(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20220105BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20220105BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20220105BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20220105BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220105BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B60R13/02 C
B32B27/02
B32B5/26
B29C45/14
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2020528191
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002495
(87)【国際公開番号】W WO2020158600
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019013955
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509069892
【氏名又は名称】株式会社HOWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根津 雅代
(72)【発明者】
【氏名】曾根 陽平
(72)【発明者】
【氏名】波江 正貴
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176979(JP,A)
【文献】特開2003-039512(JP,A)
【文献】特開2007-125759(JP,A)
【文献】特開昭61-186445(JP,A)
【文献】特開2011-230341(JP,A)
【文献】特開2003-055622(JP,A)
【文献】特開2012-040861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00
B60R 13/02
B32B 27/02
B32B 5/26
B29C 45/14
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用内外装材であって、
熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層を基材層として有し、
前記基材層の両面を前記基材層における繊維層とする構成又は、
前記基材層に加えて前記基材層とは別の熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層とする構成、
のいずれかが面している繊維積層体が三次元の面形状に成形された繊維成形体と、
前記繊維成形体の面に対し固着される合成樹脂部品と、を有し、
前記合成樹脂部品は、溶融した合成樹脂が前記繊維積層体の繊維層に染み込んだ状態で固化されることで前記繊維成形体に固着される固着部を
有しており、
前記合成樹脂部品は、断面視で見て、内部に複数の気泡が含まれた状態で固化しており、
前記気泡は、前記繊維層に近い部位に集中している乗物用内外装材。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用内外装材であって、
前記気泡は、相対的に前記合成樹脂部品の表面よりも内方側が大きい関係である乗物用内外装材。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の乗物用内外装材の製造方法であって、
前記繊維積層体を加熱軟化処理する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記繊維積層体をプレス型により両面から挟んで冷却しながら加圧することで前記繊維成形体とするプレス成形工程と、
前記プレス成形工程のときに前記繊維積層体の繊維層に向けて溶融した合成樹脂が気泡を形成するための気体を含んだ状態で射出されて前記合成樹脂部品を成形する射出成形工程と、を含む乗物用内外装材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の乗物用内外装材の製造方法であって、
前記射出成形工程における溶融した合成樹脂は、予め発泡剤が添加されている乗物用内外装材の製造方法。
【請求項5】
請求項1
または請求項2に記載の乗物用内外装材の製造に用いるプレス型であって、
前記プレス型は、
前記繊維積層体の繊維層に向けて前記溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位を鉄鋼材又は鋳鉄で構成する射出成形部位と、
前記繊維積層体を三次元の面形状に成形する部位をアルミニウム合金で構成する成形部位と、を組み合わせた構成である乗物用内外装材の製造に用いるプレス型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗物用内外装材は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層を有する繊維成形体を適用した態様が知られている。このような乗物用内外装材には、乗物本体側との固定部品、変形防止部材、剛性確保部材等の合成樹脂部品が取り付けられることが多い。繊維成形体は、表面が熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層であることから、合成樹脂部品を強固に組み付けるためにホットメルト接着剤等の接着剤が用いられていた。ここで、合成樹脂部品にホットメルト接着剤等の接着剤を用いる場合には、次のような懸念があった。
【0003】
まず合成樹脂部品を単体で製作するための成形型の設備が必要となる。さらに成形型の設置場所、作業要員などを必要とする。また、繊維成形体に対する合成樹脂部品の取付位置を精度よく組み付けるための治具等の設備が必要となる。これらはいずれもコスト増加につながりやすい。また、合成樹脂部品は、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いるための取付け座面の面積を確保する必要があることから重量増加が懸念される。また、ホットメルト接着剤等の接着剤によって、合成樹脂部品が固着するまでの時間がかかり組付工数の更なる圧縮が望まれている。また、ホットメルト接着剤等の接着剤は、経年劣化の懸念や、揮発性物質に注意が必要であった。また、ホットメルト接着剤等の接着剤は一時的に高温部位となるため、繊維成形体の形が崩れないように温度管理が複雑となる。
【0004】
ところで、乗物用内外装材に合成樹脂部品が取り付けられた技術として例えば特開2005-238518号公報が知られている。係る開示には、発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に積層一体化される樹脂リブと、表面に貼付される加飾材とからなる自動車用内装部品が開示されている。
【0005】
係る技術は、発泡樹脂基材の裏面に樹脂リブが射出成形によって組み付けられる。そのため、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いずに樹脂リブを発泡樹脂基材の裏面に組付けることができる。係る技術における基材は発泡樹脂基材であることから剛性が高いため射出成形が容易に適用し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、繊維成形体は、上述の発泡樹脂基材より剛性が高くないものもある。そのため、合成樹脂部品の組付けはホットメルト接着剤等の接着剤を用いることが一般的であった。
【0007】
そこで、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品を繊維成形体に対して一体に取り付ける乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様によると、乗物用内外装材であって、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層を基材層として有し、前記基材層の両面を前記基材層における繊維層とする構成又は、前記基材層に加えて前記基材層とは別の熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層とする構成、のいずれかが面している繊維積層体が三次元の面形状に成形された繊維成形体と、前記繊維成形体の面に対し固着される合成樹脂部品と、を有し、前記合成樹脂部品は、溶融した合成樹脂が前記繊維積層体の繊維層に染み込んだ状態で固化されることで前記繊維成形体に固着される固着部を有する。
【0009】
本開示の一つの特徴及び利点は、合成樹脂部品は、溶融した合成樹脂が繊維積層体の繊維層に染み込んだ状態で固化されることで繊維成形体に固着される固着部を有する。そのため、合成樹脂部品は、繊維成形体に対してアンカー効果によって強固に固着することができ得る。また、合成樹脂部品において取付け座面を不要とするため重量増加を抑制することができる。よって、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品を繊維成形体に対して一体に取り付ける乗物用内外装材を提供することができる。
【0010】
上記乗物用内外装材について、前記合成樹脂部品は、断面視で見て、内部に複数の気泡が含まれた状態で固化していてもよい。
【0011】
本開示の一つの特徴及び利点は、合成樹脂部品が断面視で見て、内部に複数の気泡が含まれた状態で固化されることで、繊維成形体の繊維層のうち、合成樹脂部品の取付面と反対の面において、ヒケ(合成樹脂が成形収縮によって生じる凹み)の抑制を図ることができる。これは、内部に複数の気泡が含まれた状態で固化されることにより溶融した合成樹脂が冷却する際の収縮を抑制することができるためである。そのため、乗物用内外装材の意匠面をより一層きれいに仕上げることができ得る。
【0012】
上記乗物用内外装材について、前記気泡は、相対的に前記合成樹脂部品の表面よりも内方側が大きい関係であってもよい。
【0013】
本開示の一つの特徴及び利点は、気泡は、相対的に合成樹脂部品の表面よりも内方側が大きい関係であれば、合成樹脂部品の剛性と軽量の両立を図ることができる。
【0014】
上記乗物用内外装材について、前記気泡は、前記繊維層に近い部位に集中していてもよい。
【0015】
本開示の一つの特徴及び利点は、乗物用内外装材の剛性、軽量、意匠面のヒケの抑制の両立をより一層図り得る。
【0016】
上記乗物用内外装材の製造方法であって、前記繊維積層体を加熱軟化処理する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記繊維積層体をプレス型により両面から挟んで冷却しながら加圧することで前記繊維成形体とするプレス成形工程と、前記プレス成形工程のときに前記繊維積層体の繊維層に向けて溶融した合成樹脂が気泡を形成するための気体を含んだ状態で射出されて前記合成樹脂部品を成形する射出成形工程と、を含むものであってもよい。
【0017】
本開示の一つの特徴及び利点は、プレス成形工程のときに繊維積層体の繊維層に向けて溶融した合成樹脂が気泡を形成するための気体を含んだ状態で射出されて合成樹脂部品を成形する射出成形工程を有する。そのため、合成樹脂部品を組み付けるための治具等の設備が不要となる。また、プレス成形工程と射出成形工程を併せて行うことで合成樹脂部品の位置精度の向上を図り得る。よって、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品を繊維成形体に対して一体に取り付ける乗物用内外装材の製造方法を提供することができる。
【0018】
上記乗物用内外装材の製造方法について、前記射出成形工程における溶融した合成樹脂は、予め発泡剤が添加されていてもよい。
【0019】
本開示の一つの特徴及び利点は、射出成形工程は、溶融した合成樹脂が予め発泡剤が添加されていることから、溶融した合成樹脂内に効率よく気泡を形成するための気体を含ませることができる。なお、係る発泡剤は、合成樹脂部品の内部が発泡成形において気泡を形成するためのガスを供給する物質であればよく、例えば有機発泡剤、無機発泡剤などの化学発泡剤でもよいし、物理的に気泡を含ませる物理発泡剤によるものの何れも適用し得る。
【0020】
上記乗物用内外装材の製造に用いるプレス型について、前記プレス型は、前記繊維積層体の繊維層に向けて前記溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位を鉄鋼材又は鋳鉄で構成する射出成形部位と、前記繊維積層体を三次元の面形状に成形する部位をアルミニウム合金で構成する成形部位と、を組み合わせた構成である。
【0021】
本開示の一つの特徴及び利点は、プレス型は、繊維積層体の繊維層に向けて溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位を鉄鋼材又は鋳鉄で構成する射出成形部位を有する。これは、溶融した合成樹脂を射出する通路は、射出圧力が高いため剛性を保つ観点より鉄鋼材又は鋳鉄で構成される。一方、繊維積層体を三次元の面形状に成形する部位をアルミニウム合金で構成する成形部位を有する。これは、プレス型は、繊維積層体を両面から挟んで冷却しながら加圧することから冷却効率の観点よりアルミニウム合金で構成される。また、プレス機の可動型の重さを抑えるため鉄鋼材又は鋳鉄よりも軽量なアルミニウム合金で構成されることが好ましいためである。よって、プレス型は射出成型に伴う剛性、冷却効率及び軽量を図ることができる。以上より、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品を繊維成形体に対して一体に取り付ける乗物用内外装材の製造に用いるプレス型を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示は上記各発明の手段をとることにより、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品を繊維成形体に対して一体に取り付ける乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態に係るラゲージトリムを模式的に示した正面図である。
【
図2】実施形態に係る加熱工程の状態を模式的に示した断面図である。
【
図3】実施形態に係る加熱工程で加熱された繊維積層体をプレス型の上型と下型の間に投入した状態を模式的に示した断面図である。
【
図4】実施形態に係るプレス成形工程の状態を模式的に示した断面図である。
【
図5】実施形態に係る射出成形工程の状態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本開示の実施形態について
図1から
図7を用いて説明する。本実施形態の乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型として、乗物用内外装材のうち車両用内外装材であるラゲージトリムを例示して説明する。本実施形態のラゲージトリムは、繊維成形体2と、合成樹脂部品4を有する。
【0025】
図1、2に示すように、繊維成形体2は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層を基材層11として有する繊維積層体10が三次元の面形状に成形されたものである。繊維積層体10は、基材層11の両面が基材層11における繊維層とする構成又は、基材層11に加えて基材層11とは別の熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層とする構成のいずれかが面形状とされている。繊維成形体2の基となる繊維積層体10は、基材層11の両面がその基材層11における繊維層とする構成であってもよい。また、繊維積層体10は、両面に基材層11とは別の不織布層15(基材層11とは別の熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層)が面している構成であってもよい。また、繊維積層体10は、片方の面に基材層11とは別の不織布層15が面している構成であってもよい。また、繊維積層体10は、基材層11の他に、基材層11と不織布層15の間に通気遮断層などの樹脂フィルムを積層してもよい。本実施形態における繊維成形体2は、後述する合成樹脂部品4の取付面と反対の面共に、繊維層が面している構成を例示する。具体的には、繊維成形体2のうち合成樹脂部品4の取付面側は基材層11における繊維層とされている。また、取付け面と反対の面は基材層11とは別の不織布層15(基材層11とは別の熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維層)の構成である。
【0026】
繊維積層体10は、繊維補強材12と熱可塑性合成樹脂13を有する繊維マットを基材層11とする。この基材層11は、クロスレイヤー、エアレイ等に代表される乾式法、または抄紙法に代表される湿式法のいずれの製法を選択しても形成できる。
【0027】
クロスレイヤー、エアレイ等に代表される乾式法を用いて形成された基材層11は、繊維補強材12と熱可塑性合成樹脂13の繊維体を所定繊維長にカットした上で開繊機または、エアレイと呼ばれる空気流でよく混ぜ合わせ(混綿)たものを積層し所定目付けのフリースと呼ばれる繊維の集積層(繊維ウェブ)を得る。その上で、フリースをニードルパンチによって繊維同士を交絡させたり、熱を加えて繊維間結合させる態様が例示される。なお、上記乾式法における熱可塑性合成樹脂13は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の熱可塑性合成繊維が選択され得る。
【0028】
湿式法を用いて形成された基材層11は、繊維補強材12と熱可塑性合成樹脂13を水中に分散し網状のネット等ですき上げてフリースを形成し、加熱機で乾燥及び繊維間結合させて繊維マットとする。なお、湿式法における熱可塑性合成樹脂13の原料は、熱可塑性合成樹脂の粉末体を用いる。湿式法(抄紙法)を用いて形成される熱可塑性合成樹脂13は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の粉末で製造され得る。
【0029】
ここで、繊維補強材12は、チョップドストランド等の無機繊維であるガラス繊維や、有機繊維であるジュート(黄麻)、ケナフ(洋麻)、ラミー、ヘンプ(麻)、サイザル麻、竹等の天然繊維等が適宜選択され得る。なお、基材層11は、熱可塑性合成樹脂13の繊維体のみからなる不織布シート(例えばニードルパンチ不織布など)であってもよい。
【0030】
合成樹脂部品4は、繊維成形体2の面に対し固着されるものである。合成樹脂部品4の種類は、多岐に亘り、例えば車両本体側に結合するための固定部品、繊維成形体2の面形状の変形を防止する変形防止部材、繊維成形体2の剛性を保持する剛性確保部材等が挙げられる。合成樹脂部品4の多くは、外観として露出する意匠面と反対側の裏面側に配設されるものであるが、意匠面側に配設されるものであってもよい。合成樹脂部品4は、溶融した合成樹脂が基材層11の繊維層に染み込んだ状態で固化されることで繊維成形体2に固着される固着部6を有している。
【0031】
合成樹脂部品4には、発泡剤が添加されている。発泡剤は、基材層11の厚み方向に向かって発泡することで、溶融した合成樹脂が冷却する際の収縮を抑制する。また、発泡した気泡によって冷却効果の均等化を図り得る。なお、係る発泡剤は、合成樹脂部品4の内部に気泡を形成するための気体を供給する物質として、例えば有機発泡剤、無機発泡剤などの化学発泡剤でもよい。また、発泡剤は、物理的に気体を含ませる物理発泡剤(例えば射出成形金型内に混入して物理的に発泡させるためのガス(窒素、二酸化炭素等))によるものも適用し得る。発泡剤の添加量は、合成樹脂部品4の総重量に対して1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。添加量が合成樹脂部品4の総重量に対して10重量%より多い場合、合成樹脂部品4の剛性の低下が懸念される。ここで、発泡剤の添加量は、より好ましくは1重量%以上5重量%以下である。これにより、合成樹脂部品4の剛性、軽量、意匠面のヒケの抑制の両立を図り得る。なお、合成樹脂部品4は、繊維成形体2の意匠面のヒケの抑制を考慮する必要がない場合は、発泡剤を添加しない構成であってもよい。
【0032】
プレス型20は、
図3~5に示すように、繊維積層体10における基材層11の面に向けて溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位を鉄鋼材又は鋳鉄で構成する射出成形部位26と、基材層11を三次元の面形状に成形する部位をアルミニウム合金で構成する成形部位28と、を組み合わせた構成である。具体的には、上型22を可動型とし、下型24を固定型とするものが例示される。上型22は、少なくとも繊維成形体2を成形する面である成形部位28がアルミニウム合金で構成されている。下型24は、繊維成形体2を成形する面である成形部位28がアルミニウム合金で構成されていると共に、スプルー、ランナー、ゲートといった溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位が鉄鋼材又は鋳鉄で構成されている。また、図示は省略するが、上型22、下型24の内部には、型の温度上昇を抑制するために冷却水等のクーラント液が流通する配管が張り巡らされている。
【0033】
次に、本実施形態のラゲージトリム(乗物用内外装材)の製造方法を説明する。ラゲージトリムの製造方法は、加熱工程(
図2参照)と、プレス成型工程(
図4参照)と、射出成型工程(
図5参照)とを有している。加熱工程は、繊維積層体10を加熱軟化処理する工程である。プレス成形工程は、加熱工程で加熱された繊維積層体10をプレス型20により両面から挟んで冷却しながら加圧することで繊維成形体2とする工程である。射出成形工程は、プレス成形工程のときに繊維積層体10における基材層11の面に向けて溶融した合成樹脂を射出して合成樹脂部品4を成形する工程である。
【0034】
加熱工程では、
図2に示すように加熱装置18において基材層11と不織布層15の繊維積層体10を加熱することで加熱軟化処理を行う。加熱装置18の加熱温度の下限値は、熱可塑性合成樹脂13の軟化点より高い温度である。また、加熱装置18の加熱温度の上限値は、熱可塑性合成樹脂13の融点より低い温度に設定される。ここで、加熱装置18は、繊維積層体10を加熱軟化処理することができる装置であれば種々適用できる。例えば、加熱装置18は、温風、熱盤プレス、赤外線ヒーターなどを適用し得る。
【0035】
次に、
図3に示すように加熱工程で加熱された繊維積層体10(基材層11、不織布層15)をプレス型20の上型22と下型24の間に投入してプレス成形工程を行う。プレス成形工程は、
図4に示すように加熱工程で加熱された繊維積層体10をプレス型20より両面から挟んで冷却しながら加圧することで繊維成形体2とする。ここで、プレス成形工程は、プレス型20の型温度が10℃以上30℃以下の範囲に設定されている。これは、後述する溶融した合成樹脂の温度に伴う繊維成形体2の溶けや変形を抑制しつつ、繊維成形体2の冷却を早く促して繊維成形体2の意匠面の荒れ及び変形を抑制するためである。より好ましくは、15℃以上25℃以下の範囲の設定である。
【0036】
ここで、
図5に示すようにプレス成形工程のときには、射出成形工程が含まれる。射出成形工程は、繊維積層体10のうち基材層11の面に向けて溶融した合成樹脂を射出して合成樹脂部品4を成形する。射出成形工程は、溶融した合成樹脂の流動性を鑑みて、合成樹脂の溶融温度が200℃以上270℃以下の範囲に設定される。より好ましくは、200℃以上250℃以下の範囲の設定である。また、溶融した合成樹脂の流動性は、MFR(メルトフローレート)40g/10min以上を使用するのが好ましい。溶融した合成樹脂は、スプルー、ランナー、ゲートを順次通過して、合成樹脂部品4の形状に形作られた射出成型溝27(
図4参照)内に充填され、基材層11の繊維層に染み込む。このとき、溶融した合成樹脂は、発泡剤によって発泡する際に、発泡する方向が射出成型溝27に拘束されるため、基材層11の繊維層に向かう方向に発泡しながら染み込む。さらにクーラント液によって型内の型温度が上述温度の範囲に設定されていることから、繊維成形体2の冷却を早く促すことができるため、繊維成形体2の意匠面の荒れ及び変形を抑制する。溶融した合成樹脂は、射出成型溝27によって所定の形状に生成されて固化して合成樹脂部品4となる。よって合成樹脂部品4は、基材層11の繊維層に染み込んだ状態で固化されることで繊維成形体2に固着される固着部6を有する。すなわち、合成樹脂部品4は、係る固着部6によってアンカー効果により繊維成形体2に対して強固に固着する。
【0037】
図6に示すように、合成樹脂部品4は、断面視で見て、内部に複数の気泡Gが含まれた状態で固化されている。具体的に気泡Gは、相対的に合成樹脂部品4の表面4aよりも内方4b側が大きい関係である。また、気泡Gは、基材層11に近い部位に集中している。
図7に示すように、合成樹脂部品4は、表面4aのほうが内方4bに比べてプレス型20の下型24による冷却が早いため、気泡Gが大きく成長する前に固化する。一方、内方4bにおける気泡Gは、表面4aよりゆっくり冷却されるため、気泡Gが大きく成長する。そのため、合成樹脂部品4の剛性と軽量の両立を図ることができる。また、気泡Gは、加熱工程によって熱せられた基材層11に近い部位に集中している。すなわち、気泡Gのうち相対的に大きい気泡Gは、合成樹脂部品4の表面4aよりも内方4b側に集中すると共に、基材層11に近い部位に集中している。これにより、合成樹脂部品4の剛性、軽量、意匠面のヒケの抑制の両立をより一層図ることができる。
【0038】
このように、実施形態に係るラゲージトリム(乗物用内外装材)、ラゲージトリムの製造方法及びラゲージトリムの製造に用いるプレス型20によれば、合成樹脂部品4は、溶融した合成樹脂が基材層11に染み込んだ状態で固化されることで繊維成形体2に固着される固着部6を有する。そのため、合成樹脂部品4は、繊維成形体2に対してアンカー効果によって強固に固着することができ得る。また、合成樹脂部品4において取付け座面を不要とするため重量増加を抑制することができる。よって、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品4を繊維成形体2に対して一体に取り付けるラゲージトリムを提供することができる。
【0039】
また、合成樹脂部品4が断面視で見て、内部に複数の気泡Gが含まれた状態で固化されることで、繊維成形体2の繊維層のうち、合成樹脂部品4の取付面と反対の面において、ヒケ(合成樹脂が成形収縮によって生じる凹み)の抑制を図ることができる。これは、内部に複数の気泡Gが含まれた状態で固化されることにより溶融した合成樹脂が冷却する際の収縮を抑制することができるためである。そのため、ラゲージトリムの意匠面をより一層きれいに仕上げることができ得る。
【0040】
合成樹脂部品4内の気泡Gは、相対的に合成樹脂部品4の表面よりも内方側が大きい関係であれば、合成樹脂部品4の剛性と軽量の両立を図ることができる。
【0041】
合成樹脂部品4内の気泡Gは、前記繊維層に近い部位に集中している態様であると、合成樹脂部品4の剛性、軽量、意匠面のヒケの抑制の両立をより一層図り得る。
【0042】
また、プレス成形工程のときに繊維積層体10の繊維層に向けて溶融した合成樹脂が気泡Gを形成するための気体を含んだ状態で射出されて合成樹脂部品4を成形する射出成形工程を有する。そのため、合成樹脂部品4を組み付けるための治具等の設備が不要となる。また、プレス成形工程と射出成形工程を併せて行うことで合成樹脂部品4の位置精度の向上を図り得る。よって、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品4を繊維成形体2に対して一体に取り付けるラゲージトリムの製造方法を提供することができる。
【0043】
射出成形工程は、溶融した合成樹脂が予め発泡剤が添加されていることから、溶融した合成樹脂内に効率よく気泡Gを形成するための気体を含ませることができる。なお、係る発泡剤は、合成樹脂部品4の内部が発泡成形において気泡Gを形成するためのガスを供給する物質であればよく、例えば有機発泡剤、無機発泡剤などの化学発泡剤でもよいし、物理的に気泡Gを含ませる物理発泡剤によるものの何れも適用し得る。
【0044】
また、発泡剤の添加量を合成樹脂部品4の総重量に対して1重量%以上10重量%以下とすることで、合成樹脂部品4の剛性、軽量、意匠面のヒケの抑制の両立を図り得る。
【0045】
また、プレス成形工程におけるプレス型20の型温度を10℃以上30℃以下の範囲に設定することで、溶融した合成樹脂の温度に伴う繊維成形体2の溶けや変形を抑制しつつ、繊維成形体2の冷却を早く促すことができるため、繊維成形体2の意匠面の荒れ及び変形を抑制することができる。また、射出成形工程における合成樹脂の溶融温度が200℃以上270℃以下の範囲に設定されることで、プレス型20の型温度が上記設定であっても溶融した合成樹脂の流動性が損なわれることを抑制することができる。
【0046】
また、プレス型20は、繊維積層体10の繊維層に向けて溶融した合成樹脂を射出する通路として形成される部位を鉄鋼材又は鋳鉄で構成する射出成形部位26を有する。これは、溶融した合成樹脂を射出する通路は、射出圧力が高いため剛性を保つ観点より鉄鋼材又は鋳鉄で構成される。一方、繊維積層体10を三次元の面形状に成形する部位をアルミニウム合金で構成する成形部位28を有する。これは、プレス型20は、繊維積層体10を両面から挟んで冷却しながら加圧することから冷却効率の観点よりアルミニウム合金で構成される。また、プレス機の可動型の重さを抑えるため鉄鋼材又は鋳鉄よりも軽量なアルミニウム合金で構成されることが好ましいためである。よって、プレス型20は射出成型に伴う剛性、冷却効率及び軽量を図ることができる。以上より、ホットメルト接着剤等の接着剤を用いないで合成樹脂部品4を繊維成形体2に対して一体に取り付けるラゲージトリムの製造に用いるプレス型20を提供することができる。
【0047】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の乗物用内外装材、乗物用内外装材の製造方法及び乗物用内外装材の製造に用いるプレス型は、本実施の形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
【0048】
本実施形態の乗物用内外装材は、乗物用内装材及び乗物用外装材の何れも含み得るものである。乗物用内装材は、例えば、ラゲージトリム以外に、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、リヤサイドトリム、ピラーガーニッシュ、ルーフトリムなどに適用され得る。また、乗物用外装材は、例えば、車両床下のアンダーカバー(エンジンアンダーカバー、フロアカバーなど)、ホイールハウスプロテクターに適用し得る。ここで、アンダーカバー、ホイールハウスプロテクターなどの乗物用外装材は、氷雪などの付着、飛び石などの飛散に耐え且つ、面がより平滑であることが望まれることから、繊維成形体を湿式法で成形することが望ましい。