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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】閉鎖式薬物移送システム
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/20 20060101AFI20220105BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20220105BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61J1/20 314B
A61J1/05 315Z
A61J1/10 335Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017174199
(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公開番号】P2019047957
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熱海 賢治
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0106244(US,A1)
【文献】特表2014-521491(JP,A)
【文献】特表2010-528809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0147402(US,A1)
【文献】特開2004-099156(JP,A)
【文献】特開2002-002736(JP,A)
【文献】特開2017-070772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/20
A61J 1/10
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアル瓶の口部を封止するゴム栓に穿刺される中空針部材と、該中空針部材が該バイアル瓶の口部に穿刺されたときに該バイアル瓶を把持する複数の把持部材とを備えるバイアルアダプタと、
該バイアルアダプタと医療器具とを接続し、該中空針部材に設けられた第1の経路を介して該バイアル瓶内と連通する中空円筒状の接続部材と、
開口端が可撓性部材により閉蓋され、該中空針部材に設けられた第2の経路を介して該バイアル瓶内と連通する容器とを備え、
外気から遮断された状態で該第1の経路を介してバイアル瓶に薬液を注入する際に、該第2の経路を介してバイアル瓶内の気体を該容器内に待避させる一方、該第1の経路を介してバイアル瓶から液体を抽出する際に、該第2の経路を介して該容器に貯留されている気体をバイアル瓶内に供給する閉鎖式薬物移送システムにおいて、
該容器に対する該第2の経路の開口部の周囲に、該可撓性部材による該第2の経路の閉塞を避けて、該容器と該第2の経路との間の気体の流通を許容可能なリブを備え
前記リブは、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲を包囲する筒状体からなり、該筒状体はその内外を連通し、気体の流通が可能な少なくとも1つの孔部を備えることを特徴とする閉鎖式薬物移送システム。
【請求項2】
バイアル瓶の口部を封止するゴム栓に穿刺される中空針部材と、該中空針部材が該バイアル瓶の口部に穿刺されたときに該バイアル瓶を把持する複数の把持部材とを備えるバイアルアダプタと、
該バイアルアダプタと医療器具とを接続し、該中空針部材に設けられた第1の経路を介して該バイアル瓶内と連通する中空円筒状の接続部材と、
開口端が可撓性部材により閉蓋され、該中空針部材に設けられた第2の経路を介して該バイアル瓶内と連通する容器とを備え、
外気から遮断された状態で該第1の経路を介してバイアル瓶に薬液を注入する際に、該第2の経路を介してバイアル瓶内の気体を該容器内に待避させる一方、該第1の経路を介してバイアル瓶から液体を抽出する際に、該第2の経路を介して該容器に貯留されている気体をバイアル瓶内に供給する閉鎖式薬物移送システムにおいて、
該容器に対する該第2の経路の開口部の周囲に、該可撓性部材による該第2の経路の閉塞を避けて、該容器と該第2の経路との間の気体の流通を許容可能な少なくとも1つの溝部を備えることを特徴とする閉鎖式薬物移送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖式薬物移送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正常な細胞や組織に悪影響を及ぼす虞のある抗がん剤や、検査等のために放射性同位元素を含む薬剤等を扱う際に、医療従事者等の被曝を避けるために閉鎖式薬物移送システムが用いられている。
【0003】
前記閉鎖式薬物移送システムとして、例えば、前記抗がん剤等の薬剤が封入されたバイアル瓶を把持するバイアルアダプタと、該バイアルアダプタとシリンジ等の医療器具とを接続する接続部材とを備えるものが知られている。前記バイアルアダプタは、前記バイアル瓶の口部を封止するゴム栓に穿刺される中空針部材と、該中空針部材が該バイアル瓶に穿刺されたときに該バイアル瓶の首部を把持する複数の把持部材とを有している。
【0004】
前記閉鎖式薬物移送システムによれば、前記バイアルアダプタの前記中空針部材が前記バイアル瓶に穿刺され、前記把持部材により該バイアル瓶が把持されている状態で、前記接続部材にシリンジ等の医療器具を接続することにより、外気から遮断された状態で該バイアル瓶に生理的食塩水等の薬液を注入することができる。
【0005】
ところで、前記バイアル瓶内には薬剤の他に空気等の気体が共存しているので、前述のようにして前記バイアル瓶に薬液を注入するときには、前記薬液の注入により該バイアル瓶内の空間が狭められ該気体が行き場を失うと、該薬剤が該バイアル瓶の口部から爆発的に飛散してその液滴やエアロゾルに医療従事者等が被曝する虞があるという問題がある。
【0006】
そこで、前記問題を解決するために、前記薬液を注入する際に前記バイアル瓶内の気体を待避させる気体容器を設け、前記中空針に前記バイアル瓶内と前記接続部材の内部とを連通する第1の経路と、該バイアル瓶内と該気体容器とを連通する第2の経路とを備える閉鎖式薬物移送システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2014-521491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記閉鎖式薬物移送システムは、前記バイアルアダプタの前記中空針部材が前記バイアル瓶に穿刺され、前記把持部材により該バイアル瓶が把持されている状態で、前記接続部材にシリンジ等の医療器具を接続することにより、外気から遮断された状態で該バイアル瓶から薬剤を含む液体を抽出する用途にも用いられることがある。この場合、外気から遮断された状態であると、該バイアル瓶内が負圧になり、前記液体の抽出が困難になることがあるという問題がある。この問題を解決するために、特許文献1記載の閉鎖式薬物移送システムでは、前記気体容器に所定量の気体を貯留させておき、前記バイアル瓶から薬剤を含む液体を抽出する際には、該気体容器に貯留されている気体を該バイアル瓶に供給することにより、該バイアル瓶内が負圧になることを避けるようにしている。
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の閉鎖式薬物移送システムでは、前記気体容器として可撓性の袋状体を用いるので、所定量の気体を貯留するためには該袋状体の内部に充填材を配設する必要があり、改善が望まれる。
【0010】
そこで、本発明は、簡単な構成によりバイアル瓶から薬剤を含む液体を抽出する際に該バイアル瓶内が負圧になることを避けて薬剤を含む液体の抽出を容易に行うことができる閉鎖式薬物移送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、前記気体容器を所定の量の気体を貯留する容積を備え開口部を有する容器とし、該容器の開口部を可撓性部材により閉蓋した構成とすることが考えられる。
【0012】
前記容器の開口部を可撓性部材により閉蓋した構成を備える閉鎖式薬物移送システムによれば、前述のようにして前記バイアル瓶に薬液を注入するときには、薬液の注入に従って該バイアル瓶内の気体を該容器内に待避させる。このとき、前記可撓性部材は、待避される気体の容積に応じて前記容器の外方に伸張することにより、該バイアル瓶内の気体を該容器と該可撓性部材とにより形成される空間内に収容することができる。一方、前述のようにして前記バイアル瓶から薬剤を含む液体を抽出するときには、前記容器内の気体が前記バイアル瓶内に供給されるので、該バイアル瓶内が負圧になることを避けることができる。
【0013】
ところが、前記容器の開口部を可撓性部材により閉蓋した構成を備える閉鎖式薬物移送システムでは、薬剤を含む液体が抽出され前記容器内の気体が前記バイアル瓶内に供給されるに従って、該可撓性部材が該容器内に吸引されて、該バイアル瓶内と該容器とを連通する第2の経路を閉塞することがあるという不都合がある。前記可撓性部材により前記第2の経路が閉塞されると、前記容器内の気体を前記バイアル瓶内に供給することができなくなり、薬剤を含む液体が抽出されるに従って該バイアル瓶内が負圧になることが避けられない。
【0014】
そこで、本発明の閉鎖式薬物移送システムは、かかる不都合を解消するために、バイアル瓶の口部を封止するゴム栓に穿刺される中空針部材と、該中空針部材が該バイアル瓶の口部に穿刺されたときに該バイアル瓶を把持する複数の把持部材とを備えるバイアルアダプタと、該バイアルアダプタと医療器具とを接続し、該中空針部材に設けられた第1の経路を介して該バイアル瓶内と連通する中空円筒状の接続部材と、開口端が可撓性部材により閉蓋され、該中空針部材に設けられた第2の経路を介して該バイアル瓶内と連通する容器とを備え、外気から遮断された状態で該第1の経路を介してバイアル瓶に薬液を注入する際に、該第2の経路を介してバイアル瓶内の気体を該容器内に待避させる一方、該第1の経路を介してバイアル瓶から液体を抽出する際に、該第2の経路を介して該容器に貯留されている気体をバイアル瓶内に供給する閉鎖式薬物移送システムにおいて、該容器に対する該第2の経路の開口部の周囲に、該可撓性部材による該第2の経路の閉塞を避けて、該容器と該第2の経路との間の気体の流通を許容可能なリブを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の閉鎖式薬物移送システムでは、まず、前記バイアルアダプタの前記中空針部材が前記バイアル瓶に穿刺され、前記把持部材により該バイアル瓶が把持されている状態で、前記接続部材にシリンジ等の医療器具を接続することにより、外気から遮断された状態で該医療器具から該接続部材及び前記第1の経路を介して該バイアル瓶内に薬液を注入する。このとき、本発明の閉鎖式薬物移送システムでは、薬液の注入に従って前記バイアル瓶内の気体を前記第2の経路を介して前記容器内に待避させるが、該容器は開口端が前記可撓性部材により閉蓋されている。従って、本発明の閉鎖式薬物移送システムによれば、前記容器内に待避される気体の容積に応じて前記可撓性部材が該容器の外方に伸張し、該気体を該容器と伸張した該可撓性部材とにより形成される空間内に収容することができる。
【0016】
一方、前述のようにして外気から遮断された状態で、前記医療器具により前記接続部材及び前記第1の経路を介して前記バイアル瓶から液体を抽出するときには、前記容器内に貯留されている気体が前記第2の経路を介して前記バイアル瓶内に供給され、該バイアル瓶内が負圧になることを避けることができる。
【0017】
前記液体が抽出され前記容器内に貯留されている気体が前記バイアル瓶内に供給されると、前記可撓性部材が該容器内に吸引される。しかし、本発明の閉鎖式薬物移送システムによれば、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲にリブが備えられているので、前記可撓性部材は該リブに妨げられて該第2の経路を閉塞することがない。また、前記リブは、前記容器と前記第2の経路との間の気体の流通を許容可能な構成とされているので、該容器内の気体を該第2の経路を介して前記バイアル瓶内に供給することができる。
【0018】
従って、本発明の閉鎖式薬物移送システムによれば、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲に、該容器と該第2の経路との間の気体の流通を許容可能なリブを備えるという簡単な構成により、前記バイアル瓶から液体を抽出する際に該バイアル瓶内が負圧になることを避けて該液体の抽出を容易に行うことができる。
【0019】
本発明の閉鎖式薬物移送システムにおいて、前記リブは、例えば、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲に複数備えられ、各リブは隣接するリブとの間に気体の流通が可能な間隙を備えるものとすることができる。また、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲を包囲する筒状体からなり、該筒状体はその内外を連通し、気体の流通が可能な少なくとも1つの孔部を備えるものとすることもできる。
【0020】
また、本発明の閉鎖式薬物移送システムは、前記リブに代えて、前記容器に対する前記第2の経路の開口部の周囲に、前記可撓性部材による該第2の経路の閉塞を避けて、該容器と該第2の経路との間の気体の流通を許容可能な少なくとも1つの溝部を備える構成とすることもできる。前記溝部によれば、前記リブと同一の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の閉鎖式薬物移送システムの一構成例を示す斜視図。
図2図1の縦断面図。
図3図1に示す閉鎖式薬物移送システムのキャップを外した状態における第1の形態を示す斜視図。
図4図1に示す閉鎖式薬物移送システムのキャップを外した状態における第2の形態を示す斜視図。
図5】本発明の閉鎖式薬物移送システムの他の構成例を示す斜視図。
図6図5の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の閉鎖式薬物移送システム1は、バイアル瓶2に接続されるバイアルアダプタ3と、バイアルアダプタ3と図示しないシリンジ等の医療器具とを接続する接続部材としてのメスコネクタ4と、バイアル瓶2に薬液を注入する際にバイアル瓶2内の気体を待避させる一方、バイアル瓶2から液体を抽出する際にバイアル瓶2内に供給する気体を貯留する容器5と、容器5の開口端を閉蓋する可撓性部材6と、可撓性部材6を保護するキャップ7とを備えている。
【0024】
図2に示すように、バイアルアダプタ3は、中空円筒状の主接続部31と、主接続部31の下端部から突出し、バイアル瓶2の口部を封止するセプタム(ゴム栓)21に穿刺される中空針部材32と、主接続部31の下端部から外周方向に延出する1対の腕部材33と、腕部材33の端部から垂下される把持部材34とを備える。バイアルアダプタ3の主接続部31、中空針部材32、腕部材33、把持部材34は、弾性を有する合成樹脂により一体的に形成されている。
【0025】
主接続部31は、メスコネクタ4が挿入される中空部311と、外周面から水平方向に延出し容器5に接続される中空円筒状の容器接続部312とを備えている。中空部311は内周面に先端側から開口端に向かって次第に拡径するテーパ面を備えている。また、容器接続部312は内周面に主接続部31側から開口端に向かって次第に拡径するテーパ面を備えている。また、主接続部31は中空部311の開口端から外周側に突出する1対の突出部313を備えている。
【0026】
中空針部材32は、先端に鋭利な針先部321を備える一方、針先部321に開口する第1の経路322と第2の経路323とを備えている。第1の経路322は主接続部31の中空部311に連通し、第2の経路323は容器接続部312の内部に連通している。
【0027】
把持部材34は、先端部と基端部との間に窓部341を備えており、先端部がバイアル瓶2の首部22に圧接されたときに、バイアル瓶2の口部から外周側に延出するフランジ部23が窓部341に収容される。また、把持部材34は、先端部に円弧状の凹部342を備えており、凹部342がバイアル瓶2の首部22に圧接される。
【0028】
メスコネクタ4は、中空円筒状の内套管41と、内套管41の外周側に配設され基端部で内套管41と接続する外套管42とを備え、外套管42は内周面に主接続部31の突出部313が螺合される雌ねじ部43を備えている。内套管41の外周面は、基端部から先端部に向かって次第に縮径されるテーパ面となっており、中空部311の内周面に嵌合される。
【0029】
内套管41は外套管42と接続する部分からさらに基端部側に延出され、中空円筒状の弁座部材44に接続されている。弁座部材44は、基端部に弁体45が配設されており、弁体45は中央部にスリット46を備えている。弁体45は軟質樹脂からなり、シリンジ等の医療器具がスリット46に挿入されることにより開弁し、抜去されることにより閉弁する。
【0030】
容器5は、硬質樹脂からなり、半球状の容器本体51と、容器本体51の底部からバイアルアダプタ3方向に突出する中空円筒状の接続筒部52と、容器本体51の底部に対する接続筒部52の開口部の周囲に立設された複数のリブ53とを備えている。容器本体51は、接続筒部52に対向する側に開口端を備え、該開口端は軟質樹脂からなる可撓性部材6により閉蓋されている。接続筒部52の外周面は、容器本体51側からバイアルアダプタ3側に向かって次第に縮径されるテーパ面となっており、容器接続部312の内周面に嵌合される。この結果、接続筒部52は、中空針部材32の第2の経路323に連通し、第2の経路323の一部を構成している。
【0031】
また、図3にキャップ7を外した状態として示すように、リブ53は、容器本体51の底部に対する接続筒部52(第2の経路323)の開口部の周囲を包囲する仮想円に沿う円弧状の形状を備え、隣接するリブ53との間に気体の流通が可能な間隙54を備えている。
【0032】
尚、本実施形態では、リブ53を前記円弧状の形状としているが、リブ53は接続筒部52の周囲を包囲する仮想円に沿って配設されていれば、図3に示す円弧を反転させた形状であってもよく、単なる平板状であってもよく、その形状は特に限定されない。
【0033】
次に、本実施形態の閉鎖式薬物移送システム1の作動について説明する。
【0034】
閉鎖式薬物移送システム1では、使用に当たって、まずキャップ7を外し、可撓性部材6が露出された状態とする。次に、バイアルアダプタ3の中空針部材32をバイアル瓶2のセプタム21に穿刺する。このようにすると、中空針部材32を押し込むに従って把持部材34がバイアル瓶2のフランジ部23に当接されるが、把持部材34はそれ自体の弾性により外周方向に拡げられてフランジ部23を乗り越えた後、バイアル瓶2の首部22に圧接されて、バイアル瓶2を把持する。
【0035】
次に、把持部材34によりバイアル瓶2を把持している状態で、メスコネクタ4に図示しないシリンジ等の医療器具を接続し、該医療器具からメスコネクタ4及び中空針部材32の第1の経路322を介して、バイアル瓶2に生理的食塩水等の薬液を注入し、バイアル瓶2に収容されている抗がん剤等の薬剤を該薬液により希釈したり、該薬液に溶解したりして、実際に患者に投与される薬剤を含む液体の調製が行われる。
【0036】
このとき、バイアル瓶2内には、前記薬剤の他に空気等の気体が共存しているが、該気体は前記薬液の注入によりバイアル瓶2内の空間が狭められると、中空針部材32の第2の経路323を介して容器5の容器本体51に待避させられる。容器本体51には予め所定の容積の気体が貯留されているので、バイアル瓶2内の気体が導入されると、可撓性部材6が図2に仮想線で示す可撓性部材6aのように容器本体51の外側に伸張する。この結果、容器本体51と伸張した可撓性部材6aとにより形成される空間にバイアル瓶2内の気体が収容される。
【0037】
次に、バイアル瓶2から前記薬剤を含む液体等を抽出する場合は、把持部材34によりバイアル瓶2を把持している状態で上下逆転させ、バイアル瓶2を上にして、メスコネクタ4に接続された前記シリンジ等の医療器具により前記液体等を抽出する。このように前記液体等が抽出されると、容器本体51に貯留されている気体が中空針部材32の第2の経路323を介してバイアル瓶2内に供給され、容器本体51の気体の減少に伴って、可撓性部材6が接続筒部52(第2の経路323)方向に吸引される。
【0038】
ここで、容器本体51にリブ53が備えられていない場合には、可撓性部材6は図2に仮想線で示す可撓性部材6bのように接続筒部52の開口部に密着してこれを閉塞させる。この結果、容器本体51に貯留されている気体を中空針部材32の第2の経路323を介してバイアル瓶2内に供給することができなくなり、バイアル瓶2内が負圧となって、前記薬剤を含む液体等の抽出が困難になる。
【0039】
しかし、本実施形態の閉鎖式薬物移送システム1では、容器本体51にリブ53が備えられているので、可撓性部材6は図2に仮想線で示す可撓性部材6cのようにリブ53に妨げられて接続筒部52の開口部を閉塞させることがない。また、このとき、容器本体51に貯留されている気体は、リブ53の間隙54から接続筒部52に流入することができ、中空針部材32の第2の経路323を介してバイアル瓶2内に供給することができる。
【0040】
本実施形態では、容器本体51の底部に対する接続筒部52の開口部の周囲を包囲する仮想円に沿って複数のリブ53を、隣接するリブ53との間に間隙54を存して配設するようにしているが、図4に示すように、容器本体51の底部に対する接続筒部52の開口部の周囲を包囲する円筒状のリブ55を設け、リブ55にその内外を連通し、気体の流通が可能な少なくとも1つの孔部56を設けるようにしてもよい。
【0041】
図4に示す構成によれば、バイアル瓶2から前記薬剤を含む液体等を抽出する際に、可撓性部材6はリブ55に妨げられて接続筒部52の開口部を閉塞させることがなく、容器本体51に貯留されている気体は、リブ55に設けられた孔部56から接続筒部52に流入することができ、中空針部材32の第2の経路323を介してバイアル瓶2内に供給することができる。
【0042】
尚、本実施形態では、リブ55を円筒状としているが、リブ55は接続筒部52の開口部の周囲を包囲する筒状であればよく、例えば、四角筒状、五角筒状等の多角筒状であってもよい。
【0043】
また、図5に示すように、本実施形態の閉鎖式薬物移送システム1は、リブ53、55に代えて、可撓性部材6による閉塞を避けて、容器本体51と接続筒部52との間の気体の流通を許容可能な溝部57を備えるようにしてもよい。
【0044】
本実施形態では、容器本体51から接続筒部52に延在する溝部57を、接続筒部52を中心とする放射状に複数設けているが、溝部57は少なくとも1つあればよく、その数に特に限定はない。
【0045】
閉鎖式薬物移送システム1は、図6に仮想線示するように、接続筒部52方向に吸引された可撓性部材6bが接続筒部52の開口部に密着しても、溝部57により容器本体51と接続筒部52との間の気体の流通を確保することができ、容器本体51に貯留されている気体を接続筒部52から中空針部材32の第2の経路323を介してバイアル瓶2内に供給することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…閉鎖式薬物移送システム、 2…バイアル瓶、 3…バイアルアダプタ、 4…メスコネクタ(接続部材)、 5…容器、 6…可撓性部材、 32…中空針部材、 53,55…リブ、 54…間隙、 56…孔部、 322…第1の経路、 323…第2の経路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6