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  • 特許-ニッケルろうで接合されたオイルクーラ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ニッケルろうで接合されたオイルクーラ
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/08 20060101AFI20220105BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F28F3/08 301A
F28F21/08 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018559621
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2017047145
(87)【国際公開番号】W WO2018124253
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2016250564
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】太田 博巳
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219005(JP,A)
【文献】特開昭55-103297(JP,A)
【文献】特開平01-289593(JP,A)
【文献】特開2015-045427(JP,A)
【文献】特開昭63-079611(JP,A)
【文献】特開2012-251673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 3/08,21/08
B23K 1/00,1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼板よりなるプレート(3)と、純鉄または炭素鋼板よりなるインナーフィン(10)と、を有し、
前記プレート(3)と前記インナーフィン(10)とが、ニッケルろうにより接合されたオイルクーラであって、
前記オイルクーラは、オイル流路(5)と冷却水流路(6)とが交互に配置された多板型のものであり、そのオイル流路(5)にインナーフィン(10)が配置されたオイルクーラ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に多板式オイルクーラとして最適なニッケルろうで接合された構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、多数の皿状に形成されたプレートを積層し、各プレートの1枚おきにオイル流路と冷却水流路とを交互に配置した多板式のものが知られている。そして、オイル流路にはインナーフィンが配置され、オイル側の伝熱性を向上している。そのプレートは、SUS304やSUS316のオーステナイト系ステンレスや、SUS430等のフェライト系ステンレスを使用し、各プレートが銅ろうによりろう付されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-045427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、エンジンやギアボックス等の潤滑油を冷却するためのオイルクーラとして、銅ろうにより接合すると、次の問題点が生じる。
オイルが流通するエンジン内部の銅ろうから、油中に銅イオンが溶出し、この銅イオンが油中の硫黄系添加物と反応して硫化銅となる。その硫化銅の生成反応により、摺動部付近やシール部でスラッジの堆積が起こり、油漏れが発生するという現象が確認されており、それを防止するため、銅ろうの使用の削減が求められている。
その方策の一つとして、銅ろうに変えニッケルろうを使用して多板型オイルクーラを構成することが考えられる。しかし、このように、ろう材を銅ろうからニッケルろうに変更した場合、ニッケルを含む高価なオーステナイト系ステンレス鋼では問題にならないが、クローム系のフェライト系ステンレス鋼に対しては、ニッケルろうの広がりが著しく低下し、それによりろう切れが生じ、未接合部が発生することが判明した。
これについて、ろう材の増量で対処しようとすると、特に、オイル流路側のインナーフィンとの接合部分は、フィンとプレートとの接触面積が極めて広いので、ニッケルろうの使用量が大きく増加する。また、単にろう材の量を増やすと、インナーフィンのオイル細流路が、ろう材で閉塞される等の不具合が発生する。
そこで本発明者は、プレートに比較的安価なフェライト系ステンレス鋼板を用いても、ニッケルろうが十分に広がる条件を各種実験により見いだした。本発明はそれに基づき、オイルクーラの各種材質の組み合わせを最適化して、高価なニッケルろうの使用量を抑えつつ、接合強度の高い多板式オイルクーラ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、フェライト系ステンレス鋼板よりなるプレート3と、純鉄または炭素鋼板よりなるインナーフィン10と、を有し、
前記プレート3と前記インナーフィン10とが、ニッケルろうにより接合されたオイルクーラであって、
前記オイルクーラは、オイル流路5と冷却水流路6とが交互に配置された多板型のものであり、そのオイル流路5にインナーフィン10が配置されたオイルクーラである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明は、フェライト系ステンレス鋼と純鉄または炭素鋼とをニッケルろうによって接合することにより、ろう付中に溶融するろう材の広がりが大きくなり、接合強度の大きな、確実な接合を行うことができる。
即ち、従来、フェライト系ステンレス鋼どうしをニッケルろうにより接合しようとすると、ろうの広がりが著しく低いことから、ろう切れによる未接合部が発生するおそれがあった。そのろう切れを防止するには、より多くのろう材を必要としていた。
これに対して、本発明のように、ニッケルろう付において、フェライト系ステンレス鋼と純鉄または炭素鋼との組み合わせとすると、純鉄または炭素鋼の高いぬれ性により、ろう材の広がりが大きくなり、ろう切れによる未接合部の発生が防止される。それと共に、少ないろう材で両者を接合できるので、ろう材費用が低減される。また、ろう材の過剰分が滞留することが無いので、細かな部品間の接合においても、部品間の流路に、ろう材による目つまりが生じることがない。
ニッケルろうに対して、純鉄および炭素鋼が高いぬれ性を有することは、本発明者が実験によって見出したことであり、それは、ろう付する際の昇温により、純鉄および炭素鋼が800~900℃で体心立方構造から面心立方構造に変態し、ろう付温度(1100℃程度)では面心立方構造であることに基づく。
その結果、本発明は、(1)ろう切れに基づく接合不良を防止でき、(2)細かい部品間の隙間のろう詰まりに基づく製品流路の閉塞を防止し、(3)ろう材の使用を低減して、(4)安価な低炭素鋼の使用により製品コストを削減し、量産性の高いものを提供することができる。
また、構造体をフェライト系ステンレス鋼板よりなるプレート3と、炭素鋼板よりなるインナーフィン10とを、ニッケルろうにより接合して熱交換器を形成しているので、フェライト系ステンレスからなる流路に、安価で熱伝導率の高い低炭素鋼からなるフィンを施行性良くニッケルろう付することが可能となり、一方の流体に対してはフェライト系ステンレスによる高い耐食性を有し、他方の流体に対しては低炭素鋼製フィンによる高い熱伝達率を有する安価で高性能な熱交換器を得ることができる。また、少量のろう材で接合可能なので、過剰なろうの滞留によってインナーフィンが目詰まりするおそれがなく、品質の安定した熱交換器を得ることができる。
さらに、熱交換器がオイルクーラであり、それがオイル流路5と冷却水流路6とを交互に配置した多板型のもので且つ、そのオイル流路5に前記インナーフィン10が配置されているので、インナーフィンとプレートとの接合を確実に行うことができる。それと共に、インナーフィンはオイル流路に配置されているため、腐食の問題も生じない。即ち、腐食するおそれのないオイルクーラを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は本発明のオイルクーラの分解斜視図。
図2図1の平面図。
図3図2のIII-III矢視断面図。
図4図2のIV-IV矢視断面図。
図5図4の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
なお、このオイルクーラの形状自体は、本出願人が特開2015-45427号公報(特許文献1)として公開した公知技術に属する。本発明は、そのプレート材料とフィン材料とろう材との、三者の組合せに特徴がある。
〔オイルクーラの構造〕
このオイルクーラは、それぞれフェライト系ステンレス鋼からなる第1プレート3と、第2プレート4との積層体および同様の材料からなる上端板8、下端板21を有する。そして、第1プレート3と第2プレート4とが交互に積層されてコア7を構成し、両プレート4、3の1枚おきに、オイル流路5と冷却水流路6とが形成され、そのオイル流路5に純鉄または炭素鋼の板材よりなるインナーフィン10が配置されている。
それらの第1プレート3および第2プレート4は、冷間圧延鋼板を皿状にプレス成形したものからなる。そのフェライト系ステンレス鋼板としては、日本工業規格(JIS)のSUS430,SUS444,SUS445J1その他を用いることができる。
また、インナーフィン10を構成する炭素鋼板としては、JISのSPCC,SPCD,SPCE,SPCF,SPCG等の冷間圧延鋼板を、プレス成形により曲折して、コルゲート型のフィンやマルチエントリー型のフィン(オフセットフィン)を形成することができる。
一例として、上記SPCCの成分組成は炭素が0.15重量%以下、マンガンが0.60%以下、リンが0.100%以下、硫黄が0.035%以下である。
そして、フェライト系ステンレスの第1プレート3と、炭素鋼のインナーフィン10とを接合するろう材は、ニッケルろうを用いる。そのニッケルろうとしては、例えば、JISやAWS(American Welding Society)等の規格で規定されたニッケルろう材を使用できる。
そのようなニッケルろう材を、第1プレート3とインナーフィン10との間に介在させて、炉内で各部品をろう付する。実験によれば、前記フェライト系ステンレス鋼板のプレートと、上記炭素鋼のインナーフィンと、ニッケルろうとの組合せによるろう材の広がりは、フェライト系ステンレス板どうしのニッケルろうの広がりの6倍に近い結果となった。
なお、図1は本発明のオイルクーラの分解斜視図、図2はその平面図、図3図2のIII-III矢視断面図、図4図2のIV-IV矢視断面図、図5図4の部分拡大図である。そしてそれぞれ1枚おきに配置されたフェライト系ステンレス鋼板の皿状の第1プレート3は、その底面が平坦に形成されて、皿の内側にオイル流路5を形成する。同様の皿状の第2プレート4は内部に冷却水流路6を形成し、その内面にはプレス成形による多数のディンプル23が内面側に突出し分散配置されている。
そして、平坦な第1プレート3の対角線上の一対の各隅部には、オイル連通孔1が配置され、それに直交する他方の対角線上の一対の隅部には、環状膨出部2aが突出され、そこに一対の冷却水連通孔2が配置されている。多数のディンプル23を有する第2プレート4には、第1プレート3と逆の対角線上の位置で、一対の各隅部に、環状膨出部1a、オイル連通孔1が配置され、それに直交する対角線上の位置に一対の冷却水連通孔2が形成されている。そして、第1プレート3のオイル連通孔1と、第2プレート4のオイル連通孔1とが互いに接続される。また、第2プレート4の多数のディンプル23の先端と第1プレート3の底面とが当接する。
前記一枚おきに積層される第1プレート3の内側と第2プレート4の内側とに、交互にオイル流路5と冷却水流路6が形成される。そのオイル流路5内には、インナーフィン10が介装され、冷却水流路6内にはディンプル23が存在する。そして、第1プレート3と第2プレート4とインナーフィン10との積層体でコア7を形成し、それら各プレート3、4およびインナーフィン10に粉末状のニッケルろうが、バインダを介して塗布される。このときインナーフィン10には、その厚み方向の両面にニッケルろうが塗布される。そして、コア7の上端に上端板8が配置され、下端には下端板21が配置されている。また上端板8の対角線上の両隅に一対の凸部11が表面側に突出して配置される。
このような第1プレート3、第2プレート4及びインナーフィン10の組立て体からなるオイルクーラは、高温の炉内で一体的にろう付固定される。そして、第1プレート3、第2プレート4の周縁間、それらとインナーフィン10との間が接合されると共に、第1プレート3と第2プレート4の周縁部間および、第2プレート4のディンプル23と第1プレート3の底面との間が接合される。
このとき、オイル流路5内のろう付面積は、冷却水流路6のろう付面積に比べて、著しく大きい。インナーフィン10と第1プレート3、第2プレート4との接触面が大きいからである。そのため、オイル流路5内のニッケルろうの広がりを、冷却水流路6内のものより大きくする必要がある。オイル流路5内には炭素鋼板よりなるインナーフィン10が、第1プレート3、第2プレート4間に配置されているため、ニッケルろうの広がりが、冷却水流路6における広がりより著しく大きくなる。
そのオイルクーラは、一例として図3及び図4に示す如く、基部22上に配置される。そして、一方のパイプ14から他方のパイプ14に冷却水20が各冷却水流路6内を流通する。また、基部22のオイル入口15から各オイル流路5内に、オイル19が流通する。そして冷却水20とオイル19との間に熱交換器が行われる。
実施例の特徴は、プレート3、4としてフェライト系のステンレス鋼板を用い、インナーフィン10にSPCC等の低炭素鋼を用い、両者間をニッケル系ろう材で接合したことである。
これにより、プレートにフェライト系ステンレス鋼板を用いても、少ないニッケルろうの使用量で、接合強度が高くかつ目詰まりのない、安価な多板式オイルクーラ等を提供することが可能となる。
なお、各図において第1プレート3と第2プレート4との間の冷却水流路6間も同様のニッケルろうで接合される。冷却水流路6内の第1プレート3と第2プレート4との間は、ろう付部分が少ないので、ニッケルろうの消費量は少なくて足りる。
〔他の実施例〕
前記実施例は、第1プレート3および第2プレート4が共に、フェライト系ステンレス鋼板で形成されていた。それに代えて、第1プレート3のみをフェライト系ステンレス鋼板とし、第2プレート4はオーステナイト系ステンレス鋼板とすることもできる。その場合にも、オイル流路5のインナーフィン10は、炭素鋼板であるSPCC,SPCD,SPCE,SPCF,SPCG等の冷間圧延鋼板を用いる。第2プレート4の材料にオーステナイト系ステンレス鋼板を用いると、冷却水流路6内においても、ろう付中のニッケルろうの広がりが大きくなる。
なお、本発明は上記オイルクーラの実施例に制限されるものでは勿論なく、各種の多板型オイルクーラに好適に利用可能であり、さらに各種熱交換器、例えば空調用熱交換器、ヒートシンクその他にも利用できる。また、ろう付は真空炉内、各種雰囲気炉内の何れでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明はオイルクーラとして最適な熱交換器に利用できると共に、空調用熱交換器、ヒートシンクにも利用できる。
【符号の説明】
【0010】
1 オイル連通孔
1a 環状膨出部
2 冷却水連通孔
2a 環状膨出部
3 プレート
4 プレート
5 オイル流路
6 冷却水流路
7 コア
8 上端板
10 インナーフィン
10a インナーフィン孔
11 凸部
14 パイプ
15 オイル入口
16 オイル出口
19 オイル
20 冷却水
21 下端板
22 基部
23 ディンプル
図1
図2
図3
図4
図5