IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許6992037反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法
<>
  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法 図1A
  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法 図1B
  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法 図2
  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法 図3
  • 特許-反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止フィルムの反射光特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20220105BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220105BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220105BHJP
   C23C 14/56 20060101ALI20220105BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20220105BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20220105BHJP
   G01N 21/55 20140101ALI20220105BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B5/30
B32B7/023
C23C14/56 A
C23C14/54 F
G01N21/27 B
G01N21/55
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019216427
(22)【出願日】2019-11-29
(62)【分割の表示】P 2015157803の分割
【原出願日】2015-08-07
(65)【公開番号】P2020057005
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2019-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2014162761
(32)【優先日】2014-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2014263287
(32)【優先日】2014-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】金谷 実
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-082701(JP,A)
【文献】特開2005-263994(JP,A)
【文献】特開2002-122714(JP,A)
【文献】特開2014-118487(JP,A)
【文献】特開2008-209877(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0126921(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0008863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/115
G02B 5/30
B32B 7/023
C23C 14/56
C23C 14/54
G01N 21/27
G01N 21/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルムの第一の主面上に、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムの製造方法であって、
透明フィルムの第二の主面上に、接着層を介してフィルム基材が剥離可能に貼着された積層体を準備する積層体準備工程;
前記積層体の前記透明フィルムの第一の主面上に、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる反射防止層を形成する反射防止層形成工程;および
前記反射防止層を構成する薄膜の少なくとも1層を成膜後に、前記薄膜の形成面側から可視光を照射し、その反射光を検出するインライン検査工程、を有し、
前記フィルム基材と前記接着層との積層物は、可視光透過率が3%以下であり、
前記接着層は、ヘイズが50%以上の光散乱粘着剤層であり、
前記反射防止層形成工程および前記インライン検査工程は、前記積層体を一方向に搬送しながら、連続して実施されることを特徴とする、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記インライン検査工程において、前記反射防止層を構成する複数の薄膜の全てを成膜後に、前記薄膜の形成面側から可視光を照射し、その反射光を検出する、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記インライン検査工程における反射光の検出結果に応じて、前記反射防止層形成工程における薄膜の成膜条件が調整される、請求項1または2に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルム基材と前記接着層との積層物に、前記接着層側から光を入射した場合の可視光の裏面反射率が1.0%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記透明フィルムと前記フィルム基材との180°剥離試験における剥離力が2N/50mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記インライン検査工程後に、前記透明フィルムから前記フィルム基材が剥離される剥離工程をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記剥離工程後に、前記透明フィルムの第二の主面上に光学フィルム貼合される、請求項6に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記光学フィルムは、偏光子を含む光学フィルムである、請求項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
透明フィルムの一方の面に屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる反射防止層を備え、前記透明フィルムの第二の主面上にフィルム基材が接着層を介して剥離可能に貼着されており、
前記フィルム基材と前記接着層との積層物は、可視光の透過率が3%以下であり、
前記接着層は、ヘイズが50%以上の光散乱粘着剤層である、反射防止フィルム。
【請求項10】
透明フィルムの第一の主面上に、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムの反射光特性を測定する方法であって、
透明フィルムの第二の主面上に、フィルム基材が接着層を介して剥離可能に貼着された状態で、第一の主面側から照射された可視光の反射光の検出が行われ、
前記フィルム基材と前記接着層との積層物は、可視光透過率が3%以下であり、
前記接着層は、ヘイズが50%以上の光散乱粘着剤層であり、
前記反射光の検出は、前記反射防止フィルムを一方向に搬送しながら、連続して実施される、反射光特性の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム上に反射防止層を備える反射防止フィルムおよびその製造方法に関する。また、本発明は、反射防止フィルムの反射光特性をインラインで測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側表面には、外光の反射や像の映り込みによる画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが使用されている。反射防止フィルムは、透明フィルム上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
反射防止フィルムの一形態として、反射防止層付き偏光板が挙げられる。反射防止層付き偏光板は、偏光板の表面に反射防止フィルムを貼り合わせたり、偏光子の表面に保護フィルムとして反射防止フィルムを貼り合わせることにより形成される。また、偏光板上に反射防止層を形成することにより、反射防止層付き偏光板を形成する方法も知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8‐136730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射防止層は、薄膜の多重反射干渉を利用して、可視光の反射率を低減している。そのため、薄膜の屈折率や膜厚が変動すると、反射率や反射光色相等の反射光特性が変化する。反射防止層の形成において、薄膜の成膜条件を厳格に管理し一定に保った場合でも、原料の特性のバラツキや、成膜環境の経時的な変動等に起因して、薄膜の膜厚や屈折率等がわずかに変動する。このようなわずかな変動が反射光特性に与える影響は小さい。そのため、一般には、一定の条件で成膜を行い、成膜後にオフラインで、分光光度計等の検査装置や目視で反射光特性を確認することにより、反射防止フィルムの品質管理が行われている。
【0006】
近年、ディスプレイの高精細化が進むにつれて、反射防止フィルムに対する要求特性が高まっており、より反射率が低く、かつ反射光の色付きの少ない反射防止フィルムが求められている。また、反射光の色相を調整することにより、パネルからの出射光をニュートラル化する試みもなされている。例えば、パネルからの出射光が黄色みを帯びている場合、反射光が青みを帯びた反射防止フィルムを用いることにより、ニュートラル化が行われる。
【0007】
このような要求特性の高まりに伴って、反射防止フィルムの反射光特性をより厳密に管理することが求められるようになっている。そのため、製造条件のわずかな変動に起因する反射光特性の変化により、反射防止フィルムが品質規格を外れる場合が生じている。したがって、反射防止フィルムの製造工程において、成膜条件をより厳密に制御して、薄膜の屈折率や膜厚の変動を抑制し、反射光特性を一定に保持する必要がある。
【0008】
フィルム製造では、製造工程中でインライン測定を行い、その測定結果を前工程にフィードバックすることにより、フィルムの品質を一定に保持することが行われている。しかしながら、反射防止層を構成する薄膜の膜厚は数nm~数十nmであり、その膜厚を直接測定することは容易ではない。特に、複数の薄膜の積層体における各薄膜の膜厚を測定することは極めて困難である。また、フィルム製造では、製造開始(ラインスタート)時や工程の途中で製品を切り出し、切り出した製品をオフラインで検査して、その結果を製造工程にフィードバックすることも行われている。しかし、反射防止層等の薄膜は、スパッタ、真空蒸着、CVD等の真空プロセスにより成膜されるため、ラインスタート時や工程の途中で製品をサンプリングすることはできない。
【0009】
反射防止フィルムの製造工程におけるインライン検査として、インラインで反射光特性を測定し、その測定結果を薄膜の成膜条件にフィードバックすることが考えられる。しかし、反射防止フィルムのインラインでの反射光特性の測定においては、裏面反射による影響が問題となる。
【0010】
一般に、反射防止フィルムは、反射防止層形成面の可視光反射率が1%以下となるように設計されるのに対して、透明フィルムの裏面側(透明フィルムと空気との界面)での可視光反射率は4%程度である。反射防止層を形成後のオフライン検査では、裏面反射の影響を排除して、表面側の反射光特性を測定することは比較的容易である。一方、反射防止フィルムのインライン検査では、空気中、あるいは真空中を走行中のフィルムに光を照射して測定を行うため、裏面反射を排除することは容易ではない。裏面反射を伴う場合、インライン検査で検出される反射光の大半は裏面からの反射光であり、反射防止層形成面からの反射光の特性(反射色相等)が変化しても、検出される反射光はほとんど変化しない。そのため、インラインで反射防止層形成面側からの反射光特性を正確に測定することは容易ではない。
【0011】
上記特許文献1では、偏光板の表面に反射防止層を形成する際に、偏光板の反射防止層形成面側に偏光子(検光子)を配置して反射率を測定する方法が提案されている。反射防止層付き偏光板と検光子とを、両者の吸収軸方向が直交するように配置すれば、反射防止層付き偏光板の裏面側での反射光は検光子で吸収されるため、裏面反射の影響を排除して表面側の反射光特性を測定できる。
【0012】
しかしながら、この方法は、偏光板上に反射防止層を形成する場合以外には適用できない。偏光板は偏光子の両面に透明フィルムが積層された構成であり、透明フィルム単体に比べて高価である。そのため、偏光板上に反射防止層を形成する方法では、反射防止層の形成初期(インライン反射光検出による成膜条件の制御開始前)等に規格外部分が生じた場合の、工程ロスによる製造コストの増大が顕著となりやすい。また、反射防止層の成膜環境に起因して偏光板の特性が低下する場合がある。例えば、偏光板がスパッタ成膜装置に導入されると、偏光子が高温環境や高出力のプラズマに曝されることにより、劣化する虞がある。
【0013】
そのため、生産性向上やコストダウンの観点から、偏光子を含まない透明フィルム上への反射防止層の形成において、裏面反射の影響を排除して、反射光特性を正確に測定する方法が求められている。本発明は、透明フィルム上への反射防止層の形成工程においてインラインで反射光特性の変化をより正確に検出すること、およびその検出結果を成膜条件に反映させることにより、均一性に優れる反射防止フィルムを得ることを目的とする。また、本発明は、反射防止フィルムの反射光特性をインラインで測定する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記に鑑み検討の結果、透明フィルムの裏面側に光吸収性のフィルム基材が接着層を介して剥離可能に貼着された積層体を用いることにより、裏面反射が低減され、反射防止層の屈折率や膜厚等のわずかな変動に起因する反射光特性の変化を検出可能であることが見出された。
【0015】
本発明の反射防止フィルムの一形態は、透明フィルムの一方の面に反射防止層を備え、他方の面にフィルム基材が接着層を介して剥離可能に貼着された、フィルム基材付き反射防止フィルムである。
【0016】
フィルム基材付き反射防止フィルムは、透明フィルムの第二の主面上に、フィルム基材が接着層を介して剥離可能に貼着された積層体を準備し(積層体準備工程)、この積層体の透明フィルムの第一の主面上に、2層以上の薄膜からなる反射防止層を形成すること(反射防止層形成工程)により得られる。反射防止層の形成において、薄膜の少なくとも1層を成膜後に、積層体の第一の主面側から可視光を照射し、その反射光がインラインで検出される(インライン検査工程)。反射防止層の形成およびインライン検査は、積層体を一方向に搬送しながら連続して実施される。インライン検査における反射光の検出結果に応じて、薄膜の成膜条件が調整されることが好ましい。これにより、反射防止フィルムの反射光特性を均一に保ち、品質の安定性を高めることができる。
【0017】
フィルム基材と接着層との積層物は、可視光透過率が3%以下であることが好ましい。フィルム基材と接着層との積層物に、接着層側から光を入射した場合の可視光の裏面反射率は、1.0%以下であることが好ましい。フィルム基材として光吸収性のフィルムを用いることにより、裏面反射率を小さくできる。フィルム基材として、離型層を備えるものが用いられてもよい。離型層を備えるフィルム基材が用いられる場合、離型層形成面が接着層に貼着される。フィルム基材において、離型層の屈折率nと離型層直下の層の屈折率nとの差n-nは、-0.25~0.25であることが好ましい。透明フィルムとフィルム基材とを仮着するための接着層として、光散乱性の粘着剤を用いることによっても、裏面反射を低減できる。
【0018】
透明フィルム上に反射防止層を形成後、フィルム基材は剥離除去される(剥離工程)。その後、透明フィルムの第二の主面上に、偏光板等の他の光学フィルムが貼合され、反射防止フィルムが実用に供される。
【発明の効果】
【0019】
裏面反射が低減された積層体上に反射防止層を形成することにより、インライン検査における反射光の検出精度や検出の再現性が高められる。また、インラインでの反射光の検出結果を薄膜の成膜条件にフィードバックすることにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】フィルム基材付き反射防止フィルムの一形態を模式的に示す断面図である。
図1B】フィルム基材の層構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】反射防止層の成膜装置の構成例を示す概念図である。
図3】(A)は反射防止フィルムの形成に用いられる積層体の構成例を模式的に示す断面図であり、(B)は積層体上に反射防止層が形成されたフィルム基材付き反射防止フィルムの構成例を模式的に示す断面図である。(C1)および(C2)はフィルム基材を剥離後の反射防止フィルムの構成例を模式的に示す断面図である。(D1)および(D2)は、他のフィルムが貼り合わせられた反射防止フィルムの構成例を模式的に示す断面図である。
図4】(A)および(B)は、反射防止層付き偏光板の構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[反射防止フィルムの構成]
図1Aは、一実施形態にかかる反射防止フィルムの構成を模式的に示す断面図である。図1Aの反射防止フィルム101は、透明フィルム10の第一の主面上に反射防止層50を備える。透明フィルム10の第二の主面上には、フィルム基材20が接着層30を介して剥離可能に貼着されている。反射防止層は、2層以上の薄膜の積層体である。図1Aでは、4層の薄膜51,52,53,54の積層体からなる反射防止層50が図示されている。
【0022】
(透明フィルム)
透明フィルム10としては、可撓性の透明フィルムが用いられる。透明フィルム10は、フィルム表面(反射防止層形成面)に、ハードコート層や易接着層等の機能層(不図示)を有していてもよい。ハードコート層は、フィルムの表面に、アクリル系、シリコーン系等の適宜な紫外線硬化型樹脂の硬化被膜を形成する方法等により設けることができる。
【0023】
透明フィルムの可視光透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明フィルム10の厚みは特に限定されないが、10μm~300μm程度の範囲が好適である。
【0024】
透明フィルムを構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類;ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー;ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリノルボルネン等の環状ポリオレフィン;ポリカーボネート等が挙げられる。
【0025】
透明フィルムの表面には、密着性向上等の目的で、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理が行われてもよい。
【0026】
(フィルム基材)
反射防止フィルムの製造においては、透明フィルム10の第二の主面(反射防止層50非形成面)側に、フィルム基材20が接着層30を介して剥離可能に貼着された積層体40が用いられる。本発明においては、フィルム基材20を、透明フィルム10と貼り合わせることにより、透明フィルム側から光を入射した際の裏面反射を低減できる。
【0027】
フィルム基材と接着層との積層物に、接着層側から光を入射した場合の可視光の裏面反射率は、1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.3%以下であることが特に好ましい。なお、可視光反射率は、JIS R3106:1998に準じて測定される。フィルム基材20としては、光吸収性フィルムや、表面に微細な凹凸を有する光散乱フィルム等が好ましく用いられる。裏面反射をより低減するために、フィルム基材20としては、光吸収性フィルムが好ましく用いられる。
【0028】
フィルム基材20と接着層30との積層物の可視光透過率は、40%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。接着層30として透明材料が用いられる場合は、フィルム基材20の可視光透過率が40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
フィルム基材と接着層との積層体の可視光透過率をT(%)、フィルム基材の屈折率をnとすると、接着層側から光を入射した場合の裏面反射率(フィルム基材の空気界面で反射して粘着層から再出射する光の割合)は、以下のように計算できる。
裏面反射率(%)=(T/100)×(n-1)/(n+1)
【0030】
可視光透過率Tが40%以下であれば、フィルム基材と空気との界面での屈折率差による反射が6%程度の場合(フィルム基材の屈折率が1.6程度の場合)でも、透明フィルム側からの入射光に対する裏面反射率が、1%以下となる。
【0031】
フィルム基材20の材料は、ポリエステル類、セルロース系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、アミド系ポリマー、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート等が用いられる。これらの樹脂材料にカーボンブラック等の黒色顔料を添加したり、ベースフィルムの表面に黒色インク等による着色層を設けることにより、光吸収性のフィルム基材が得られる。着色層は、ベースフィルムの一方の面にのみ設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。フィルム基材20として、着色層を備える光吸収性フィルムが用いられる場合、透明フィルム10側の界面での光反射を抑制する観点から、少なくともベースフィルムの透明フィルム10側の面に着色層が設けられていることが好ましい。着色層の厚さは、例えば、0.5μm~10μm程度である。
【0032】
図3(C1)、図3(C2)に示すように、反射防止フィルムの実用に際して、フィルム基材20は剥離除去される。すなわち、フィルム基材20は、最終製品には含まれない工程材である。そのため、フィルム基材はできる限り安価であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等の汎用フィルムが好ましく用いられる。フィルム基材20の厚みは特に制限されない。フィルム基材の厚みが小さければ、積層体40上に反射防止層50を形成する際の、連続成膜長を長くすることができ、反射防止フィルムの生産性を向上できる。そのため、成膜性やハンドリング性を損なわない範囲で、フィルム基材20の厚みは、可能な限り小さいことが好ましい。フィルム基材の厚みは、5μm~200μmが好ましく、10μm~130μmがより好ましく、15μm~110μmがさらに好ましい。
【0033】
図1Bは、フィルム基材20の層構成の一例を模式的に示す断面図である。図1Bに示すフィルム基材20は、ベースフィルム25上に離型層21を備える。離型層21は、例えば、ベースフィルム25の表面に離型剤を塗布することにより形成できる。離型剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、脂肪酸アミド系等の離型材料や、シリカ粉等を含有する溶液が用いられる。離型層を備えるフィルム基材が用いられる場合、接着層30との貼着面に離型層21が配置されることが好ましい。接着層との貼着面に離型層が存在することにより、透明フィルム10とフィルム基材20との接着力が小さくなるため、反射防止層を形成後の反射防止フィルムからのフィルム基材の剥離除去を容易に行い得る。
【0034】
フィルム基材20の離型層21とその直下の層との屈折率差は小さい方が好ましい。具体的には、離型層21の屈折率nと離型層直下の層の屈折率nとの差n-nは、-0.3~0.25が好ましく、-0.25~0.25がより好ましく、-0.25~0.15がさらに好ましく、-0.25~0.1が特に好ましい。屈折率は波長590nmにおける値である。離型層直下の層とは、離型層21に隣接する層である。ベースフィルム25上に直接離型層21が形成されている場合は、ベースフィルム25が離型層直下の層に該当する。ベースフィルムと離型層との間に、着色層やオリゴマー封止層等が設けられている場合は、これらの層の中で離型層に隣接する層が離型層直下の層に該当する。
【0035】
例えば、PETベースフィルム上に直接離型層が設けられている場合(PETベースフィルムが離型層の直下の層である場合)、離型層の屈折率は、1.35~1.8が好ましく、1.4~1.75がより好ましい。
【0036】
反射防止フィルムとフィルム基材との積層体に反射防止層側から光を入射した際のフィルム基材に関連する反射光は、主にフィルム基材の裏面側(空気界面)での屈折率差に起因する反射光であるが、離型層とその直下の層(ベースフィルム等)との界面での屈折率差に起因する反射光も、反射率の測定に影響を与える場合がある。この界面での屈折率差n-nを上記範囲とすることにより、フィルム基材の反射率をさらに低減できる。
【0037】
また、フィルム基材20と、後述の接着層30との界面での屈折率差を小さくして、この界面での反射光を低減すれば、接着層側からの入射光に対する反射光をさらに低減できる。これらの界面での屈折率差を小さくするためには、離型層21の屈折率nは、その直下の層の屈折率nと、接着層30の屈折率nの中間の値であることが好ましい。すなわち、n<n<n、またはn<n<nであることが好ましい。
【0038】
(接着層)
透明フィルム10とフィルム基材20とは、接着層30を介して貼り合わせられる。接着層30の材料は特に限定されないが、フィルム基材20を剥離可能に貼着するために、粘着剤が好ましく用いられる。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シーコーン系粘着剤等を使用することができる。中でも、アクリル系ポリマーを主成分とするアクリル系粘着剤が好適に用いられる。
【0039】
接着層30は、透明でも不透明でもよい。フィルム基材20として光吸収性のフィルムを用い、かつ光吸収性の接着層30を用いれば、フィルム基材20と接着層30との積層物の可視光透過率を低下させ、裏面反射をさらに低減できる。一方、図3(D1)に示すように、反射防止フィルムからフィルム基材20を剥離後、他のフィルム71との貼り合わせに接着層30を用いる場合は、光透過性の接着層を用いることが好ましい。光透過性の接着層は、可視光透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
接着層30は、光散乱性を有していてもよい。接着層に光散乱性を持たせることにより、透明フィルム10を透過した光を接着層で散乱させ、裏面反射をさらに低減できる。光散乱性を有する接着層としては、例えば、粘着剤中に粒子を分散させた光散乱粘着剤が挙げられる。接着層が光散乱粘着剤である場合、光散乱粘着剤のヘイズが大きいほど裏面反射が低減される傾向がある。そのため、光散乱粘着剤層のヘイズは、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0041】
光散乱粘着剤に含まれる粒子としては、例えば、無機微粒子や高分子微粒子等が挙げられる。上記粒子は、好ましくはポリマー微粒子である。ポリマー微粒子の材質としては、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、粘着剤に対する分散性に優れ、アクリル系粘着剤等粘着剤との適切な屈折率差を有するため、拡散性能に優れた光散乱粘着剤層が得られる。粒子の形状は、特に限定されず、例えば、真球状、扁平状、不定形状等が挙げられる。粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0042】
上記粒子の体積平均粒径は、好ましくは1μm~10μmであり、より好ましくは1.5μm~5μmである。体積平均粒径を上記範囲にすることにより、優れた光散乱性能を付与できる。体積平均粒径は、例えば、超遠心式自動粒度分布測定装置を用いて測定することができる。光散乱粘着剤層中の上記粒子の含有量は、好ましくは0.3重量%~50重量%であり、より好ましくは3重量%~48重量%である。粒子の配合量を上記の範囲にすることにより、優れた光散乱性能を有する光散乱粘着剤層が得られる。
【0043】
(反射防止層)
透明フィルム10の第二の主面上に接着層30を介してフィルム基材20が貼着された積層体40の第一の主面上に反射防止層50が形成される。反射防止層50は、2層以上の薄膜からなる。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0044】
反射防止層50を構成する薄膜の材料としては、金属の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。例えば、屈折率1.35~1.55程度の低屈折率材料として、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム等、屈折率1.80~2.40程度の高屈折材料として、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。また、低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.50~1.85程度の中屈折率層として、例えば、酸化チタンや、上記低屈折率材料と高屈折材料の混合物(酸化チタンと酸化ケイ素との混合物等)からなる薄膜を形成してもよい。
【0045】
反射防止層50の積層構成としては、透明フィルム10側から、光学膜厚240nm~260nm程度の高屈折率層と、光学膜厚120nm~140nm程度の低屈折率層との2層構成;光学膜厚170nm~180nm程度の中屈折率層と、光学膜厚60nm~70nm程度の高屈折率層と、光学膜厚135nm~145nm程度の低屈折率層との3層構成;光学膜厚25nm~55nm程度の高屈折率層と、光学膜厚35nm~55nm程度の低屈折率層と、光学膜厚80nm~240nm程度の高屈折率層と、光学膜厚120nm~150nm程度の低屈折率層との4層構成;光学膜厚15nm~30nm程度の低屈折率層と、光学膜厚20nm~40nm程度の高屈折率層と、光学膜厚20nm~40nm程度の低屈折率層と、光学膜厚240nm~290nm程度の高屈折率層と、光学膜厚100nm~200nm程度の低屈折率層との5層構成等が挙げられる。反射防止層を構成する薄膜の屈折率や膜厚の範囲は上記例示に限定されない。また、反射防止層50は、6層以上の薄膜の積層体でもよい。
【0046】
[反射防止層の形成方法]
反射防止層を構成する薄膜の成膜方法は特に限定されず、ウェットコーティング法、ドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚の均一な薄膜を形成し得ること、およびナノメートルレベルの薄膜の膜厚の調整が容易であることから、真空蒸着、CVD,スパッタ、電子線蒸等のドライコーティング法が好ましく、中でもスパッタおよび電子線蒸着が好ましい。
【0047】
反射防止層の形成は、積層体40を一方向に搬送しながら連続して実施される。例えば、反射防止層がスパッタにより形成される場合、巻取式スパッタ装置を用いて連続成膜が行われる。
【0048】
反射防止層を構成する薄膜の少なくとも1層を成膜後に、積層体40の第一の主面側(薄膜形成面側)から可視光が照射され、その反射光を検出することによりインライン検査が実施される。このインライン検査の結果を記録することにより、反射防止フィルムと他の光学フィルムとの貼り合わせや、画像表示装置形成等の工程を効率化できる。例えば、インライン検査で規格外と判定された部分が次工程に供給されないようにすれば、最終製品の歩留まり向上や、リワーク頻度の低減が図られる。また、インラインでの反射光の検出結果に基づいて、薄膜の成膜条件を調整することにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。
【0049】
以下では、透明フィルム10上に、4層の薄膜51,52,53,54からなる反射防止層50をスパッタ法により形成する場合を例として、インラインでの反射光の検出結果を成膜条件に反映させながら、反射防止フィルムを製造する方法について説明する。
【0050】
図2は、インラインでの反射光の検出結果を反射防止層の成膜条件に反映させるための成膜装置の構成例を示す概念図である。図2の成膜装置は、2つの成膜ロール281,282を備える。各成膜ロール281,282の周方向に沿って、隔壁で区切られた複数の成膜室210,220,230,240が設けられている。各成膜室内にはカソードが設けられており、それぞれのカソード214,224,234,244は、電源216,226,236,246に接続されている。カソード214,224,234,244上には、成膜ロール281,282に対面するように、ターゲット213,223,233,243が配置されている。各成膜室210,220,230,240には、ガス導入管が接続されており、ガス導入管の上流には、バルブ219,229,239,249が設けられている。
【0051】
準備室250内の巻出しロール251には、透明フィルム10とフィルム基材20との積層体40の巻回体がセットされている。巻出しロールから巻出された積層体40は、第一成膜ロール281上に搬送され、第一成膜室210、第二成膜室220へと順に導かれる。第一成膜室210で、透明フィルム10の第一の主面上に薄膜51が成膜され、第二成膜室220で、薄膜51上に薄膜52が成膜される。薄膜51,52が形成された積層体45は、第二成膜ロール282上に搬送され、第三成膜室230および第四成膜室240で、薄膜53および薄膜54が順次成膜される。積層体40の透明フィルム10上に4層の薄膜からなる反射防止層50が形成された反射防止フィルム101は、巻取室260へ導かれ、巻取りロール261で巻取られ、反射防止フィルムの巻回体が得られる。
【0052】
巻取室260内には、反射防止フィルム101の反射防止層50形成面と対面するように、光照射部291と光検出部293が配置されている。光照射部から照射される光は、可視光を含んでいれば、白色光でもよく、単色光でもよい。光照射は、連続的でも断続的でもよい。光照射部291から、反射防止フィルム101へ照射された光の反射光が、光検出部293で検出される。光検出部293で検出された反射光は、受光素子により電気信号に変換され、必要に応じて演算部273で演算が行われる。演算部では、検出された反射光のスペクトルの算出や、特定の表色系(例えば、XYZ表色系、L表色系、Yab表色系)への変換等が行われる。
【0053】
さらに、演算部273では、検出された反射光の反射特性と、目的とする反射光特性との差異の判定が行われ、差異が閾値を超えた場合に、薄膜の成膜条件を変更するように、制御部に信号を送信する。制御部275は、反射光の特性(反射率や色相等)が所定の範囲内となるように、薄膜の成膜条件の調整を行う。
【0054】
調整の対象となる成膜条件としては、成膜室内へのガス導入量、フィルムの搬送速度、投入電力量等が挙げられる。例えば、図2に示す成膜装置では、制御部275が、巻出しロール251、巻取りロール261、および成膜ロール281,282の回転速度、電源216,226,236,246の投入電力量、ならびにガス導入管のバルブ219,229,239,249の開度を調整することにより、各成膜室内での薄膜の成膜条件を調整できる。反射光の特性の変化は、主に薄膜の膜厚の変動に起因する。したがって、薄膜の膜厚が設定値に近づくように、薄膜の成膜条件の調整が行われることが好ましい。成膜条件の調整は、例えばPID制御により実行される。また、薄膜の組成を変更するように製造条件を調整して、屈折率を変化させることもできる。例えば、反応性スパッタにおいて、成膜室内に導入される酸素量を変化させることにより、金属酸化物中の酸素含有量が変化し、これに伴って薄膜の屈折率が変化する。
【0055】
目的とする反射光特性との差異の判定を行うためには、基準となる反射光特性を予め定めておく必要がある。基準となる反射光特性は、製品の規格等により適宜に定められる。一例として、製品の規格範囲の中央を基準とする方法や、各層の設定膜厚および屈折率から光学計算により算出される反射光スペクトルを基準とする方法(後述の実施例参照)が挙げられる。また、オフラインで測定した製品の反射光スペクトルを基準としてもよい。
【0056】
光学計算やオフラインでの、反射光の基準スペクトルの算出または測定は、裏面反射を排除した状態で実施することが好ましい。裏面反射を排除して基準を定めることにより、目的とする反射光特性を製品の規格と合致させることができ、基準値とインライン測定結果との差異を正確に評価することが可能となる。
【0057】
積層体40の透明フィルム10上に反射防止層50を構成する全ての薄膜を形成後の反射防止フィルム101は、Yab表色系における輝度Yが、0.5%以下であることが好ましい。なお、Yab表式系におけるY値は、XYZ表式系におけるY値と同一である。本発明においては、光吸収性のフィルム基材20を用いて、裏面反射を低減することにより、反射光のY値を小さくできる。反射Y値を小さくすることにより、基準スペクトルとインライン測定値との差を感度よく検出でき、色相の相違の検出感度も向上する傾向がある。
【0058】
裏面反射が大きく検出感度が鈍い場合、製品を安定的に規格内に収めるためには、インライン測定値と真値との間に生じ得る差を勘案して、安全をみてインライン測定値の管理幅を狭くする必要がある。そのため、製造条件の管理幅が狭くなり、薄膜の成膜条件の調整が困難となる場合がある。また、インライン測定の管理幅が狭いことに起因して、本来は規格内である製品が、規格外と判断される場合が増加し、製品の歩留まりが低下する傾向がある。
【0059】
一方、本発明によれば、裏面反射を抑制することにより、基準値とインライン測定値との差の検出感度が高められ、製造工程における管理幅を広げることができる。そのため、インライン測定結果に基づく工程の管理が容易となることに加えて、製品の歩留まりを向上できる。
【0060】
また、裏面反射を抑制して、反射Y値を小さくすることにより、基準スペクトルとの色度の差が小さくなる傾向がある。そのため、インラインでの色相の管理も容易となる。積層体40の透明フィルム10上に反射防止層50を構成する全ての薄膜を形成後の反射防止フィルム101の反射光と、裏面反射を排除した反射防止フィルムの基準スペクトルとの色度差Δabは、7.5以下であることが好ましい。なお、色度差ΔabはYab表色系のab色度図上の距離であり、基準スペクトルの色度aおよびb、ならびに測定対象の色度aおよびbから、下記式により算出される。
Δab={(a-a+(b-b1/2
【0061】
以上、全ての薄膜51,52,53,54を成膜後に、反射光のインライン検出が行われる形態について説明したが、反射光のインライン検出は、少なくとも1層の薄膜を形成後であれば、いずれの段階で行われてもよい。例えば、第一成膜ロール281上で薄膜51,52を形成後、積層体45が第二成膜ロール282上に導かれる迄の間に、光照射部297から、積層体45へ照射された光の反射光を、光検出部299で検出することにより反射光のインライン検出が行われてもよい。また、2箇所以上で反射光のインライン検出が行われてもよい。例えば、図2に示す形態において、2層の薄膜51,52を形成後に光検出部299で積層体45からの反射光の検出が行われ、さらにその上に2層の薄膜53,54を形成後に光検出部293で反射防止フィルム101からの反射光の検出が行われてもよい。このように2箇所以上でインライン測定を行えば、成膜条件を調整するべき成膜室の判定が容易となり、より緻密な制御が可能となる。さらには、幅方向の複数個所でインライン検出を行い、幅方向の反射光特性が均一となるように、成膜条件の調整が行われてもよい。例えば、幅方向でガス導入量を変化させることにより、幅方向の成膜条件の調整を行い得る。
【0062】
図2では、反射防止層50が4層の薄膜からなる例が図示されているが、前述のごとく反射防止層を構成する薄膜の数は、2層以上であれば特に限定されない。また、薄膜の数に応じて、適宜の成膜装置を利用できる。1つの成膜ロールの周囲に設けられる成膜室の数は1つでもよく、3つ以上でもよい。成膜ロールの数は、1つでもよく、3つ以上でもよい。
【0063】
前述のごとく、薄膜の形成方法はスパッタ法に限定されず、各種のドライコーティング法や、ウェットコーティング法が採用されてもよい。スパッタ以外の方法により薄膜が形成される場合も、反射光のインライン検出結果に基づいて、薄膜の形成条件を調整することにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。
【0064】
透明フィルムの第一の主面上に反射防止層が形成された反射防止フィルムに光を照射した場合、反射光の大半は第二の主面側での裏面反射によるものであり、第一の主面側(反射防止層形成面)での反射光を正確に検出することは困難である。これに対して、透明フィルム10の第二の主面側に光吸収性のフィルム基材20を貼着することにより、裏面反射が抑制される。この形態では、光検出部293で検出される反射光のほとんどが、第一の主面側(反射防止層形成面側)からの反射光であるため、第一の主面側からの反射光特性のわずかな変化をインラインで検出できる。この検出結果に基づいて薄膜の成膜条件を調整することにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムを製造できる。
【0065】
このように、検査対象となる反射防止層を形成する前に、透明フィルムに光吸収性のフィルム基材を貼着することにより、裏面反射を抑制して、反射光特性をインラインで正確に測定できる。スパッタ法等の真空成膜により反射防止層を形成する場合、成膜の途中で製品を抜き出して検査することや、成膜ラインと同一のラインでのフィルムの貼り合せや剥離が不可能であるため、本発明の方法は特に有用である。
【0066】
前述のように、フィルム基材20としては安価な汎用フィルムが用いられるため、透明フィルムとフィルム基材との積層体は、偏光板に比して安価である。そのため、上記特許文献1のように偏光板を用いる場合に比べると、反射防止層の形成初期(インライン反射光検出による成膜条件の制御開始前)等に規格外部分が生じても、工程ロスの製造コストへの影響が小さい。
【0067】
また、透明フィルム10とフィルム基材20との積層体40上に反射防止層を形成することにより、偏光板上に反射防止層を形成する場合に比して、反射防止層の連続成膜長を大きくすることができる。一般に、巻出しロール251や巻取りロール261は、架台にセット可能なフィルム巻回体の重量や直径の上限が定められている。フィルムの膜厚が小さいほど、巻回体の重量や直径が規定の上限に達するフィルムの長さが大きいため、連続成膜可能長が大きくなる。一般に、偏光板は、偏光子の両面に透明保護フィルムが設けられた構成であり3枚のフィルムから構成されるのに対して、上記の積層体40は、2枚のフィルムから構成可能である。そのため、積層体40は、偏光板よりも厚みを小さく設計でき、連続成膜長を大きくできる。その結果、成膜装置の稼働率が向上し、生産性を高めることが可能となる。
【0068】
[反射防止フィルムの実用形態]
本発明では、反射防止フィルムの反射光特性をインラインで測定する目的で、透明フィルム10の第二の主面側にフィルム基材20が貼着された積層体(図3(A))が用いられる。透明フィルム10上に反射防止層50が形成され(図3(B))、このフィルム基材付き反射防止フィルム101の反射光特性の測定が行われた後は、フィルム基材20は不要となる。そのため、反射防止フィルムを実用に供する際には、フィルム基材20は、透明フィルム10から剥離除去されることが好ましい。
【0069】
フィルム基材の剥離除去に際しては、例えば、図3(C1)に示すように、接着層30が透明フィルム10に付設された状態でフィルム基材20のみが剥離除去される。例えば、図1Bに示すように、ベースフィルム25の接着層形成面側に離型層21を備えるフィルム基材20を用いれば、透明フィルム10上に接着層30を残したまま、フィルム基材20のみを剥離できる。フィルム基材を除去後、透明フィルム10の第二の主面には、接着層30を介して他のフィルム71が貼り合わせられる。
【0070】
フィルム基材の除去に際して、図3(C2)に示すように、フィルム基材20とともに、接着層30も透明フィルム10から剥離除去されてもよい。フィルム基材を除去後、透明フィルム10の第二の主面には、他の接着層33を介して他のフィルム72が貼り合わせられる。
【0071】
上記のように、フィルム基材20は、反射防止層形成時や、反射防止層形成後のインラインでの反射光特性の検出精度を高めるために設けられるものであり、検査終了後は剥離除去される。透明フィルム10上に接着層30を残したままフィルム基材20のみを剥離する場合、およびフィルム基材20とともに接着層30も透明フィルム10から剥離する場合のいずれにおいても、フィルム基材を剥離除去後の反射防止フィルムは、他のフィルムと貼り合わせて実用に供される。反射防止フィルムと他のフィルムとの貼り合わせの作業効率を高めるためには、ロールラミネータ等を用いて、インラインで貼り合わせが行われることが好ましい。そのため、反射光特性のインライン検査と他のフィルムとの貼り合わせの間に行われるフィルム基材20の剥離作業もインラインで実施されることが好ましい。
【0072】
反射防止層50を形成後の透明フィルム10からのフィルム基材20の剥離除去をインラインで安定して実施するためには、透明フィルム10からのフィルム基材20の剥離力が小さいことが好ましい。具体的には、透明フィルムとフィルム基材との180°剥離試験(剥離速度:10m/分)における剥離力は、2N/50mm以下が好ましく、1.5N/50mm以下がより好ましく、1N/50mm以下がさらに好ましい。接着層30の組成を調整したり、フィルム基材の表面に離型層を設けることにより、剥離力を低減できる。
【0073】
フィルム基材20の剥離後に、透明フィルム10の第二の主面に貼り合わせられるフィルム71,72は特に限定されず、透明離型フィルム等が貼り合わせられてもよい。例えば、透明フィルム上に反射防止層が設けられた反射防止フィルムを製品として出荷する場合、反射防止層形成時に用いられた光吸収性のフィルム基材20を、透明離型フィルムに貼り換えることにより、透過率測定や、異物混入の有無等の検査が可能となる。また、透明離型フィルムを用いることにより、製品の意匠性が高められる。
【0074】
反射防止フィルムの実用に際しては、透明フィルム10の第二の主面に、光学フィルムが貼り合わせられる。光学フィルムとしては、偏光子、偏光子保護フィルム、光学補償フィルム(位相差フィルム)や、これらの組み合せが挙げられる。実用形態の一例として、反射防止フィルムと偏光子を含む光学フィルムと貼り合わせることにより、反射防止層付き偏光板が得られる。このように、透明フィルム上に反射防止層を形成後に偏光子等との貼り合わせを行う形態では、反射防止層を形成するための高温環境や高出力のプラズマ下に偏光子を曝すことなく、反射防止層付き偏光板が得られる。そのため、偏光子の劣化等の不具合を抑制し、歩留りを高めることができる。
【0075】
図4(A)および(B)は、反射防止層付き偏光板の構成例を模式的に表す断面図である。図4(A)に示す反射防止層付き偏光板121では、透明フィルム10の第二の主面上に、接着層36を介して、偏光子79の一方の面が貼り合わせられている。偏光子79の他方の面には、接着層38を介して透明保護フィルム74が貼り合わせられており、透明保護フィルム74の表面には、接着層39を介して離型フィルム22が仮着されている。
【0076】
偏光子79としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0077】
中でも、高い偏光度を有するという観点から、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましい。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素染色および延伸を施すことにより、PVA系偏光子が得られる。PVA系偏光子として、厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることもできる。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51-069644号公報、特開2000-338329号公報、WO2010/100917号パンフレット、特許第4691205号明細書、特許第4751481号明細書等に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。このような薄型偏光子は、例えば、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸する工程と、ヨウ素染色する工程とを含む製法により得られる。
【0078】
透明保護フィルム74としては、透明フィルム10の材料として前述したものと同様の材料が好ましく用いられる。なお、透明保護フィルム74の材料と透明フィルム10の材料は、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0079】
接着層36,38に用いられる接着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。PVA系偏光子の接着には、ポリビニルアルコール系の接着剤が好ましく用いられる。
【0080】
図4(B)に示す形態は、偏光子79の両面に接着層36,38を介して透明保護フィルム73,74が貼り合わせられた偏光板と、反射防止フィルムとが、接着層35を介して貼り合わせられた反射防止層付き偏光板122である。透明保護フィルム74の表面には、接着層39を介して離型フィルム22が仮着されている。
【0081】
透明保護フィルム73と透明フィルム10との貼り合わせに用いられる接着層35としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シーコーン系粘着剤等の粘着剤が好ましい。透明フィルム10とフィルム基材20との仮着に用いた接着層30(粘着剤)をそのまま用いることもできる(図3(B)および(C1)参照)。
【0082】
反射防止フィルムは、画像表示装置の形成に好ましく用いられる。反射防止フィルムが、画像表示装置最表面に装着されると、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)を受けやすい。このような外部環境からの汚染防止や、汚染の易除去性を付与する目的で、反射防止層の表面に、フッ素基含有のシラン系化合物やフッ素基含有の有機化合物等からなる防汚層を設けてもよい。
【実施例
【0083】
[光学シミュレーションによる反射光特性の評価]
以下の実施例および比較例では、反射防止フィルムの反射防止層形成面と反対側に、接着層を介して各種のフィルム基材を貼り合わせた積層体の反射光のスペクトルを、光学シミュレーションにより算出した。反射防止フィルムとしては、厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(屈折率1.49)の表面に、厚み8μmのアクリル系のハードコート層(屈折率1.51)を備え、ハードコート層上に、膜厚12nmの酸化チタン層(屈折率2.35)、膜厚28nmの酸化シリコン層(屈折率1.46)、膜厚100nmの酸化チタン層(屈折率2.35)、および膜厚85nmの酸化シリコン層(屈折率1.46)の4層からなる反射防止層を備える構成を採用した。
【0084】
<実施例1>
厚み38μmの黒色フィルム(可視光透過率3%、屈折率1.65)を、厚み20μmの接着層(屈折率1.48)を介して、反射防止フィルムの反射防止層非形成面側に貼り合わせた構成。
【0085】
<実施例2>
表面に80nmのシリコーン離型層(屈折率1.46)を備える厚み38μmの黒色フィルム(可視光透過率3%、屈折率1.65)の離型層側を、厚み20μmの接着層(屈折率1.48)を介して、反射防止フィルムの反射防止層非形成面に貼り合わせた構成。
【0086】
<比較例1>
実施例1の黒色フィルムに代えて、可視光透過率が50%の黒色半透明フィルムを用いた構成。
【0087】
<評価>
実施例および比較例のそれぞれの構成について、反射防止層側から白色光を入射した際の反射光スペクトルを計算した。また、裏面反射をゼロとした場合の反射防止フィルムの反射光スペクトル(基準スペクトル)を計算した。得られた反光スペクトルから、Yab表色系における輝度Y(%)、ならびに色度aおよびbを算出し、各実施例および比較例の反射光と、基準スペクトルとの色度差Δabを求めた。実施例および比較例における、透明フィルム、接着層およびフィルム基材の積層構成、ならびに反射光特性を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
[剥離力およびインライン剥離性の評価]
以下では、厚み80μmのTACフィルム(富士フィルム製;フジタックTD80UL)に、粘着剤層を介してフィルム基材を貼り合わせて評価用試料を作成し、剥離力の評価を行った。
【0090】
<試料1>
ロールラミネータを用いて、TACフィルムに、厚み38μmのPETフィルム上に厚み20μmの軽剥離粘着層が形成された保護フィルム材(日東電工製;E-MASK RP300)を貼り合わせた。
【0091】
<試料2>
試料1の作製と同様に、TACフィルム上に保護フィルム材を貼り合わせた後、100℃で2時間加熱処理を行った。
【0092】
<試料3>
ロールラミネータを用いて、TACフィルム上に、厚み20μmの透明粘着シート(日東電工製の偏光板用アクリル系粘着シート)を貼り合わせ、その上に表面が離型処理された厚み38μmのPETフィルム(三菱樹脂製;ダイアホイル MRF38)の離型処理面を貼り合わせた。
【0093】
<評価>
試料1および試料2については、TACフィルムと粘着層との界面での剥離試験、試料3については、PETフィルムと粘着層との界面での剥離試験を行った。
(ピール試験)
試料1~3をそれぞれ幅50mmの短冊状に切り出し、180°ピール試験(試験速度:10m/分)により剥離力を測定した。
(インライン剥離性試験)
ロールラミネータを用いて、試料1~3のフィルム基材のインライン剥離性を評価し、問題なく剥離が行えたものを「良好」、フィルムの走行中に張力異常が生じたものを「不良」とした。
結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表1に示したように、フィルム基材の透過率を低くすることにより、裏面反射率が低減し、これに伴って反射光のY値が小さくなるとともに、基準スペクトルからの色度差Δabも小さくなることが分かる。ベースフィルム上に離型層を備えるフィルム基材が用いられた実施例2では、反射界面が増加したことに伴い、実施例1に比べてY値および色度差が増大する傾向があるものの、離型層の屈折率を調整することにより、裏面反射を低減できる。
【0096】
表2に示したように、透明フィルムとフィルム基材との剥離力を小さくすることにより、インラインでの剥離が容易となる傾向がある。この結果から、接着層の材料として軽剥離性の接着材料を用いることや、離型層を備えるフィルム基材を用いることにより、剥離力を小さくすれば、反射防止層形成後にフィルム基材を他のフィルムに貼り替える際の作業性を向上でき、生産性が高められることが分かる。
【符号の説明】
【0097】
10 透明フィルム
20 フィルム基材
21 離型層
25 ベースフィルム
30,33,35,36,38,39 接着層
40 積層体
50 反射防止層
51,52,53,54 薄膜
73,74 透明保護フィルム
79 偏光子
100,101,103 反射防止フィルム
111,112 反射防止フィルム(反射防止層付き光学フィルム)
121,122 反射防止フィルム(反射防止層付き偏光板)
図1A
図1B
図2
図3
図4