(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ショウジョウバエSUZUKIIの防除のための9-トリコセンの使用
(51)【国際特許分類】
A01N 27/00 20060101AFI20220105BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A01N27/00
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2018563626
(86)(22)【出願日】2017-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2017062673
(87)【国際公開番号】W WO2017207408
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-04-22
(32)【優先日】2016-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】518424626
【氏名又は名称】グローバケム エンフェー
(73)【特許権者】
【識別番号】514005397
【氏名又は名称】カトリック ユニベルシテット ルーヴェン
(73)【特許権者】
【識別番号】512080918
【氏名又は名称】フェーイーベー フェーゼットヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】ズワルト,リースベト マリエ ルネ
(72)【発明者】
【氏名】スネリングス,ヤニック マリア
(72)【発明者】
【氏名】カラーツ,パトリック フランス カレル
(72)【発明者】
【氏名】デンリュイエ,ルーヴェン
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-026208(JP,A)
【文献】特開2014-114246(JP,A)
【文献】特開昭61-239830(JP,A)
【文献】Proceedings of the Royal Society B,2015年,Vol.282, No.1804: 20143018.,pp.1-9,DOI: 10.1098/rspb.2014.3018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9-トリコセンを含む、ショウジョウバエsuzukii防除用組成物であって、ここで9-トリコセンが交尾を阻害する、組成物。
【請求項2】
9-トリコセンがシス-9-トリコセンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
殺虫剤、誘引剤、忌避剤及び7-トリコセンから選択される1以上の病害虫防除作用薬を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
殺虫剤が、シアントラニリプロール、スピノサド、ラムダ-シハロトリン、アセタミプリドから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記病害虫防除作用薬が、7-トリコセンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
溶剤及び/又は安定剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶剤が、無水溶剤である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記無水溶剤が、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル及びエステルからなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記溶剤が、n-ヘキサン、n-ペンタン、アセトン及びパラフィン油からなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
液剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
9-トリコセンをしみ込ませた固体の基体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
作物に若しくは作物の部分に、請求項1に記載の組成物をスプレー又は塗布する工程を含むショウジョウバエsuzukiiの防除方法。
【請求項13】
前記作物が、果樹又は果物の植物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記作物が、成熟している又は成熟した果実である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ショウジョウバエsuzukiiの生殖及び交尾を防除するための病害虫防除作用薬としての9-トリコセンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウジョウバエsuzukii(以下、D.suzukiiともいう)に対する病害虫防除作用薬としての9-トリコセンの使用に関し、ここで9-トリコセンは、交尾を阻害する。化合物9-トリコセンは、単独で使用するか、あるいはより効率的なやり方でショウジョウバエsuzukiiを防除するために他の化合物と混合させることもできる。さらに、本発明は、9-トリコセンのディスペンサー及び特異的噴霧方法の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に斑点翼ショウジョウバエ(spotted wing Drosophila)と呼ばれるショウジョウバエsuzukii(Matsumura)(昆虫綱: 双翅目: ショウジョウバエ科)は、南東アジア由来の非常に侵略的な害虫である。この種はその迅速な生殖及びさくらんぼ、ブルーベリー及びイチゴのような柔らかい果物の成熟にダメージをもたらす能力により害虫として分類される。雌は、鋭い産卵管を、柔らかい果物の皮を通過させ、続いて、卵子を果物の内部に置く。これは、80%までの、収穫高の損失を引き起こし、潜在的な経済的災害に結びつく。
【0003】
ショウジョウバエsuzukiiは、2008年以来アメリカと西ヨーロッパの至る所で報告されたが、何ら明瞭な種特異的な統合有害生物管理(IPM)戦略については記述されていない。誘因殺傷、大量捕獲、及び交尾阻害のような多くの潜在的なIPM戦略には、フェロモンの使用法を含んでいる。しかしながら、D.suzukiiのフェロモンについては、ほとんど知られていないし、また、よく研究されたモデル生物キイロショウジョウバエで得られた結果は多くの場合異なるか、D.suzukiiで得られた結果の反対でさえあった。すべてのショウジョウバエ類における最も主要なフェロモンは、シス-11-オクタデケニル酢酸塩(cVA)で、短期間作用性の揮発性の性フェロモンである。キイロショウジョウバエでは、cVAは雄によって作られ、交尾中に雌へ移送される。これは、他のショウジョウバエ雄による求愛の抑制を引き起こす。しかしながら、ショウジョウバエsuzukiiは、実際にはcVAを生産しないことが見出された。
【0004】
したがって、ショウジョウバエsuzukiiの病害虫防除のために、フェロモンのような新しい生成物を同定する継続的必要性が存在する。
さらに以下に詳述するように、9-トリコセンの交尾阻害効果については、ショウジョウバエsuzukiiについては、当業者に開示も示唆もされていないし、及び、この種の防除に対して抑制化合物の現在の利点を超えた格別の有利性を備えた有用な化合物である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明において、驚くべきことには、9-トリコセンが病害虫防除作用薬として使用でき、D.suzukii交尾を阻害することが見出された。したがって、第一の態様では、本発明は、ショウジョウバエsuzukiiに対する病害虫防除作用薬としての9-トリコセンの使用に関する。9-トリコセンが、キイロショウジョウバエで非常に異なる機能を発揮することが最近分かったので、本発明は特に驚くべきことであった。確かに、キイロショウジョウバエの雄は、食物芳香アップルサイダー酢による刺激で、フェロモン9-トリコセンを蓄積させる。このフェロモンは、有力な集合フェロモン及び雌の産卵ガイダンス・キューとして働く。さらに、9-トリコセンは、ダニ、ハエのような、ある他の昆虫の集合フェロモン及び産卵ガイダンスとしての機能することが知られる。あるいは、別様に表現され、ショウジョウバエsuzukiiにとって、9-トリコセンは、現在当業者に既知の方法とは完全に逆に機能する。
【0006】
更に、化合物9-トリコセンは、単独で使用するか、あるいはより効率的なやり方でショウジョウバエsuzukiiを防除するために他の化合物と混合させることもできる。さらに、本発明は、9-トリコセンのディスペンサー及び/又は噴霧方法の使用を提供し、それは、異なる作物及び環境において、ショウジョウバエsuzukiiを防除するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面への特異的な参照は、示された詳細が実施例によって及び単に本発明の異なる態様の実例的開示の目的のためにあることは強調される。それらは、最も有用なものであると考えられるものの提供のために、及び本発明の原理及び概念の態様の容易な記述のために示される。この点では、本発明についての基本的な理解に必要であるよりより詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされていない。図面で得られた記述は、本発明のいくつかの形式はどのように実際上態様されるかを、当業者に、明白にする。
【0008】
【
図1】6化合物の求愛行動(%)への効果-求愛CHCs
図1は、4日齢の野生型雄を使用する求愛行動の出現に関する6つの化合物の効果を示す。(a) 1日齢の芳香化雌と4日齢の雄の求愛の出現に関し6つの被験クチクラ炭化水素(CHs)の効果を示す。(b) 1日齢の芳香化雄と4日齢の雄の求愛の出現に関し6つの被験CHsの効果を示す。(c) 4日齢の芳香化雌と4日齢の雄の求愛の出現に関し6つの被験CHsの効果を示す。(d) 4日齢の芳香化雄と4日齢の雄の求愛の出現に関し6つの被験CHsの効果を示す。
【
図2】6化合物の求愛行動(#)での効果-求愛CHCs
図2は、4日齢の野生型雄を使用する求愛の試みの平均量に関し6つの化合物の効果を示す。(a) 1日齢の芳香化雌と4日齢の雄の求愛の試みの平均数に関し6つの被験CHsの効果を示す。(b) 1日齢の芳香化雄と4日齢の雄の求愛の試みの平均数に関し6つの被験CHsの効果を示す。(c) 4日齢の芳香化雌と4日齢の雄の求愛の試みの平均数に関し6つの被験CHsの効果を示す。(d) 4日齢の芳香化雄と4日齢の雄の求愛の試みの平均数に関し6つの被験CHsの効果を示す。
【
図3】交尾に関し6つの化合物の効果-交尾CHCs
図3は、4日齢の野生型雄と4日齢の芳香化雌の間での交尾の出現に関し6つの化合物での効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述されるように、本発明はショウジョウバエsuzukiiに対する病害虫防除作用薬として9-トリコセンの使用を提供する。さらなる態様において、本発明は、生殖を減少させるためにD.suzukiiの交尾を阻害することについての9-トリコセンの使用を特に提供する。好ましい態様では、ここに使用されるような9-トリコセンは、シス-9-トリコセンとして知られている(Z)-9-トリコセンである。
【0010】
更に、本発明は、D.suzukiiを防除するために使用することができる9-トリコセンを含む組成物を提供する。さらなる態様では、該組成物は、さらに殺虫剤のような1つ以上の他の病害虫防除作用薬、特にD.suzukiiに対する他の病害虫防除作用薬、を含む。これは、異なる方法による異なる作物でのショウジョウバエsuzukiiのより効率的な防除を可能にする。組み合わせ組成物で使用される適切な他の病害虫防除作用薬は、限定されないが、a)シアントラニリプロール、スピノサド、ラムダ-シハロトリン、アセタミプリドのような、殺虫剤、b) 例えばリンゴ酒のビネガー合剤のような、モニタリング若しくは多量トラッピングに使用される誘引剤、又はc)忌避剤を含む。特別な態様では、本発明は、特にここに記述された用途に、9-トリコセン及び7-トリコセン〔特に (Z)- 7-トリコセン〕のコンビネーションを提供する。
【0011】
本発明の組成物は、1つ以上の溶剤及び/又は安定剤のような追加の成分を含むことができる。特別な態様では、組成物は、特に、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル及びエステルから成るグループから選ばれる、無水溶剤を含む。特別な態様では、溶剤は、n-ヘキサン、n-ペンタン、アセトン及びパラフィン油から成るグループから選ばれる。
【0012】
特別な態様では、9-トリコセンを含む組成物は、液剤として使用される。別の態様では、本発明は、ここに記述された用途のための9-トリコセンをしみ込ませた固体の基体を提供する。まだ別の態様では、9-トリコセンを含むディスペンサーが使用される。例えば、農場で、温室で、ショウジョウバエsuzukii の出現プレッシャーに依存して、連続的に若しくは時間制御手段で、9-トリコセンの拡散を可能にするディスペンサーの使用により分散することができる。あるいは、9-トリコセンが、標準のスプレーを使用して、容易にそれを適用することができる方法において製剤化される。したがって、特別の態様では、本発明は、作物に若しくは作物の部分に、9-トリコセンを含んでいる製剤をスプレーすることを含むD.suzukiiを防除する方法を提供する。例えば、9-トリコセン製剤は、D.suzukiiから防御するべき果樹若しくは植物で直接適用されうる。あるいは、9-トリコセンは、熟成又は熟果上で直接適用されうる。本発明は、果実格納箇所に有益に適用することができるが、好ましい適用エリアは田畑及び温室である。
【実施例】
【0013】
実施例1
ショウジョウバエsuzukii成体が、野生野(シントトロイデン、ランブール、ベルギー)で捕らえられた。ハエが、コーンミール精製白糖イースト寒天ミディアムで21℃で隔離された設備の中で育てられた。すべてのハエは孵化後12時間以内に集められ、その後、それらは、1日齢のサンプル若しくは4日齢を調製するために使用された。4日齢の隔離ハエは、他性と混合され育てられた非隔離ハエとは対照的に、異性から分けて育てられた。
【0014】
実施例2
n-ヘキサン(95%)、n-ヘネイコサン(heneicosane)(98%)、n-トリコサン(98%)、(Z)-7-トリコセン(98%)及び(Z)-9-トリコセン(97%)を、Thermo-Fischer及びシグマ・オールドリッチから購入した。(Z)-5-トリコセン (99%)及び2-メチルオクタコサン(95%)は委託会社Ecosynth(ヘント、ベルギー)によって合成された。これらの化合物は、n-ヘキサン(95%)に溶かされ、ショウジョウバエsuzukiiの腹に、ナンバー2絵筆を使用してペイントした。4日齢のハエは、試験に先立った24時間前に芳香化され、1日齢のハエは、試験に先立った1時間前にされた。
【0015】
実施例3
行動分析は、調節された温度(21°C)の部屋で、そして常に同じ時間(10時間30分)履行された。芳香化ショウジョウバエsuzukiiは、循環空間(3cmの直径)に、野生型4日齢のショウジョウバエsuzukii雄と、個別におかれた。全てのカップルは、ソニーハンデイカムCX240を使い、当該種の低い活動率に応じて、2時間映像化した。その後、これらのビデオはMazzoniら2013(Plos One 8(11): e80708(11)に基づいた交尾及び求愛行動について分析された。行動のデータは、分割表を使用し分析され、連続的なデータに対する一元配置分散分析テストと同様にt検定も続けて行われた。
【0016】
実施例4
行動実験は、以下のように行なわれた。ハエの異なる4つの対象が芳香化された: 1日齢の雌、1日齢の雄、4日齢の雌及び4日齢の雄。これら、芳香化されたハエは、野生型4日齢の雄とペアになった。対象は、交尾と同様に両者の求愛モジュールにつて得点化された。コントロールとして、芳香(nヘキサン)の溶剤が使用された。交尾行為と同様に求愛の両者について、n-ヘキサンは、前述の条件のうちのどれも効力を示さなかった。
【0017】
異なる6つの環状炭化水素がテストされた: n-ヘネイコサン(heneicosane)、n-トリコサン、(Z) -5-トリコセン、(Z) -7-トリコセン、(Z) -9-トリコセン及び2-メチルオクタコサン。求愛の出現に対するこれらの選択された化合物の効果を見る時、4つのテスト化合物で何ら有意差は見出されなかった(
図1)。これは、当該化合物のどれも求愛が始められるかどうかに影響を及ぼさないことを意味する。
【0018】
たとえ、求愛の出現が、テストされたCHsのうちのどれによっても変更されなくても、求愛の程度が修正されることはまだありえる。しかしながら、分析は、4つのテストされた条件で、いずれのテストされたCHsによっても起こる求愛の程度が変更されないことを示した(
図2)。
【0019】
更に、これは交尾の出現への可能な効果を除外するものではない。交尾は、完全に成熟した雄と雌の間にのみ起こりうるので、4日齢の芳香化雌は野生型4日齢の雄とペアになった。7-トリコセン及び9-トリコセンの両方が、著しく交尾を減少させた(
図3)。したがって、9-トリコセンが、交尾抑制剤として働き、D.suzukiiの防除に役立つことが見出された。
【符号の説明】
【0020】
図1、
図2:Baltsgedrag: 求愛行動
図3:Paringspercentage: 交尾出現率