(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】シールドパッケージ
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220105BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20220105BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220105BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20220105BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220105BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220105BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20220105BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220105BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H05K9/00 X
B32B7/025
B32B27/38
B32B27/26
B32B27/18 J
B32B27/30 A
H01L23/00 C
H01L23/30 B
(21)【出願番号】P 2019548113
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018035969
(87)【国際公開番号】W WO2019073809
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017199826
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】梅田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】松田 和大
(72)【発明者】
【氏名】中園 元
(72)【発明者】
【氏名】野口 英俊
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170395(WO,A1)
【文献】特開2015-130484(JP,A)
【文献】特開2011-192755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
B32B 27/38
B32B 27/26
B32B 27/18
B32B 27/30
H01L 23/00
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージと、
前記パッケージ上に、順に積層された第1層と第2層とを有するシールド層を有し、
前記第1層が
(A)常温で固体である固体エポキシ樹脂5~30質量部と常温で液体である液体エポキシ樹脂20~90質量部とを合計量100質量部を超えない範囲で含むバインダー成分100質量部と、
(B)金属粒子400~1800質量部と、
(C)硬化剤0.3~40質量部とを含有し、
前記金属粒子(B)が、(B1)球状金属粒子と(B2)フレーク状金属粒子とを少なくとも含有し、
前記金属粒子(B)に対する前記球状金属粒子(B1)の含有割合が20~80質量%であ
り、
前記バインダー成分は、改質剤を含有しないか、含有する場合であってもバインダー成分における含有割合が10質量%以下である導電性樹脂組成物からなるものであり、
前記第2層が
(D)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂、及び(E)分子内にグリシジル基、及び/又は(メタ)アクリロイル基を有するモノマー
を含むバインダー成分と、
(F)平均粒子径が10~500nmである金属粒子と、
(G)平均粒子径が1~50μmである金属粒子と、
(H)ラジカル重合開始剤とを含有し、
前記金属粒子(F)と前記金属粒子(G)との合計の含有量が、前記第2層のバインダー成分100質量部に対して、2000~
65000質量部であり、
前記金属粒子(F)と前記金属粒子(G)との合計量に対する前記金属粒子(F)の含有割合が8~85質量%である、導電性樹脂組成物からなるものである
ことを特徴とする、シールドパッケージ。
【請求項2】
前記バインダー成分(A)が、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載のシールドパッケージ。
【請求項3】
前記モノマー(E)が、分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシールドパッケージ。
【請求項4】
前記金属粒子(G)が、銅粒子、銀被覆銅粒子、及び銀被覆銅合金粒子からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のシールドパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージと、パッケージを被覆するシールド層を有するシールドパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やタブレット端末等の電子機器においては、近年、多数の電子部品と共に、RFID(Radio Frequency IDentification)や非接触充電機能等、10MHz~1000MHzの電磁波を利用した無線通信機能が搭載されている。このような電子部品は、電磁波に対する感受性が高く、外部からの電磁波に曝されると誤動作を起こしやすいという問題を有する。
【0003】
一方で、電子機器の小型軽量化と高機能化を両立させるため、電子部品の実装密度を高めることが求められている。しかしながら、実装密度を高めると電磁波の影響を受ける電子部品も増えてしまうという問題がある。
【0004】
従来から、この課題を解決する手段として、電子部品をパッケージごとシールド層で覆うことで、電子部品に対する電磁波の侵入を防止した、いわゆるシールドパッケージが知られている。例えば特許文献1には、パッケージの表面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂組成物をスプレー(噴霧)してコーティングし、加熱硬化することにより、シールド効果の高い電磁シールド部材を容易に得ることができる旨記載されている。
【0005】
また電磁波シールドに適用可能である導電性ペーストとして、例えば、特許文献2~5には、ミクロンサイズの導電性フィラーと、ナノサイズの導電性フィラーとを併用したものが記載されている。ナノサイズの導電性フィラーを併用することにより、ミクロンサイズの導電性フィラー同士の間に存在する間隙を充填することができ、良好なシールド特性が得られる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-258137号公報
【文献】特開2014-181316号公報
【文献】特開2005-294254号公報
【文献】特開2010-113912号公報
【文献】特開2010-118280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、10MHz~1000MHzの電磁波の侵入を防止することに着目した導電性ペーストはなく、従来の導電性ペーストによるシールド層は、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド効果に改善の余地があった。
【0008】
また、ナノサイズの導電性フィラーを使用する場合、ナノサイズの導電性フィラーの分散性を高める観点から、アクリル系樹脂が使用されることが多い。しかしながら、アクリル系樹脂を用いた導電性樹脂組成物をシールド層に適用した場合、ハンダリフロー工程などの高温下に晒されると、シールド層とパッケージとの密着性が低下しやすいという問題があった。
【0009】
さらに、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド効果を向上させる手段として、導電性フィラーを高配合することが考えられるが、その場合シールド層とパッケージとの密着性の問題がより顕著に現れるおそれがあった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、10MHz~1000MHzの電磁波に対しても良好なシールド性を有し、シールド層とパッケージとの密着性が良好なシールドパッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシールドパッケージは、基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージと、上記パッケージ上に、順に積層された第1層と第2層とを有するシールド層を有し、上記第1層が(A)常温で固体である固体エポキシ樹脂5~30質量部と常温で液体である液体エポキシ樹脂20~90質量部とを合計量100質量部を超えない範囲で含むバインダー成分100質量部と、(B)金属粒子400~1800質量部と、(C)硬化剤0.3~40質量部とを含有し、上記金属粒子(B)が、(B1)球状金属粒子と(B2)フレーク状金属粒子とを少なくとも含有し、上記金属粒子(B)に対する上記球状金属粒子(B1)の含有割合が20~80質量%であり、上記バインダー成分は、改質剤を含有しないか、含有する場合であってもバインダー成分における含有割合が10質量%以下である導電性樹脂組成物からなるものであり、上記第2層が(D)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂、及び(E)分子内にグリシジル基、及び/又は(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを含むバインダー成分と、(F)平均粒子径が10~500nmである金属粒子と、(G)平均粒子径が1~50μmである金属粒子と、(H)ラジカル重合開始剤とを含有し、上記金属粒子(F)と上記金属粒子(G)との合計の含有量が、上記第2層のバインダー成分100質量部に対して、2000~65000質量部であり、上記金属粒子(F)と上記金属粒子(G)との合計量に対する上記金属粒子(F)の含有割合が8~85質量%である、導電性樹脂組成物からなるものとする。
【0012】
上記バインダー成分(A)は、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをさらに含有するものとすることができる。
【0013】
上記モノマー(E)は、分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであるものとすることができる。
【0014】
上記金属粒子(G)は、銅粒子、銀被覆銅粒子、及び銀被覆銅合金粒子からなる群より選択される少なくとも1種であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシールドパッケージによれば、10MHz~1000MHzの電磁波に対する優れたシールド性、及びパッケージとシールド層との優れた密着性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】シールドパッケージの製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】個別化前のシールドパッケージの例を示す平面図である。
【
図3】導電性塗膜の導電性の評価に用いた、硬化物のサンプルが形成された基板を示す平面図である。
【
図4】導電性塗膜のシールド効果の評価に用いるシステムの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0017】
A……基板上で個別化されたパッケージ
B……個片化されたシールドパッケージ
B1,B2,B9……個片化される前のシールドパッケージ
1……基板
2……電子部品
3……グランド回路パターン(銅箔)
4……封止材
5……第1層(導電性塗膜)
6……第2層(導電性塗膜)
11~19……溝
20……基板
21……電極パッド
22……導電性樹脂組成物の硬化物
211a……電界波シールド効果評価装置
211b……磁界波シールド効果評価装置
213……測定治具
214……中心導体
215……測定治具
216……シールド型円形ループ・アンテナ
221……スペクトラム・アナライザ
222……アッテネータ
223……アッテネータ
224……プリアンプ
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシールドパッケージは、基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージと、パッケージ上に、順に積層された第1層と第2層とを有するシールド層を有するものである。
【0019】
〈第1層〉
上記第1層は、(A)常温で固体である固体エポキシ樹脂5~30質量部と常温で液体である液体エポキシ樹脂20~90質量部とを合計量100質量部を超えない範囲で含むバインダー成分100質量部と、(B)金属粒子400~1800質量部と、(C)硬化剤0.3~40質量部とを含有する導電性樹脂組成物からなるものである。
【0020】
第1層に適用する導電性樹脂組成物のバインダー成分は、エポキシ樹脂を必須の成分とするものであり、必要に応じて(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをさらに含むこともできる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基を総称するものとし、「(メタ)アクリロイル基を有するモノマー」は、オリゴマーや分子量が1000未満であるプレポリマーも含むものとする。
【0021】
ここで「常温で固体」とは、25℃において無溶媒状態で流動性を有さない状態であることを意味するものとし、「常温で液体」とは同条件において流動性を有する状態であることを意味するものとする。固体エポキシ樹脂は、バインダー成分100質量部中、5~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。また液体エポキシ樹脂は、バインダー成分100質量部中、20~90質量部であることが好ましく、25~80質量部であることがより好ましい。
【0022】
常温で固体のエポキシ樹脂を使用することにより、均一にパッケージ表面に塗布され、ムラの無いシールド層を形成することができる導電性樹脂組成物が得られる。固体エポキシ樹脂は、分子内に2以上のグリシジル基を有し、かつ、エポキシ当量が150~280g/eqを有するものが好ましい。エポキシ当量が150g/eq以上であるとクラックや反り等の不具合が起こりにくく、280g/eq以下であると耐熱性がより優れた塗膜が得られやすい。
【0023】
固体エポキシ樹脂は、溶剤に溶解して使用することができる。使用する溶剤は特に限定されず、後述するものの中から適宜選択することができる。
【0024】
固体エポキシ樹脂の具体例としては、特にこれらに限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;スピロ環型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;テルペン型エポキシ樹脂;トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンなどのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂;テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0025】
常温で液体のエポキシ樹脂は、上記の通りバインダー成分100質量部中20~90質量部使用するが、そのうち5~35質量部が液体グリシジルアミン型エポキシ樹脂であることが好ましく、20~55質量部が液体グリシジルエーテル型エポキシ樹脂であることが好ましい。液体グリシジルアミン型エポキシ樹脂と液体グリシジルエーテル型エポキシ樹脂をこの配合量の範囲内で組み合わせて使用した場合、硬化後の塗膜の反りがより少なくなり、シールド層の導電性と密着性がバランスよく優れたものとなり、さらに耐熱性がより優れたシールドパッケージが得られる。
【0026】
液体グリシジルアミン型液体エポキシ樹脂は、エポキシ当量80~120g/eq、粘度1.5Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.5~1.5Pa・sである。液体グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、エポキシ当量180~220g/eq、粘度6Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1~6Pa・sである。エポキシ当量と粘度が上記好ましい範囲内である液体グリシジルアミン型エポキシ樹脂と液体グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を使用した場合、硬化後の塗膜の反りがより少なくなり、耐熱性がより優れ、塗膜の厚さがより均一なシールドパッケージが得られる。
【0027】
ここで、液体グリシジルアミン型液体エポキシ樹脂の粘度とは、液温25℃において、BH型粘度計(ローターNo.5、回転数10rpm)で測定した値とする。
【0028】
第1層に適用する導電性樹脂組成物に使用することができる(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物であれば特に限定されない。このような化合物の例としては、イソアミルアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0029】
上記のように(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを使用する場合、エポキシ樹脂と(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとの合計量に対する(メタ)アクリロイル基を有するモノマーの含有割合は、5~95質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%である。(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが5質量%以上であることにより、導電性樹脂組成物を速やかに硬化させることができ、さらに硬化時の導電性樹脂組成物のタレを防止することができる。また、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが95質量%以下である場合、パッケージとシールド層との密着性が良好となりやすい。
【0030】
バインダー成分には、エポキシ樹脂、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー以外に、導電性樹脂組成物の物性を向上させることを目的として、アルキド樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂等を改質剤として添加することができる。
【0031】
バインダー成分に改質剤をブレンドする場合の配合比は、シールド層とパッケージとの密着性の観点から、バインダー成分に対して40質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下とする。
【0032】
第1層に適用する導電性樹脂組成物の金属粒子(B)は、特に限定されないが、例えば、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、銀被覆銅粒子、銀被覆銅合金粒子、金被覆銅粒子、銀被覆ニッケル粒子、金被覆ニッケル粒子等が挙げられる。
【0033】
銀被覆銅粒子は、銅粒子と、この銅粒子の少なくとも一部を被覆する銀層又は銀含有層とを有するものであり、銀被覆銅合金粒子は、銅合金粒子と、この銅合金粒子の少なくとも一部を被覆する銀層又は銀含有層とを有するものである。銅合金粒子は、例えば、ニッケルの含有量が0.5~20質量%であり、かつ亜鉛の含有量が1~20質量%であり、残部が銅からなり、残部の銅は不可避不純物を含んでいてもよい。このように銀被覆層を有する銅合金粒子を用いることにより、シールド性に優れたシールドパッケージを得ることができる。
【0034】
また金属粒子(B)は、球状及びフレーク状(鱗片状)の金属粒子を必須とするものとし、必要に応じて更に樹枝状、繊維状等の金属粒子を併用することもできる。なお、球状には、略真球のもの(アトマイズ粉)だけでなく、略多面体状の球体(還元粉)や、不定形状(電解粉)等の略球状のものを含む。
【0035】
金属粒子(B)の全体量における球状金属粒子(B1)及びフレーク状金属粒子(B2)の合計量の含有割合は、特に限定されないが、40~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましく、80~100質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
また、金属粒子(B)の全体量における球状金属粒子(B1)の含有割合は、20~80質量%であることが好ましく、25~75質量%であることがより好ましい。
【0037】
金属粒子(B)の含有量(球状及びフレーク状と他形状の金属粒子の合計量)は、バインダー成分100質量部に対して400~1800質量部であり、500~1800質量部であることがより好ましく、500~1700質量部であることがより好ましい。金属粒子の含有量が400質量部以上であるとシールド層の導電性が良好となり、1800質量部以下であると、シールド層とパッケージとの密着性、及びシールド層の物性が良好となり、後述するダイシングソーで切断した時にシールド層のカケが生じにくくなる。
【0038】
また、金属粒子(B)の平均粒子径は、球状及びフレーク状とも1~30μmであることが好ましい。金属粒子(B)の平均粒子径が1μm以上であると、金属粒子の分散性が良好で凝集が防止でき、また酸化されにくく、30μm以下であるとパッケージのグランド回路との接続性が良好である。
【0039】
ここで、本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法で測定した、個数基準の平均粒子径D50(メジアン径)の粒子径をいう。
【0040】
また、フレーク状金属粒子(B2)のタップ密度は、特に限定されないが、4.0~6.0g/cm3であることが好ましい。タップ密度が上記範囲内であると、シールド層の導電性が良好となる。
【0041】
また、フレーク状金属粒子(B2)のアスペクト比は、特に限定されないが、5~20であることが好ましく、5~10であることがより好ましい。アスペクト比が上記範囲内であると、シールド層の導電性がより良好となる。
【0042】
第1層に適用する導電性樹脂組成物においては、バインダー成分を硬化させるための硬化剤(C)を使用する。硬化剤(C)としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、アミン系硬化剤、カチオン系硬化剤、ラジカル系硬化剤等を使用することができ、これらの中でも、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、ナフトール系硬化剤であることが好ましく、イミダゾール系硬化剤であることがより好ましい。これらの硬化剤(C)は、1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用してもよい。
【0043】
イミダゾール系硬化剤としては、例えばイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-イミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0044】
フェノール系硬化剤は、分子中にフェノール骨格を少なくとも1個有し、エポキシ樹脂の硬化剤として使用可能な化合物であり、例としては、フェノールノボラック(ノボラック型フェノール樹脂)、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ノボラック樹脂等が挙げられ、ノボラック型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0045】
ナフトール系硬化剤は、分子中にナフトール骨格を少なくとも1個有し、エポキシ樹脂の硬化剤として使用可能な化合物であり、例としては、ナフトール・クレゾール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・ナフトール系アラルキル樹脂、ザイロックタイプノボラック樹脂等が挙げられる。
【0046】
カチオン系硬化剤の例としては、三フッ化ホウ素のアミン塩、P-メトキシベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルイオドニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウム、テトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ-n-ブチルホスホニウム-o,o-ジエチルホスホロジチオエート等に代表されるオニウム系化合物が挙げられる。
【0047】
ラジカル系硬化剤(重合開始剤)の例としては、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0048】
硬化剤(C)の含有量は、バインダー成分の合計量100質量部に対して0.3~40質量部であることが好ましく、0.5~35質量部であることがより好ましい。硬化剤の含有量が0.3~40質量部であるとシールド層とパッケージとの密着性とシールド層の導電性が良好となって、シールド効果に優れたシールド層が得られやすい。また、硬化剤としてラジカル系硬化剤を使用する場合は、バインダー成分の合計量100質量部に対して0.3~8質量部であることが好ましい。ラジカル系硬化剤の含有量が0.3~8質量部であるとシールド層とパッケージとの密着性とシールド層の導電性が良好となって、シールド効果に優れたシールド層が得られやすい。
【0049】
第1層に適用する導電性樹脂組成物は、導電性樹脂組成物をスプレー噴霧によりパッケージ表面に均一に塗布できるようにするためには、いわゆる導電性ペーストよりも低粘度であることが好ましい。導電性樹脂組成物の粘度は塗布に使用する機器に応じて適宜調整するのが好ましく、特に限定されないが、一般的な目安としては、以下に述べる通りである。粘度の測定方法も限定されるものではないが、導電性樹脂組成物が低粘度であれば円錐平板型回転粘度計(いわゆるコーン・プレート型粘度計)で測定することができ、高粘度であれば単一円筒形回転粘度計(いわゆるB型又はBH型粘度計)で測定することができる。
【0050】
円錐平板型回転粘度計で測定する場合は、ブルックフィールド(BROOK FIELD)社のコーンスピンドルCP40(コーン角度:0.8°、コーン半径:24mm)を用いて、0.5rpmで測定した粘度が100mPa・s以上であることが好ましく、150mPa・s以上であることがより好ましい。粘度が100mPa・s以上であると、塗布面が水平でない場合における液ダレを防止してシールド層をムラなく形成しやすい。なお、100mPa・s付近やそれよりも低粘度の場合、所望の厚さの均一な塗膜を得るには、1回の塗布量を少なくして薄膜を形成し、その上にまた薄膜を形成する操作をくり返す、いわゆる重ね塗りを行う方法が有効である。なお、円錐平板型回転粘度計で測定可能な粘度であれば、高くとも問題はない。
【0051】
単一円筒形回転粘度計で測定する場合はローターNo.5を用いて10rpmで測定した粘度が30dPa・s以下であることが好ましく、25dPa・s以下であることがより好ましい。30dPa・s以下であるとスプレーノズルの目詰まりを防ぎ、ムラなくシールド層を形成しやすい。なお、単一円筒形回転粘度計で測定可能な粘度であれば、低くとも問題はない。
【0052】
導電性樹脂組成物の粘度はバインダー成分の粘度や導電性フィラーの含有量等により異なるので、上記範囲内にするために、溶剤を使用することができる。本発明において使用可能な溶剤は、特に限定されないが、例えばメチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、アセトン、アセトフェノン、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、メチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキテル、酢酸メチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用してもよい。
【0053】
溶剤の含有量は、塗布に使用する機器等に応じて適宜調整するのが好ましいが、通常はバインダー成分100質量部に対して20~600質量部であることが好ましい。溶剤の含有量が20~600質量部以上であるとスプレー塗布による塗布安定性が優れ、安定したシールド効果が得やすくなる。
【0054】
また、第1層に適用する導電性樹脂組成物には、発明の目的を損なわない範囲内において、消泡剤、増粘剤、粘着剤、充填剤、難燃剤、着色剤等、公知の添加剤を加えることができる。
【0055】
上記導電性樹脂組成物を硬化させてなる第1層の表面からは、金属粒子(B)が一部露出しているため、第2層との安定した電気的な接続が得られる。
【0056】
〈第2層〉
上記第2層は、(D)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂と、(E)分子内にグリシジル基、及び/又は(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとを含むバインダー成分と、(F)平均粒子径が10~500nmである金属粒子と、(G)平均粒子径が1~50μmである金属粒子と、(H)ラジカル重合開始剤とを含有する導電性樹脂組成物からなるものである。
【0057】
(メタ)アクリル系樹脂(D)は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを構成モノマーとして少なくとも含む重合体であり、特に限定されないが、例えば、構成モノマーとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、及びメタクリル酸n-ブチルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する重合体を用いることができる。構成モノマーとしては、本発明の目的に反しない範囲でアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル以外を含んでいてもよい。2種以上のモノマーを含有する場合、交互共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。ここで、「(メタ)アクリル系樹脂」とは「アクリル系樹脂」及び「メタアクリル系樹脂」の総称である。
【0058】
(メタ)アクリル系樹脂(D)の重量平均分子量は、1000以上であり、5000以上であることが好ましく、7000以上であることがより好ましく、10000以上であることがさらに好ましい。また、40万以下であり、20万以下であることが好ましく、15万以下であることがより好ましく、5万以下であることがさらに好ましい。
【0059】
このような(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、特開2016-155920号公報、特開2015-59196号公報、特開2016-196606号公報、WO2016/132814に係る焼成ペースト用共重合体等を使用することができる。また、市販されているアクリル系樹脂も使用可能であり、例えば、共栄社化学(株)製「KC-1100」や、「KC-1700P」を用いることができる。
【0060】
モノマー(E)は、分子内にグリシジル基及び/又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、好ましくは、分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。なお、本明細書において、「モノマー(E)」は、オリゴマーや分子量が1000未満であるプレポリマーも含むものとする。
【0061】
グリシジル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、ビスフェノールA、ジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などが挙げられる。
【0062】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、イソアミルアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0063】
グリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。
【0064】
これらモノマー(E)は1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。上述の通り、導電性樹脂組成物にアクリル系樹脂を使用した場合、加熱硬化後のシールド層とパッケージなどの塗布対象物との密着性が劣る傾向にあるが、上記(メタ)アクリル系樹脂(D)にモノマー(E)を併用することにより、金属粒子(F)及び金属粒子(G)を高配合した場合であっても、シールド層と塗布対象物との優れた密着性、すなわち、本発明においては、第1層と第2層との優れた密着性が得られる。
【0065】
モノマー(E)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂(D)との合計量100質量部中、20~99質量部であることが好ましく、40~99質量部であることがより好ましく、50~99質量部であることがさらに好ましい。以下、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂(D)とモノマー(E)との両者を含めたものを第2層に適用する導電性樹脂組成物におけるバインダー成分とする。
【0066】
平均粒子径が10~500nmである金属粒子(F)としては、特に限定されないが、銅ナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノ粒子であることが好ましい。金属粒子(F)の平均粒子径が10~500nmであることにより、ミクロンサイズの金属粒子同士の間隙を充填することができるため、導電性フィラーを高配合にしやすく、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド性を向上させることができる。
【0067】
金属粒子(F)の含有量は、特に限定されないが、バインダー成分(第2層のバインダー成分、以下同様。)100質量部に対して、50~75000質量部であることが好ましく、100~35000質量部であることがより好ましく、300~10000質量部であることがさらに好ましく、500~5000質量部であることが特に好ましい。
【0068】
平均粒子径が1~50μmである金属粒子(G)としては、特に限定されないが、銅粒子、銀粒子、金粒子、銀被覆銅粒子または銀被覆銅合金粒子であることが好ましく、コスト削減の観点からは、銅粒子、銀被覆銅粒子、又は銀被覆銅合金粒子であることがより好ましい。金属粒子(G)の平均粒子径が1μm以上であると、金属粒子(G)の分散性が良好で凝集が防止でき、また酸化されにくく、50μm以下であるとパッケージのグランド回路との接続性が良好である。
【0069】
金属粒子(G)の形状の例としては、フレーク状(鱗片状)、樹枝状、球状、繊維状、不定形(多面体)等が挙げられるが、抵抗値がより低く、シールド性がより向上したシールド層が得られる点からは、フレーク状であることが好ましい。
【0070】
また、金属粒子(G)がフレーク状である場合は、金属粒子(G)のタップ密度は4.0~6.5g/cm3であることが好ましい。タップ密度が上記範囲内であると、シールド層の導電性がより良好となる。
【0071】
また、金属粒子(G)がフレーク状である場合には、金属粒子(G)のアスペクト比は2~10であることが好ましい。アスペクト比が上記範囲内であると、シールド層の導電性がより良好となる。
【0072】
金属粒子(G)の含有量は、特に限定されないが、バインダー成分100質量部に対して400~75000質量部であることが好ましく、400~55000質量部であることがより好ましく、400~45000質量部であることがさらに好ましく、400~30000質量部であることが特に好ましい。含有量が400質量部以上であるとシールド層の導電性が良好となり、10MHz帯の低周波領域の電磁波に対する優れたシールド性が得られやすく、75000質量部以下であると、第1層と第2層との密着性、及びシールド層の特性が良好となりやすく、後述するダイシングソーで切断した時にシールド層のカケが生じにくくなる。
【0073】
金属粒子(F)と金属粒子(G)との合計の含有量は、バインダー成分100質量部に対して、2000~80000質量部であり、好ましくは、2000~65000質量部であり、より好ましくは2000~50000質量部であり、さらに好ましくは2000~35000質量部である。2000質量部以上であることにより、低周波領域である10MHZ帯の電磁波に対する優れたシールド効果が得られやすく、80000質量部以下であることにより、第1層と第2層との優れた密着性が得られやすい。
【0074】
金属粒子(F)と金属粒子(G)との合計量に対する金属粒子(F)の含有割合は、特に限定されないが、8~85質量%であることが好ましい。
【0075】
ラジカル重合開始剤(H)としては、特に限定されないが、例えば、加熱によりラジカル重合を開始させる熱重合開始剤や、X線やUV等のエネルギー線照射によりラジカル重合を開始させるエネルギー線重合開始剤を使用できる。
【0076】
ラジカル重合開始剤は、特に制限されず、従来用いられている有機過酸化物系やアゾ系の化合物を適宜使用することができる。
【0077】
有機過酸化物系重合開始剤の例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。
【0078】
また、アゾ系重合開始剤の例としては、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-クロロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-ヒドロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが挙げられる。
【0079】
上記ラジカル重合開始剤は1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0080】
ラジカル重合開始剤(H)の含有量は、バインダー成分に対して化学量論的に必要な量であればよく、その種類によって異なるが、目安としてはバインダー成分100質量部に対して、0.05~30質量部であることが好ましく、0.1~25質量部であることがより好ましく、1~20質量部であることがさらに好ましい。ラジカル重合開始剤の含有量がこの範囲内である場合には、導電性樹脂組成物の硬化が十分となり、第1層と第2層との密着性とシールド層の導電性が良好となって、シールド効果に優れたシールド層が得られやすい。また、ラジカル重合開始剤の種類や量を選ぶことで、硬化時間の短縮や室温での長期保存安定性など目的に応じた使用をすることができる。
【0081】
また、第2層に適用する導電性樹脂組成物には、発明の目的を損なわない範囲内において、消泡剤、増粘剤、粘着剤、充填剤、難燃剤、着色剤等、公知の添加剤を加えることができる。
【0082】
第2層に適用する導電性樹脂組成物は、導電性樹脂組成物をスプレー噴霧によりパッケージ表面に均一に塗布できるようにするためには、いわゆる導電性ペーストよりも低粘度であることが好ましい。導電性樹脂組成物の粘度は塗布に使用する機器に応じて適宜調整するのが好ましく、特に限定されないが、一般的な目安としては、上記第1層において記載した通りである。
【0083】
導電性樹脂組成物の粘度はバインダー成分の粘度や導電性フィラーの含有量等により異なるので、上記範囲内にするために、溶剤を使用することができる。本発明において使用可能な溶剤は、特に限定されないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、メチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用してもよい。
【0084】
溶剤の含有量は、バインダー成分の粘度や導電性フィラーの含有量等により異なるが、目安としては、導電性樹脂組成物の含有成分(溶剤を除く)の合計量に対して10~60質量%程度である。
【0085】
本実施形態のシールドパッケージの第2層は、低周波領域である10MHZ帯の電磁波に対する優れたシールド効果が得られる観点から、比抵抗が5.0×10-5Ω・cm以下であることが好ましい。
【0086】
〈シールドパッケージの製造方法〉
本実施形態のシールドパッケージの製造方法の一実施形態を、図を用いて説明する。
【0087】
まず、
図1(a)に示すように、基板1に複数の電子部品(IC等)2を搭載し、これら複数の電子部品2間にグランド回路パターン(銅箔)3が設けられたものを用意する。
【0088】
同図(b)に示すように、これら電子部品2及びグランド回路パターン3上に封止材4を充填して硬化させ、電子部品2を封止する。
【0089】
同図(c)において矢印で示すように、複数の電子部品2間で封止材4を切削して溝部を形成し、これらの溝部によって基板1の各電子部品のパッケージを個別化させる。符号Aは、それぞれ個別化したパッケージを示す。溝を構成する壁面からはグランド回路の少なくとも一部が露出しており、溝の底部は基板を完全には貫通していない。
【0090】
一方で、上述したバインダー成分(A)、金属粒子(B)、及び硬化剤(C)を所定量混合し、第1層用の導電性樹脂組成物を用意する。
【0091】
また、(メタ)アクリル系樹脂(D)とモノマー(E)とを含むバインダー成分、金属粒子(F)、金属粒子(G)、及びラジカル重合開始剤(H)を所定量混合し、第2層用の導電性樹脂組成物を用意する。
【0092】
第1層用の導電性樹脂組成物を公知のスプレーガン等によって霧状に噴射し、パッケージ表面にまんべんなく塗布する。このときの噴射圧力や噴射流量、スプレーガンの噴射口とパッケージ表面との距離は、必要に応じて適宜設定される。
【0093】
上記導電性樹脂組成物が塗布されたパッケージを加熱して導電性樹脂組成物を硬化させ、同図(d)に示すように、パッケージ表面に第1層(導電性塗膜)5を形成させる。このときの加熱条件は適宜設定することができる。
【0094】
第2層用の導電性樹脂組成物も、第1層用の導電性樹脂組成物と同様に塗布し、導電性樹脂組成物が塗布されたパッケージを加熱して溶剤を十分に乾燥させた後、導電性樹脂組成物を加熱硬化させ、同図(e)に示すように、パッケージ表面に第2層(導電性塗膜)6を形成させる。
図2はこの状態における基板を示す平面図である。符号B
1,B
2,…B
9は、個片化される前のシールドパッケージをそれぞれ示し、符号11~19はこれらシールドパッケージ間の溝をそれぞれ表す。
【0095】
図1(f)において矢印で示すように、個片化前のパッケージの溝の底部に沿って基板をダイシングソー等により切断することにより個片化されたシールドパッケージBが得られる。
【0096】
このようにして得られる個片化されたシールドパッケージBは、パッケージ表面(上面部、側面面部及び上面部と側面部との境界の角部のいずれも)に均一なシールド層が形成されているため、良好なシールド効果が得られる。また第1層は、パッケージ表面との密着性や、パッケージの一部から露出したグランド回路の銅箔との密着性に優れ、第2層は、第1層との密着性に優れる。そのため、パッケージ表面に導電性樹脂組成物を塗布してシールド層を形成した後にパッケージを切断して個片化する際、切断時の衝撃によりシールド層がグランド回路から剥離することを防ぐことができる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の内容を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。また、以下において「部」又は「%」とあるのは、特にことわらない限り質量基準とする。
【0098】
〈第1層〉
次に示す固体エポキシ樹脂と、液体エポキシ樹脂(グリシジルアミン型エポキシ樹脂及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)と、モノマーとの合計量100質量部に対して、金属粒子、硬化剤、及び溶剤を表1,2に示す割合で配合して混合し、導電性樹脂組成物1を得た。使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0099】
・固体エポキシ樹脂:三菱化学(株)製、商品名「JER157S70」
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂:(株)ADEKA製、商品名「EP-3905S」
・グリシジルエーテル型エポキシ樹脂:(株)ADEKA製、商品名「EP-4400」)
・モノマー(A):2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、共栄社化学(株)製、商品名「ライトエステルG-201P」
・金属粒子(B1):球状還元銀粒子、平均粒子径2μm
・金属粒子(B2):フレーク状銀粒子、平均粒子径5μm、アスペクト比=5
・硬化剤(C1):2-メチルイミダゾール、四国化成工業(株)製、商品名「2MZ-H」
・硬化剤(C2):フェノールノボラック、荒川化学工業(株)製、商品名「タマノル758」
・溶剤:1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)
【0100】
〈第2層〉
次に示す(メタ)アクリル系樹脂(D)と、モノマー(E)との合計量100質量部に対して、金属粒子(F)、金属粒子(G)、ラジカル重合開始剤(H)及び溶剤を表1に記載された割合で配合して混合し、導電性樹脂組成物2を得た。使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0101】
・(メタ)アクリル系樹脂(D1):分子量=17000
・(メタ)アクリル系樹脂(D2):分子量=100000、共栄社化学(株)製「KC-1700P」
・(メタ)アクリル系樹脂(D3):分子量=130000、共栄社化学(株)製「KC-1100」
【0102】
・モノマー(E1):4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル
・モノマー(E2):共栄社化学(株)製「ライトアクリレート P-1A(N)」
・モノマー(E3):株式会社ADEKA製「ED503」
【0103】
・金属粒子(F):銀粒子(平均粒子径=150nm)
・金属粒子(G):銀被覆銅合金粒子(平均粒子径=5μm、フレーク状、アスペクト比=2~10、タップ密度=5.8g/cm3)
【0104】
・ラジカル重合開始剤(H):2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル
・溶剤:メチルエチルケトン(MEK)
【0105】
実施例及び比較例の評価を以下の通り行った。結果を表1,2に示す。
【0106】
(1)導電性塗膜の導電性
導電性樹脂組成物1及び導電性樹脂組成物2から得られた各導電性塗膜の導電性を、比抵抗で評価した。具体的には、
図3に示すように、銅箔で形成された電極パッド21が60mmの間隔をあけて両端に設けられたガラスエポキシ基板20上に、幅5mmのスリットを設けた厚さ55μmのポリイミドフィルムを、スリットの端部が両端の電極パッド21と重なるように貼り付けてマスキングした。その上に、各実施例及び比較例で得られた導電性樹脂組成物を、スプレー装置(SL-940E:Nordson Asymtek製)を用いてスプレー塗布した。
【0107】
190℃で30分間加熱することにより硬化させ、ポリイミドフィルムを剥離し、長さ70mm、幅5mm、厚さ約20μmの硬化物22が両端の電極パッド21間を接続するように形成された基板20を得た。この硬化物サンプルにつき、テスターを用いて電極パッド間の抵抗値(Ω)を測定し、断面積(S、cm2)と長さ(L、cm)から次式(1)により比抵抗(Ω・cm)を計算した。
【0108】
【0109】
サンプルの断面積、長さ及び比抵抗は、ガラスエポキシ基板3枚に硬化物サンプルを各5本、合計15本形成し、その平均値を求めた。なお、比抵抗が5×10-5Ω・cm以下であれば、低周波領域である10MHZ帯の電磁波を妨げるシールド層として好適に使用できる。
【0110】
(2)導電性塗膜の密着性
上記で得られた各導電性樹脂組成物を室温(25℃)で1週間放置したものを用いて、シールド層とパッケージ表面又はグランド回路との密着性を、JIS K 5600-5-6:1999(クロスカット法)に基づき評価した。
【0111】
具体的には、グランド回路との密着性評価用に銅張積層板を用意し、パッケージ表面との密着性評価用として、エポキシ樹脂とシリカ粒子で作製されたモールド樹脂(パナソニック製のCV8710)の硬化物からなり、表面をプラズマ処理していない樹脂板(50mm×50mm×2mmmm)を用意した。それぞれに、幅5cm、長さ10cmの開口部を形成するようにポリイミドテープでマスキングし、スプレーコーティング装置SL-940E(Nordson Asymtek製)を用いて、導電性樹脂組成物1をスプレー塗布後、190℃で10分間加熱することにより硬化させて、厚さ約10μmの第1塗膜を形成した。その後、同様に、導電性樹脂組成物2をスプレー塗布し、190℃で30分間加熱することにより硬化させて第2塗膜を形成し、ポリイミドテープを剥離して、厚さ約35μmの2層からなる塗膜を形成した。塗膜が形成された銅箔、及びモールド樹脂上でクロスカット試験を行った。クロスカット試験は、リフロー前のものと、最高温度260℃で10秒間行うリフロー処理を3回行ったものと、-65℃の条件下に30分間曝した後、125℃の条件下に30分間曝すヒートサイクル試験を1000回繰り返し行ったものに対して実施した。なお、ヒートサイクル試験には、リフロー処理をしていないものを用いた。
【0112】
密着性の評価は、次の基準で行った。
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点において塗膜の小さなはがれが生じている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を越えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を越えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数カ所の目が部分的又全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
(なお、第1塗膜と第2塗膜との間に生じたはがれも、上記基準におけるはがれとして評価した。)
【0113】
(3)シールド効果(10MHz)
厚さ約25μmのポリイミドフィルムにスプレーコーティング装置SL-940E(Nordson Asymtek製)を用いて、導電性樹脂組成物1をスプレー塗布後、190℃で10分間加熱することにより硬化させて厚さ約10μmの第1塗膜を形成した。その後、同様に、導電性樹脂組成物2をスプレー塗布し、190℃で30分間加熱することにより硬化させて第2塗膜を形成し、ポリイミドテープを剥離して、厚さ約35μmの2層からなる塗膜を形成し、15cm四方に裁断したものをサンプルとした。得られたサンプルのシールド効果をKEC法により評価した。測定条件は、温度25℃、相対湿度30~50%の雰囲気とした。
【0114】
図4は、KEC法で用いられるシステムの構成を示す模式図である。KEC法で用いられるシステムは、電磁波シールド効果測定装置211a,211bと、スペクトラム・アナライザ221と、10dBの減衰を行うアッテネータ222と、3dBの減衰を行うアッテネータ223と、プリアンプ224とで構成される。
【0115】
なお、スペクトラム・アナライザ221には、株式会社アドバンテスト社製のU3741を用いた。また、プリアンプにはアジレントテクノロジーズ社製のHP8447Fを用いた。
【0116】
図4に示すように、電界波シールド効果の測定と磁界波シールド効果の測定とでは用いる治具(測定治具213・215)がそれぞれ異なっている。
図4(a)が電界波シールド効果評価装置211aを示し、
図4(b)が磁界波シールド効果評価装置211bを示す。
【0117】
電界波シールド効果評価装置211aには、2つの測定治具213が相対向して設けられている。この測定治具213・213間に、測定対象のサンプルが挟持されるように設置される。測定治具213には、TEMセル(TransverseElectro Magnetic Cell)の寸法配分が取り入れられ、その伝送軸方向に垂直な面内で左右対称に分割した構造になっている。但し、サンプルの挿入によって短絡回路が形成されることを防止するために、平板状の中心導体214は各測定治具213との間に隙間を設けて配置されている。
【0118】
また、電界波シールド効果評価装置211bには、2つの測定治具215が相対向して設けられている。この測定治具215・215間に、測定対象のサンプルが挟持されるように設置される。磁界波シールド効果評価装置211bは、磁界波成分の大きな電磁界を発生させるために、測定治具215にシールド型円形ループ・アンテナ216を使用し、90度角の金属板と組み合わせて、ループ・アンテナの1/4の部分が外部に出ている構造になっている。
【0119】
KEC法は、先ず、スペクトラム・アナライザ221から出力した信号を、アッテネータ222を介して送信側の測定治具213又は測定治具215に入力する。そして、受信側の測定治具213又は測定治具215で受けた信号をアッテネータ223を介してプリアンプ224で増幅してから、スペクトラム・アナライザ221により信号レベルを測定する。尚、スペクトラム・アナライザ221は、サンプルを電磁波シールド効果測定装置211a,211bに設置していない状態を基準として、サンプルを電磁波シールド効果測定装置211a,211bに設置した場合の減衰量を出力する。
【0120】
シールド効果の評価は、10MHzにおける減衰量が25dB以上であるものはシールド効果に優れているとした。なお、電磁波が高周波になるほど、サンプルによる減衰量は大きくなる傾向にあり、10MHzの電磁波に対して優れたシールド効果が得られていれば、1000MHZの電磁波に対しても優れたシールド効果が得られると評価できる。
【0121】
【0122】
【0123】
表1,2に示す結果から、各実施例の導電性樹脂組成物2により得られる第2層の塗膜はいずれも良好な導電性を有しており、低周波領域である10MHZ帯の電磁波に対しても優れたシールド性を有していることが確認された。また、リフロー前、リフロー後及びヒートサイクル試験後のいずれにおいても、シールド層とパッケージ表面又はグランド回路との密着性も良好であることが確認された。
【0124】
比較例1は、導電性樹脂組成物2を直接モールド樹脂に塗布した例であり、ヒートサイクル試験後のモールド樹脂との密着性、すなわち、パッケージ表面との密着性が劣っていた。
【0125】
比較例2は、導電性樹脂組成物2の金属粒子(F)と金属粒子(G)との合計の含有量が所定値未満である例であり、導電性塗膜の導電性が低く、シールド効果が劣っていた。
【0126】
比較例3は、導電性樹脂組成物2の金属粒子(F)と金属粒子(G)との合計の含有量が所定値を超える例であり、リフロー前、リフロー後、及びヒートサイクル試験後のいずれにおいても、シールド層とパッケージ表面及びグランド回路との密着性が劣っていた。