(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】MALDI-TOFを介した微生物の特性解析
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220105BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220105BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 F
C12M1/34 A
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2020063520
(22)【出願日】2020-03-31
(62)【分割の表示】P 2017504745の分割
【原出願日】2015-07-29
【審査請求日】2020-04-03
(32)【優先日】2014-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラムジート, マヘンドラシン
(72)【発明者】
【氏名】シュール, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】フェルロ, オドレイ
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-535974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0092924(US,A1)
【文献】特開2004-138596(JP,A)
【文献】国際公開第2012/113699(WO,A1)
【文献】特表2013-529458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/64
C12M 1/34
C12Q 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の抗菌剤の存在下で少なくとも1種の微生物の集団の少なくとも1つの特性解析を行うために分析プレートの特性解析ゾーンを作製する方法であって、上記特性解析は質量分析法による分析を含み、該分析中に、上記特性解析ゾーン上に堆積された上記少なくとも1種の微生物の集団は、MALDIとして知られるマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法に従って上記特性解析ゾーンにレーザビームを照射することによって少なくとも1つのイオン化工程に供され、
上記特性解析ゾーンを作製する方法は、
MALDI法による特性解析のための分析プレートを提供する工程であって、
上記プレートは、抗菌剤を保持する少なくとも1つの
機能化された分析ゾーンを含
み、
上記抗菌剤は、ペニシリン類、セファロスポリン類、セファマイシン類、カルバペネム類及びモノバクタム類からなる群から選択される抗生物質であり、
上記機能化された分析ゾーンは、
・上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させることによって、
・上記抗菌剤を静電結合、イオン結合、共有結合、親和性結合、もしくは、抗菌剤の性質及び分析ゾーンの表面に適合した任意の結合によって、固定化することによって、または
・上記抗菌剤を接着剤で固定化することによって得られる、工程と、
上記少なくとも1種の微生物の集団を、上記抗菌剤と接する上記分析ゾーン上に堆積させる工程と、
上記抗菌剤と存在する上記微生物とが相互作用できる充分な時間及び条件下で上記分析プレートを保管するインキュベーション工程と、
MALDI法に適したマトリックスを上記分析ゾーン上に堆積させる工程とを順次含むことを特徴とする作製方法。
【請求項2】
特性解析対象の単一の微生物の集団が堆積されることを特徴とする請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
上記堆積された微生物集団は、抗菌剤と接触する事前の工程無しに調製されることを特徴とする請求項1又は2に記載の作製方法。
【請求項4】
上記微生物集団は、濃縮、富化及び/又は精製の工程後に得られるもの、及び/又は、好適な培地、特にゲル培地での増殖後に得られるコロニー又はコロニーの画分に相当するものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項5】
上記抗菌剤は
、カルバペネマーゼの産生による耐性が同定できるように選択されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項6】
上記抗菌剤は、抗生物質であり
、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、ピペラシリン、セファロチン、セフロキシム、セフォキシチン、セフィキシム、セフォタキシム、セフタジジム、セフトリアキソン、セフポドキシム、セフェピム、アズトレオナム、エルタペネム、イミペネム、メロペネム及びファロペネムから選択されることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項7】
抗菌剤を保持する少なくとも1つの
機能化された分析ゾーンを含むMALDI法による特性解析のための上記分析プレートを得るための機能化工程を含
む、請求項1~6のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項8】
上記機能化工程は、上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させ、機能化された分析ゾーンを形成することによって行われることを特徴とする請求項7に記載の作製方法。
【請求項9】
上記機能化された分析ゾーンは、単一の抗菌剤を保持することを特徴とする請求項
8に記載の作製方法。
【請求項10】
MALDI法を用いた質量分析法によっ
て特性解析対象の少なくとも1種の微生物の集団を受けるための
、機能化された分析ゾーンを含む、MALDI法を用いた質量分析法のための分析プレートであって、
機能化された分析ゾーンは、ペニシリン類、セファロスポリン類、セファマイシン類、カルバペネム類及びモノバクタム類からなる群から選択される抗菌剤を保持し、
上記機能化された分析ゾーンは、
・上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させることによって、
・上記抗菌剤を静電結合、イオン結合、共有結合、親和性結合、もしくは、抗菌剤の性質及び分析ゾーンの表面に適合した任意の結合によって、固定化することによって、または
・上記抗菌剤を接着剤で固定化することによって得られる、
ことを特徴とする分析プレート。
【請求項11】
機能化された分析ゾーンが単一の抗菌剤を含む、
請求項10に記載の分析プレート。
【請求項12】
抗菌剤が水溶性ポリマーから選択される接着剤によって分析ゾーンに固定化される、
請求項10または11に記載の分析プレート。
【請求項13】
上記プレートは、カーボンブラック等の導電性材料を含んでいてもよいポリプロピレン等のポリマーから形成されており、該ポリマーは、ステンレス鋼の層で被覆されていることを特徴とする請求項
10~12のいずれか一項に記載の分析プレート。
【請求項14】
個々のパックとして又はいくつかのプレートを含むパックとして販売される、
10~13のいずれか一項に記載の分析プレート。
【請求項15】
上記プレートは、各々が抗菌剤を保持する複数の機能化された分析ゾーンを含むことを特徴とする請求項
10~14のいずれか一項に記載の分析プレート。
【請求項16】
上記プレートは、第1の抗菌剤を保持する第1の機能化された分析ゾーンと、上記第1の抗菌剤とは異なる第2の抗菌剤を保持する上記第1のゾーンとは異なる第2の機能化された分析ゾーンとを少なくとも含むことを特徴とする請求項
10~15のいずれか一項に記載の分析プレート。
【請求項17】
その後の工程で基準微生物の集団を受けるための少なくとも1つの基準分析ゾーンを含み、該基準分析ゾーンの表面は抗菌剤を含まないことを特徴とする請求項
10~16のいずれか一項に記載の分析プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物学の分野に関する。より正確には、本発明は、質量分析法、特に、MALDI-TOFとして知られるマトリックス支援脱離イオン化(matrix-assisted desorption-ionization)及び飛行時間(time of flight)による質量分析法(MS:mass spectrometry)を使用して、少なくとも1種の微生物の集団を特性解析することに関する。
【背景技術】
【0002】
MALDI-TOF法は、種レベルでの微生物の迅速な同定を行うために数年間使用されてきた。このタイプの特性解析に適した様々なタイプの装置は、本出願人並びに特にBruker Daltonics及びAndromasによって市販されている。
【0003】
微生物は、その微生物の科、属及び通常は種を同定するために、その微生物中の最も豊富なタンパク質のMALDI-TOFスペクトルから、参照データとの比較によって同定される。一般に、使用されるプロトコルは、MALDIプレート上に微生物コロニーの少なくとも一部を堆積させることと、MALDI法に適したマトリックスを加えることと、マススペクトルを取得することと、データベース内に格納された参照データとの比較によって種を同定することとを含む。
【0004】
より近年には、MALDI法は、微生物の抗生物質への耐性を検出するために、特に、β-ラクタマーゼ系酵素、特にカルバペネマーゼ系の分泌による、β-ラクタム系抗生物質の加水分解を引起こす表現型を同定するためにも使用されている。この点においては、特許文献1及び2の出願が挙げられる。MALDI-TOFによる耐性の特性解析は、β-ラクタム抗生物質の加水分解型及び/又は未変性型の消失を、β-ラクタマーゼを産生可能な微生物を含有し得るサンプルの上記抗生物質とのインキュベーション後に検出することを含む。
【0005】
それらの特許出願には、堆積されるサンプルの調製については詳細に記載されていないが、一般的には、微生物を予め抗生剤と混合しておいた後、混合物をMALDIプレート上に堆積させる、あるいは微生物の溶菌液を使用することが想定される(特許文献2、特に請求項15を参照)。
【0006】
特許文献3は、質量分析法を用いて、ある物質のβ-ラクタマーゼ類に対する阻害作用を評価することを想定しており、その評価は細菌の存在下で行ってもよい。
【0007】
次の刊行物(非特許文献1~4)には、サンプルを調製するために行われるべきプロトコルのより詳細な説明が記載されており、該プロコトルは、
・微生物のコロニーを含む接種菌液を調製する工程と、
・該接種菌液を遠心分離する工程と、
・溶解試薬を用いて又は用いずに、細菌ペレットを抗生物質の溶液にて再懸濁させる工程と、
・30分~3時間の期間インキュベートする工程と、
・遠心分離する工程と、
・1マイクロリットルの上清をMALDIプレートへと移し、1マイクロリットルのマトリックスを加え、MALDI-TOF質量分析法による分析を行う工程とを含む。
【0008】
このため、MALDI-TOF法によって耐性を検出する前のサンプルの調製は、長くて煩雑である。実際に、MALDI-TOF法によって耐性を検出するのに使用される手順は、高濃度の接種菌液を調製すること、及び/又は、1以上の遠心分離工程を必要とする。それらの工程は、材料、消耗品及び特定の機器を必要とするため、消耗品、時間及び作業者の技能を消耗するものである。さらに、一日当たりに多数のサンプルの特性解析を行うことが想定できないことから、そのようなタイプの事前の調製により、耐性の検出のために日常的にMALDI-TOF法を使用することが困難になってしまう。実際に、MALDI-TOF法による耐性の現象の同定を行うための装置の可用性と、義務的な調製工程後に得られるサンプルの可用性との間にずれが生じることが多い。別の問題として、細菌を10μL~50μL程度の量の抗生物質とインキュベートすることによって、酵素と抗生物質との相互作用を減少させるリスクが高くなる可能性がある。この結果、酵素活性の有効性の減少が生じる可能性があり、これは、特に、少量の酵素を産生又は分泌することが知られている微生物の場合に、検出の感度及び結果として方法の堅牢性に影響を及ぼし得る。
【0009】
特許文献4及び1の出願には、抗菌剤への耐性の検出が、タンデム質量分析(MS-MS:mass spectrometry-mass spectrometry)及び多重反応モニタリング(MRM:multiple reaction monitoring)等の他の質量分析法を使用することによっても行うことができると記載されている。このような状況下において、質量分析法による分析及び結果としてイオン化は、微生物に対してではなく、様々な精製操作後に得られたタンパク質に対して行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2012/0196309号明細書
【文献】国際公開第2012/023845号
【文献】国際公開第2013/113699号
【文献】国際公開第2011/045544号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Hrabak、Walkova et al.2011
【文献】Hooff、van Kampen et al.2012
【文献】Hrabak、Studentova et al.2012
【文献】Sparbier、Schubert et al.2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の文脈において、本発明者らは、MALDI法によって微生物を特性解析するための特性解析ゾーンを作製する新規な方法であって、抗生物質への耐性を同定するために使用されることができ、かつ実施の簡単な方法を実施することを提案する。さらに、この新規な方法は、特性解析ゾーン中に存在するサンプルの様々な特性解析を得ることに適合しており、少なくとも1つの特性解析は、抗生物質への耐性を同定することに該当するものであり、別の特性解析は、微生物を同定することに該当するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、MALDI-TOF法を使用して少なくとも1つの微生物を含有するサンプルを特性解析する方法を提供する。該方法を用いて、比較的短期間内、すなわち数時間~1時間程度又はさらに短い期間内で、存在する微生物集団が少なくとも1種の抗菌剤に耐性があるか否かを識別することができる。
【0014】
本発明はさらに、少なくとも1種の抗菌剤の存在下で少なくとも1種の微生物の集団の少なくとも1つの特性解析を行うために分析プレートの特性解析ゾーンを作製する方法であって、上記特性解析は質量分析法による分析を含み、該分析中に、上記分析ゾーン上に堆積された上記少なくとも1種の微生物の集団は、MALDIとして知られるマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法に従って上記分析ゾーンにレーザビームを照射することによって少なくとも1つのイオン化工程に供され、
上記分析ゾーンを作製する方法は、
MALDI法による特性解析のための分析プレートを提供する工程であって、上記プレートは、抗菌剤を保持する少なくとも1つの分析ゾーンを含む、工程と、
上記少なくとも1種の微生物の集団を、上記抗菌剤と接する上記分析ゾーン上に堆積させる工程と、
上記抗菌剤と存在する上記微生物とが相互作用できる充分な時間及び条件下で上記分析プレートを保管するインキュベーション工程と、
MALDI法に適したマトリックスを上記分析ゾーン上に堆積させる工程とを順次含むことを特徴とする作製方法に関する。
【0015】
本発明に係る作製方法の文脈において、特性解析対象の単一の微生物の集団が堆積されることが好ましい。したがって、その際には、上記特性解析ゾーンは単一の微生物を特性解析するために使用されてもよい。
【0016】
本発明によれば、上記堆積された微生物集団は、抗菌剤と接触する事前の工程無しに調製される。すなわち、上記堆積された微生物集団は、堆積される前に、上記特性解析ゾーン上に存在する上記抗菌剤と混合されない。
【0017】
本発明に係る方法は、濃縮、富化及び/又は精製の工程後に得られる微生物集団、及び/又は、好適な培地、特にゲル培地での増殖後に得られるコロニー又はコロニーの画分に相当する微生物集団に対して行われるのが有利である。
【0018】
一例として、本発明の文脈において、上記抗菌剤は、β-ラクタマーゼ、特にカルバペネマーゼの産生による耐性が同定できるように選択される。
【0019】
通常、上記抗菌剤は、抗生物質であり、好ましくはペニシリン類、セファロスポリン類、セファマイシン類、カルバペネム類及びモノバクタム類から、特にアンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、ピペラシリン、セファロチン、セフロキシム、セフォキシチン、セフィキシム、セフォタキシム、セフタジジム、セフトリアキソン、セフポドキシム、セフェピム、アズトレオナム、エルタペネム、イミペネム、メロペネム及びファロペネムから選択される。
【0020】
本発明に係る作製方法は、機能化ゾーンと称される抗菌剤を保持する少なくとも1つの分析ゾーンを含むMALDI法による特性解析のための上記分析プレートを得るための機能化工程を含んでいてもよく、上記機能化工程は、好ましくは、上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させることによって行われる。
【0021】
本発明はさらに、少なくとも1種の微生物の集団を特性解析する方法であって、該特性解析は、少なくとも1種の抗菌剤に耐性がある微生物の集団が存在するか否かを判定することを少なくとも含み、上記方法は、
本発明の作製方法に従って分析プレートの少なくとも1つの特性解析ゾーンを作製する工程と、
上記抗菌剤に耐性がある微生物の集団が上記特性解析ゾーン上に存在するかどうかを結論付けることができるように、MALDI-TOFとして知られるマトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法を使用して上記特性解析ゾーン上に堆積された微生物集団を少なくとも1回分析する工程とを順次含むことを特徴とする特性解析方法に関する。
【0022】
特に、上記抗菌剤に耐性がある微生物の集団が上記特性解析ゾーン上に存在するかどうかを結論付けるためにMALDI-TOF法を用いた質量分析法によって行う上記分析は、上記抗菌剤及び/又は上記抗菌剤の分解物の存在を検証することからなる。
【0023】
本発明に係る特性解析方法は、少なくとも2つの特性解析を含むのが有利である。特に、上記特性解析はさらに、上記特性解析ゾーン上に堆積された微生物集団の科、属又は好ましくは種を同定することを含む。
【0024】
好ましくは、本発明に係る特性解析方法は、
特性解析ゾーンをイオン化する第1の工程に対応するMALDI型質量分析法による第1の分析、及び、該分析のために第1の校正を行うことによって、上記特性解析ゾーン上に堆積された微生物集団の科、属又は好ましくは種を同定することと、
同一の特性解析ゾーンをイオン化する第2の工程に対応するMALDI-TOF法を用いた質量分析法による第2の分析、及び、該分析のために第2の校正を行うことによって、上記抗菌剤に耐性がある微生物の集団が上記特性解析ゾーン上に存在するかどうかを判定することとを含む。
【0025】
このような状況下で、上記微生物集団の科、属又は好ましくは種の同定、及び、上記抗菌剤が存在するかどうかの判定は、同一の微生物に関わることが好ましい。
【0026】
本発明はさらに、少なくとも1種の微生物の集団を特性解析する方法であって、該特性解析は、
微生物集団、抗菌剤及びMALDI法に適したマトリックスを含む特性解析ゾーンをイオン化する第1の工程に対応するMALDI法を用いた質量分析法による第1の分析を行うことによって、微生物集団の科、属又は好ましくは種を同定することと、
少なくとも1種の微生物の集団、抗菌剤及びMALDI法に適したマトリックスを含む特性解析ゾーンをイオン化する第2の工程に対応するMALDI法を用いた質量分析法による第2の分析を行うことによって、少なくとも1種の抗菌剤に耐性がある微生物の集団の存在を判定することとを少なくとも含み、
上記第1の分析及び上記第2の分析はそれぞれ、上記少なくとも1種の微生物の集団及び上記抗菌剤を含む同一の特性解析ゾーンをイオン化する別個の第1の工程及び別個の第2の工程によって行われ、
上記第1の分析は第1の校正を使用し、上記第2の分析は上記第1の校正とは異なる第2の校正を使用することを特徴とする特性解析方法を提供する。
【0027】
堆積させた上記集団は、特性解析対象の単一の微生物を含むことが好ましい。
【0028】
このタイプの特性解析方法は、本発明に係る分析プレートの特性解析ゾーンを作製する方法を用いることが好ましい。
【0029】
本発明の文脈において、同一の特性解析ゾーン及び結果として同一の微生物集団は、微生物の抗菌剤への耐性の現象の特性解析と、上記微生物の同定という2つの所望の特性解析を得るために、2回のイオン化に順次供される。本発明はさらに、MALDI法に適合した分析プレートの分析ゾーンを機能化する方法であって、
上記分析ゾーンに抗菌剤を保持させるように上記分析ゾーンを機能化する工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0030】
上記機能化工程は、上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させることによって実施されてもよい。
【0031】
本発明はさらに、MALDI法を用いた質量分析法によって分析ゾーン上で特性解析対象の少なくとも1種の微生物の集団を受けるための分析プレートであって、該分析プレートの上記分析ゾーン上に、特に固形堆積物の形態で、堆積された抗菌剤を含むことにより、機能化されたと言われる分析ゾーンを形成していることを特徴とする分析プレートを提供する。特に、このタイプの分析プレートにおいて、上記抗菌剤を保持する上記機能化された分析ゾーンは、MALDI法によって検出可能な量の微生物を含まない、及び/又は、上記抗菌剤を保持する上記機能化された分析ゾーンは乾燥している。
【0032】
「乾燥している」という用語は、特に、抗菌剤が溶液状ではなく、堆積された分析ゾーンに付着している固形堆積物の形態であることを意味する。特に、機能化されたと言われる分析ゾーン上に抗菌剤を維持することは、静電結合、イオン結合、共有結合若しくは親和性結合によって、又は、実際には接着剤によって達成された。特に、上記接着剤は、水溶性ポリマーであってもよい。上記分析ゾーン上に上記抗菌剤を固定化するために使用できた接着剤の例としては、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリンが挙げられる。
【0033】
特定の実施形態では、特性解析対象の少なくとも1種の微生物の集団を受けるための分析プレートにおいて、上記機能化された分析ゾーンは、単一の抗菌剤を保持する。
【0034】
本発明に係る少なくとも1種の微生物の集団を受けるための分析プレートは、密閉されたパッケージに包装されてもよい。特に、上記密閉されたパッケージは、上記プレートを光及び湿気から保護するのに好適であった。
【0035】
上記機能化された分析ゾーンは、上記抗菌剤の水溶液を堆積させてから乾燥させることによって得ることができた。
【0036】
このタイプのプレートは、各々が抗菌剤を保持する複数の機能化された分析ゾーンを含んでいてもよく、特に、第1の抗菌剤を保持する第1の機能化された分析ゾーンと、上記第1の抗菌剤とは異なる第2の抗菌剤を保持する上記第1のゾーンとは異なる第2の機能化された分析ゾーンとを少なくとも含んでいてもよい。
【0037】
通常、このタイプのプレートは、その後の工程で基準微生物の集団を受けるための少なくとも1つの基準分析ゾーンを含み、該基準分析ゾーンの表面は抗菌剤を含まない。
【0038】
本発明はさらに、本発明に係る特性解析方法における本発明に係る分析プレートの使用を提供する。
【0039】
以下に添付の図面を参照して行う説明は、本発明のより良い理解に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】MALDI-TOF法により実施例において得られたマススペクトルである。図中、強度スケールは、スペクトルの最も強いピークを参照した相対的なスケールである。例として、選択される質量範囲(特に200m/z~1200m/z)にわたって、最も強いピークが100mVである場合、(スペクトルの左側に記載されるように)それが100%と示される。より強度の弱いピークは、最も強いピークに相対的に示されるため、75mVの強度を有するピークは、(100mVの最大強度ピークを含むスペクトル上では)スケールの75%に達する。その結果、同一のスペクトルについて、菌株間でピークの強度のレベルを比較することはできない。反対に、これらのスペクトルは、1つの同一の菌株について、抗菌剤の未変性のピークとその分解物のピークとの間で強度を比較するために使用されることができる。さらに、1つの同一の菌株について、未変性ピーク又は加水分解ピークと、試験される微生物の生物/酵素活性によってもたらされる変動を受けていないコントロールピークとの間で強度を比較することも可能である。コントロールピークとしては、HCCAマトリックスのピーク、マトリックスに加えられたか、分析ゾーン上で既に乾燥されたペプチド又は基準分子のピークが考えられる。
【
図3】MALDI-TOF法により実施例において得られたマススペクトルである。
【
図4】MALDI-TOF法により実施例において得られたマススペクトルである。
【
図5】接種ループでかき取る前後の、接着剤(ヘプタキス)の存在下及び非存在下で、抗生物質ファロペネムがその上に堆積された分析ゾーン(スポット)の外観を示す図である。
【
図6】HCCAのコントロールピークと比較した場合の、MALDI-TOF法によって得られた未変性のファロペネム及び加水分解されたファロペネムのピークの強度の比の変動を[ヘプタキス]/[ファロペネム]比に応じて示す図である。
【
図7】実施例5の、第2の一連の取得中に得られたマススペクトルを示す図である。
【
図8】304/308強度の比及び304/330強度の比の変動を、実施例5において試験した2つの菌株に使用した接種菌液の濃度に応じて示す図である。
【
図9】液体状の微生物集団を堆積させるのに適合し得るMALDIプレートを組込んでいるケースの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
MALDI分析プレート
MALDI分析プレートは、少なくとも1つ、一般的には複数の分析ゾーンを有する。分析ゾーンは、通常は形状が円形のスポットの形態である。後のイオン化を促進するために、少なくとも分析ゾーンのレベルで、プレートの表面は導電性である。一例として、このタイプの分析プレートは、ポリプロピレン等のポリマーによって形成されており、上記ポリマーは、ステンレス鋼の層でコーティングされている。ポリマーは、カーボンブラック等の導電性材料を含有していてもよい。一例として、該プレートは、「Fleximass(商標)DSディスポーザブルMALDIターゲット」を参考として、島津製作所によって販売されるプレートであってもよい。
【0042】
bioMerieuxによる(ディスポーザブル又は再利用可能な)Fleximass DSプレート及びBruker DaltonicsによるMaldi Biotargetプレート等、種々のMALDIプレートが市販されている。このタイプのプレートIは、通常、48~96個の分析ゾーン1又はスポットと、少なくとも1つ又は2つ若しくは3つの基準分析ゾーン2とを含み、基準分析ゾーン2のサイズは、
図1の例に示すように、分析ゾーンのサイズと異なっている。
【0043】
本発明の文脈において、「特性解析ゾーン」という用語は、抗菌剤、微生物集団及びMALDI法に適したマトリックスを保持する分析ゾーンに使用される。
【0044】
分析ゾーンの機能化
「抗菌剤」という用語は、微生物の生存率を減少させる、及び/又は、その増殖若しくは繁殖を減少させることの可能な化合物を意味する。このタイプの抗菌剤は、細菌に対して適用される場合、抗生物質であってもよい。しかしながら、本発明は、細菌、酵母、カビ又は寄生生物といった任意の種類の微生物及び結果として対応する抗菌剤にも適用される。
【0045】
好ましくは、抗菌剤は、β-ラクタム等の抗体であり、特に、ペニシリン類、セファロスポリン類、セファマイシン類、カルバペネム類及びモノバクタム類から、特にアンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、ピペラシリン、セファロチン、セフロキシム、セフォキシチン、セフィキシム、セフォタキシム、セフタジジム、セフトリアキソン、セフポドキシム、セフェピム、アズトレオナム、エルタペネム、イミペネム、メロペネム及びファロペネムから選択される。
【0046】
カルバペネム類は、腸内細菌科、シュードモナス属(Pseudomonas)及びアシネトバクター属(Acinetobacter)等のグラム陰性菌を駆除する最終手段として特に使用される。このため、このタイプの抗生物質は、存在する微生物がカルバペネム類に耐性を有し得る腸内細菌又は別のグラム陰性種であると疑われる場合に、分析ゾーン上に堆積される。
【0047】
好ましくは、抗菌剤の水溶液から堆積される。
【0048】
抗菌剤の溶液を調製するために、抗菌剤の溶解性及び標的とされる耐性の由来となるメカニズムの最適化された活性に適合した緩衝液を使用することもできる。メタロ-β-ラクタマーゼの最適化された活性のために、抗菌剤溶液に亜鉛塩(特に、塩化亜鉛又は硫酸亜鉛タイプのもの)を加えることも想定される。
【0049】
例えば、1~2マイクロリットル程度の抗菌性溶液1滴を、分析ゾーン全体が覆われるように堆積させることができる。その後、溶液に含まれる水を、例えば単純に周囲空気中周囲温度で乾燥させることによって蒸発させる。一例として、分析プレートは、17℃~40℃の温度範囲、特に周囲温度(22℃)で放置されてもよい。さらに、乾燥を加速させるために、例えば37℃の恒温器付きチャンバに移すことも可能である。
【0050】
抗菌剤は、極めて簡単に水溶液中に堆積され、この堆積の後に乾燥操作が行われる。これにより、機能化されたと言われる、抗菌剤を保持する分析ゾーンが得られる。さらに、静電結合、イオン結合、共有結合若しくは親和性結合によって、又は、接着剤により、抗菌剤が分析ゾーン上に固定化されることも可能である。抗菌剤を単純に堆積させるだけでは、その良好な固定化は得られないであろう。具体的には、抗菌剤が特性解析ゾーンに充分に付着しないと、微生物集団を堆積させる際に抗菌剤が失われる可能性があり、これには、堆積物を形成する際に作業者側で一定の器用さが必要とされる場合があり、さもなければ実際に、その後の使用のためのMALDIプレートの保存中に堆積物が離脱することによって抗菌剤が失われる可能性がある。さらに、単純な堆積の代わりに、分析ゾーンの表面及び抗菌剤に既にグラフトされたビオチン/ストレプトアビジンの相互作用を使用することによって、又は、抗菌剤の性質及び分析ゾーンの表面に適合した任意の他のタイプの結合によって、又は、実際には接着剤によって、特異的であってもよいリンカー又はアーム(抗体、組換えファージタンパク質)を用いて又は用いずに、静電結合、イオン結合又は共有結合を介して抗菌剤を分析ゾーンに連結させることができる。しかしながら、結合又は堆積の方式は、抗菌剤の微生物とのいかなる相互作用も損なわれないように選択されるべきである。なぜなら、それにより、耐性現象が隠されてしまい得るためである。特に、抗菌剤のコンフォメーションの変化を防ぎ、微生物によって発生され得る酵素の活性部位に適切にアクセスできることを確実にするために、共有結合又は親和性結合によってではなく、接着剤を使用することによって、抗菌剤を固定化することが好ましい。
【0051】
接着剤を使用する場合、すなわち、プレートに付着することにより、プレートへの抗菌剤の固定化を改善する試剤を使用する場合、水溶液に溶解した接着剤と抗菌剤との混合物が堆積される。特に、接着剤は、水溶性ポリマーであってもよい。分析ゾーンに抗菌剤を固定化するために使用可能な接着剤として挙げられる例としては、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリンがある。接着剤は、分析ゾーン上に固定化される抗菌剤に応じて選択されるべきである。特に、接着剤は、その存在が、存在する抗菌剤及び/又はその分解物の存在又は非存在を判定することを目的とする後のMALDI検出を歪ませないように、接着剤の質量に応じて選択されるべきである。当業者は、使用する接着剤の量を調整するべきであり、この量は、微生物集団が堆積された際に、抗菌剤が該微生物集団にアクセス可能になることを確実にするために、過多になってはならない。例として、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリンの場合、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリンを抗菌剤で割った重量比を、1/20~1/2、好ましくは1/10~1/5の範囲で選択することが可能である。
【0052】
当業者は、分析ゾーン上に堆積される抗菌剤の量を当該抗菌剤に応じて適合させるべきである。実際に、分子のイオン化度に依存して、バックグラウンドノイズを超える強度でMALDI-TOFにおいて抗菌剤に対応するピークを検出可能にするためには、充分な量が堆積される必要がある。反対に、抗菌剤の量が多過ぎると、特性解析対象の耐性の由来となる現象の検出をマスキングしてしまうリスクが冒されるため、未変性の抗菌剤に対応するピークの強度の減少が観測できなくなる。過剰な抗菌剤は、特に低い活性を有するβ-ラクタマーゼ類の検出を損なう場合がある。例として、0.04g/m2~4g/m2の抗菌剤が堆積されるべきである。このために、水、特に超純水に溶解した抗菌剤の溶液が、0.1mg/mL~10mg/mLの濃度で堆積されるべきである。一例として、アンピシリンの場合、1.7mg/mL~10mg/mLのアンピシリンを含む水溶液を堆積させることができ、ファロペネムの場合、0.1mg/mL~1mg/mLのファロペネムを含む水溶液を堆積させることができる。
【0053】
特性解析ゾーンは、好ましくは単一の抗菌剤を保持すべきであるが、1つの同一の分析ゾーン上での複数の抗菌剤の使用が除外されるわけではない。複数の抗菌剤を保持する特性解析ゾーンを用いて、同時に複数の酵素の存在を、結果として異なる耐性現象を調べることができる。複数の抗菌剤を保持する特性解析ゾーンが使用される場合、それらの抗菌剤がMALDI-TOFによって別々に検出可能となるように、標的酵素の作用下でそれらの未変性型及び/又は分解物の質量が重複しないように抗菌剤が選択されるべきである。例として、第1の抗菌剤に加えて、同一の科又は異なる科の別の抗菌剤を堆積させることが可能である。例として、一定のカルバペネム類は、特定のカルバペネマーゼを明らかにするのにより適合している。このため、1つの同一の特性解析ゾーン上に複数のタイプのカルバペネム類又は他のβ-ラクタム類を有することが想定可能である。反対に、1つの同一のゾーン上に2つの抗菌剤が堆積される場合、抗菌剤は、それらの活性のスペクトルが互いに干渉せず、MALDI-TOFによって個別に検出可能となるように選択されるべきである。
【0054】
さらに、抗菌剤に加えて別の化合物を堆積させることも可能である。β-ラクタム類の場合、特に、WO2012/023845の出願に使用されているように、ESBL現象(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase))を特性解析するために、β-ラクタマーゼ阻害剤を堆積させることも可能である。特に、β-ラクタムと、クラブラン酸、スルバクタム又はラゾバクタム(razobactam)等のβ-ラクタマーゼ阻害剤との組合せを堆積させることができる。MALDIプレートが複数の分析ゾーンを含む場合、少なくとも2つ又はそれ以上のゾーンが、異なる抗菌剤を保持するのが有利である。その際、単一のプレートでいくつかの微生物の集団を特性解析することが可能となる。各ゾーンは、異なる抗菌剤を保持してもよい。しかしながら、通常は、単一の抗菌剤が少なくとも2つ又はそれ以上の分析ゾーン上に存在するように、特性解析は2連で行われる。
【0055】
このタイプの機能化されたMALDIプレートは、消費者に直接供給されてもよく、消費者が、研究対象の微生物の集団を堆積させた後、インキュベーション工程後にMALDIマトリックスを堆積させるだけでよいようにすることもできる。それらは、個々のパックとして又はいくつかのプレートを含むパックで販売されてもよい。
【0056】
微生物集団の調製及び堆積
本発明の文脈において、微生物集団は、後に引き続きそれを特性解析するために、抗菌剤で機能化されたMALDIプレートの分析ゾーン上に堆積される。
【0057】
微生物集団は、種々の供給源由来であってよい。微生物の供給源として挙げられる例としては、生物由来、特に動物又はヒト由来のサンプルがある。このタイプのサンプルは、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄の生体液サンプル又は有機分泌物タイプ又は組織サンプル又は単離細胞に相当し得る。このサンプルは、そのまま堆積されてもよいし、又は好ましくは、検討中の分析ゾーン上に堆積される前に、当業者に既知の方法を用いて、富化若しくは培養濃縮及び/又は抽出、すなわち精製工程を含むタイプの調製に供されてもよい。しかしながら、そのようなタイプの調製は、分析ゾーン上に堆積される前に、微生物の崩壊及びその内容物の消失を引起こし得る溶解工程に相当するタイプであってはならない。微生物集団は、接種菌液として堆積され得る。本発明の文脈において、分析ゾーン上に堆積された微生物集団は、好ましくは生存微生物集団であるが、生存率に影響を及ぼし得る洗剤を用いて生体試料から微生物集団を抽出することが除外されるわけではない。しかしながら、このような状況下で、MALDIを用いて微生物集団の即座の試験を行うためには、任意の耐性の現象を検出することによって微生物集団を特性解析するために、既に存在している活性酵素のストックを使用できる。
【0058】
さらに、微生物集団の供給源は、肉、ミルク、ヨーグルト等の農業食品製品や、汚染されるおそれのある任意の他の消費可能な製品、又は、実際に化粧品若しくは医薬品であってもよい。この場合にも、このタイプの製品は、堆積させる微生物集団を得るために、富化若しくは培養タイプの調製、濃縮及び/又は抽出若しくは精製工程に供すことができる。
【0059】
通常、微生物の供給源は、微生物を富化させるように、先にブロス又はゲルでの培養下に置かれてもよい。このタイプのゲル又はブロス培地は、当業者に周知である。ゲルでの富化は、分析ゾーン上に直接堆積させることの可能な微生物のコロニーを得るために使用されることができるため、特に好ましい。
【0060】
本発明の文脈において、MS/MS又はMRM法のように、抽出又は精製工程後に得られる1つ又は複数のタンパク質ではなく、細菌集団を含む細胞培地を分析ゾーン上に堆積させることが好ましい。好ましくは、堆積された微生物集団は、少なくとも105cfuの微生物を含有する。一例として、105cfu~109cfuの微生物を堆積させることができる。例として、超純水又は緩衝液に分散した微生物の懸濁液1滴の生物量を、引き続き直接堆積させることが可能である。コロニー又は微生物コロニーの画分を堆積させることもできる。
【0061】
堆積される集団は、好ましくは、単一の微生物の種を含む。しかしながら、異なる微生物を含む集団を分析ゾーン上に堆積させることが除外されるわけではない。この場合、どの微生物が同定される耐性を提示するかを知ることができるように、これらの微生物が、異なる耐性メカニズムを発現することを知られていることが好ましい。
【0062】
本発明の文脈において、堆積されるサンプルの特定の調製を行うことは有用でない。特に、微生物集団は、抗菌剤と先に接触することなく堆積される。実際に、本発明の文脈において、堆積されるサンプルの長々として煩雑な調製を行う必要がなく、堆積された微生物集団は、遠心分離工程無しに調製されることができる。
【0063】
堆積は、微生物集団が分析ゾーン上に均一に堆積されるように行われる。この目的のために、bioMerieuxによって販売されているVITEK(登録商標)MS装置等、市販のMALDI-TOF装置の取扱説明書に示されるような、微生物の標準的な同定を行うために記載されている手順を使用することが可能である。
【0064】
しかしながら、微生物集団に加えて、検討中の耐性メカニズムに生じている酵素反応を加速させることが知られている化合物を加えることも可能である。そのような化合物は、例えば、特に、メタロ-β-ラクタマーゼの活性において重要な補助因子であるZnCl2又は硫酸亜鉛の形態の亜鉛であってもよい。そのような化合物は、抗菌剤と組合せて、又は、特性解析ゾーンの作製中の任意の他の時間に、分析ゾーン上に既に堆積されていてもよい。
【0065】
分析ゾーン上の堆積物が実際に少なくとも1種の微生物の集団を含有することは、好適な試験により、特に、それがゲル上に単離されたコロニーであることによって、初めに判定されることができる。好ましくは、単一の微生物の単一の集団が分析ゾーン上に堆積される。
【0066】
インキュベーション
微生物集団を堆積させた後、抗菌剤及び特性解析対象の微生物の集団の両方を保持する分析ゾーンは、微生物及び抗菌剤を相互作用させ、抗菌剤に耐性がある微生物の集団の存在下にある場合には、その耐性の由来となる反応/現象を生じさせるために、インキュベーション工程に供される。特に、検出される耐性現象が、堆積された微生物によって生成される酵素の存在によるものである場合、インキュベーションは、酵素反応を生じさせるように行われてもよい。
【0067】
このため、本発明の文脈において、抗菌剤への耐性の原因となる現象は、MALDIプレート上で直接起きるものであり、先行技術で起きるように、MALDIプレート上に、既に抗菌剤の存在下にある微生物集団を堆積させる前に起きるものでは決してない。抗菌剤への耐性の原因となる現象は、特性解析ゾーンに対応する最小量で起きる。このため、先行技術で遭遇される希釈の問題は限られている。
【0068】
インキュベーション条件及び期間は、当業者によって特性解析対象の耐性現象に応じて適合されるべきである。
【0069】
一例として、分析プレートは、17℃~40℃の温度範囲、特に周囲温度(22℃)で放置されてもよい。さらに、耐性現象を引き起こし得る酵素反応を促進するために、分析プレートを、例えば37℃の恒温器付きチャンバに移すことも可能である。
【0070】
特に、検出される耐性現象が加水分解反応を使用する場合、存在する微生物が乾いてしまうのを防ぐように湿度条件を適合させるべきである。少なくとも、微生物集団を含有する堆積物によって直接与えられる水分量が充分となるように、プレートは、インキュベーション中に湿った雰囲気下に置くことができる。
【0071】
選択される条件下で、インキュベーション時間は、MS MALDI-TOFにより、検出される耐性の現象、特に、酵素によって媒介される耐性現象のための酵素反応が、後に検出可能となるのに充分な時間であるべきである。インキュベーションは、通常少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも20分間、さらに好ましくは45~90分間行われる。
【0072】
本発明の文脈において、このタイプのインキュベーション工程を行うことは、耐性の現象の検出に加えて特性解析が行われる場合でも、その後の微生物の同定に有害な影響を一切及ぼさないことが分かった。
【0073】
MALDIマトリックスの堆積
一般的に、MALDI法に用いられるマトリックスは、感光性であり、分子及び存在する微生物の完全性を有しながら、微生物集団の存在下で結晶化する。特にMALDI-TOF MS法に適したこのタイプのマトリックスは周知であり、例えば、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシけい皮酸、α-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸、フェルラ酸及び2,5-ジヒドロキシ安息香酸から選択される化合物で構成される。多くの他の化合物が当業者に知られている。大気圧下又は圧力下にあっても結晶化しない液体マトリックスも存在する。レーザビームの作用下で特性解析ゾーンに存在する分子をイオン化するために使用される任意の他の化合物を使用できる。
【0074】
マトリックスを製造するためには、このタイプの化合物を、通常は水に、好ましくは「超純粋」な質の水に又は水と有機溶媒との混合物に溶解させる。従来使用されている有機溶媒として挙げられる例としては、アセトン、アセトニトリル、メタノール及びエタノールがある。トリフルオロ酢酸(TFA)を加える場合もある。例えば、マトリックスの一例は、20mg/mLのシナピン酸を50/50/0.1(v/v)のアセトニトリル/水/TFA混合液に溶解して構成される。有機溶媒は、存在する疎水性分子を溶液に溶解させることができ、水は、親水性分子を溶解するために使用されることができる。TFA等の酸の存在は、陽子の捕獲(H+)による分子のイオン化を促す。
【0075】
マトリックスを構成する溶液は、分析ゾーン上に直接堆積された後、その上に存在する微生物集団及び抗菌剤を覆う。
【0076】
場合によっては、本発明に係る方法は、特性解析ゾーンをイオン化する工程の前に、存在するマトリックスを結晶化する工程をさらに含んでいてもよい。通常、マトリックスは、マトリックスを周囲空気中で乾燥させることによって結晶化される。このため、マトリックス中に存在する溶媒は、分析プレートを、例えば17℃~30℃の温度範囲、特に周囲温度(22℃)で、数分間、例えば5分~2時間の間放置することによって蒸発される。このような溶媒の蒸発により、微生物集団及び抗菌剤が分散されたマトリックスが結晶化される。
【0077】
イオン化及びマススペクトルの取得
MALDIマトリックス中に入れられて、特性解析ゾーンを形成する微生物集団及び抗菌剤は、ソフトイオン化に供される。
【0078】
イオン化に使用されるレーザビームは、マトリックスを昇華又は気化させるのに好ましい任意の波長を有していればよい。好ましくは、紫外線波長又は赤外線波長も使用される。一例として、このイオン化は、337.1nmの紫外線(UV)放射放出窒素レーザで行われてもよい。
【0079】
イオン化中に、微生物集団及び抗菌剤は、レーザ励起に供される。その後、マトリックスは光エネルギーを吸収し、そのエネルギーの復旧によりマトリックスが昇華されて、微生物集団中及び抗菌剤中に存在する分子が脱離され、物質がプラズマと称される状態で現れる。そのプラズマ中では、マトリックス、微生物及び抗菌剤の分子間で電荷が交換される。例として、陽子はマトリックスから引き離されて、特性解析ゾーン中に存在するタンパク質、ペプチド及び有機化合物に移動できる。この工程は、存在する分子のソフトイオン化をそれらを破壊せずに行うために使用されることができる。その後、微生物集団及び抗菌剤は、異なるサイズのイオンを放出する。その後、これらのイオンは電場によって加速され、フライトチューブとして知られる減圧下のチューブ内を自由に飛行する。イオン化中及び発生したイオンの加速中に加えられる圧力は、通常10-6~10-9ミリバール[mbar]の範囲である。その際、最も小さいイオンは、より大きいイオンより速く「飛行」することにより、それらは分離される。フライトチューブの終端には、検出器が位置している。イオンの飛行時間(TOF)を用いて、それらの質量が計算される。このため、検出器に衝突する分子のm/z比に応じて、1電荷当たりの同一の質量(m/z)について、イオン化された分子の数に対応する信号の強度を表すマススペクトルが得られる。質量電荷比(m/z)は、Thomson[Th]で表される。一旦質量分析計に導入されると、特性解析ゾーンのスペクトルは、極めて迅速に、通常1分未満で得られる。
【0080】
本発明での使用に適したMALDI-TOF質量分析の方法は、マススペクトルを得るために、特に、
・MALDI分析法に適合したマトリックス中に、研究対象の微生物集団及び少なくとも1種の抗菌剤を含む特性解析ゾーンを提供する工程と、
・場合によっては、微生物集団及び抗菌剤が配置されたマトリックスの結晶化を行う工程と、
・レーザビームを用いて、微生物集団と抗菌剤との混合物及びマトリックスをイオン化する工程と、
・電位差により得られるイオン化された分子を加速させる工程と、
・イオン化され、加速された分子を、減圧下のチューブ内で自由に移動させる工程と、
・チューブの出口において、イオン化された分子の少なくとも一部を、それらが減圧下のチューブを通過するのにかかった時間を測定し、所与の時間に検出器に到達するイオン化された分子の数に対応する信号が得られるように、検出する工程と、
・検出された分子のm/z比に応じて、同一の質量電荷比(m/z)を有するイオン化された分子の数に対応する信号が得られるように、検出された分子の質量電荷比(m/z)を計算する工程とを順次含む。
【0081】
一般的に、m/z比は、減圧チューブ内のイオン化された分子の質量電荷比(m/z)と飛行時間とを関連付ける方程式として使用される、質量分析計の初期校正を考慮することによって、計算される。
【0082】
校正は、想定される特性解析に対応する質量範囲を包含するイオン化された分子を与える、(特性解析に依存する)分子又は微生物を使用することからなる。これらのイオン化された分子のm/z比は、装置が質量を適切に測定できるようにするために、標準として作用する。
【0083】
微生物を同定するために、校正は、同定に使用される質量範囲(典型的には、酵母、カビ、細菌又は寄生生物について、2000ダルトン(Da)~20000Daの範囲)を包含するm/z比を有するイオン化された分子を有する菌株を用いて行うことができる。抗菌剤に対応する信号を検出するためには、校正は、小さい質量のペプチドの混合物を用いて行われることができる。本発明の文脈において、例えば、350Da~1000Daの質量範囲を包含する検量体pepMIX6(LaserBio Labs)を使用できる。
【0084】
マススペクトルを生成するためには、任意のタイプのMALDI-TOF質量分析計を使用できる。このタイプの分析計は、
i)微生物集団と抗菌剤との混合物及びマトリックスをイオン化するためのイオン化ソース(一般的にはUVレーザ)と、
ii)電位差を加えるイオン化された分子の加速器と、
iii)イオン化され、加速された分子がその中で移動する減圧チューブと、
iv)形成された分子イオンを、それらの質量電荷比(m/z)に応じて分離するための質量分析計と、
v)分子イオンによって直接生成される信号を測定するための検出器とを含む。
【0085】
本発明の文脈において、MALDI-TOFによる分析は、好ましくは単純なMALDI-TOF分析であるが、MALDI-TOF TOFによる分析が除外されるわけではない。MALDI-TOF-TOFによる分析は、より複雑ではあるが、特に一定の状況下で検出の感度を改善させるために想定され、それには、このタイプの分析に適した装置が必要となる。
【0086】
抗菌剤への耐性の検出
「耐性」という用語は、微生物が、耐性の非存在下ではその微生物に対して有効であると認められる濃度の抗菌剤に晒されたとき、その生存率の減少又は増殖若しくは繁殖の減少を示さない現象を意味する。
【0087】
耐性メカニズムは、検討中の特性解析ゾーンについて得られるマススペクトルから、基準マススペクトルと比較して、特に上記特性解析ゾーン中に存在する抗菌剤のマススペクトルと比較して、その得られたマススペクトル上で、所与の質量を有するピーク又は質量ピークの変化を検出することによって、同定されてもよい。
【0088】
本発明の文脈において、抗菌剤の存在下で微生物に対して直接MALDI-TOFによる質量分析を行うことにより、上記抗菌剤への耐性の判定に関係する対象の分子が検出できるはずであることが証明された。このため、微生物集団の任意の耐性の判定は、
a1)例えば、抗菌剤及び/又はその分解物について基準マススペクトルを提供する工程を含み、このタイプの分解物は、耐性現象の結果であり、特に分解酵素の存在によるものであり、該判定はさらに、
b1)分析ゾーン上に堆積され、マトリックスの存在下に置かれた微生物集団及び抗菌剤(本発明に係る特性解析ゾーンに対応する)にイオン化を施す工程と、
c1)耐性の判定の対象の質量範囲で、このイオン化後に得られるマススペクトルを取得する工程と、
d1)工程c1)で得られたマススペクトルと基準スペクトルとを比較し、それにより耐性が存在するか否かを推定する工程とを含んでいてもよい。
【0089】
例えば工程d1)において、工程c1)で得られたマススペクトル上で、抗菌剤に特徴的な質量を有するピークが消失している場合、及び/又は、抗菌剤の1つ若しくは複数の分解物の特徴的な質量を有するピークの1つ若しくは複数が存在する場合、抗菌剤に耐性がある微生物が存在すると推定できる。一例として、抗菌剤若しくはその分解物の1つに特徴的な質量を有するピークと、外部検量体に特徴的な質量を有するピークとの強度の比から、又は、抗菌剤に特徴的な質量を有するピークと抗菌剤の分解物に特徴的な質量を有するピークとの強度の比から解釈できる。
【0090】
さらに、抗菌剤に特徴的な質量を有するピーク又は抗菌剤の1つ若しくは複数の分解物に特徴的な質量を有するピークと、試験される生物/酵素活性によってもたらされる変動を受けていない存在する化合物の1つ又は複数の基準ピークとの間で強度のレベルを比較することも可能である。検討される基準ピークの例としては、MALDIマトリックスの1つ若しくは複数のピーク、該マトリックスに加えられたか、あるいは分析ゾーン上で既に乾燥されたペプチド若しくは基準分子の1つ若しくは複数のピーク、又は、いくつかの種において常在しており一定である存在する微生物の分子(例えば代謝物)に対応する1つ若しくは複数のピークが挙げられる。
【0091】
耐性を判定する際、低質量、典型的には200Da~1200Daの範囲、好ましくは200Da~600Daの範囲に相当する質量範囲で校正が行われる。工程c1)で得られるマススペクトルもこの質量範囲に含まれる。この校正を行うためには、ペプチド(pepMIX6、LaserBio Labs)とHCCAマトリックスであるα-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸との混合物からなる校正溶液2マイクロリットルを、例えば基準分析ゾーン上に堆積させればよい。特性解析ゾーンをイオン化する前に、検量体がこの基準分析ゾーン上にイオン化される。この際、検量体のイオン化された分子のm/z比は、装置が質量を適切に測定できるようにするために、標準として作用する。
【0092】
本発明に係る方法は、特に、β-ラクタム系の抗生物質を分解することが知られており、特に、ペニシリナーゼ、セファロスポリナーゼ、セファマイシナーゼ及びカルバペネマーゼから選択される酵素を分泌する微生物の能力による耐性を検出するために使用されてもよい。本発明はさらに、抗菌剤の質量に変化を引起こす分解又は酵素的修飾に基づく他の耐性現象を検出するためにも好適である。一例として、エステラーゼによるマクロライド類の分解又はエポキシダーゼによるホスホマイシンの分解、アミノグリコシド類(aminosides)、クロラムフェニコール又は実際にストレプトグラミン類のアセチル化、アミノグリコシド類、マクロライド類、リファンピシン及びペプチド抗生物質のリン酸化、テトラサイクリンのヒドロキシル化、アミノグリコシド類及びリンコサミド類のアデニル化、リファンピシンのADPリボシル化、並びに、マクロライド類及びリファンピシンのグリコシル化等の耐性メカニズムを挙げることが可能である。
【0093】
「分解物」という用語は、存在する微生物の作用による抗菌剤の化学構造の修飾に対応する任意の生成物を含む。上述の分解及び酵素的修飾メカニズムに加えて、抗菌剤を不活性化する又は抗菌剤がその標的に結合しないようにする、MALDI-TOFで検出可能な基を加えることをさらに含んでいてもよい。
【0094】
耐性の検出のためのこのタイプの方法は、市販のMALDI-TOF装置を利用して、予め機能化されたMALDIプレートで行われてもよい。耐性を検出できるようにするためには、校正及び解釈工程のみを適合させればよい。多くの臨床例で不可欠となり得る抗菌剤への耐性を検出すること、特に所与の抗生物質への耐性を日常的に迅速に判定することが、本発明の文脈において可能となっている。
【0095】
極めて短い時間内で抗生物質に耐性がある微生物の存在を同定するために使用されることができる本発明に係る特性解析方法は、特に、迅速な診断のために興味深い。これは特に、カルバペネマーゼ産生腸内細菌(CPE:carbapenemase-producing enterobacteria)を検出する場合に当てはまる。本発明に係る方法は、適用される抗生物質治療を迅速に適合させるために、病院環境下で迅速な試験を行うために使用できる。
【0096】
微生物の同定
本発明の方法によって同定できる微生物は、抗菌剤への耐性現象を提示し得る産業及び臨床現場の両方において遭遇される病原性又は病原性でないあらゆるタイプの微生物である。それらは、細菌、カビ、酵母又は寄生生物であってもよく、好ましくは細菌、カビ、酵母又は寄生生物である。本発明は、特に、細菌の研究に適用される。このタイプの微生物として挙げられる例としては、グラム陽性、グラム陰性及びミコバクテリアである。グラム陰性菌の属として挙げられる例としては、シュードモナス(Pseudomonas)、エシェリキア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシェラ(Klebsiella)、セラチア(Serratia)、プロテウス(Proteus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、シトロバクター(Citrobacter)、アエロモナス(Aeromonas)、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)、モルガネラ(Morganella)、腸球菌(Enterococcus)及びプロビデンシア(Providencia)、特に、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、シトロバクター(Citrobacter sp.)、肺炎杆菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumanii)、コマモナス(Comamonas sp.)、アエロモナス(Aeromonas sp.)、モルガネラ・モルガニー(Morganella morganii)、腸球菌(Enterococcus sp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、サルモネラ・センフテンベルク(Salmonella senftenberg)、霊菌(Serratia marcescens)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)等がある。グラム陽性菌の属として挙げられる例としては、腸球菌(Enterococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、バチルス(Bacillus)、リステリア(Listeria)及びクロストリジウム(Clostridium)がある。
【0097】
それらの主要なタンパク質に対応するこのタイプの微生物についてのMALDI-TOFによって得られる基準スペクトルは、市販のMALDI-TOF装置に付属のデータベースにおいて入手可能であって、そこに格納されており、比較によって該微生物の存在を同定することができる。
【0098】
このため、微生物集団の存在の同定は、
a2)少なくとも1つの微生物、通常は、一連の微生物についての基準マススペクトルを提供する工程と、
b2)分析ゾーン上に堆積され、マトリックスの存在下にある微生物集団及び抗菌剤(本発明に係る特性解析ゾーンに対応する)にイオン化を施す工程と、
c2)微生物の同定の対象の質量範囲で、このイオン化後に得られるマススペクトルを取得する工程と、
d2)工程c2)で得られたマススペクトルと基準スペクトルとを比較し、それにより少なくとも1つの微生物の科、属又は好ましくは種を推定する工程とを含んでいてもよい。
【0099】
微生物を同定する際、高質量、典型的には、2000Da~20000Daの範囲、好ましくは3000Da~17000Daの範囲に相当する質量範囲で校正が行われる。工程c2)で得られるマススペクトルもこの質量範囲に含まれる。
【0100】
校正は、基準微生物の集団を、プレート上に存在する基準分析ゾーンに入れ、それをMALDI-TOFによって分析することによって行われてもよい。一例として、このタイプの基準微生物は、大腸菌細菌であってもよい。この校正のために、bioMerieuxによって販売されているVITEK(登録商標)MS装置等、市販のMALDI-TOF装置の取扱説明書にある、標準的な微生物の同定を行うために記載されている手順を使用することが可能である。
【0101】
校正には、微生物を同定するための基準分析ゾーンと、耐性を特性解析するための別の基準分析ゾーンという2つの基準分析ゾーンを使用することが可能である。さらに、両方の校正を行うために同一の基準ゾーンを使用することも可能である。このような状況下で、基準ゾーンは、研究される耐性の抗菌剤で機能化されるべきである。
【0102】
本発明の文脈において、好ましいが、非本質的に、耐性を検出する特性解析と、微生物を同定する特性解析との2つの特性解析の両方が行われるべき場合、耐性は後で検出される。すなわち、耐性を検出するために必要なイオン化及び分析工程は、微生物を同定するために必要な工程の後に特性解析ゾーン上で行われる。
【0103】
1つの同一の特性解析ゾーン上で2つの特性解析が実施される場合、MALDI-TOF分析に使用される質量分析計から分析プレートを取外さずに行われてもよい。このため、この二重特性解析は、
a3)少なくとも1つの微生物、通常は、一連の微生物についての基準マススペクトル1、並びに、抗菌剤及び/又はその分解物についてのマススペクトル2を提供する工程と、
b3)基準分析ゾーン上に既に堆積された、同定に使用される検量体により、使用される質量分析計を校正する工程と、
c3)分析ゾーン上に堆積され、マトリックスの存在下にある微生物集団及び抗菌剤(本発明に係る特性解析ゾーンに対応する)にイオン化を施す工程と、
d3)微生物の同定の対象の質量範囲で、このイオン化後に得られるマススペクトルを取得する工程と、
e3)基準分析ゾーン上に既に堆積された、耐性を検出するために使用される検量体により、使用される質量分析計を2回目に校正する工程と、
f3)分析ゾーン上に堆積され、マトリックスの存在下に置かれた微生物集団及び抗菌剤(本発明に係る特性解析ゾーンに対応する)に再びイオン化を施す工程と、
・g3)耐性の判定の対象の質量範囲で、このイオン化後に得られるマススペクトルを取得する工程と、
・h3)工程d3)で得られたマススペクトルと基準スペクトル1とを比較し、それにより存在する少なくとも1つの微生物の科、属又は好ましくは種を推定する工程と、
・i3)工程g3)で得られたマススペクトルと基準スペクトル2とを比較し、それにより耐性が存在するか否かを推定する工程とを含んでいてもよい。
【0104】
したがって、工程c3)及びf3)は、1つの同一の特性解析ゾーン及び結果として1つの同一の微生物集団に対して行われるため、調製工程及び操作工程を削減できることを意味する。
【0105】
本発明の文脈において、2つの特性解析(抗菌剤への微生物の耐性の現象及び微生物の同定の特性解析)を得るために、2回のイオン化が順次施される特性解析ゾーンを生成するために、単一の分析ゾーン上における同一の微生物集団及びその単一の堆積物が使用される。
【0106】
実際に、予想外にも、抗菌剤の存在、及び、耐性現象を検出するために必要な事前のインキュベーション工程の実施は、微生物の同定の可能性を一切妨げないことが分かった。
【0107】
比較工程h3)及びi3)は、方法の終わりに又は当該各取得後に行われてもよい。
【0108】
好ましくは、堆積される集団は、単一の微生物の集団に対応し、2つの特性解析、すなわち、耐性の検出及び微生物の同定は、同一の微生物に関する。
【0109】
結論として、本発明は、
・1つの同一の特性解析ゾーンから、情報、特に抗菌剤への耐性の現象の特性解析と微生物の同定との両方を迅速に得るため、
・抗菌剤への耐性の現象を特性解析するために、MALDIプレート上にサンプルを堆積させる前の長々として煩雑なサンプルの調製を行うことなく、MALDI-TOF分析法を簡略化するため、
・耐性現象の検出の感度に良い影響を与える場合もある微生物と抗菌剤との最適な接触をMALDIプレート上で直接行うため、
・MALDI-TOFによって抗菌剤への耐性の現象の特性解析を行うために、消耗品及び手動操作に関して時間及びコストの減少を得るため、
・MALDIプレート上に堆積される前に、抗菌剤の存在下での先のインキュベーションが不要となることから、分析されるサンプルのより良いトレーサビリティ及びより良い管理を得るために、使用されることができる。
【0110】
以下の実施例は、本発明を例証するためのものであるが、決して限定的ではない。分析は、bioMerieuxによって販売されているVITEK(登録商標)MS装置で行った。分析は、取得の終わりに、以下の各実施例において行った。スペクトルは、特性解析ゾーン全体にわたって取得し、その後、次の通りに分析した。
・同定のためには、Spectra Identifier Version:2.1.0ソフトウェアに含まれるVITEK MSエンジン及びデータベースV2.0.0を利用してスペクトルを分析した。
・加水分解のためには、Launchpad V2.8取得ソフトウェアを利用してスペクトルのピークを視覚化した。
【実施例1】
【0111】
MALDI法用の適切なマトリックスと混合された抗生物質を含有する溶液1滴の、MALDIプレートの分析ゾーン上への堆積後、β-ラクタム系の抗生物質ピークをMALDI-TOFによって検出することが可能であることを示すために、予備実験を行った。本実験においては、抗生物質の、β-ラクタマーゼによって開裂される能力を評価するために、MALDIプレート(VITEK(登録商標)MSディスポーザブルスライドTO-430)の分析ゾーンをβ-ラクタム抗生物質で処理し、試験した。抗生物質β-ラクタムのモデルとしてアンピシリンを使用した。以下の工程を実施することによって実験を行った。すなわち、
・水にアンピシリンを10mg/mLの濃度に溶解した溶液2μLを、MALDIプレートの分析ゾーン上へ液滴の形態で堆積させた。その液滴が完全に乾くまで、プレートを37℃でインキュベートした。
・組換えβ-ラクタマーゼ(緑膿菌由来β-ラクタマーゼ、Sigma-Aldrich バッチL6170-550UN.CAS:9073-60-3)2μL。
・水に組換えβ-ラクタマーゼを1mg/mLの濃度で溶解した溶液2μLを、酵素活性を促進させるために、硫酸亜鉛(0.76ミリモル(mM))の形態の亜鉛を補足した水に希釈して使用し、アンピシリンを保持する乾いた分析ゾーン上に堆積させた。さらに、アンピシリンで同様に処理した別の分析ゾーン上に、亜鉛0.76mMを含有するが、酵素は含有しない2μLの水1滴を堆積させることによって、陰性コントロールを同時に行った。
・酵素反応が起きるようにプレートを周囲温度で1時間インキュベートした。
・組換えβ-ラクタマーゼを用いて又は用いずに、既にアンピシリンを含有する分析ゾーン上に、HCCAマトリックスであるα-シアノ-4-ヒドロキシけい皮酸(VITEK MS CHCAマトリックス、bioMerieux、製品番号:411071)1μLを堆積させた。
・HCCAと、検量体として用いたpepMIX6(LaserBio Labsより購入)との混合物2μLを使用して、VITEK(登録商標)MS装置でMALDI-TOF質量分析を行った。該混合物は、低質量について装置を校正するために、基準分析ゾーン上に堆積させておいた。この混合物は、9のHCCAに対して1のpepMix6(10X)を加えることによって調製された。pepMix6(10X)の溶液は、製造業者の勧告に従って、希釈剤(超純水に溶解したトリフルオロ酢酸の0.01%溶液)にて調製した。200Da~1200Daの低質量範囲についてピークを取得し、アンピシリンの未変性分子又は加水分解後のその分解副生成物に対応する分子の存在を研究した。
【0112】
すべてのサンプルをプレート上で2連で分析した。
【0113】
図2は、得られたマススペクトルを図示しており、アンピシリンがプレート上で安定でなく、インキュベーション後にβ-ラクタマーゼによって効果的に分解されたことを示している。実際に、
図2中、β-ラクタマーゼを有する分析ゾーンに対応する上側のスペクトルにおいて、アンピシリンの加水分解型に対応する主要なピークが368.09m/z(368.4m/zに対応するモノナトリウム形態のアンピシリンの計算質量)に観測され、未変性型の完全な消失が372.09m/z(372.4m/zに対応するモノナトリウム形態のアンピシリンの計算質量)に観測された。反対に、陰性コントロールについては(下側のスペクトル)、未変性のモノナトリウムの形態のアンピシリンに対応する主要なピークが372.09m/zに存在していた。陰性コントロールにおいて、アンピシリンの自然発生的加水分解も僅かに観測された。これにより、本発明に係る特性解析ゾーンを作製する方法を使用することによって、β-ラクタム類の酵素的加水分解反応がMALDI-TOF法によって検出可能であることが証明される。
【実施例2】
【0114】
本実験は、実施例1に記載されるように、アンピシリンの溶液を堆積させ、乾燥させた後に、アンピシリンを保持する分析ゾーン上に直接コロニーを堆積させた後、様々な菌株によるアンピシリンの分解を研究するために行った。
【0115】
菌株及びそれらの特徴を次の表1に示す。
【0116】
【0117】
以下の工程を行うことによって試験を実施した。すなわち、
・亜鉛(0.76mM)を補足した10mg/mLの濃度のアンピシリンの水溶液2μLを、MALDIプレートの分析ゾーン上に堆積させた(実施例1と同様)。
・堆積させた溶液の液滴が完全に乾くまで、プレートを37℃でインキュベートした。
・各菌株について、ゲル培地で24時間増殖させた後に得られたコロニーの一部を、アンピシリンを保持する分析ゾーン上に2つ堆積させた。各スポットは、微生物の同定のためのVITEK(登録商標)MS手順に記載される通りに得られた。
・プレートを、湿った雰囲気下周囲温度(20~25℃)で1時間インキュベートした。このために、プレート用インキュベーションチャンバとして、水を含有する閉鎖された容器を使用した。
・抗生物質及び細菌の両方を保持する分析ゾーンにHCCAマトリックス1μLを加えた。
・プレートを装置のチャンバ内に入れた後、真空下に置いた状態で、次の2つの工程を行うことによって、VITEK(登録商標)MS装置によりMALDI-TOFマススペクトル分析を行った。すなわち、
堆積させた大腸菌株を保持する基準ゾーンより装置を校正した(E-cal)後の、特性解析ゾーンのスペクトルの第1の取得。
pepMIX6を検量体として用いて装置を小さい質量について校正した後の、同一の特性解析ゾーンの第2の取得。この第2の取得は、チャンバの真空を破らずに、また、プレートを装置から取外さずに、第1の取得の直後に行った。
・種を同定するために、データを収集してデータベースに含まれるデータと比較した。
・抗生物質の未変性型又は加水分解型を検出するために、低質量範囲のピークを見た。
【0118】
すべてのサンプルをプレート上で2連で分析した。
【0119】
図3は、第2の一連の取得中に得られたマススペクトルを図示しており、すべてのアンピシリン耐性菌株は、使用した実験条件下でアンピシリンを加水分解できたが、アンピシリンに感受性があるとして知られる大腸菌株ATCC25922の場合には、アンピシリンの分解は一切観測されなかったことを示している。実際に、低質量での第2の取得後、感受性菌株及び陰性コントロールについては、アンピシリンの未変性型に対応する主要なピークが372.15m/zに観測されたが、すべてのアンピシリン耐性菌株については、アンピシリンの加水分解型及び未変性型の消失に対応する主要なピークが368.15m/zに位置していた。
【0120】
第1の取得及び対応するスペクトルを得た後、すべての細菌株を高レベルの信頼度で同定することができた。
【0121】
次の表2に示されるように、99.9%~100%の範囲のレベルの信頼度で、すべての特性解析ゾーンについて第1の一連の取得からMALDI-TOFによって正確に細菌を同定することができ、この実験条件が、様々な菌株を区別することも可能であることが分かった。
【0122】
【実施例3】
【0123】
種の同定及びカルバペネマーゼの産生の検出が1つの同一の特性解析ゾーンから可能であることを証明するために、他の試験を行った。このために、抗生物質カルバペネム(carbapene)のモデルとしてファロペネムを使用し、実施例2で使用したのと同一のプロトコルを使用した。ファロペネム0.5mg/mLの濃度でファロペネムの溶液を調製した。
【0124】
使用した菌株を次の表3に詳細に示す。
【0125】
【0126】
図4は、第2の一連の取得中に得られたマススペクトルを図示しており、第2の一連の取得により、これらの条件下でMALDI-TOFによってカルバペネマーゼ活性を検出することができたことを示している。本実験ではファロペネムの加水分解型は検出されなかったが、細菌によるカルバペネマーゼの産生による、ファロペネムの2つの未変性型の消失を証明することが可能であった。
【0127】
低質量での取得後、感受性菌株については、ファロペネムの2つの未変性型にそれぞれ対応する、308.13m/zにおける主要なピークが、330.13m/zにおける小さいピークとともに観測された(308.3及び330.3m/zの計算質量に対応する)。これらの2つのピークは、ファロペネムを、カルバペネマーゼIMP-1を産生する霊菌株とインキュベートしたときに失われた。
【0128】
第1の取得及びスペクトルを得た後、いずれの菌種も高レベルの信頼度で同定することができた。実施例2と同様に、表4に示される第1の一連の取得により得られた結果によって示されるように、特性解析ゾーンにおけるファロペネムの存在は、種を同定するMALDI-TOFの能力及び大腸菌系の細菌と霊菌系の細菌とを区別する可能性に影響を及ぼさなかった。
【0129】
【実施例4】
【0130】
本試験は、MALDIプレートの分析ゾーンへの抗生物質の付着性を増大させるために行った。実際に、プレート上に堆積させた抗生物質の溶液を乾燥させると、表面に弱く付着する膜が形成された。ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン(ヘプタキス、Sigma-Aldrich、製品番号H0513)を使用して、ファロペネムをMALDIプレートの表面に接着させた。付着性とは別に、ヘプタキスを使用するという選択は、その1モル当たり1331.36グラムの分子量(g.mol-1)によって奨励され、この分子量は、ファロペネム又はその加水分解物についての質量ピークに干渉しなかった。本実験中では、乾燥したファロペネムの付着並びにファロペネムの未変性ピーク及び加水分解ピークの検出に対するヘプタキスの影響を評価するために、2つの[ヘプタキス]/[ファロペネム]質量比を試験した。
【0131】
使用した菌株を次の表5に詳細に示す。
【0132】
【0133】
以下の工程を行うことによって試験を実施した。すなわち、
・ヘプタキスとファロペネムとの混合物を含有する溶液2つと、ヘプタキスを含有しないファロペネムの溶液1つとを、亜鉛(硫酸亜鉛、0.76mM)を補足したNaCl緩衝液(0.45%)を用いて調製した。これらの溶液中のヘプタキス及びファロペネムの最終濃度は次の通りであった。
ヘプタキス0mg/mL及びファロペネム1mg/mL
ヘプタキス0.1mg/mL及びファロペネム1mg/mL(重量比1:10)
ヘプタキス0.2mg/mL及びファロペネム1mg/mL(重量比1:5)
・各溶液2μLを(実施例1に従って)MALDIプレートの分析ゾーン上に堆積させた。
・堆積させた溶液の液滴が完全に乾くまで、プレートを周囲温度でインキュベートした。
・付着性を評価するために、ファロペネム又はヘプタキス/ファロペネムで機能化された各分析ゾーンを、コロニーの堆積を模倣するために接種ループを利用してかき取り、スライドを撮像した。
・ファロペネムピークの検出に対するヘプタキスの濃度の影響を評価するために、ゲル培地で24時間増殖させた後に得られたコロニーの一部を、ファロペネムを単独で保持するか又はファロペネムとヘプタキスとの混合物を保持する分析ゾーン上に4連で堆積させた。
・湿った雰囲気下37℃で2時間プレートをインキュベートした。
・抗生物質又はヘプタキス/抗生物質混合物及び細菌をさらに保持する分析ゾーンにHCCAマトリックス1μLを加えた。
・低マススペクトルを取得するために、VITEK(登録商標)MS装置を用いてMALDI-TOF質量分析による分析を行った。
・308.3m/zにファロペネムの未変性型のピーク(ファロペネム+Na)及び304.3m/zにファロペネムの加水分解型のピーク(加水分解されたファロペネム+H)並びに212.03m/zにHCCAのピークが見られた。
・すべての試験条件について、これらの3つのピークの強度を記録し、308/212比及び304/212比を計算した。本例においては、不変強度のコントロールピークとして、212m/zでのHCCAのピークを使用した。
【0134】
すべてのサンプルをプレート上で4連で分析した。
【0135】
図5は、接種ループでかき取る前後の分析ゾーン(スポット)の外観を示す。写真は、1/10及び1/5の[ヘプタキス]/[ファロペネム]比について、かき取った後に、ヘプタキス/ファロペネム混合物が、スポット全面にわたって良好に分散しており、かき取り後に良好な安定性を有していることを示している。ヘプタキスなしで乾燥された抗生物質は、スライド表面であまり安定でなく、該膜は、接種ループでかき取る間に完全に又は部分的に離脱していた。
【0136】
図6は、HCCAのコントロールピークと比較した場合の、未変性のファロペネム及び加水分解されたファロペネムのピークの強度の比の変動を、抗生物質をスライド上で乾燥させる際に使用した[ヘプタキス]/[ファロペネム]比に応じて示す。これらの値は、4つのスポットの平均値を表す。1/10及び1/5の比について、検出は、ヘプタキスなしの条件と同等であり、ヘプタキスの存在下で再現性を有するというさらなる利点を有していた。実際に、ヘプタキスの非存在下で観測された大幅な変動性(大きな誤差バー)は、コロニーの堆積中に一定のスポット上で抗生物質が全体的に又は部分的に失われたためであった。KPC型カルバペネマーゼ産生菌株とのインキュベーション後の、加水分解されたピークの出現に関しては、同様の現象、すなわち、1/10及び1/5の[ヘプタキス]/[ファロペネム]比の場合に良好な検出が観測された。
【0137】
本実験の結果は、ヘプタキスを好適な濃度(ファロペネム1mg/mLに対して0.1mg/mL又は0.2mg/mL)で使用することは、コロニーの堆積中に細菌との最適な混合を確保しながら、抗生物質を保存のためにスライド上で安定化させることができることを意味している。これらの同一の濃度において、ヘプタキスは、スポット間の結果の再現性を改善するために使用されることができ、ピークの検出又は実際にファロペネム加水分解反応にも干渉しない。
【実施例5】
【0138】
本試験は、液体堆積物すなわち接種菌液からMALDIプレートの機能化された分析ゾーン上で加水分解反応を行うことの可能性を評価するために行った。実際に、コロニー堆積中に遭遇する問題は、堆積された微生物の量及び作業者に応じた堆積物の変動性に関して標準化が欠如していることである。このため、従来のMALDI-TOF同定用途のためのスライド上にコロニーを堆積させるには、技術的訓練が必要とされ、その場合ですらも不均一な堆積物による結果の変動性のリスクが完全には排除されない。さらに、既知の濃度を有する接種菌液をMALDIプレートの機能化された分析ゾーンに塗布した。
【0139】
使用した菌株は、上記の表5に記載されている。
【0140】
以下の工程を行うことによって試験を実施した。すなわち、
・亜鉛(硫酸亜鉛、0.76mM)を補足したNaCl緩衝液(0.45%)を用いて調製した1mg/mLの濃度のファロペネムの溶液2μLを、MALDIプレートの分析ゾーン上に堆積させ、周囲温度で乾燥させた。
・3マクファーランド又は6マクファーランドの濃度の接種菌液2μLを機能化された分析ゾーンに4連で塗布した。
・湿った雰囲気下37℃で2時間プレートをインキュベートした。
・抗生物質及び細菌の両方を保持する分析ゾーンにHCCAマトリックス1μLを加えた。
・(実施例2に従って)2回の取得のために、すなわち、ファロペネムピークを観測するために低マススペクトルで1回、及び、同定のために高マススペクトルでもう1回、VITEK(登録商標)MS装置によりMALDI-TOF質量分析を行った。
・308.3m/zに未変性型のピーク(ファロペネム+Na)及び330.3m/zに未変性型のピーク(ファロペネム+2Na)並びに304.3m/zに加水分解型のピーク(加水分解されたファロペネム+H)が見られた。
・すべての試験条件について、これらの3つのピークの強度を記録し、ファロペネムの加水分解を定量するために、304/308比及び304/330比を計算した。
【0141】
すべてのサンプルをプレート上で4連で分析した。
【0142】
図7は、第2の一連の取得中に得られたマススペクトルを図示しており、6マクファーランドの強度の接種菌液の堆積後に、MALDI-TOFによってカルバペネマーゼ活性を検出することができたことを示している。実際に、細菌によるカルバペネマーゼの産生による、ファロペネムの2つの未変性型の消失及びファロペネムの加水分解型の出現を証明することが可能であった。
【0143】
低質量での取得後、感受性菌株については、ファロペネムの2つの未変性型にそれぞれ対応する、308.03m/zにおける主要なピークが、330.02m/zにおける小さいピークとともに観測された(308.3及び330.3m/zの計算質量に対応する)。これらの2つのピークは、ファロペネムを、カルバペネマーゼKPCを産生する肺炎杆菌株とインキュベートしたときに失われ、ファロペネムの加水分解型に対応する、304.06m/zにおけるピークの出現が観測された(計算質量304.03)。
【0144】
第1の取得及びスペクトルを得た後、これらの2つの菌種を高レベルの信頼度で同定することができた。表6に示される第1の一連の取得により得られた結果から示されるように、特性解析ゾーンにおけるファロペネムの存在及び接種菌液の堆積は、MALDI-TOFによる種の同定の能力に影響を及ぼさず、大腸菌系の細菌と肺炎杆菌系の細菌とを区別する可能性にも影響を及ぼさなかった。
【0145】
【0146】
図8は、304/308強度比及び304/330強度比の変動を、2つの菌株に使用された接種菌液の濃度に応じて示す。抗生物質を加水分解しない野生型菌株については、接種菌液の濃度に関わらず、2つの比の大きな変動は観測されなかった。KPC型カルバペネマーゼを産生する菌株については、両方の比において、接種菌液の濃度に比例する大きな増加が観測された。このような比の増加により、
図7に示されるように、未変性のピークの強度の減少及び加水分解されたピークの強度の増加が生じた。
【0147】
本実験の結果は、接種菌液の堆積も、MALDIプレート上の加水分解反応及びMALDI-TOF質量分析による同定に適合することを示している。さらに、4つの堆積物の平均値にわたって観測される小さな誤差バーは、結果の優れた再現性を示唆している。
【0148】
図9は、液体状の微生物集団を堆積させるのに適合し得るMALDIプレートを組込んでいるケースの一実施形態を示す。乾燥された抗生物質で既に覆われた分析ゾーンを有するMALDIプレートスライドを、内部に複数のウェル(図示するモデルでは12個)が成形されているギャラリーに配置した。同軸上に配列された6つのウェルは、脱水された状態の混濁度コントロールを含み、他の6つのウェルは空であった。スライドを収容しているギャラリー自体は、カバーを有するカセット中に配置されていた。保存の際には、このカセットは、特に光及び湿気を避けて密閉されるように包装することができる。
【0149】
この製品を使用するためのプロトコルは、
・カセットからカバーを取り外す工程と、
・12個のウェルに50μL~100μLの量の水又は生理緩衝液を充填する工程とを含み、混濁度コントロールを含む6つのウェルに充填することにより、混濁溶液が形成され、該プロトコルはさらに、
・対向するウェルの混濁度コントロールと同等の濁度が得られるようにコロニー又はコロニーの一部を加えることによって、他の6つのウェルにて接種菌液を調製する工程と、
・抗生物質を保持する分析ゾーン上に各接種菌液を2μL堆積させる工程と、
・湿った雰囲気を発生させるために、ピペットを利用してカセットに水を加える工程と、
・カバーを再配置して、1時間~2時間(又はそれ以下)37℃でインキュベートする工程と、
・抗生物質及び細菌の両方を保持する分析ゾーンにHCCAマトリックス1μLを加える工程と、
・MALDI-TOF質量分析による分析のためにスライドを回収する工程とで説明されてもよい。
【0150】
混濁度コントロールを加えることは、濃度又は濁度測定器を用いた接種菌液の調製を回避できるため時間を短縮できることを意味する。さらに、濃度計等の通常使用される測定器は、大きな体積(1mL~3mL)に適合しているため、使用する細菌が大量に必要である。
【0151】
さらに、接種菌液は、生体試料から直接得られる細菌(例えば、血液培養から抽出される細菌)の固形又は液体抽出物を用いて調製されてもよい。
【0152】
図9に示す実施形態では、6つの異なる菌株を試験することができた。このモデルは、特にウェルの数を増やすことによって、日常的に試験される菌株の量に応じて適合させることができた。
【0153】
参考文献:
Hooff,G.P.,J.J.van Kampen,R.J.Meesters,A.van Belkum,W.H.Goessens and T.M.Luider(2012).「Characterization of beta-lactamase enzyme activity in bacterial lysates using MALDI-mass spectrometry.」,J Proteome Res 11(1):79-84.
Hrabak,J.,V.Studentova,R.Walkova,H.Zemlickova,V.Jakubu,E.Chudackova,M.Gniadkowski,Y.Pfeifer,J.D.Perry,K.Wilkinson and T.Bergerova(2012).「Detection of NDM-1,VIM-1,KPC,OXA-48,and OXA-162 carbapenemases by matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry.」,J Clin Microbiol 50(7):2441-2443.
Hrabak,J.,R.Walkova,V.Studentova,E.Chudackova and T.Bergerova(2011).「Carbapenemase activity detection by matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry.」,J Clin Microbiol 49(9):3222-3227.
Sparbier,K.,S.Schubert,U.Weller,C.Boogen and M.Kostrzewa(2012).「Matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry-based functional assay for rapid detection of resistance against beta-lactam antibiotics.」,J Clin Microbiol 50(3):927-937.