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特許6992120長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20220105BHJP
   G06F 30/18 20200101ALI20220105BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220105BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/18
G06F30/23
E04B1/00 ESW
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020087120
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182231
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】中村 毅
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-099664(JP,A)
【文献】特開2008-181412(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110990913(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110765519(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106777778(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
E04B 1/00
B60M 7/00
E01D 11/00
H02G 7/00 - 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、断面性能の異なる少なくとも2種類のケーブル状線材が連結されて成る1本のカテナリー曲線モデルを作成する場合であって、前記複数のケーブル状線材の異なる断面性能を考慮したカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1) 局所座標系の平面内において、異なる断面性能を有する各区間の前記ケーブル状線材それぞれに対して設定された個別カテナリー曲線の理論式、および、隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において滑らかに連続する接続条件の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
2) 隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3) 算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていないと自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法。
【請求項2】
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、1本の電線とその両端もしくはどちらか一端に接続された碍子から構成される1本の架渉線のカテナリー曲線モデルを作成する場合であって、前記碍子を考慮したカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1) 局所座標系の平面内において、前記電線とその両端または一端の碍子それぞれに対して設定された個別カテナリー曲線の理論式、および、隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において滑らかに連続する接続条件の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
2) 隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3) 算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていないと自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法。
【請求項3】
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、両端を支持点された1本のケーブル状線材の中間部に、少なくとも1か所以上に集中荷重を受ける場合において、その集中荷重を受ける位置を境にして、その前後を同じもしくは異なる断面性能を有する個別カテナリー曲線とし、また前記集中荷重を受ける部分を一定長さの線材要素としてとして扱う、前記ケーブル状線材のカテナリー曲線モデルを作成することとし、そのカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1) 局所座標系の鉛直平面内において、前記個別カテナリー曲線に与えられた各理論式、および、前記個別カテナリー曲線と前記集中荷重を受ける部分の線材要素との接続点において滑らかに連続する接続条件の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
2) 前記個別カテナリー曲線と前記集中荷重を受ける部分の線材要素とが、その接続点において接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3) 算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていないと自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて自動的に実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、
1) 局所座標系の平面内において決定された前記初期形状であるカテナリー曲線に沿ってその両支持点間、もしくは各個別カテナリー曲線区間を分割する分割節点の座標が計算され、その初期形状であるカテナリー曲線の成立に必要な前記分割節点の節点力が算出され、それらの節点力を用いて、分割節点同士を繋ぐ線材要素の初期ひずみ計算が、与条件の下にコンピュータの演算装置にて実行され、前記記憶装置に記憶される。
2) 局所座標系で定義された前記初期形状であるカテナリー曲線の節点座標が、前記演算装置にて全体座標系に変換され、前記記憶装置に記憶される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、送電鉄塔の電線とその端部に接続された碍子とから成る架渉線、あるいは吊り橋のメインロープもしくはロープウェイのケーブルのように、長尺のケーブル状線材を含む構造物において懸垂材が描くカテナリー曲線を求める、懸垂材の形状設計方法に関する。
【0002】
なお、「架渉線」の呼称は、一般的には電線(碍子を含む)と地線を合わせたものであるが(図7参照)、本発明の説明においては「電線とその端部に取り付いた碍子とから成る送電線」と狭義に定義して用いることとする。
【背景技術】
【0003】
送電鉄塔の架渉線を例として説明する。
複数本の架渉線で連結されている送電鉄塔(図7参照)の連成系動的解析を実施する場合、特に、電線およびその両端もしくは一端に接続された碍子とから成る各架渉線のカテナリー曲線をモデル化することが必須となる。
【0004】
従来では、連成系動的解析に用いる前記カテナリー曲線の初期形状を求める場合、図1に示すフローチャートのような手順で行なわれていた。即ち、図4も参照して、
(1)先ず、i本目の架渉線を選択する。
【0005】
(2)局所座標系において、その与条件(両端支持点A、Bの座標(x’,z’)、水平張力の設計値T、線材の線密度W、線材要素のひずみ量等)がコンピュータの入力装置から入力される。
ここで、局所座標系とは、対象とする架渉線の一端を原点とした二次元座標系をいう(以下、同じ)。
【0006】
(3)支持点AとBの間で懸垂された一様な断面性能を有する線材のカテナリー曲線の一般式(図4中に示す座標x’を変数とする関数式f)が、暫定初期形状(モデルの仮定)としてコンピュータの記憶装置に前記入力装置から入力され記憶される。
ここで、暫定初期形状として一様な断面性能を有する線材のカテナリー曲線を仮定するのは、断面性能の異なる電線と碍子が連続するようなカテナリー曲線は、一般式では与えられないためである。
【0007】
(4)前記暫定初期形状を基に、前記碍子区間の線材要素に碍子重量(線密度)を考慮した固定荷重時の静的応力解析が、コンピュータの演算装置にて実施され、前記架渉線の支持点AおよびBに作用する反力(水平張力の解析値)T’が算出される。
【0008】
(5)前記演算装置にて、前記反力の解析値T’と設計値Tとが比較され、両値の差が許容誤差範囲に納まっていれば、モデルの初期形状が完成されたものとして、手順(7)へ進む。
【0009】
(6)両値の差が許容誤差範囲に納まっていない場合は、前記暫定初期形状の前記線材要素に与えるひずみ量を修正し、解析値T’と設計値Tとの差が許容誤差範囲に納まるまで、「(3)モデルの仮定→(4)静的応力解析→(5)出力結果確認→(6)ひずみ量修正→(3)モデルの仮定→(4)静的応力解析→・・・」が、前記演算装置にて繰り返される。
【0010】
(7)上記反復計算の結果、解析値T’と設計値Tとの差が許容誤差範囲に納まれば、次に固有値解析が、前記演算装置にて実行される。
【0011】
(8)コンピュータの出力装置から出力された前記固有値解析の結果から、連成系動的解析において設定する減衰(剛性比例減衰、質量比例減衰、レイリー減衰の何れか)を与えるために使用する振動モードを選別する。
【0012】
(9)以上で、i本目の架渉線解析モデルの初期形状が決定される。
【0013】
(10)以下、i+1本目について上記作業が、最終N本目の架渉線まで繰り返される。
【0014】
以上が、従来方法によるカテナリー曲線の初期形状の決定手順であるが、上記手順の内、特に、手順(5)の誤差確認と手順(6)のデータ修正は手作業で行われるので、手順(3)~(6)が連続したコンピュータ処理となっていない。
【0015】
そのため、連結される架渉線が数十本にもなることも多い送電鉄塔の耐震検討等業務において、近年、架渉線が連結された送電鉄塔の連成系動的解析の要求が増加していることもあり、その解析モデル作成に伴う出力結果の確認およびモデルの修正等に膨大な時間と労力およびコストを必要としていた。また、手作業に伴うヒューマンエラーの問題もあった。
【0016】
架渉線の動的挙動を解析する手法に関しては、例えば、特許文献1がある。特許文献1では、有限要素法を用いて、送電線(架渉線)を複数の要素の集合体として構築し、第1外力(重力等)のみが作用する第1期間における前記複数の要素の時刻歴を算出した後、前記第1外力と第2外力(地震力等)が作用する第2期間における前記複数の要素の時刻歴を算出し、前記第1外力を、前記第1期間において0から重力に対応する規定外力に漸近させ、前記第2期間において前記規定外力に維持する、送電線挙動解析方法が開示されている。
【0017】
送電線のモデル化に関しては、有限要素法を用いて、送電線(碍子部分も含む)を複数の要素の集合体として構築するとしており、地震動等の動的解析を実行する前記第2期間の開始時における送電線の初期形状は、前記第1期間において「0から重力に対応する規定外力に漸近させ」ることで決定されることになる。
【0018】
ここで、「0から重力に対応する規定外力に漸近させ」るとは、経過時間とともに規定外力(前記複数の要素のそれぞれの質量×重力加速度=m×g)まで漸増させるということ、即ち、送電線の自重に達するまで、時間刻みに外力を漸増して静的解析を繰り返すことと同義である。
【0019】
しかし、幾何学的非線形性の大きな送電線に作用させる外力が0の時(前記第1期間の時刻歴解析開始時刻)の初期形状を、どのように定義するかについては記述がない。従って、本発明の課題である架渉線(送電線)の解析モデルの初期形状をどのように決定するか、について解決手段を提供するものではなく、また、示唆するものもない。
【0020】
また、近年公表された非特許文献1には、送電鉄塔の連成系動的解析法における架渉線のモデル化に関する記述がある。しかし、その内容は、架渉線モデルの分割数の違いによる精度の差について検討したもので、分割数の妥当な範囲が示されているものの、架渉線モデルの初期形状決定については触れられておらず、かつ、示唆する記述もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特許第6536253号
【非特許文献】
【0022】
【文献】一般社団法人電気協同研究会、「送電用鉄塔耐震設計とその課題 4-3-3 架渉線」、第73巻第3号、平成30年3月、PP.93~101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、例えば、送電鉄塔の連成系動的解析方法において、連成系動的解析に用いる架渉線のカテナリー曲線モデルの形状を決定する場合、従来、手作業を含む多大な労力と作業時間を要していたが、前記架渉線のような懸垂材の解析モデルの形状決定過程において、手作業を省くと共に、従来よりも大幅に作業時間短縮できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の課題解決手段は、以下の通りである。
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、断面性能の異なる少なくとも2種類のケーブル状線材が連結して成る1本のカテナリー曲線モデルを作成することとし、前記複数のケーブル状線材の異なる断面性能を考慮したカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1)局所座標系の鉛直平面内において、異なる断面性能を有する各区間の前記ケーブル状線材それぞれに対して設定された個別カテナリー曲線の理論式、および、隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において滑らかに連続する条件(以下、「接続条件」と称す。)の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
ここで、「接続条件」を換言すれば、「異なる断面性能を有する個別カテナリー曲線同士が、同一座標系内において、その接続点で微分可能な連続関数で表現されること」である(以下、同じ)。
2)隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において(許容誤差範囲内で)接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3)算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていない(許容誤差範囲内にない)と自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて自動的に実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
これらの収れん計算は、全ての前記接続点において前記接続条件が同時に満たされるまで実行される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法である。
【0025】
また、本発明は、以下のような課題解決手段によるものである。
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、1本の電線とその両端もしくはどちらか一端に接続された碍子とから構成される1本の架渉線のカテナリー曲線モデルを作成することとし、前記碍子を考慮したカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1) 局所座標系の鉛直平面内において、前記電線とその両端または一端の碍子それぞれに対して設定された個別カテナリー曲線の理論式、および、隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において滑らかに連続する条件(接続条件)の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
2) 隣接して接続される前記個別カテナリー曲線同士が、その接続点において(許容誤差範囲内で)接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3) 算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていない(許容誤差範囲内にない)と自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて自動的に実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
これらの収れん計算は、全ての前記接続点において前記接続条件が同時に満たされるまで実行される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法である。
【0026】
また、本発明は、以下のような課題解決手段によるものである。
長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、懸垂材である前記長尺の線材の解析モデルとして、両端を支持された1本のケーブル状線材の中間部に、少なくとも1か所以上に集中荷重を受ける場合において、その集中荷重を受ける位置を境にして、その前後を同じもしくは異なる断面性能を有する個別カテナリー曲線とし、また前記集中荷重を受ける部分を一定長さの線材要素としてとして扱う、前記ケーブル状線材のカテナリー曲線モデルを作成することとし、そのカテナリー曲線の初期形状を求める際に、
1) 局所座標系の鉛直平面内において、前記個別カテナリー曲線に与えられた各理論式、および、前記個別カテナリー曲線と前記集中荷重を受ける部分の線材要素との接続点において滑らかに連続する条件(接続条件)の理論式が、コンピュータの記憶装置に入力装置により入力され記憶される。
2) 前記個別カテナリー曲線と前記集中荷重を受ける部分の線材要素とが、その接続点において(許容誤差範囲内で)接続条件を満たして1本のカテナリー曲線になるような座標が、前記理論式に基きコンピュータの演算装置により算出され、前記記憶装置に記憶される。
3) 算出された前記座標が前記接続点において、前記接続条件を満たしていない(許容誤差範囲内にない)と自動判別された場合は、前記座標が修正され、最適値を求めるための収れん計算が前記演算装置にて自動的に実行され、最終的な1本のカテナリー曲線の初期形状モデルが決定され、前記記憶装置に記憶される。
これらの収れん計算は、全ての前記接続点において前記接続条件が同時に満たされるまで実行される。
以上の手順が含まれることを特徴とする、長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法である。
【0027】
また、以上の長尺の線材を含む構造物における懸垂材の形状設計方法において、
1) 局所座標系の平面内において決定された前記初期形状であるカテナリー曲線に沿ってその両支持点間、もしくは各個別カテナリー曲線区間を分割する分割節点の座標が計算され、その初期形状であるカテナリー曲線の成立に必要な前記分割節点の節点力が算出され、それらの節点力を用いて、分割節点同士を繋ぐ線材要素の初期ひずみ計算が、与条件の下にコンピュータの演算装置にて実行され、前記記憶装置に記憶される。
2) 局所座標系で定義された前記初期形状であるカテナリー曲線の節点座標が、前記演算装置にて全体座標系に変換され、前記記憶装置に記憶される。
以上の手順が含まれる構成とすることができる。
ここで、全体座標系とは、例えば図7に図示の送電鉄塔の場合で言えば、鉄塔と架渉線を含めた連成系動的解析モデルの三次元座標系をいう(以下、同じ)。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上のような手順を含む方法によってカテナリー曲線の解析モデル作成を行うので、次のような効果が得られる。
(1) 複数の異なる断面性能区間から成る架渉線のようなカテナリー曲線モデルの初期形状作成過程において、従来のような静的応力解析の反復計算による収れん計算が不要で、かつ反復計算過程の途中で人手を介さないので、初期形状の決定に要する時間が圧倒的に短くなる。例えば、標準的な架渉線1本当たりのモデル化作業時間は、従来方法では20分程度かかっていたのを数秒程度に短縮することができる。
(2) 今後益々増大する既設送電鉄塔の耐震検討等において、連成系動的解析が求められる場合が増加していることから、その作業効率向上とコスト抑制に大いに貢献する。
(3) モデル作成の過程で人手を介さないので、出力結果の確認やデータ修正における間違い等のヒューマンエラーが生じない。
(4) カテナリー曲線の決定過程が理論式に基いているので、水平張力の設計値と解析値との誤差が、従来方法よりも大幅に少ない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】従来方法による、2基の送電鉄塔の間に接続された複数本の架渉線全てについて、モデル化が完了するまでの全体フローチャートである。
図2】本発明の方法による、2基の送電鉄塔の間に接続された複数本の架渉線全てについて、モデル化が完了するまでの全体フローチャートである。
図3】本発明の方法における、1本の架渉線モデルの初期形状が完成するまでのフローチャートを示す。
図4】一様な断面性能を有するカテナリー曲線の概念を示す模式図および理論式を示す。
図5】局所座標系の鉛直平面内において設定された、連続する3つの個別カテナリー曲線の模式図である。
図6】カテナリー曲線の、本発明の方法により決定された初期形状と従来方法による暫定初期形状との比較図である。
図7】送電鉄塔のイメージ図である。
図8】ロープウェイのイメージ図であり、(a)は全体外観図、(b)は、ゴンドラ吊り位置近傍のモデル化を説明する図である。
図9】吊り橋のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図2は本発明の方法による第1実施例であり、架渉線カテナリー曲線の初期形状がモデル化される手順を説明したフローチャートを示す。2基の送電鉄塔の間に接続される架渉線は複数本(N本)あるので、N回まで計算を繰り返すことになる。
【0031】
図2のフローチャートにおいて本発明が主として対象とする範囲は、同図中の(イ)の「モデルの形状作成」であり、その中身の詳細なフローチャートを図3に示す。
因みに、図2の破線で囲まれた過程は、図1の破線で囲まれた過程に対応する。
図3のフローチャートは電線の両端に碍子が接続されている場合であり、図5も参照して説明する。
【0032】
事前に、全体座標系の3次元空間(x,y,z)に置かれたi本目の架渉線のカテナリー曲線で結ばれた2つの支持点A、Bの座標と、電線とその両端に接続された碍子それぞれに与条件として与えられた線密度Wnおよび支持点A、Bに反力として作用させる設計水平張力Tと、がコンピュータの記憶装置に、入力装置により入力される。
【0033】
また、事前に、電線とその両端に接続された碍子それぞれの個別カテナリー曲線(理論式fj)が、A点側碍子=f1、電線=f2、B点側碍子=f3であり、それらの理論式fjと、それらの接続点P、Qにおいて2つの個別カテナリー曲線が滑らかに連続する理論式(接続条件)とが、局所座標系の座標(x’,z’)の関数として前記記憶装置に、入力装置により入力される。
【0034】
(1)i本目の架渉線を選択する。
(2)全体座標系の3次元空間(x,y,z)に置かれた支持点A、Bの座標が、コンピュータの演算装置にて、局所座標系の鉛直平面(x’,z’)に変換される。
(3)電線とその両端に接続された碍子それぞれに与条件として与えられた線密度Wnと、支持点A、Bに反力として作用させる設計水平張力Tとから、カテナリー数Cn=T/Wn(n=1,2,3)がコンピュータの演算装置にて算定される。
【0035】
(4)局所座標系(x’,z’)において、A点側碍子(f1)と電線(f2)との接続点Pの座標x’が、前記演算装置内にて仮定される。
(5)前記座標x’に対応する座標z’が、理論式f1またはf2を用いて、前記演算装置にて算定される。
(6)次に、局所座標系(x’,z’)において、B点側碍子(f3)と電線(f2)との接続点Qの座標x’が、前記演算装置内にて仮定される。
【0036】
(7)前記座標x’に対応する座標z’が、理論式f2またはf3を用いて、前記演算装置にて算定される。
(8)以上の算定された各座標から理論式f2およびf3が仮に決定される。
(9)理論式f2とf3との接続点Qにおける接続条件が満たされている(許容誤算範囲にある)かどうかの自動判別が、前記演算装置にて実行される。
【0037】
(10)前記(9)の自動判別で、接続条件が満たされていなければ、手順(6)に戻り、最適値が得られるまで、接続点Qの修正された座標(x’+増分Δ)を用いて収れんするまで、(6)~(9)のループが自動計算される。
(11)前記(9)の自動判別で、接続点Qにおける接続条件が満たされたら、以上より算定された各座標から理論式f1およびf2が仮に決定される。
(12)理論式f1とf2との接続点Pにおける接続条件が満たされている(許容誤算範囲にある)かどうかの自動判別が、前記演算装置にて実行される。
【0038】
(13)前記(12)の自動判別で、接続条件が満たされていなければ、手順(4)に戻り、最適値が得られるまで、接続点Pの修正された座標(x’+増分Δ)を用いて収れんするまで、(4)~(12)のループが自動計算される。
(14)前記(12)の自動判別で、接続点Pにおける接続条件が満たされたら、節点PおよびQにおける接続条件が共に満たされたことになり、座標x’およびx’が決定される。
(15)以上より算定された座標x’およびx’から、3つの個別カテナリー曲線の理論式(A節点側碍子=f1、電線=f2、B節点側碍子=f3)が決定され、両端に碍子を有するi本目の架渉線の初期形状が、カテナリー曲線Fとして確定される。
【0039】
(16)続いて、確定されたカテナリー曲線Fに沿ってその支持点A、B間、もしくは各個別カテナリー曲線(f1、f2、f3)区間を、例えば等分割する分割節点の座標が計算される。
なお、その分割の仕方は自由に設定できるが、数値計算の精度と解析時間あるいはコンピュータの能力を考慮する必要がある。
(17)カテナリー曲線Fの成立に必要な前記分割節点の節点力が算出され、それらの節点力を用いて、分割節点同士を繋ぐ線材要素の初期ひずみ計算が、与条件の下に、前記演算装置にて実行される。
(18)最後に、 局所座標系で定義された前記カテナリー曲線Fの分割節点座標が、前記演算装置にて全体座標系に変換される。
【0040】
(19)以上で、i本目の架渉線初期形状のモデルが完成される。
以下、架渉線全数(N本)について、上記手順(1)~(19)が実行される。
【0041】
上記実施形態は、電線の両端に碍子が接続されている場合であったが、碍子が電線の一端のみの場合は、座標x’またはx’のどちらかの算定過程を省けばよい。
【0042】
図6は、電線の両端に碍子が接続されている場合の計算結果の1例であって、L2(黒丸)が本発明の方法により決定されたカテナリー曲線の初期形状である。
【0043】
従来方法では、目標とするL2(黒丸)の曲線に近付けるために、先ず、L1(白丸)のような一様な断面性能で構成された一般的なカテナリー曲線を暫定初期形状として仮定し、碍子区間の線材要素に碍子重量(線密度)を考慮した固定荷重時の静的応力解析を、L2(黒丸)の曲線に近似するまで繰り返し実行していた。その繰り返し過程には、時間のかかる手作業も含むため、多大な時間と手間およびコストがかかっていた。
【0044】
一方、本発明では、送電鉄塔の連成系動的解析を開始するための架渉線初期形状の決定に際して、碍子区間と電線区間との接続点において滑らかに連続する条件(接続条件)が満たされるまで収れん計算が必要であるが、理論式に基き一連のコンピュータ処理にて実施されるので、図6に示す黒丸の曲線のような初期形状モデルを、極短時間で決定することができる。
【0045】
本発明の第2実施例は、ロープウェイのケーブルの支持点間に少なくとも1つのゴンドラが吊り下がっている場合のように(図8(a)、(b)参照)、同じ断面性能のケーブル状線材に集中荷重が付加されたカテナリー曲線に対するものである。
【0046】
この場合は、ゴンドラ吊り位置を境にして前後のケーブル部分を同じ断面性能の個別カテナリー曲線1(線密度W1)として扱い、ゴンドラ吊り位置に一定長さの線材要素2を設けゴンドラ自重も含めて線密度W2に換算し、線材要素2とその前後の個別カテナリー曲線1、1との接続点R、Rにおいて、前記架渉線の場合と同様に、接続条件を満たす座標の最適値をコンピュータによる収れん計算にて求めることで、前記ロープウェイのケーブルの支持点間で形成される1本のカテナリー曲線の初期形状としてモデル化することが可能になる。
【0047】
また、本発明の第3実施例は、例えば、吊り橋のメインケーブルのように、ハンガーロープからの鉛直荷重が付加されるような場合(図9参照)について適用する場合である。
即ち、前記メインケーブルが支持点間の全長にわたり同じ断面性能であるとし、複数のハンガーロープで区切られた区間のメインケーブルは、それぞれが個別カテナリー曲線と見做すことができる。
【0048】
即ち、図8(b)を参照して、前記各区間の個別カテナリー曲線1、1(線密度W1)同士の接続点がハンガーロープの吊り位置であるので、その吊り位置に一定長さの線材要素2を設け、前記ロープウェイのケーブルの場合と同様に、各ハンガーロープの吊り荷重も含めて線密度W2に換算し、線材要素2とその前後の個別カテナリー曲線1、1との接続点R、Rにおいて、接続条件を満たす座標の最適値をコンピュータによる収れん計算にて求める。この手順が、全てのハンガーロープの吊り位置について実行されることで、前記メインケーブルの支持点間で形成される1本のカテナリー曲線の初期形状を決定することが可能になる。
【0049】
本実施例では、各ハンガーロープの吊り荷重は一様ではないので、線材要素2の線密度W2は全て異なり、かつ接続点R、Rがハンガーロープ位置全てに設けられるため節点数が多く、全体のカテナリー曲線の初期形状を決定するための収れん計算には、ハンガーロープ本数が多い程、多くの時間を要する。
【0050】
なお、上記メインケーブルのハンガーロープで区切られた区間の断面性能が、場所によって異なる場合は、前記各区間の個別カテナリー曲線1、1の線密度W1を変えればよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
近年の発生確率が高まっている大地震や台風被害に鑑み、従来よりも大幅に効率良くかつ経済的に架渉線の解析モデルを作成できる本発明の方法は、特に、全国に多数現存する送電鉄塔の耐震もしくは耐風検討の促進に大いに寄与し、ひいては被害発生による停電の回避に貢献する。
【符号の説明】
【0052】
f、F:カテナリー曲線の理論式(関数)
A、B:カテナリー曲線の支持点
P、Q:電線と碍子のカテナリー曲線相互の接続点
C:カテナリー数=T/W
T、T’:水平張力
W:線密度
0:高低差がない場合のカテナリー曲線の長さ
:低支持点からのカテナリー曲線の弛度
n:原点から弛度までの水平距離
x、y、z:全体座標系の座標
x’、z’: 局所座標系の座標
1:個別カテナリー曲線(図8(b))
2:線材要素(図8(b))
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9