなかった(P=0.17)。群および試験条件の効果は、交互作用せず(F(12,180)=1.00、P=0.45)、すべての棒条件での遂行がDON+IDLの効果に寄与したことを示した(図1B~D)。性別の効果も性別に関係する交互作用もなかった(すべてF<1.69、すべてP>0.17)。
【0072】
通過速度。
転倒に対する効果に類似して、通過速度は群間で異なり(F(4,60)=3.31、 P=0.02)、ビヒクル処置DLラットと同程度によく転倒した処置群、DL/IDLは、通過が最も遅かった(SH/VEH:3.96±0.19秒;DL/VEH:4.62±0.25秒;DL/DON:4.48±0.36秒;DL/IDL:5.48±0.45秒、DL/DON+IDL:4.58±0.32秒;DL/IDLは、他のすべての群よりも有意に遅かった)。さらに、オスは、メスよりも概して遅かった F(1,60)=13.54、P=0.001;オス:5.12±0.23秒、メス:4.13±0.17秒。いずれの性別でも、体重は通過速度と相関しなかった(両方ともR2<0.06)。通過速度は、試験条件によって影響されず、3つの因子間で二元配置または三元配置の交互作用は見出されなかった(すべて(F<0.91、p>0.33)。
【0073】
スリップ。
回転している棒の通過は、静止している棒と比較して概してより多くのスリップを引き起こした(F(3,180)=37.53、P<0.001;静止:1.02±0.67スリップ;cc:2.31±0.16;cw:2.39±0.15;交互:2.35±0.13)。スリップの数は群間で異ならず(F(4,60)=2.37、P=0.06)、この傾向は、DL/IDLラットが他のすべてのDLラットよりも頻繁にスリップするように見えたことを反映した(SH/VEH:1.60+0.11;DL/VEH:2.04+0.16;DL/DON:2.04+0.14;DL/IDL:2.51+0.38、DL/DON+IDL:1.92+0.16)。オスは、メスよりもよくスリップした(F(1,60)=5.64、P=0.02;オス:2.24±0.17;メス:1.79±0.10)が、ここでもまた3つの因子間で交互作用はなかった(すべてF<1.01、p>0.44)。メスではなくオスにおいて、スリップは体重と正に相関した(オス:R2=0.14、P=0.03;メス:R2=0.08、P=0.10)。
【0074】
DON+IDL処置DLラットにおける戸枠に関連する転倒の低減
歩行のすくみの傾向を既に有しているPD患者において、狭い戸口は、すくみを誘起するのに非常に有効であり、したがって転倒の危険性を増加させる。この影響は、限られた注意する手段が前方運動の支持から離れて、この受動的な注意をそらすものの処理に移動するのを反映すると仮定される。注意をそらす戸枠(図2A)は、試験6、7および11日目に棒に沿って置いた。
【0075】
全体として、注意をそらす戸は、転倒が起こったトライアルのパーセンテージを3倍以上にした(F(1,60)=117.10、P<0.001;戸での転倒:38.34±2.89%、戸での転倒なし:11.30±1.34%)。群の主効果(F(4,60)=3.24、P=0.018)および有意な戸×群交互作用(F(4,60)=3.15、P=0.02)は、戸枠によって誘起された転倒が群の差異を説明することを反映した(図2B)。VEH、DONまたはIDLのいずれかにより処置したDLラットは、戸枠に関連する転倒をSH/VEHラットよりも経験した。対照的に、戸枠の存在下において、DL/DON+IDLラットにおける転倒率は、SH/VEHラットと異ならず、DL/IDLラットにおける転倒率よりも有意に低かった(Cohen’s d=0.74;図2B)。すべてのラットにおいて、戸枠に関連する転倒の率は、試験の3日間にわたって減少した(日の主効果:F(1,120)=48.31、P<0.001;1日目:64.76±4.42%転倒、2:38.10±4.14%、3:12.14±2.14;他の因子とのすべての交互作用:F<1.34、P>0.23)。
【0076】
戸枠は、メスよりもオスにおいてほぼ2倍の転倒を引き起こしたが、オスは、戸枠の非存在下においてメスよりも転倒することはなかった(性別×条件:F(1,60)=34.24、P<0.001;トライアルにわたる戸での転倒のパーセンテージ;メス:25.69±3.76%、オス:50.99±3.22%、t(69)=26.09、P<0.001;戸での転倒なし メス:13.27±1.81%、オス:9.32±1.95%、t(69)=2.20、P=0.14)。オスにおける戸枠に関連する転倒は、体重にも通過速度にも相関しなかった(両方ともR2<0.03)。しかしながら、より遅いメスは、この条件においてより転倒した(R2=0.21、P=0.005)。3つの因子間で有意な交互作用はなかった(すべてF<1.31、すべてP>0.25)。
【0077】
微小行動の相関物
戸枠に関連する転倒に対するDON+IDL処置の効果について有望な行動の相関物を決定するために、戸枠通過中の動物の微小行動について、ビデオに基づいた分析を行った。戸枠の実行を、各日からのDL/VEHおよびDL/DON+IDLのオスおよびメスのラットから、ラットの転倒率がラットの群の平均値を反映した場合に選択した(メスについて6および7日目ならびにオスについて11日目)。概して、両方の群のラットは、戸枠に近づくと前方運動を停止したことが観察された(すくみの持続時間に対する群の効果:F(1,27)=1.22、P=0.28;DL/VEH:1.25±0.22秒/すくみ;DL/DON+IDL:0.93±0.21秒)。さらに、すくみ期間の個々のラットの持続時間は、ラットの転倒率と相関した(図2C)。より長いすくみがすべてのラットにおいてほぼ一貫して転倒に関連していたため、戸枠によって誘起されたすくみを長いすくみ(≧2秒)対短いすくみ(<2)にグループ化した。長いすくみが起こったトライアルのパーセンテージは、2つの群間で異ならなかった(1動物当たり6回のトライアル;F(1,27)=2.59、P=0.12;トライアルの26.79±4.95%が長いすくみを伴った)。そのうえ、長いすくみに関連した転倒の率は、少なくとも1回のそのようなすくみを示した動物において(10匹のDL/VEHおよび9匹のDL/DON+IDL)、これらの2つの群間で異ならなかった(F(1,18)=0.004、P=0.95;DL/VEH:62.67±12.62%が実行中に転倒し、戸枠に関連する長いすくみを伴う;DL/DON+IDL:63.89±13.89%)。しかしながら、短いすくみに関連した転倒率は、DL/VEHにおいてDL/DON+IDLラットよりも高かった(1群当たり14匹のラット;F(1,27)=5.27、P=0.03、図2D)。したがって、これらの観察は、DON+IDLによるDLラットの処置により、比較的短いすくみに関連した戸枠実行の割合は増加しなかったが、DON+IDL処置ラットは、短いすくみ後に通過を再開および継続することがより可能であったことを示した。
【0078】
DON+IDLによる併用処置の有望な効果についてさらに詳述するために、代表的な実行を選択し(戸枠に対する最初の2回のトライアル メスの2日目およびオスの3日目;1ラット当たり2回のトライアル)、以下の行動の率を短いすくみ(0.5~1.5秒間のすくみの期間)の直後から初めて、その間に1秒間カウントした:(1)すくみ後の通過速度の急激な増加;(2)DLラットに典型的な低く引きずった尾および前かがみの姿勢、ならびに下方集中とは対照的に、制御されたまっすぐな姿勢および前方集中に関連した、戸枠の下を通る間の高くしっかりした尾の位置;31(3)戸枠に関連するスリップ後のバランスを維持するための尾の振り;(4)スリップ後に棒上に体の体幹上半部を「押し」戻すための前肢の使用;(5)棒上でバランスを維持するためのすくみ中の活発な後肢運動(「定位置で歩行」);ならびに(6)再び前方に勢いを付けて戸枠を通るためにすくみ後に小さく「跳ぶ」こと。結果は、第一に、6つすべての行動のカウントを統合する混合スコアが、両方の群において転倒率と負に相関し(両方ともR>0.42、両方ともP<0.02)、短いすくみ後の活発な回復のための運動が戸枠実行の成功の強い予測因子となることを示す。第二に、DL/DON+IDLラットは、カテゴリー#2の行動(上記)の実例をDL/VEHラットよりも示した(X=7.22、P=0.03、DL/VEH:0.18±0.10カウント/トライアル、DL/DON+IDL:0.54±0.11;行動の他のすべてのカテゴリー:P>0.30;図2E)。
【0079】
能動的な注意をそらすものに対する処置効果の欠如 - 関連する転倒
年を取ったヒトおよびPD患者における転倒は、不良な二重課題遂行と相関する。複合運動制御に対する、注意する手段の二次課題への再配分の影響力をモデル化するために、水を与えていなかったラットに、回転している棒を通過している間に摂取するための水を与えた。
【0080】
全体として、70匹の動物のうちの54匹(77.14%)は、少なくとも1つのトライアルにおいて水を摂取した(転倒にかかわらず、少なくとも1秒間にわたり水をなめることとして定義)(13 SH/VEH、9 DL/VEH、10 DL/DON、11 DL/IDLおよび11 DL/DON+IDL;26匹のオスおよび28匹のメス)。群の主効果は、すべてのDLラットがSH/VEHラットほど頻繁に水を摂取しなかったことを示した(F(4,60)=3.32、P=0.016)が、多重比較は、DL/DONラットの摂取カウントがDL/VEHよりも有意に低くなかったことを示した(図3A)。メスは、オスよりも水を頻繁に摂取した(F(1,60)=10.56、P=0.002;メス:49.78±6.32%、オス:26.69±4.36%]が、性別の効果は群と交互作用しなかった(F(4,60)=1.50、P=0.22)。この試験では、水を摂取するための前方運動の停止が転倒の高い危険性となるため、水摂取および転倒は、混同される尺度となる。SD/VEHラットは、DLラットよりも転倒することなく頻繁に水を摂取することに成功した(F(4,60)=5.84、P<0.001;図3B)。さらに、メスは、オスよりも転倒することなく頻繁に水を摂取した(F(1,60)=10.81、P=0.002;メストライアルの33.98+5.02%;オス:16.73+3.36%)が、この効果は群と交互作用しなかった(F(1,69)=1.56、P=0.19)。いずれの性別でも、この尺度は、体重にも、通過速度にも、戸枠に関連する転倒にも相関しなかった。すべてR2<0.1)。したがって、DL損傷は、能動的な注意をそらすものとの関わりを低減し、関連する転倒率を増加させたが、薬剤処置は、この能動的な注意をそらすものの存在下における棒通過遂行に役立たなかった。
【0081】
SAT遂行に対する処置効果の欠如
4週間の外科手術後回復期間の終了後、動物を朝のSATおよび午後のMCMCT試験に戻し、薬剤処置は、朝および午後の試験セッションの30分前に投与された。DL損傷によりSAT遂行は損なわれた。しかしながら、いずれの処置も遂行を改善しなかった。
【0082】
実施例2:リバスチグミンおよびイダロピルジンにより処置されたDLラットにおける転倒の低減
研究の概要:
二重損傷(DL)ラットまたは偽手術ラットを、皮下で(s.c.)、ビヒクル(10% 2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストラン;2-HPBCD、食塩水中)、1mg/kgリバスチグミン、10mg/kgイダロピルジンまたは2つの処置の組み合わせにより10日間連続して、5ml/kgの容量で処置した。統計比較は、DLビヒクル処置動物をコントロールとして一元配置ANOVAおよびpost hoc Dunnettsの多重比較検定で行われた。
【0083】
MCMCT:実施例1の装置からの変更:
装置は、以前に使用されたものに類似した(Kucinski et al.,2013)。装置は、スタートおよびエンドの台が保持される21メーターの長さのタワー間に支持された3メーターの長さの(2.54cmの)直線の四角い棒または棒に沿って2つの曲がった面を有するジグザグの棒からなった。これらの同一の台は、30cm×25cmであり、それぞれ床に埋められた3cmの直径の銅製の水カップからなった。台は、完全に上げた位置で高さが23cmであった引き込み式の壁の構造物によって囲まれた。これらの壁は、トグルスイッチによって遠隔で制御される12VDC電動機によって機械的に上下され得、したがって最初のオープンな台から最終的な箱の構造物に変換することができた。梁に面する壁に、ラットが梁を出入りするのを可能にする9cm幅の開口があった。棒は、牽引のために使用される灰色の粘着テープに包まれたアルミニウムチューブで作製された。板の条件について、13.3cm幅の板を棒上に直接置いて、支持タワーのエッジの内側にフィットさせた。12VDC電動機は、棒を回転させるために使用され、パルス幅変調器によって制御された。棒の20cm真下に、安全網を、ラットを転倒中にキャッチするためにつるした。MCMCTの記録は、棒の片側と平行なフレームに取り付けられた4台のバレットMarshall 1080-HD-DI型式CV500 Seriesカメラ(B-30/25Pフレームレート/59.94i)を使用して得られた。ビデオは、クワッドSDI to HDMI(登録商標)マルチビューワー(Matrox MicroQuad)を使用してシングルフィード(single feed)に変換し、Elgato Game Capture HDソフトウェアを使用してPC上で直接見た。
【0084】
【表2】
【0085】
結果:
結果が図4~7に示され、イダロピルジンおよびリバスチグミン(DL/Riva+IDL)によるDLラットの併用処置は、未処置DLラット(DL/Veh)と比較して転倒の数を低減したことを観察することができる。

本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
バランス、歩行または運動がコリン作動性ニューロンの変性または機能障害のために損なわれている、CNS疾患の処置において使用するための、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤と組み合わせた5-HT 受容体アンタゴニスト。
[2]
前記CNS疾患は、パーキンソン病、レビー小体認知症、核上性麻痺および多系統萎縮
症からなる群から選択される、請求項1に記載の処置において使用するための5-HT
受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[3]
前記CNS疾患は、パーキンソン病である、請求項1または2に記載の処置において使
用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤

[4]
パーキンソン病の処置は、パーキンソン病を有する患者において転倒を低減すること、
パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善すること、パーキンソン病を有
する患者において運動中止を低減すること、パーキンソン病を有する患者において歩行の
すくみを低減すること、およびパーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善する
ことからなる群から選択される、請求項3に記載の処置において使用するための5-HT
受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[5]
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミンおよびガラン
タミンからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の処置において使
用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤

[6]
前記5-HT 受容体アンタゴニストは、イダロピルジンである、請求項1~5のいず
れか一項に記載の処置において使用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびア
セチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[7]
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がドネペジルである場合、ドネペジルの用量は
、1~30mg、例えば5~23mgであり、前記AChEIがガランタミンである場合
、用量は、4~24mgであり、および前記AChEIがリバスチグミンである場合、リ
バスチグミンの用量は、1~20mgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の処置
において使用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラ
ーゼ阻害剤。
[8]
前記5-HT 受容体アンタゴニストがイダロピルジンである場合、イダロピルジンの
1日用量は、10mg~120mg、例えば10mg~100mg、例えば30mg~9
0mg、例えば30mg~60mgである、請求項1~7のいずれか一項に記載の処置に
おいて使用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラー
ゼ阻害剤。
[9]
前記5-HT 受容体アンタゴニストは、イダロピルジンであり、および前記アセチル
コリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジルである、請求項1~8のいずれか一項に記載の
処置において使用するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエス
テラーゼ阻害剤。
[10]
前記処置は、パーキンソン病を有する患者における転倒を低減するためのものである、
請求項4~9のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT 受容体アン
タゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[11]
前記処置は、パーキンソン病を有する患者において遅い歩行速度を改善するためのもの
である、請求項4~9のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT
容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[12]
前記処置は、パーキンソン病を有する患者において運動中止を低減するためのものであ
る、請求項4~9のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT 受容体
アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[13]
前記処置は、パーキンソン病を有する患者において歩行のすくみを低減するためのもの
である、請求項4~9のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT
容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[14]
前記歩行のすくみは、約2秒未満のものである、請求項13に記載の処置において使用
するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[15]
前記処置は、パーキンソン病を有する患者において歩行制御を改善するためのものであ
る、請求項4~9のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT 受容体
アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[16]
前記5-HT 受容体アンタゴニストは、N-(2-(6-フルオロ-1H-インドー
ル-3-イル)エチル)-3-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)ベンジル
アミン(イダロピルジン)である、先行請求項のいずれか一項に記載の処置において使用
するための5-HT 受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
[17]
前記5-HT 受容体アンタゴニストは、N-(2-(6-フルオロ-1H-インドー
ル-3-イル)エチル)-3-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)ベンジル
アミン(イダロピルジン)であり、および前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ド
ネペジルである、請求項のいずれか一項に記載の処置において使用するための5-HT
受容体アンタゴニストおよびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7