(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】内燃機関のピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20220105BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20220105BHJP
F16J 1/09 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F02F3/00 Q
F02F3/00 S
F02F5/00 H
F02F5/00 B
F16J1/09
(21)【出願番号】P 2017179030
(22)【出願日】2017-09-19
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 慎司
(72)【発明者】
【氏名】桐村 宗孝
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-008640(JP,U)
【文献】実開平02-037249(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/0237775(US,A1)
【文献】特開2010-164030(JP,A)
【文献】特開2004-353545(JP,A)
【文献】実開平2-110244(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F02F 5/00
F16J 1/09
F16J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って環状に連続するリング溝と、前記リング溝に装着され、内燃機関のシリンダの内面に付着したオイルを掻き取るオイルリングと、前記オイルリングに掻き取られた前記オイルと未燃燃料とを誘導するドレン構造と、を備えた内燃機関のピストンであって、
前記ドレン構造は、
両端に開口を有し、一端が前記ピストンの裏面側に、他端が前記リング溝の溝底にそれぞれ開口するように前記ピストンを径方向に貫通する第1のドレン部と、
前記リング溝における前記ピストンの下死点寄りの溝壁に隣接し、前記ピストンの外周部から径方向に沿って窪んで構成され、前記ピストンの外周部と前記溝壁にそれぞれ開口する第2のドレン部と、を備え、
前記第1のドレン部の前記他端の開口は、前記溝底の範囲内に配置され、
前記第2のドレン部の前記ピストンの径方向の深さは、前記リング溝の前記ピストンの径方向の深さよりも浅く設定され
、
前記オイルリングは、前記シリンダの内面に付着したオイルを掻き取り、前記シリンダの内面の油膜を適正な状態に保つ油膜制御部材と、前記シリンダの内面に対する前記油膜制御部材の接触圧を調整する接触圧調整部材と、を備え、
前記ピストンの径方向において、前記第2のドレン部の最深部の位置は、前記ピストンと同心状に前記リング溝に装着された前記油膜制御部材の内周位置と一致している
ことを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記第1のドレン部の前記他端の開口と、前記第2のドレン部の前記ピストンの外周部に位置する開口とは、前記ピストンの周方向における位置がオフセットして配置されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記第1のドレン部の前記他端の開口と、前記第2のドレン部の前記ピストンの外周部に位置する開口とは、前記ピストンの周方向における位置が一致して配置されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記第2のドレン部の前記ピストンの外周部に位置する開口は、前記第1のドレン部の前記他端の開口よりも開口面積が大きい
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の内燃機関のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された内燃機関において、周方向に設けられた溝(リング溝)と、径方向に形成された孔(オイルドレン孔)を有するピストン構造が知られている(特許文献1参照)。例えば、ピストンには、3つのリング溝が形成され、各リング溝に1つずつ、3つのピストンリング(2つのコンプレッションリングと1つのオイルリング)が装着される。オイルドレン孔は、両端に開口を有する。一端側の開口は、ピストンの裏面側(内部空間)に開口し、他端側の開口は、オイルリングが装着されるオイルリング溝の底部に、あるいはオイルリング溝の底部および壁部を含んで開口する。
【0003】
例えば、ピストンが下降する吸気工程において、シリンダの内面(ライナ)に付着したエンジンオイル(以下、ライナ付着オイルという)は、オイルリングによって上方から下方へ掻き取られる。掻き取られたライナ付着オイルは、オイルドレン孔からピストンの裏面側(内部空間)に誘導されてオイルパンに戻される。これにより、ライナ付着オイルが燃焼室内へ流入することを抑制し、オイル消費量の低減が図られている。なお、ピストンは、燃焼(膨張)工程においても下降する。この場合、燃焼ガスが下方に向けて広がるため、掻き取られたライナ付着オイルは、下方に押され、燃焼室へ流入し難い状態となっている。
【0004】
また、燃焼室で燃焼されなかった未燃燃料は、ライナ付着オイルよりも粘度が低い。このため、未燃燃料がライナ付着オイルに混入すると、混入後のオイルの粘度が低下して、ピストンのフリクション悪化などを招き易い。したがって、吸気工程以外の圧縮、燃焼(膨張)、排気の各工程においては、未燃燃料を積極的にオイルドレン孔に誘導することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、オイルドレン孔を設けることにより、吸気工程においては、ライナ付着オイルをオイルドレン孔からピストンの裏面側(内部空間)に誘導することができる。特に、オイルドレン孔がオイルリング溝の底部および壁部を含んで構成されている場合、オイルリング溝におけるオイルリングの位置に関わらず、オイルドレン孔のオイルリング溝側の開口は、常に大きく開放された状態となる。したがって、吸気工程においてライナ付着オイルをより確実にピストンの裏面側へ誘導することが可能となる。しかしながらその一方で、圧縮、燃焼(膨張)、排気の各工程においては、オイルドレン孔のオイルリング溝側の開口によって、ピストンのスカート部とシリンダの内面との間(以下、摺動隙間という)への未燃燃料の浸入を助長させるという問題がある。
【0007】
本発明は、これを踏まえてなされたものであり、その目的は、吸気工程において、ライナ付着オイルをピストンの裏面側(内部空間)に誘導し、圧縮、燃焼(膨張)、排気の各工程において、未燃燃料をピストンの裏面側に誘導するとともに、ライナ付着オイルを摺動隙間に誘導することが可能な内燃機関のピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関のピストンは、周方向に沿って環状に連続するリング溝と、リング溝に装着され、内燃機関のシリンダの内面に付着したオイルを掻き取るオイルリングと、オイルリングに掻き取られたオイルと未燃燃料とを誘導するドレン構造とを備える。かかる内燃機関のピストンにおいて、ドレン構造は、両端に開口を有し、一端がピストンの裏面側に、他端がリング溝の溝底にそれぞれ開口するようにピストンを径方向に貫通する第1のドレン部と、リング溝におけるピストンの下死点寄りの溝壁に隣接し、ピストンの外周部から径方向に沿って窪んで構成され、ピストンの外周部と溝壁にそれぞれ開口する第2のドレン部とを備える。第1のドレン部の他端の開口は、溝底の範囲内に配置されている。第2のドレン部のピストンの径方向の深さは、リング溝のピストンの径方向の深さよりも浅く設定されている。
【0009】
オイルリングは、シリンダの内面に付着したオイルを掻き取り、シリンダの内面の油膜を適正な状態に保つ油膜制御部材と、シリンダの内面に対する油膜制御部材の接触圧を調整する接触圧調整部材とを備える。ピストンの径方向において、第2のドレン部の最深部の位置は、ピストンと同心状にリング溝に装着された油膜制御部材の内周位置と一致している。
【0010】
第1のドレン部の他端の開口と、第2のドレン部のピストンの外周部に位置する開口とは、ピストンの周方向における位置をオフセットさせて配置する。あるいは、第1のドレン部の他端の開口と、第2のドレン部のピストンの外周部に位置する開口とは、ピストンの周方向における位置を一致させて配置する。
【0011】
また、第2のドレン部のピストンの外周部に位置する開口は、第1のドレン部の他端の開口よりも開口面積を大きくすればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸気工程において、ライナ付着オイルをピストンの裏面側(内部空間)に誘導し、圧縮、燃焼(膨張)、排気の各工程において、未燃燃料をピストンの裏面側に誘導するとともに、ライナ付着オイルを摺動隙間に誘導することが可能な内燃機関のピストンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンの全体構成を示す模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンにおけるドレン構造について説明するための模式図(吸気工程)。
【
図3】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンにおけるドレン構造について説明するための模式図(圧縮工程、燃焼(膨張)工程、および排気工程)。
【
図6】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンのリング溝(第3のリング溝)における第1のドレン部と第2のドレン部の配置の第1例を示す模式図。
【
図7】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンのリング溝(第3のリング溝)における第1のドレン部と第2のドレン部の配置の第2例を示す模式図。
【
図8】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンのリング溝(第3のリング溝)における第1のドレン部と第2のドレン部の配置の第3例を示す模式図。
【
図9】本発明の実施形態に係る内燃機関のピストンのリング溝(第3のリング溝)における第1のドレン部と第2のドレン部の配置の第4例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る内燃機関のピストン(以下、単にピストンという)について、
図1から
図9を参照して説明する。
【0015】
図1には、ピストン1の全体構成を模式的に示す。ピストン1は、円筒状のシリンダ2において上死点と下死点の間を往復動する。以下の説明においては、ピストン1の往復動方向を上下方向とし、その上死点方を上、下死点方を下とする。ピストン1には、コネクティングロッド3の一端がピストンピン4を介して結合されている。コネクティングロッド3の他端は、クランク軸(図示省略)に連結されている。ピストン1が往復動すると、コネクティングロッド3を介してクランク軸が回転する。シリンダ2は、ピストン1の頂部1aとシリンダヘッド(図示省略)の下面部との間に燃焼室21を有している。
【0016】
図1に示すように、ピストン1の外周部1bには、周方向に沿って環状に連続するリング溝5が形成されている。リング溝5には、ピストンリング6が装着される。ピストンリング6は、ピストン1の熱をシリンダ2に逃がす排熱機能を有する。本実施形態において、ピストン1は、3つのリング溝5を有している。これらのリング溝5は、上(ピストン1の上死点寄り)から第1のリング溝5a、第2のリング溝5b、第3のリング溝5cの順で並んでいる。
【0017】
図2および
図3に示すように、第1のリング溝5aには、トップリング6a、第2のリング溝5bには、セカンドリング6bがそれぞれ装着されている。トップリング6aおよびセカンドリング6bは、いずれも燃焼室21を気密に保つ(ガスシール機能を果たす)コンプレッションリングである。トップリング6aおよびセカンドリング6bの素材や合口の有無などは、特に限定されない。例えば、トップリング6aは、合口を持った金属製の環状部材とすることができ、セカンドリング6bは、合口を持たない樹脂製の環状部材とすることができる。
【0018】
図2から
図5に示すように、第3のリング溝(オイルリング溝)5cには、オイルリング6cが装着されている。オイルリング6cは、シリンダ2の内面(ライナ)2aに付着したエンジンオイル(以下、ライナ付着オイルという)を掻き取り、油膜の状態を適正に保つ。第3のリング溝5cの溝高(上下方向の寸法)は、オイルリング6cの高さ(軸芯方向の寸法)よりも僅かに大きい。ピストン1と同心状に第3のリング溝5cにオイルリング6cが装着された状態で、該オイルリング6cの内径寸法は、第3のリング溝5cの溝底51cの径寸法よりも大きい。すなわち、このような装着状態では、オイルリング6cの内周部(具体的には、後述するスペーサエキスパンダ63cの内周部63d)と、第3のリング溝5cの溝底51cとの間には、空隙が生じている。また、かかるオイルリング6cの外径寸法は、シリンダ2の内径寸法と略同一とされている。
【0019】
本実施形態において、オイルリング6cは、3つの部材を組み付けて構成されている。オイルリング6cは、一対のサイドレール61c,62cと、これらの間に介在するスペーサエキスパンダ63cとを備えている。一対のサイドレール61c,62cは、ライナ付着オイルを掻き取り、シリンダ2の内面2aの油膜を適正な状態に保つ部材(油膜制御部材)である。一対のサイドレール61c,62cは、金属の薄板状に構成されるとともに、合口を持った環状に構成されている。スペーサエキスパンダ63cは、シリンダ2の内面2aに対するサイドレール61c,62cの接触圧を調整する部材(接触圧調整部材)である。スペーサエキスパンダ63cは、ピストン1の径方向に見て金属製の薄板が上下に波打ちながら、合口を持たずに環状に連続した構成とされている。スペーサエキスパンダ63cの内周部63dには、周方向に沿って上下互い違いに突起(以下、耳部という)64cが設けられている。
【0020】
一対のサイドレール61c,62cは、その内周部61d,62dを耳部64cに当接させてスペーサエキスパンダ63cの波打ち部65cの上下に1つずつ組み付けられている。耳部64cは、サイドレール61c,62cの内周部61d,62dを押圧して、これらの外周部61e,62eをシリンダ2の内面2aに、所望の接触圧で接触させる。
【0021】
なお、オイルリング6cは、上述したような構成(3ピースタイプ)には限定されない。例えば、2つの部材を組み付けた構成(2ピースタイプ)であってもよい。この場合一例として、レール本体(油膜制御部材)と、レール本体をシリンダ2の内面2aに押圧するコイルエキスパンダ(接触圧調整部材)とを備えてオイルリングを構成する。レール本体は、軸芯方向に沿った断面形状がM字を横倒し(内径側に90°回転)させた形態をなす。コイルエキスパンダは、軸芯方向に沿った断面形状が円環状となるように、金属線材をコイル状に巻いて構成されている。レール本体とコイルエキスパンダは、レール本体を外側、コイルエキスパンダを内側に位置付け、これらを互いに当接させて組み付けられている。コイルエキスパンダは、レール本体の内周部を押圧して、該レール本体の外周部をシリンダ2の内面2aに所望の接触圧で接触させる。
【0022】
ピストン1は、オイルリング6cに掻き取られたライナ付着オイルと、未燃燃料とを誘導するドレン構造10を備えている。未燃燃料は、燃焼室21で燃焼されなかった燃料である。
図2から
図9には、本実施形態に係るドレン構造10を示す。ドレン構造10は、掻き取られたライナ付着オイルをピストン1の裏面側(内部空間S1)、およびピストン1のスカート部1cとシリンダ2の内面2aとの間(以下、摺動隙間S2という)に誘導する。また、ドレン構造10は、未燃燃料を摺動隙間S2には誘導せず、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に誘導する。
【0023】
ドレン構造10は、第1のドレン部7と第2のドレン部8とを備えている。本実施形態において、ドレン構造10は、第1のドレン部7および第2のドレン部8をそれぞれ複数ずつ備えている。これらの第1のドレン部7および第2のドレン部8は、それぞれピストン1の周方向に沿って、所定間隔で並んで配置されている。第1のドレン部7の数と第2のドレン部8の数は、一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
第1のドレン部7は、両端に開口7a,7bを有する孔部(貫通孔)である。第1のドレン部7の一端は、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に開口している。第1のドレン部7の他端は、第3のリング溝5cの溝底51cに開口している。すなわち、第1のドレン部7は、ピストン1の裏面側(内部空間S1)と第3のリング溝5cとを連通させるように、ピストン1を径方向に貫通している。
【0025】
第1のドレン部7の開口7bは、溝底51cの範囲内に配置されている。すなわち、開口7bは、溝底51cにおけるピストン1の上死点寄りおよび下死点寄りのいずれの辺縁にも開口縁が及ばない(かからない)。
【0026】
第2のドレン部8は、一端に開放部8aを有し、他端が底8bによって閉塞された(行き止まった)穴部である。第2のドレン部8は、掻き取られたライナ付着オイルを一時的に貯留するプールとして機能する。第2のドレン部8は、第3のリング溝5cにおけるピストン1の下側(下死点寄り)の溝壁52cに隣接して配置されている。また、第2のドレン部8は、ピストン1の外周部1bから径方向に沿って窪んで構成されている。開放部8aは、ピストン1の外周部1bに位置する開口81aと、溝壁52cに位置する開口82aを有している。
【0027】
すなわち、第2のドレン部8は、ピストン1の外周部1bと溝壁52cにそれぞれ開口する。これにより、第2のドレン部8は、開口81aを通して摺動隙間S2と連通し、開口82aを通して(つまり溝壁52cの一部において)第3のリング溝5cと連通している。換言すれば、第2のドレン部8は、第1のドレン部7(端的には、その開口7b)と直接連通することなく、第3のリング溝5cを介して連通している。
【0028】
第2のドレン部8のピストン1の径方向の深さ(以下単に、第2のドレン部8の深さという)は、第3のリング溝5cのピストン1の径方向の深さ(以下単に、第3のリング溝5cの深さという)よりも浅く設定されている。すなわち、第2のドレン部8の底8bは、第3のリング溝5cの溝底51cよりも、ピストン1の径方向の外側に位置している。
【0029】
本実施形態では一例として、ピストン1の径方向において、第2のドレン部8の底8b(ピストン1の径方向における最深部)の位置は、ピストン1と同心状に第3のリング溝5cに装着されたオイルリング6cの下側(下死点寄り)のサイドレール62c(油膜制御部材)の内周位置と一致している。すなわち、本実施形態において、第2のドレン部8の底8bの径寸法は、下側のサイドレール62cの内径寸法と同一に設定されている。
【0030】
第2のドレン部8の深さが第3のリング溝5cの深さよりも浅ければよいので、第2のドレン部8の底8bの位置は、ピストン1と同心状をなす下側サイドレール62cの内周位置よりも、ピストン1の径方向の外側にあってもよい。要するに、底8bの径寸法は、下側サイドレール62cの内径寸法以上であればよい。ただし、第2のドレン部8の底8bの位置は、後述する凹部9の底9aのピストン1の径方向における位置よりも、ピストン1の径方向の内側とする。
【0031】
掻き取られたライナ付着オイルのプールとしての機能を最大限に持たせるためには、第2のドレン部8の底8bの位置を下側サイドレール62cの内周位置と一致させることが望ましい。またこれにより、後述する吸気工程において、下側のサイドレール62cによって掻き取られて第2のドレン部8に貯留させたライナ付着オイルを第3のリング溝5cに誘導させる際、ボトルネックとなる部分を最小限に止めることができる。
【0032】
なお、オイルリング6cが2ピースタイプであれば、第2のドレン部8の底8bの位置は、ピストン1と同心状に第3のリング溝5cに装着されたレール本体の内周位置と一致させるか、それよりもピストン1の径方向の外側とすればよい。
【0033】
第1のドレン部7の開口7b(他端の開口)と、第2のドレン部8のピストン1の外周部に位置する開口81aとは、
図6から
図8に示す第1例から第3例のように、ピストン1の周方向における位置がオフセットして配置されている。このようにオフセットさせることで、次のような作用効果が得られる。すなわち、オイルリング6cの近傍において、サイドレール61c,62cによって掻き取られたライナ付着オイルと未燃燃料とが混合して高温にさらされると、これらに含まれるカーボンがスラッジ化しやすい。このため、カーボンを掻き取られたライナ付着オイルによって洗い流す観点から、該オイルを第3のリング溝5cの周方向に沿って積極的に誘導しやすいオフセット配置とすることが好ましい。ただし、開口7b,81aは、オフセットさせることなく、
図9に示す第4例のように、ピストン1の周方向における位置を一致させて配置させることも可能である。
【0034】
第1のドレン部7の開口7b(他端の開口)および第2のドレン部8のピストン1の外周部に位置する開口81aの各形状は、特に限定されない。例えば、
図6から
図9に示す第1例から第4例のような形状を任意に採用できる。第1例から第4例において、開口81aは、開口7bよりも開口面積を大きく設定している(
図6から
図9参照)。
【0035】
また、本実施形態において、ピストン1の外周部1bには、周方向に沿って連続する凹部9が設けられている。凹部9は、ピストン1の外周部1bを全周に亘って径方向に窪ませて構成されている。凹部9は、第3のリング溝5cの下縁(下側の溝壁52cの縁)に隣接して配置されている。凹部9は、掻き取られたライナ付着オイルを一時的に退避させる油路として機能する。第2のドレン部8は、凹部9の底9aからピストン1の径方向に沿って窪んでいる。凹部9の底9aは、ピストン1の径方向における凹部9の内端部である。ピストン1の径方向における凹部9の深さは、第2のドレン部8の深さよりも浅く設定されている。なお、凹部9は、省略しても構わない。
【0036】
次に、本実施形態におけるドレン構造10の作用について、
図2から
図5を参照して説明する。
図2には、内燃機関の吸気工程におけるドレン構造10の作用について示す。
図3には、内燃機関の圧縮工程、燃焼(膨張)工程、および排気工程におけるドレン構造10の作用について示す。
図4は、
図2に示すドレン構造10を拡大して示す図、
図5は、
図3に示すドレン構造10を拡大して示す図である。
【0037】
図2および
図4に示す吸気工程について説明する。吸気工程においては、ピストン1の下降により、オイルリング6cの上側のサイドレール61cは、第3のリング溝5cの上側の溝壁53cに接触する。一方、オイルリング6cの下側のサイドレール62cは、第3のリング溝5cの下側の溝壁52cから離れる。
【0038】
ピストン1の下降によって、ライナ付着オイルは、オイルリング6cのサイドレール61c,62cによって上方から下方へ掻き取られる。オイルリング6cの上側のサイドレール61cによって掻き取られたオイルは、下側のサイドレール62cによって堰き止められる。堰き止められたオイルは、第3のリング溝5cにおいて、スペーサエキスパンダ63cの波打ち部65cから第1のドレン部7に誘導され、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入する(
図2に示す矢印A1)。
【0039】
また、下側のサイドレール62cによって掻き取られたオイルは、第2のドレン部8に貯留される(
図2示す矢印A2)。この時、下側のサイドレール62cには、第2のドレン部8に貯留されたライナ付着オイルによる油圧が上方へ向けて作用する。したがって、ピストン1の下降によって下側のサイドレール62cに作用するモーメント荷重は、第2のドレン部8を有しない場合と比べ、かかる油圧の分だけ低減される。このため、下側のサイドレール62cは、傾くことなく、ピストン1の径方向に沿った一定の姿勢を保つ。なお、第2のドレン部8がない場合、ピストン1の下降時(吸気工程時)、下側のサイドレール62cには、内周部62dを下降させ、外周部62eを上昇させるようなモーメント荷重が作用する。
【0040】
本実施形態では、下側のサイドレール62cが第3のリング溝5cの下側の溝壁52cから離れ、第2のドレン部8に貯留されたオイルは、第2のドレン部8から第3のリング溝5cに誘導される。第3のリング溝5cに誘導されたオイルは、さらに第1のドレン部7に誘導され、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入する(
図2に示す矢印A3)。
【0041】
ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入したオイルは、クランクルーム(図示省略)からオイルパン(図示省略)に戻される。
【0042】
図3および
図5に示す圧縮工程、燃焼(膨張)工程、および排気工程について説明する。これらの工程においては、オイルリング6cの上側のサイドレール61cは、第3のリング溝5cの上側の溝壁53cから離れる。また、これらの工程において、燃焼室21の未燃燃料は、オイルリング6cの上側のサイドレール61cによって堰き止められる。堰き止められた未燃燃料は、上側のサイドレール61cと第3のリング溝5cの上側の溝壁53cとの隙間から第3のリング溝5cに誘導される。第3のリング溝5cに誘導された未燃燃料は、さらに第1のドレン部7に誘導され、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入する。ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入した未燃燃料は、クランクルームからオイルパンに落ちる(
図3に示す矢印A4)。
【0043】
特に、圧縮工程においては、ピストン1の上昇に伴って上側のサイドレール61cにモーメント荷重が大きく作用する。この時、上側のサイドレール61cは、モーメント荷重によって内周部61dが上昇し、外周部61eが下降するように傾いた状態(
図3および
図5に破線で示す状態)となる。これに対し、下側のサイドレール62cは、スペーサエキスパンダ63cと第3のリング溝5cの溝壁52cとの間に挟み込まれた状態となる。この状態では、下側のサイドレール62cは、上側のサイドレール61cのように傾くことはなく、溝壁52cと密着した状態となる。
【0044】
ここで、本実施形態では、第2のドレン部8を設けているため、ピストン1の径方向における凹部9の深さを浅く(小さく)しても、下側のサイドレール62cによって掻き取られたライナ付着オイルを第2のドレン部8に貯留させることができる。したがって、凹部9を浅くした分だけ、下側のサイドレール62cに作用するモーメント荷重の支点をピストン1の径方向の外側へ移動させることが可能となる。この結果、下側のサイドレール62cの姿勢をピストン1の径方向に沿って安定させることができる。
【0045】
上側のサイドレール61cが傾くと、未燃燃料は、上側のサイドレール61cとシリンダ2の内面2aとの隙間をすり抜ける。未燃燃料がかかる隙間をすり抜けた場合であっても、当該未燃燃料は、下側のサイドレール62cによって堰き止められる。堰き止められた未燃燃料は、第3のリング溝5cにおいて、スペーサエキスパンダ63cの波打ち部65cから第1のドレン部7に誘導され、ピストン1の裏面側(内部空間S1)に流入する(
図3に示す矢印A4)。
【0046】
また、圧縮工程、燃焼(膨張)工程、および排気工程において、オイルリング6cの下側のサイドレール62cは、燃焼室21の混合気や燃焼ガスに押圧されて、第3のリング溝5cの下側の溝壁52cに接触する。したがって、下側のサイドレール62cによって掻き取られたライナ付着オイルは、第2のドレン部8に貯留されて、摺動隙間S2(ピストン1のスカート部1cとシリンダ2の内面2aとの間)に誘導される(
図3に示す矢印A5)。摺動隙間S2に誘導されたオイルは、シリンダ2の内面2aおよびピストン1のスカート部1cを伝って、クランクルームからオイルパンに戻される(
図3に示す矢印A6)。なお、本実施形態において、掻き取られたライナ付着オイルは、第2のドレン部8に加えて、凹部9にも貯留されて摺動隙間S2に誘導される。
【0047】
このように、本実施形態によれば、吸気工程において、オイルリング6cに掻き取られたライナ付着オイルをピストン1の裏面側(内部空間S1)に誘導することができる。また、圧縮、燃焼(膨張)、排気の各工程においては、未燃燃料をピストン1の裏面側(内部空間S1)に誘導するとともに、オイルリング6cに掻き取られたライナ付着オイルを摺動隙間S2に誘導することができる。
【0048】
これにより、オイルリング6cに掻き取られたライナ付着オイルが燃焼室21内へ流入することを確実に抑制し、オイル消費量の低減を図ることができる。また、摺動隙間S2への未燃燃料の浸入を抑制することができる。このため、例えば未燃燃料がライナ付着オイルに混入してオイルの粘度が低下し、ピストン1のフリクション悪化などを生じさせることを有効に回避することができる。その一方で、オイルリング6cに掻き取られたライナ付着オイルを摺動隙間S2に誘導することができるので、ピストン1の潤滑状態を適正に維持することができる。
【0049】
上述した実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0050】
一例として、第1のドレン部7の開口7bおよび第2のドレン部8(開放部8a)の開口81aの形態は、次のような観点で設定すればよい。例えば、上述した作用効果のうち、ピストン1の裏面側(内部空間S1)への未燃燃料の誘導を重視する場合には、第1のドレン部7の開口7bに対して、第2のドレン部8(開放部8a)の開口81aをより大きく開口させる。
図6から
図9に示す第1例から第4例は、このような観点による形態例である。これに対し、ピストン1の裏面側(内部空間S1)へのライナ付着オイルの誘導を重視する場合には、第2のドレン部8(開放部8a)に対して、第1のドレン部7の開口7bをより大きく開口させればよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ピストン、1a…頂部、1b…外周部、1c…スカート部、2…シリンダ、2a…ライナ、5…リング溝、5a…第1のリング溝、5b…第2のリング溝、5c…第3のリング溝、6…ピストンリング、6a…トップリング、6b…セカンドリング、6c…オイルリング、7…第1のドレン部、7a,7b…第1のドレン部の開口、8…第2のドレン部、8a…第2のドレン部の開放部、8b…第2のドレン部の底、9…凹部、9a…凹部の底、10…ドレン構造、21…燃焼室、51c…溝底、52c…下側の溝壁、53c…上側の溝壁、61c…上側のサイドレール、62c…下側のサイドレール、63c…スペーサエキスパンダ、64c…耳部、65c…波打ち部、81a,81b…開放部の開口、S1…内部空間、S2…摺動隙間。