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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/532 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
A61F13/532 200
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2016233680
(22)【出願日】2016-11-30
(65)【公開番号】P2018089048
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2019-11-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】林 伸匡
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-215688(JP,A)
【文献】特開2012-075566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する吸収性物品であって、
前記吸収体は、腹側部と、背側部と、腹側部及び背側部を相互に結合し、長手方向中央の幅が腹側部及び背側部よりも狭いクロッチ部とからなり、フラッフパルプ及び高吸収性ポリマーを含み、坪量が300g/m以上600g/m以下である、略砂時計型の吸収体であって、
前記吸収体の前記クロッチ部の長手方向中央には、前記吸収体の長手方向に伸びる2本の線状のスリット部を設け、
前記スリット部は、フラッフパルプ及び高吸収性ポリマーを含まず、前記吸収体の厚さ方向において前記吸収体を貫通しており、
前記スリット部の各スリットの幅は5mm以上10mm以下で、かつ、各スリットの長さは75mm以上160mm以下であり、
前記吸収体は、前記スリット部以外に凹部を有さず、
前記吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、前記スリット部の総体積は、2000mm以上15000mm以下であり、
前記吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、前記吸収体の総体積に対する前記スリット部の総体積の比率が、2.6%以上7.2%以下であり、
前記吸収性物品の前記クロッチ部の長手方向中央における幅方向断面において、前記クロッチ部断面積に対する前記クロッチ部のスリット部断面積の比率が11.8%以上23.5%以下である吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽失禁パッド、パンツ型紙おむつ、テープ止め紙おむつ等の吸収性物品で、特にベビー用紙おむつに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、軽失禁パッド、パンツ型紙おむつ、テープ止め紙おむつ等の吸収性物品は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、両シートの間に配置された吸収体と、で構成されている。これにより、尿等の体液は、トップシートを通って吸収体に吸収され、バックシートにより外部へ漏れないようになっている。このような吸収性物品には、体液の吸収性の向上、着用者の装着感の向上、漏れ防止等を図るために、様々な工夫がなされている。
【0003】
特許文献1には、吸液時や外力を受けたときにも凹溝の効果を維持し、吸収スピードを低下させないとともに、装着感の悪化を防止するために、圧搾によることなく凹溝状又はスリット状に形成した吸収体凹部を備え、透液性表面シートの表面側からのエンボスにより、吸収体凹部の内部に吸収体凹部に沿って、吸収体凹部の溝幅より小さなエンボス幅で付与されたエンボス部を設けた吸収性物品が開示されている。
【0004】
特許文献2には、液体の拡散性が高くSAPによって効果的に尿を吸収することを目的に、上層吸収体に上側開口部を設け、下層吸収体に長手方向に延び上側開口部と少なくとも部分的に重なる下側開口部を設け、上層吸収体と下層吸収体の間に、複数の高吸収性ポリマー(SAP)を、少なくとも上側開口部と下側開口部とが重なる開口貫通部分の幅方向の左右両側に配置して形成したSAP層を設けた吸収性物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-47432号公報
【文献】特開2016-140559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1及び特許文献2に係る吸収性物品は、吸収体にスリットを設けることで、吸収体内での体液の拡散経路を確保している。しかし、吸収体にスリットを設ける場合、吸収性物品の着用中や、着用中の体液吸収後等において、吸収体にかかる圧力等に対する吸収体の形状の安定性を低下させる場合があり、吸収体の保形性の問題を考慮する必要がある。一方で、吸収体にスリットを設けない場合、吸収性ポリマーが体液を吸収して膨潤すると、吸収体内で体液が拡散する経路が遮断されてしまうため、吸収速度が遅くなる場合があり、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に問題が生じてしまう。
【0007】
したがって、本発明は、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れ、吸収体の保形性に優れた吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、腹側部と、背側部と、腹側部及び背側部の間のクロッチ部とからなる吸収体の少なくともクロッチ部に所定のスリット部を設け、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積を所定の値に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1)本発明の実施形態は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する吸収性物品であって、前記吸収体は、腹側部と、背側部と、腹側部及び背側部の間のクロッチ部とからなり、前記吸収体の少なくとも前記クロッチ部には、前記吸収体の長手方向に伸びる複数の線状のスリット部を設け、前記スリット部は、フラッフパルプ及び高吸収性ポリマーを含まず、前記吸収体の厚さ方向において前記吸収体を貫通しており、前記吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、前記スリット部の総体積は、2000mm以上15000mm以下である吸収性物品である。
(2)(1)に記載の吸収性物品において、前記吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、前記吸収体の総体積に対する前記スリット部の総体積の比率が、2.5%以上7.5%以下であってもよい。
(3)(1)又は(2)に記載の吸収性物品において、前記吸収性物品の前記クロッチ部の幅方向断面において、前記クロッチ部断面積に対する前記クロッチ部のスリット部断面積の比率が10%以上25%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸収性物品は、吸収体の少なくともクロッチ部に、吸収体の長手方向に伸びる複数の線状のスリット部を、吸収体の厚さ方向において吸収体を貫通して設け、スリット部にフラッフパルプ及び高吸収性ポリマーを含まない。これにより、吸収体内で体液が拡散する経路を確保することができ、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れた吸収性物品とすることができる。また、本発明の吸収性物品は、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が2000mm以上15000mm以下である。これにより、スリット部を設けていても、吸収性物品の着用中や、着用中における体液吸収後等において、吸収体にかかる圧力等に対する吸収体の形状の安定性を良好なものとし、吸収体の保形性に優れた吸収性物品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る吸収性物品をトップシート側から見た平面図である。
図2図1のA-A線における吸収性物品の略示断面図である。
図3図1のA-A線における吸収性物品のクロッチ部断面積とスリット部断面積との概略を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る吸収性物品を、テープ止め紙おむつとする場合に、トップシート側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。また、本明細書の説明において、吸収性物品1の着用時とは、吸収性物品1の着用時及び着用後の少なくとも一方をいう。吸収性物品1の長手方向とは、吸収性物品1が着用されたときに着用者の前後にわたる方向であり、図中、符号Yで示す方向である。また、吸収性物品1の幅方向とは、長手方向に対して横又は直交する方向であり、図中、符号Xで示す方向である。さらに、肌当接面とは、吸収体等の各部材の表裏両面のうち、着用時に着用者の肌側に配される面であり、非肌当接面とは、吸収体等の各部材の表裏両面のうち、着用時に着用者の肌側とは反対側に向けられる面である。体液とは、尿や血液、軟便中の水分等の体内から体外に排出された液体をいう。さらに、吸収性物品1としては、ベビー用又は成人用を問わず、軽失禁パッド、パンツ型紙おむつ、テープ止め紙おむつが例示されるが、これに限定されるものではなく、その他の吸収性物品であってもよい。
【0012】
[吸収性物品]
図1は、本発明の実施形態に係る吸収性物品1をトップシート21側から見た平面図である。また、図2は、図1のA-A線における吸収性物品1の略示断面図である。図1及び図2に示すように、吸収性物品1は、肌当接面側に配された液透過性のトップシート21と、トップシート21に対向して配置された液不透過性のバックシート23と、トップシート21及びバックシート23との間に配置された吸収体22と、を備える。これにより、吸収体22は、トップシート21とバックシート23の間に挟まれた構造となり、軽失禁パッドタイプの吸収性物品の構造となる。そして、吸収性物品1には、着用者の腹部に位置する腹側部1aと、着用者の背部に位置する背側部1cと、腹側部1a及び背側部1cを相互に結合するクロッチ部1bとが定義される。
【0013】
<トップシート>
トップシート21は、体液が吸収体22へと移動するような液透過性を備えた基材から形成されればよく、例えば、エアスルー不織布、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布等の不織布、サーマルボンド/スパンボンドを積層した複合不織布、開口ポリエチレンフィルム等の開口性フィルム、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡フィルム、あるいは、これらを積層した複合シートといった材料から形成される。また、トップシート21には、液透過性を向上させるために、表面にエンボス加工や穿孔加工を施してもよい。これらのエンボス加工や穿孔加工を施すための方法としては、公知の方法を制限なく実施することができる。また、肌への刺激を低減させるため、トップシート21には、ローション、酸化防止剤、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤等を含有させてもよい。
【0014】
強度、加工性及び液戻り量の点から、トップシート21の坪量は、15g/m以上40g/m以下であることが好ましい。トップシート21の形状としては特に制限はないが、漏れがないように体液を吸収体22へと誘導するために必要とされる、吸収体22を覆う形状であればよい。
【0015】
(立体ギャザー)
図1及び図2に示すように、吸収性物品1には、使用者の排泄した体液の横漏れを防止するため、吸収性物品1の長手方向に沿って、トップシート21上に、立体ギャザー用弾性部材241と立体ギャザーシート242を有する一対の立体ギャザー24を備えていてもよい。立体ギャザー24は、吸収性物品1の幅方向の外端部が、バックシート23に固定されていてもよい。また、立体ギャザー24は、吸収性物品1の幅方向の内端部において、長手方向の前後端部がトップシート21に固着され、長手方向の前後端部の間の中央部がトップシート21に固定されない自由端となるように配されていてもよい。また、一対の立体ギャザー用弾性部材241が、吸収性物品1の長手方向に沿って設けられ、吸収性物品1の幅方向中央部において一対の立体ギャザー用弾性部材241が、対応する一対の立体ギャザーシート242に被包されていてもよい。これにより、立体ギャザー24が起立性を有し、着用者の体型に合わせて変形可能なものとすることができる。立体ギャザー用弾性部材241としては、例えば、ポリウレタン糸、帯状のポリウレタンフィルム、糸状又は帯状の天然ゴム等が使用され、立体ギャザーシート242としては、疎水性繊維にて形成された撥水性又は不透液性の不織布、例えば、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布、スパンボンド/メルトブロー/スパンボンドを積層した複合不織布等が使用される。
【0016】
<バックシート>
バックシート23は、吸収体22が保持している体液が衣類を濡らさないような液不透過性を備えた基材を用いて形成されればよく、樹脂フィルムや、樹脂フィルムと不織布とを積層した複合シートといった材料から形成される。複合シートに用いられる不織布としては、製法を特に限定せず、例えば、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布、あるいは、スパンボンド/メルトブロー、スパンボンド/メルトブロー/スパンボンドを積層した複合不織布及びこれらの複合材料が挙げられる。また、樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの複合フィルム等が挙げられる。
【0017】
強度及び加工性の点から、バックシート23の坪量は、13g/m以上23g/m以下であることが好ましい。また、装着時の蒸れを防止するため、バックシート23には、通気性を持たせることが好ましい。バックシート23に通気性を備えさせるためには、例えば、基材の樹脂フィルムにフィラーを配合したり、バックシート23に穿孔のためにエンボス加工を施したりすればよい。なお、フィラーとしては炭酸カルシウムを挙げることができ、その配合方法は、公知の方法を制限なく行うことができる。
【0018】
(サイドフラップ)
図4に示すように、本発明の吸収性物品1は、バックシートの腹側部1a及び背側部1cの幅方向両側部に、少なくとも一対のサイドフラップ26を形成してもよい。また、背側部1cのサイドフラップ26それぞれの、自由端側の幅方向両側縁部にはサイドパネル261を、サイドパネル261の自由端側の幅方向縁部には2つのファスニングテープ262を設けてもよい。また、サイドパネル261とファスニングテープ262とは、別々の部材により形成されたものに限定されず、両者が一体となって形成されたものであってもよい。ファスニングテープ262は肌当接面側に、腹側部1aと背側部1cとを締結するための面ファスナーを構成するフック部材からなる締結手段263を設けるとともに、締結手段263の自由端側の各ファスニングテープ262の先端部には、つまみしろ264を設けてもよい。一方、腹側部1aの衣類側表面には、面ファスナーを構成するループ部材で形成されたターゲットテープ(図示しない)を設けてもよく、吸収性物品1を着用者に装着した状態では、締結手段263がループ部材であるターゲットテープに固定される。これにより、本発明の吸収性物品1をテープ止め紙おむつの構成とすることができる。
【0019】
なお、サイドフラップ26の基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等からなる不織布を挙げることができ、これらの基材を単独で、あるいは複数組み合わせてもよい。また、サイドパネル261及びファスニングテープ262の基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等からなる樹脂フィルムや不織布を挙げることができ、これらの基材を単独で、あるいは複数組み合わせてもよい。また、フック部材とは、面ファスナーを構成する部材のうち、フック状に立体成型若しくは起毛された部材を指し、ループ部材とは、フック部材と対を成す部材であって、ループ状に密集して起毛された部材を指す。面ファスナーは、このフック部材とループ部材とが対となって構成されている。吸収性物品1を着用する場合、背側部1cを着用者の背部にあてた状態で、腹側部1aを着用者の腹部側に持っていき、ファスニングテープ262をターゲットテープに締結することで、着用者に装着させることができる。
【0020】
(レッグギャザー)
図4に示すように、本発明の吸収性物品1は、吸収性物品1の腹側部1aからクロッチ部1bを経て背側部1cに渡って、左右一対のレッグギャザー27を設けてもよい。レッグギャザー27は、例えば、糸ゴムなどの弾性部材と不織ウェブ等のシートによって形成される。レッグギャザー27を設けることにより、股下周りの部位におけるフィット感を向上させることができる。
【0021】
(ウエストギャザー)
図4に示すように、本発明の吸収性物品1は、吸収性物品1を着用者のウエストに対して引っ張って保持するように構成されたウエストギャザー28を設けてもよい。ウエストギャザー28は、糸状、ストリップ状、ウエストベルト状などの如何なる形状でもよく、吸収性物品1の長手方向よりも幅方向に略沿って配置され、吸収性物品1の伸縮特性を制御するものである。ウエストギャザー28としては、例えば、単数または複数の糸ゴム、不織ウェブに糸ゴムが固着されたウエストベルト、エラストマーフィルム、弾性発泡材、エラストマー布などの任意の弾性収縮材料を用いることができる。
【0022】
(インジケータ手段)
本発明の吸収性物品1は、吸収体22とバックシート23との間に、体液で濡れると顕在化して体液が排出されたことを外部から識別可能にするインジケータ手段(図示しない)を設け、バックシート23の幅方向中心部に長手方向に直線状に延在するように複数本設けてもよい。インジケータ手段は、例えば、ポリエチレングリコールやグリセリン等のベースポリマーに、エチルレッド、ブロモフェノールブルー等の指示剤、ワックス等の接着剤を混合してホットメルトで接着したものであってもよい。
【0023】
<吸収体>
図1及び図2に示すように、本発明の吸収性物品1において、吸収体22は、腹側部1aと、クロッチ部1bと、背側部1cとを有する。なお、吸収体22は、単層であ
【0024】
吸収体22は、基材としての吸収性繊維と、高吸収性ポリマー(SAP)と、を含有する。吸収体22の全体の坪量は、300g/m以上600g/m以下であることが好ましく、400g/m以上500g/m以下であることがより好ましい。
【0025】
(吸収性繊維)
吸収性繊維は、一般に生理用ナプキンや紙おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、フラッフパルプ、コットン、レーヨン、アセテート、ティシュ、吸収紙、親水性不織布等を挙げることができる。これらの中でも、吸収性の観点から、フラッフパルプを使用することが好ましい。フラッフパルプとしては、木材パルプ(例えば、サウザンパインやダグラスファー等の針葉樹晒クラフトパルプ(N-BKP))、合成繊維、樹脂繊維、非木材パルプ等を綿状に解繊したものを挙げることができる。吸収体22に、基材としての吸収性繊維にフラッフパルプを用いた場合、吸収性繊維の坪量は、吸収体22の全体で、150g/m以上270g/m以下であることが好ましく、190g/m以上230g/m以下であることがより好ましい。これにより、肌触りを損なわずに、より多くの体液を吸収させることができる。
【0026】
(高吸収性ポリマー)
吸収体22の高吸収性ポリマーとしては、体液を吸収し、かつ、逆流を防止できるものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸ナトリウム系、ポリアスパラギン酸塩系、(デンプン-アクリル酸)グラフト共重合体、(アクリル酸-ビニルアルコール)共重合体、(イソブチレン-無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物等の材料から形成されたものを使用することができる。これらの中でも、重量当たりの吸収量の観点から、ポリアクリル酸ナトリウム系が好ましい。
【0027】
吸収体22に含有されるSAPの坪量は、吸収体22全体で、150g/m以上380g/m以下であることが好ましく、190g/m以上200g/m以下であることがより好ましい。上記の数値範囲内とすることで、吸収体22におけるゲルブロッキングを防止し、かつ、吸収体22において多量の体液を吸収させることができる。
【0028】
吸収体22において、吸収性繊維及びSAPの形態は、吸収性繊維中にSAP粒子を混合して形成したもの、又は吸収性繊維間にSAP粒子を固着したSAPシートであることが好ましい。また、SAP粒子の漏洩防止や吸収体22の形状の安定化の目的から、吸収体22をキャリアシート25に包んでもよい。キャリアシート25の基材としては親水性を有するものであればよく、ティシュ、吸収紙、エアレイド不織布等の親水性不織布を挙げることができる。キャリアシート25を複数備える場合は、キャリアシート25の基材は同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0029】
(スリット)
図1及び図2に示すとおり、本発明の吸収性物品1は、吸収体22の少なくともクロッチ部1bには、吸収体22の長手方向に伸びる複数の線状のスリット部221を設けており、2本以上4本以下であることが好ましく、2本であることがより好ましい。これにより、吸収体22内で体液が拡散する経路を確保することができ、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れた吸収性物品1とすることができる。
【0030】
また、スリット部221は、フラッフパルプ及び高吸収性ポリマーを含まず、吸収体22の厚さ方向において吸収体22を貫通している。
【0031】
((スリット部の総体積))
本発明の吸収性物品1は、吸収性物品1の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部221の総体積が、2000mm以上15000mm以下であり、5000mm以上12000mm以下であることが好ましく、7000mm以上10000mm以下であることがより好ましい。スリット部221の総体積を上記の数値範囲内とすることで、スリット部221を設けていても、吸収性物品1の着用中や、着用中における体液吸収後等において、吸収体22にかかる圧力等に対する吸収体22の形状の安定性を良好なものとし、吸収体22の保形性に優れた吸収性物品1とすることができる。さらに、スリット部221の総体積を上記の数値範囲内とすることで、体液が吸収体22に広く分散されるため、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れた吸収性物品1とすることができる。なお、上記のスリット部221の総体積は、35gf/cmの加圧下におけるスリット部221の厚さ方向の深さと、底面積との積から求められる。
【0032】
また、本発明の吸収性物品1は、吸収性物品1の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、吸収体22の総体積が、50,000mm以上250,000mm以下であることが好ましく、80,000mm以上220,000mm以下であることがより好ましく、90,000mm以上180,000mm以下であることが更に好ましい。これにより、スリット部221による吸収体22の形状の安定性の低下を防ぐことができ、吸収体22の保形性により優れた吸収性物品1とすることができる。
【0033】
また、本発明の吸収性物品1は、吸収性物品1の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、吸収体22の総体積に対するスリット部221の総体積の比率が、2.5%以上7.5%以下であることが好ましく、3.5%以上6.5%以下であることがより好ましく、4.0%以上6.0%以下であることが更に好ましい。これにより、吸収性物品1の着用中や、着用中における体液吸収後等において、スリット部221による吸収体22の形状の安定性の低下を防ぐことができ、吸収体22の保形性により優れ、かつ拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能により優れた吸収性物品1とすることができる。
【0034】
本発明の吸収性物品1の吸収体22におけるスリット部221の長手方向の寸法は、60mm以上180mm以下であることが好ましく、70mm以上165mm以下であることがより好ましく、80mm以上150mm以下であることが更に好ましい。また、本発明の吸収性物品1の吸収体22における幅方向の寸法は、5mm以上12mm以下であることが好ましく、5mm以上10mm以下であることがより好ましく、5mm以上8mm以下であることが更に好ましい。これにより、吸収体22内で体液が拡散する経路をより確保しやすく、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れ、かつスリット部221による吸収体22の形状の安定性の低下を防ぎやすく、吸収体22の保形性に優れた吸収性物品1とすることができる。
【0035】
((スリット部断面積))
図3に示すように、本発明の吸収性物品1の吸収体22におけるスリット部221は、吸収体22のクロッチ部1bの幅方向断面において、吸収体22のクロッチ部断面積に対するスリット部221のスリット部断面積の比率が、10%以上25%以下であることが好ましく、12%以上23%以下であることがより好ましく、15%以上20%以下であることが更に好ましい。ここで、吸収体22のクロッチ部1bは、吸収性物品1の着用中や、着用中の体液吸収後等において、着用者の脚等の動きによる圧力等の負荷がかかりやすく、吸収体のヨレ、折れ、割れ等が問題になりやすく、吸収体22の形状の安定性に重要となる領域である。さらに、吸収体22のクロッチ部1bは、体液が排出される局所付近に位置し、吸収性能に重要となる領域でもある。そこで、吸収体22のクロッチ部断面積に対するスリット部221のスリット部断面積の比率を上記の数値範囲内とすることで、クロッチ部1bにスリット部221を有する場合において、吸収体22の保形性に優れ、かつ、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れた吸収性物品1とすることができる。
【0036】
また、本発明の吸収性物品1の吸収体22におけるスリット部221は、吸収体22の幅方向断面において、吸収体22のクロッチ部断面積が、250mm以上450mm以下であることが好ましく、270mm以上430mm以下であることがより好ましく、290mm以上410mm以下であることが更に好ましい。
【0037】
また、本発明の吸収性物品1の吸収体22におけるスリット部221は、吸収体22の幅方向断面において、スリット部221のスリット部断面積が、25mm以上110mm以下であることが好ましく、30mm以上105mm以下であることがより好ましく、35mm以上100mm以下であることが更に好ましい。
【0038】
[吸収速度]
本発明の吸収性物品1は、吸収速度が60秒以下であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましい。これにより、吸収体22が体液を素早く吸収することができる、吸収速度に優れた吸収性物品1とすることができる。
【0039】
本発明の吸収性物品1の吸収速度は以下の方法により、測定する。
【0040】
外径80mmの円柱の中央に内径30mmの穴が開いており、重さ2kgとした測定治具を、トップシート21を上に向けた状態で、吸収性物品1における吸収体22のクロッチ部1bの長手方向、かつ幅方向の中央部の上に置き、上部の穴から生理食塩水50ml(温度36±3℃)を投下し、生理食塩水がトップシート21に接触した時点を始点、測定治具中央円内の円周に生理食塩水が完全に吸い込まれた時点を終点として時間を計測し、吸収速度とする。
【0041】
[液戻り量]
本発明の吸収性物品1は、液戻り量が1.5g以下であることが好ましく、0.5g以下であることがより好ましい。これにより、体液を吸収した吸収体22が吸収した体液を保持し、液戻り量に優れた吸収性物品1とすることができる。
【0042】
本発明の吸収性物品1の液戻り量は以下の方法により、測定する。
【0043】
吸収性物品1の中央に生理食塩水300ml(温度36±3℃)を注入し、10分経過後に、あらかじめ重量を測定したろ紙(ADVANTEC社製No.2ろ紙、直径55mm)10枚を注入部の中心に置き、ろ紙の上に687gの錘を載せる(圧力:35gf/cm)。錘を載せてから1分経過後に、ろ紙の重量を測り、試験前後のろ紙の重量差(g)を液戻り量とする。液戻り量は、N=10サンプルについて行ったものの平均値とする。なお、液戻り量が少ないほど吸収性能に優れる。
【0044】
[吸収性物品の製造方法]
吸収性物品1の製造方法は、周知の方法を採用することができる。例えば、(A)吸収性繊維を高吸収性ポリマーとともに積繊して吸収体マットを作成し、吸収体22を形成する工程、(B)トップシート21と立体ギャザー24をホットメルト系接着剤などで固定・一体化する工程、(C)トップシート21、立体ギャザー24、及びバックシート23の内側にホットメルト系接着剤を塗工する工程、(D)集合ドラムにおいて、吸収体22の上部にトップシート21を、吸収体22の下部にバックシート23を配置し、各構成部材を固定・一体化する工程、(E)吸収性物品1の半製品をカッター装置により製品寸法でカットし、個々の吸収性物品1を切り離す工程、を有する製造方法等を挙げることができる。そして、本発明において吸収性物品1の吸収体22を成形する際には、あらかじめ所定の形に裁断された吸収体22のクロッチ部1bに所定のスリットを設けた後に、上部にトップシート21を、下部にバックシート23を配置し、各構成部材を固定・一体化してもよい。
【0045】
また、吸収性物品1をテープ止め紙おむつとする場合の製造方法は、周知の方法を採用することがでる。例えば、スリット221を含む所定の形に形成した吸収体22と、立体ギャザー24を配置したトップシート21と、ウエストギャザー28、レッグギャザー27およびサイドパネル261を配置したバックシート23とを一体化させ、折りたたんでのち全体を所定の長さに切断して製造する。各部材を一体化させる手段としては、ホットメルト接着剤やヒートエンボス、超音波エンボス、高周波エンボス等を用いることができる。ファスニングテープ262は、あらかじめ、これを構成する基材に締結手段263を接着し、所定の形状に切断して、バックシート23に接合することが好ましい。吸収性物品1をパッケージ等に収納するにあたっては、吸収性物品1を長手方向Y及び幅方向Xに折りたためばよい。
【実施例
【0046】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(吸収性物品の作製)
パルプシートを粉砕して解繊したフラッフパルプ6gと高吸収性ポリマー6gを、クロッチ部に長さ75mm、幅5mmのスリット部を2本設け、全体を長さ300mm、幅100mmに積繊して吸収体を作製した。この吸収体をキャリアシートで包み、トップシート及びバックシートとともに積層するとともに、1対の横漏れ防止用立体ギャザーを形成し、長さ360mm、幅280mmの吸収性物品を作製し、実施例1のサンプルとした。なお、トップシートには、エアスルー不織布(坪量18g/m)を用い、バックシートには、通気性ポリエチレンフィルム(坪量18g/m)を用いた。得られた吸収性物品の吸収速度、液戻り量、及び保形性を以下に従って測定・評価した。
【0048】
(吸収速度)
上述の方法に従って、吸収性物品の吸収速度を測定し、測定結果から、吸収速度が20秒以下のときを「◎」、21秒以上40秒以下のときを「○」、41秒以上のときを「×」とした。
【0049】
(液戻り量)
上述の方法に従って、吸収性物品の液戻り量を測定し、測定結果から、液戻り量が0.5g以下のときを「◎」、0.6g以上1.5g以下のときを「○」、1.6g以上のときを「×」とした。
【0050】
(保形性)
20名のパネラーに、吸収性物品を4時間連続で着用してもらった後に、吸収性物品の吸収体にヨレ、欠損等形状異常が発生したかを評価してもらった。形状異常が発生したと回答した人数が、20名中2名以下のときを「◎」、20名中3名から5名のときを「○」20名中6名以上のときを「×」とした。
【0051】
作製した実施例1の吸収性物品の構成や、吸収速度、液戻り量及び保形性の測定結果・評価をまとめたものが表1である。
【0052】
<実施例2から4>
実施例2から4の吸収性物品を、実施例1の吸収性物品の作製方法と基本的には同様の作製方法で作製し、実施例1の吸収性物品と異なる構成に係る部分等や、吸収速度、液戻り量及び保形性の測定結果・評価を表1にまとめた。
【0053】
<比較例1から4>
比較例1から4の吸収性物品を、実施例1から4の吸収性物品の作製方法と基本的には同様の作製方法で作製し、異なる構成に係る部分等や、吸収速度、液戻り量及び保形性の測定結果・評価を表1にまとめた。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1から4に示すように、吸収体の厚さ方向において吸収体を貫通する複数の線状のスリット部を有する吸収性物品において、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が2000mm以上15000mm以下とすることで、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に優れ、かつ体吸収体にかかる圧力等に対する吸収体の形状の安定性を良好なものとし、吸収体の保形性に優れた吸収性物品とすることができた。
【0056】
一方で、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が2000mm未満の比較例1の吸収性物品は、スリット部の総体積が小さすぎるため、拡散性が悪くなり、吸収速度及び液戻り量という吸収性能に劣るものとなった。
【0057】
また、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が15000mm超えた比較例4の吸収性物品は、スリット部の総体積が大きすぎるため、拡散性は良くなるが、吸収体の保形性に劣るものとなった。
【0058】
また、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が2000mm以上15000mm以下ではあるものの、吸収体の総体積に対するスリット部の総体積の比率が2.5%未満であり、吸収性物品のクロッチ部の幅方向断面において、クロッチ部の吸収体の断面積に対するクロッチ部のスリット部断面積の比率が10%未満である比較例2の吸収性物品は、吸収体全体に対するスリット部の体積等が小さすぎるため、拡散性が悪くなり、吸収速度及び液戻り量という吸収性能が改善されなかった。
【0059】
また、吸収性物品の着用時を想定した35gf/cmの加圧下で、スリット部の総体積が2000mm以上15000mm以下ではあるものの、吸収体の総体積に対するスリット部の総体積の比率が7.5%を超え、吸収性物品のクロッチ部の幅方向断面において、クロッチ部の吸収体の断面積に対するクロッチ部のスリット部断面積の比率が25%を超えた比較例3の吸収性物品は、吸収体全体に対するスリット部の体積等が大きすぎるため、拡散性、吸収速度及び液戻り量という吸収性能が改善されたものの、吸収体の保形性に劣るものとなった。
【符号の説明】
【0060】
1 吸収性物品
1a 腹側部
1b クロッチ部
1c 背側部
21 トップシート
22 吸収体
221 スリット部
23 バックシート
24 立体ギャザー
241 立体ギャザー用弾性部材
242 立体ギャザーシート
25 キャリアシート
26 サイドフラップ
261 サイドパネル
262 ファスニングテープ
263 締結手段
264 つまみしろ
27 レッグギャザー
28 ウエストギャザー
図1
図2
図3
図4