(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ワークの降伏強度を高める方法、及びその装置及びワーク
(51)【国際特許分類】
B21D 22/02 20060101AFI20220105BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B21D22/02 A
B21D24/00 F
B21D24/00 H
(21)【出願番号】P 2018565835
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 IB2017058417
(87)【国際公開番号】W WO2019116085
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2018-12-13
(31)【優先権主張番号】201731045065
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】518201418
【氏名又は名称】タタ スチール リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】スマン,グハ
(72)【発明者】
【氏名】シャイク,シャムスッディーン
(72)【発明者】
【氏名】ラフール クマール,ヴァルマー
(72)【発明者】
【氏名】ルドラ ブバイ,サルカール
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-174553(JP,A)
【文献】特開平11-319963(JP,A)
【文献】米国特許第03996780(US,A)
【文献】特表2001-506543(JP,A)
【文献】特表2017-530010(JP,A)
【文献】特開2001-001061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/02
B21D 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上のワークの降伏強度を高める方法であって、
一つ以上の前記ワークをパンチ・ダイス組立体に位置させるステップと、
前記ワークの少なくとも一つの表面に少なくとも一つのテンプレートメッシュを供給するステップと、
複数の表面突起が一つ以上の前記ワークに形成されるように、前記パンチ・ダイス組立体を作動させるステップとを備え、
一つ以上の前記ワーク上に可塑変形によって形成された前記複数の表面突起が、一つ以上の前記ワークの前記降伏強度を高め、
前記テンプレートメッシュは、
互いに平行に延びている複数の第1ワイヤと、
前記第1ワイヤと交差し、互いに平行に延びている複数の第2ワイヤと、
複数の前記第1及び第2ワイヤの間に画定され、両テンプレート面で貫通して形成され、前記複数の表面突起を形成するように構成されている複数の空隙とを備えている、方法。
【請求項2】
前記パンチ・ダイス組立体を作動させるステップが、一つ以上の前記ワークの少なくとも一つの表面上に複数の谷部の表面形状の圧痕を形成するためのプレス加工を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数の谷部の形成が、前記複数の表面突起を形成するように、前記複数の谷部に隣接して複数の山部を生じさせる請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記プレス加工が、一つ以上の前記ワークの前記少なくとも一つの表面に前記少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造の圧痕を形成することを含む請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記複数の谷部及び複数の山部が、対称の構造及び非対称の構造の少なくとも一方となるように構成されている請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュが、一つ以上の前記ワークのそれぞれの間に供給される請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記パンチ・ダイス組立体を作動させるステップが、複数の谷部を形成するように一つ以上の前記ワークをプレス加工し、これにより前記複数の表面突起を形成する請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュを供給することが、前記複数の表面突起を形成するようにパンチ及びダイスのうち少なくとも一方の上に前記少なくとも一つのテンプレートメッシュを取り付けることを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
一つ以上の前記ワーク上の前記複数の表面突起の形成が、前記複数の表面突起を欠いた一つ以上のワークと比較して、一つ以上の前記ワークの前記降伏強度を少なくとも10%だけ高める請求項1記載の方法。
【請求項10】
一つ以上の前記ワークが、鋼鉄シート、アルミニウムシート、ステンレス鋼シートのうち少なくとも一つから選択されている請求項1記載の方法。
【請求項11】
一つ以上の前記ワークが、むき出しのワーク、成形中のワーク、成形されたワーク、熱処理されたワークのうち少なくとも一つから選択されている請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記複数の表面突起のピッチが、10μmから1000μmまでの範囲にある請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造が、正方形の構造、三角形の構造、矩形の構造のうち少なくとも一つから選択されている請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュが、パンチ及びダイスのうち少なくとも一つから取り外し可能である請求項1記載の方法。
【請求項15】
一つ以上のワークの降伏強度を高める装置であって、
プレス機に取り付け可能であるパンチ・ダイス組立体を備え、
前記パンチ・ダイス組立体は、
パンチと接続されている上枕材と、
ダイスと接続されている下枕材とを有し、
前記ダイスは、一つ以上の前記ワークを位置させるように構成され、複数の表面突起が、前記パンチ・ダイス組立体の作動に伴って一つ以上の前記ワークに形成され、
一つ以上の前記ワーク上に可塑変形によって形成された前記複数の表面突起が、一つ以上の前記ワークの前記降伏強度を高め、
さらに、前記ワークの少なくとも一つの表面に供給される少なくとも一つのテンプレートメッシュを備え、
前記テンプレートメッシュは、
互いに平行に延びている複数の第1ワイヤと、
前記第1ワイヤと交差し、互いに平行に延びている複数の第2ワイヤと、
複数の前記第1及び第2ワイヤの間に画定され、両テンプレート面で貫通して形成され、前記複数の表面突起を形成するように構成されている複数の空隙とを備えている、装置。
【請求項16】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュが、前記複数の表面突起を構成するように、前記パンチ及び前記ダイスのうち少なくとも一つに取り付け可能である請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュが、前記パンチ・ダイス組立体の作動に伴って、一つ以上の前記ワークの前記少なくとも一つの表面上に複数の谷部の表面形状の圧痕を形成する請求項15記載の装置。
【請求項18】
一つ以上の前記ワーク上の前記複数の表面突起の形成が、前記複数の表面突起を欠いた一つ以上のワークと比較して、一つ以上の前記ワークの前記降伏強度を少なくとも10%だけ高める請求項15記載の装置。
【請求項19】
一つ以上の前記ワークが、鋼鉄シート、アルミニウムシート、ステンレス鋼シートのうち少なくとも一つを備えている請求項15記載の装置。
【請求項20】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造が、正方形の構造、三角形の構造、円形の構造、矩形の構造のうち少なくとも一つ選択されている請求項15記載の装置。
【請求項21】
前記少なくとも一つのテンプレートメッシュが、前記パンチ及び前記ダイスのうち少なくとも一つから取り外し可能である請求項15記載の装置。
【請求項22】
第1及び第2ワーク表面と、
パンチ・ダイス組立体の作動に伴って生じた可塑変形によって前記第1ワーク表面に形成され、複数の第1谷部を有する複数の第1表面突起とを備え、
複数の前記第1谷部は、第1方向に直線的に延びる谷部と、前記第1方向に交差する方向に直線的に延びる谷部とを含み、
パンチ・ダイス組立体の作動に伴って生じた可塑変形によって前記第2ワーク表面に形成され、複数の第2谷部を有する複数の第2表面突起を備え、
複数の前記第2谷部は、第2方向に直線的に延びる谷部と、前記第2方向に交差する方向に直線的に延びる谷部とを含み、
複数の前記第1及び第2表面突起は、30μmから50μmまでの範囲の高さを有し、
複数の前記第1及び第2表面突起を欠いたワークと比較して、少なくとも10%だけ高められた降伏強度を持って構成されているワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全体的に、製造の技術の分野に関する。本開示は、限定的ではないが、特に、一つ以上のワークの降伏強度を高める方法に関する。さらに、本開示の実施形態は、一つ以上のワークの降伏強度を高める装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に製造業では、インゴット、シート材など、限定されるわけではないが、ワークは、所望の寸法の製品を製造することに用いられる。所望の製品を製造することは、成形、プレス加工、打ち抜きなど、限定されるわけではないが、単一又は複数工程の使用を含むことがある。
【0003】
数十年の間、エネルギー資源の保全を現実化することが、製造業の分野で最も重要な事項となっている。この要請に応えるために、製造業では、最先端の技術を利用することに焦点を移している。これは、品質を維持しつつ、所望の製品の製造に十分なエネルギーとなっている。特に、自動車産業では、常に変化する安全規制や、厳しい排出基準というものには、業界での競争で優位に立つために、うまく対処する必要がある。自動車の製造業者は、強度対重量の比の大きな自動車部品のための材料を得る最先端の技術を利用している。言い換えれば、軽量の部品を製造することは、自動車全体の重量を削減することにつながる。これは、内在的に、自動車の燃費と性能をよりよくするものである。
【0004】
従来のいくつかの技術は、強度対重量の比の大きな自動車部品やワークを得るために使用されている。このような一つの使用される方法は、ワークの熱処理である。熱処理とは、ワークの材料をその再結晶化の温度より高く加熱し、所定の冷却量で熱したワークの材料を冷却し、所望の材料の性質を得ること(即ち、ワークの微細構造の変化や、硬化や、延性の上昇)である。この工程は、得られるワークが大きな強度対重量の比を伴う構成になることを確実にする。しかし、ワークの強度が大きくなるにつれてワークの延性が次第に減少することが通常観察されている。また、熱処理の技術は、多くのエネルギーと時間を必要とし、好ましくない。
【発明の概要】
【0005】
ワークの機械的性質を高めるための、他の現行の工業的手法としては、冷間加工がある(例えば、ワークの再結晶化温度より低温での冷間圧延、絞り加工、押し出し加工)。これは歪み硬化現象を利用している。各手法では、ワークでの歪み硬化を引き起こし、降伏強度を高くする。金属表面のミクロンサイズの形状・構造は、サイズ効果により個々に強い反応を示すことがある。サイズ効果とは、小さい量の変形、普通は数ミクロン以下の範囲での変形を行う場合、通常、ワークの強度の上昇として言及される。このようなミクロンサイズの形状を作るために、多くの技術が広く用いられ、これは、歪み硬化、及び/又はサイズ効果を引き起こす。その技術の一つに、レーザー表面テクスチャリング方法がある。レーザー表面テクスチャリング方法は、ワークの表面にミクロンサイズの溝を形成する。しかし、ワーク上に微細表面形状を形成するこの方法は、レーザー彫刻機械などの精密機械、また作業室の環境を利用するため、高価なものとなる。
【0006】
こうしたレーザー表面テクスチャリング方法の欠点を克服するために、機械的な表面テクスチャリング方法が用いられた。この方法は、500μmのサイズのシート材に表面形状のあるロールで圧延を行い、約5μmから約50μmの範囲の深さの微小チャンネルを得るものである。
【0007】
本開示は、上述の一つ以上の問題に対処することを目的とする。
【0008】
この開示の背景で開示している情報は、本発明の全体的な背景の理解を高めるためのものに過ぎない。この情報は、当業者に既に知られている先行技術を構成していることを何かの形で示唆したり認めたりするものとは解釈されるべきではない。
【0009】
ワークの降伏強度を高める方法及び装置に関して、従来のシステムとプロセスの複数の欠点が克服される。また追加の利点が、本開示で請求項に掲げた装置と方法によって提供される。追加の特徴と利点が、本開示の専門的事項を通じて現実化される。本開示の他の実施形態と態様を本件で詳細に説明するが、これらも発明の開示の一部とみなすものとする。
【0010】
本開示の一つの非限定的な実施形態では、一つ以上のワークの降伏強度を高める方法を開示する。方法は、一つ以上のワークをパンチ・ダイス組立体に位置させるステップと、複数の表面突起が一つ以上のワークに形成されるように、パンチ・ダイス組立体を作動させるステップとを備えている。一つ以上のワーク上に可塑変形によって形成された複数の表面突起が、一つ以上のワークの降伏強度を高める。
【0011】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュが、一つ以上のワークのそれぞれの少なくとも一つの表面上に選択的に供給される。
【0012】
ある実施形態では、パンチ・ダイス組立体を作動させるステップが、一つ以上のワークの少なくとも一つの表面上に複数の谷部の表面形状の圧痕を形成するためのプレス加工を含む。
【0013】
ある実施形態では、複数の谷部の形成が、複数の表面突起を形成するように、複数の谷部に隣接して複数の山部を生じさせる。
【0014】
ある実施形態では、プレス加工が、一つ以上のワークの少なくとも一つの表面に少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造の圧痕を形成することを含む。
【0015】
ある実施形態では、複数の谷部及び複数の山部が、対称の構造及び非対称の構造の少なくとも一方となるように構成されている。
【0016】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造が、パンチの上に形成されている。
【0017】
ある実施形態では、パンチの構造が、複数の突起及び複数の凹部のうち少なくとも一つを含む。
【0018】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造が、ダイスの上に形成されている。
【0019】
ある実施形態では、ダイスの構造が、複数の突起及び複数の凹部のうち一方を含む。
【0020】
ある実施形態では、パンチ及びダイスの少なくとも一方で複数の突起及び複数の凹部のうち一方がプレス加工することにより、一つ以上のワーク上に複数の表面突起を形成する。
【0021】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュが、一つ以上のワークのそれぞれの間に供給される。
【0022】
ある実施形態では、パンチ・ダイス組立体を作動させるステップが、複数の谷部を形成するように一つ以上のワークをプレス加工し、これにより複数の表面突起を形成する。
【0023】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュを供給することが、複数の表面突起を形成するようにパンチ及びダイスのうち少なくとも一方の上に少なくとも一つのテンプレートメッシュを取り付けることを含む。
【0024】
ある実施形態では、一つ以上のワーク上の複数の表面突起の形成が、複数の表面突起を欠いた一つ以上のワークと比較して、一つ以上のワークの降伏強度を少なくとも10%だけ高める。
【0025】
ある実施形態では、一つ以上のワークが、鋼鉄シート、アルミニウムシート、ステンレス鋼シート又は任意の他のシートのうち少なくとも一つから選択されている。
【0026】
ある実施形態では、一つ以上のワークが、むき出しのワーク、成形中のワーク、成形されたワーク、熱処理されたワーク、又は任意の他のワークのうち少なくとも一つから選択されている。
【0027】
ある実施形態では、複数の表面突起の寸法(dimensions)が、約5μmから約100μmまでの範囲にあり(varies in the range of)、複数の表面突起のそれぞれのピッチが、約10μmから約1000μmまでの範囲にある。
【0028】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュの構造が、正方形の構造、三角形の構造、矩形の構造又は任意の他の構造のうち少なくとも一つから選択されている。
【0029】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュが、パンチ及びダイスのうち少なくとも一つから取り外し可能である。
【0030】
他の非限定的な実施形態では、一つ以上のワークの降伏強度を高める装置を開示する。装置は、プレス機に取り付け可能であるパンチ・ダイス組立体を備えている。パンチ・ダイス組立体は、パンチと接続されている上枕材と、ダイスと接続されている下枕材とを有する。ダイスは、一つ以上のワークを位置させるように構成され、複数の表面突起が、パンチ・ダイス組立体の作動に伴って一つ以上のワークの少なくとも一つの表面に形成され、可塑変形によって一つ以上のワークの少なくとも一つの表面に形成された複数の表面突起が、一つ以上のワークの降伏強度を高める。
【0031】
他の非限定的な実施形態では、ワークを開示する。ワークは、パンチ・ダイス組立体の作動に伴って生じた可塑変形によって形成され、複数の谷部を有する複数の表面突起を備えている。複数の表面突起を欠いたワークと比較して、少なくとも10%だけ高められた降伏強度を持って構成されている。
【0032】
上述した開示の態様及び実施形態は、互いに任意に組み合わせて使用することができることは理解されるべきことである。いくつかの態様及び実施形態を組み合わせて、本開示のなお一層の実施形態を構成することができる。
【0033】
上記の概要は例示的なものに過ぎず、決して限定することを意図するものではない。上記の例示的な態様、実施形態、及び特徴に加えて、なお一層の態様、実施形態、及び特徴は、図面及び以下の詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本開示の新規な特徴及び特性は、添付の説明に述べるものである。しかしながら、開示自体、ならびに好ましい使用モード、なお一層の目的及び利点は、添付の図面と併せて読むと、例示的な実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解されるものである。添付の図面を参照して、単なる例として一つ以上の実施形態を説明するが、同じ参照符号は同様の要素を表す。
【0035】
【
図1】本開示の実施形態に係り、複数の表面突起を一つ以上のワーク上に形成する装置を示す。
【
図2a】本開示の実施形態に係り、
図1の装置に接続可能なパンチ・ダイス組立体を示す。
【
図2b】本開示の実施形態に係り、
図1の装置に接続可能なパンチ・ダイス組立体を示す。
【
図3】本開示の実施形態に係る少なくとも一つのテンプレートメッシュを示す。
【
図4】本開示の実施形態に係る一つ以上のワークを示す。
【
図5】本開示の実施形態に係り、複数の表面突起が形成された一つ以上のワークを示す。
【
図6】本開示の実施形態に係り、一つ以上のワークの降伏強度を高める方法のフローチャートである。
【
図7】本開示の実施形態に係る、一つ以上のワーク上に形成された複数の表面突起の一部の顕微鏡による図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る、複数の表面突起を有する一つ以上のワークの降伏強度の上昇の比較チャートである。
【
図9】本開示の実施形態に係る、一つ以上のワーク上に形成された複数の表面突起の一部の顕微鏡による図である。
【
図10】本開示の実施形態に係る、一つ以上のワーク上に形成された複数の表面突起の一部の顕微鏡による図である。
【
図11】本開示の実施形態に係る、一つ以上のワーク上に形成された複数の表面突起の一部の顕微鏡による図である。
【
図12】本開示の実施形態に係る、一つ以上のワーク上に形成された複数の表面突起の一部の顕微鏡による図である。
【
図13】本開示の実施形態に係る、
図9,10,11,12の一つ以上のワークの機械的な動きのグラフでの表現である。これらの図は、例示のみを目的として本開示の実施形態を示す。当業者であれば、以下の説明から、ここに示す構造及び方法の代替の実施形態が、本明細書に記載の開示の原理から逸脱することなく使用できることを容易に認識するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示の実施形態は、さまざまな変形や代替の形態にする可能性があり、特定の実施形態が、図面の中の例として描かれている。これは後に説明するものである。しかし、本開示を開示された特定の形態に限定することは意図されず、その逆に、本開示は、開示範囲の中で変形、等価物、代替例の全てを包含していることは理解されるべきことである。
【0037】
当業者であれば、本開示で動機づけられてワークの降伏強度を高める方法と装置とに到達するであろうことは留意するべきことである。ワークの降伏強度を高めるこのような方法と装置は、一つ以上のワークの構成に基づいて変化することがある。しかし、このような変形例も本開示の範囲内に解釈されるものとする。従って、本件の図面は、本開示の実施形態を理解するために、関連する具体的な詳細を単に例示することをするだけであって、本記載を利用して、技術分野において通常の能力を有する者に対して明白なものとなる詳細さをもって、本開示に不明瞭さがないようにするものである。
【0038】
本開示の中で用いられる「備えた」、「備えている」又はその他の変種の用語は、非排他的な包含を表すものとして意図されている。従って、列挙された要素を備えている装置、システム、組立体が、これらの要素のみを含むわけではなくて、その装置又はシステム又は組立体に明言して列挙されてはいない又は内在的である他の要素を含みうる。言い換えれば、「一つの……を備えている」という語句を伴って記載されたシステム又は装置の中で、一つ以上の要素が、システム又は装置の中で、それ以上の限定がない場合は、他の要素又は追加の要素の存在を排除することはない。
【0039】
本開示は、一つ以上のワークの降伏強度を高める方法を提供する。方法は、一つ以上のワークをパンチ・ダイス組立体に位置させるステップと、複数の表面突起が一つ以上のワークに形成されるように、パンチ・ダイス組立体を作動させるステップとを備えている。一つ以上のワーク上に可塑変形によって形成された複数の表面突起が、一つ以上のワークの降伏強度を高める。パンチ・ダイス組立体は、一つ以上のワークの少なくとも一つの表面にわたって複数の谷部の圧痕を形成する。このように形成された複数の谷部は、複数の表面突起を形成するように一つ以上のワークの少なくとも一つの表面に複数の山部の背後に残る。少なくとも一つのテンプレートメッシュは、一つ以上のワークの少なくとも一つの表面に選択的に供給してもよい。従って、複数の表面突起が少なくとも一つのテンプレートメッシュの構成に対応して形成される。ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュはパンチ・ダイス組立体に取り付け可能であってよく、一つ以上のワーク上に複数の表面突起を形成する。
【0040】
また本開示は、一つ以上のワークの降伏強度を高める装置を提供する。装置は、プレス機に取り付け可能であるパンチ・ダイス組立体を備えている。パンチ・ダイス組立体は、パンチと接続されている上枕材と、ダイスと接続されている下枕材とを有する。ダイスは、一つ以上のワークを位置させるように構成され、複数の表面突起が、パンチ・ダイス組立体の作動に伴って一つ以上のワークに形成され、可塑変形によって形成された複数の表面突起が、一つ以上のワークの降伏強度を高める。少なくとも一つのテンプレートメッシュが、複数の表面突起を構成するように、パンチ及びダイスのうち少なくとも一つに取り付け可能である。ある実施形態では、パンチ及びダイスは、少なくとも一つのテンプレートメッシュを利用せずに、複数の表面突起を形成するように少なくとも一つのテンプレートメッシュの構成を備えていてよい。パンチ及びダイスは、複数の表面突起を形成するように、複数の突起及び複数の凹部を含む構成を備えていてよい。この装置の構造は、作動されたときに複数の表面突起を形成し、この形成が、複数の表面突起を欠いた一つ以上のワークと比較して、一つ以上のワークの降伏強度を少なくとも10%だけ高める。
【0041】
さらにまた、本開示では、パンチ・ダイス組立体の作動に伴って生じた可塑変形によって形成され、複数の谷部を有する複数の表面突起を備えている一つ以上のワークを開示する。一つ以上のワークは、複数の表面突起を欠いたワークと比較して、少なくとも10%だけ高められた降伏強度を持って構成されている。
【0042】
本開示は、複数の表面突起の圧痕を形成することによって、一つ以上のワークの降伏強度を高めるように構成されている。この製造のための方法は、一つ以上のワークのいずれの表面のいずれの部分にも複数の突起の圧痕を形成することを可能にする。従って、時間に効率的、経済的であるとともに多様に構成できるものである。また本開示のための方法は、複数の表面突起を形成するための高価な装置の必要性をなくすことができる。
【0043】
図1~13を参照しつつ、下記の説明で本開示について述べる。図面において、同一の要素、又は同様の機能を有する要素は、同一の参照符号で示す。
【0044】
図1は、本開示の例示的な実施形態であって、一つ以上のワーク(1)(workpieces)の降伏強度を高める複数の表面突起(2)を形成するための装置(100)の斜視図である。
【0045】
装置(100)は、プレス機(101)、即ち液圧プレス機又は空気圧プレス機などに取り付け可能なように構成されたパンチ・ダイス組立体(102)(
図2a,2bに示す)を備えている。パンチ・ダイス組立体(102)は、パンチ(3)に接続可能な上枕材(bolster)(101a)と、ダイス(4)に接続可能な下枕材(101b)とを備えている。ダイス(4)は、パンチ・ダイス組立体(102)中に一つ以上のワーク(1)を受け入れて位置決めするように構成されている。この構成は、パンチ・ダイス組立体(102)が動作したときに一つ以上のワーク(1)上に複数の表面突起(2)の形成を可能にするものである。複数の表面突起(2)は、一つ以上のワーク(1)の可塑変形によって形成され、降伏強度を高める。
【0046】
装置(100)は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を備え(
図2a,2bに示す)、これは、一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)に選択的に供給され、複数の表面突起(2)を形成する。少なくとも一つの表面(1a)は、一つ以上のワーク(1)の横断面に基づいて、複数の表面突起(2)を形成するのに使用可能な一つ以上のワーク(1)上の任意の表面であってよい。
図2a,2bでの例示では、少なくとも一つの表面(1a)は一つ以上のワーク(1)の上面を指している。ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、複数の表面突起(2)(
図2aに示す)を形成するための一つ以上のワーク(1)の上方に供給してもよい。
【0047】
図3では、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を拡大図で示している。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、互いに接続された複数のワイヤ(6a)を備えている。複数のワイヤ(6a)は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を形成するように格子状に交差した構造で接続されていてもよい。ある実施形態では、格子状に交差した構造は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を形成するように、直線的に交差する線に沿って複数のワイヤ(6a)を織り込み、又は接合することによって得ることができる。複数のワイヤ(6a)が直線的に交差する線に沿って織り込まれ、又は接合されているので、複数の空隙(6b)が複数のワイヤ(6a)の各接続部の間に形成される。複数の空隙(6b)が一つ以上のワーク(1)の表面を突出させ、その一方で、複数のワイヤ(6a)の接続された縁は、一つ以上のワーク(1)上での可塑変形によって凹部又は複数の谷部を形成する手段として作用しうる。従って、この構成は、複数の表面突起(2)が複数の谷部(troughs)(2a)及び複数の山部(crests)(2b)を伴って(
図7に示す)形成されることを確実にする。
【0048】
例示的な実施形態では、帽子状の輪郭のワークが開示される(
図4に示す)。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、一つ以上のワーク(1)の内面に供給されて、一つ以上のワーク(1)の内面の上に複数の表面突起(2)を形成してもよい(
図5に示す)。さらに、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)のいずれかに供給されて、一つ以上のワーク(1)上に複数の表面突起(2)を形成してもよい。また、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)の一部分に供給されて、複数の表面突起(2)を形成してもよい。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、パンチ・ダイス組立体(102)を介して荷重を与えて、一つ以上のワーク(1)に複数の表面突起(2)の圧痕を形成する。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、一つ以上のワーク(1)よりも大きな材料強度を有する構成であってよく、荷重が与えられたときに一つ以上のワーク(1)上の少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)の変形を防止する。
【0049】
少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、所定の横断面を有する複数のワイヤ(6a)で形成されてもよい。複数のワイヤ(6a)の横断面は、一つ以上のワーク(1)上に必要とされる複数の谷部(2a)の構造に基づいて選ばれてもよい。複数のワイヤ(6a)の横断面は、限定されないが、正方形の横断面、矩形の横断面、円形の横断面などの群から選択されてもよい。例えば、複数の谷部(2a)の必要な構造が矩形である場合は、横断面で矩形の複数のワイヤ(6a)は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を形成するのに用いてもよい。従って、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)に対して荷重をかけることは、矩形の凹部を形成し、これにより矩形構造の複数の谷部(2a)を形成する。例えば、複数の山部(2b)の必要な構造が矩形である場合は、矩形とされた複数の空隙(6b)が各接続されたワイヤの間に形成されるように複数のワイヤ(6a)が接続される。従って、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)のこの構造に対して荷重をかけることは、矩形構造の複数の山部(2b)を形成することを確実にする。ある実施形態では、複数の空隙(6b)のサイズは、実現可能性と必要性に応じて、約10μmから約110μmの範囲で変化してもよい。ある実施形態では、複数のワイヤ(6a)のサイズ(直径)は、実現可能性と必要性に応じて、約15μmから約100μmの範囲で変化してもよい。
【0050】
ある実施形態では、一つ以上のワーク(1)に少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を供給することは、一つ以上のワーク(1)に少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)が締結されたものとしてもよく、これによりパンチ・ダイス組立体(102)の作動中に位置ずれを防止する。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一方に取り付け可能にしてもよく、これにより、一つ以上のワーク(1)上に少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を供給せずに、一つ以上のワーク(1)に複数の表面突起(2)の形成を確実にする。パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一方にスロット(図示せず)を設け、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を受け入れて保持するようにしてもよい。パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一方に締結機構(図示せず)、即ちボルトとナットの構成、圧入(snap-fit)の構成などを設け、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を受け入れて保持するようにしてもよい。この構成は、一つ以上のワーク(1)に形成された複数の表面突起(2)の構造上の要請に基づいて、パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一つの中に少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)のカセット型の代用を確実にする。さらにこの構成は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)の構成を利用して、パンチ(3)とダイス(4)が単純な構成又は簡素な構成であっても複数の表面突起(2)の圧痕を形成可能にすることを確実にする。
【0051】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)の構成は、パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一方に設けられていてもよい。これにより、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)がない場合でも、複数の表面突起(2)が一つ以上のワーク(1)に形成される。パンチ(3)とダイス(4)のうち少なくとも一方に形成された構成というのは、その実現可能性と必要性に基づいて、複数の突起(7),複数の凹部(8)の少なくとも一方を有していてもよい。複数の突起(7),複数の凹部(8)は、互いに相補的になるようにパンチ(3)とダイス(4)に形成され、複数の表面突起(2)を形成する実現可能性を有している。例示的な実施形態では、複数の突起(7)がパンチ(3)に形成され、複数の凹部(8)がダイス(4)に形成され、一つ以上のワーク(1)の片面に複数の表面突起(2)を形成する。これに代えて、複数の突起(7)がダイス(4)に形成され、複数の凹部(8)がパンチ(3)に形成され、一つ以上のワーク(1)のもう一方の面に複数の表面突起(2)を形成するのでもよい。他の実施形態では、複数の突起(7),複数の凹部(8)は、互いに相補的にパンチ(3)とダイス(4)に設けられていてもよい。従って、一つ以上のワーク(1)の各部は、複数の表面突起(2)の異なる構造が対応付けられる。さらに、複数の突起(7)及び複数の凹部(8)のサイズ(高さ)は、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)のサイズに対応している。この構造では、パンチ(3)とダイス(4)の動作によって得られた複数の表面突起(2)が、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)によって得られた複数の表面突起(2)に対応することを確実にする。
【0052】
ある実施形態では、ダイス(4)は、パンチ・ダイス組立体(102)の動作中に意図されない動きを防止するために、一つ以上のワーク(1)をしっかり位置決めするための取り付け手段(図示せず)を備えている。ある実施形態では、取り付け手段は、一つ以上のワーク(1)を取り付ける目的を満たす締結具、圧入構造などのうち少なくとも一つから選択されていてもよい。ある実施形態では、ダイス(4)は、一つ以上のワーク(1)を保持する支持部材(5)を有していてもよい。
【0053】
ある実施形態では、プレス機(101)の上枕材(101a),下枕材(101b)は、使用前にパンチ(3)とダイス(4)を接続する(図示されている)機構を備えている。この機構は、装置(100)が非作動状態にある間にパンチ(3)とダイス(4)を切り離すことができる。ある実施形態では、実現可能性と必要性に応じて、複数の表面突起(2)を形成するために、パンチ(3)とダイス(4)の異なる組み合わせをプレス機(101)に取り付けてもよい。この機構は、パンチ(3)を上枕材(101a)に、ダイス(4)を下枕材(101b)に接続する目的に適する締結機構、圧入機構、スライド機構又は他の機構のうち少なくとも一つから選択されていてよい。
【0054】
ある実施形態では、一つ以上のワーク(1)は、十分な延性を含む物性から選択されたものであってよく、これにより、一つ以上のワーク(1)は、荷重による破砕の代わりに、可塑変形をすることができる。さらに、一つ以上のワーク(1)は、必要な条件を満たす鋼鉄シート、アルミニウムシート、ステンレス鋼シート、又はその他のシートのうち少なくとも一つから選択されている。また一つ以上のワーク(1)は、むき出しのワーク、成形中のワーク、成形されたワーク、熱処理されたワーク、又は任意の他のワークのうち少なくとも一つから選択されている。
【0055】
ある実施形態では、複数の表面突起(2)が、可塑変形で引き起こされる歪み硬化現象によって形成される。歪み硬化現象は、一つ以上のワーク(1)の表面にサイズ効果を引き起こし、これにより複数の谷部(2a)と複数の山部(2b)とを含む構造を形成する。この構造は、荷重を受けたり荷重と接触したりするのに使える表面を確実に最小限にする。これにより、変形を防止し、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を内在的に高める。
【0056】
ある実施形態では、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)の複数の空隙(6b)のサイズは、約20μmから約1000μmの範囲である。複数のワイヤ(6a)のサイズ(直径)は、約20μmから約500μmの範囲である。
【0057】
ある実施形態では、一つ以上のワーク(1)は、約0.25mmから約2mmの範囲の厚みを有するシート材であってよい。他の実施形態では、一つ以上のワーク(1)は、熱間圧延されたシート材、冷間圧延されたシート材のうち少なくとも一つから選択されていてよい。
【0058】
ある実施形態では、パンチ(3)とダイス(4)は、一つ以上のワーク(1)よりも硬度の高い工具用の鋼種の鋼材から形成されていてもよい。
【0059】
図6に、本開示の例示的な実施形態で、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を高める方法のフローチャートを示す。
【0060】
ステップ601では、パンチ・ダイス組立体(102)の動作中に位置ずれを防止するために、一つ以上のワーク(1)がパンチ・ダイス組立体(102)中に適切な機構によってしっかり位置決めされる。
【0061】
ステップ602で、パンチ・ダイス組立体(102)はプレス機(101)によって作動され、パンチをダイス(4)に向けて変位させる。パンチ・ダイス組立体(102)の作動とは、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)上にパンチ(3)でプレス加工(stamping)をすることを含み、一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)にわたって複数の谷部(2a)の圧痕を形成する。複数の谷部(2a)は、荷重をかけることによって一つ以上のワーク(1)の可塑変形で形成される。少なくとも一つの表面(1a)にわたって形成された複数の谷部(2a)は、複数の谷部(2a)に隣接して複数の山部(2b)を設け、これにより、複数の表面突起(2)を形成する(
図7に示す)。複数の表面突起(2)は、パンチ(3)とダイス(4)の構成に対応して形成されていてもよい。ある実施形態では、少なくとも一つの表面(1a)にわたって形成されている複数の谷部(2a),複数の山部(2b)が、対称の構造及び非対称の構造の少なくとも一方となるように構成されていてもよい。即ち、一つ以上のワーク(1)上の複数の谷部(2a),複数の山部(2b)のサイズは、構造上の実現可能性と必要性に基づいて、等しくても等しくなくてもよい。
【0062】
ステップ603では、少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)がパンチ・ダイス組立体(102)中に供給されてもよい。これにより少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)が一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)上に選択的に載せられてもよい。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)は、少なくとも一つの表面(1a)上にその構成の表面形状(texture)の圧痕を形成して複数の表面突起(2)を形成する構成になっている。少なくとも一つのテンプレートメッシュ(6)を設けることは、パンチ(3)とダイス(4)の少なくとも一方に複数の突起(7),複数の凹部(8)を形成する必要性を軽減させる。従ってこの配置により、一つ以上のワーク(1)の少なくとも一つの表面(1a)上に複数の表面突起(2)の圧痕を形成する工程をさらに簡素化するようになる。
【0063】
ある実施形態では、一つ以上のワーク(1)は、ユーザーによって手動で、あるいはステップ601でロボットによって自動で、パンチ・ダイス組立体(102)に位置決めされてよい。
【0064】
図1と関連する
図8では、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を高めることをグラフで示している。この図の表示によれば、一つ以上のワーク(1)上に複数の表面突起(2)を設けることによって、約25%だけ降伏強度を有意に高めるものであった。その一つ以上のワーク(1)の厚みの減少は1%未満であった。可塑変形によって複数の谷部(2a)を形成することは、一つ以上のワーク(1)の圧縮(可塑的歪み)を生じさせる。この複数の谷部(2a)の形成による圧縮は、その領域で材料の分子の濃縮を高め、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を高める。一つ以上のワーク(1)の降伏強度の上昇は、歪み硬化の現象によるものであり、これは、サイズ効果の現象をさらに引き起こす。ある実施形態では、複数の表面突起(2)は、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を少なくとも10%だけ高める。ある実施形態では、複数の表面突起(2)の寸法は、約5μmから約100μmまでの範囲で変化し、複数の表面突起(2)のピッチ(複数の表面突起のそれぞれの間の距離)は、約10μmから約1000μmまでの範囲で変化する。
【0065】
例示的な実験結果
上述の一つ以上のワーク(1)の降伏強度を高める方法に基づいて、複数の表面突起(2)を形成した後の一つ以上のワーク(1)の機械的性質の比較を行う。この比較は、一つ以上のワーク(1)の異なる鋼種(grade)に対して行われる。
【0066】
機械的性質の比較に関連するパラメーターを、下記の表1に示す。
【表1】
【0067】
この比較の作業は、二つの実験からなる。第1次の実験は、10mm×15mm×0.6mmの寸法を有する一つ以上のワーク(1)の矩形のサンプルに対して行われる。第2次の実験は、一軸引張試験のサンプルに対して行われる。サンプルの寸法はASTM-E8基準に基づいている。
【0068】
第1次の実験
この実験では、100μmの正方形に形成された複数の表面突起(2)が、30μmから50μmの範囲の高さで形成される。一つ以上のワーク(1)の降伏強度の3倍に等しい平均圧縮応力を生じさせるのに十分な、所定のパンチ荷重を選択する。この結果は下記の表2に示す。
【表2】
【0069】
表1の一つ以上のワーク(1)に関して作成された複数の表面突起(2)を、
図9~12に示す。複数の表面突起(2)の画像は、光学顕微鏡を用いて35μmの微小列柱(micro-pillar)のために500倍で撮影されたものである。
【0070】
表1及び
図9~12に示したように、複数の表面突起(2)を形成することによって、明らかに、一つ以上のワーク(1)の降伏強度は少なくとも10%だけ高められた。
【0071】
さらに、複数の表面突起(2)がこれらのサンプル上に得られた後に、一つ以上のワーク(1)の降伏強度を高めることを特徴づけるために、一連の一軸引張試験が行われた。
【0072】
第2次の実験
本実験で考慮されている物理的性質は、一つ以上のワーク(1)の降伏強度である。一つ以上のワーク(1)は、ゲージ範囲12.5の幅を有するASTM-E8標準サンプルの上で試験された。実験工程のパラメーターは表3に示し、結果は表4に示している。
【表3】
【表4】
【0073】
表3,表4で照合されたデータから、複数の表面突起(2)を欠いた一つ以上のワーク(1)と比較して、一つ以上のワーク(1)上に複数の表面突起(2)を形成することによって、少なくとも10%だけ降伏強度を高めていることが明らかである。
【0074】
図13について述べる。100μmと35μmのメッシュサイズの複数の表面突起(2)を有する一つ以上のワーク(1)の降伏強度のグラフ表示を、圧延された一つ以上のワーク(1)の場合と比較する。グラフから明らかなように、複数の表面突起(2)を有する一つ以上のワーク(1)の降伏強度は、圧延された一つ以上のワーク(1)の降伏強度よりも大きい。さらに、深い突起を伴う一つ以上のワーク(1)に対して同じものを比較すると、低い突起を伴う一つ以上のワーク(1)の降伏強度の方が小さいことは注目すべきことである。非調質鋼でのこの変動のデータを、表5に示す。
【表5】
【0075】
本記載と実施形態は、降伏強度に関連する結果を示すものであるが、本記載は、他のパラメーター、例えば流動強度などにも拡張できるものである。
【0076】
利点
本開示は、複数の表面突起を形成することで一つ以上のワークの降伏強度を高める方法を提供するものである。
【0077】
本開示は、一つ以上のワークの降伏強度を高める、費用効果の高い方法を提供するものである。
【0078】
本開示は、一つ以上のワークの除去やエッチングを行わずに、むき出しのワークや従来のワークよりも、少なくとも10%だけ一つ以上のワークの降伏強度を高める方法を提供するものである。
【0079】
本開示は、所望の場所でワークの物理的性質及び機械的性質を上昇させる方法を提供するものである。
【0080】
本開示は、構成要素、例えば自動車の板材などの形成の後に大きな強度が特に望ましい場合に、降伏強度を高める方法を提供するものである。
【0081】
等価物
本明細書において実質的に任意の複数形及び/又は単数形の用語の使用に関して、当業者は、文脈及び/又は用途に適切であるように、複数形から単数形、及び/又は単数形から複数形に移すことが可能である。様々な単数/複数の置換は、明瞭にするために本明細書に明示的に記載されてもよい。
【0082】
全般的に、本願、特に添付する請求項(例えば、添付する請求項の本文)で用いられる用語は、「オープン」な用語として意図される(例えば、「含む」の用語は「限定されないが含む」と解釈され、「有する」の用語は「少なくとも有する」と解釈され、「含んでいる」の用語は「限定されないが含んでいる」と解釈されるものとするなどである)ことを当業者は理解するであろう。さらに、導入された請求項の記載における特定の数が意図される場合に、この意図は請求項中で明言して記載され、その記載がないとしたらそのような意図がない、ということを当業者は理解するであろう。例えば、理解を助けるために、後述の添付する請求項は、請求項の記載の導入として導入句「一つ以上」又は「少なくとも一つ」の使用を含めることがある。しかし、不定冠詞「一つの」又は「ある一つの」(“a” or “an”)を請求項の記載に入れることが、その表現をただ一つだけ包含する発明にそういう請求項の記載を含んだ特定の請求項を限定する、と意図することとして、その語句の使用を解釈するべきではない。これは、導入句「一つ以上」又は「少なくとも一つ」及び不定冠詞「一つの」又は「ある一つの」をその請求項が含むときであっても同様である。(例えば、「一つの」及び/又は「ある一つの」は典型的には、「一つ以上」又は「少なくとも一つ」を意味するものと解釈されるものとする。)またこれは、請求項の記載に導入に用いる定冠詞の使用についても同様のことである。これに加えて、導入された請求項の記載における特定の数が明言して記載されている場合でも、この記載は典型的には、少なくともその特定の数を意味すると解釈されるものとすることを、当業者は認識するであろう。(例えば、他の修飾語のない「二つの特徴記載」というむき出しの特徴記載は、典型的には、少なくとも二つの特徴記載、又は二つ以上の特徴記載を意味する。)さらに、「A,B及びCなどのうち少なくとも一つ」と類似の慣習用法が用いられるこれらの例では、当業者がその慣習用法を理解するという意味合いでその構成が全体的に意図されるものである。(例えば、「A,B及びCのうち少なくとも一つを有するシステム」は、限定的ではないが、Aだけ、Bだけ、Cだけ、A,Bの両方、A,Cの両方、B,Cの両方、及び/又はA,B及びCの全てを含むことなどである。)また、「A,B又はCなどのうち少なくとも一つ」と類似の慣習用法が用いられるこれらの例では、当業者がその慣習用法を理解するという意味合いでその構成が全体的に意図されるものである。(例えば、「A,B又はCのうち少なくとも一つを有するシステム」は、限定的ではないが、Aだけ、Bだけ、Cだけ、A,Bの両方、A,Cの両方、B,Cの両方、及び/又はA,B及びCの全てを含むことなどである。)さらに、明細書、請求項又は図面のいずれであっても2個以上の他の用語を示す選択的な単語及び/又は語句はいずれも、用語の一つ、用語のいずれか一つ、又は用語の両方を含む可能性を意図するように理解されるものとすることは、当業者は理解するであろう。例えば、「A又はB」という語句は、「A」又は「B」又は「AとB」の可能性を含んでいると理解されよう。
【0083】
様々な態様及び実施形態を本明細書に開示しているが、他の態様及び実施形態は当業者には明らかなものとなる。本明細書に開示された様々な態様及び実施形態は、例示のためのものであって、限定を意図するものではない。本発明の真の範囲及び精神は、後述の請求項によって示されている。
【符号の説明】
【0084】
1 一つ以上のワーク
2 複数の表面突起
2a 複数の谷部
2b 複数の山部
3 パンチ
4 ダイス
5 支持部材
6 少なくとも一つのテンプレートメッシュ
6a 複数のワイヤ
6b 複数の空隙
7 複数の突起
8 複数の凹部
100 一つ以上のワークの降伏強度を高める装置
101 プレス機
102 パンチ・ダイス組立体