(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
F02P 15/00 20060101AFI20220105BHJP
F02P 3/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F02P15/00 301C
F02P3/00 E
F02P3/00 B
(21)【出願番号】P 2020558812
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045297
(87)【国際公開番号】W WO2020121375
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立Astemo阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】内勢 義文
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157541(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/060935(WO,A1)
【文献】特開2015-113730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00-3/12、 7/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火制御手段からの点火信号のオン・オフによって点火コイルへの通電制御を行うことで、
前記点火コイルの二次側に放電エネルギーを与えて点火プラグに火花放電を起こさせる内燃機関用点火装置において、
前記点火コイルは、
前記点火信号がオンで行われる主一次電流の通電により順方向の磁束量が増加し、
前記点火信号がオフになって
前記主一次電流を遮断することにより
前記順方向の磁束量が減少する主一次コイルと、該主一次コイルに対する通電遮断以降の放電期間内に重畳電流を流すことにより、
前記順方向と逆の遮断方向に磁束を発生させる副一次コイルと、一端側が
前記点火プラグと接続され、前記主一次コイルと
前記副一次コイルの磁束変化が作用して放電エネルギーが与えられる二次コイルと、を有し、
前記副一次コイルへの通電・遮断を行うと共に、
前記副一次コイルへの通電量を変えることで、
前記遮断方向の磁束量を変化させる副一次コイル通電手段と、
前記主一次コイルへの通電遮断以降に前記副一次コイル通電手段を動作させ、前記副一次コイルへの
前記重畳電流
の供給が急激に遮断されないよう前記副一次コイル通電手段による通電量を制御する重畳制御手段と、
を備え
、
前記副一次コイル通電手段は、入力信号に応じて前記副一次コイルへの通電量を増減させる能動素子であり、
前記重畳制御手段は、
前記主一次コイルへの通電遮断と同時に前記副一次コイル通電手段を動作させて前記副一次コイルへの前記重畳電流の供給を開始させ、時間経過に伴って前記重畳電流を増加させる能動信号を前記副一次コイル通電手段へ送って能動動作させ、
且つ、前記点火信号のオンで電荷をショートし、前記点火信号がオフとなった放電開始と共に充電を開始するコンデンサを備え、充電開始後における前記コンデンサの電荷蓄積状態を指標として、時間経過に伴う前記重畳電流の増加制御を行う、
ことを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
前記
点火コイルの二次側に流れる二次電流を検出する二次電流検出手段と、
前記二次電流検出手段の検出値が所定の重畳促進条件を満たすことに基づいて、前記重畳制御手段による前記重畳電流の増加を促進させる重畳促進手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項3】
前記
重畳促進手段は、前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値と、二次電流を維持するために前記重畳電流の増加を促進する指標として予め定めた増加促進基準値とを対比し、検出された二次電流値が前記増加促進基準値を越えないことを前記重畳促進条件として用いることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項4】
点火制御手段からの点火信号のオン・オフによって点火コイルへの通電制御を行うことで、前記点火コイルの二次側に放電エネルギーを与えて点火プラグに火花放電を起こさせる内燃機関用点火装置において、
前記点火コイルは、前記点火信号がオンで行われる主一次電流の通電により順方向の磁束量が増加し、前記点火信号がオフになって前記主一次電流を遮断することにより前記順方向の磁束量が減少する主一次コイルと、該主一次コイルに対する通電遮断以降の放電期間内に重畳電流を流すことにより、前記順方向と逆の遮断方向に磁束を発生させる副一次コイルと、一端側が前記点火プラグと接続され、前記主一次コイルと前記副一次コイルの磁束変化が作用して放電エネルギーが与えられる二次コイルと、を有し、
前記主一次コイルの低圧側に接続され、前記主一次コイルへの通電・遮断を行う主一次コイル通電スイッチ手段と、
前記副一次コイルへの通電・遮断を行うと共に、前記副一次コイルへの通電量を変えることで、前記遮断方向の磁束量を変化させる副一次コイル通電手段と、
前記主一次コイルへの通電遮断以降に前記副一次コイル通電手段を動作させ、前記副一次コイルへの前記重畳電流の供給が急激に遮断されないよう前記副一次コイル通電手段による通電量を制御する重畳制御手段と、
前記主一次コイルと前記主一次コイル通電スイッチ手段との接点の電圧を検出する一次コイル電圧検出手段と、
前記一次コイル電圧検出手段により検出された一次コイル電圧値が、前記点火プラグ内の放電状況に対応させて定めた一次コイル電圧判定基準値に達したか否かで重畳抑制条件の成否を判定する重畳抑制条件判定手段と、
を備え、
前記副一次コイル通電手段は、入力信号に応じて前記副一次コイルへの通電量を増減させる能動素子であり、
前記重畳制御手段は、前記主一次コイルへの通電遮断と同時に前記副一次コイル通電手段を動作させて前記副一次コイルへ前記重畳電流の供給を開始させ、前記重畳抑制条件判定手段により前記重畳抑制条件の成立が判定されたときには、前記重畳電流を抑制する能動信号を前記副一次コイル通電手段へ送って能動動作させることを特徴とする内燃機関用点火装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両に搭載される内燃機関用の点火装置に関し、特に、複数の一次コイルを使用して点火プラグに放電を起こす内燃機関用点火装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両搭載の内燃機関として、燃費改善のために直噴エンジンや高EGRエンジンが採用されているが、これらのエンジンは着火性があまり良くないため、点火装置には高エネルギー型のものが必要になる。そこで、古典的な電流遮断原理により点火コイル一次側から点火コイル二次側に放電エネルギーを与えることに加え、もう一つの一次コイルに通電して二次側へ与えるエネルギーを重畳的に高める重ね放電型点火装置を、本件発明者は提案している。(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の点火装置は、点火コイルの一次電流を遮断することで二次側に発生する数Kvの高圧電圧により、点火プラグの放電間隙に絶縁破壊を起こし、点火コイルの二次側に放電電流を流し始めた後に、もう一つの一次コイルに一次電流を流す。もう一つの一次コイルへの通電で生じる磁束の向きは、一次コイルの通電遮断で磁束が減少する向きと同じである。このため、通電遮断による一次コイルの磁束変化と、もう一つの一次コイルへの通電による発生磁束が、二次コイルに作用することとなる。すなわち、二次コイルには、通常の一次電流遮断による磁束変化よりも大きな磁束変化が作用するので、二次側に発生する磁束を加速させ、二次電流を重畳できる。事実、重ね放電型の点火装置によると、点火プラグに比較的大きな放電エネルギーを得ることができるため、燃料への着火性が向上し、ひいては燃費も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された重ね放電型点火装置は、もう一つの一次コイルへの通電量や通電時間を変えることで、二次側へ与える重畳エネルギーを調整できるものの、その調整を自動的に行う機能を備えていない。例えば、もう一つの一次コイルに流れる電流をフィードバック制御により希望の電流が流れるように調整すれば、もう一つの一次コイルへの通電制御を自動的に最適化できる。また、二次電流の状態によって、もう一つの一次コイルに流れる電流を増加させたり、逆に減少させたりして、二次電流を好適に保つ様にフィードバック制御を行うことでも、もう一つの一次コイルへの通電制御を自動的に最適化できる。
【0006】
しかしながら、このような自動制御の機能を内燃機関用点火装置へ実装する場合、制御ユニットが大型化したり、装置自体が高コスト化したりという問題が生じる。制御ユニットが大型化してしまうと、狭小な車両内での搭載場所を別途確保する必要が生じてしまうので、車体の設計から見直さなければならない場合もある。また、制御ユニットが高コストになってしまうと、それだけ車両価格を上げなければならず、市場競争力を担保できない可能性もある。
【0007】
一方、もう一つの一次コイルに流れる電流を半導体スイッチ素子のスイッチング動作でON/OFF制御してやれば、制御部を簡素化でき、コスト抑制の効果も期待できる。しかしながら、高電圧対応の半導体スイッチ素子で高速にスイッチング動作を行うと、スイッチOFF時に2つの一次コイルに流れる電流が急激に変化する事で、大きなノイズを発生させてしまう。このため、もう一つの一次コイルに流れる電流の変化を緩やかにするなど、ノイズ低減機能が必要となり、結果として制御回路全体が大きくなってしまうという問題が生ずる。
【0008】
そこで、本発明は、点火プラグに発生した火花放電による着火性を必要十分に向上させ、ノイズの発生も抑制できる自動制御機能を、大型化・高コスト化させずに搭載できる内燃機関用点火装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、内燃機関用点火装置は、点火制御手段からの点火信号のオン・オフによって点火コイルへの通電制御を行うことで、点火コイルの二次側に放電エネルギーを与えて点火プラグに火花放電を起こさせる内燃機関用点火装置において、前記点火コイルは、点火信号がオンで行われる主一次電流の通電により順方向の磁束量が増加し、点火信号がオフになって主一次電流を遮断することにより順方向の磁束量が減少する主一次コイルと、該主一次コイルに対する通電遮断以降の放電期間内に重畳電流を流すことにより、順方向と逆の遮断方向に磁束を発生させる副一次コイルと、一端側が点火プラグと接続され、前記主一次コイルと副一次コイルの磁束変化が作用して放電エネルギーが与えられる二次コイルと、を有し、前記副一次コイルへの通電・遮断を行うと共に、副一次コイルへの通電量を変えることで、遮断方向の磁束量を変化させる副一次コイル通電手段と、前記主一次コイルへの通電遮断以降に前記副一次コイル通電手段を動作させ、前記副一次コイルへの重畳電流供給が急激に遮断されないよう前記副一次コイル通電手段による通電量を制御する重畳制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記副一次コイル通電手段は、入力信号に応じて副一次コイルへの通電量を増減させる能動素子であることを特徴とする。
【0011】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記重畳制御手段は、前記主一次コイルへの通電遮断と同時に前記副一次コイル通電手段を動作させて前記副一次コイルへの重畳電流供給を開始させ、重畳電流を所要値に保持する能動信号を前記副一次コイル通電手段へ送って能動動作させることを特徴とする。
【0012】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記重畳制御手段は、前記主一次コイルへの通電遮断と同時に前記副一次コイル通電手段を動作させて前記副一次コイルへの重畳電流供給を開始させ、時間経過に伴って重畳電流を増加させる能動信号を前記副一次コイル通電手段へ送って能動動作させることを特徴とする。
【0013】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記重畳制御手段は、点火信号のオンで電荷をショートし、点火信号がオフとなった放電開始と共に充電を開始するコンデンサを備え、充電開始後におけるコンデンサの電荷蓄積状態を指標として、時間経過に伴う重畳電流の増加制御を行うことを特徴とする。
【0014】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記点火コイルの二次側に流れる二次電流を検出する二次電流検出手段と、前記二次電流検出手段の検出値が所定の重畳促進条件を満たすことに基づいて、前記重畳制御手段による重畳電流の増加を促進させる重畳促進手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記重畳促進手段は、前記二次電流検出手段により検出された二次電流検出値と、二次電流を維持するために重畳電流の増加を促進する指標として予め定めた増加促進基準値とを対比し、検出された二次電流値が増加促進基準値を越えないことを重畳促進条件として用いることを特徴とする。
【0016】
また、上記の内燃機関用点火装置において、前記主一次コイルと前記主一次コイル通電スイッチ手段との接点の電圧を検出する一次コイル電圧検出手段と、前記一次コイル電圧検出手段により検出された一次コイル電圧値が、前記点火プラグ内の放電状況に対応させて定めた一次コイル電圧判定基準値に達したか否かで重畳抑制条件の成否を判定する重畳抑制条件判定手段と、を備え、前記重畳制御手段は、前記主一次コイルへの通電遮断と同時に前記副一次コイル通電手段を動作させて前記副一次コイルへの重畳電流供給を開始させ、前記重畳抑制条件判定手段により重畳抑制条件の成立が判定されたときには、前記重畳電流を抑制する能動信号を前記副一次コイル通電手段へ送って能動動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記構成の内燃機関用点火装置によれば、重畳制御手段によって、副一次コイルへの重畳電流供給が急激に遮断されないよう副一次コイル通電手段による通電量を制御するので、重畳電流供給を停止するときに発生するノイズを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の概略構成図である。
【
図3】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の要部における波形を示した波形図である。
【
図4】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の概略構成図である。
【
図5】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の要部における波形を示した波形図である。
【
図6】第3実施形態に係る内燃機関用点火装置の概略構成図である。
【
図7】第3実施形態に係る内燃機関用点火装置の要部における波形を示した波形図である。
【
図8】第4実施形態に係る内燃機関用点火装置の概略構成図である。
【
図9】第4実施形態に係る内燃機関用点火装置の要部における波形を示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1Aを、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1に示す内燃機関用点火装置1Aは、内燃機関の気筒毎に設けられる1つの点火プラグ2に放電火花を発生させる点火コイルユニット10A、この点火コイルユニット10Aの動作タイミングを指示する点火信号Si等を適宜なタイミングで出力する点火制御手段としての内燃機関駆動制御装置3、車両バッテリ等の直流電源4等で構成される。なお、点火コイルユニット10は高いノイズ抑制効果を発揮できるが、安全のため、電源経路にノイズ除去用のフィルタ手段5を設けても良い。フィルタ手段5の一例は、電源ラインにインダクタ51を介挿し、接地線との短絡路に電解コンデンサ52を設けたL型フィルタ(
図2を参照)である。点火コイルユニット10の内部に搭載スペースを確保できれば、フィルタ手段5を点火コイルユニット10内に設けても構わない。
【0021】
点火コイルユニット10Aは、点火コイル11や制御基板等を所要形状のケース12に収納して一体構造としたユニットである。このケース12の適所には、高圧端子121とコネクタ122を設けてあり、高圧端子121を介して点火プラグ2を接続すると共に、コネクタ122を介して内燃機関駆動制御装置3や直流電源4、接地ライン等と接続する。
【0022】
点火コイル11は、主一次コイル111a(例えば、114ターン)と副一次コイル111b(例えば、20ターン)に生ずる磁束を二次コイル112(例えば、9348ターン)に効率良く作用させるものである。例えば、高透磁性材料で形成したセンターコア113を取り巻くように主一次コイル111aおよび副一次コイル111bを配置し、更にその外側に二次コイル112を配置した構造である。
【0023】
主一次コイル111aの一方端は、コネクタ122を介して直流電源4と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。主一次コイル111aの他方端は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いた点火スイッチ13のコレクタに接続される。点火スイッチ13のエミッタはコネクタ122を介して接地点GNDに接続される。二次コイル112の一方端は高圧端子121を介して点火プラグ2と接続され、他方端はコネクタ122の第5接続端子122eを介して接地点GNDに接続される。なお、二次コイル112からコネクタ122の接地点接続端子へ至る間の線路には、二次コイル112から接地点GNDに向かって順方向となる整流素子D1(例えば、接地側にカソードを、二次コイル112側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設け、二次電流I2の流路方向を規制する。
【0024】
放電サイクルの適宜なタイミングで内燃機関駆動制御装置3より出力される点火信号Siは、コネクタ122を介して、点火コイルユニット10A内の点火スイッチ13のゲートに入力される。そして、点火信号Siが点火スイッチ13のゲートに入力されると(例えば、点火信号Siの信号レベルがLからHに変わると)、点火スイッチ13がオンになり、主一次コイル111aの非給電側端部が接地点GNDに接続される。これにより、主一次コイル111aには、給電側から接地側に向かう主一次電流I1a(以下、一次電流という)が流れ始め、一次電流I1aの流量は増加してゆき、一次電流I1aの流量に応じて発生する通電磁束の磁束量が磁界のエネルギーとして蓄積される。なお、点火コイル11の二次側には、二次コイル112や接続配線等の微少なコンデンサ成分により電気エネルギーが蓄積される。
【0025】
上記のようにエネルギーが蓄積された後、主一次コイル111aへの通電が所定の点火タイミングで遮断されると、高圧の起電力が二次コイル112に生じて点火プラグ2の放電ギャップ間に火花放電が発生し、気筒燃焼室内の混合気に着火する。このとき、主一次コイル111aには、通常の一次電流I1aとは逆向きの電流を流そうとする逆起電力が生ずる。この逆起電力が点火スイッチ13のコレクタ-エミッタ間に印加されると、点火スイッチ13が故障したり、点火スイッチ13の劣化を早めたりする危険性がある。そこで、点火スイッチ13と並列にバイパス線路L1を設けると共に、このバイパス線路L1の接地点側から点火コイル11側に向かって順方向となる整流素子D2(例えば、点火スイッチ13のコレクタ側にカソードを、点火スイッチ13のエミッタ側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設けた。
【0026】
一方、主一次コイル111aと同様に、鉄心113を介して二次コイル112に磁界を作用させることが可能な副一次コイル111bは、その一方端がコネクタ122を介して直流電源4と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。すなわち、主一次コイル111aと副一次コイル111bは電源を共有する。副一次コイル111bの他方端は、IGBTを用いた副一次コイル通電手段としての重畳スイッチ14のコレクタに接続される。重畳スイッチ14のエミッタはコネクタ122を介して接地点GNDに接続される。重畳スイッチ14は、ゲートへの入力信号に応じてコレクタ-エミッタ間の電流を増減させる能動素子であり、後述する重畳制御手段15Aからのゲート信号によって副一次コイル111bへの通電量を増減させる。
【0027】
重畳スイッチ14は、副一次コイル111bへの通電・遮断を行うと共に、副一次コイル111bへの通電量を変えることで、遮断方向(主一次コイル111aの通電磁束を減じる方向)に生じる重畳磁束の磁束量を変化させることができる。なお、副一次コイル111bと重畳スイッチ14との間には、整流素子D3を設ける。整流素子D3は、副一次コイル111bから重畳スイッチ14に向かって順方向となる(例えば、ダイオードのカソードを重畳スイッチ14側に、アノードを副一次コイル111b側にそれぞれ接続する)ように設ける。これにより、副一次電流I1b(以下、重畳電流という)の流路方向が規制され、重畳スイッチ14へ逆向きの電圧が印加されることを阻止できる。
【0028】
重畳スイッチ14の能動動作は、内燃機関駆動制御装置3からの重畳信号Spに基づいて動作する重畳制御手段15Aから出力される信号(ゲート信号)によって行わせる。重畳制御手段15Aは、主一次コイル111aへの通電遮断と同時に重畳信号Spを受ける(例えば、信号レベルがLからHに変化する)ことで、即座に重畳スイッチ14を動作させて、副一次コイル111bへの重畳電流供給を開始させる。その後、重畳信号Spが停止(例えば、信号レベルがHからLに変化)しても、副一次コイル111bへの重畳電流供給が急激に遮断されないように、重畳スイッチ14による副一次電流I1bの通電量を制御して、ノイズの発生を抑制する。なお、重畳制御手段15Aでは、重畳電流I1bの流量を利用するため、重畳電流検出手段を設ける。例えば、重畳スイッチ14からコネクタ122へ至る間の流路に抵抗R1を介挿し、この電圧変化を重畳電流検出信号線L2によって取得することで、重畳電流検出手段を構成する。
【0029】
次に、重畳制御手段15Aの回路について説明する。第1比較器151はオペアンプ構造で、非反転入力(Vin(+))と反転入力(Vin(-))の差分に応じた出力Voutを得ることができる。比較器151の非反転入力には、重畳電流検出信号線L2が接続され、重畳電流I1bの流量変化を反映した信号が入力される。比較器151の反転入力には、基準値入力線L3が接続され、重畳制御に好適な重畳電流I1bの指標となる信号が入力される。
【0030】
比較器151の出力Voutは、制限用スイッチ152(例えば、npn型トランジスタで構成)のベースに入力され、制限用スイッチ152のコレクタ電流を制御する。制限用スイッチ152のコレクタ側は、重畳信号Spが入力される重畳電源供給線L4に接続され、エミッタは接地線に接続される。重畳電源供給線L4とコネクタ122との間には、抵抗R2が介挿されており、重畳電源供給線L4は抵抗R2により減圧された重畳電源電位となり、この重畳電源電位が制限用スイッチ152のコレクタ-エミッタ間に印加される。
【0031】
重畳電源供給線L4は、第1コンデンサC1の一方の電極に接続され、第1コンデンサC1の他方の電極は接地線に接続される。すなわち、重畳信号Spが点火コイルユニット10Aに入力されると、重畳電源供給線L4から供給される重畳電源により第1コンデンサC1が充電される。重畳電源供給線L4には能動制御信号線L5が接続され、この能動制御信号線L5は抵抗R3を介して重畳スイッチ14のゲートに接続される。よって、重畳信号Spが点火コイルユニット10Aに入力されると、第1コンデンサC1の蓄積電荷に応じた電圧が能動制御信号線L5に印加され、能動制御信号が重畳スイッチ14のゲートに入力される。すなわち、重畳制御手段15Aの出力である能動制御信号(ゲート電流)により重畳スイッチ14を能動動作させ、能動制御信号に応じた重畳電流I1bを流すように制御できる。
【0032】
一方、第1比較器151の基準値入力線L3に入力する基準値は、電源電圧VB+を抵抗R4aと抵抗R4bで分圧して生成した電圧信号であり、重畳電流検出信号線L2から入力される重畳電流検出値の好適な値に対応させた電圧値とする。よって、副一次コイル111bに流れる重畳電流I1bに基づく重畳電流検出値が基準値に満たないときは、第1比較器151の出力はオフであるが、重畳電流検出値が基準値に達すると、両値の差異に応じた出力を得ることができる。すなわち、重畳電流I1bが基準量に満たないときは制限用スイッチ152が動作せず、重畳電流I1aが基準量に達すると制限用スイッチ152が動作して、基準値と重畳電流検出値との差異に応じたコレクタ電流が流れる。制限用スイッチ152が動作してコレクタ電流が流れると、それだけ重畳電源供給線L4から第1コンデンサC1への給電量が低くなり、能動制御信号線L5から重畳スイッチ14のゲートに入力される能動制御信号も低下する。したがって、重畳制御手段15Aは、重畳電流I1bが所要値(点火プラグ2の好適な点火状態を実現できる好適な流量)に達すると、重畳スイッチ14を能動動作させる能動制御信号(ゲート電流)を抑制し、重畳電流I1bを低下させるように自動制御できる。
【0033】
本実施形態における点火コイルユニット10Aでは、重畳スイッチ14を能動制御する重畳制御手段15Aが出力する能動制御信号を、重畳電源供給線L4から給電される第1コンデンサC1の蓄積電荷に応じて生成するものとした。すなわち、重畳信号Spの入力が停止されて重畳制御を終了するときには、第1コンデンサC1の放電によって重畳電源供給線L4の電源電圧を徐々に低下させるので、重畳スイッチ14のゲート電流も徐々に低下し、重畳スイッチ14は急激にオフとならない。これにより、副一次コイル111bへの重畳電流供給を停止するとき、重畳スイッチ14が急激にオフとなって発生するノイズを抑制できる。更なる重畳電流I1bの急減抑制を図るために、重畳電流急減抑制手段16を設けても良い。本実施形態における点火コイルユニット10Aでは、VB+の電源線と接地線とを短絡する副一次コイル用還流路形成線L6に第4ダイオードD4(アノードが接地側、カソードが電源側となる方き)を設けた簡易な構成の重畳電流急減抑制手段16とした。
【0034】
次に、内燃機関用点火装置1Aにおける要部の波形を示した
図3に基づき、重畳制御を行わない場合の回路動作と、重畳制御を行う場合の回路動作を説明する。
【0035】
まず、重畳制御を行わない点火サイクルについて説明する。点火信号Siがオンになって点火スイッチ13が動作し、主一次コイル111aへの通電が開始されると、一次電流I1aが流れ始める。その後、点火信号Siがオフになって主一次コイル111aへの通電が遮断されると、二次コイル112に放電エネルギーが与えられ、点火プラグ2に火花放電が生じて二次電流I2が流れ始める。しかしながら、点火信号Siがオフになった後の点火サイクル内で重畳信号Spがオンになることは無いので、重畳制御手段15Aは動作せず、重畳スイッチ14もオフのままであり、副一次コイル111bからコイル二次側へ放電エネルギーが重畳されることはない。
【0036】
一方、重畳制御を行う点火サイクルでは、点火信号Siのオフと同時に重畳信号Spをオンにする。重畳信号Spがオンになると、重畳電源供給線L4からの電源供給により第1コンデンサC1に電荷が蓄積され、その電荷蓄積状態に応じた電位で生成される能動信号が能動制御信号線L5から重畳スイッチ14のゲートに入力される。すなわち、第1コンデンサC1の蓄積電荷が増えるに従って重畳スイッチ14のコレクタ電流も増加してゆき、重畳電流I1bの流量は第1コンデンサC1の充電特性に類似した上昇率で増えて行く。
【0037】
重畳信号Spがオンになったとき、第1比較器151の反転入力には基準値入力線L3から基準値が入力されており、第1比較器151の非反転入力に入力される重畳電流I1bの検出値は低いため、第1比較器151の出力はない。その後、第1コンデンサC1の充電が進んで重畳電流I1bの流量が増えてゆき、重畳電流I1bの検出値が基準値に達すると、第1比較器151の出力Voutが制限用スイッチ152のゲート入力となり、制限用スイッチ152がオンとなる。重畳電流I1bの検出値と基準値との差が小さい場合には、制限用スイッチ152のコレクタ電流は小さく、重畳電源供給線L4の電圧低下は小さい。重畳電流I1bの検出値と基準値との差が大きくなると、制限用スイッチ152のコレクタ電流も大きくなり、重畳電源供給線L4から第1コンデンサC1への給電量が低下する。このため、第1コンデンサC1は、電荷蓄積の速度が抑制されたり、電源として放電したりすることとなり、能動信号線L5から重畳スイッチ14のゲートに入力される能動信号も低くなる。結果として、重畳スイッチ14のコレクタ電流として得られる重畳電流I1bの流量を下げる自動制御が行われる。
【0038】
その後、重畳電流I1bの低下によって重畳電流I1bの検出値が基準値より下がると、第1比較器151の出力Voutが停止し、制限用スイッチ152がオフとなる。制限用スイッチ152がオフになることで、第1コンデンサC1への給電量が回復すると、第1コンデンサC1の充電が行われ、能動信号線L5から重畳スイッチ14のゲートに入力される能動信号も高くなる。結果として、重畳スイッチ14のコレクタ電流として得られる重畳電流I1bの流量を上げる自動制御が行われる。
【0039】
このように、重畳制御手段15Aは、重畳電流I1bが所要値に保たれるような重畳スイッチ14の能動制御を自動で行える。よって、本実施形態の内燃機関用点火装置1Aで重畳制御を行った場合、二次側に与える放電エネルギーがほぼ一定量だけ重畳され、重畳制御を行わない場合の二次電流I2よりも一定量だけ増加させた二次電流I2となる(
図3の二次電流I2の波形を参照)。
【0040】
また、重畳制御手段15Aでは、重畳信号Spがオフになって重畳制御が終わっても、第1コンデンサC1の放電によって能動信号を徐々に低減させるので、重畳スイッチ14が急激に遮断されることはなく、重畳スイッチ14のオフによって発生するノイズを抑制できる。このように能動信号を徐々に低減させることで、重畳電流I1bも徐々に低減することとなる(
図3の重畳電流I1bの波形を参照)。
【0041】
加えて、重畳制御手段15Aは、耐熱性および耐ノイズ性の高いディスクリート部品を用いた回路基板として実現できるので、点火コイル11と共に点火コイルユニット10A内に設けても安定動作する。よって、重畳制御手段15Aの機能を点火コイルユニット10Aとは別の制御装置として構成した場合のように、車両内に制御装置の搭載場所を確保する必要がないので、実用的価値も高い。
【0042】
上述した第1実施形態の内燃機関用点火装置1Aでは、重畳制御手段15Aが重畳電流I1bを所要値に保持する能動信号を重畳スイッチ14へ送って能動動作させ、二次側にほぼ一定の放電エネルギーを与える重畳制御としたが、これに限定されない。例えば、時間経過に伴って重畳電流I1bを増加させる能動信号を重畳スイッチ14へ送って能動動作させ、時間経過に伴って二次側に与える放電エネルギーを増加させる重畳制御とすることもできる。
図4に示す第2実施形態の内燃機関用点火装置1Bでは、このような重畳制御が可能である。なお、上述した第1実施形態の内燃機関用点火装置1Aと同一の構成には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0043】
第2実施形態の内燃機関用点火装置1Bにおける重畳制御手段15Bには、基準値増加制御部153を設けてある。基準値増加制御部153は、例えば、基準値入力線L3の電圧で充電される第2コンデンサC2と、基準値入力線L3を接地に短絡させる短絡路の開閉を行う放電用スイッチ154とで構成する。通常、第1比較器151の非反転入力Vin(+)には、基準値入力線L1から重畳電流I1bを制限する指標となる基準値(電源電圧VB+を抵抗R4aと抵抗R4bで分圧した電圧)が入力される。この基準値入力線L3に接続された第2コンデンサC2は、基準値入力線L3の電位に応じて充放電することとなる(
図5の第1比較器Vin(-)入力波形を参照)。一方、npn型のバイポーラトランジスタ等で構成できる放電用スイッチ154のベースには、点火信号Siが入力されるので、点火信号Siがオンになっている間、基準値入力線L3は接地線に短絡されるため、第2コンデンサC2は放電して蓄積電荷がゼロに近づく。点火信号Siがオフになると、放電用スイッチ154もオフになるので、基準値入力線L3に印加される電位(基準値となる電位)で第2コンデンサC2が充電されて行く。
【0044】
すなわち、点火信号Siがオンになることで第2コンデンサC2の蓄積電荷がゼロになると、基準値入力線L3の電位はゼロとなり、時間経過に伴って第2コンデンサC2に電荷が蓄積されて行くと基準値入力線L3の電位は上がる。なお、第2コンデンサC2の充放電特性により、必ずしも点火信号Siがオンの間に全電荷を放出してゼロ電位になるわけではないし、第2コンデンサC2が基準値(抵抗R4aと抵抗R4bの分圧比に応じた電圧)に達する定常状態まで充電する必要はなく、時間経過に対する電荷蓄積の直線性が良い範囲で使うことが望ましい。
【0045】
第2コンデンサC2の充電特性に応じて基準値を変化させれば、副一次コイル111bへの重畳電流供給を開始した後、徐々に重畳電流I1bを増加させて行くことができる。かくするためには、重畳制御の開始からしばらく重畳電流検出値の方が基準値よりも高く、次第に基準値が重畳電流検出値に近づく、もしくは重畳電流検出値を超える変化となるような充電特性の第2コンデンサC2を用いる必要がある。このように基準値を変化させれば、重畳信号Spがオンとなって重畳制御が開始された直後には、重畳電流検出値の方が基準値よりも高いことで、第1比較器151がオンとなって制限用スイッチ152もオンとなり、第1コンデンサC1への給電量が下がる。したがって、第1コンデンサC1の充電速度が遅くなり、重畳スイッチ14のベース電流となる能動信号も低電流に抑えられ、それだけ重畳開始直後の重畳電流増加率が低くなる。その後、基準値が増加して重畳電流検出値に近づくか重畳電流検出値を越えると、制限用スイッチ152のコレクタ電流が小さくなるか、制限用スイッチ152がオフとなり、第1コンデンサC1への給電量が回復する。したがって、第1コンデンサC1の電荷蓄積速度は上がり、重畳スイッチ14のベース電流となる能動信号も高電流に増加し、重畳開始直後よりも重畳電流増加率が上がる。
【0046】
このように、重畳制御手段15Bは、重畳電流I1bを徐々に増やしてゆくような重畳スイッチ14の能動制御を自動で行える。よって、本実施形態の内燃機関用点火装置1Bで重畳制御を行った場合、主一次コイル111aから二次側へ高い放電エネルギーが与えられる重畳制御開始直後は、重畳電流I1bを低く抑え、二次電流I2が高くなり過ぎないようにできる。その後、主一次コイル111aから二次側へ与える放電エネルギーが低くなると、重畳電流I1bを増やして、二次電流I2が低くなることを抑制できる(
図5の二次電流I2の波形を参照)。
【0047】
上述した第1,第2実施形態の内燃機関用点火装置1A,1Bでは、重畳電流I1bの検出状態に応じて好適な燃焼状態を得られるように自動制御を行うものとしたが、自動制御に用いる情報は特に限定されない。例えば、二次電流I2の検出状態に応じて重畳制御を行う事もできる。そこで、二次電流I2の検出状態に基づいて重畳制御を行う第3実施形態の内燃機関用点火装置1Cを、添付図面に基づいて詳細に説明する。上述した第1,第2実施形態の内燃機関用点火装置1A,1Bと同一の構成には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0048】
第3実施形態の内燃機関用点火装置1Cでは、点火プラグ2に発生した火花放電による着火性を必要十分に向上させるため、二次電流I2を高く保つ制御を自動で行う構成を設けたものである。かくするためには、指標となる二次電流I2を検出する機能と、重畳スイッチ14に働きかけて重畳電流I1bの流量増加を促進させる機能が必要である。なお、本実施形態の内燃機関得用点火装置1Cでは、増加促進制御を通常時の制御とし、増加促進制御が不要の時に限って増加促進を抑制するものとしたが、これに限定されるものではない。通常時は通常の重畳制御を行い、通常時における重畳電流I1bの流量よりも高い流量に増加させる必要が生じたときに限って、重畳電流I1bの流量増加を促進させる制御を行うようにしても良い。
【0049】
先ず、点火コイル11の二次側に流れる二次電流I2を検出する機能(二次電流検出手段)は、二次電流I2の流路適所(例えば、整流素子D1のカソード側とコネクタ122の接地端子との間)に介挿した抵抗R5と、この電圧変化を取得する二次電流検出信号線L7とで構成できる。一方、重畳スイッチ14に働きかけて重畳電流I1bの流量を促進させる機能としては、重畳促進手段17を設けた。重畳促進手段17は、種々の回路構造で実現できるが、本実施形態では、第2比較器171と重畳促進用スイッチ172を用いて構成した例を示す。
【0050】
重畳促進手段17は、二次電流検出手段の検出値が所定の重畳促進条件を満たすことに基づいて、重畳制御手段15Cによる重畳電流の増加を促進させるものである。かかる制御を行う場合、二次電流I2が低下して良好な着火性を維持できなくなる状態を回避するために重畳電流I1bの増加を促進させるか否かを判断するための条件として、重畳促進条件の設定が必要である。例えば、重畳制御を行っている期間中、二次電流I2が所定の基準値よりも低い場合に、重畳制御手段15Cから出力される能動信号を上げてやれば、重畳スイッチ14により重畳電流I1bの増加率も高められる。本実施形態では、二次電流I2が所定の基準値よりも低い場合には、通常の重畳制御によって重畳制御手段15Cから能動信号を出力し、二次電流I2が所定の基準値以上になると重畳電流I1bの供給を抑制して、通常時よりも重畳電流I1bを制限するものとした。
【0051】
そこで、第2比較器171の非反転入力Vin(+)に二次電流検出手段により検出された二次電流検出値(二次電流検出信号線L7の信号電圧)を入力し、反転入力Vin(-)に増加促進基準値を入力する。増加促進基準値は、二次電流I2を基準値以上に維持するために重畳電流の増加を促進する指標として予め定めた値であり、二次電流検出値に対応した電圧値を用いる。本実施形態では、電源電圧VB+を抵抗R6aと抵抗R6bで分圧した電圧を増加促進基準値として用い、抵抗R6aと抵抗R6bの間に接続された増加促進基準信号線L8を介して、第2比較器171の反転入力Vin(-)に入力する。かくすれば、二次電流検出値と増加促進基準値との比較結果を、第2比較器171の出力Voutとして得ることができる。なお、第2比較器171は、オープンコレクタ方式のコンパレータを用いるものとし、電源電圧VB+が抵抗R7を介して入力されるプルアップ電圧を、増加促進条件判定信号Suとなる出力VoutのHレベル電圧に設定する。
【0052】
増加促進用スイッチ172は、例えば、pnp型のバイポーラトランジスタを用いる。増加促進用スイッチ172のエミッタはコネクタ122を介して直流電源4と接続し、電源電圧VB+が印加される。増加促進用スイッチ172のコレクタは、抵抗R8を介挿した増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cの基準値入力線L3に接続される。増加促進用スイッチ172がオンになってコレクタ電流が増加促進用給電線L9に流れると、基準値線L3には、抵抗R8と抵抗R4aが並列接続された給電線が接続された状態に等しくなる。すなわち、増加促進用スイッチ172がオンになって増加促進用給電線L9が基準値線L3に接続されると、抵抗R8と抵抗R4aが並列接続されたこととなり、これらの合成抵抗値と抵抗R4bとの分圧比である基準値線L3の電位は高くなる。
【0053】
増加促進手段17によって増加促進条件の成立が判定されていな通常時に、基準値線L3から第2コンデンサC2に供給される基準値は、抵抗R4aと抵抗R4bの分圧比によって定まる比較的低い値である。しかし、増加促進手段17によって増加促進条件の成立が判定されると、基準値線L3から第2コンデンサC2に供給される基準値は、並列接続された抵抗R8と抵抗R4aの合成抵抗と抵抗R4bとの分圧比によって定まる比較的高い値になる。よって、増加促進条件が成立すると、重畳電流検出値よりも基準値の方が高くなったり、重畳電流検出値と基準値との差異が縮まるので、制限用スイッチ152がオフになったり、コレクタ電流が低減される。これにより、第1コンデンサC1への給電量が増えて電荷蓄積速度が増し、重畳スイッチ14へのゲート電流も増加する。その結果、重畳スイッチ14のコレクタ電流として制御される重畳電流I1bの増加を促進できるのである。
【0054】
増加促進用スイッチ172のベースには、第2比較器171の出力Voutである増加促進条件判定信号Suが抵抗R9を介挿した動作状態指示線L10から入力される。第2比較器171からの増加促進条件判定信号Suがオフ(信号レベルがH)のとき、増加促進用スイッチ172のベース電流が流れないため、増加促進用スイッチ172はオフとなり、増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cに電源供給されない。一方、第2比較器171からの増加促進条件判定信号Suがオン(信号レベルがL)になると、増加促進用スイッチ172のベース電流が流れ、増加促進用スイッチ172がオンとなり、増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cに電源供給される。
【0055】
かく構成した重畳促進手段17においては、増加促進条件が成立した場合、第2コンデンサC2の電荷蓄積速度が速められ、基準値信号線L3から第1比較器151の反転入力Vin(-)に供給される基準値の増加が促進される。基準値が早期に増加して行くことで、重畳信号検出値を超え易くなるため、早いタイミングで第1比較器151の出力Voutが停止する。第1比較器151の出力Voutが停止すると、制限用スイッチ152もオフとなり、重畳電源供給線L4から第1コンデンサC1への給電量が回復し、第1コンデンサC1の電荷蓄積速度を速められる。これにより、重畳スイッチ14を能動制御するためのゲート電流である能動信号も高まり、重畳電流I1bの増加が促進される。すなわち、副一次コイル111bに生ずる重畳磁束が増加して、二次コイル112に作用する磁束変化が大きくなるので、点火コイル二次側の起電力を高め、二次電流I2を高い値に保つことが可能となる。
【0056】
一方、増加促進条件が不成立のときには、重畳促進手段17はオフのままで増加促進用給電線L9から基準信号線L3へ電源供給されない。よって、第2コンデンサC2の電荷蓄積速度が速められることはなく、ひいては第1コンデンサC1の電荷蓄積速度を上げることもない。その後、増加促進制御を行わないことで二次電流I2が低くなり、増加促進条件を満たすようになると、重畳促進手段17によって増加促進用給電線L9から重畳制御手段15Cへ電源供給し、基準値の増加を促進する。すなわち、重畳促進手段17による重畳促進制御を行わないで二次電流I2が低下しても、再び増加促進条件が成立すれば、重畳促進手段17が再び重畳促進制御を行うようになり、二次電流I2を自動的に増加させ、二次電流I2を高い値に保つことが可能となる。
【0057】
次に、内燃機関用点火装置1Cにおける要部の波形を示した
図7に基づき、重畳制御を行わない場合の回路動作と、重畳制御を行う場合の回路動作を説明する。
【0058】
まず、重畳制御を行わない点火サイクルについて説明する。点火信号Siがオンになる前、増加促進条件が成立しているので、重畳増加手段17から増加促進用給電線L9を介して電源供給されており、第2コンデンサC2は電荷が蓄積された定常状態になっている。点火信号Siがオンになって点火スイッチ13が動作し、主一次コイル111aへの通電が開始されると、一次電流I1aが流れ始める。点火信号Siがオンになることで放電用スイッチ154がオンになり、第2コンデンサC2の電荷がショートされて、第1比較器151の非反転入力Vin(+)の入力電位はLに落ちる。しかし、このときに重畳電流I1bは流れていないので、第1比較器151の非反転入力Vin(+)もLのままであるから、第1比較器151の出力VoutもLで、制限用スイッチ152が動作することはない。
【0059】
その後、点火信号Siがオフになって主一次コイル111aへの通電が遮断されると、二次コイル112に放電エネルギーが与えられ、点火プラグ2に火花放電が生じて二次電流I2が流れ始める。点火信号Siがオフになることで放電用スイッチ154がオフになり、第2コンデンサC2の充電が開始される。このとき、放電開始直後の容量放電によって高い二次電流I2が流れ、増加促進基準値を超えると増加促進条件が成立しなくなり、増加促進手段17から増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cへ電源供給されなくなる。したがって、重畳制御手段15Cの第2コンデンサC2は、抵抗R4aを介して供給される電源のみで充電されることとなる。
【0060】
二次電流I2が減少して増加促進基準値を下回ると、再び増加促進条件が成立するので、増加促進手段17から増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cへ電源供給されるようになる。したがって、重畳制御手段15Cの第2コンデンサC2は、抵抗R4aを介して供給される電源と、増加促進用給電線L9を介して供給される電源からなる並列電源により充電され、電荷蓄積速度が促進される。しかしながら、重畳制御を行わない場合、重畳信号Spが入力されないので、第1コンデンサC1が充電されることは無く、重畳スイッチ14への能動信号出力も行われることはない。よって、点火プラグ2の放電開始後に、点火コイル二次側へ重畳的にエネルギーが与えられることは無く、主一次コイル111aにおける順方向の磁束減少に伴って二次電流I2も減少して行く。
【0061】
一方、重畳制御を行う点火サイクルでは、点火信号Siのオフと同時に重畳信号Spをオンにする。重畳信号Spがオンになると、重畳電源供給線L4より電源供給されて第1コンデンサC1の充電が開始される。第1コンデンサC1の充電電荷に応じた流量の能動信号が重畳スイッチ14のゲートへ入力されると、副一次コイル111bに重畳電流I1bが流れるようになり、その後も第1コンデンサC1の蓄積電荷量に応じて重畳電流I1bの流量が増えて行く。
【0062】
放電開始直後は、二次電流I2が非常に高いため、増加促進条件が成立しなくなり、増加促進手段17から増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cへ電源供給されなくなる。したがって、重畳制御手段15Cの第2コンデンサC2は抵抗R4aを介して供給される電源のみで充電され、第1比較器151の反転入力に入力される基準値の増加速度は促進されないため、基準値がなかなか上がらない。基準値が比較的低い値であれば、重畳電流検出値の方が高くなり易いので、第1比較器151がオンとなって制限用スイッチ152がオンとなり易い。制限用スイッチ152がオンになってコレクタ電流が流れると、それだけ第1コンデンサC1への給電量が低下し、重畳スイッチ14へ供給する能動信号も低く、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bの増加速度は若干低いものとなる。このように、増加促進条件が成立しなくなったときには、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bの増加速度を低減させるので、二次電流I2が必要以上に高くなることを抑制できる。
【0063】
二次電流I2が減少して増加促進基準値を下回ると、再び増加促進条件が成立するので、増加促進手段17から増加促進用給電線L9を介して重畳制御手段15Cへ電源供給されるようになる。したがって、重畳制御手段15Cの第2コンデンサC2は、抵抗R4aを介して供給される電源と、増加促進用給電線L9を介して供給される電源からなる並列電源により充電されてゆくこととなる。第2コンデンサC2の電荷蓄積速度が速まると、第1比較器151の反転入力に入力される基準値の増加速度も速くなるため、早いタイミングで基準値が重畳電流検出値に達し、第1比較器151の出力がオフとなり、制限用スイッチ152もオフとなる。制限用スイッチ152がオフになると、重畳電源供給線L4より第1コンデンサC1に供給される給電量が回復して電荷蓄積速度が速まるので、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bの増加を促進することができる。このように、増加促進条件が成立したときには、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bの増加を促進させるので、二次電流I2が基準値よりも低くなることを抑制できる。
【0064】
上記のような重畳促進手段17を用い、重畳電流I1bの増加を促進させたり、通常の増加状態へ戻したりする制御を行うと、二次コイル112に作用する磁束の変化量を好適に保持できるので、二次側に発生する起電圧を高いまま維持することができる。すなわち、本実施形態の内燃機関用点火装置1Cによれば、点火プラグ2に発生した火花放電による着火性を必要十分に向上させるために、二次電流I2を高い値に保ちつつも、過度に二次電流I2を上昇させて、電力消費を高めてしまうことを抑制できる。しかも、重畳促進手段17は、第2比較器171や増加促進用スイッチ172といったディスクリート部品で比較的安価かつ小型に構成できる。
【0065】
上述した第1~第3実施形態の内燃機関用点火装置1A~1Cでは、重畳電流I1bや二次電流I2の検出状態に応じて好適な燃焼状態を得られるように自動制御を行うものとしたが、自動制御に用いる情報は電流値に限定されない。例えば、点火プラグ2に印加される二次コイル電圧を用いて重畳制御を行えば、点火プラグ2の放電状況に応じた適切な点火制御が可能である。
【0066】
そもそも、直噴エンジンや高EGRエンジンでの着火性を向上させるためには、高電流期間を長くするだけでは十分とは言えず、点火プラグ2の放電電流によって大きな火炎を形成することも重要である。通常のエンジンでは、シリンダ内に生じるタンブル流の流速が3~5〔m/s〕程度なのに対して、超希薄リーン燃焼(A/F=29)やEGR=35%で燃焼させようとするエンジンでは、シリンダ内に生じるタンブル流の流速が20〔m/s〕程度に増大する。このように流速が増大したシリンダ内で、点火プラグ2に発生した火花放電はタンブル流に流されて膨らみ、放電経路が伸びる。点火プラグ2に発生した火花放電の放電経路が伸びると、それだけ大きな火炎核が形成されて火炎伝搬も良好となり、着火性を向上させることができる。
【0067】
しかしながら、点火プラグ2に発生した火花放電の放電経路が伸びても、十分な放電電流が流れないと、その放電経路を維持できず、点火プラグの電極間を短経路で結ぶ新たな放電経路が生じるリストライク(放電吹き消え)を起こしてしまい、十分な大きさの火炎核を形成できない。よって、直噴エンジンや高EGRエンジンでの着火性を向上させるためには、点火プラグ2に発生した火花放電のリストライクを防止することも重要である。このような理由から、二次コイル電圧が所定の基準値以上の(或いは、より高い)ときは、二次側への放電エネルギーを高くし、二次コイル電圧が基準値に満たない(或いは、基準値以下の)ときは、二次側の放電エネルギーを抑制する制御が有効である。
【0068】
しかしながら、二次コイル電圧は数kV~数十kVに及ぶ高電圧であるために、分圧抵抗を設けることに依るリークの発生といった諸問題に配慮が必要であり、二次コイル電圧の監視を行うことは現実的ではない。
【0069】
そこで、第4実施形態に係る内燃機関用点火装置1Dでは、二次コイル112との巻数比に応じた電圧が発生する主一次コイル111aの電圧検出値を二次コイル電圧検出値と推定して重畳制御を行うものとした。主一次コイル111aに発生している電圧(以下、一次コイル電圧という)であれば、比較的低い電圧値であることから、監視のための難易度が低い。ただし、一次コイル電圧と二次コイル電圧は、電圧値のスケールが異なると共に、互いに逆極性となる。この相違点を踏まえておけば、一次コイル電圧を二次コイル電圧の相関情報として扱うことができる。
【0070】
以下、第4実施形態の内燃機関用点火装置1Dを、添付図面に基づいて詳細に説明する。上述した第1~第3実施形態の内燃機関用点火装置1A~1Cと同一の構成には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0071】
第4実施形態の内燃機関用点火装置1Dの点火コイルユニット10Dにおいては、主一次コイル111aの低圧側電圧を検出するために、主一次コイル111aと点火スイッチ13との間(例えば、バイパス線路L1と同位置)から分岐させて一次コイル電圧検出ラインL11を引き出し、一次コイル電圧検出手段18へ導く。一次コイル電圧検出手段18では、一次コイル電圧検出ラインL11より入力された位置コイル電圧を抵抗R9により降圧し、さらに接地線との間に電圧検出用の抵抗R10を介挿する。抵抗R10による電圧降下を一次コイル電圧検出ラインL12で取得する。
【0072】
この一次コイル電圧検出ラインL12は、重畳抑制条件判定手段19に接続され、二次コイル電圧と相関する情報として一次コイル電圧検出値を供給する。一次コイル電圧検出手段18には、一次コイル電圧検出ラインL12を避けて電流を迂回させるバイパス線路L13を設けてある。このバイパス線路L13には、ツェナーダイオードZDを逆バイアス(カソードを主一次コイル側、アノードを接地側)になるよう接続し、そのツェナー降伏電圧は、重畳抑制条件判定手段19に印加されることが望ましくない規制電圧値に設定してある。かくすれば、一次コイル電圧が異常に高くなってバイパス線路13で規制電圧値に達した場合、ツェナーダイオードZDがツェナー降伏して、一次コイル電圧検出ラインL12に規制電圧が印加されることを防げる。
【0073】
点火コイルユニット10Dでは、一次コイル電圧検出値に基づいて二次コイル電圧を推定することにより、点火プラグ2への印加電圧の変化に基づく重畳制御の可否を重畳抑制条件判定手段19によって判断する。例えば、重畳抑制条件判定手段19は、一次コイル電圧検出手段18により検出された一次コイル電圧値が点火プラグ2内の放電状況に対応させて定めた一次コイル電圧判定基準値に達したか否かで重畳抑制条件の成否を判定する。重畳抑制条件判定手段19により重畳抑制条件の成立が判定されたときには、重畳制御手段15から重畳スイッチ14へ送る能動信号を抑制することで、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bを抑え、過剰な放電エネルギーを二次側へ与えられることを防ぐ。一方、重畳抑制条件判定手段19により重畳抑制条件の不成立が判定されたときには、重畳制御手段15から重畳スイッチ14へ送る能動信号を抑制せず、能力一杯の重畳電流I1bを副一次コイル111bに流し、火花放電の吹き消えを防止する。
【0074】
重畳抑制条件の成否を判定する重畳抑制条件判定手段19は、一次コイル電圧検出手段18から一次コイル電圧検出ラインL12を介して入力される一次コイル電圧検出値を第3比較器191の反転入力Vin(-)にて受ける。第3比較器191の非反転入力Vin(+)には、判定基準値線L14を介して一次コイル電圧判定基準値が入力される。一次コイル電圧判定基準値は、電源電圧VB+を抵抗R11aと抵抗R11bで分圧した一定の電圧信号として生成する。
【0075】
第3比較器191の出力Voutは、例えばnpn型のバイポーラトランジスタにて構成した重畳抑制用スイッチ192のベースに入力される。重畳抑制用スイッチ192のエミッタは接地線に接続され、コレクタは抵抗R12が介挿された並列接続線L15に接続される。並列接続線L15の他端は重畳制御手段15Dの基準値線L3に接続される。すなわち、重畳抑制用スイッチ192がオンになって並列接続線L15が接地線に接続されると、抵抗R12と抵抗R4bが並列接続されたこととなり、これらの合成抵抗値と抵抗R4aとの分圧比である基準値線L3の電位は低下する。
【0076】
重畳抑制条件判定手段19によって重畳抑制条件の成立が判定されていな通常時は、基準値線L3から第1比較器151の反転入力に供給される基準値は、抵抗R4aと抵抗R4bの分圧比によって定まる比較的高い値である。しかし、重畳抑制条件判定手段19によって重畳抑制条件の成立が判定されると、基準値線L3から第1比較器151の反転入力に供給される基準値は、並列接続された抵抗R12と抵抗R4bの合成抵抗と抵抗R4aとの分圧比によって定まる比較的低い値になる。よって、重畳抑制条件が成立すると、重畳電流検出値よりも基準値の方が低くなり、制限用スイッチ152がオンになってコレクタ電流が流れるため、第1コンデンサC1への給電量が低下して電荷蓄積が抑制され、重畳スイッチ14へのゲート電流も低下する。その結果、重畳スイッチ14のコレクタ電流として制御される重畳電流I1bが抑えられるのである。
【0077】
次に、内燃機関用点火装置1Dにおける要部の波形を示した
図9に基づき、重畳抑制制御を行わない場合の回路動作と、重畳抑制制御を行う場合の回路動作を説明する。
【0078】
まず、重畳制御を行わない点火サイクルについて説明する。点火信号Siがオンになる前、一次コイル電圧は基準となる接地電位なので、負極側の値に設定した一次コイル電圧判定基準値よりも低いことから、重畳抑制条件が成立し、重畳抑制用スイッチ192がオンになる。これにより、抵抗R12が抵抗R4bと並行に接続され、基準値線L3から第1比較器151の反転入力へ供給される基準値が低い値に差し替えられる。しかしながら、重畳制御は行われていないので、第1比較器151の出力VoutはLのままであり、能動制御信号線L5から重畳スイッチ14へ能動制御信号が出力されることもない。点火信号Siがオンになって点火スイッチ13が動作し、主一次コイル111aへの通電が開始されると、一次電流I1aが流れ始める。このとき、主一次コイル111a自らのインピーダンス成分によって一次コイル電圧に若干の変化は生じるものの、一次コイル電圧判定基準値を上回ることはないから、重畳抑制条件は成立したままであるが、重畳制御が行われることはない。
【0079】
その後、点火信号Siがオフになって主一次コイル111aへの通電が遮断されると、二次コイル112に放電エネルギーが与えられ、点火プラグ2に火花放電が生じて二次電流I2が流れ始める。このとき、放電開始直後の容量放電によって高い二次電流I2が流れ、一次コイル電圧判定基準値を負極側で超えると重畳抑制条件が不成立となるため、第3比較器191がオフになって重畳抑制用スイッチ192もオフになる。よって、基準値線L3には抵抗R4aと抵抗R4bの分圧比に応じた高い電圧が基準値として供給されるようになる。しかしながら、重畳制御は行われていないので、第1比較器151の出力VoutはLのままであり、能動制御信号線L5から重畳スイッチ14へ能動制御信号が出力されることもない。
【0080】
一方、重畳制御を行う点火サイクルでは、点火信号Siのオフと同時に重畳信号Spをオンにする。重畳信号Spがオンになると、重畳電源供給線L4より電源供給されて第1コンデンサC1の充電が開始される。第1コンデンサC1の充電電荷に応じた流量の能動信号が重畳スイッチ14のゲートへ入力されると、副一次コイル111bに重畳電流I1bが流れるようになり、その後も第1コンデンサC1の蓄積電荷量に応じて重畳電流I1bの流量が増えて行く。
【0081】
放電開始直後は、二次電流I2が非常に高いため、重畳抑制条件が成立しなくなり、並列接続線L15の抵抗R12が重畳制御手段15Dの抵抗R4bに並列接続されなくなる。したがって、基準値線L3には抵抗R4aと抵抗R4bの分圧比に応じた高い電圧が基準値として供給されるようになる。基準値が高くなると、第1比較器151がオンになり難く、制限用スイッチ52にコレクタ電流も流れず、第1コンデンサC1への給電量が減ぜられることもない。結果として、第1コンデンサC1の蓄積電荷量に応じた能動信号が重畳スイッチ14へ供給され、能力一杯の重畳電流I1bを副一次コイル111bに流すことができ、二次側へ与える放電エネルギーが抑制されることはない。
【0082】
二次電流I2が減少して一次コイル電圧判定基準値を下回ると、再び重畳抑制条件が成立するので、増加促進手段17から並列接続線L15の抵抗R12が重畳制御手段15Dの抵抗R4bに並列接続され。したがって、基準値線L3には比較的低い値の基準値が供給されるようになり、第1比較器151がオンになり易く、制限用スイッチ52がオンとなって、第1コンデンサC1への給電量を減ずる。第1コンデンサC1の電荷蓄積が抑制されると、重畳スイッチ14へ供給される能動信号も抑制されるので、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bも抑制されることとなる。すなわち、二次コイル電圧を推定できる一次コイル電圧が一次コイル電圧基準値に満たないときは、シリンダ内の流動が少なく、点火プラグ2の電極間に生じた火花が伸びない状態と考えられるので、過剰な放電エネルギーを二次側へ与えることを防止できる。
【0083】
図9に示す重畳制御1のように、頻繁に一次コイル電圧判定基準値を超えてしまうときは、重畳抑制条件が成立する期間が短いので、重畳制御のために多くの重畳電流I1bを流すこととなる。一方、
図9に示す重畳制御2のように、一次コイル電圧判定基準値を超えることが少ない場合は、重畳抑制条件が成立する期間が長いので、重畳制御のための重畳電流I1bを抑制することができる。このように、副一次コイル111bへ過剰な重畳電流I1bを流さない重畳抑制制御を行うと、重畳制御による過剰なエネルギー消費を抑制できる。また、重畳抑制制御によって副一次コイル111bの発熱を抑えることができ、点火スイッチ13、重畳スイッチ14といった制御素子を熱による劣化・損傷から守れるという利点もある。しかも、一次コイル電圧検出手段18や重畳抑制条件判定手段19は、耐熱性・耐ノイズ性の高いディスクリート部品で比較的安価かつ小型に構成できる。
【0084】
以上、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0085】
1A 内燃機関用点火装置(第1実施形態)
10A 点火コイルユニット
11 点火コイル
111a 主一次コイル
111b 副一次コイル
112 二次コイル
13 点火スイッチ
14 重畳スイッチ
15 重畳制御手段
2 点火プラグ
3 内燃機関駆動制御装置
4 直流電源