(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20220105BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220105BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220105BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220105BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220105BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K31/55
A61K47/04
A61K9/08
A61K47/02
A61P27/02
A61P27/14
(21)【出願番号】P 2019198581
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018205215
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【氏名又は名称】秦野 正和
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝司
(72)【発明者】
【氏名】小川 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102535(JP,A)
【文献】特開2018-102534(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152155(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/088783(WO,A1)
【文献】特開2020-19767(JP,A)
【文献】特開2020-55799(JP,A)
【文献】特開2019-189607(JP,A)
【文献】特開2019-189606(JP,A)
【文献】杉尾嘉宏、石田成弘,エピナスチン塩酸塩点眼液の薬理作用と臨床成績,アレルギーの臨床,2016年,Vol.36, No.8,p. 43-51
【文献】抗アレルギー点眼剤 アレジオン(登録商標)点眼液0.05%,2017年,第5版,pages 1-4
【文献】アレルギー・免疫,2016年,Vol.23, No.10,pages 64-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)であ
り、リン酸又はその塩を含有しない、
pH4.0~7.5である、眼科用組成物
(但し、プラノプロフェンを含む眼科用組成物及びl-メントールを含む眼科用組成物を除く)。
【請求項2】
ほう酸又はその塩の濃度が、0.001~5%(w/v)である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
ほう酸又はその塩の濃度が、0.01~2%(w/v)である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
さらに等張化剤を含有する、請求項
1~3のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられる、請求項
1~5のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項7】
アレルギー性結膜炎を治療するための、請求項
1~6のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、請求項
1~7のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
ほう酸又はその塩、等張化剤及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)であり、リン酸又はその塩を含有しない、pH4.0~7.5である、眼科用組成物(但し、プラノプロフェンを含む眼科用組成物及びl-メントールを含む眼科用組成物を除く)。
【請求項10】
ほう酸又はその塩、塩化ナトリウム及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)であり、リン酸又はその塩を含有しない、pH4.0~7.5である、眼科用組成物(但し、プラノプロフェンを含む眼科用組成物及びl-メントールを含む眼科用組成物を除く)。
【請求項11】
ほう酸又はその塩、等張化剤、安定化剤、pH調節剤、水及びエピナスチン又はその塩のみを含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、眼科用組成物。
【請求項12】
ほう酸又はその塩、等張化剤、pH調節剤、水及びエピナスチン又はその塩のみを含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)であり、pH4.0~7.5である、眼科用組成物。
【請求項13】
ほう酸又はその塩が、ほう酸、ほう酸ナトリウム、ほう酸カリウム及びこれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~12のいずれか1項に記載の眼科用組成物。
【請求項14】
ほう酸又はその水和物、等張化剤、pH調節剤、水及びエピナスチン又はその塩のみを含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、眼科用組成物。
【請求項15】
ほう酸ナトリウム又はその水和物、等張化剤、pH調節剤、水及びエピナスチン又はその塩のみを含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほう酸又はその塩及びエピナスチン又はその塩を含有する、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物に関する。また、ほう酸又はその塩及びエピナスチン又はその塩を含有し、ほう酸又はその塩の濃度が0.01~2%(w/v)である、花粉破裂抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繰り返しの使用を想定した、水等の溶媒を含む眼科用組成物は、菌類等の繁殖を防止するために一定以上の防腐対策が要求される。そのため、そのような眼科用組成物には通常、防腐剤が配合されている。例えば、点眼液であれば、多くの場合、防腐剤として塩化ベンザルコニウムが使用される。塩化ベンザルコニウムは、水溶性であり、化学的に安定で、他の防腐剤と比較しても防腐効力が高い。しかし、塩化ベンザルコニウムは細胞障害性があり、また、ソフトコンタクトレンズに吸着することが知られている。塩化ベンザルコニウムがソフトコンタクトレンズに吸着するとソフトコンタクトレンズの変色や変形の原因になるだけではなく、角膜との接触時間が長くなることによって、角膜上皮障害を引き起こす可能性も増大する。そのため、防腐剤を含む点眼液は、ソフトコンタクトレンズ装用時には使用されていなかった。
【0003】
非特許文献1には、現在、アレルギー性結膜炎治療剤として日本で上市されている、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレジオン(登録商標)点眼液0.05%について記載されている。この点眼液はソフトコンタクトレンズ装用時においても点眼可能であることが知られているが、これは防腐剤として塩化ベンザルコニウムを使用していないことによってソフトコンタクトレンズの変質が起こらないためである。
【0004】
眼科用組成物に含まれる有効成分、添加物の種類及びこれらの含有量の組み合わせによっては、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を含有しない眼科用組成物であってもソフトコンタクトレンズの変質に影響を及ぼすことがあることは知られていない。さらに、エピナスチン又はその塩がソフトコンタクトレンズの変質を引き起こすこと、そして、ほう酸又はその塩が、その引き起こされたソフトコンタクトレンズの変質を抑制する効果を有することは知られていない。
【0005】
また、近年、アレルギー疾患について様々な検討がなされ、その発症機序について解明されつつある。例えば、非特許文献2および非特許文献3によると、スギ花粉によるアレルギー性結膜炎は、飛散した花粉粒子が結膜嚢内に侵入した後、涙液によって花粉外壁が破裂し、溶出したアレルゲンが結膜組織に移行して肥満細胞上の抗体へ結合することにより発症すると考えられている。涙液中では花粉外壁の破裂は起こりやすく、花粉外壁の破裂に影響を及ぼす因子には、pHや温度といった物理化学的な影響に加えて、涙液中の成分(リゾチームやタンパク質、様々な分解酵素など)による影響があることが示唆されている。また、種々の抗アレルギー点眼液においても、その種類によっては、従来の薬理作用の他にも花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。
【0006】
非特許文献4によると、点眼液に含まれる添加剤についても、花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性があり、例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は花粉外壁の破裂を促進する可能性が示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】アレジオン(登録商標)点眼液0.05%添付文書
【文献】アレルギー・免疫 2010,Vol.17,No.2,124-129
【文献】アレルギー・免疫 2011,Vol.18,No.2,82-87
【文献】アレルギー・免疫 2016,Vol.23,No.2,124-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ソフトコンタクトレンズの変質の抑制効果をもたらす、ソフトコンタクトレンズを装用したままであっても、安全に使用できるエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物を提供することは興味深い課題である。さらに、本発明は、特定の濃度のほう酸又はその塩と、エピナスチン又はその塩を含有する花粉破裂抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物について鋭意研究を行ったところ、エピナスチン又はその塩自体がソフトコンタクトレンズの変質を引き起こすこと、そして、エピナスチン又はその塩とほう酸又はその塩を含有させることによってソフトコンタクトレンズの変質を抑制できることを見出した。さらに、特定の濃度のほう酸又はその塩と、エピナスチン又はその塩を含有することによって、花粉の破裂が抑制され、アレルギー性疾患の治療効果に優れていることを見出し、本発明に至った。
【0010】
具体的に、本発明は以下を提供する。
(1)ほう酸又はその塩を含有する、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩を含有し、前記ソフトコンタクトレンズは最長1か月装用可能なソフトコンタクトレンズである、眼科用組成物。
(2)エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)以下である、(1)に記載の眼科用組成物。
(3)エピナスチン又はその塩の濃度が0.05%(w/v)である、(1)又は(2)に記載の眼科用組成物。
(4)ほう酸又はその塩の濃度が、0.01~2%(w/v)である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(5)塩化ベンザルコニウムを含有しない、(1)~(4)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(6)さらに緩衝剤を含有する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(7)さらに等張化剤を含有する、(1)~(6)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(8)さらに安定化剤を含有する、(1)~(7)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(9)安定化剤がエデト酸又はその塩である、(8)に記載の眼科用組成物。
(10)エデト酸又はその塩の濃度が、0.005~0.1%(w/v)である、(9)に記載の眼科用組成物。
(11)点眼剤である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(12)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられる、(1)~(11)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(13)ソフトコンタクトレンズ未装用の眼に点眼されるように用いられる、(1)~(11)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(14)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回~4回点眼されるように用いられる、(1)~(13)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(15)ソフトコンタクトレンズが、グループI、グループII、グループIII及びグループIVのいずれかに分類されるソフトコンタクトレンズである、(1)~(14)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(16)0.05~1%(w/v)の濃度のほう酸又はその塩、0.01~0.05%(w/v)の濃度のエデト酸又はその塩、及び等張化剤を含有する、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物であって、さらに0.05%~0.1(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩を含有し、前記ソフトコンタクトレンズは最長1か月装用可能なソフトコンタクトレンズである、眼科用組成物。
(17)ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物をソフトコンタクトレンズが装用された眼に投与することにより、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する方法。
(18)ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有し、前記ほう酸又はその塩の濃度が0.01~2%(w/v)である、花粉破裂抑制剤。
(19)エピナスチン又はその塩の濃度が0.05%(w/v)以上である、(18)に記載の花粉破裂抑制剤。
(20)エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、(18)に記載の花粉破裂抑制剤。
(21)塩化ベンザルコニウムを含有しない、(18)~(20)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(22)さらに緩衝剤を含有する、(18)~(21)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(23)さらに等張化剤を含有する、(18)~(22)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(24)さらにpH調節剤を含有する、(18)~(23)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(25)さらに安定化剤を含有する、(18)~(24)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(26)点眼用である、(18)~(25)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(27)ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられる、(18)~(26)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(28)ソフトコンタクトレンズ未装用の眼に点眼されるように用いられる、(18)~(26)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(29)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回~4回点眼されるように用いられる、(18)~(28)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(30)ほう酸又はその塩、エピナスチン又はその塩、及び等張化剤を含有し、前記ほう酸又はその塩の濃度が0.05~1%(w/v)であり、前記エピナスチン又はその塩の濃度が0.05%~0.1(w/v)である、花粉破裂抑制剤。
(31)エピナスチン又はその塩、及び0.01~2%(w/v)の濃度のほう酸又はその塩を含有する眼科用組成物を、花粉と接触させることを特徴とする、花粉の破裂を抑制する方法。
(32)ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)以下であり、ソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、眼科用組成物。
(33)エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、(32)に記載の眼科用組成物。
(34)エピナスチン又はその塩の濃度が0.05%(w/v)である、(32)に記載の眼科用組成物。
(35)ほう酸又はその塩の濃度が、0.01~2%(w/v)である、(32)~(34)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(36)塩化ベンザルコニウムを含有しない、(32)~(35)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(37)さらに緩衝剤を含有する、(32)~(36)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(38)さらに等張化剤を含有する、(32)~(37)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(39)さらに安定化剤を含有する、(32)~(38)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(40)安定化剤がエデト酸又はその塩である、(39)に記載の眼科用組成物。
(41)エデト酸又はその塩の濃度が、0.005~0.1%(w/v)である、(40)に記載の眼科用組成物。
(42)点眼剤である、(32)~(41)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(43)ソフトコンタクトレンズが、最長1か月装用可能なソフトコンタクトレンズである、(32)~(42)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(44)ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)以下である、眼科用組成物。
(45)エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、(44)に記載の眼科用組成物。
(46)エピナスチン又はその塩の濃度が0.05%(w/v)である、(44)に記載の眼科用組成物。
(47)ほう酸又はその塩の濃度が、0.01~2%(w/v)である、(44)~(46)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(48)塩化ベンザルコニウムを含有しない、(44)~(47)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(49)さらに緩衝剤を含有する、(44)~(48)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(50)さらに等張化剤を含有する、(44)~(49)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(51)さらに安定化剤を含有する、(44)~(50)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(52)安定化剤がエデト酸又はその塩である、(51)に記載の眼科用組成物。
(53)エデト酸又はその塩の濃度が、0.005~0.1%(w/v)である、(52)に記載の眼科用組成物。
(54)点眼剤である、(44)~(53)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(55)ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物であって、エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、眼科用組成物。
(56)ほう酸又はその塩の濃度が、0.01~2%(w/v)である、(55)に記載の眼科用組成物。
(57)緩衝剤としてほう酸又はその塩を含有する、(55)または(56)に記載の眼科用組成物。
(58)緩衝剤としてほう酸又はその塩のみを含有する、(55)~(57)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(59)塩化ベンザルコニウムを含有しない、(55)~(58)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(60)リン酸又はその塩を含有しない、(55)~(59)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(61)点眼剤である、(55)~(60)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(62)アレルギー性結膜炎を治療するための、(55)~(61)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(63)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、(55)~(62)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
なお、前記(1)から(63)の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【0011】
さらに、本発明は以下も提供する。
(64)治療が必要な患者に、治療上の有効量の(18)~(30)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤を投与することを特徴とする、アレルギー性疾患を治療および/または予防する方法。
(65)アレルギー性疾患の治療および/または予防に使用する、(18)~(30)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤。
(66)アレルギー性疾患を治療および/または予防するための医薬を製造するための、(18)~(30)のいずれか1つに記載の花粉破裂抑制剤の使用。
(67)アレルギー性疾患がアレルギー性結膜炎である、(64)に記載の方法、(65)に記載の花粉破裂抑制剤または(66)に記載の使用。
(68)治療が必要な患者に、治療上の有効量の(1)~(16)および(32)~(61)のいずれか1つに記載の眼科用組成物を投与することを特徴とする、アレルギー性疾患を治療および/または予防する方法。
(69)アレルギー性疾患の治療および/または予防に使用する、(1)~(16)および(32)~(61)のいずれか1つに記載の眼科用組成物。
(70)アレルギー性疾患を治療および/または予防するための医薬を製造するための、(1)~(16)および(32)~(61)のいずれか1つに記載の眼科用組成物の使用。
(71)アレルギー性疾患がアレルギー性結膜炎である、(68)に記載の方法、(69)に記載の眼科用組成物または(70)に記載の使用。
(72)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、(68)に記載の方法、(69)に記載の眼科用組成物または(70)に記載の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ソフトコンタクトレンズの変質の抑制効果をもたらす、ソフトコンタクトレンズを装用したままであっても、安全に使用できるエピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物を得ることができる。また、特定の濃度のほう酸又はその塩と、エピナスチン又はその塩を含有することによって、花粉破裂抑制剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「眼科用組成物」は、「花粉破裂抑制剤」と読み替えることもできる。
【0014】
本発明の眼科用組成物において、「エピナスチン」とは、化学名(±)-3-Amino-9,13b-dihydro-1H-dibenz[c,f]imidazo[1,5-a]azepineで表される化合物であり、また、下記式:
【化1】
で表される化合物である。
【0015】
本発明の眼科用組成物において、含有されるエピナスチンはラセミ体であってもよく、光学異性体であってもよい。
【0016】
本発明の眼科用組成物において、含有されるエピナスチンは塩であってもよく、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。塩としては例えば、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等との塩が挙げられる。
エピナスチンの塩としては、一塩酸塩(エピナスチン塩酸塩)が特に好ましい。
【0017】
本発明の眼科用組成物において、含有されるエピナスチン又はその塩は、水和物又は溶媒和物の形態をとってもよい。
【0018】
本発明の眼科用組成物において、有効成分であるエピナスチン又はその塩の含有量は、0.15%(w/v)未満が好ましく、0.1%(w/v)以下がより好ましい。例えば、その含有量は、0.1%(w/v)である。また、有効成分であるエピナスチン又はその塩の含有量は、濃度が低いと十分な薬効効果を得るために点眼量や点眼回数を増やさなければならないことから、その下限として0.05%(w/v)が好ましく、0.05%(w/v)以上がより好ましい。
なお、本発明において、「%(w/v)」は、本発明の眼科用組成物100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。本発明において、エピナスチンの塩が含有される場合、その値はエピナスチンの塩の含有量である。また、本発明において、エピナスチン又はその塩が水和物又は溶媒和物の形態をとって配合される場合、その値はエピナスチン又はその塩の、水和物又は溶媒和物の含有量である。以下、特に断りがない限り同様とする。
【0019】
本発明の眼科用組成物において、ほう酸又はその塩は、ソフトコンタクトレンズの変質の抑制に寄与するものであるが、医薬品の添加剤、例えば緩衝剤、防腐剤、安定化剤、pH調節剤等としての作用も有する。そのため、ほう酸又はその塩は、医薬品の添加剤として使用することができる。また、本発明において、ほう酸又はその塩は、エピナスチン又はその塩を含有する眼科用組成物に含有させることにより、薬効効果を高めることもできる。
【0020】
ほう酸又はその塩としては、ほう酸、ほう酸ナトリウム、ほう酸カリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよいが、好ましくは、ほう酸である。
【0021】
本発明の眼科用組成物において、ほう酸又はその塩の含有量は適宜調整することができ、0.001~5%(w/v)であればよく、0.01~2%(w/v)が好ましく、0.05~1%(w/v)がより好ましく、0.1~0.5%(w/v)がさらに好ましい。また、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)もさらに好ましい。
【0022】
本発明の眼科用組成物には、必要に応じて医薬品の添加剤をさらに用いることができる。具体的には、緩衝剤、等張化剤、粘稠化剤、界面活性化剤、安定化剤、抗酸化剤、防腐剤、pH調節剤等を加えることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、適量を配合することができる。
【0023】
本発明の眼科用組成物に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤は、医薬品の添加剤として使用可能な緩衝剤を適宜配合できる。緩衝剤として、例えば、トロメタモール、リン酸又はその塩、炭酸又はその塩あるいは有機酸又はその塩等が挙げられ、これらの水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0024】
リン酸又はその塩としては、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
【0025】
炭酸又はその塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
【0026】
有機酸又はその塩としては、クエン酸、酢酸、ε-アミノカプロン酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、アミノ酸類又はこれらのナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
【0027】
本発明の眼科用組成物に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤としては、リン酸又はその塩がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウムが特に好ましい。
本発明の眼科用組成物に緩衝剤を配合する場合、緩衝剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0028】
本発明の眼科用組成物に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましく、0.1~5%(w/v)がさらに好ましく、0.1~1%(w/v)が特に好ましい。
【0029】
本発明の眼科用組成物に等張化剤を配合する場合の等張化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な等張化剤を適宜配合することができる。等張化剤として、例えば、イオン性等張化剤や非イオン性等張化剤等が挙げられる。
【0030】
イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0031】
非イオン性等張化剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、スクロース、キシリトール等が挙げられる。
【0032】
本発明の眼科用組成物に等張化剤を配合する場合の等張化剤として、イオン性等張化剤がより好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。
本発明の眼科用組成物に等張化剤を配合する場合、等張化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0033】
本発明の眼科用組成物に等張化剤を配合する場合の等張化剤の含有量は、等張化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01%~5%(w/v)がより好ましく、0.1~3%(w/v)がさらに好ましく、0.5~2%(w/v)が特に好ましい。
【0034】
本発明の眼科用組成物に粘稠化剤を配合する場合の粘稠化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な粘稠化剤を適宜配合することができる。粘稠化剤として、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の眼科用組成物に粘稠化剤を配合する場合、粘稠化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0035】
本発明の眼科用組成物に粘稠化剤を配合する場合の粘稠化剤の含有量は、粘稠化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
【0036】
本発明の眼科用組成物に界面活性化剤を配合する場合の界面活性化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な界面活性化剤を適宜配合することができる。界面活性化剤として、例えば、カチオン性界面活性化剤、アニオン性界面活性化剤、非イオン性界面活性化剤等が挙げられる。
【0037】
カチオン性界面活性化剤としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、脂肪酸ポリアミン縮合物、アルキルイミダゾリン、1-アシルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシルエチル-2-アルキルイミダゾリン等が挙げられる。ただし、塩化ベンザルコニウムはカチオン性界面活性化剤の性質を有しているが、これには含まれない。
【0038】
アニオン性界面活性化剤としては、レシチン等のリン酸脂質等が挙げられる。
【0039】
非イオン性界面活性化剤としては、ステアリン酸ポリオキシル40等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油等のポリオキシルヒマシ油;ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル;トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGS)等が挙げられる。
本発明の眼科用組成物に界面活性化剤を配合する場合、界面活性化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0040】
本発明の眼科用組成物に界面活性化剤を配合する場合の界面活性化剤の含有量は、界面活性化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.01~1%(w/v)が好ましく、0.05~0.5%(w/v)がより好ましく、0.05%~0.2%(w/v)がさらに好ましい。
【0041】
本発明の眼科用組成物に安定化剤を配合する場合の安定化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な安定化剤を適宜配合することができる。安定剤として、例えば、エデト酸又はその塩等が挙げられる。
エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム等が挙げられる。
本発明の眼科用組成物に安定化剤を配合する場合、安定化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0042】
本発明の眼科用組成物に安定化剤を配合する場合の安定化剤の含有量は、安定化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~1%(w/v)が好ましく、0.005%~0.1%(w/v)がより好ましく、0.01~0.05%(w/v)がさらに好ましい。また、0.01%(w/v)、0.02%(w/v)、0.03%(w/v)、0.04%(w/v)、0.05%(w/v)もさらに好ましい。
【0043】
本発明の眼科用組成物に抗酸化剤を配合する場合の抗酸化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な抗酸化剤を適宜配合することができる。抗酸化剤として、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の眼科用組成物に抗酸化剤を配合する場合、抗酸化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
【0044】
本発明の眼科用組成物に抗酸化剤を配合する場合の抗酸化剤の含有量は、抗酸化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
【0045】
本発明の眼科用組成物に防腐剤を配合する場合の防腐剤は、医薬品の添加剤として使用可能な防腐剤を適宜配合することができる。
【0046】
本発明において、防腐剤としては、例えば、逆性石鹸類、パラベン類、アルコール類、および有機酸又はその塩が挙げられる。
【0047】
逆性石鹸類としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンである。
【0048】
パラベン類としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルである。
【0049】
アルコール類としては、例えば、クロロブタノールである。
【0050】
有機酸又はその塩としては、例えば、ソルビン酸又はその塩、デヒドロ酢酸ナトリウムであり、そのうちソルビン酸又はその塩としては、例えば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウムである。
【0051】
本発明の眼科用組成物に防腐剤を配合する場合の防腐剤の含有量は、防腐剤の種類などにより適宜調整することができる。防腐剤の含有量は、安全性に悪影響を及ぼさない程度の量があればよく、その上限は、例えば1%(w/v)であり、1%(w/v)以下が好ましく、0.5%(w/v)以下がより好ましく、0.1%(w/v)以下がさらに好ましく、0.01%(w/v)以下がさらにより好ましい。また、防腐作用が発揮できる量があればよく、その下限は、例えば0.0001%(w/v)であり、0.0001%(w/v)以上が好ましく、0.001%(w/v)以上がより好ましい。防腐剤の含有量としては、0.0001~1%(w/v)が好ましく、0.001~0.5%(w/v)がより好ましく、0.001~0.1%(w/v)がさらに好ましい。
【0052】
一般的に防腐剤はソフトコンタクトレンズの変質に影響を及ぼすことから、本発明の眼科用組成物は、ソフトコンタクトレンズが変質しない範囲で防腐剤を含有してもよいが、防腐剤を含有しないことがより好ましく、塩化ベンザルコニウムを含有しないことが特に好ましい。
【0053】
また、本発明の眼科用組成物には、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制するためにほう酸又はその塩が含有されており、ほう酸又はその塩は防腐剤としての作用も有することから、上記の防腐剤を含有しなくてもよい。
【0054】
本発明の眼科用組成物にpH調節剤を配合する場合のpH調節剤は、医薬品の添加剤として使用可能なpH調節剤を適宜配合することができるが、例えば、酸又は塩基であり、酸としては例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸等、塩基としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
本発明の眼科用組成物のpHは、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば4.0~8.5又は4.0~8.0の範囲内であり、6.0~8.0が好ましく、6.5~7.5がより好ましい。特に好ましいpHは、6.7~7.3であるが、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3もさらにより好ましい。
【0056】
本発明の眼科用組成物の浸透圧比は、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば0.5~2.0であり、0.7~1.6が好ましく、0.8~1.4がより好ましく、0.9~1.2がさらに好ましい。
【0057】
本発明の眼科用組成物は、コンタクトレンズ未装用の眼に使用することもできるが、ハードコンタクトレンズ装用時においても、ソフトコンタクトレンズ装用時においても使用することができる。
【0058】
ソフトコンタクトレンズは、平成11年3月31日医薬審第645号「ソフトコンタクトレンズ及びソフトコンタクトレンズ用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」に従い、4つに分類される。すなわち、グループI(含水率が50%未満で非イオン性であるもの)、グループII(含水率が50%以上で非イオン性であるもの)、グループIII(含水率が50%未満でイオン性であるもの)、グループIV(含水率が50%以上でイオン性であるもの)に分類され、原材料ポリマーの構成モノマーのうち陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であるものをイオン性、1%未満であるものを非イオン性とされる。また、ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、(ポリエチレングリコール)モノメタクリレート(PEGMA)、グリセロールメタクリレート(GMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、ビニルアルコール(VA)、N-ビニルピロリドン(NVP又はVP)、メタクリル酸(MAA)、フッ素系含有メタクリレート系化合物、ケイ素含有メタクリレート系化合物、シリコーンハイドロゲル、シクロアルキルメタクリレート等を主成分とするソフトコンタクトレンズ等が挙げられる。
【0059】
本発明におけるソフトコンタクトレンズは、上記のいずれの材質であってもよく、また、上記4つに分類されるソフトコンタクトレンズのいずれの種類であってもよく、イオン性又は非イオン性、含水性又は非含水性の別を問わない。
【0060】
ソフトコンタクトレンズは、その装用の仕方によって、終日装用する(朝起きて目に装用し、寝る前に外す)レンズと連続装用する(定められた期間内で就寝中も装用する)レンズとに分類されるが、本発明におけるソフトコンタクトレンズは、上記のいずれの分類のレンズであってもよい。
【0061】
ソフトコンタクトレンズは、その交換のサイクルによって、コンベンショナルレンズ、ディスポーザブル(使い捨て)レンズ、頻回交換レンズ、定期交換レンズに分類される。ディスポーザブルレンズは、一度、眼から外したコンタクトレンズは再装用しないレンズであり、1日使い捨てレンズ、1週間使い捨てレンズ等がある。頻回交換レンズは、毎日レンズを外す度にレンズケアを行って保存し、定められた期間内であれば再装用が可能なレンズであり、その交換の期限は通常1週間又は2週間までである。定期交換レンズは、頻回交換レンズと同様にレンズケアを行うことにより再装用が可能なレンズであり、その交換の期限は通常1か月又は3か月までである。本発明におけるソフトコンタクトレンズは、上記のいずれの分類のレンズであってもよい。本発明の眼科用組成物は、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制することから、1日使い捨てレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることも好ましいが、2日以上装用可能なディスポーザブルレンズ、頻回交換レンズ又は定期交換レンズが装用された眼に点眼されるように用いられることがより好ましく、また、1週間以上、2週間以上又は1か月装用可能なソフトコンタクトレンズが装用された眼に点眼されるように用いられることがより好ましい。
【0062】
本発明において、「ソフトコンタクトレンズの変質」とは、ソフトコンタクトレンズが変形、変色等をすることを指す。コンタクトレンズの変質の原因は、例えばエピナスチン又はその塩等の有効成分や、塩化ベンザルコニウム等の添加剤がソフトコンタクトレンズ表面に吸着すること等が挙げられる。
【0063】
本発明の眼科用組成物によってソフトコンタクトレンズの変質の有無を確認する方法としては、例えば、ソフトコンタクトレンズに直接滴下する方法、ソフトコンタクトレンズを浸漬する方法などが挙げられる。本発明の眼科用組成物とソフトコンタクトレンズとの接触時間の観点から、ソフトコンタクトレンズを浸漬する方法は、ソフトコンタクトレンズに直接滴下する方法に比べて、ソフトコンタクトレンズをより変質させる。ソフトコンタクトレンズを浸漬する場合、浸漬する時間は、例えば5分間又は10分間であるが、時間が長くなるほどソフトコンタクトレンズは変質しやすい。
【0064】
本発明の眼科用組成物において、その構成成分が全て溶解または一部懸濁していてもよいが、構成成分が全て溶解している液状がより好ましい。
【0065】
本発明の眼科用組成物は、特に断りのない限り、エピナスチン又はその塩以外の点眼剤に用いられる有効成分を含んでいてもよい。
【0066】
本発明の眼科用組成物は、エピナスチン又はその塩を含有することから、アレルギー性結膜炎およびその症状のあらゆる治療(例えば、改善、軽減、進行の抑制など)およびその予防に使用することができ、ソフトコンタクトレンズ装用眼に対してもソフトコンタクトレンズ未装用眼に対しても使用することができる。
【0067】
本発明の眼科用組成物は、眼科用製剤として用いることができ、その剤形は、医薬品として使用可能なものであれば特に制限されるものではない。剤形としては、例えば、点眼剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、経皮吸収型製剤、貼付剤、注射剤等が挙げられる。特に好ましくは点眼剤である。
【0068】
本発明の眼科用組成物は、適量を1日2回~4回に分けて投与することが好ましい。特に、眼科用組成物が点眼剤である場合には、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回~4回に分けて点眼することが好ましく、1眼あたり1滴を1回として1日2回~4回に分けて点眼することがさらに好ましい。なお、本発明の眼科用組成物を1日2回~4回に分けて点眼する場合には、その点眼間隔は少なくとも1時間以上がよく、2時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。1滴は、通常、約0.01~約0.1mLであり、約0.015~約0.07mLが好ましく、約0.02~約0.05mLがより好ましく、約0.03mLが特に好ましい。
【0069】
本発明の眼科用組成物を収容する容器は、マルチドーズ型容器、1回使い切りのユニットドーズ型容器またはPFMD(Preservative Free Multi Dose)容器のいずれであってもよい。なお、容器の素材に特に制限はなく、一般に汎用される点眼剤の容器であればよいが、好ましくは樹脂製容器であり、例えば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製、ポリエチレンテレフタレート(PET)製、ポリブチレンテレフタレート(PBT)製、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー製、ポリ塩化ビニル製、アクリル製、ポリスチレン製、ポリ環状オレフィンコポリマー製等の容器を用いることができる。また、樹脂製容器の材質が、例えばポリエチレンであれば、ポリエチレンはその密度によって分類され、低密度ポリエチレン(LDPE)製、中密度ポリエチレン(MDPE)製、高密度ポリエチレン(HDPE)製等の容器を用いることができる。
【0070】
本発明の眼科用組成物は、汎用される方法により調製することができる。例えば、蒸留水に各成分を溶解又は懸濁させ、浸透圧、pH等を所定の範囲に調整し、濾過滅菌又は加熱滅菌処理することにより調製することができる。
【0071】
本発明の眼科用組成物は、粘膜上に存在する花粉の破裂を抑制し、花粉によるアレルギー症状が生じるのを有効に抑制する効果を有することから、花粉破裂抑制剤として使用することができる。本発明の眼科用組成物を花粉破裂抑制剤として使用する場合、本発明の眼科用組成物は、アレルギー性疾患、特にアレルギー性結膜炎の治療剤として有用である。
【0072】
本発明において、「アレルギー性疾患」とは、花粉外壁の破裂によって外部からの抗原に対する免疫反応によって引き起こされる疾患またはその症状を指す。アレルギー性疾患の例として、アレルギー性結膜炎が挙げられるが、これだけに限定されるものではない。本発明において、アレルギー性疾患の治療とは、アレルギー性疾患又はその症状のあらゆる治療(例えば、治癒、改善、軽減、進行の抑制等)及びその予防を指す。また、アレルギー性疾患の再発の阻止も含まれる。
【0073】
本発明において、「患者」とは、ヒトのみに限らずその他の動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなども意味する。患者は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。本発明において、「治療上の有効量」とは、未治療対象と比べて、疾患およびその症状の治療効果をもたらす量、または疾患およびその症状の進行の遅延をもたらす量などを指す。
【実施例】
【0074】
以下に、製剤例および試験例を示すが、これらは本発明をより良く理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0075】
製剤例
以下に本発明の代表的な製剤例を示す。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤100mL中の含量である。
【0076】
製剤例1
エピナスチン塩酸塩 0.05g
ほう酸 0.05g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 1.0g
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0077】
製剤例2
エピナスチン塩酸塩 0.1g
ほう酸 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 0.3g
リン酸水素ナトリウム12水和物 1.0g
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0078】
製剤例3
エピナスチン塩酸塩 0.1g
ほう酸 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 0.3g
リン酸水素ナトリウム12水和物 1.0g
エデト酸ナトリウム 0.01g
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0079】
製剤例4
エピナスチン塩酸塩 0.1g
ほう酸 1.0g
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0080】
試験例
1.滴下によるソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験
(1)被験製剤の調製
含有するエピナスチン塩酸塩の濃度が0.1%(w/v)となるように、エピナスチン塩酸塩、リン酸塩、塩化ナトリウムを水に溶解し、pH調節剤(塩酸および/または水酸化ナトリウム)と水を加えて全量を10mLとし、濾過滅菌を行うことにより、組成物1の被験製剤(pH7.0)を調製した。また、エピナスチン塩酸塩の濃度を0.15%(w/v)にすること以外は、組成物1の被験製剤と同様の方法で、組成物2の被験製剤(pH7.0)を調製した。なお、組成物2の被験製剤中に含有されるリン酸塩及び塩化ナトリウムの量は、組成物1の被験製剤と同量である。
【0081】
(2)試験方法
ソフトコンタクトレンズの凸面に各被験製剤1滴を滴下し、ソフトコンタクトレンズ全体に行き渡らせた。余りを振り落とし、4分後に生理食塩水ですすいで洗浄した。これを1サイクルとして、7サイクル繰り返した。ソフトコンタクトレンズの直径およびベースカーブを測定し、直径変形量及びベースカーブ変形量が-0.20~+0.20の範囲を適合とした。なお、使用したソフトコンタクトレンズはグループIVに分類される2ウィークアキュビュー(登録商標)(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)である。
直径変形量及びベースカーブ変形量は以下の計算式より算出した。
直径変形量(mm)=(7サイクル後の直径)-(使用前の直径)
ベースカーブ変形量(mm)=(7サイクル後のベースカーブ)-(使用前のベースカーブ)
【0082】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表1に示す。
【表1】
【0083】
表1に示されるように、組成物1をソフトコンタクトレンズに繰り返し滴下しても、ソフトコンタクトレンズの変形は見られなかったが、組成物2については繰り返しの滴下によりソフトコンタクトレンズの変形が見られた。
【0084】
2.浸漬によるソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験
(1)被験製剤の調製
組成物1の調製方法と同様の方法にて、組成物3~8の被験製剤を調製した。各被験製剤中に含まれる各成分の濃度は、表2に示す通りである。なお、各被験製剤中に含有されるリン酸塩及び塩化ナトリウムの量は、各被験製剤間に差は無く同量含有される。
【表2】
【0085】
(2)試験方法
各被験製剤中にソフトコンタクトレンズを室温で10分間浸漬し、取り出した。ソフトコンタクトレンズの直径およびベースカーブを測定し、直径変形量及びベースカーブ変形量が-0.20~+0.20の範囲を適合とした。なお、使用したソフトコンタクトレンズはグループIVに分類される2ウィークアキュビュー(登録商標)(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)である。
直径変形量及びベースカーブ変形量は以下の計算式より算出した。
直径変形量(mm)=(浸漬後の直径)-(浸漬前の直径)
ベースカーブ変形量(mm)=(浸漬後のベースカーブ)-(浸漬前のベースカーブ)
【0086】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表3に示す。
【表3】
【0087】
表3に示されるように、ほう酸を含有しない組成物7、ほう酸を含有せずに塩化ベンザルコニウムを含有する組成物8については、被験製剤中に浸漬することによってソフトコンタクトレンズの変形が確認された。一方で、ほう酸を含有する組成物3~6については、被験製剤中に浸漬してもソフトコンタクトレンズの変形は見られなかった。
【0088】
以上の結果より、エピナスチン又はその塩、ほう酸又はその塩を含有する組成物に、ソフトコンタクトレンズの変形を抑制する作用があることが示唆された。
【0089】
3.花粉外壁の破裂抑制試験(1)
(1)被験製剤の調製
被験製剤として、上記の「2.浸漬によるソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験」で使用した組成物5~7の被験製剤を使用した。
【0090】
(2)試験方法
スギ花粉粒子を約3μLずつ採取し、96ウェルマイクロプレートに播種した。その後、各ウェルに被験製剤50μLを滴下し、直後に血球計算盤を用いて光学顕微鏡下でトータルの花粉数を計測した。さらに、経時的に滴下5分後および10分後に破裂した花粉数を同様に顕微鏡下で計測した。
花粉破裂率は以下の計算式より算出した。
花粉破裂率(%)=(滴下5分後または10分後までに破裂した花粉数)/(被験製剤滴下直後のトータル花粉数)×100
【0091】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表4に示す。
【表4】
【0092】
表4に示されるように、ほう酸を含有しない組成物7と比較して、ほう酸を含有する組成物5及び組成物6は花粉外壁の破裂を抑制する効果を示した。従って、エピナスチン又はその塩に、ほう酸又はその塩を含有させることによって、エピナスチン又はその塩が有する薬効作用を高める効果があることが示唆された。
【0093】
4.花粉外壁の破裂抑制試験(2)
(1)被験製剤の調製
組成物1の調製方法と同様の方法にて、組成物9~14の被験製剤を調製した。各被験製剤中に含まれる各成分の濃度は、表5に示す通りである。なお、各被験製剤中に含有されるリン酸塩及び塩化ナトリウムの量は、各被験製剤間に差は無く同量含有される。
【表5】
【0094】
(2)試験方法
前述の「3.花粉外壁の破裂抑制試験(1)」と同様の方法を用いて、花粉破裂率を算出した。
【0095】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表6に示す。
【表6】
【0096】
表6に示されるように、0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびほう酸又はその塩を含有する組成物は花粉外壁の破裂を抑制する効果を示した。
また、表4および表6より、0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびほう酸又はその塩を含有する組成物は、0.05%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびほう酸又はその塩を含有する組成物に比べて、花粉外壁の破裂を抑制することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ほう酸又はその塩及びエピナスチン又はその塩を含有する、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物を提供する。さらには、ほう酸又はその塩、及びエピナスチン又はその塩を含有し、ほう酸又はその塩の濃度が0.01~2%(w/v)である、花粉破裂抑制剤も提供する。