(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20220105BHJP
A61G 5/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61G5/04 701
A61G5/10 712
(21)【出願番号】P 2018569024
(86)(22)【出願日】2017-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2017066473
(87)【国際公開番号】W WO2018007304
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-04-21
(32)【優先日】2016-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518459950
【氏名又は名称】ペルモビール アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】PERMOBIL AB
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルソン、アントン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ ヴァル、ヘルベルト
【審査官】田中 佑果
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0039766(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0014070(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0209848(US,A1)
【文献】特表平09-507785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動アームリンク機構(1)、第1のキャスター車輪(27)、第2のキャスター車輪(25)
、駆動輪(D
)、シャーシ、およびショックアブソーバを備える中輪駆動車椅子(27)であって、
前記揺動アームリンク機構(1)、前記第1のキャスター車輪(27)、前記第2のキャスター車輪(25)、前記駆動輪(D)、および前記ショックアブソーバは、サスペンション部品を形成し、
前記揺動アームリンク機構(1)は、
第1の揺動アーム枢支点(3a)およびリンク部材の第1の取付点(3b)を有する第1の揺動アーム(3)と、
前記第1の揺動アーム(3)が前記第1の揺動アーム枢支点(3a)を介して前記シャーシ(9)に枢動可能に連結されており、
第2の揺動アーム枢支点(5a)およびリンク部材の第2の取付点(5b)を有する第2の揺動アーム(5)と、
前記第2の揺動アーム(5)が前記第2の揺動アーム枢支点(5a)を介して前記シャーシ(9)に枢動可能に連結されており、前記ショックアブソーバが、前記シャーシ(9)と、前記第1の揺動アーム(3)および前記第2の揺動アーム(5)のうちの少なくとも1つの揺動アームとの間に配置されており、
前記リンク部材の第1の取付点(3b)および前記リンク部材の第2の取付点(5b)に連結され、前記第2の揺動アーム(5)と前記第1の揺動アーム(3)との間の力伝達を可能にするように構成されたリンク部材(7)であって、前記リンク部材(7)は、前記リンク部材の第1の取付点(3b)と前記リンク部材の第2の取付点(5b)との間に延在するリンク軸(A)を形成する細長形状を有する、前記リンク部材(7)とを備え、
前記第1の揺動アーム枢支点(3a)と前記リンク部材の第1の取付点(3b)との間に第1の直線(13)が形成され、前記第2の揺動アーム枢支点(5a)と前記リンク部材の第2の取付点(5b)との間に第2の直線(15)が形成され、
前記リンク部材の第1の取付点(3b)と前記リンク部材の第2の取付点(5b)は、前記第1の直線(13)に垂直な線(17)であって前記リンク部材の第1の取付点(3b)から延在する線(17)と前記リンク軸(A)との間の角度αと、前記第2の直線(15)に垂直な線(19)であって前記リンク部材の第2の取付点(5b)から延在する線(19)と前記リンク軸(A)との間の角度βとの合計が一定であるか、または溝角度(γ)の増加とともに増加
して前記サスペンション部品の挙動が逓減的となるように互いに対して配置されており、
前記溝角度(γ)は2つの平面(P1)および(P2)の間の鋭角であり、第1の平面(P1)は、第2キャスター車輪(25)の地面への接触点および駆動輪(D)の地面接触点の両方に接し、第2の平面(P2)は、第1のキャスター車輪(27)の地面接触点および駆動輪(D)の地面接触点に接している、
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項2】
前記角度αおよびβの合計が、0度の溝角度(γ)で30度未満である、請求項1に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項3】
前記角度αおよびβの合計が、0度の溝角度(γ)で25度未満である、請求項1または2に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項4】
前記角度αおよびβの合計が、0度の溝角度(γ)で20度未満である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項5】
前記角度αおよびβの合計が、0度の溝角度(γ)で10度未満である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項6】
前記第2の揺動アームのてこアーム(X)と前記第1の揺動アーム(3)のてこアーム(Y)との間の比は、溝角度(γ)の増加に伴って一定である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項7】
前記第2の揺動アームのてこアーム(X)と前記第1の揺動アーム(3)のてこアーム(Y)との間の比は、0度および25度の間の溝角度(γ)に対して2および3の間である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項8】
前記第1の揺動アーム(3)が後部揺動アームであり、前記第2の揺動アーム(5)が前部揺動アームである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【請求項9】
前記第1の直線(13)に垂直な線(17)は前記第2の直線(15)の延長線と交差し、前記第2の直線(15)に垂直な線(19)は、前記第1の直線(13)の延長線と交差している、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の
中輪駆動車椅子(27)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、電動車椅子に関する。特に、本発明は、中輪駆動車椅子サスペンション用の揺動アームリンク機構と、そのようなリンク機構を備えた中輪駆動車椅子とに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子は異なる構成であり得、1つの態様は駆動輪をどのように配置するかである。中輪駆動車椅子は、前輪と、後輪と、前輪と後輪との間に配置された駆動輪とを有する。前輪および後輪は、この場合、キャスター式の車輪であってもよい。前輪および後輪駆動車椅子と比較して、中輪駆動車椅子は、主に、より小さい枢動半径の点でより良好な操作性を提供すると考えられる場合がある。操作性に加えて、車椅子を設計および設定する際のいくつかの他の重要な側面は、安定性と、すべての車輪が常に地面と接触することを確実にする車輪サスペンション部品の性能である。慣例的に、中輪駆動車椅子に関しては、一方と他方とのトレードオフがしばしば存在していた。安定性は、一側面において、車椅子のピッチ軸を中心とする傾斜を防止する性能、例えば、斜面または傾斜路上を走行するとき、前部または後部方向に傾斜すること、または後部または前部キャスター車輪が持ち上がることを防止する性能として定義することができる。車椅子は状況によっては任意の方向に駆動する性能を喪失するので、駆動輪が地面に対する牽引力を維持することが特に重要である。牽引力の喪失のリスクは、車椅子を平坦でない表面、例えばでこぼこした地面上で操作するときに増大する。このような状況が中輪駆動車椅子に生じるときの現象は、駆動輪の少なくとも1つが地面との接触を喪失したことを意味するハイセンタリング(high-centering)と呼ばれることがある。また、斜面、下り坂、または上り坂に進入したり、そこから脱出したりするときに、牽引力を喪失するリスクが増大する。
【0003】
車椅子のサスペンション部品は、一般に、少なくとも1つのショックアブソーバ(このショックアブソーバは、典型的にはばねおよびダンパを含む)と、前部および後部キャスター車輪が取り付けられるシャーシに枢動可能に連結される揺動アーム(リンクアームまたは枢動アームとも呼ばれる)と、車輪自体と、揺動アームおよび/または車輪のシャーシへの連結部とを含む。ショックアブソーバは、一般に、シャーシと少なくとも1つの揺動アームとの間に配置される。圧縮ばねは、一般に、その圧縮挙動、すなわちばねが圧縮する速度に応じて、5つの異なるタイプに分類することができる。異なるタイプは、リニア型、プログレッシブ型、ニー(knee)を備えるプログレッシブ型、ほぼ一定かつ逓減型である。以前の解決策は、典型的に、上に列挙したリニア型またはプログレッシブ型のいずれかのばねを使用してきた。これらのばねのタイプの全ては、揺動アームの動きが大きいほど、ばね力の増加をもたらす。これはまた、典型的に、全体として同じ特性を示すサスペンションをもたらした。
【0004】
特許文献1(米国特許第7896394号明細書)は、障害物を昇降するより良い性能を可能にする、独立した前部および後部サスペンションを備えた中輪駆動車椅子を開示している。車椅子は、フレームと、前部枢支点でフレームに枢動可能に取り付けられた前部枢動アームとを含み、前部枢動アームは、キャスター車輪を有する。後部枢動アームは後部枢支点でフレームに枢動可能に取り付けられ、後部枢動アームはキャスター車輪を有する。地面と接触する中央配置の駆動輪は、前部枢動キャスター車輪と後部枢動キャスター車輪との間でフレームに連結される。リンク機構は、前部枢動アームと後部枢動アームとを、枢動アームの一方がその枢支点を中心として上方または下方に回転することにより、他方の枢動アームがその枢支点を中心として反対の回転方向に回転するように互いに連結する。
【0005】
特許文献2(米国特許第8851214号明細書)は、前部リンクアームと後部リンクアームとを連結するリンク機構を含むサスペンション装置を備えた中輪駆動車椅子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7896394号明細書
【文献】米国特許第8851214号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中輪駆動車椅子は、一般に、でこぼこした表面を走行する場合でも、全ての車輪の地面との接触を維持することを改善しつつ、適切な安定性を維持するという問題に直面する。通常の走行条件、即ち平坦な地面上では、比較的剛性のサスペンションを有することが望ましい。揺動アームを枢動させる必要がある例えば障害物又は地面内の穴のような非平坦な状況下で走行する場合、車椅子が全ての車輪を地面と接触した状態に維持することができるように、サスペンションは、揺動アームの動きが大きいほど、剛性の逓減的な増加を示すべきである。
【0008】
車椅子が非平坦な状況下で走行するときの程度は、「溝角度(ditch angle)」として表すことができ、溝角度は、2つの平面、すなわち、前部キャスター車輪の地面への接触点および駆動輪の地面接触点の両方に接する第1の平面と、後部キャスター車輪の地面接触点および駆動輪の地面接触点に接する第2の平面との間の鋭角として定義される。この用語は、駆動輪が溝の最下点にあり、かつ前輪および後輪が溝の個々の側にあるような溝を想像することに由来する。典型的に使用されるサスペンション装置は、ショックアブソーバに使用されるばねの特性に多かれ少なかれ直接的に対応する、リニア型、プログレッシブ型またはニー挙動を備えるプログレッシブ型のいずれかを示し、それによって、車輪対が地面との接触を維持する性能が制限され、牽引力の損失なしに横断され得る最大溝角度が減少する。
【0009】
上記に鑑みて、本開示の包括的な目的は、従来技術の問題を解決または少なくとも軽減する、中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1の態様によれば、中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構が提供される。揺動アームリンク機構は、第1の揺動アーム枢支点およびリンク部材の第1の取付点を有する第1の揺動アームと、第2の揺動アーム枢支点およびリンク部材の第2の取付点を有する第2の揺動アームと、リンク部材の第1の取付点およびリンク部材の第2の取付点に連結され、第2の揺動アームと第1の揺動アームとの間の力伝達を可能にするように構成されたリンク部材とを備え、リンク部材は、リンク部材の第1の取付点とリンク部材の第2の取付点との間に延在するリンク軸を形成する細長形状を有し、第1の揺動アーム枢支点とリンク部材の第1の取付点との間に第1の直線が形成され、第2の揺動アーム枢支点とリンク部材の第2の取付点との間に第2の直線が形成され、リンク部材の第1の取付点とリンク部材の第2の取付点は、第1の直線に垂直な線であってリンク部材の第1の取付点から延在する線とリンク軸との間の角度αと、第2の直線に垂直な線であってリンク部材の第2の取付点から延在する線とリンク軸との間の角度βとの合計が一定であるか、または溝角度の増加とともに増加するように互いに対して配置されている。
【0011】
第2の揺動アーム枢支点、第1の揺動アーム枢支点、リンク部材の第1の取付点、およびリンク部材の第2の取付点の幾何学的配置により、サスペンションの剛性の増加は逓減的である。たとえショックアブソーバに使用されるばねが依然としてリニア速度のばねであっても、サスペンションの幾何学的形状により、サスペンション全体の挙動は以前の解決策とは対照的に逓減的である。したがって、揺動アームリンク機構は、安定した中輪駆動車椅子サスペンションが、車輪対が地面により高度に接触した状態を維持し、かつ、快適となることを可能にする。
【0012】
さらに、特定の幾何学的形状は、より大きい溝角度に関して駆動輪に牽引力を与える。特に、本幾何学的形状は、25度よりも大きい溝角度に対して駆動輪の牽引力を提供することができる。
【0013】
「軸」が「車輪」と比較して構造の物理的特性ではないのと同様に、「第1の直線」および「第2の直線」は揺動アームリンク機構の実際の構造的特徴ではなく、本明細書において「第1の直線」および「第2の直線」は、単に角度αおよびβの定義を可能にするために記載された仮想線であることに注目されるべきである。同じことが、第1の直線または第2の直線のそれぞれに垂直な線にも当てはまる。
【0014】
概して、角度αおよびβの合計が低いほど、第2の揺動アームと第1の揺動アームとの間でより多くの運動が伝達される。
一実施形態によれば、角度αおよびβの合計は、ゼロの溝角度で30度未満である。
【0015】
一実施形態によれば、角度αおよびβの合計は、ゼロの溝角度で25度未満である。
一実施形態によれば、角度αおよびβの合計は、ゼロの溝角度で20度未満である。
一実施形態によれば、角度αおよびβの合計は、ゼロの溝角度で10度未満である。
【0016】
一実施形態によれば、第2の揺動アームのてこアーム(leverage arm)と第1の揺動アームのてこアームとの間の比は、溝角度の増加に伴って一定である。
第2の揺動アームのてこアームと第1の揺動アームのてこアームとの間の比を溝角度の範囲に亘ってより一定に保つことができ、所与の力に対して、第2の揺動アームの位置にかかわらず、第2の揺動アームから第1の揺動アームに常に同じ力伝達が提供されると考えられる。
【0017】
一実施形態によれば、第2の揺動アームのてこアームと第1の揺動アームのてこアームとの間の比は、0度と25度との間の任意の溝角度に対して2および3の間である。
一実施形態によれば、第1の揺動アームは後部揺動アームであり、第2の揺動アームは前部揺動アームである。
【0018】
一実施形態によれば、第1の直線に垂直な線は第2の直線の延長線と交差し、第2の直線に垂直な線は、第1の直線の延長線と交差する。
本開示の第2の態様によれば、本明細書で提示される第1の態様による揺動アームリンク機構を備える中輪駆動車椅子が提供される。
【0019】
一実施形態はシャーシを備え、第1の揺動アームは第1の揺動アーム枢支点を介してシャーシに枢動可能に連結され、第2の揺動アームは第2の揺動アーム枢支点を介してシャーシに枢動可能に連結される。
【0020】
全体的に、特許請求の範囲で使用されるすべての用語は本明細書で別段の明示的な定義がない限り、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。構成要素、装置、コンポーネント、手段、その他への全ての言及は、特に明記しない限り、構成要素、装置、コンポーネント、手段、その他の少なくとも1つの例を言及するものとしてオープンに解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構の一例の概略側面図である。
【
図3】一態様の
図1の揺動アームリンク機構の幾何学的形状をαとβを図示して示す図である。
【
図4】多数の揺動アームリンク機構設計に関する溝角度に応じた合成角度(角度αおよびβの合計)を示すグラフである。
【
図5】別の態様の
図1の揺動アームリンク機構の幾何学的形状をてこアームXおよびYを図示して示す図である。
【
図6】多数の揺動アームリンク機構設計に対する溝角度の機能としての前部/後部てこアーム比を示すグラフである。
【
図7】
図1の揺動アームリンク機構を備える中輪駆動車椅子の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の概念の特定の実施形態を、添付の図面を参照して、例として説明する。
本発明の概念は、例示的な実施形態が示される添付の図面を参照して、以下により十分に説明される。しかしながら、本発明の概念は多くの異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は本開示が完全であり、かつ完成しており、本発明の概念の範囲を当業者に完全に伝えるように、例として提供される。記載全体を通して、同様の番号は同様の構成要素を指す。
【0023】
本開示は、中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構または揺動アーム部品に関する。揺動アームリンク機構は、第1の揺動アーム(または第1の枢動アーム)、第2の揺動アーム(または第2の枢動アーム)、および第1の揺動アームを第2の揺動アームに連結するリンク部材を有し、それによって、第2の揺動アームと第1の揺動アームとの間の力伝達を可能にする。特に、リンク部材は、第2の揺動アームの枢動運動を第1の揺動アームの枢動運動に伝達するように構成される。
【0024】
ここで、第1の揺動アームはリンク部材の第1の取付点を有し、第2の揺動アームは、リンク部材の第2の取付点を有する。リンク部材は、リンク部材の第1の取付点に連結されるように構成されている。リンク部材は、さらにリンク部材の第2の取付点に連結されるように構成される。第1の直線は第1の揺動アーム枢支点とリンク部材の第1の取付点との間に形成され、第2の直線は第2の揺動アーム枢支点とリンク部材の第2の取付点との間に形成される。前述したように、これらの直線は、ある角度の定義のために単に導入された仮想線である。リンク部材の第1の取付点およびリンク部材の第2の取付点は、第1の直線に垂直な線であってリンク部材の第1の取付点から延在する線とリンク軸との間の角度αと、第2の直線に垂直な線であってリンク部材の第2の取付点から延在する線とリンク軸との間の角度βとの合計が一定であるか、または溝角度の増加とともに増加するように互いに対して配置される。角度αおよびβの合計は、特に一定であるか、または溝角度が0度から数十度の程度の角度まで増加するに伴って増加する。
【0025】
リンク部材は細長形状を有し、かつリンク部材の第1の取付点とリンク部材の第2の取付点との間に延在する。リンク部材は、少なくとも1つの剛性部材を含むか、または少なくとも1つの弾性部材を含むか、または剛性部材および弾性部材の両方の組み合わせを含んでもよい。弾性部材を単独で、または剛性部材と組み合わせて使用することは、ユーザーにとっての乗り心地の向上に寄与し得る。リンク部材の長さは、第1および第2の取付点の配置に依存する。
【0026】
揺動アームリンク機構の例を、
図1~
図6を参照して説明する。
図1は、中輪駆動車椅子用の揺動アームリンク機構1の一実施形態を示す。揺動アームリンク機構1は、第1の揺動アーム3と、第2の揺動アーム5と、リンク部材7とを備える。本実施形態によれば、第1の揺動アーム3は後部揺動アームであり、第2の揺動アーム5は前部揺動アームであるが、それらは逆であってもよい。
【0027】
第1の揺動アーム3は、第1の揺動アーム枢支点3aを有する。第1の揺動アーム3は、第1の揺動アーム3の枢支軸を形成する第1の揺動アーム枢支点3aにおいて中輪駆動車椅子9のシャーシに枢動可能に連結されるように構成されている。
【0028】
第1の揺動アーム3は、リンク部材7が連結されるように構成されたリンク部材の第1の取付点3bを有する。第1の揺動アーム3は、第1の揺動アーム枢支点3aから延在し、第1の揺動アーム枢支点3aを中心に第1の揺動アーム3を枢動させるように構成される部分3cを有する。リンク部材の第1の取付点3bは部分3cに設けられ、リンク部材7はこの部分3cに連結されている。
【0029】
第2の揺動アーム5は、第2の揺動アーム枢支点5aを有する。第2の揺動アーム5は、第2の揺動アーム5の枢支軸を形成する第2の揺動アーム枢支点5aにおいてシャーシ9に枢動可能に連結されるように構成されている。第2の揺動アーム5は、第2の揺動アーム枢支点5aから延在する部分5cを有する。リンク部材の第2の取付点5bは部分5cに設けられ、リンク部材7はこの部分5cに連結されている。
【0030】
第1の揺動アーム3および第2の揺動アーム5はさらに、個々のキャスター車輪部品3d、5dを有し得る。ここで、第1の揺動アーム3は、第1のキャスター車輪部品3dを含み、第2の揺動アーム5は、第2のキャスター車輪部品5dを含み得る。
【0031】
揺動アームリンク機構1がシャーシ9上のどこに配置されているかの理解を容易にするために、駆動輪に対する駆動輪ハブ11も示されており、駆動輪は、駆動輪ハブ11に取り付けられるように構成されている。駆動輪ハブ11は、後部キャスター車輪部品3dと前部キャスター車輪部品5dとの間に配置される。
【0032】
図2は、溝角度γの定義を示す。溝角度γは、2つの平面P1およびP2の間の鋭角であり、第1の平面P1は、地面に対する第2のキャスター車輪25の地面への接触点および駆動輪Dの地面接触点の両方に接し、第2の平面P2は、第1のキャスター車輪27の地面接触点および駆動輪Dの地面接触点に接している。
【0033】
図3は、一態様の揺動アームリンク機構1の幾何学的形状の図を示す。ここでは、第1の揺動アーム枢支点3a、リンク部材の第1の取付点3b、第2の揺動アーム枢支点5a、およびリンク部材の第2の取付点5bのみが示され、それらの相対位置が示されている。リンク部材7は細長形状を有し、かつリンク部材の第1の取付点3bとリンク部材の第2の取付点5bとの間に延在するリンク軸Aを形成する。第1の揺動アーム枢支点3aとリンク部材の第1の取付点3bとの間に延在する第1の直線13が
図3に示されている。また、第1の直線13に垂直な線17であってリンク部材の第1の取付点3bから延在する線17が示されており、線17は、第1の直線13およびリンク軸Aと同一平面内に延在している。同様に、第2の揺動アーム枢支点5aとリンク部材の第2の取付点5bとの間に延在する第2の直線15が図示されている。さらに、第2の直線15に垂直な線19であってリンク部材の第2の取付点5bから延在する線19が示され、線19は、第2の直線15、第1の直線13、及びリンク軸Aと同一平面内に延在している。リンク部材の第1の取付点3b及びリンク部材の第2の取付点5bは、第1の直線13に垂直な線17とリンク軸Aとの間の角度αと、第2の直線15に垂直な線19とリンク軸Aとの間の角度βとの合計が一定であるか、又は溝角度の増加とともに増加するように互いに対して配置されている。一変形例によれば、合計は、ゼロ溝角度で30度未満である。
【0034】
代替的にαおよびβの合成角度として表される、角度αおよびβの絶対値の合計は、一変形形態によれば、ゼロ溝角度で25度未満、例えば、20度未満、または15度未満、または10度未満であり得る。一変形形態によれば、αおよびβの合成角度は、ゼロ溝角度で0度とすることができる。
【0035】
図3から分かるように、第1の直線13に垂直な線17は、第2の直線15の延長線と交差する。同様に、第2の直線15に垂直な線19は、第1の直線13の延長線と交差する。なお、仮想線13、15の延長線も仮想線であることに注目されるべきである。
【0036】
図4は、異なる幾何学的形状を有する揺動アームリンク機構を有する中輪駆動車椅子について本発明者らが実施した多数の試験のプロットを示す。曲線C1によって示される試験の1つは、本明細書で開示される揺動アームリンク機構1の例であり、他のもの(曲線C2およびC3)は、溝角度の増加とともに減少する角度αおよびβの合計を有し、合計はゼロ溝角度で30度より大きい値を有する。ここでは、溝角度が、駆動輪が下方の支持部分との牽引力を喪失するまで、3つのケースの各々についてプロットされている。
【0037】
上述したように、曲線C1は揺動アームリンク機構1の変形例による揺動アームリンク機構を有する中輪駆動車椅子の挙動を示し、角度αおよびβの合計は、駆動輪が下方の支持部分との牽引力を喪失するまで、溝角度に対して25度未満である。この例では、αとβの合成角度は、その最大値で本質的に20度である。
【0038】
プロットから分かるように、指定された範囲内で30度より大きい合成角度を有する幾何学的形状を記述する曲線C2およびC3は、溝角度が増加することにつれてそれらの合成角度が減少するが、曲線C1によって示される例では、溝角度が増加することにつれて合成角度がわずかに増加する。さらに、試験範囲、即ち曲線C1のどの溝角度に対しても合成角度が25未満である試験は、曲線C2およびC3によって説明される試験よりも大きい溝角度に対して、下方の支持部分との牽引力を維持していることに注目されたい。
【0039】
図5を参照して、揺動アームリンク機構1の一変形例による幾何学的形状の別の態様を説明する。
図5に示す例では、揺動アームリンク機構1の一変形形態の幾何学的形状の図が示されており、第1の揺動アーム枢支点3a、リンク部材の第1の取付点3b、第2の揺動アーム枢支点5a、およびリンク部材の第2の取付点5bの位置が示されている。第2の揺動アーム5のてこアームXも示されており、第1の揺動アーム3のてこアームYも示されている。一変形例によれば、第2の揺動アーム5のてこアームXと第1の揺動アーム3のてこアームYとの間の比は、溝角度の増加に伴って一定である。変形例によれば、比は、0度と25度との間の任意の溝角度に対して2~3の間の範囲内にある。この比は、溝角度の範囲に亘ってできるだけ一定に保たれることが好ましく、それによって、任意の所与の力に対する力の伝達が任意の溝角度に対して同じか、または本質的に同じになることが確実となる。
【0040】
図6は、異なる幾何学的形状を有する中輪駆動車椅子で実施された多数の試験のプロットを示す。曲線C4は、0~25度の範囲の溝角度に対して、第2の揺動アーム5のてこアームXと第1の揺動アーム3のてこアームYとの間の比が2~3の間の範囲内にある幾何学的形状の一例を示す。曲線C4によって示される揺動アームリンク機構の幾何学的形状はさらに、前述の幾何学的形状を有し、合成角度は、0~25度の範囲の任意の溝角度に対して30度未満である。より具体的には、曲線C4によって表される
図5に示される試験で使用される揺動アームリンク機構が
図4の曲線C1によって表される試験で使用される揺動アームリンク機構と同じである。この場合も、試験に使用した他の揺動アームリンク機構よりも大きな溝角度に対して牽引力が与えられることが観察できる。
【0041】
図7は中輪駆動車椅子21、すなわち、前部キャスター車輪と後部キャスター車輪との間に配置された駆動輪の手段によって動力が供給される車椅子を示す。ここで、中輪駆動車椅子21は、座席システム23と、シャーシ9と、シャーシ9に取り付けられ、かつ前部キャスター車輪25および後部キャスター車輪27を備えた揺動アームリンク機構1とを有する。
【0042】
本発明の概念は、主に、いくつかの例を参照して上述されている。しかし、当業者には容易に理解されるように、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念の範囲内で、上記で開示されたもの以外の他の実施形態も同様に可能である。