(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】錯体および錯体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 57/04 20060101AFI20220207BHJP
C07C 51/02 20060101ALI20220207BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20220207BHJP
C07F 3/06 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C07C57/04 CSP
C07C51/02
C07C51/347
C07F3/06
(21)【出願番号】P 2017129264
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2016250052
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】唯岡 弘
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044207(JP,A)
【文献】特開平01-245859(JP,A)
【文献】特開昭59-021640(JP,A)
【文献】GORDON, R. M. et al.,Canadian Journal of Chemistry,1983年,Vol. 61,pp. 1218-1221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される錯体。
((RCOO)
8M
5(OH)
2)
n (1)
[式(1)中、金属原子Mは、亜鉛であり、R=-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。nは、1以上の整数である。]
【請求項2】
n=1以上であり、構造式(2)で表される構造を有する請求項1に記載の錯体。
【化1】
[構造式(2)において、M
1~M
5は、亜鉛であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2である。]
【請求項3】
n=1であり、構造式(3)で表される構造を有する請求項2に記載の錯体。
【化2】
[構造式(3)において、M
1~M
5は、亜鉛であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2である。]
【請求項4】
式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを水の存在下、溶媒中で反応させることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
[Zn(RCOO)
2]・yH
2O・・・(4)
ZnO ・・・(5)
[式(4)中、Rは、-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2であり、yは、0以上の整数である。]
【請求項5】
式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させて第1錯体を得る工程、および、
前記第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程とを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
[Zn(RCOO)
2]・yH
2O・・・(4)
ZnO ・・・(5)
[式(4)中、Rは、-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2であり、yは、0以上の整数である。]
【請求項6】
前記第1錯体と水との反応は、前記第1錯体を相対湿度50%以上の雰囲気に曝すことにより行われる請求項5に記載の錯体の製造方法。
【請求項7】
式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物のモル比率((4)/(5))は、3/2~5/1である請求項4~6のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
【請求項8】
式(6)で表されるカルボン酸と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
RCOOH ・・・(6)
ZnO ・・・(5)
[式(6)中、Rは、-CH=CH
2または-C(CH
3)=CH
2である。]
【請求項9】
式(6)で表されるカルボン酸と、式(5)で表される金属酸化物のモル比率((6)/(5))は、1/2超、7/4以下である請求項8に記載の錯体の製造方法。
【請求項10】
溶媒として、ジクロロメタンを使用する請求項4~9のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
【請求項11】
-20℃~100℃の範囲の温度で反応させる請求4~10のいずれか一項に記載の錯体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯体に関し、より詳細には、反応性官能基を有する錯体に関する。また、本発明は、錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、明確に規定された重合可能な金属錯体の架橋重合によって得られたマクロ多孔質イオン選択性交換樹脂であって、一般式:MaLbBcXd (1)で示される金属錯体が少なくとも2つの重合可能な炭素-炭素多重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマー架橋剤と反応させたことを特徴とするマクロ多孔質イオン選択性交換樹脂(式中、Mは、主族金属および/または亜族金属、Lは重合可能な配位子、Bは重合不能な配位子、Xは重合不能なアニオン、aは1~6の整数、bは1~8の整数、cは0~4の整数、dは、0~6の整数を表す)が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、酢酸亜鉛(II)を真空中で加熱して、六酢酸一酸化四亜鉛を作製する方法が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、カルボン酸と酸化亜鉛とを四塩化炭素中で、Zn4Oカルボキシレートを作製する方法が開示されている。
【0005】
非特許文献3には、酸化亜鉛と2-エチルヘキサン酸亜鉛とをトルエン中で反応させて、塩基性2-エチルヘキサン酸亜鉛を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-245859号公報
【文献】新実験化学講座第1版8巻 p.986
【文献】Inorganic Chem.201,49,4620-4625
【文献】Can. J. Chem. 1983, 61, 1218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炭素―炭素二重結合、および/または、炭素-炭素三重結合を少なくとも1個有する新規な錯体を提供することを課題とする。また、従来の製造方法で炭素―炭素二重結合、および/または、炭素-炭素三重結合を少なくとも1個有する錯体を製造すると、炭素-炭素二重結合、および/または、炭素-炭素三重結合が自己重合してしまい、目的とする錯体を得ることができないという問題がある。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、錯体を製造する新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式(1)で表される錯体に関するものである。
((RCOO)8M5(OH)2)n (1)
[式(1)中、Mは金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、Rのうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である]
【0009】
式(1)で表される錯体は、構造式(2)で表される構造を有する錯体であることが好ましい。
【化1】
[構造式(2)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である。]
【0010】
構造式(2)で表される錯体(n=1以上)は、構造式(3)で表される構造(n=1)を有する錯体であることが好ましい。
【化2】
[構造式(3)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。]
【0011】
本発明の錯体の製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを、水の存在下、溶媒中で反応させることを特徴とする。
[M6(RCOO)x]・yH2O・・・(4)
M7
aOb ・・・(5)
[式(4)中、M6は金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。xは、金属原子M6の酸化数に対応する数であり、2以上の整数である。yは、0以上の整数である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
【0012】
本発明の錯体の製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させて第1錯体を得る工程、および、
前記第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程とを含むことを特徴とする。
[M6(RCOO)x]・yH2O・・・(4)
M7
aOb ・・・(5)
[式(4)中、M6は金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。xは、金属原子M6の酸化数に対応する数であり、2以上の整数である。yは、0以上の整数である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
【0013】
本発明の錯体の製造方法は、式(6)で表されるカルボン酸と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させることを特徴とする。
RCOOH ・・・(6)
M7
aOb ・・・(5)
[式(6)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素―炭素二重結合、および/または、炭素-炭素三重結合を少なくとも1個有する新規な錯体が得られる。また、錯体を製造する新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の好ましい錯体のIRスペクトルである。
【
図3】本発明の好ましい錯体のX線回折スペクトルである。
【
図4】ジアクリル酸亜鉛のX線回折スペクトルである。
【
図5】本発明の好ましい錯体のIRスペクトルである。
【
図6】本発明の製造方法の中間錯体のASAP-MSスペクトルである。
【
図7】本発明の製造方法の中間錯体のASAP-MSスペクトルである。
【
図8】本発明の製造方法の中間錯体のIRスペクトルである。
【
図9】本発明の製造方法の中間錯体のX線回折スペクトルである。
【
図10】本発明の好ましい錯体のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式(1)で表される錯体に関するものである。
((RCOO)8M5(OH)2)n (1)
[式(1)中、Mは金属原子、OHは、ヒドロキシ基、RCOOはカルボキシレート基、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、Rのうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である。]
錯体とは、金属原子あるいは金属イオンに、配位子とよばれる原子または原子団が結合した分子性化合物であり、配位化合物とも呼ばれる。
【0017】
前記金属原子(M)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。前記金属原子は、単独または2種以上であってもよい。これらの中でも、前記金属原子としては、酸化数が+2であるものが好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、ニッケル、カドミウム、鉛である。式(1)において、複数存在する金属原子(M)は、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0018】
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。前記炭素数1~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
【0019】
炭素数2~18のアルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、6-ヘプテニル基、7-オクテニル基、8-ノネニル基、9-デセニル基、10-ウンデセニル基、11-ドデセニル基、8-トリデセニル基、12-トリデセニル基、13-テトラデセニル基、8-ペンタデセニル基、14-ペンタデセニル基、15-ヘキサデセニル基、8-ヘプタデセニル基、10-ヘプタデセニル基、16-ヘプタデセニル基、17-オクタデセニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、炭素-炭素二重結合を1つ有するものが好ましい。二重結合の位置としては、α,β位、あるいは、アルケニル基の末端に炭素-炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、または、2-プロペニル基が好ましい。
【0020】
炭素数2~18のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロペニル基、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、6-ヘプチニル基、7-オクチニル基、8-ノニニル基、9-デシニル基、10-ウンデシニル基、11-ドデシニル基、8-トリデシニル基、12-トリデシニル基、13-テトラデシニル基、8-ペンタデシニル基、14-ペンタデシニル基、15-ヘキサデシニル基、8-ヘプタデシニル基、10-ヘプタデシニル基、16-ヘプタデシニル基、17-オクタデシニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、炭素-炭素三重結合を1つ有するものが好ましい。三重結合の位置としては、α,β位、あるいは、アルキニル基の末端に炭素-炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、または、2-プロピニル基が好ましい。
【0021】
式(1)において、Rのうち少なくとも1個は、炭素数2~18のアルケニル基、または、炭素数2~18のアルキニル基である。つまり、式(1)で表される錯体は、炭素-炭素不飽和結合を1つ以上有する。前記R中の炭素数2~18のアルケニル基、または、炭素数2~18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは8個である。
【0022】
式(1)において、Rのうち少なくとも1個は、末端に炭素-炭素二重結合を有する炭素数2~18のアルケニル基、または、末端に炭素-炭素三重結合を有する炭素数2~18のアルキニル基であることが好ましい。前記R中の末端に炭素-炭素二重結合を有する炭素数2~18のアルケニル基、または、末端に炭素-炭素三重結合を有する炭素数2~18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは8個である。
【0023】
式(1)において、複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0024】
式(1)において、n=1の錯体は、錯体の基本構成単位である。これらの基本構成単位が集積した錯体(nが2以上の整数)も本発明に含まれる。前記nは、1以上の整数であり、2以上の整数であることが好ましい。集積型錯体(nが2以上の整数)において、nの上限は特に限定されないが、1億が好ましく、100万であることがより好ましく、1万であることがさらに好ましい。
【0025】
式(1)で表される錯体としては、例えば、Rが全てビニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体;Rが全てイソプロペニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体が挙げられる。
【0026】
式(1)で表される錯体は、構造式(2)で表される構造を有する錯体であることが好ましい。
【化1】
[構造式(2)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子、Oは酸素原子、Hは水素原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である。]
【0027】
前記構造式(2)において、括弧外には隣接する構成単位の原子団が記載されている。構造式(2)において、実線に破線が付されている結合は、カルボキシレート基の混成結合を示している。また、構造式(2)において、共有結合も配位結合も実線で示している。
【0028】
構造式(2)において、n=1の錯体は、錯体の基本構成単位である。これらの基本構成単位が集積した錯体(nが2以上の整数)も本発明に含まれる。前記nは、1以上の整数であり、2以上の整数であることが好ましい。集積型錯体(nが2以上の整数)において、nの上限は特に限定されないが、1億が好ましく、100万であることがより好ましく、1万であることがさらに好ましい。
【0029】
構造式(2)の集積型錯体は、下記式(2-1)および(2-2)で表される3次元構造を有する。式(2-2)には、集積型錯体の結晶構造のORTEP図(Oak Ridge Thermal-Ellipsoid Plot Program)を示した。これらの構造式から、構造式(2)の集積型錯体は、1つの構成単位に、4つの構成単位が結合した3次元構造を有していることが分かる。
【化2】
【0030】
【0031】
構造式(2)で表される錯体(n=1以上)は、構造式(3)で表される構造(n=1)を有する錯体であることが好ましい。
【化4】
[構造式(3)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子、Oは酸素原子、Hは水素原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。]
【0032】
構造式(3)において、実線に破線が付されている結合は、カルボキシレート基の混成結合を示している。また、構造式(3)において、共有結合も配位結合も実線で示している。
【0033】
構造式(3)で表される錯体は、基本構成単位である。式(1)および構造式(2)における集積型錯体(n=2以上の整数)と、構造式(3)で表される錯体(n=1)は、溶媒中で平衡状態として存在する。溶媒、温度、濃度によって、その存在比率が変化する。構造式(3)で表される錯体(n=1)は、より安定な状態の集積型錯体(n=2以上の整数)に変化する。例えば、固体状態では、より安定な状態の集積型錯体(n=2以上の整数)が得られる。また、低濃度の溶液中では、溶媒により安定化されるので、構造式(3)の錯体の比率が高くなる。
【0034】
構造式(2)または(3)において、M1~M5で表される金属原子としては、式(1)のMと同様のものが挙げられる。これらの中でも、前記金属原子としては、酸化数が+2であるものが好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、ニッケル、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。M1~M5で表される金属原子は、それぞれ異なっていてもよいが、全て同一の金属原子であることが好ましい。
【0035】
構造式(2)または(3)においてR1~R8で表される炭素数1~18のアルキル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数1~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
【0036】
構造式(2)または(3)においてR1~R8で表される炭素数2~18のアルケニル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、α,β位、あるいは、末端に炭素-炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、または、2-プロペニル基が好ましい。
【0037】
構造式(2)または(3)においてR1~R8で表される炭素数2~18のアルキニル基は、式(1)のRと同様のものが挙げられる。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、α,β位、あるいは、末端に炭素-炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、または、2-プロピニル基が好ましい。
【0038】
構造式(2)または(3)において、R1~R8のうち少なくとも1個は、炭素数2~18のアルケニル基、または、炭素数2~18のアルキニル基である。前記R1~R8中の炭素数2~18のアルケニル基、または、炭素数2~18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは8個である。
【0039】
構造式(2)または(3)において、R1~R8のうち少なくとも1個は、末端に炭素-炭素二重結合を有する炭素数2~18のアルケニル基、または、末端に炭素-炭素三重結合を有する炭素数2~18のアルキニル基であることが好ましい。前記R1~R8中の末端に炭素-炭素二重結合を有する炭素数2~18のアルケニル基、または、末端に炭素-炭素三重結合を有する炭素数2~18のアルキニル基の個数は、3個以上が好ましく、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上、最も好ましくは8個である。
【0040】
構造式(2)または(3)において、R1~R8は、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0041】
構造式(2)または(3)を有する錯体としては、R1~R8がすべてビニル基であり、金属原子M1~M5が亜鉛である錯体(アクリル酸亜鉛ヒドロキソクラスター)、および、R1~R8がすべてイソプロペニル基であり、金属原子M1~M5が亜鉛である錯体(メタクリル酸亜鉛ヒドロキソクラスター)が挙げられる。
【0042】
本発明の錯体の製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを、水の存在下、溶媒中で反応させることを特徴とする(第1製造方法)。
[M6(RCOO)x]・yH2O・・・(4)
M7
aOb ・・・(5)
また、本発明の錯体の製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させて第1錯体を得る工程、および、前記第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程とを含むようにすることもできる(第2製造方法)。
[式(4)中、M6は金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。xは、金属原子M6の酸化数に対応する数であり、2以上の整数である。yは、0以上の整数である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
【0043】
また、本発明には、式(6)で表されるカルボン酸と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させることを特徴とする錯体の製造方法(第3製造方法)も含まれる。
RCOOH ・・・(6)
M7
aOb ・・・(5)
[式(6)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
【0044】
なお、本発明の説明において、式(4)で表される化合物を単に「化合物(4)」と称する場合がある。式(5)で表される金属酸化物を単に「金属酸化物(5)」と称する場合がある。式(6)で表されるカルボン酸を単に「カルボン酸(6)」と称する場合がある。また、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させて第1錯体を得る工程を単に「第1工程」と称する場合があり、前記第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程を単に「第2工程」と称する場合がある。
【0045】
まず、本発明の錯体の製造方法で使用する原料について説明する。化合物(4)におけるRとしては、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。
【0046】
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。前記炭素数1~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
【0047】
炭素数2~18のアルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、炭素-炭素二重結合を1つ有するものが好ましい。二重結合の位置としては、α,β位、あるいは、アルケニル基の末端に炭素-炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、または、2-プロペニル基が好ましい。
【0048】
炭素数2~18のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロペニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、炭素-炭素三重結合を1つ有するものが好ましい。炭素-炭素三重結合の位置は、α,β位、あるいは、アルキニル基の末端に炭素-炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、または、2-プロピニル基が好ましい。
【0049】
化合物(4)において、金属原子(M6)としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。これらの中でも、前記金属原子としては、2価以上の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、2価の金属イオンを形成し得る金属原子がより好ましい。前記金属原子としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛よりなる群から選択される少なくとも一種の金属が好ましい。金属原子は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0050】
xは、化合物(4)におけるカルボキシレート基(RCOO)の数を表す。xは、金属原子M6の酸化数に対応する数であり、2以上の整数である。xとしては、例えば、2~5が好ましく、より好ましくは2である。yは、0以上の整数である。yとしては、例えば、0~5が好ましく、より好ましくは0である。yが1以上になると、目的錯体の収率が低下する場合があるからである。
【0051】
化合物(4)の具体例としては、脂肪酸金属塩が好適である。前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数1~19の飽和脂肪酸、炭素数3~20の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0052】
前記飽和脂肪酸としては、例えば、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸が挙げられる。前記不飽和脂肪酸としては、例えば、プロペン酸(アクリル酸)、2-メチルプロパ-2-エン酸(メタクリル酸)、2-ブテン酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデセン酸、11-ドデセン酸、12-トリデセン酸、9-テトラデセン酸、13-テトラデセン酸、14-ペンタデセン酸、9-ヘキサデセン酸、15-ヘキサデセン酸、16-ヘプタデセン酸、9-オクタデセン酸、11-オクタデセン酸、17-オクタデセン酸、18-ノナデセン酸などの炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸;プロピン酸、3-ブチン酸、4-ペンチン酸、5-ヘキシン酸、6-ヘプチン酸、7-オクチン酸、8-ノニン酸、9-デシン酸、10-ウンデシン酸、11-ドデシン酸、12-トリデシン酸、9-テトラデシン酸、13-テトラデシン酸、14-ペンタデシン酸、9-ヘキサデシン酸、15-ヘキサデシン酸、16-ヘプタデシン酸、9-オクタデシン酸、11-オクタデシン酸、17-オクタデシン酸、18-ノナデシン酸などの炭素-炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0053】
前記炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素-炭素二重結合を1つ有するものが好ましい。炭素―炭素二重結合の位置は、α、β位、あるいは、不飽和脂肪酸の末端が好ましい。前記炭素-炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素-炭素三重結合を1つ有するものが好ましい。炭素-炭素三重結合の位置は、α、β位、あるいは、不飽和脂肪酸の末端が好ましい。
【0054】
前記脂肪酸金属塩の金属原子(M6)としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。これらの中でも、前記金属原子としては、2価の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。金属原子は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0055】
前記脂肪酸金属塩としては、脂肪酸の2価の金属イオンの金属塩が好ましく、より好ましくは不飽和脂肪酸の2価の金属イオンの金属塩、さらに好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸の2価の金属イオンの金属塩が好ましい。
【0056】
本発明の製造方法では、化合物(4)として、アクリル酸亜鉛、および/または、メタクリル酸亜鉛を使用することが好ましい。
【0057】
化合物(4)として、前記脂肪酸金属塩を2種以上併用する場合、各脂肪酸金属塩の含有量は、所望とする錯体に応じて適宜調節すればよい。なお、化合物(4)を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、さらに好ましくは66mol%以上である。化合物(4)を構成する脂肪酸が、全て不飽和脂肪酸であることも好ましい。また、化合物(4)を構成する脂肪酸中の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、さらに好ましくは66mol%以上である。化合物(4)を構成する脂肪酸が、全て炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸であることも好ましい。化合物(4)を構成する脂肪酸は複数種を併用してもよいが、一種であることも好ましい。
【0058】
化合物(4)として使用する脂肪酸金属塩の態様としては、1種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様;複数種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様;1種の脂肪酸と複数種の金属イオンを含有する態様;複数種の脂肪酸と複数種の金属イオンを含有する態様が挙げられる。これらの中で、1種の脂肪酸と1種の金属イオンを含有する態様が好ましい。前記脂肪酸金属塩は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明の製造方法では、式(5)で表される金属酸化物を使用する。
M7
aOb ・・・(5)
金属原子(M7)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。これらの中でも、前記金属原子M7としては、2価の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。金属原子は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0060】
本発明の第1製造方法および第2製造方法において、化合物(4)の金属原子M6と金属酸化物(5)の金属原子M7は、同一であっても異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0061】
金属酸化物(5)において、aは、1以上、5以下の整数が好ましく、1以上、3以下の整数が好ましく、1が最も好ましい。bは、1以上、7以下の整数が好ましく、1以上5以下の整数がより好ましく、1以上、3以下がさらに好ましく、特に好ましくは1である。金属酸化物(5)としては、a=1、b=1の2価の金属酸化物が好ましい。
【0062】
金属酸化物(5)の具体例としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウムなどのアルカリ金属の酸化物;酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物;酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化テクネチウム、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化銀、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、レニウム、酸化オスミウム、酸化イリジウム、酸化白金、酸化金などの遷移金属の酸化物、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タリウム、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ポロニウムなどの卑金属の酸化物が挙げられる。前記金属酸化物は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属酸化物としては、2価の金属の酸化物が好ましく、より好ましくは酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化カドミウム、酸化鉛である。本発明では、金属酸化物(5)として、酸化亜鉛を使用することが特に好ましい。
【0063】
本発明の製造方法の反応で使用する溶媒(以下、「第一溶媒」という場合がある)は、特に限定されないが、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、アセトニトリルなどが挙げられる。第2製造法に対しては、さらに、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコールも挙げられる。錯体の収率を高める観点から、溶媒としては、ジクロロメタンを使用することが好ましい。
【0064】
本発明の第1製造方法は、上述した式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを、水の存在下、溶媒中で反応させる。また、本発明の第2製造方法は、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中(好ましくは水を含まない溶媒中)で反応させて第1錯体を得る工程、および、前記第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程とを含む。
【0065】
化合物(4)と金属酸化物(5)との反応は、例えば、化合物(4)と金属酸化物(5)とを第一溶媒に溶解または分散させ、この反応液を撹拌することにより行われる。
【0066】
具体的には、まず反応容器中で金属酸化物(5)を溶媒に溶解または分散させる。金属酸化物(5)を溶媒に溶解または分散させた液を撹拌しながら、化合物(4)を溶媒に溶解または分散した液を加える。化合物(4)を溶媒に溶解または分散した液を滴下するようにしてもよい。この場合、滴下時間は、特に限定されないが、0.5時間~3時間かけて滴下するのが好ましい。滴下終了後、さらに撹拌をしながら反応を行うことが好ましい。
【0067】
本発明の第1製造方法において、水の存在下、溶媒中で反応を行う場合、反応系に存在する水の量は、化合物(4)と金属酸化物(5)の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、1000質量部以下が好ましく、900質量部以下がより好ましく、800質量部以下がさらに好ましい。水の存在量が、前記範囲内であれば、収率よく錯体が得られ、操作も煩雑とならないからである。なお、水は、化合物(4)または金属酸化物(5)と同様に反応容器に添加すればよい。
【0068】
本発明の第2製造方法において、化合物(4)と金属酸化物(5)とを反応させる場合、反応は、反応系中に水が実質的に存在しない条件で行うことが好ましい。そのため、反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0069】
化合物(4)と金属酸化物(5)との反応において、金属酸化物(5)に対する化合物(4)の仕込みモル比率((4)/(5))は、3/2以上が好ましく、2/1以上がより好ましく、5/1以下が好ましく、4/1以下がより好ましい。金属酸化物(5)に対する化合物(4)のモル比率((4)/(5))が前記範囲内であれば、得られる錯体の収率が高くなるからである。
【0070】
また、反応における溶媒の使用量は、化合物(4)と金属酸化物(5)との合計100質量部に対して、1000質量部以上が好ましく、より好ましくは2000質量部以上、さらに好ましくは3000質量部以上であり、10000質量部以下が好ましく、より好ましくは8000質量部以下、さらに好ましくは6000質量部以下である。前記溶媒の使用量が10000質量部超であれば合成時の作業量が多くなり、1000質量部未満であれば錯体の収率が低下するおそれがある。
【0071】
反応温度(反応液の液温)は、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましく、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましい。反応温度が、-20℃以上であると、化合物(4)と金属酸化物(5)との反応速度を高めることができる。また、反応温度が100℃以下であると、化合物(4)の自己重合を防止することができる。
【0072】
反応時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。反応時間が短すぎると、錯体の収率が低下するからである。また、生産性を高める観点から、反応時間は300時間以下が好ましく、200時間以下がより好ましく、100時間以下がさらに好ましい。
なお、反応の終了は、例えば、反応液を一部採取して、赤外吸収を測定する方法、あるいは、反応液に溶解した成分の重量変化などを測定する方法などにより、確認することができる。
【0073】
本発明の第1製造方法では、水の存在下で、化合物(4)と金属酸化物(5)とを反応させることで、目的の錯体が得られる。本発明の第2製造方法では、化合物(4)と金属酸化物(5)とを反応させることで、中間体の第1錯体を得る。そして、この第1錯体と水とを反応させることにより、第2錯体(目的の錯体)が得られる。
【0074】
本発明の第2製造方法において、中間体として得られる第1錯体は、以下のような式(7)で表される錯体であり、より好ましくは、構造式(8)で表される錯体である。
[M4O(RCOO)6]n ・・・(7)
[式(7)中、Mは金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。式(7)において、複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、Rのうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは1以上の整数であり、好ましくは1~8の整数である。]
【0075】
式(7)中、金属原子MおよびRの具体例としては、式(1)で例示したものと同一のものを挙げることができる。
【0076】
式(7)で表される第1錯体としては、例えば、Rが全てビニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体;Rが全てイソプロペニル基であり、金属原子(M)が亜鉛である錯体が挙げられる。
【0077】
式(7)で表わされる錯体は、構造式(8)で表される錯体であることが好ましい。
【化5】
[構造式(8)において、M
1~M
4は同一または異なって金属原子であり、R
1~R
6は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
6のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。]
【0078】
構造式(8)において、実線に破線が付されている結合は、カルボキシレート基の混成結合を示している。また、構造式(8)において、共有結合も配位結合も実線で示している。
【0079】
構造式(8)において、金属原子M1~M4およびR1~R6の具体例としては、構造式(2)で例示したものと同一のものを挙げることができる。
【0080】
第1錯体は、構造式(8)において、M1~M4が、亜鉛であり、R1~R6=-CH=CH2である錯体(アクリル酸亜鉛オキソクラスター)、および、-C(CH3)=CH2である錯体(メタクリ酸亜鉛オキソクラスター)であることが好ましい。
【0081】
本発明の第1製造方法は、化合物(4)と金属酸化物(5)との反応終了後、不溶物除去工程、析出工程、回収工程、または、精製工程を有することが好ましい。不溶物除去工程、析出工程、回収工程、および、精製工程は、必要に応じて適宜組み合わせることができる。
【0082】
(不溶物除去工程)
反応終了後、反応液から不溶物を除去する。不溶物としては、例えば、未反応の原料、あるいは、化合物(4)が自己重合した重合物などが挙げられる。不溶物を除去する方法は、特に限定されず、反応液を濾過する方法が挙げられる。
【0083】
(析出工程)
析出工程では、不溶物を除去した反応液に第二溶媒を投入することで、第一溶媒(反応で使用する溶媒)に溶解した目的錯体を析出させる。反応液中には、目的錯体と、例えば、未反応の化合物(4)とが含まれている。第二溶媒に対する目的錯体の溶解性が、第二溶媒に対する化合物(4)の溶解性よりも低ければ、目的錯体を選択的に析出することができる。前記第二溶媒は、反応液中の目的錯体を選択的に析出できるものであれば特に限定されない。前記第二溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素などが挙げられる。
【0084】
第二溶媒の投入量は、目的錯体を析出できるように適宜調節すればよい。前記第二溶媒の投入量は、前記第一溶媒の使用量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0085】
また、第二溶媒を投入した後、第一溶媒および第二溶媒の一部を除去することで、目的錯体を析出させてもよい。第一溶媒および第二溶媒の一部を除去する方法としては、減圧濃縮が好ましい。減圧濃縮を行う際に、反応液を加熱してもよい。濃縮時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0086】
析出した目的錯体は、濾過して乾燥することにより得られる。
【0087】
(回収工程)
回収工程では、不溶物を除去した反応液から溶媒を除去する。溶媒を除去することで、反応液中に存在する目的錯体を回収することができる
【0088】
溶媒を除去する方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられ、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥を行う際に、反応液を加熱してもよい。乾燥時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0089】
(精製工程)
精製工程では、析出工程または回収工程で得られた目的錯体について再沈殿を行うことにより、目的錯体の純度を高めることができる。具体的には、得られた目的錯体を第一溶媒に溶解させた後、この溶解液に第二溶媒を投入して目的錯体を析出させて回収する。
【0090】
精製工程で使用する第一溶媒、第二溶媒は、前記反応工程および析出工程で例示したものを使用できる。また、第二溶媒の使用量も、前記析出工程と同様である。精製工程は、所望とする目的錯体の純度に応じて、複数回行ってもよい。
【0091】
本発明の第2製造方法において、化合物(4)と金属酸化物(5)との反応終了後、不溶物除去工程、回収工程、析出工程、または、精製工程を有することが好ましい。不溶物除去工程、回収工程、析出工程、精製工程は、必要に応じて、適宜組み合わせることができる。
【0092】
(不溶物除去工程)
反応工程終了後、反応液から不溶物を除去する。不溶物としては、例えば、未反応の原料、あるいは、化合物(4)が自己重合した重合物などが挙げられる。不溶物を除去する方法は、特に限定されず、反応液を濾過する方法が挙げられる。
【0093】
(回収工程)
回収工程では、不溶物を除去した反応液から溶媒を除去する。溶媒を除去することで、化合物(4)と生成する第1錯体との混合物が得られる。
【0094】
溶媒を除去する方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられ、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥を行う際に、反応液を加熱してもよい。乾燥時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0095】
本発明の第2の製造方法では、回収工程に先立って、以下の析出工程を行ってもよい。
析出工程を行うことにより、反応液に含まれる第1錯体の純度を高めることができる。
(析出工程)
析出工程では、前記反応工程において、不溶物を除去した反応液に第二溶媒を投入し、析出物を除去する。反応液に第二溶媒を投入することで、第一溶媒に溶解した原料、副生成物等を析出させる。この析出物を除去することで、反応液に含まれる第1錯体の純度を高めることができる。
【0096】
前記第二溶媒は、反応液中の化合物(4)を選択的に析出できるものであれば特に限定されない。つまり、第二溶媒に対する第1錯体の溶解性が、第二溶媒に対する化合物(4)の溶解性よりも高い。前記第二溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素などが挙げられる。
【0097】
第二溶媒の投入量は、化合物(4)を析出できるように適宜調節すればよい。前記第二溶媒の投入量は、前記第一溶媒の使用量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0098】
また、第二溶媒を投入した後、第一溶媒および第二溶媒の一部を除去することで、化合物(4)を析出させてもよい。第一溶媒および第二溶媒の一部を除去する方法としては、減圧濃縮が好ましい。減圧濃縮を行う際に、反応液を加熱してもよい。濃縮時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0099】
析出物を除去する方法としては、例えば、反応液をろ過する方法が挙げられる。析出物を除去したろ液から、第一溶媒および第二溶媒を除去することで、目的の第1錯体が得られる。
【0100】
(精製工程)
精製工程では、前記回収工程および/または析出工程により得られた第1錯体と化合物(4)との混合物について、再沈殿を行う。具体的には、得られた第1錯体と化合物(4)との混合物を第一溶媒に溶解させた後、この溶解液に第二溶媒を投入して化合物(4)を析出させ、析出物を除去する。
【0101】
精製工程で使用する第一溶媒、第二溶媒は、反応工程、析出工程で例示したものを使用できる。また、第二溶媒の使用量、析出物の除去方法の好適態様は、前記析出工程と同様である。析出物を除去した後、ろ液から溶媒を除去することで、目的の第1錯体が得られる。溶媒の除去方法の好適態様は、回収工程と同様である。なお、精製工程は、所望とする第1錯体の純度に応じて、複数回行ってもよい。
【0102】
本発明の第2製造方法は、得られた第1錯体と水とを反応させて第2錯体を得る工程(反応第2工程)を含む。反応第2工程において、第1錯体と水とを反応させる方法としては、例えば、第1錯体を高湿度雰囲気に曝す方法が挙げられる。高湿度雰囲気の湿度は、50%RH以上が好ましく、より好ましくは60%RH以上、さらに好ましくは70%RH以上である。また、高湿度雰囲気の温度(気温)は、0℃以上が好ましく、より好ましくは、10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、200℃以下が好ましく、より好ましくは、150℃以下、さらに好ましくは、100℃以下である。
【0103】
第1錯体に対する水の添加量は、特に限定されないが、第1錯体100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上があることが好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。3質量部以上であれば、第1錯体と水との反応効率が高くなる。水の添加量の上限は、特に限定されず、第1錯体100質量部に対して、100質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。
【0104】
第1錯体と水との反応生成物は、精製されることも好ましい。第2錯体の純度が高くなるからである。
【0105】
本発明には、式(6)で表されるカルボン酸と、式(5)で表される金属酸化物とを溶媒中で反応させることを特徴とする錯体の製造方法が含まれる(第3製造方法)。
RCOOH ・・・(6)
M7
aOb ・・・(5)
[式(6)中、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。式(5)中、M7は、金属原子である。aは、1~5の整数である。bは、1~7の整数である。]
第3製造方法では、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)との反応により水が生成する。そのため、第1製造方法および第2製造方法のように反応系に水を加える必要がない。
【0106】
カルボン酸(6)におけるRとしては、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。
【0107】
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。前記炭素数1~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。
【0108】
炭素数2~18のアルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルケニル基としては、炭素-炭素二重結合を1つ有するものが好ましい。二重結合の位置としては、α,β位、あるいは、アルケニル基の末端に炭素-炭素二重結合を有するものが好ましい。前記アルケニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基が好ましい。
【0109】
炭素数2~18のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロペニル基、イソプロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基が挙げられる。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよいが、直鎖状が好ましい。前記炭素数2~18のアルキニル基としては、炭素-炭素三重結合を1つ有するものが好ましい。炭素-炭素三重結合の位置は、α,β位、あるいは、アルキニル基の末端に炭素-炭素三重結合を有するものが好ましい。前記アルキニル基の炭素数は、8以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。炭素数2~18のアルキニル基としては、エチニル基、イソプロピニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基が好ましい。
【0110】
カルボン酸(6)の具体例としては、炭素数1~19の飽和脂肪酸、炭素数3~20の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0111】
前記飽和脂肪酸としては、例えば、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸が挙げられる。前記不飽和脂肪酸としては、例えば、プロペン酸(アクリル酸)、2-メチルプロパ-2-エン酸(メタクリル酸)、2-ブテン酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデセン酸、11-ドデセン酸、12-トリデセン酸、9-テトラデセン酸、13-テトラデセン酸、14-ペンタデセン酸、9-ヘキサデセン酸、15-ヘキサデセン酸、16-ヘプタデセン酸、9-オクタデセン酸、11-オクタデセン酸、17-オクタデセン酸、18-ノナデセン酸などの炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸;プロピン酸、3-ブチン酸、4-ペンチン酸、5-ヘキシン酸、6-ヘプチン酸、7-オクチン酸、8-ノニン酸、9-デシン酸、10-ウンデシン酸、11-ドデシン酸、12-トリデシン酸、9-テトラデシン酸、13-テトラデシン酸、14-ペンタデシン酸、9-ヘキサデシン酸、15-ヘキサデシン酸、16-ヘプタデシン酸、9-オクタデシン酸、11-オクタデシン酸、17-オクタデシン酸、18-ノナデシン酸などの炭素-炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0112】
前記炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素-炭素二重結合を1つ有するものが好ましい。炭素―炭素二重結合の位置は、α、β位、あるいは、不飽和脂肪酸の末端が好ましい。前記炭素-炭素三重結合を有する不飽和脂肪酸としては、炭素-炭素三重結合を1つ有するものが好ましい。炭素-炭素三重結合の位置は、α、β位、あるいは、不飽和脂肪酸の末端が好ましい。
【0113】
カルボン酸(6)として、前記脂肪酸を2種以上併用する場合、各脂肪酸の含有量は、所望とする錯体に応じて適宜調節すればよい。なお、カルボン酸(6)を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、さらに好ましくは66mol%以上である。カルボン酸(6)を構成する脂肪酸が、全て不飽和脂肪酸であることも好ましい。また、カルボン酸(6)を構成する脂肪酸中の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸の含有率は、33mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、さらに好ましくは66mol%以上である。カルボン酸(6)を構成する脂肪酸が、全て炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸であることも好ましい。カルボン酸(6)を構成する脂肪酸は複数種を併用してもよいが、一種であることも好ましい。
【0114】
カルボン酸(6)としては、アクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましい。
【0115】
式(5)で表される金属酸化物について説明する。
M7
aOb ・・・(5)
金属原子(M7)としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。これらの中でも、前記金属原子M7としては、2価の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、鉛である。金属原子は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0116】
金属酸化物(5)において、aは、1以上、5以下の整数が好ましく、1以上、3以下の整数が好ましく、1が最も好ましい。bは、1以上、7以下の整数が好ましく、1以上5以下の整数がより好ましく、1以上、3以下がさらに好ましく、特に好ましくは1である。金属酸化物(5)としては、a=1、b=1の2価の金属酸化物が好ましい。
【0117】
金属酸化物(5)の具体例としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウムなどのアルカリ金属の酸化物;酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物;酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化テクネチウム、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化銀、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、レニウム、酸化オスミウム、酸化イリジウム、酸化白金、酸化金などの遷移金属の酸化物、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タリウム、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ポロニウムなどの卑金属の酸化物が挙げられる。前記金属酸化物は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属酸化物としては、2価の金属の酸化物が好ましく、より好ましくは酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化カドミウム、酸化鉛である。本発明では、金属酸化物(5)として、酸化亜鉛を使用することが特に好ましい。
【0118】
第3製造方法の反応工程において使用する第一溶媒は、特に限定されないが、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノ―ル、イソプロパノールなどが挙げられる。錯体の収率を高める観点から、溶媒としては、ジクロロメタンを使用することが好ましい。
【0119】
カルボン酸(6)と金属酸化物(5)とを反応させる具体的な錯体の製造方法は、例えば、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)とを第一溶媒に溶解または分散させ、この反応液を撹拌する工程(反応工程);前記反応液から不溶物を除去する工程(不溶物除去工程);および、反応液から目的錯体を析出する工程(析出工程)を有することが好ましい。
【0120】
(反応工程)
反応工程では、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)とを、第一溶媒に溶解または分散させて、この反応液を撹拌する。この工程では、溶媒中で、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)とを接触させ、錯体を生成させる。
【0121】
具体的には、まず反応容器中で金属酸化物(5)を溶媒に溶解または分散させる。金属酸化物(5)を溶媒に溶解または分散させた液を撹拌しながら、カルボン酸(6)を溶媒に溶解または分散した液を滴下する。カルボン酸(6)を溶媒に溶解または分散した液の滴下は、特に限定されないが、0.5時間~3時間かけて行うことが好ましい。滴下終了後、さらに撹拌をしながら反応を行うことが好ましい。
【0122】
反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0123】
カルボン酸(6)と金属酸化物(5)との反応において、金属酸化物(5)に対するカルボン酸(6)の仕込みモル比率((6)/(5))は、1/2超が好ましく、1/1以上がより好ましく、2/1以下が好ましく、7/4以下がより好ましい。金属酸化物(5)に対するカルボン酸(6)のモル比率((6)/(5))が前記範囲内であれば、得られる錯体の収率が高くなるからである。
【0124】
また、反応工程における第一溶媒の使用量は、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)との合計100質量部に対して、1000質量部以上が好ましく、より好ましくは2000質量部以上、さらに好ましくは3000質量部以上であり、10000質量部以下が好ましく、より好ましくは8000質量部以下、さらに好ましくは6000質量部以下である。前記第一溶媒の使用量が10000質量部超であれば合成時の作業量が多くなり、1000質量部未満であれば錯体の収率が低下する恐れがある。
【0125】
反応工程の反応温度(反応液の液温)は、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましく、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましい。反応温度が、-20℃以上であると、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)との反応速度を高めることができる。また、反応温度が100℃以下であると、カルボン酸(6)の自己重合を防止することができる。
【0126】
反応工程の反応時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。反応時間が短すぎると、錯体の収率が低下するからである。また、生産性を高める観点から、反応時間は300時間以下が好ましく、200時間以下がより好ましく、100時間以下がさらに好ましい。なお、反応の終了は、例えば、反応液を一部採取して、赤外吸収を測定する方法、あるいは、反応液に溶解した成分の重量変化などを測定する方法などにより、確認することができる。
【0127】
本発明の第3製造方法において、カルボン酸(6)と金属酸化物(5)との反応終了後、不溶物除去工程、析出工程、回収工程、精製工程を有することが好ましい。
【0128】
(不溶物除去工程)
反応終了後、反応液から不溶物を除去する。不溶物としては、例えば、未反応の原料、あるいは、カルボン酸(6)が自己重合した重合物などが挙げられる。不溶物を除去する方法は、特に限定されず、反応液を濾過する方法が挙げられる。
【0129】
(析出工程)
析出工程では、不溶物を除去した反応液に第二溶媒を投入することで、第一溶媒に溶解した目的錯体を析出させる。反応液中には、例えば、目的錯体と未反応のカルボン酸(6)とが含まれている。第二溶媒に対する目的錯体の溶解性が、第二溶媒に対するカルボン酸(6)の溶解性よりも低ければ、目的錯体を選択的に析出することができる。前記第二溶媒は、反応液中の目的錯体を選択的に析出できるものであれば特に限定されない。前記第二溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素などが挙げられる。
【0130】
第二溶媒の投入量は、目的錯体を析出できるように適宜調節すればよい。前記第二溶媒の投入量は、前記第一溶媒の使用量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。
【0131】
また、第二溶媒を投入した後、第一溶媒および第二溶媒の一部を除去することで、目的錯体を析出させてもよい。第一溶媒および第二溶媒の一部を除去する方法としては、減圧濃縮が好ましい。減圧濃縮を行う際に、反応液を加熱してもよい。濃縮時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0132】
析出した目的錯体は、濾過して乾燥することが好ましい。
【0133】
(回収工程)
回収工程では、不溶物を除去した反応液から溶媒を除去する。溶媒を除去することで、反応液中に存在する目的錯体を回収することができる
【0134】
溶媒を除去する方法としては、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられ、減圧乾燥が好ましい。減圧乾燥を行う際に、反応液を加熱してもよい。乾燥時の反応液の温度は、100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0135】
(精製工程)
精製工程では、析出工程または回収工程で得られた目的錯体について再沈殿を行うことにより、目的錯体の純度を高めることができる。具体的には、得られた目的錯体を第一溶媒に溶解させた後、この溶解液に第二溶媒を投入して目的錯体を析出させて回収する。
【0136】
精製工程で使用する第一溶媒、第二溶媒は、前記反応工程および析出工程で例示したものを使用できる。また、第二溶媒の使用量も、前記析出工程と同様である。精製工程は、所望とする目的錯体の純度に応じて、複数回行ってもよい。
【0137】
本発明の錯体の製造方法は、式(1)で表される錯体および構造式(2)または(3)で表される錯体の製造方法として好適である。式(1)で表される錯体の詳細は、前述したとおりであるが、その要旨は、以下の通りである。
((RCOO)8M5(OH)2)n (1)
[式(1)中、Mは金属原子、Rは、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。複数存在するRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、Rのうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である]
【0138】
構造式(2)で表される構造を有する錯体の詳細は、前記した通りであるが、その要旨は、以下の取りである。
【化6】
[構造式(2)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。nは、1以上の整数である。]
【0139】
構造式(3)で表される錯体の詳細は、前記した通りであるが、その要旨は、以下の取りである。
【化7】
[構造式(3)において、M
1~M
5は同一または異なって金属原子であり、R
1~R
8は、それぞれ同一または異なって、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基を表す。R
1~R
8のうち少なくとも1個は炭素数2~18のアルケニル基または炭素数2~18のアルキニル基である。]
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0141】
[評価方法]
(1)直接導入-質量分析(DI-MS)
質量分析は、質量分析計(Waters社製、SynaptG2-S型)を用いた。
イオン化法:大気圧固体試料プローブ(ASAP)
測定モード:Pos.、Neg.
測定範囲:m/z = 50~1500
【0142】
(2)CHN元素分析
元素分析は、有機微量元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、マイクロコーダー JM10型)を用いて行った。
【0143】
(3)亜鉛含量測定
錯体(0.1057g)を100mlのビーカーに秤量し、蒸留水50mlを加えて溶解させた。これに酢酸-酢酸ナトリウム(pH5)緩衝液 10mlを加え、XO指示薬(和光純薬工業(株)、0.1w/v%キシレノールオレンジ溶液・滴定用0.1g/100ml=0.001396M)数滴を加えた。最後に、蒸留水で100mlに調製した。この調製液に対して0.05mol/lのEDTA標準液(同仁化学社製)で滴定を行った。
【0144】
(4)赤外分光分析
赤外分光分析は、全反射吸収測定のプリズムとしてダイヤモンドを使用した全反射吸収測定法(ATR法)にて行い、フーリエ変換赤外分光光度計(株)パーキンエルマー社製、「測定装置:Spectrum One」)を用いて行った。
【0145】
(5)粉末X線回折
X線回折測定は、広角X線回折装置(リガク社製、「RINT-TTR III型」)を用いて行った。測定試料は、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。測定条件は、下記のとおりである。
X線源;CuKα線
管電圧-管電流;50kV-300mA
ステップ幅;0.02deg.
測定速度;5deg./min
スリット系;発散-受光-散乱:0.5deg.-開放-0.5deg.
モノクロメーター;回折線湾曲結晶モノクロメーター
【0146】
(6)単結晶X線構造解析(X線回折測定)
装置:XtaLAB PRO MM007
データ測定・処理ソフトウェア:CrysAlisPro
構造解析プログラムパッケージ:CrystalStructure
X線源:Cu Kα (λ = 1.54184 オングストローム)
管電圧・管電流:40 kV-30 mA
測定温度:-173 ℃(吹付低温装置使用)
コリメーター径:Φ0.5mm
カメラ長:39.25 mm
振動角:0.20°
【0147】
測定用のサンプルは、以下のようにして作製した。
4mLバイアルに錯体(5mg)および酢酸エチル(833uL)を入れ、60℃に加温して錯体を溶解させた(濃度6mg/mL)。その溶液を20℃で1カ月間静置することで、六角形板状の0.1mmの錯体の単結晶を得た。
サンプル瓶中から結晶を採取し、ホールスライドガラス上のParatone-N(Hampton Research)中に注入した。Paratone-NごとMicroLoopLD100・mφ(MiTeGen)ですくい、低温装置のガス流にて急速凍結しX線回折を測定した。 X線回折のデータ測定・処理は、ソフトウェアCrysAlisProおよび、構造解析プログラムパッケージCrystalStructureを用いて行った。
【0148】
[製造例]
(実施製造例1)
反応容器に酸化亜鉛(10g、123mmol)とジクロロメタン250mlを仕込んで氷浴で0℃で撹拌した。アクリル酸(12.6g、174mmol)をジクロロメタン125mlに溶解させた液を2mL/分の滴下スピードで滴下した。滴下終了後、氷浴をはずし、室温(rt)で12時間撹拌した。得られた反応液をろ過して、溶媒に不溶な沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン300mLを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮して析出物を得た。ろ過により析出物を取り出し乾燥させて、錯体1を得た(収量7.18g、収率35%)。なお、実施例製造例1では、以下の原料を用いた。
酸化亜鉛:キシダ化学社製
アクリル酸:シグマアルドリッチ社製
ジクロロメタン:キシダ化学社製
ヘキサン:キシダ化学社製
【0149】
実施製造例1で得られた錯体1について、赤外分光分析、元素分析、亜鉛含量測定、X線回折測定を行った。各試験結果を以下に示した。
【0150】
IRスペクトルピーク:413cm-1、469cm-1、688cm-1、829cm-1、972cm-1、1068cm-1、1274cm-1、1372cm-1、1435cm-1、1522cm-1、1568cm-1
、1644cm-1
【0151】
Anal. Calcd for C24H26O18Zn5: C, 31.02; H, 2.82. Found: C, 30.36; H, 2.77.
【0152】
図1には、実施製造例1の錯体1のIRスペクトルを、
図2には、ジアクリル酸亜鉛のIRスペクトルを示した。IRスペクトルより、アクリレートのビニル基に由来する吸収と、(HO)Zn
3の振動に由来する吸収が確認された。また、配位状態が異なるカルボキシレート基の振動に由来する吸収が2種類確認された。
【0153】
また、亜鉛含量測定を以下の方法で行った。すなわち、実施例1で得られた錯体1(0.1057g)を100mlのビーカーに秤量し、蒸留水50mlを加えて溶解させた。これに酢酸-酢酸ナトリウム(pH5)緩衝液 10mlを加え、XO指示薬(和光純薬工業(株)、0.1w/v%キシレノールオレンジ溶液・滴定用0.1g/100ml=0.001396M)数滴を加えた。最後に、蒸留水で100mlに調製した。この調整液に対して0.05mol/lのEDTA標準液(同仁化学社製)で滴定を行った。終点の変色である赤紫→黄になった滴定量11.53mlより亜鉛含量を求めた。亜鉛含量の測定値は35.7質量%であり、理論値35.2質量%と非常に近い値であった。これらの結果から、上記で作製した錯体1はZn5(OCOCHCH2)8(OH)2で示される化合物であることが確認できた。
【0154】
元素分析の結果から、実施製造例1の錯体1の炭素含有率は30.36質量%、水素含有率は2.77質量%であった。前記分析結果と推定値との差は、炭素含有率が0.66質量%、水素含有率が0.05質量%であった。原子組成が、推定値と非常に近似していることから、前記錯体1(Zn5(OCOCHCH2)8(OH)2)の純度が高いことが確認できた。
【0155】
図3には、実施製造例1の錯体1のX線回折スペクトルを、
図4には、ジアクリル酸亜鉛のX線回折スペクトルを示した。X線回折スペクトルから、実施製造例1の錯体1がジアクリル酸亜鉛とは異なる結晶構造を有することが確認された。
【0156】
(実施製造例2)
反応容器に酸化亜鉛(2.5g、31mmol)、アクリル酸亜鉛(19.1g、92mmol)とジクロロメタン375mlおよび、水( 0.75mL、41mmol)を仕込んで40℃で3時間撹拌した。なお、溶媒は還流させた。得られた反応液をろ過して、溶媒に不溶な沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン300mLを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮して析出物を得た。ろ過により析出物を取り出し乾燥させて、錯体2を得た(6.72g、収率31%)。
【0157】
図5には、実施製造例2の錯体2のIRスペクトルを示した。
【0158】
IRスペクトルピーク:405cm-1、469cm-1、688cm-1、829cm-1、972cm-1、1066cm-1、1273cm-1、1366cm-1、1431cm-1、1522cm-1、1564cm-1
、1642cm-1
【0159】
IRスペクトルより、実施製造例2で得られた錯体2について、アクリレートのビニル基に由来する吸収と、(HO)Zn3の振動に由来する吸収が確認された。また、配位状態が異なるカルボキシレート基の振動に由来する吸収が2種類確認された。
【0160】
実施製造例1~2の製造条件および結果を表1にまとめた。
【0161】
【表1】
収率(%)=100×(各収量をクラスターの分子量で割った値)/(原料から得られるクラスターの理論値(モル))
【0162】
(実施製造例3)
アルゴン雰囲気下で、反応容器に酸化亜鉛(125g、1540mmol)、アクリル酸亜鉛(955g、4600mmol)とジクロロメタン18.7Lを仕込んで40℃で3時間撹拌した。なお、溶媒は還流させた。得られた反応液をろ過して、溶媒に不溶な沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン14.3Lを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮して析出物を得た。ろ過により析出物を取り出し、ろ液を濃縮乾燥させて、第1錯体3を得た。得られた第1錯体3を、20℃~30℃、湿度50%以上の環境下で、徐々に水(水分)と反応させることで第2錯体3(目的錯体、116g、収率12%)を得た。
【0163】
(実施製造例4)
反応液が40℃に達してから12時間経過後、反応を終了して第1錯体4を得たこと以外は、実施製造例3と同一の方法で反応を行い、第2錯体4(目的錯体、収量79g、収率8%)を得た。
【0164】
(実施製造例5)
反応液が40℃に達してから24時間経過後、反応を終了して第1錯体5を得たこと以外は、実施製造例3と同一の方法で反応を行い、第2錯体5(目的錯体、収量25g、収率3%)を得た。
【0165】
(実施製造例6)
反応液が40℃に達してから48時間経過後、反応を終了して第1錯体6を得たこと以外は、実施製造例3と同一の方法で反応を行い、第2錯体6(目的錯体、収量70g、収率8%)を得た。実施製造例3~6の製造条件および結果を表2にまとめた。
【0166】
【表2】
収率(%)=100×(各収量をクラスターの分子量で割った値)/(原料から得られるクラスターの理論値(モル))
【0167】
実施製造例3の第1錯体3について、質量分析、元素分析、亜鉛含量測定、X線回折測定、赤外分光分析を行った。各試験結果を以下に示した。
【0168】
High-resolution ASAP-MS(positive)スペクトル測定結果
Positive ion HR-ASAP-MS m/z: 632.7715
[M-CH2CHCOO]+ (calcd. For C15H15O11Zn4 632.7707 Δ1.2ppm
High-resolution ASAP-MS(negative)スペクトル測定結果
Negative ion HR-ASAP-MS m/z: 735.7762
[M+O2]- (calcd. For C18H18O15Zn4 735.7740 Δ2.9ppm
【0169】
Anal. Calcd for C18H18O13Zn4: C, 30.71; H, 2.58. Found: C, 30.72; H, 2.50.
【0170】
IRスペクトルピーク:520cm-1、600cm-1、675cm-1、828cm-1、968cm-1、1067cm-1、1276cm-1、1370cm-1、1436cm-1、1572cm-1、1643cm-1
【0171】
実施製造例3で得られた第1錯体3のASAP-MSスペクトルを
図6、7に示した。また、Zn
4O(OCOCHCH
2)
6から推定される陰イオン[Zn
4O(OCOCHCH
3)
6O
2]
(-)、および、陽イオン[Zn
4O(OCOCHCH
3)
5]
(+)のASAP-MSスペクトルシミュレーションパターンを
図6、7に示した。
【0172】
図6、7に示すように、ASAP-MSスペクトルは、シミュレーションパターンと同様なパターンを示した。また、得られた実験値632.7715および735.7762は、陽イオン[Zn
4O(OCOCHCH
3)
5]
(+):C
15H
15O
11Zn
4 推定値632.7707、陰イオン[Zn
4O(OCOCHCH
3)
6O
2]
(-):C
18H
18O
15Zn
4 推定値735.7740と非常に近似した値を示した。また、亜鉛含量の測定値は36.8質量%であり、理論値37.2質量%と非常に近い値であった。これらの結果から、上記で作製した第1錯体3は、Zn
4O(OCOCHCH
2)
6で示される化合物であることが確認できた。
【0173】
元素分析の結果から、第1錯体3の炭素含有率は30.72質量%、水素含有率は2.50質量%であった。前記分析結果と推定値との差は、炭素含有率が0.01質量%、水素含有率が0.08質量%であった。原子組成が、推定値と非常に近似していることから、前記第1錯体(Zn4O(OCOCHCH2)6)の純度が非常に高いことが確認できた。
【0174】
図8には、第1錯体3のIRスペクトルを、
図9には、第1錯体3のX線回折スペクトルを示した。IRスペクトルより、アクリレートのビニル基に由来する吸収と、Zn
4Oの振動に由来する吸収が確認された。また、カルボキシレート基の配位状態が、ジアクリル酸亜鉛とは異なることも確認された。X線回折スペクトルから、第1錯体3(アクリル酸亜鉛オキソクラスター)がジアクリル酸亜鉛とは異なる結晶構造を有することが確認された。
【0175】
図10には、実施製造例3で得られた第2錯体3のIRスペクトルを示した。
【0176】
IRスペクトルピーク:413cm-1、469cm-1、688cm-1、829cm-1、972cm-1、1068cm-1、1274cm-1、1372cm-1、1435cm-1、1522cm-1、1568cm-1
、1644cm-1
【0177】
IRスペクトルより、実施製造例3で得られた第2錯体3について、アクリレートのビニル基に由来する吸収と、(HO)Zn3の振動に由来する吸収が確認された。また、配位状態が異なるカルボキシレート基の振動に由来する吸収が2種類確認された。
【0178】
実施例製造例3で得られた第2錯体3について、単結晶X線構造解析により構造を決定した。その結果、以下の構造を有していることが分かった。なお、矢印はこの構造の対称心を示し、線で囲まれた部分は、相互作用している隣接する分子の一部である。
【0179】
【0180】
EDTA滴定、質量分析により、Zn
5(OCOCHCH
2)
8(OH)
2に相当する原子組成比、亜鉛含有率であり、本発明の金属クラスターであることを確認した。さらに、XRDからアクリル酸亜鉛とは異なる結晶構造を有しており(
図2)、FT-IRから、ビニル基の存在と、(HO)Zn
3の振動に由来する吸収および、異なる2種類のアクリレートの振動に由来する吸収を確認したころから、高純度でZn
5(OCOCHCH
2)
8(OH)
2を合成できたことを確認した。
【0181】
(比較製造例1)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.0g、9.6mmol)と、溶媒として、トルエン140mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水3mLと重合禁止剤として、4-メトキシフェノール20mgを加えた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら、12時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。濾過残渣は、1.77g(88.5%)であった。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.21g、10.5%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0182】
(比較製造例2)
溶媒として、クロロホルムを用い、反応液を60℃でクロロホルムを還流させながら撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。濾過残渣は、0.24g(12%)であった。得られたろ液を濃縮して、濃縮物(1.44g、72%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0183】
(比較製造例3)
溶媒として、1,2-ジクロロベンゼン140mLを用い、反応液を110℃で、1,2-ジクロロベンゼンを還流させながら撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。反応液に不溶物はなかった。得られたろ液は濃縮することもできず、目的生成物を得ることはできなかった。
【0184】
(比較製造例4)
溶媒として、酢酸プロピル140mLを用い、反応液を100℃で酢酸プロピルを還流させながら撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。濾過残渣は、1.71g(85.5%)であった。目的生成物を得ることはできなかった。
【0185】
(比較製造例5)
溶媒として、アセトン140mLを用い、反応液を56℃でアセトンを還流させながら撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。濾過残渣は、0.26g(13%)であった。得られたろ液を濃縮して、濃縮物(1.54g、77%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0186】
(比較製造例6)
溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)140mLを用い、反応液を100℃で撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。反応液に不溶物はなかった。得られたろ液は濃縮することもできず、目的生成物を得ることはできなかった。
【0187】
(比較製造例7)
溶媒として、アセトニトリル140mLを用い、反応液を82℃でアセトニトリルを還流させながら撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。反応液に不溶物はなかった。得られたろ液は濃縮して、濃縮物(1.8g、90%)を得た。濃縮物について、分析したところ、目的生成物は、確認されなかった。
【0188】
(比較製造例8)
溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)140mLを用い、反応液を100℃で撹拌した以外は、比較製造例1と同様に反応を行った。反応液に不溶物はなかった。得られたろ液は濃縮することもできず、目的生成物を得ることはできなかった。
【0189】
比較製造例1~8の製造条件および結果を表3にまとめた。
【0190】
【表3】
収率(%)=100×(各収量をクラスターの分子量で割った値)/(原料から得られるクラスターの理論値(モル))
【0191】
(比較製造例9)
反応容器にアクリル酸亜鉛(5.02g、24mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水3mLを加えた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら、2時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.38g、7.6%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0192】
(比較製造例10)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.00g、9.6mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水2mLを加えた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら、2時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.37g、18.6%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0193】
(比較製造例11)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.01g、9.7mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水2mLを加えた。反応液を90℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(1.07g、53.2%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0194】
(比較製造例12)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.04g、9.8mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水0.5mLを加えた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら1時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(1.67g、81.7%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0195】
(比較製造例13)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.01g、9.7mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら1時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.30g、14.8%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0196】
(比較製造例14)
反応容器にアクリル酸亜鉛(2.08g、10mmol)と、溶媒として、トルエン200mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。この反応液に、さらに添加剤として、水1mLを加えた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら、2時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.85g、41%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、目的生成物は確認されなかった。
【0197】
(比較製造例15)
反応容器にアクリル酸亜鉛(10g、4.8mmol)と、溶媒として、トルエン49mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら5時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.26g、2.6%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、アクリル酸亜鉛の重合物が確認された。
【0198】
(比較製造例16)
反応容器にアクリル酸亜鉛(10g、4.8mmol)と、溶媒として、トルエン49mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら24時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.08g、0.8%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、アクリル酸亜鉛の重合物が確認された。
【0199】
(比較製造例17)
反応容器にアクリル酸亜鉛(10g、4.8mmol)と、溶媒として、トルエン97mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をトルエンに溶解または分散させた。反応液を110℃でトルエンを還流させながら24時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.03g、0.3%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、アクリル酸亜鉛の重合物が確認された。
【0200】
(比較製造例18)
反応容器にアクリル酸亜鉛(10g、4.8mmol)と、溶媒として、キシレン97mLとを仕込み、アクリル酸亜鉛をキシレンに溶解または分散させた。反応液を110℃でキシレンを還流させながら5時間撹拌した。反応終了後、反応液を濾過して、ろ液を得た。得られたろ液を濃縮して濃縮物(0.19g、1.9%)を得た。濃縮物について、分析を行ったところ、アクリル酸亜鉛の重合物が確認された。
【0201】
比較製造例9~18の反応条件および結果を表4にまとめた。
【0202】
【表4】
収率(%)=100×(各収量をクラスターの分子量で割った値)/(原料から得られるクラスターの理論値(モル))
【0203】
(比較製造例19)
反応容器に酸化亜鉛(30g、369mmol)とジクロロメタン250mlを仕込んで0℃で撹拌した。アクリル酸(13.3g、184mmol)をジクロロメタン125mlに溶解させた液を2.5mL/分の滴下スピードで滴下した。滴下終了後、40℃に昇温し、3時間撹拌し、反応を終了した。得られた反応液をろ過して、溶媒に不溶な沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン300mLを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮して濃縮物を得た。濃縮物について分析したところ、目的生成物は確認されなかった。
【0204】
(比較製造例20)
反応容器に酸化亜鉛(2.5g、31mmol)、とアクリル酸亜鉛(19.1g、92mmol)をジクロロメタン375mlに溶解または分散した液、40℃で3時間撹拌した。なお、溶媒は還流させた。得られた反応液をろ過して、溶媒に不溶な沈殿物を除去した。ろ液にヘキサン300mLを加え、液量が約1/4になるまで減圧濃縮して析出物を得た。ろ過により析出物を除去し、ろ液を乾燥させて濃縮物を得た(1.82g)。濃縮物は、アクリル酸オキソクラスターであり、アクリル酸ヒドロキソクラスターは、確認されなかった。
【0205】
比較製造例19~20の反応条件および結果を表5にまとめた。
【0206】
【表5】
収率(%)=100×(各収量をクラスターの分子量で割った値)/(原料から得られるクラスターの理論値(モル))
【0207】
[ゴム組成物の調製]
表6に示す配合で各原料を混練し、ゴム組成物を調製した。
【0208】
【0209】
表6で用いた材料は下記のとおりである。
BR730:JSR社製、ハイシスポリブタジエン(シス-1,4-結合含有量=96質量%、1,2-ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3)
アクリル酸亜鉛ヒドロキソクラスター:実施製造例3で得られた第2錯体3
ZN-DA90S:日触テクノファインケミカル社製、アクリル酸亜鉛(10質量%ステアリン酸亜鉛コーティング品)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0210】
表6に、ゴム組成物から作製したスラブの硬度および反発弾性率を示した。その結果、本発明の錯体を使用した架橋ゴム成形体(スラブ)は、いずれも高い反発性能を有しており、架橋剤としての有用性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明のゴム組成物を用いれば、反発性能に優れた架橋ゴム成形体が得られる。よって、本発明のゴム組成物は、ゴルフボール、テニスボール等のスポーツ用品に利用できる。