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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】吸湿性抗菌樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220105BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20220105BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20220105BHJP
   C01F 11/04 20060101ALI20220105BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/26
C08J3/20 B CES
C01F11/04
B65D30/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017155530
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019034994
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-06-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増子 啓介
(72)【発明者】
【氏名】西中 健
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-220227(JP,A)
【文献】国際公開第2007/064000(WO,A1)
【文献】特開平06-099020(JP,A)
【文献】特開2003-306447(JP,A)
【文献】国際公開第2004/089092(WO,A1)
【文献】特開2010-195013(JP,A)
【文献】特開2015-074462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00 - 101/14
C08J 3/00 - 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含む吸湿性抗菌樹脂組成物から形成してなる成形体であって、
貝殻焼成カルシウム(A)は、焼成温度900℃以上で1時間以上焼成されてなり、平均粒子径が3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間であり、
熱可塑性樹脂(B)は、融点が100~170℃であり、
熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性樹脂(B2)とを含み、
熱可塑性樹脂(B2)は、熱可塑性樹脂(B1)よりも、融点が5~30℃低く
貝殻焼成カルシウム(A)の平均粒子径(D)と成形体の厚み(d)が、下記式(1)を満たし、かつ熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して、貝殻焼成カルシウム(A)を0.5~5重量部含む成形体。

式(1) 1/2D≦d≦50D
【請求項2】
成形体の厚み(d)は、5~300μmである、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含む吸湿性抗菌樹脂組成物の製造方法であって、
貝殻焼成カルシウム(A)は、焼成温度900℃以上で1時間以上焼成されてなる貝殻焼成カルシウムであって、
熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性樹脂(B2)とを含み、
熱可塑性樹脂(B2)は、熱可塑性樹脂(B1)よりも、融点が5~30℃低く、
主成分である熱可塑性樹脂(B1)の表面に、平均粒子径が3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B1)とは異なる熱可塑性樹脂(B2)とを、共に90~140℃で物理的吸着させた後、溶融混錬する、吸湿性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気および菌の増殖を抑制できる成形体に使用できる吸湿性抗菌樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では大腸菌O-157やMRSAの発生を機に、衛生面に対する意識と関心がより一層強まり、食品衛生分野、メディカル分野において抗菌製品に対する注目が集まっている。プラスチック成形体に抗菌機能を付与するには、抗菌剤を、プラスチックへの練り混む方法等が用いられており、多くの抗菌剤が使用されている。抗菌剤には有機系、無機系が存在し、有機系抗菌剤は無機系抗菌剤に比べて即効性に優れ、加工がし易く低コストであるが、持続性に劣る。一方、無機系抗菌剤は有機系抗菌剤に比べて即効性には劣るが、持続性に優れ、人体に与える影響度が低い。そのため、食品に関する製品や、人体に触れる製品には、無機系抗菌剤が多く用いられている。
【0003】
上記無機系抗菌剤には、抗菌性を持つ銀、銅、亜鉛等の金属をゼオライト、シリカアルミナ等の無機担体に担持させた担持型抗菌剤や、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等がある(特許文献1、2)。担持型抗菌剤は安全性、持続性の観点から広く使用されているが、樹脂練り混み時に金属イオンと樹脂中の触媒残渣、酸化防止剤、帯電防止剤等の添加剤と反応して、褐色に変色することがある。そのため、プラスチック成形体中の配合により、予期せぬ問題が発生する。一方、水酸化カルシウムや酸化カルシウムは添加剤との反応による変色は見られないものの、高い塩基性による基材樹脂の劣化促進や難分散による添加量の増加を必要し、物性低下をもたらす。そこで、特許文献3では、貝殻を高温焼成して得られた酸化カルシウムを主成分とする焼成粉体を分散した合成樹脂成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-001557号公報
【文献】特開2017-030842号公報
【文献】特開2010-195013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムとなることで抗菌性を発現するが、樹脂との練り混みの際、一部、供給機内で吸湿し、押出加工時の高温下によって樹脂の劣化を誘発する。また、一部、酸化カルシウムが水和した状態にある場合、押出加工がなされても、酸化カルシウム同士が凝集するため、効果を得るために添加量が多くなる。そのため、物性低下の問題があった。
【0006】
本発明は、持続性の高い抗菌効果を有し、基材樹脂の劣化が少なく、抗菌剤の分散性が良好な成形体を成形できる吸湿性抗菌樹脂組成物および成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の貝殻焼成カルシウムと、熱可塑性樹脂とを用いることにより、上記課題を解決することが可能であることを見出し、この知見に基づいて本発明をなしたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、平均粒子径3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含む吸湿性抗菌樹脂組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記の本発明によれば、平均粒子径3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウム(A)により加工時における水和反応を抑制することができ、凝集、基材樹脂の劣化を抑制できたことに加え、少量で抗菌性が向上した。これにより吸湿性抗菌樹脂組成物を使用した成形体は、基材の物性を保持したまま、高い抗菌性を有する効果が得られた。
【0010】
本発明により、基材樹脂の劣化が少なく、抗菌剤の分散性が良好なため、低添加量で抗菌効果を有する成形体を成形できる吸湿性抗菌樹脂組成物および成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸湿性抗菌樹脂組成物は、平均粒子径3~20μmかつ温度23℃、湿度50%RH環境で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含む樹脂組成物である。この吸湿性抗菌樹脂組成物は、押出成形、射出成形等により成形体を得ることができる。この成形体は、食品用包装材、フィルム、医療用フィルム等に使用することが好ましい。
【0012】
本発明において貝殻焼成カルシウムは大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌黄色ブドウ球菌、MRSA、O-157、腸炎ビブリオ菌、レジオネラ菌、白癬菌、ノロウイルス等の菌に対して効果のある抗菌剤である。また、硫化水素、イソ吉草酸等の酸性臭い物質に対する消臭効果もある。貝殻焼成カルシウムは牡蠣、ホタテ、サザエ、ハマグリ等の貝殻を高温で焼成して得られるが、その中でも、ホタテ貝殻は主成分が炭酸カルシウムであり、組成の90%以上を占める。また、ホタテ貝殻の主成分は石灰石や工業用炭酸カルシウムと似た比率を示し、水銀やカドミニウムのような有害な物質は認められない。さらに、廃棄量が年間数十万トンに達するため、リサイクルの観点からも好適である。本発明の抗菌剤は貝殻を焼成した貝殻焼成カルシウムであり、焼成することで貝殻の主成分である炭酸カルシウムから二酸化炭素が放出され酸化カルシウムとなったものである。成形体中の酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムとなり、水酸化カルシウムの塩基性により抗菌性を発現する。さらに、水と反応した際にラジカルが発生し、強い反応性が細菌の細胞壁を攻撃し、より強い抗菌性を発揮するものと考えられている。貝殻焼成カルシウム(A)は、鉱物由来の酸化カルシウムと比較し、水との反応に大きな違いがある。鉱物系は激しく反応して300℃近傍まで発熱するが、一方、貝殻焼成カルシウムは水との反応がマイルドであり、90℃くらいまでしか発熱しない。そのため、基材樹脂の劣化が少なく、かつ安全な抗菌剤として使用する事ができる。
【0013】
本発明において貝殻焼成カルシウム(A)の平均粒子径は、3~20μmである。平均粒子径が、3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間の範囲にあることで、成形体作製前の吸湿による組成の変化およびそれに伴う凝集を抑制できる。さらに、抗菌効果の即効性も期待できる。好ましくは3~15μm、より好ましくは5~15μmである。また、吸湿量が平衡に達するまでの時間は好ましくは70~120時間、より好ましくは70~110時間である。
なお、平均粒子径は、走査電子顕微鏡の拡大画像(例えば千倍~一万倍)から観察できる粒子径(例えば20個程度)を平均したものである。貝殻焼成カルシウム(A)の粒子形状は、球状、楕円体状等公知の粒子形状を使用できる。貝殻焼成カルシウム(A)の粒子がアスペクト比(長径/短径)を有する場合の平均粒子径は、長径を平均する。
また、温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間の判断は、基点となる時間から24時間後に重量の変化が1.0%以下の場合を平衡に達したものとする。
【0014】
貝殻焼成カルシウム(A)の焼成温度は、900℃以上で1時間以上が好ましく、より好ましくは900℃以上で2時間以上である。900℃未満では完全に焼成が完了せず、一部炭酸カルシウムが残存する恐れがある。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂(B)は、従来既知の熱可塑性樹脂を用いることができる。
具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ABS等が挙げられる。これらの中でも加工性、機械物性の観点からポリエチレン、ポリプロピレン、ABSが好ましい。
熱可塑性樹脂(B)の融点は、100~170℃であることが好ましく、110℃から150℃がより好ましい。この範囲にあることで、押出加工時に過度な熱履歴をかけることなく、樹脂が有する水分を脱気しやすく、貝殻焼成カルシウムの水和反応を抑制するため、樹脂劣化を低減することができる。
【0016】
また、本発明の吸湿性樹脂組成物は、主成分である熱可塑性樹脂(B1)の表面に、貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B1)とは異なる熱可塑性樹脂(B2)とを共に90~140℃で物理的吸着させた後、溶融混錬してなる、吸湿性樹脂組成物であることが好ましい。
すなわち、主成分である熱可塑性樹脂(B1)の表面に、平均粒子径が3~20μm、かつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウム(A)と、熱可塑性樹脂(B1)とは異なる熱可塑性樹脂(B2)とを、共に90~140℃で物理的吸着後、さらに溶融混錬する、吸湿性樹脂組成物の製造方法であることが好ましい。
ここで、主成分とは、樹脂組成物を構成する樹脂の中で、最も含有量が多い樹脂のことをいい、例えば、2種類の樹脂を含有する場合には、樹脂組成物を形成するために用いる樹脂成分の全量(100重量%)中、50重量%以上含有する樹脂をいうものであり、好ましくは70重量%以上含有する樹脂をいうものである。
【0017】
このとき、主成分である熱可塑性樹脂(B1)は、融点が100~170℃である熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、主成分となる熱可塑性樹脂(B1)とは異なる熱可塑性樹脂(B2)は、既知の熱可塑性樹脂を用いることができるが、低分子量のポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、2000~10000程度の分子量(MW)を有する熱可塑性樹脂であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂(B1)よりも、融点が5~30℃低いことが好ましい。それにより、予備撹拌時に主成分となる熱可塑性樹脂(B1)を溶融させることなく、熱可塑性樹脂(B2)のみを溶融させることで、熱可塑性樹脂(B1)の表面に貝殻焼成カルシウムと共に物理吸着がより進み、貝殻焼成カルシウムの分散性が増す。
【0018】
なお、熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、均一な表面コーティングの観点から、熱可塑性樹脂(B1)100重量部に対して、5~20重量部が好ましい。より好ましくは5~15重量部である。
【0019】
本発明において、貝殻焼成カルシウム(A)の平均粒子径(D)と成形体厚み(d)は、式(1)1/2D≦d≦50Dを満たすことが好ましい。消臭、抗菌効果は貝殻焼成カルシウムの水和によって得られる水酸化カルシウムのアルカリ性によるものである。そのため、効果は樹脂中の貝殻焼成カルシウムが水和した後、菌や臭い物質との接触によって得られる。それゆえ平均粒子径と成形体厚みが近い場合、水和、接触が起こりやすく、より消臭、抗菌効果が得られやすい。しかしながら、成形体の厚みが平均粒子径よりも薄すぎる場合、機械物性の低下を招く恐れがあるため、より好ましくはD≦d≦30D、さらに好ましくは2D≦d≦20Dである。貝殻焼成カルシウムの水和、接触の観点から成形体厚みの好ましい範囲は5~300μm、より好ましくは5~200μmである。
【0020】
本発明の成形体は、上記の通り吸湿性抗菌樹脂組成物を成形することで作製することができる。
成形体が含む貝殻焼成カルシウムと熱可塑性樹脂の配合量は、用途、成形体厚みによって異なるが、熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して、貝殻焼成カルシウム(A)を0.5~5重量部配合するのが好ましく、より好ましくは0.5~3重量部であり、特に好ましくは、1.0~3重量部である。
【0021】
本発明の吸湿性樹脂組成物の製造方法は、貝殻焼成カルシウム(A)を高濃度で配合したペレット状のマスターバッチとして製造することが好ましい。マスターバッチは、貝殻焼成カルシウム(A)と熱可塑性樹脂(B)を溶融混練し、さらにペレット状に成形することで製造でき、貝殻焼成カルシウムの凝集及び、溶融混練前の吸湿を防ぐ観点から、貝殻焼成カルシウム(A)を熱可塑性樹脂(B)の表面に熱可塑性樹脂(B)とは異なる熱可塑性樹脂と共に90~140℃で物理的吸着させた後、溶融混錬して吸湿性抗菌樹脂組成物を得ることが好ましい。ここで、溶融混練前の物理的吸着方法は、高速せん断型混合機であるヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等が好ましい。貝殻焼成カルシウム(A)は、成形体が含む相当量を成形時に配合するよりも、一旦、マスターバッチとして吸湿性抗菌樹脂組成物中に予備分散した後に、希釈樹脂の熱可塑性樹脂と配合(溶融混錬)して所望の成形体を製造すると、貝殻焼成カルシウム(A)を成形体内に均一に分散しやすくなる。具体的には、マスターバッチは、熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して、貝殻焼成カルシウム(A)を20~120重量部配合することが好ましい。また、溶融混練は、例えば単軸混練押出機、二軸混練押出機、またはタンデム式二軸混練押出機等を用いるのが好ましい。また、溶融混錬温度は、熱可塑性樹脂(B)の種類により異なるが通常150~250℃程度である。
【0022】
本発明の吸湿性抗菌樹脂組成物は、貝殻焼成カルシウム(A)および熱可塑性樹脂(B)以外の任意成分として、酸化防止剤、光安定剤、分散剤等を含むことができる。
【0023】
本発明の吸湿性抗菌樹脂組成物は、フィルムまたはシート等の成形体として使用することができる。これら成形体はT-ダイフィルム成形機、インフレーションフィルム成形機、カレンダーロール成形機等を使用して成形できる。
【0024】
本発明の吸湿性抗菌樹脂組成物は、例えば、食品用フィルム、食品用袋、調理用手袋、医療用フィルムが好ましい。
【実施例
【0025】
次に、本発明を具体的に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下、部は重量部、%は重量%を意味する。
【0026】
また、貝殻焼成カルシウムの平均粒子径、および吸湿性の測定方法は、以下の通りである。
【0027】
<貝殻焼成カルシウムの平均粒子径>
平均粒子径は、走査電子顕微鏡の拡大画像千倍により、20個の粒子を平均したものである。また、貝殻焼成カルシウム(A)の粒子形状がアスペクト比(長径/短径)を有する場合の平均粒子径は、長径を平均した。
【0028】
<貝殻焼成カルシウムの吸湿性>
温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間を下記の方法で測定した。
温度23℃、湿度50%RH環境下で貝殻焼成カルシウムをシャーレ(φ100mm)に約3g薄く平らになるように秤量し、一定時間毎に重量を測定した。重量測定後、24時間たった時点で重量の変化が1.0%以下であった場合、平衡に達したものとした。
【0029】
実施例および比較例に用いる原料を以下に示す。貝殻焼成カルシウムの製造方法の例を以下に示すが、製造方法は、下記方法に限定されないことは言うまでも無い。
【0030】
[貝殻焼成カルシウムの製造例1]
貝殻を水洗いし乾燥させた後、粗粉砕装置を用いて粒径10mm程度の貝殻粗粉砕物を得た。次いで、貝殻粗粉砕物を陶製容器に充填し、焼成装置により1000℃で2時間焼成した後、焼成物を微粉砕装置により、平均粒子径5μmの貝殻焼成カルシウム(A-1)を得た。
【0031】
上記貝殻焼成カルシウム(A-1)の焼成条件を変更して貝殻焼成カルシウムを得、粉砕条件を変えることで、表1に示す平均粒子径を有する貝殻焼成カルシウム(A-2)~(A-8)を製造した。
【0032】
貝殻焼成カルシウムの平均粒子径および吸湿量が平衡に達するまでの時間を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
<熱可塑性樹脂>
(B-1)ポリエチレン(サンテックLD 2270 融点113℃、旭化成ケミカルズ
社製)
(B-2)ポリプロピレン(プライムポリプロ J226T 融点141℃、プライムポリマー社製)
(B-3)低分子量ポリオレフィン(ハイワックスNL800 融点103℃、三井化学社製)
(B-4)低分子量ポリオレフィン(ハイワックスNP056 融点132℃、三井化学社製)
【0035】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(B-1)60重量部と貝殻焼成カルシウム(A-1)40重量部とを別々の供給口から単軸押出機(池貝社製)に投入し、190℃で溶融混練した上で、ペレタイザーを使用してペレット状の吸湿性抗菌樹脂組成物(マスターバッチ)を得た。
【0036】
得られたマスターバッチ3.1重量部と熱可塑性樹脂(B-1)100重量部とを溶融混錬し、Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)を使用して温度210℃にてフィルム成形を行い、抗菌フィルムである成形体を得た。
【0037】
[実施例2~7]
実施例1の原料および配合量を表2に記載されたように変更した以外は、実施例1と同様に行うことで抗菌フィルムを得た。
【0038】
[実施例8]
熱可塑性樹脂(B-1)50重量部と熱可塑性樹脂(B-3)10重量部と貝殻焼成カルシウム(A-2)40重量部とを高速撹拌機にて105℃で5分間混合した後、得られた予備混合物を単軸押出機(池貝社製)に投入し190℃で溶融混練した後、ペレタイザーを使用してペレット状の吸湿性抗菌樹脂組成物(マスターバッチ)を得た。
【0039】
得られたマスターバッチ3重量部と熱可塑性樹脂(B-1)97重量部とを溶融混錬し、Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)を使用して温度210℃にてフィルム成形を行い、抗菌フィルムを得た。
【0040】
[実施例9~11]
実施例9~11の原料および配合量を表2に記載されたように変更した以外は、実施例8と同様にして、抗菌フィルムを得た。
【0041】
【表2】
【0042】
[比較例1~6]
実施例1の貝殻焼成カルシウム(A-1)、および熱可塑性樹脂(B)を、表3に記載した組成及び配合量(重量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、それぞれ比較例1~6の抗菌フィルムを得た。
【0043】
[比較例7]
貝殻焼成カルシウム(A-2)を予め水和させて、水酸化カルシウムにした貝殻焼成カルシウム(AC-1)とし、、表3に記載した組成及び配合量(重量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、抗菌フィルムを得た。
【0044】
[参考例1、2]
実施例1の貝殻焼成カルシウム(A-1)、および熱可塑性樹脂(B)を、表3に記載した組成及び配合量(重量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、それぞれ参考例1、2の抗菌フィルムを得た。
【0045】
[参考例3]
抗菌剤を使用せず、表3に記載した熱可塑性樹脂(B)のみで、Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)を使用して温度210℃にてフィルム成形を行い、フィルムを得た。
【0046】
【表3】
【0047】
得られた抗菌フィルムまたは吸湿性抗菌樹脂組成物を以下の基準で評価した。評価結果を表4に示す。
【0048】
<抗菌性>
得られた抗菌フィルムを用いてJIS Z 2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠して評価した。5cm角に切ったフィルム表面に試験菌液(黄色ぶどう球菌または大腸菌)を接種し、被覆フィルムをのせて密着させる。これを35℃で24時間保存し、検体1cm当たりの生菌数を測定した。
【0049】
<引張強度>
得られたマスターバッチを用いて210℃でプレスシートを作製し、プレスシートから2号ダンベル引張試験片を作製した(厚さ1mm)。その後、温度23℃、湿度50%RH環境下に24時間静置し、引張試験機で破断点強度を測定した。
比較として、それぞれ貝殻焼成カルシウム等を含有しない得られたマスターバッチと同じ樹脂のみの2号ダンベル引張試験片を作製し、破断点強度を測定した。なお、破断点強度は下記の基準で評価した。
保持率が高いほど、樹脂の劣化が少ないといえる。

◎:貝殻焼成カルシウムを配合していない熱可塑性樹脂のみの引張破断点強度と比較し、
保持率80%以上
○:貝殻焼成カルシウムを配合していない熱可塑性樹脂のみの引張破断点強度と比較し、
保持率70~80%未満
△:貝殻焼成カルシウムを配合していない熱可塑性樹脂のみの引張破断点強度と比較し、
保持率40~70%未満
×:貝殻焼成カルシウムを配合していない熱可塑性樹脂のみの引張破断点強度と比較し、
保持率40%未満
【0050】
<分散性>
吸湿性抗菌樹脂組成物を、貝殻焼成カルシウム量で1kgとなるように単軸押出機で通過させ、押出機での樹脂圧上昇により分散性を評価した。樹脂圧は単軸押出機先端に設置した金網(目開き130μm)に貝殻焼成カルシウムが付着することで上昇するため、樹脂圧上昇が少ないほど分散性が良好と判断でき、下記の基準で評価した。

◎:樹脂圧上昇が2MPa以下
○:樹脂圧上昇が2MPaを超え、5MPa以下
△:樹脂圧上昇が5MPaを超え、15MPa以下
×:樹脂圧上昇が15MPaを超える
【0051】
【表4】
【0052】
表4の結果より、実施例1~11は、全ての評価項目において優れた抗菌性、引張強度および分散性が得られた。本発明では、平均粒子径が3~20μmかつ温度23℃、湿度50%RH環境下で吸湿量が平衡に達するまでの時間が60~130時間である貝殻焼成カルシウムを用いることで、それ以外の酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム等と比較して抗菌性、引張強度及び分散性のいずれにも優れる結果が得られた。