(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020509875
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010348
(87)【国際公開番号】W WO2019188304
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2018064398
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】特許業務法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智和
(72)【発明者】
【氏名】松葉 陽平
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-220573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0123095(US,A1)
【文献】特開2013-33008(JP,A)
【文献】特表2016-509206(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031896(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料が流れる気体流路、前記気体試料との触媒反応の前または後に励起光によって励起されることで蛍光を発する補酵素を含む溶液を保持する溶液保持部、及び前記触媒反応の触媒となる酵素が保持されている酵素保持膜を含み、かつ一の軸上に配されている反応部と、
前記一の軸上に前記反応部と接して設けられ、かつ前記一の軸に沿った導光路を形成する導光部材と、
前記導光路を通過した前記蛍光を集光する蛍光光学系と、
前記
蛍光光学系を通過した前記蛍光を検出する検出部と、
を有し
、
前記蛍光光学系は、前記導光路を通過した前記励起光がデフォーカスされるように構成されていることを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記蛍光光学系は、前記導光路を通過した前記蛍光を平行光にする第1のコリメートレンズを含
むことを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記蛍光光学系は、前記第1のコリメートレンズを通過した前記蛍光を集光する集光レンズを有することを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記反応部から見て前記蛍光光学系の反対側に設けられ、前記励起光を前記反応部に集光する励起光光学系を有することを特徴とする請求項
1乃至3のいずれかに記載の検出装置。
【請求項5】
前記励起光光学系は、前記一の軸上に配され前記励起光を平行にする第2のコリメートレンズと、前記第2のコリメートレンズによって平行にされた前記励起光を前記反応部に集光する集光レンズと、によって構成されていることを特徴とする請求項
4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記励起光光学系の開口数は、前記導光部材の開口数よりも大きいことを特徴とする請求項
4又は5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記励起光光学系は、前記一の軸上に配され、前記励起光を遮光可能な遮光部材を含むことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の検出装置。
【請求項8】
前記反応部を通過した前記励起光の少なくとも一部の前記導光部材に対する入射角が前記導光部材の前記導光路の内面で全反射可能な最大受光角よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の検出装置。
【請求項9】
前記導光部材の前記一の軸と沿った方向に延在する側面に沿って、空間を有していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の検出装置。
【請求項10】
前記導光部材の周囲を覆うように前記導光部材を保持する保持部材を有し、
前記保持部材と前記導光部材の前記側面の間に空間を有していることを特徴とする請求項9に記載の検出装置。
【請求項11】
前記導光部材は、前記反応部と接する部位が
前記蛍光光学系に向かって窄まるように形成されていることを特徴とする請求項
1乃至10のいずれかに記載の検出装置。
【請求項12】
前記導光部材と前記検出部との間に前記蛍光の波長を含む帯域を透過する光学フィルタが設けられていることを特徴とする請求項1乃至
11のいずれかに記載の検出装置。
【請求項13】
前記気体流路、前記溶液保持部及び前記酵素保持膜のうち少なくとも一つは前記検出装置に着脱可能であることを特徴とする請求項1乃至
12のいずれかに記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体試料中に含まれる物質を検出する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素反応に伴う補酵素の減少を検出することにより、気体試料中に含まれる特定の物質を検出する検出装置が知られている。
【0003】
このような検出装置としては、例えば、アセトンなどのケトン類、又はノネナールなどの基質の反応に伴って補酵素であるNADHが減少することを利用して、気体試料中に含まれる基質の検出を行うバイオセンサシステムが特許文献1に開示されている。具体的には、特許文献1のバイオセンサシステムは、補酵素に特定の励起光を照射すると蛍光を発することを利用して補酵素の減少を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、補酵素が発する蛍光の発光量は、検出精度に影響を与える。したがって、検出可能な蛍光の光量を高めるために、光源から出射される励起光を効率よく補酵素に照射すると共に、補酵素が発する蛍光のみを効率よく検出部へ導光することが考えられる。このため、特許文献1のバイオセンサシステムでは、基質に起因して補酵素の濃度が変化する酵素近傍へ光ファイバプローブを配置し、これを介して補酵素への励起光の照射、及び補酵素が発する蛍光の検出を行っている。
【0006】
しかしながら、光ファイバの開口数(NA:Numerical Aperture)は小さいため、装置の構成に必要な光源、及び適当な開口数を持つレンズと組み合わせると励起光の利用効率が著しく低下し、また蛍光の検出効率も同様に低水準になることが課題の1つとして挙げられる。
【0007】
また、自動車のような移動体に検出装置を搭載する場合には、搭載スペースが限られている。このため、検出装置は、部品点数を少なくして小型化を図ることが求められている。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、励起光及び蛍光の利用効率が向上することによる特定物質の検出精度の向上を図ると共に、装置の小型化を図ることが可能な検出装置を提供することを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1に記載の検出装置は、気体試料が流れる気体流路、前記気体試料との触媒反応の前または後に励起光によって励起されることで蛍光を発する補酵素を含む溶液を保持する溶液保持部、及び前記触媒反応の触媒となる酵素が保持されている酵素保持膜を含み、かつ一の軸上に配されている反応部と、前記一の軸上に前記反応部と接して設けられ、かつ前記一の軸に沿った導光路を形成する導光部材と、前記導光路を通過した前記蛍光を検出する検出部と、を有していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図3】実施例1に係る検出装置の励起光の光路を説明する説明図である。
【
図4】実施例1に係る検出装置の蛍光の光路を説明する説明図である。
【
図5】実施例2に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図6】実施例2に係る検出装置の励起光の光路を説明する説明図である。
【
図7】実施例2の変形例に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図8】実施例3に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図9】実施例4に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図10】実施例4に係る検出装置の励起光の光路を説明する説明図である。
【
図11】実施例4に係る検出装置の蛍光の光路を説明する説明図である。
【
図12】実施例5に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【
図13】実施例6に係る検出装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例である検出装置としてのバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
【0012】
図1において、検出装置としてのバイオセンサ10は、アポ酵素と結合する補酵素が発する蛍光を検出して、検出対象である基質を検出する装置である。
【0013】
具体的には、バイオセンサ10の基質の検出に用いる補酵素は、基質の反応前後の一方の状態において励起光により励起されて蛍光を発する。したがって、バイオセンサ10は、基質の反応によって補酵素が発する蛍光の光量が変化することを利用して、基質を検出する。
【0014】
例えば、化1に示すように、補酵素としてNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を用いた場合、酵素であるS-ADHは、基質であるアセトンが2-プロパノールに還元される反応を触媒する。この際、補酵素であるNADHは、酵素反応によりNAD+(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に酸化される。
【0015】
ここでNADHは、所定の波長の励起光を受けて蛍光を発するが、同じ波長の励起光をNAD+が受けても蛍光を発しない。したがって、この反応の前後において検出される蛍光強度は変動する。
【0016】
本発明のバイオセンサ10は、このNADHが発する蛍光の光量を測定することにより基質の濃度を測定する装置である。
【0017】
【0018】
図1において、光源LTは、励起光を出射する発光装置である。光源LTは、例えば、励起光としてピーク波長が340nmである紫外光を出射する紫外光発光ダイオードである。発光装置は、紫外光発光ダイオードに限られず、例えば、紫外レーザーダイオード、水銀ランプ等を用いることができる。
【0019】
一の軸AX上において、光源LTから出射された励起光に対する光学系である励起光光学系20が設けられている。励起光光学系20は、励起光を一の軸AX上に向けて集光する。一の軸AXは、本実施例においては励起光の光軸と同一の軸である。
【0020】
励起光光学系20は、励起光を平行光にするコリメートレンズ21と、コリメートレンズ21によって平行光にされた励起光を一の軸AX上に向けて集光する集光レンズであるボールレンズ22を含む。尚、励起光光学系20は、少なくとも、光ファイバの開口数よりも高い開口数を有して構成されている。
【0021】
尚、ボールレンズ22は、集光レンズの中でも焦点距離が短いため、バイオセンサ10の構成をより小型にすることができる。またボールレンズ22は集光レンズの中でも開口数(NA)が大きく、より多くの励起光を取り込むことが可能である。
【0022】
ボールレンズ22とコリメートレンズ21の間には、励起光の波長を透過する励起光バンドパスフィルタEFが設けられている。励起光バンドパスフィルタEFが透過させる帯域は、補酵素が励起する励起光の波長を含む帯域である。本実施例では、補酵素にNADHを用いている。NADHは340nmの紫外線を吸収して蛍光を発する。したがって、励起光バンドパスフィルタEFの透過させる波長の範囲は、330~350nmとしている。
【0023】
一の軸上AXにおいて、フローセル30が設けられている。フローセル30は、化1に示した酵素反応が行われる反応部として機能する。フローセル30は、基質を含む気体試料が流れる気体流路31と、補酵素を含む溶液を保持する溶液保持部としての溶液流路32と、酵素を保持する酵素保持膜33と、を有する。ここで、溶液流路32は、補酵素を含む溶液を流す、例えば、管のような構造となっていてもよいし、溶液を流さない、例えば、密閉容器のような構造になっていてもよい。
【0024】
基質は、ケトン基、アルデヒド基のいずれかを含んでいる。補酵素は、基質の反応前後の一方の状態において励起光により励起されて蛍光を発するものが用いられる。このような補酵素の一例としては、NADH、NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)等が挙げられる。尚、補酵素は、基質の反応前後の2つの状態の間で可逆的に化学構造が変化する。
【0025】
酵素は、補酵素としてNADH又はNADPHを用いる場合、例えば、アラニン脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素、ウリジン-5’-ジホスフォ-グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、コレステロール脱水素酵素、サルコシン脱水素酵素、ソルビトール脱水素酵素、炭酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、フルクトース脱水素酵素、6-ホスフォグルコン酸脱水素酵素、ホルムアルデヒド脱水素酵素、マンニトール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素等を挙げることができ、特に、NADH又はNADPHを電子供与体として用いてケトン(アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノンなど)またはアルデヒド(ノネナール、エチルビニルケトンなど)を還元する酵素、より具体的には、二級アルコール脱水素酵素(S-ADH)(二級アルコール脱水素酵素(secondary alcohol dehydrogenase) EC:1.1.1.x)、エノン還元酵素(ER1)(エノン還元酵素(enone reductase type 1, ER1))等が利用できる。
【0026】
一の軸AX上において、導光部材40がフローセル30と接して設けられている。導光部材40は、本実施例においては円柱状に形成されている。導光部材40は、円柱状以外の形状でもよく、例えば、非平面の端面を持つ円柱状、多角柱状、円錐台状の形状であってもよい。
【0027】
導光部材40は、屈折率が均一なガラス等の同一素材で構成されている。尚、導光部材40は、屈折率が均一なガラス等の同一素材に限られず、例えば、互いに屈折率が異なるコア及びクラッドの2つの素材で構成されるようにしてもよい。また、導光部材40は、測定する蛍光波長に対して吸収が少ない、例えば、吸収係数が0.1以下の素材で構成されていてもよい。導光部材40は、一の軸AXに沿って形成されている導光路41を有する。
【0028】
一の軸上AX上において、導光部材40から出射された蛍光に対する光学系である蛍光光学系50が設けられている。蛍光光学系50は、導光部材40から出射された蛍光を一の軸AX上に向けて集光する。
【0029】
蛍光光学系50は、蛍光を平行光にするコリメートレンズ51と、コリメートレンズ51によって平行光にされた蛍光を一の軸AX上に集光する集光レンズ52を含む。
【0030】
集光レンズ52とコリメートレンズ51の間には、蛍光の波長を含む帯域を透過する蛍光バンドパスフィルタFFが設けられている。補酵素であるNADHが励起することにより発する蛍光の波長は、450~510nm、より具体的には491nm付近である。従って、本実施例においては、蛍光バンドパスフィルタFFが透過させる波長の範囲は、440~510nmとしている。
【0031】
一の軸AX上において、蛍光光学系50を通過した蛍光を検出する検出部60が設けられている。検出部60は、光電子増倍管、フォトダイオード検出器、及びこれらを含む分光光度計を含み、検出した蛍光の光量、若しくは分光特性に基づいて気体試料中における基質の濃度を検出する。
【0032】
ケースCは、光源LT、励起光光学系、フローセル30、導光部材40、蛍光光学系、検出部60の各々の周囲を覆う筒状に形成されている。すなわち、ケースCは、光源LT、励起光光学系20、フローセル30、導光部材40、蛍光光学系50、検出部60の各々を内部に収容する。したがって、ケースCは、ケースCの内部に外光が入らないように構成されている。
【0033】
ケースCには、一の軸AXに垂直な方向にケースCを貫通して設けられた2つの貫通穴HAが形成されている。この2つの貫通穴HAに気体流路31を挿通することで、気体流路31を一の軸AX上に取付けることができる。すなわち、2つの貫通穴HAは、気体流路31を一の軸AX上に取付可能な第1取付部として機能する。
【0034】
ケースCには、一の軸AXに垂直な方向にケースCを貫通して設けられた2つの貫通穴HBが形成されている。この2つの貫通穴HBに管構造を有する溶液流路32を挿通することで、溶液流路32を一の軸AX上に取付けることができる。すなわち、2つの貫通穴HBは、溶液流路32を一の軸AX上に取付可能な第2取付部として機能する。
【0035】
ケースCには、一の軸AXに垂直な方向において互いに対向する内壁が近づくように突出して形成された突出部Pが形成されている。突出部Pは、ケースCの内壁の周方向に沿って形成されている。また突出部Pは、一の軸AX上において、貫通穴HAと貫通穴HBとの間に形成されている。突出部Pに酵素保持膜33を嵌め込むことによって、酵素保持膜33が一の軸AX上に取付けられている。すなわち、この突出部Pは、酵素保持膜33を一の軸AX上に取付可能である第3取付部として機能する。
【0036】
このように、気体流路31、液体流路32及び酵素保持膜33は、それぞれケースCに脱着可能となっている。尚、気体流路31、液体流路32及び酵素保持膜33のうち少なくとも1つが着脱可能となっており、残りがケースCに固定されていてもよい。
【0037】
尚、溶液流路32が密閉容器のような構造である場合、貫通穴HBを設けなくてもよい。この場合、ケースCの内壁から外側に窪んで形成されている溝Gを設けるとよい。また、溝Gは、ケースCの内壁の周方向に沿って形成するとよい。密閉容器状の溶液流路32を溝Gに嵌め込むことによって、溶液流路32を一の軸AX上に取付けることができる。この場合、溝Gは、溶液流路32を一の軸AX上に取付可能である第2取付部として機能する。
【0038】
図2は、一の軸AXに沿ったフローセル30の拡大断面を示している。
図2に示すように、フローセル30の光源LT側には、励起光を透過させる窓Wを有し、基質を含む気体試料が流れる気体流路31が設けられている。気体流路31の検出部60側には、気体流路31と外部とを貫通する貫通穴H1が設けられている。
【0039】
フローセル30の検出部60側には、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路32が設けられている。溶液流路32は、溶液の流れ方向の上流側に設けられている上流側接続部と、溶液の流れ方向の下流側に設けられている下流側接続部と、上流側接続部及び下流側接続部から光源LT側に向かって湾曲して形成されている湾曲部と、を有する。溶液流路32の湾曲部の気体流路31側には、溶液流路32と外部とを貫通する貫通穴H2が設けられている。
【0040】
溶液流路32を流れる溶液は、補酵素と、酵素や補酵素の至適pH値を考慮したpH値を有する緩衝液と、を成分として含んでいる。
【0041】
酵素を保持する酵素保持膜33は、気体流路31の貫通穴H1と溶液流路32の貫通穴H2とを塞ぐように、気体流路31と溶液流路32との両方に接して設けられている。すなわち、酵素保持膜33は、保持されている酵素が溶液流路32の溶液及び気体流路31の気体試料に接触可能であり、かつ溶液流路32と気体流路31とを隔てる隔膜である。
【0042】
酵素保持膜33は、膜材料である担体上に酵素が固定化されたものである。酵素保持膜33の担体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ニトロセルロース、セルロース等が挙げられる。
【0043】
フローセル30は、検出部60側から光源LT側に向かうように一の軸AXに沿って窪んで形成され、かつ溶液流路32と外部とを貫通する貫通穴H3を有する。貫通穴H3は、導光部材40の外径と同等の大きさを有する小径部と、小径部から蛍光光学系50に向かって拡径して形成された拡径部と、を有する。
【0044】
したがって、導光部材40を小径部に嵌め合わせることにより、導光部材40は、フローセル30によって保持される。言い換えればフローセル30は、導光部材40を保持する保持部材として機能する。
【0045】
フローセル30は、一の軸AXに沿って延在する導光部材40の側面SSと貫通孔H3の拡径部の壁部との間に空間SPを有している。導光部材40の屈折率をn1、空間SPの屈折率をn2とすると、開口数(NA)は以下の式で与えられる。
【0046】
【0047】
ここで、導光部材40の屈折率n1が固定された条件下で開口数(NA)を最大とするためには、n2を1、すなわち空間SPを空気とする必要がある。よって、導光部材40は、その側面SSの周囲を空気層とすることで開口数(NA)が最大となる。
【0048】
ここで、導光部材40の導光路41は、励起光が導光される量を少なくするように形成するとよい。具体的には、フローセル30の溶液流路32を通過した励起光の少なくとも一部の導光部材40に対する入射角は、導光部材40の導光路41の内面で全反射可能な最大受光角よりも大きくなるようにするとよい。
【0049】
図3は、光源LTから出射された励起光の態様を示している。
図3において、一点鎖線矢印は、励起光LT1を示す。光源LTから照射された励起光LT1は、コリメートレンズ21で平行光にされる。
【0050】
コリメートレンズ21で平行光にされた励起光LT1は、励起光バンドパスフィルタEFにおいて、所定の帯域以外の波長を有する光が除去される。励起光バンドパスフィルタEFを通過した励起光LT1は、ボールレンズ22によってフローセル30の溶液流路32に向けて集光される。
【0051】
尚、ボールレンズ22は焦点距離が両凸レンズの中でも短い。したがって、ボールレンズ22を励起光光学系20に用いることで、導光路41の最大受光角よりも大きい入射角で入射する励起光LT1の量を増加させることができる。ここで、ボールレンズ22は収差が悪いが焦点距離が短く、バイオセンサ10の小型化には有利である。このため、導光部材40の径を大きくすることによって、ボールレンズ22の収差の悪化によるデフォーカスが許容される。つまり、導光部材40の径は、光源LTのサイズやレンズ収差を許容可能な最小径が理想となる。更に、励起光LT1を円環光とし、ボールレンズ22に入射される円環光の径を大きくすると、ボールレンズ22の収差を小さく、且つ焦点距離を更に短くすることができる。このため、導光路41の最大受光角を超えて入射される励起光LT1の量を増加させることが容易になる。
【0052】
また、ボールレンズ22を含む励起光光学系20は、導光部材40の開口数よりも大きい開口数で構成されている。このため、一の軸AXに対して鋭角に導光路41に入射する励起光LT1が増加する。すなわち、導光路41の最大受光角よりも大きい入射角度で導光路41に入射する励起光LT1の量が増加する。この結果、導光部材40を導光せずに外部に透過する励起光LT1の量が多くなる。
【0053】
また、上記の様に導光部材40の開口数よりも大きい光学系で構成されていない場合に於いても、励起光LT1が円環状の分布を示していれば、以後の記述にある通り、後段のコリメートレンズの配置により励起光LT1のコリメート(検出部60への導光)を抑制することができる。
【0054】
ここで、フローセル30を通過した励起光LT1は、多様な入射角度で導光部材40に入射する。その際に、導光路41の内面で全反射可能な最大受光角以下の入射角で入射した励起光LT1は、光源LT及び励起光光学系20の影響を受けて一定の分布をもっている。この励起光LT1の分布は、導光路41内でも維持され、結果として導光路41内で励起光LT1の濃淡が生じる。
【0055】
励起光LT1の最も淡い光がコリメートレンズ51においてコリメートされるように、コリメートレンズ51が配置されている。すなわち、導光路41内のコリメートレンズ51の焦点位置において、励起光LT1がデフォーカスされる様にコリメートレンズ51が配置されている。このようにコリメートレンズ51を配置することで、多くの励起光L1はコリメートレンズ51でコリメートされずに拡散させることができる。
【0056】
コリメートレンズ51で平行光にされた励起光LT1は、蛍光バンドパスフィルタFFにおいて反射する。
【0057】
図4は、フローセル30から出射された蛍光の態様を示している。
図4において、一点鎖線矢印は、蛍光LT2を示す。補酵素は励起光LT1を受光すると、蛍光LT2を発する。蛍光LT2は、溶液流路32の溶液中を透過して導光部材40の導光路41に入射する。導光路41を導光した蛍光LT2は、導光部材40の出射端からコリメートレンズ51に向けて出射される。
【0058】
コリメートレンズ51によってコリメートされた蛍光LT2は、蛍光バンドパスフィルタFFによって所定の帯域以外の波長を有する光が除去される。蛍光バンドパスフィルタFFを通過した蛍光LT2は、集光レンズにて検出部60に向けて集光される。
【0059】
以上のように、本発明の検出装置であるバイオセンサ10によれば、光源LTから出射された励起光LT1は、従来の検出装置に用いられていた光ファイバを介さずにフローセル30に照射される。従って、励起光光学系20を光ファイバの開口数に応じて構成する必要がなくなるため、光ファイバが有する開口数よりも高い開口数で励起光光学系20を構成することが可能となる。
【0060】
この結果、バイオセンサ10は、高い励起光LT1の利用効率を有し、補酵素から発せられる蛍光の光量が増加することにより特定物質の検出精度を高めることが可能となる。また、バイオセンサ10は、光ファイバを有しないことにより、部品点数の削減を図ることができ、装置の小型化を図ることが可能となる。
【0061】
また、バイオセンサ10は、フローセル30に接して設けられている導光部材40を有する。これによって、導光路41の最大受光角度を超えて導光路41に入射した励起光LT1の一部は、導光路41を導光せずに透過する。したがって、検出部60において検出される励起光LT1の量を減らすことが可能となり、検出精度の向上を図ることが可能となる。
【実施例2】
【0062】
実施例2に係るバイオセンサ10について説明する。実施例2に係るバイオセンサ10は、実施例1のバイオセンサ10とは光源LTから出射された励起光LT1の放射分布を円環状に成型するための遮光部材を備える点で異なる。尚、実施例1と同一の構成については同一箇所に同一符号を付すことによって説明を省略し、以後の実施例についても同様とする。
【0063】
図5は、実施例2に係るバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
図5に示すように、励起光光学系20は、一の軸AX上に配され、かつ励起光LT1を遮光可能な遮光部材70を含んでいる。
【0064】
遮光部材70は、例えば、円板状に形成されている。遮光部材70の大きさは、導光部材40の導光路41の径よりも大きく形成されているとよい。このように形成された遮光部材70を一の軸AX上に配置することで、一の軸AX上を直進する励起光LT1を遮断することができる。
【0065】
図6は、実施例2のバイオセンサ10において光源LTから出射された励起光LT1の態様を示している。
図6において、一点鎖線矢印は、励起光LT1を示す。
図6に示すように、多くの励起光LT1は、導光路41において全反射角よりも大きい角度をもって入射される。これにより、励起光LT1の多くは導光路41を導光せずに導光部材40を透過する。
【0066】
具体的には、溶液流路32の補酵素(NADH)によって吸収されなかった励起光LT1は、導光部材40へ入射する。励起光LT1の一部は、軸AXに対して広角に、すなわち、導光部材40の導光路41の内面で全反射可能な最大受光角よりも大きい入射角で入射する。最大受光角よりも大きい入射角で入射した励起光LT1は、導光路41を導光せずに側面SSから導光部材40の外部に透過する。
【0067】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、一の軸AX上を直進する励起光LT1を遮断することができる。また、導光部材40に入射される励起光LT1の入射角度を大きくすることができ、多くの励起光LT1を導光路41において導光させないようにすることができる。この結果、検出部60で検出される励起光LT1の量を減らすことができ、検出精度の向上を図ることが可能となる。
[変形例]
本実施例のように、励起光光学系20が遮光部材70を含む場合には、導光路41を導光する励起光LT1の量を減らすことができる。したがって、蛍光光学系50を設けずにバイオセンサ10を構成してもよい。
【0068】
図7は、本実施例に係るバイオセンサ10の変形例の構成を示している。
図7に示すように、バイオセンサ10は、蛍光光学系50及び蛍光フィルタFFを有していない。このように、バイオセンサ10を構成することで、バイオセンサ10の小型化を図ることが可能となる。
【実施例3】
【0069】
実施例3に係るバイオセンサ10について説明する。実施例3に係るバイオセンサ10は、フローセル30の形状が異なる点で実施例1及び2のバイオセンサ10とは異なる。
【0070】
図8は、実施例3に係るバイオセンサ10の一の軸AXに沿ったフローセル30の拡大断面を示している。
図8に示すように、導光部材40は、フローセル30の溶液流路32と接する部位34が蛍光光学系50に向かって窄まるように形成されている。すなわち、導光部材40のフローセル30の溶液流路32と接する部位34は、一の軸AXに対して角度を持つように傾斜している。したがって、導光部材40のフローセル30の溶液流路32と接する部位34に照射された励起光LT1は、フローセル30の溶液流路32に向かって反射する。
【0071】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、導光部材40に入射された励起光LT1の一部をフローセル30の溶液流路32に向けて反射させることができるため、蛍光LT2の発光効率を向上させることが可能となる。
【0072】
尚、積極的に励起光LT1を溶液流路32に向けて反射させるために、フローセル30の溶液流路32と接する部位34は、励起光LT1を反射する反射部材を設置してもよい。また、励起光LT1を乱反射させるために、フローセル30の溶液流路32と接する部位は、凹凸面を有するようにしてもよい。
【実施例4】
【0073】
実施例4に係るバイオセンサ10について説明する。実施例4にかかるバイオセンサ10は、励起光光学系20を有しない点で実施例1のバイオセンサ10とは異なる。
【0074】
図9は、実施例4に係るバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
【0075】
図9に示すように、一の軸AX上において、コリメートレンズ51と蛍光バンドパスフィルタFFとの間には、励起光LT1の波長を含む帯域をカットするロングパスフィルタLFが設けられている。
【0076】
図10は、実施例4に係るバイオセンサ10の光源LTから出射された励起光LT1の態様を示している。
図10において、一点鎖線矢印は、励起光LT1を示す。
図10に示すように、光源LTから出射された励起光LT1は、フローセル30を通過し、導光部材40に入射される。
【0077】
ここで、導光路41の最大受光角を超える励起光LT1は、導光路41を導光せずに透過する。導光路41を導光した励起光LT1は、コリメートレンズ51においてコリメートされ、ロングパスフィルタLFにおいて減衰される。
【0078】
図11は、実施例4に係るバイオセンサ10のフローセル30から出射された蛍光LT2の態様を示している。
図11において、一点鎖線矢印は、蛍光LT2を示す。
【0079】
フローセル30の溶液流路32において発せられた蛍光LT2は、導光部材40の導光路41において導光される。導光部材40から出射された蛍光LT2は、コリメートレンズ51によってコリメートされ、ロングパスフィルタLFと蛍光バンドパスフィルタFFを通過する。蛍光バンドパスフィルタFFを通過した蛍光LT2は、集光レンズ52を通って検出部60に向けて集光される。
【0080】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、励起光光学系20を有していないため、強度の高い励起光を直接的に溶液流路32に照射することが可能となる。このため、蛍光LT2の発光量を高めることができると共に、装置の部品点数が少なくなることによる装置の小型化を図ることが可能となる。
【実施例5】
【0081】
実施例5に係るバイオセンサ10について説明する。実施例5に係るバイオセンサ10は、フローセル30の気体流路31の形状が異なる点で実施例1乃至4のバイオセンサ10とは異なる。
【0082】
図12は、実施例5に係るバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
図12において、励起光光学系20は、コリメートレンズ21を有しているが、ボールレンズ22を有していない。
【0083】
フローセル30の気体流路31は、一の軸AXを中心として、酵素保持膜33に向かって凸となる曲面を有するように形成されたレンズ部31aを有している。
【0084】
レンズ部31aは、コリメートレンズ21によって平行光にされた励起光LT1を酵素保持膜33に向けて集光する。従って、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、励起光光学系20のボールレンズ22が不要となる。これにより、装置の部品点数が少なくなり、装置の小型化を図ることが可能となる。
【実施例6】
【0085】
実施例6に係るバイオセンサ10について説明する。実施例6に係るバイオセンサ10は、光源LTと検出部60の配置位置が異なる点で実施例1乃至5のバイオセンサ10とは異なる。
【0086】
すなわち、実施例1乃至4においては、光源LT、励起光光学系20、フローセル30、導光部材40、蛍光光学系50及び検出部60が一の軸AX上に配置されているが、光源LT及び検出部60のうち少なくとも一方は一の軸AX上に配置されていなくてもよい。
【0087】
図13は、実施例6に係るバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
図13に示すように、光源LTと検出部60は一の軸AXと直行する軸AX2及び軸AX3上に夫々配置される。また、軸AX2及び軸AX3が一の軸AXと交わる位置において、ミラーMR1及びミラーMR2が配置されている。すなわち、光源LTから出射された励起光LT1は励起光光学系20に到達するようにミラーMR1によって反射される。また、蛍光光学系50を通過した蛍光LT2は検出部60に到達するようにミラーMR2によって反射される。
【0088】
実施例1乃至5においては、励起光光学系20及び蛍光光学系50が励起光LT1の光軸と同一の軸である一の軸AXに配置されている。しかし、本実施例において説明したように、励起光LT1の光軸と同一の軸である一の軸AX上に励起光光学系20及び蛍光光学系50が配置されていなくてもよく、励起光LT1の光軸と蛍光LT2の光軸は、検出部60に蛍光LT2が到達可能な範囲で、軸AXとずれていてもよい。
【0089】
上述した実施例における機器、装置の構成等は、例示に過ぎず、用途等に応じて、適宜選択または変更することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 バイオセンサ
20 励起光光学系
30 フローセル
31 気体流路
32 溶液流路
33 酵素保持膜
40 導光部材
41 導光路
50 蛍光光学系
60 検出部
70 遮光部材
AX 一の軸