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  • 特許-歯車装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020169777
(22)【出願日】2020-10-07
(62)【分割の表示】P 2016148696の分割
【原出願日】2016-07-28
(65)【公開番号】P2021001693
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100187908
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 康平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】古田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 智彦
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098907(JP,A)
【文献】特開2015-137705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、
前記外筒内に少なくとも部分的に収容され、所定の回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転する内部部材と、
前記外筒と前記内部部材との間に設けた第1主軸受と、
前記第1主軸受と協働して、前記回転軸を定める第2主軸受と、を備え、
前記外筒は、筒状のケースと、前記ケースから外方に突出する環状の鍔部と、を含み、
前記ケースは、前記第1主軸受が嵌め込まれる第1筒部と、前記第2主軸受が嵌め込まれる第2筒部と、前記第1筒部及び前記第2筒部間に位置する第3筒部と、を含み、
前記鍔部は前記回転軸が延びる方向において前記第1主軸受と前記第2主軸受との間に収まる寸法を有すると共に前記第3筒部の径方向外側に位置し、前記第1主軸受の荷重作用線及び前記第2主軸受の荷重作用線それぞれは前記ケースと前記鍔部とを連続的に通過し、
前記第1主軸受及び前記第2主軸受はそれぞれ、第1端面と、前記第1端面よりも前記回転軸側に位置する第2端面と、を有する転動体を有し、
前記第3筒部の内周面に沿って複数の内歯ピンが配置され、
前記第1筒部の内周面及び前記第2筒部の内周面に対する前記第3筒部の径方向内側への突出量は、前記複数の内歯ピンが前記転動体の前記第2端面よりも径方向外側に位置する程度の突出量である
歯車装置。
【請求項2】
前記第1主軸受の荷重作用線が前記回転軸に交わる第1交点と前記第2主軸受の荷重作用線が前記回転軸に交わる第2交点との間の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定される
請求項1に記載の歯車装置。
【数1】
【請求項3】
前記2つの荷重作用線の交点は、前記鍔部内に位置する
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記第1主軸受の荷重作用線が前記第2主軸受の荷重作用線に交わる交点は、前記回転
軸に平行であり、且つ、前記第1主軸受の転動体の中心と前記第2主軸受の転動体の中心とを結ぶ直線から所定の距離だけ離れ、
前記所定の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定される
請求項1から3の何れか1項に記載の歯車装置。
【数2】
【請求項5】
前記外筒は、複数の内歯が形成された内周面を含み、
前記内部部材は、前記複数の内歯に噛み合う複数の外歯を有する歯車と、前記歯車の中心が前記回転軸の周りを周回するように、前記歯車に揺動回転を与えるクランク軸組立体と、前記クランク軸組立体を保持し、且つ、前記回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転するキャリアと、を含み、
前記クランク軸組立体は、前記キャリアによって保持される第1ジャーナルと、前記第1ジャーナルの反対側で前記キャリアによって保持される第2ジャーナルと、前記第1ジャーナルが嵌入される第1ジャーナル軸受と、前記第2ジャーナルが嵌入される第2ジャーナル軸受と、を含み、
前記第1主軸受及び前記第2主軸受の荷重作用線は、前記回転軸の延設方向において前記第1ジャーナル軸受の転動体及び前記第2ジャーナル軸受の転動体の外側を通過する
請求項1から4のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記第1主軸受及び前記第2主軸受の前記荷重作用線は、前記延設方向において前記第1ジャーナル軸受のアウターレース及び前記第2ジャーナル軸受のアウターレースの外側を通過する
請求項5に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記内部部材は、前記回転軸が延びる方向において前記第2主軸受のインナーレースとの間に隙間を空けて配置された端板を有するキャリアを含む
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項8】
前記転動体の中心を通り前記転動体の転動軸に直交する前記荷重作用線と、前記第1端面を通り前記転動体の転動軸に直交する荷重作用線と、前記第2端面を通り前記転動体の転動軸に直交する荷重作用線と、は何れも、前記ケースの前記第3筒部と前記鍔部とを連続的に通過する
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項9】
前記第1主軸受の荷重作用線は、前記第1筒部を通過することなく前記ケースの前記第3筒部と前記鍔部とを連続的に通過し、
前記第2主軸受の荷重作用線は、前記第2筒部を通過することなく前記ケースの前記第3筒部と前記鍔部とを連続的に通過する
請求項1に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頑健な構造を有する歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械といった様々な技術分野において、歯車装置が用いられている(特許文献1を参照)。歯車装置は、外筒と、キャリアと、主軸受と、を備える。外筒は、キャリアを取り囲む。主軸受は、外筒とキャリアとの間に形成された環状空間に配置され、回転軸を定める。キャリアは、回転軸周りに外筒に対して相対的に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-109264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の主軸受は、歯車装置に加わる荷重が作用する方向を定める。特許文献1の主軸受は、上述の回転軸に対して傾斜した荷重作用線を定める。本発明者等は、荷重作用線と歯車装置の部品との関係が、歯車装置の寿命に大きな影響を与えることを見出した。
【0005】
本発明は、長寿命の歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る歯車装置は、外筒と、前記外筒内に少なくとも部分的に収容され、所定の回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転する内部部材と、前記外筒と前記内部部材との間に形成された環状空間に嵌め込まれた第1主軸受と、前記環状空間に嵌め込まれ、前記第1主軸受と協働して、前記回転軸を定める第2主軸受と、を備える。前記第1主軸受の荷重作用線が前記回転軸に交わる第1交点と前記第2主軸受の荷重作用線が前記回転軸に交わる第2交点との間の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定される。
【0007】
【数1】
【0008】
上記の構成によれば、第1交点と第2交点との間の距離IIDは、以下の不等式を満たすので、第1交点と第2交点との間の距離IIDの値は、十分に大きくなる。したがって、歯車装置は、回転軸を曲げるように作用する外力に対して高い頑健性を有することができる。
【0009】
【数2】
【0010】
第1交点と第2交点との間の距離IIDは、以下の不等式を満たすので、第1交点と第2交点との間の距離IIDの値は、過度に大きくならない。したがって、過度に大きな負荷は、外筒に作用しない。
【0011】
【数3】
【0012】
本発明の他の局面に係る歯車装置は、外筒と、前記外筒内に少なくとも部分的に収容され、所定の回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転する内部部材と、前記外筒と前記内部部材との間に形成された環状空間に嵌め込まれた第1主軸受と、前記環状空間に嵌め込まれ、前記第1主軸受と協働して、前記回転軸を定める第2主軸受と、を備える。前記外筒は、筒状のケースと、前記ケースから外方に突出する環状の鍔部と、を含む。前記第1主軸受の荷重作用線及び前記第2主軸受の荷重作用線それぞれは前記ケースと前記鍔部とを連続的に通過する。
【0013】
上記の構成によれば、第1主軸受の荷重作用線及び第2主軸受の荷重作用線それぞれはケースと前記鍔部とを連続的に通過するので、第1主軸受及び第2主軸受は、実質的に高い剛性を有することができる。
【0014】
上記の構成によれば、前記2つの荷重作用線の交点は、前記鍔部内に位置してもよい。
【0015】
上記構成によれば、2つの荷重作用線の交点は、鍔部内に位置するので、外筒は、鍔部の形成位置において、十分に厚い。したがって、外筒は、2つの荷重作用線の延設方向に作用する力に対して十分に高い剛性を有することができる。
【0016】
本発明の更に他の局面に係る歯車装置は、外筒と、前記外筒内に少なくとも部分的に収容され、所定の回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転する内部部材と、前記外筒と前記内部部材との間に形成された環状空間に嵌め込まれた第1主軸受と、前記環状空間に嵌め込まれ、前記第1主軸受と協働して、前記回転軸を定める第2主軸受と、を備える。前記第1主軸受の荷重作用線が前記第2主軸受の荷重作用線に交わる交点は、前記回転軸に平行であり、且つ、前記第1主軸受の転動体の中心と前記第2主軸受の転動体の中心とを結ぶ直線から所定の距離だけ離れる。前記所定の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定される。
【0017】
【数4】
【0018】
上記の構成によれば、交点から第1主軸受の転動体の中心と第2主軸受の転動体の中心とを結ぶ直線までの距離BIDは、以下の不等式を満たすので、距離BIDの値は、十分に大きくなる。大きな距離BIDは、大きな接触角を意味するので、第1主軸受及び第2主軸受は、スラスト軸受としての高い性能を発揮することができる。したがって、歯車装置は、アキシアル方向(すなわち、スラスト方向)に作用する大きな力(すなわち、アキシアル荷重又はスラスト荷重)を受け止めることができる。
【0019】
【数5】
【0020】
距離BIDは、以下の不等式を満たすので、距離BIDの値は、過度に大きくならない。したがって、過度に大きな負荷は、外筒に作用しない。
【0021】
【数6】
【0022】
本発明の更に他の局面に係る歯車装置は、複数の内歯が形成された内周面を含む外筒と、前記外筒内に少なくとも部分的に収容され、所定の回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転する内部部材と、前記外筒と前記内部部材との間に形成された環状空間に嵌め込まれた第1主軸受と、前記環状空間に嵌め込まれ、前記第1主軸受と協働して、前記回転軸を定める第2主軸受と、を備える。前記内部部材は、前記複数の内歯に噛み合う複数の外歯を有する歯車と、前記歯車の中心が前記回転軸の周りを周回するように、前記歯車に揺動回転を与えるクランク軸組立体と、前記クランク軸組立体を保持し、且つ、前記回転軸周りに前記外筒に対して相対的に回転するキャリアと、を含む。前記クランク軸組立体は、前記キャリアによって保持される第1ジャーナルと、前記第1ジャーナルの反対側で前記キャリアによって保持される第2ジャーナルと、前記第1ジャーナルが嵌入される第1ジャーナル軸受と、前記第2ジャーナルが嵌入される第2ジャーナル軸受と、を含む。前記第1主軸受及び前記第2主軸受の荷重作用線は、前記回転軸の延設方向において前記第1ジャーナル軸受の転動体及び前記第2ジャーナル軸受の転動体の外側を通過する。
【0023】
上記の構成によれば、第1主軸受及び第2主軸受の荷重作用線は、回転軸の延設方向において第1ジャーナル軸受の転動体及び第2ジャーナル軸受の転動体の外側を通過するので、第1ジャーナル軸受及び第2ジャーナル軸受は、過度に大きな負荷を受けない。
【0024】
上記の構成に関して、前記第1主軸受及び前記第2主軸受の前記荷重作用線は、前記延設方向において前記第1ジャーナル軸受のアウターレース及び前記第2ジャーナル軸受のアウターレースの外側を通過してもよい。
【0025】
上記の構成によれば、第1主軸受及び第2主軸受の荷重作用線は、回転軸の延設方向において第1ジャーナル軸受のアウターレース及び第2ジャーナル軸受のアウターレースの外側を通過するので、第1ジャーナル軸受及び第2ジャーナル軸受は、過度に大きな負荷を受けない。
【発明の効果】
【0026】
上述の歯車装置は、長い寿命を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】例示的な歯車装置の概略的な断面図である。
図2図1に示されるA-A線に沿う歯車装置の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
本発明者等は、外筒と内部部材との間の環状空間に嵌め込まれた主軸受の荷重作用線が、外筒又は内部部材の回転軸に交わる交点の位置が、歯車装置の寿命に影響することを見出した。第1実施形態において、交点の適切な位置が説明される。
【0029】
図1は、例示的な歯車装置100の概略的な断面図である。図1を参照して、歯車装置100が説明される。
【0030】
歯車装置100は、外筒110と、内部部材120と、第1主軸受130と、第2主軸受140と、を備える。外筒110は、全体的に円筒状である。内部部材120は、外筒110内に部分的に収容される。代替的に、内部部材は、外筒110内に全体的に収容されてもよい。
【0031】
第1主軸受130は、外筒110と内部部材120との間に形成された環状空間に嵌め込まれる。第1主軸受130と同様に、第2主軸受140は、外筒110と内部部材120との間に形成された環状空間に嵌め込まれる。
【0032】
図1は、回転軸RAXを示す。回転軸RAXは、外筒110、第1主軸受130及び第2主軸受140の中心軸に相当する。内部部材120が固定されているとき、外筒110は、回転軸RAX周りに回転する。外筒110が固定されているとき、内部部材120は、回転軸RAX周りに回転する。第2主軸受140は、回転軸RAXの延設方向において、第1主軸受130から所定距離だけ離間している。
【0033】
第1主軸受130は、インナーレース131と、アウターレース132と、複数の転動体133(図1は、2つの転動体133を示す)と、を含む。インナーレース131は、内部部材120に当接する内周面を含む。アウターレース132は、外筒110に当接する外周面を含む。複数の転動体133は、インナーレース131とアウターレース132との間で環状に配置される。複数の転動体133それぞれは、インナーレース131とアウターレース132との間で転動する。
【0034】
第2主軸受140は、インナーレース141と、アウターレース142と、複数の転動体143(図1は、2つの転動体143を示す)と、を含む。インナーレース141は、内部部材120に当接する内周面を含む。アウターレース142は、外筒110に当接する外周面を含む。複数の転動体143は、インナーレース141とアウターレース142との間で環状に配置される。複数の転動体143それぞれは、インナーレース141とアウターレース142との間で転動する。
【0035】
複数の転動体133それぞれは、略円錐台である。複数の転動体133それぞれは、第1端面134と、第2端面135と、外周面136と、を含む。第1端面134は、第2端面135よりも広い。第2端面135は、第1端面134と略同軸である。第2端面135は、第1端面134よりも回転軸RAXに近い。外周面136は、インナーレース131とアウターレース132とに接触する。
【0036】
複数の転動体143それぞれは、略円錐台である。複数の転動体143それぞれは、第1端面144と、第2端面145と、外周面146と、を含む。第1端面144は、第2端面145よりも広い。第2端面145は、第1端面144と略同軸である。第2端面145は、第1端面144よりも回転軸RAXに近い。外周面146は、インナーレース141とアウターレース142とに接触する。
【0037】
図1は、複数の転動体133のうち1つの中心点FCPを示す。中心点FCPは、第1端面134と第2端面135とに略直交する線分の中点且つ転動体133の転動軸上に位置する。
【0038】
図1は、複数の転動体143のうち1つの中心点SCPを示す。中心点SCPは、第1端面144と第2端面145とに略直交する線分の中点且つ転動体143の転動軸上に位置する。
【0039】
図1は、転動体133の転動軸に対して直角の方向に延びる荷重作用線FLLを示す。荷重作用線FLLは、中心点FCPを通過し、第1交点FIPにおいて、回転軸RAXと交差する。
【0040】
図1は、転動体143の転動軸に対して直角の方向に延びる荷重作用線SLLを示す。荷重作用線SLLは、中心点SCPを通過し、第2交点SIPにおいて、回転軸RAXと交差する。
【0041】
図1は、回転軸RAXに平行な直線SAXを示す。直線SAXは、中心点FCP,SCPを通過する。本実施形態に関して、第1主軸受130と第2主軸受140との間の距離は、直線SAX上の中心点FCP,SCP間の距離として定義されてもよい。第1主軸受130と回転軸RAXとの間の距離は、回転軸RAXから直線SAXまでの距離として定義されてもよい。
【0042】
図1に示される如く、第2交点SIPは、第1交点FIPから十分に離れているので、歯車装置100は、回転軸RAXを曲げるように作用する外力に対して、十分な頑健性を有することができる。加えて、第1交点FIPと第2交点SIPとの間の距離は、過度に長くないので、第1主軸受130及び第2主軸受140は、アキシアル方向(回転軸RAXの延設方向)に作用する力とラジアル方向(回転軸RAXに直交する方向)に作用する力とを適切に受け止めることができる。第1交点FIPと第2交点SIPとの間の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定される。
【0043】
【数7】
【0044】
<第2実施形態>
軽量化の観点から、外筒は、可能な限り薄く形成されることが好ましい。しかしながら、薄い外筒は、変形しやすい。第2実施形態において、荷重作用線と外筒の形状との間の適切な関係が説明される。
【0045】
図1に示される如く、外筒110は、略円筒状のケース111と、ケース111から外方に突出する環状の鍔部112と、を含む。ケース111は、第1筒部113と、第2筒部114と、第3筒部115と、を含む。第1主軸受130は、第1筒部113と内部部材120との間に形成された環状空間に嵌め込まれる。第2主軸受140は、第2筒部114と内部部材120との間に形成された環状空間に嵌め込まれる。第3筒部115は、第1筒部113と第2筒部114との間に位置する。鍔部112は、第3筒部115と一体的に形成される。鍔部112及び第3筒部115は、回転軸RAXの延設方向において、第1主軸受130と第2主軸受140との間に位置する。
【0046】
第1主軸受130の荷重作用線FLLは、ケース111及び鍔部112を連続的に通過する。すなわち、荷重作用線FLLは、第1筒部113と鍔部112との間の段状の空間を横切らない。したがって、第1筒部113は、外方に変形しにくい。
【0047】
第2主軸受140の荷重作用線SLLは、ケース111及び鍔部112を連続的に通過する。すなわち、荷重作用線SLLは、第2筒部114と鍔部112との間の段状の空間を横切らない。したがって、第2筒部114は、外方に変形しにくい。
【0048】
図1は、荷重作用線FLL,SLLの交点ISPを示す。交点ISPは、鍔部112内に位置する。荷重作用線FLLの延設方向に作用する外向きの力及び荷重作用線SLLの延設方向に作用する外向きの力は、交点ISPにおいて、外向きの大きな合力となって現れる。しかしながら、外筒110は、鍔部112の形成位置において特異的に厚いので、外筒110は、外向きの大きな合力に抗し、ほとんど変形しない。
【0049】
歯車装置100を設計する設計者は、鍔部112内に交点ISPが位置するように、外筒110を設計することができる。この場合、交点ISPが、直線SAXから過度に離れているならば、外筒110は重くなりすぎる。一方、交点ISPが、直線SAXに近すぎるならば、外筒110は、脆弱になることもある。したがって、交点ISPと直線SAXとの間の距離は、以下の不等式によって表される範囲に設定されることが好ましい。
【0050】
【数8】
【0051】
上記の不等式が充足されるならば、距離BIDの値は、十分に大きくなる。大きな距離BIDは、大きな接触角を意味するので、第1主軸受130及び第2主軸受140は、スラスト軸受としての高い性能を発揮することができる。したがって、歯車装置100は、アキシアル方向(すなわち、スラスト方向)に作用する大きな力(すなわち、アキシアル荷重又はスラスト荷重)を受け止めることができる。
【0052】
<第3実施形態>
内部部材は、様々な部品から形成される。荷重作用線は、内部部材の脆弱な部位を通過しないことが好ましい。第3実施形態において、荷重作用線と内部部材の構造との間の適切な関係が説明される。
【0053】
図2は、図1に示されるA-A線に沿う歯車装置100の概略的な断面図である。図1及び図2を参照して、歯車装置100が説明される。
【0054】
図1に示される如く、内部部材120は、キャリア200と、歯車部300と、3つのクランク軸組立体400(図1は、3つのクランク軸組立体400のうち1つを示す)と、を含む。図2に示される如く、外筒110は、複数の内歯ピン116を含む。ケース111は、キャリア200、歯車部300及びクランク軸組立体400が収容される略円筒状の内部空間を形成する。複数の内歯ピン116は、ケース111(第3筒部115)の内周面に沿って環状に並べられ、内歯環を形成する。
【0055】
内歯ピン116それぞれは、回転軸RAXの延出方向に延びる円柱状の部材である。内歯ピン116それぞれは、ケース111の内壁に形成された溝部に嵌入される。したがって、内歯ピン116それぞれは、ケース111によって適切に保持される。
【0056】
複数の内歯ピン116は、回転軸RAX周りに略一定間隔で配置される。内歯ピン116それぞれの半周面は、ケース111の内壁から回転軸RAXに向けて突出する。したがって、複数の内歯ピン116は、歯車部300と噛み合う複数の内歯として機能する。
【0057】
図1に示される如く、キャリア200は、基部210と、端板220と、を含む。キャリア200は、全体的に、円筒状である。基部210は、第1主軸受130のインナーレース131によって囲まれた円形空間に嵌め込まれる。端板220は、第2主軸受140のインナーレース141によって囲まれた円形空間に嵌め込まれる。
【0058】
キャリア200は、回転軸RAX周りに、外筒110に対して相対的に回転することができる。キャリア200が、固定されるならば、外筒110は、回転軸RAX周りに回転する。外筒110が固定されるならば、キャリア200は、回転軸RAX周りに回転する。
【0059】
基部210は、基板部211(図1を参照)と、3つのシャフト部212(図2を参照)と、を含む。3つのシャフト部212それぞれは、基板部211から端板220に向けて延びる。端板220は、3つのシャフト部212それぞれの先端面に接続される。端板220は、リーマボルト、位置決めピンや他の適切な固定技術によって、3つのシャフト部212それぞれの先端面に接続されてもよい。本実施形態の原理は、端板220と3つのシャフト部212それぞれとの間の特定の接続技術に限定されない。
【0060】
図1に示される如く、歯車部300は、基板部211に嵌合する第1主軸受130と端板220に嵌合する第2主軸受140との間に配置される。3つのシャフト部212は、歯車部300を貫通し、端板220に接続される。
【0061】
歯車部300は、2つの歯車310,320と、を含む。歯車310は、基板部211と歯車320との間に配置される。歯車320は、端板220と歯車310との間に配置される。図2に示される如く、歯車310,320それぞれは、複数の内歯ピン116に噛み合う複数の外歯330を有する。歯車310,320は、共通の設計図面に基づいて形成されてもよい。
【0062】
歯車310,320は、内歯ピン116に噛み合いながら、ケース111内を周回移動(すなわち、揺動回転)する。この間、歯車310,320の中心は、回転軸RAX周りを周回することとなる。外筒110とキャリア200との間の相対回転は、歯車310,320の揺動回転によって引き起こされる。
【0063】
図1に示される如く、3つのクランク軸組立体400それぞれは、伝達歯車410と、クランク軸420と、第1ジャーナル軸受430と、第2ジャーナル軸受440と、第1クランク軸受450と、第2クランク軸受460と、を含む。第1ジャーナル軸受430は、基板部211に形成された円形孔に嵌め込まれる。第2ジャーナル軸受440は、端板220に形成された円形孔に嵌め込まれる。第1クランク軸受450は、歯車310に形成された円形孔に嵌め込まれる。第2クランク軸受460は、歯車320に形成された円形孔に嵌め込まれる。
【0064】
伝達歯車410は、モータといった適切な駆動源(図示せず)によって生成された駆動力を受け取る。伝達歯車410は、駆動源に直接的に接続されてもよい。代替的に、伝達歯車410は、駆動力を伝達することができる他の機構を通じて、駆動力を受け取ってもよい(間接的な接続)。本実施形態の原理は、伝達歯車410と駆動源との間の特定の接続構造に限定されない。
【0065】
クランク軸420は、第1ジャーナル421と、第2ジャーナル422と、第1偏心部423と、第2偏心部424と、を含む。第1ジャーナル421は、キャリア200の基板部211によって取り囲まれる。第2ジャーナル422は、キャリア200の端板220によって取り囲まれる。第1ジャーナル421は、第1ジャーナル軸受430に嵌入される。したがって、第1ジャーナル421は、基板部211によって保持される。第2ジャーナル422は、第2ジャーナル軸受440に嵌入される。したがって、第2ジャーナル422は、端板220によって保持される。すなわち、クランク軸組立体400は、キャリア200によって保持される。
【0066】
第1偏心部423は、第1クランク軸受450に嵌入される。歯車310は、第1クランク軸受450に取り付けられる(図2を参照)。第2偏心部424は、第2クランク軸受460に嵌入される。歯車310と同様に、歯車320は、第2クランク軸受460に取り付けられる。伝達歯車410は、第2ジャーナル422に取り付けられる。
【0067】
第1偏心部423は、第1ジャーナル421と第2偏心部424との間に位置する。第2偏心部424は、第2ジャーナル422と第1偏心部423との間に位置する。
【0068】
図1は、伝達軸TAXを示す。第1ジャーナル421は、伝達軸TAXに沿って延びる。第2ジャーナル422は、第1ジャーナル421とは反対側で、伝達軸TAXに沿って延びる。第1ジャーナル421及び第2ジャーナル422は、伝達軸TAX周りに回転する。第1偏心部423及び第2偏心部424それぞれは、円柱状に形成される。第1偏心部423及び第2偏心部424それぞれは、伝達軸TAXから偏心している。歯車310,320との間の周回位相差は、第1偏心部423及び第2偏心部424の偏心方向の差異によって決定される。
【0069】
伝達歯車410が回転すると、クランク軸420は、回転する。この結果、第1偏心部423及び第2偏心部424は、偏心回転する。この間、第1クランク軸受450を介して第1偏心部423に接続された歯車310は、複数の内歯ピン116と噛み合いながら、外筒110内で周回移動することができる。同様に、第2クランク軸受460を介して第2偏心部424に接続された歯車320は、複数の内歯ピン116と噛み合いながら、外筒110内で周回移動することができる。この結果、歯車310,320それぞれは、外筒110内で、揺動回転を行うことができる。
【0070】
外筒110が固定されているならば、歯車310,320の揺動回転の間、キャリア200は、外筒110内で回転する。キャリア200が固定されているならば、歯車310,320の揺動回転の間、外筒110は、キャリア200の外側で回転する。
【0071】
第1ジャーナル軸受430は、インナーレース431と、アウターレース432と、複数の転動体433(図1は、2つの転動体433を示す)と、を含む。インナーレース431は、第1ジャーナル421に当接する内周面を含む。アウターレース432は、基板部211に当接する外周面を含む。複数の転動体433は、インナーレース431とアウターレース432との間に環状に配置される。複数の転動体433それぞれは、インナーレース431とアウターレース432との間で転動する。
【0072】
第2ジャーナル軸受440は、インナーレース441と、アウターレース442と、複数の転動体443(図1は、2つの転動体443を示す)と、を含む。インナーレース441は、第2ジャーナル422に当接する内周面を含む。アウターレース442は、端板220に当接する外周面を含む。複数の転動体443は、インナーレース441とアウターレース442との間に環状に配置される。複数の転動体443それぞれは、インナーレース441とアウターレース442との間で転動する。
【0073】
第1ジャーナル軸受430は、歯車310,320の揺動回転の間、大きな荷重を受け、且つ、内部部材120の部品の中で比較的脆弱である。荷重作用線FLLは、第1ジャーナル軸受430のアウターレース432及び転動体433の外側を通過する。すなわち、荷重作用線FLLは、第1ジャーナル421の端面と基板部211の端面との間に形成された空間を通過し、アウターレース432及び転動体433に交差しない。したがって、第1ジャーナル軸受430は、破損しにくい。
【0074】
第2ジャーナル軸受440は、歯車310,320の揺動回転の間、大きな荷重を受け、且つ、内部部材120の部品の中で比較的脆弱である。荷重作用線SLLは、第2ジャーナル軸受440のアウターレース442及び転動体443の外側を通過する。すなわち、荷重作用線SLLは、第2ジャーナル軸受440の外側端面と、第2ジャーナル軸受440と第2ジャーナル422の端面との間に取り付けられた伝達歯車410と、の間に形成された空間を通過し、アウターレース442及び転動体443に交差しない。したがって、第2ジャーナル軸受440は、破損しにくい。
【0075】
上述の様々な実施形態に関連して説明された設計原理は、様々な歯車装置に適用可能である。たとえば、上述の設計原理は、センタークランクタイプの歯車装置に適用されてもよい。上述の様々な実施形態のうち1つに関連して説明された様々な特徴のうち一部が、他のもう1つの実施形態に関連して説明された歯車装置に適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上述の実施形態の原理は、歯車を有する歯車装置に好適に利用される。
【符号の説明】
【0077】
100・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・歯車装置
110・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・外筒
111・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ケース
112・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鍔部
116・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・内歯ピン
120・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・内部部材
130・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第1主軸受
140・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第2主軸受
200・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キャリア
310,320・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・歯車
330・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・外歯
400・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クランク軸組立体
421・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第1ジャーナル
422・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第2ジャーナル
430・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第1ジャーナル軸受
432・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アウターレース
433・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・転動体
440・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第2ジャーナル軸受
442・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アウターレース
443・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・転動体
FIP・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第1交点
FLL,SLL・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・荷重作用線
ISP・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・交点
RAX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・回転軸
SAX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・直線
SIP・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第2交点
図1
図2