(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
G03G15/20 510
(21)【出願番号】P 2017120753
(22)【出願日】2017-06-20
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】八木 昌隆
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-064561(JP,A)
【文献】特開2016-161849(JP,A)
【文献】特開2006-267410(JP,A)
【文献】特開2004-191857(JP,A)
【文献】特開2015-219510(JP,A)
【文献】特開2010-013340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する加熱部材と、
前記定着ベルトを外側から押圧する回転可能な加圧部材と、
前記加圧部材との間で前記定着ベルトを挟むことで定着ニップを形成するパッド部材と、
前記パッド部材を支持する支持部材と、
前記定着ベルトと前記パッド部材との間に設けられ、前記定着ベルトとの摩擦を低減する摩擦低減シートと、
前記摩擦低減シートと前記パッド部材との間に設けられ、前記定着ニップにおける前記定着ベルトを、当該定着ニップに通紙される用紙の幅方向に均熱する均熱シートと、
を備え
、
前記均熱シートは、前記定着ベルトの回転方向における前記定着ニップよりも上流側で前記パッド部材または前記支持部材に固定される固定端と、前記定着ニップよりも下流側で固定されない自由端とを有する、
定着装置。
【請求項2】
前記加熱部材は、前記定着ベルト内に位置する、
請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加熱部材を含み、前記パッド部材とともに前記定着ベルトを張架する加熱ローラーを備える、
請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記摩擦低減シート
は、前記定着ベルトの回転方向における前記定着ニップの上流側において、前記パッド部材または前記支持部材に固定されている、
請求項1~3の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記摩擦低減シート
は、前記定着ベルトの回転方向における前記定着ニップよりも上流側で固定される固定端と、前記定着ニップよりも下流側で固定されない自由端とを有する、
請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記均熱シートは、熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ、厚さが200μm以下である、
請求項1~5の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記均熱シートの材料は、グラファイトである、
請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記均熱シートは、重ねて複数設けられている、
請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
複数の前記均熱シートのうち、互いに接触する2つの均熱シートは、接着されている、
請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
前記摩擦低減シートは、フッ素系樹脂がコーティングされた、織布構造を有する、又は、凹凸加工が施されている基材を含む、
請求項1~9の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項11】
前記摩擦低減シートと前記均熱シートの間には、弾性又は粘性を有する伝熱部材が挿入されている、
請求項10に記載の定着装置。
【請求項12】
前記伝熱部材の熱伝導率は、1W/(m・K)以上である、
請求項11に記載の定着装置。
【請求項13】
前記パッド部材は、樹脂材料で構成され、
前記均熱シートは、前記支持部材と非接触である、
請求項1~12の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項14】
前記均熱シートの摩擦係数は、前記摩擦低減シートの摩擦係数よりも大きく、
前記均熱シートの熱伝導率は、前記摩擦低減シートの熱伝導率よりも大きい、
請求項1~13の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載の定着装置を備える、
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真プロセス技術を利用した画像形成装置(プリンター、複写機、ファクシミリ等)は、帯電した感光体ドラム(像担持体)に対して、画像データに基づくレーザー光を照射(露光)することにより静電潜像を形成する。そして、静電潜像が形成された感光体ドラムへ現像装置よりトナーを供給することにより静電潜像を可視化してトナー像を形成する。さらに、このトナー像を直接または間接的に用紙に転写させた後、定着ニップで加熱、加圧して定着させることにより用紙にトナー像を形成する。
【0003】
近年において、省エネ性能向上およびコストダウンの観点から、画像形成装置、特に定着装置の小型化が進められている。定着装置の小型化が進められる中、定着装置の構成としては、固定パッド方式のものが主流になりつつある。しかしながら、固定パッド方式の定着装置においては、定着ベルトの内周面とパッド部材との間の摩擦抵抗に起因してトルクが高くなるという問題となる。
【0004】
トルクが高くなると、駆動モーターの大型化や消費電力の増大という問題が発生する。また、回転駆動する加圧ローラーの表面や従動回転する定着ベルトの表面が摺擦することにより耐久が進み、加圧ローラーおよび定着ベルトの摩耗劣化が早まってしまうという問題も発生する。
【0005】
上記のようなトルクが高くなる問題を解消するため、例えば定着ベルトの内面に潤滑剤を塗布する技術が開示されている。例えば、特許文献1には、定着ベルトの内面における潤滑剤の塗布量を制御する技術が開示されている。しかし、潤滑剤を定着ベルトに塗布する技術の場合、潤滑剤の塗布量を制御する機構が必要となるので、構成が複雑化する。
【0006】
そのため、潤滑剤を用いずにトルクが高くなる問題を解消するため、特許文献2には、織布状の摺動シートを定着ベルトとパッド部材との間に配置する技術が開示されている。この技術では、低摩擦係数の摺動シートを用いることで、上記問題を解消できるので、構成を簡易化することができる。
【0007】
しかし、摺動シートは、一般にフッ素系樹脂材料で構成されるため、伝熱性に劣るという欠点を有する。そのため、摺動シートでは、定着ニップにおける軸方向の熱移動量が極めて少ないので、例えば小サイズ紙が定着ニップを通紙された場合、定着ニップにおける非通紙領域の部分の温度上昇が顕著になるという問題が生じる。
【0008】
そこで、例えば、特許文献3では、摺動シートの内側に均熱部材を配置することで、定着ニップにおける軸方向の熱伝導性を向上させる技術が開示されている。この構成は、固形のパッド部材と、固形の第1均熱部材と、弾性の第2均熱部材とを有する。第2均熱部材はパッド部材と第1均熱部材との間に設けられており、パッド部材と第1均熱部材との接触安定性を保たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-85384号公報
【文献】特開2016-110020号公報
【文献】特開2016-114743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、定着ニップは高温となるため、特許文献3に記載の構成では、互いに固形で剛性が高いパッド部材及び第1均熱部材同士が固定されていると、互いの熱膨張量の差に起因してパッド部材及び第1均熱部材が変形する。パッド部材及び第1均熱部材が変形すると、定着ニップの形状が変わってしまい、ひいては定着ニップの幅が不均一になってしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明の目的は、定着ニップの幅を均一にしたまま、定着ニップにおける均熱性及び摺動性を向上させることが可能な定着装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る定着装置は、
回転可能な無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する加熱部材と、
前記定着ベルトを外側から押圧する回転可能な加圧部材と、
前記加圧部材との間で前記定着ベルトを挟むことで定着ニップを形成するパッド部材と、
前記パッド部材を支持する支持部材と、
前記定着ベルトと前記パッド部材との間に設けられ、前記定着ベルトとの摩擦を低減する摩擦低減シートと、
前記摩擦低減シートと前記パッド部材との間に設けられ、前記定着ニップにおける前記定着ベルトを、当該定着ニップに通紙される用紙の幅方向に均熱する均熱シートと、
を備え、
前記均熱シートは、前記定着ベルトの回転方向における前記定着ニップよりも上流側で前記パッド部材または前記支持部材に固定される固定端と、前記定着ニップよりも下流側で固定されない自由端とを有する。
【0013】
本発明に係る画像形成装置は、
上記した定着装置を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、定着ニップ幅を均一にしたまま、定着ニップにおける均熱性及び摺動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態に係る画像形成装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る画像形成装置の制御系の主要部を示す図である。
【
図4】定着部における定着ニップ部分を示す図である。
【
図6】凹形状のパッド部材のときにおける定着ニップ部分を示す図である。
【
図7】パッド部材と、摩擦低減シート及び均熱シートとの固定部分の拡大図である。
【
図8】変形例に係るパッド部材と、摩擦低減シート及び均熱シートとの固定部分の拡大図である。
【
図9】均熱シートと摩擦低減シートとの間に伝熱部材が挿入された部分の拡大図である。
【
図10】均熱シートと摩擦低減シートとの間に伝熱部材が挿入された構成における定着ニップ部分を簡易的に示す図である。
【
図11】パッド部材の断熱性を考慮した変形例における定着ニップ部分を示す図である。
【
図12】加熱ローラーを有する定着部を示す図である。
【
図13】均熱シートの厚さに対する昇温時間の関係を示す図である。
【
図14】均熱シートの熱伝導率に対する定着ベルトの端部温度の関係を示す図である。
【
図15】均熱シートの熱伝導率に対する定着ベルトの端部温度の関係を示す図である。
【
図16】均熱シートの熱伝導率に対する定着ベルトの端部温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る画像形成装置1の全体構成を概略的に示す図である。
図2は、本実施の形態に係る画像形成装置1の制御系の主要部を示す図である。
【0017】
図1に示すように、画像形成装置1は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式のカラー画像形成装置である。すなわち、画像形成装置1は、感光体ドラム413上に形成されたY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナー像を中間転写ベルト421に一次転写し、中間転写ベルト421上で4色のトナー像を重ね合わせた後、給紙トレイユニット51a~51cから送出された用紙Sに二次転写することにより、画像を形成する。
【0018】
また、画像形成装置1には、YMCKの4色に対応する感光体ドラム413を中間転写ベルト421の走行方向に直列配置し、中間転写ベルト421に一回の手順で各色トナー像を順次転写させるタンデム方式が採用されている。
【0019】
図2に示すように、画像形成装置1は、画像読取部10、操作表示部20、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着部60および制御部101を備える。定着部60は、本発明の「定着装置」に対応する。
【0020】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)102、ROM(Read Only Memory)103、RAM(Random Access Memory)104等を備える。CPU102は、ROM103から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM104に展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置1の各ブロック等の動作を集中制御する。このとき、記憶部72に格納されている各種データが参照される。記憶部72は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
【0021】
制御部101は、通信部71を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワークに接続された外部の装置(例えばパーソナルコンピューター)との間で各種データの送受信を行う。制御部101は、例えば、外部の装置から送信された画像データ(入力画像データ)を受信し、この画像データに基づいて用紙Sに画像を形成させる。通信部71は、例えばLANカード等の通信制御カードで構成される。
【0022】
図1に示すように、画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)等を備えて構成される。
【0023】
自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Dを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11により、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることが可能となる。
【0024】
原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿又はコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサー12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データを生成する。この入力画像データには、画像処理部30において所定の画像処理が施される。
【0025】
図2に示すように、操作表示部20は、例えばタッチパネル付の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)で構成され、表示部21及び操作部22として機能する。表示部21は、制御部101から入力される表示制御信号に従って、各種操作画面、画像の状態、各機能の動作状況等の表示を行う。操作部22は、テンキー、スタートキー等の各種操作キーを備え、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、操作信号を制御部101に出力する。
【0026】
画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定又はユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路等を備える。例えば、画像処理部30は、制御部101の制御下で、階調補正データ(階調補正テーブル)に基づいて階調補正を行う。また、画像処理部30は、入力画像データに対して、階調補正の他、色補正、シェーディング補正等の各種補正処理や、圧縮処理等を施す。これらの処理が施された画像データに基づいて、画像形成部40が制御される。
【0027】
図1に示すように、画像形成部40は、入力画像データに基づいて、Y成分、M成分、C成分、K成分の各有色トナーによる画像を形成するための画像形成ユニット41Y、41M、41C、41K、中間転写ユニット42等を備える。
【0028】
Y成分、M成分、C成分、K成分用の画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kは、同様の構成を有する。図示及び説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY、M、C、又はKを添えて示すこととする。
図1では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号が付され、その他の画像形成ユニット41M、41C、41Kの構成要素については符号が省略されている。
【0029】
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、及びドラムクリーニング装置415等を備える。
【0030】
感光体ドラム413は、例えばドラム状の金属基体の外周面に、有機光導電体を含有させた樹脂よりなる感光層が形成された有機感光体よりなる。
【0031】
制御部101は、感光体ドラム413を回転させる駆動モーター(図示略)に供給される駆動電流を制御することにより、感光体ドラム413を一定の周速度で回転させる。
【0032】
帯電装置414は、例えば帯電チャージャーであり、コロナ放電を発生させることにより、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。
【0033】
露光装置411は、例えば半導体レーザーで構成され、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザー光を照射する。その結果、感光体ドラム413の表面のうちレーザー光が照射された画像領域には、背景領域との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。
【0034】
現像装置412は、二成分逆転方式の現像装置であり、感光体ドラム413の表面に各色成分の現像剤を付着させることにより静電潜像を可視化してトナー像を形成する。
【0035】
現像装置412には、例えば帯電装置414の帯電極性と同極性の直流現像バイアス、または交流電圧に帯電装置414の帯電極性と同極性の直流電圧が重畳された現像バイアスが印加される。その結果、露光装置411によって形成された静電潜像にトナーを付着させる反転現像が行われる。
【0036】
ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413の表面に当接され、弾性体よりなる平板状のドラムクリーニングブレード等を有し、中間転写ベルト421に転写されずに感光体ドラム413の表面に残留するトナーを除去する。
【0037】
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、一次転写ローラー422、複数の支持ローラー423、二次転写ローラー424、及びベルトクリーニング装置426等を備える。
【0038】
中間転写ベルト421は無端状ベルトで構成され、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも1つは駆動ローラーで構成され、その他は従動ローラーで構成される。例えば、K成分用の一次転写ローラー422よりもベルト走行方向下流側に配置されるローラー423Aが駆動ローラーであることが好ましい。これにより、一次転写部におけるベルトの走行速度を一定に保持しやすくなる。駆動ローラー423Aが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0039】
中間転写ベルト421は、導電性および弾性を有するベルトであり、表面に高抵抗層を有する。中間転写ベルト421は、制御部101からの制御信号によって回転駆動される。
【0040】
一次転写ローラー422は、各色成分の感光体ドラム413に対向して、中間転写ベルト421の内周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、一次転写ローラー422が感光体ドラム413に圧接されることにより、感光体ドラム413から中間転写ベルト421へトナー像を転写するための一次転写ニップが形成される。
【0041】
二次転写ローラー424は、駆動ローラー423Aのベルト走行方向下流側に配置されるバックアップローラー423Bに対向して、中間転写ベルト421の外周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、二次転写ローラー424がバックアップローラー423Bに圧接されることにより、中間転写ベルト421から用紙Sへトナー像を転写するための二次転写ニップが形成される。
【0042】
一次転写ニップを中間転写ベルト421が通過する際、感光体ドラム413上のトナー像が中間転写ベルト421に順次重ねて一次転写される。具体的には、一次転写ローラー422に一次転写バイアスを印加し、中間転写ベルト421の裏面側、つまり一次転写ローラー422と当接する側にトナーと逆極性の電荷を付与することにより、トナー像は中間転写ベルト421に静電的に転写される。
【0043】
その後、用紙Sが二次転写ニップを通過する際、中間転写ベルト421上のトナー像が用紙Sに二次転写される。具体的には、二次転写ローラー424に二次転写バイアスを印加し、用紙Sの裏面側、つまり二次転写ローラー424と当接する側にトナーと逆極性の電荷を付与することにより、トナー像は用紙Sに静電的に転写される。トナー像が転写された用紙Sは定着部60に向けて搬送される。
【0044】
ベルトクリーニング装置426は、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残留する転写残トナーを除去する。
【0045】
定着部60は、用紙Sの定着面、つまりトナー像が形成されている面側に配置される定着面側部材を有する上側定着部60A、および、用紙Sの裏面つまり定着面の反対の面側に配置される裏面側支持部材を有する下側定着部60B等を備える。定着面側部材に裏面側支持部材が圧接されることにより、用紙Sを挟持して搬送する定着ニップが形成される。
【0046】
定着部60は、トナー像が二次転写され、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー像を定着させる。定着部60は、定着器F内にユニットとして配置される。
【0047】
上側定着部60Aは、定着面側部材である無端状の定着ベルト61、加熱源62、パッド部材63および支持部材69等を有する。定着ベルト61の内部には、加熱源62、パッド部材63および支持部材69が位置する。
【0048】
なお、定着ベルト61としては、例えば、外径が30mmであり、ポリイミドで構成された基層、シリコンゴムで構成される弾性層、フッ素樹脂で構成される表層が積層され、その全厚が250μmである。また、定着ベルト61の面内方向の熱伝導率は例えば0.8W/(m・K)である。
【0049】
加熱源62は、定着ベルト61の内部に配置されたハロゲンヒーターである。
図3に示すように、加熱源62の加熱幅は、画像形成装置1における最大通紙幅よりもやや広い。例えば、最大通紙幅が297mm(A4Yサイズ)である場合、加熱幅は340mmとなっており、両端部のそれぞれにおける通紙されない領域の幅である非通紙幅は、21.5mmとなる。また、小サイズの用紙S(例えば、A5Tサイズで通紙幅(以下、「小サイズ通紙幅という」)が148.5mm)である場合、非通紙幅は、95.75mmとなる。
【0050】
図1に示すように、パッド部材63は、定着ベルト61を加圧ローラー64に向けて押圧することで、加圧ローラー64との間で定着ニップを形成する。なお、パッド部材63は、例えば、幅12mm、軸方向長さ340mmのポリカーボネード材料で構成される。
【0051】
支持部材69は、パッド部材63を支持し、加圧ローラー64からの加圧力によるパッド部材63の変形を防止する。支持部材69は、金属製であり、定着器F内に固定されている。
【0052】
下側定着部60Bは、裏面側支持部材である加圧ローラー64を有する。加圧ローラー64は、定着ベルト61との間で用紙Sを挟持して搬送する定着ニップを形成している。加圧ローラー64は、本発明の「加圧部材」に対応する。
【0053】
なお、加圧ローラー64としては、外径が25mm、硬度がJIS-A硬度が50°、シリコン材料の弾性層およびフッ素樹脂の表層の厚さが4mmのものを用いることができる。また、加圧ローラー64は、図示しないバネにより300Nの力で定着ベルト61を介してパッド部材63に向けて押圧されて、弾性層および表層が潰れることで約8mmの定着ニップが形成される。
【0054】
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、及び搬送経路部53等を備える。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a~51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類毎に収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aを含む複数の搬送ローラー対を有する。レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部は、用紙Sの傾きおよび片寄りを補正する。
【0055】
給紙トレイユニット51a~51cに収容されている用紙Sは、最上部から一枚ずつ送出され、搬送経路部53により画像形成部40に搬送される。画像形成部40においては、中間転写ベルト421のトナー像が用紙Sの一方の面に一括して二次転写され、定着部60において定着工程が施される。画像形成された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
【0056】
また、本実施の形態では、
図4に示すように、定着ベルト61とパッド部材63との間に、可撓性を有する摩擦低減シート65および均熱シート66が設けられる。
【0057】
摩擦低減シート65は、パッド部材63と定着ベルト61との間の摩擦抵抗を低減するための摺動シートである。摩擦低減シート65としては、基材が織布構造を有するガラス繊維等であり、表層にPTFE又はPFA等のフッ素系樹脂をコーティングしたものが用いられる。また、摩擦低減シート65としては、基材がPTFE製シートであって、表層にエンボス加工等の凹凸加工を施したものであっても良い。
【0058】
固定パッド方式の定着部60においては、定着ベルト61の内周面とパッド部材63との間の摩擦抵抗に起因してトルクが高くなるという問題がある。
【0059】
トルクが高くなると、駆動モーターの大型化や消費電力の増大という問題が発生する。また、回転駆動する加圧ローラー64の表面や従動回転する定着ベルト61の表面が摺擦することにより耐久が進み、加圧ローラー64および定着ベルト61の摩耗劣化が早まってしまうという問題も発生する。
【0060】
そのため、パッド部材63と定着ベルト61との間に、摩擦低減シート65が設けられることにより、摩擦抵抗が緩和されて、上記のようなトルクが高くなる問題の発生を抑制することができる。
【0061】
均熱シート66は、摩擦低減シート65とパッド部材63との間に設けられ、定着ニップにおける定着ベルト61を、当該定着ニップに通紙される用紙の幅方向に均一化する。
【0062】
定着ニップにおける通紙領域内は、定着温度(約160℃)になるように制御されているが、定着ニップにおける非通紙領域は通過する用紙Sにより熱を奪われず、冷却されないので、定着温度よりも高くなる可能性がある。最大サイズの用紙Sが通紙された場合、非通紙領域の非通紙幅は前述の通り21.5mmと狭く、かつ、軸方向の最端部であるので放熱量も多くなる。そのため、定着ニップにおける非通紙領域の温度は、通紙領域の温度よりも例えば、5℃程度低くなり、非通紙領域の温度が上がりすぎることはない。
【0063】
しかしながら、小サイズの用紙S(例えば、148.5mmのA5Tサイズ)が通紙されると、非通紙領域の非通紙幅は95.75mmとなる。この領域においては、最大サイズの用紙Sの場合の非通紙幅と比較して大幅に広くなるので、定着ニップにおける非通紙領域の温度上昇が発生しやすくなる。
【0064】
また、摩擦低減シート65は、一般にフッ素系樹脂材料で構成されるため、伝熱性に劣るという欠点を有する。摩擦低減シート65が配置された場合、定着ニップにおける軸方向の熱移動量が極めて少ないので、例えば小サイズの用紙Sが定着ニップを通紙された場合、定着ニップにおける非通紙領域の部分の温度上昇が顕著になるという問題が生じる。具体的には、定着温度が160℃である場合、非通紙領域の温度が250℃を超えてしまう場合もある。これにより、定着ベルト61等の各部材が熱により破壊されてしまう。
【0065】
しかし、本実施の形態では、均熱シート66により定着ニップ内の温度を均一化することにより、非通紙領域内の温度上昇に起因して各部材が破壊されることを抑制することができる。
【0066】
均熱シート66は、軸方向の幅が定着ベルト61の回転方向において一定であり、厚さも全体に亘り一定となるように構成される。
図5に示すように、均熱シート66の幅は、加熱幅と同じ幅になるように設定される。これにより、定着ニップ全体を効果的に均熱することができる。
【0067】
また、摩擦低減シート65の幅は、均熱シート66の幅よりも大きく、かつ、パッド部材63および加圧ローラー64の幅、つまり、定着ニップのニップ幅と同じになるように設定される。
【0068】
これにより、荷重がかかる定着ニップの部分を摩擦低減シート65によりカバーできるので、パッド部材63と加圧ローラー64との加圧による摩擦抵抗を効果的に低減できる。その結果、定着ベルト61の回転駆動によるトルクを低く抑えることができる。なお、摩擦低減シート65の幅は、パッド部材63および加圧ローラー64の幅よりも大きくても良い。
【0069】
このように摩擦低減シート65および均熱シート66は、可撓性を有するため、パッド部材63および加圧ローラー64による加圧力に逆らうことなく、定着ニップの形状に倣う。定着ニップの形状は、定着ニップが高温となるため、摩擦低減シート65、均熱シート66およびパッド部材63の熱膨張量に差が生じても、ねじれや曲げなどの変形を伴うことなく、定着ニップの形状に倣う。
【0070】
パッド部材63は、加圧ローラー64の形状に倣うように、R面を有する場合があるので、
図6に示すように、定着ニップの形状が凹形状となる場合が多い。このような定着ニップの形状に対して、例えば、固形の均熱部材を用いる場合、均熱部材をパッド部材63の形状に合わせて配置することは困難であるので、定着ニップの形状が変動し、ひいては定着ニップの幅が不均一になってしまう。
【0071】
しかし、可撓性のある均熱シート66であれば、パッド部材63の形状にスムーズに倣うので、定着ニップの幅を均一にすることができる。
【0072】
また、摩擦低減シート65および均熱シート66の厚さは、シートのしなやかさを確実に維持する観点から、200μm以下であることが望ましい。また、均熱シート66として金属を用いる場合、均熱シート66の厚さは100μm以下であることが望ましい。
【0073】
また、均熱シート66の熱伝導率は、摩擦低減シート65の熱伝導率よりも高くなっており、高い熱伝導の実現を考慮して、少なくとも200W/(m・K)以上であることが望ましい。このような均熱シート66としては、例えば、炭素繊維、銅、グラファイト等が挙げられるが、最も高い熱伝導率を有する観点から、グラファイトを均熱シート66の材料として用いることが望ましい。
【0074】
グラファイトは熱伝導率が1000W/(m・K)以上のものもあるので、厚さが100μm以下であっても、十分な均熱機能を果たすことができる。その結果、均熱シート66としてのしなやかさを発揮でき、かつ、熱容量を低く保てるので、省エネも実現することができる。
【0075】
また、グラファイトは、その厚さが薄いほど面内での熱伝導率が高くなるという特性を有する。そのため、高い熱伝導性を発揮させるためには、例えば100μmの厚さを有するグラファイトシートを1枚使うよりも、例えば20μmの厚さである薄いグラファイトシートを複数枚(例えば4枚)重ねて使用した方が面内方向の熱伝導性がより高くなる。従って、グラファイトの均熱シート66を複数枚重ねて配置することで、均熱効果をさらに向上させることができる。
【0076】
また、均熱シート66を複数枚重ねる場合、互いに接し合う均熱シート66は、例えば熱伝導率が2W/(m・K)程度の接着剤や厚さ10μm程度の極薄の両面テープなどにより接着して1枚の積層グラファイトシートとして使用しても良い。
【0077】
また、
図7に示すように、摩擦低減シート65および均熱シート66は、定着ニップ以外の部分で固定されている。具体的には、摩擦低減シート65および均熱シート66は、パッド部材63における定着ベルト61の回転方向の上流側の側端部に固定されている。
【0078】
摩擦低減シート65および均熱シート66の回転方向の上流側端部には、固定孔65A,66Aが形成されており、パッド部材63の回転方向の上流側の側端部には、固定軸63Aが形成されている。固定孔65A,66Aおよび固定軸63Aは、軸方向に複数並んで形成されている。
【0079】
この固定軸63Aに固定孔65A,66Aが通されることにより、摩擦低減シート65および均熱シート66は固定される。具体的には、固定軸63Aを挿通可能な固定部材67により摩擦低減シート65および均熱シート66を上から押さえることで、摩擦低減シート65および均熱シート66が固定される。固定部材67は、例えばネジ67Aにより止められる。
【0080】
このように、摩擦低減シート65および均熱シート66が定着ニップ以外の部分に固定されることにより、摩擦低減シート65および均熱シート66が熱膨張したり、摺動摩擦によるせん断力により伸びが生じても、シワ等の不均一な部分ができることを低減することができる。
【0081】
また、固定孔65A,66Aおよび固定軸63Aが複数設けられるため、摩擦低減シート65および均熱シート66に強いせん断力が働いても、摩擦低減シート65および均熱シート66がずれることを抑制することができる。
【0082】
また、加圧ローラー64の荷重が大きい場合(例えば、500N)や、摩擦低減シート65の摩擦係数が大きい場合(例えば、0.25)のような、定着ニップにおける摩擦抵抗が大きくなる場合がある。この場合、定着ニップ部分で摩擦低減シート65が引っ張られることにより固定孔65A,66Aが広がってしまい、結果として摩擦低減シート65および均熱シート66が破れてしまうおそれがある。
【0083】
しかし、本実施の形態では、固定部材67により摩擦低減シート65および均熱シート66が押さえられているので、固定孔65A,66Aが伸びたり、破れたりすることを抑制することができる。
【0084】
また、摩擦低減シート65および均熱シート66の回転方向の下流側端部は、自由端としても良い。つまり、摩擦低減シート65および均熱シート66の少なくとも一方は、定着ベルト61の回転方向における定着ニップよりも上流側で固定される固定端と、定着ニップよりも下流側で固定されない自由端とを有するようにしても良い。このようにすることで、摩擦低減シート65および均熱シート66の下流端が固定されないため、定着ベルト61の回転にスムーズに倣いやすくすることができる。
【0085】
ただし、組立性を勘案して下流側端部を固定する必要がある場合は、弾性のある部材を介して固定しても良いし、摩擦低減シート65および均熱シート66を弛ませて固定しても良い。
【0086】
また、均熱シート66は、定着ベルト61と接触しないので、強いせん断力が加わらない。そのため、
図8に示すように、均熱シート66は、パッド部材63の上流側の側端部に耐熱接着剤のみにより固定するようにしても良い。なお、
図7および
図8の構成において、固定部材67を設けなくても良い。
【0087】
ところで、
図9に示すように、摩擦低減シート65は、表面状態が凹凸形状となることにより摩擦係数が低くされている(例えば、μ≦0.18程度)。それに対し、均熱シート66は熱伝導率が高い銅やグラファイト等であるので、表面が概ね平滑であり、摩擦係数が摩擦低減シート65よりも大きい。そのため、摩擦低減シート65と均熱シート66とが重なると、互いの接触部分には摩擦低減シート65の凹凸形状の影響により隙間が残るので、均熱シート66における伝熱を妨げてしまう。
【0088】
そこで、均熱シート66と摩擦低減シート65との間に粘性又は弾性を有する伝熱部材68を挿入すると良い。伝熱部材68としては、熱伝導率が1W/(m・K)以上であり、グリース材料、接着材料、ゴム材料、フェイズチェンジ材料等である。フェイズチェンジ材料の一例としては、信越化学工業株式会社製のフェイズチェンジマテリアル「PCS-LT-30」等が挙げられる。
【0089】
このように粘性又は弾性を有する伝熱部材68であれば、定着ニップにおける荷重により潰れて広がるので、小さな隙間にも行き渡り、隙間における空気層を除去することができる。空気層が除去されると、例えば、
図10に示すように、摩擦低減シート65と均熱シート66とが、伝熱部材68を介して密着した状態となるので、摩擦低減シート65と均熱シート66との間の熱伝導が良好になり、均熱機能をさらに向上させることができる。
【0090】
また、パッド部材63は樹脂製の断熱材料で構成されたものを用いると良い。仮に、パッド部材63の熱伝導率が高い場合(例えば、熱伝導率≧50W/(m・K))、定着ニップにおいて定着ベルト61の熱がパッド部材63に流れ込んでしまう。すなわち、定着ニップにおける熱容量が大きくなってしまうので、定着ニップでの定着ベルト61の温度が上がりにくくなってしまう。そのため、パッド部材63を断熱性能が優れた材料で構成する必要がある。また、強度を確保するため、高剛性の金属製の支持部材69によりパッド部材63を支持することにより、伝熱と強度とのバランスを取ることが可能である。
【0091】
ただし、支持部材69と均熱シート66とが接触すると、結果的に、均熱シート66を介して定着ベルト61の熱が支持部材69に伝熱するため、パッド部材63の断熱性が発揮できなくなってしまう。そのため、支持部材69と均熱シート66とが非接触となるようにパッド部材63を構成することが望ましい。例えば、
図11に示すように、均熱シート66の固定部分をパッド部材63にするようにすれば良い。
【0092】
以上のように構成された本実施の形態によれば、摩擦低減シート65と均熱シート66とを定着ベルト61とパッド部材63との間に配置するので、定着ニップの幅を均一にしたまま、定着ニップにおける均熱性及び摺動性を向上させることができる。
【0093】
また、摩擦低減シート65および均熱シート66がともにシートであるため、構成を簡易にすることができ、ひいては装置全体としての小型化、低コスト化、省エネ効果向上に寄与することができる。
【0094】
なお、上記実施の形態では、加熱源62が定着ベルト61の内側に配置されていたが、本発明はこれに限定されず、定着ベルト61の外側に配置されていても良い。ただし、定着ベルト61の内周面側を外周面側よりも高温にした方が、均熱シート66の均熱効果を高められる観点から、加熱源62を定着ベルト61の内側に配置することが望ましい。
【0095】
また、上記実施の形態では、定着ベルト61内に配置された加熱源62(ハロゲンヒーター)を加熱部材として例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、
図12に示すように、加熱部材を含み、パッド部材63との間で定着ベルト61を張架する加熱ローラー62Aを有する構成であっても良い。また、加熱方式は、IH方式、抵抗発熱体方式、ヒーターランプ方式の何れかであっても良い。
【0096】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0097】
最後に、本実施の形態に係る定着部60における評価実験について説明する。実験環境としては、温度23℃、相対湿度65%の環境下で行なった。また、定着部60としては、定着ベルト61の内周面の直径が30mm、定着ベルト61の全長が350mm、加熱域長が300mmに設定されたものを用いた。
【0098】
また、摩擦低減シート65としては、表面がフッ素コーティングされたガラス繊維のものを用いた。また、通紙条件としては、温調温度が150℃、用紙の坪量が90g/m2、搬送速度がA5Tサイズで分速20枚に設定した。
【0099】
まず、第1実験では、均熱シート66の熱伝導率が200W/(m・K)以上の材料で、かつ、厚さが200μm以下であることの効果について確認した。
【0100】
均熱シート66としては、ステンレス、アルミ、銅、グラファイトのものを用いた。また、均熱シート66の寸法としては、長さ320mm、幅10mm、厚さが100μm、200μm、400μmのものを用いた。
【0101】
まず、定着部60を回転駆動させた状態で、加熱源62を全点灯として、温調温度(150℃)に到達するまでの昇温時間を計測した。実験方法としては、均熱シート66をアルミとして、厚さ毎に23℃から150℃に達するまでの昇温時間を測定した。
【0102】
図13は、均熱シート66の厚さに対する昇温時間の関係を示す図である。
図13に示すように、均熱シート66の厚さが200μmを超える辺りから昇温時間が増大することが確認できる。つまり、均熱シート66の厚さが200μmより大きいと、熱容量が大きくなるため、昇温しにくくなるので、均熱シート66の厚さが200μm以下であることが望ましいことが確認できた。
【0103】
次に、小サイズの用紙を通紙させる際において、サーモグラフィを用いて、定着ベルト61の端部の温度が一定の温度に飽和したときの定着ベルト61の表面温度を測定した。実験方法としては、均熱シート66の熱伝導率および均熱シート66の厚さを変動させたときの定着ベルト61の端部の温度を測定した。
【0104】
図14は、均熱シート66の熱伝導率に対する定着ベルト61の端部温度の関係を示す図である。
図14に示すように、均熱シート66の熱伝導率が200W/(m・K)より小さくなってくると、どの厚さの均熱シート66においても、定着ベルト61の端部の温度(以下、「端部温度」という)が急激に上昇することが確認できる。
【0105】
それに対し、均熱シート66の熱伝導率が200W/(m・K)以上となると、熱伝導率が大きくなるにつれ、定着ベルト61の端部温度が緩やかに減少していくことが確認できる。つまり、定着ベルト61の端部温度が上昇しすぎないことを考慮すれば、均熱シート66の熱伝導率が200W/(m・K)以上であることが望ましいことが確認できた。
【0106】
なお、定着ベルト61の温度を、定着ベルト61の弾性層(シリコンゴム)の耐熱温度である約230℃未満に抑制するには、均熱シート66の熱伝導率を大きくするか、均熱シート66の厚さを大きくするかすれば良い。
【0107】
次に、均熱シート66の厚さを200μmとして均熱シート66の材料をステンレス、アルミ、銅、グラファイトの間で変動させた場合の定着ベルト61の端部温度を測定した。なお、ステンレスの熱伝導率は84W/(m・K)であり、アルミの熱伝導率は236W/(m・K)であり、銅の熱伝導率は400W/(m・K)であり、グラファイトの熱伝導率は1500W/(m・K)である。
【0108】
図15は、均熱シート66の熱伝導率に対する定着ベルト61の端部温度の関係を示す図である。
図15に示すように、均熱シート66の材料がステンレスの場合、熱伝導率が84W/(m・K)であるため、定着ベルト61の端部の温度は230℃を超えるが、熱伝導率が200W/(m・K)を超えるアルミ、銅、グラファイトになると、定着ベルト61の端部の温度が230℃未満に抑制できることが確認できる。つまり、均熱シート66の熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ、均熱シート66の厚さが200μm以下であることが望ましいことが確認できた。
【0109】
なお、第1実験においては、均熱シート66の材料がアルミであれば、昇温時間も端部温度も問題ないことが確認できたが、画像形成装置1が高速化するのに伴い、定着部60における加熱源62の電力が上がり、ひいては定着ベルト61の端部温度がより高温になることが予測される。そのため、昇温時間を維持しつつ、端部温度の上昇を抑制するには、均熱シート66の材料を銅やグラファイトにすることが望まれる。
【0110】
次に、第2実験では、伝熱部材68の熱伝導率が1W/(m・K)以上であることの効果について確認した。伝熱部材68としては、熱伝導率が0.8W/(m・K)、1.4W/(m・K)、2.6W/(m・K)、5.4W/(m・K)のものを用いた。
【0111】
実験方法としては、伝熱部材68の熱伝導率を変動させ、小サイズの用紙を通紙させた場合の、定着ベルト61の端部温度を測定した。
【0112】
図16は、均熱シート66の熱伝導率に対する定着ベルト61の端部温度の関係を示す図である。
図16に示すように、伝熱部材68の熱伝導率が0.8W/(m・K)以下の場合、定着ベルト61の端部の温度が230℃よりも高い温度に上昇することが確認できる。それに対し、伝熱部材68の熱伝導率が1.4W/(m・K)以上の場合、定着ベルト61の端部温度が230℃未満になることが確認できる。つまり、伝熱部材68の熱伝導率が1W/(m・K)以上であることが望ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0113】
1 画像形成装置
60 定着部
61 定着ベルト
62 加熱源
63 パッド部材
64 加圧ローラー
65 摩擦低減シート
66 均熱シート
67 固定部材
68 伝熱部材
69 支持部材