(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】基地局装置、送信方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 4/10 20090101AFI20220105BHJP
H04W 92/14 20090101ALI20220105BHJP
【FI】
H04W4/10
H04W92/14
(21)【出願番号】P 2017185013
(22)【出願日】2017-09-26
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】下島野 英雄
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 一郎
【審査官】玉木 宏治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/070665(WO,A3)
【文献】米国特許出願公開第2014/0273916(US,A1)
【文献】特開2006-295962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置から第1データを取得する第1取得部と、
制御装置から第2データを取得する第2取得部と、
前記第1取得部において取得した第1データの品質と、前記第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、
前記判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、
を備え
、
前記第2取得部は、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数のデータの中から、制御装置によって、最も品質が高いデータとして選択されたデータを第2データとして取得することを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
端末装置から第1データを取得する第1取得部と、
制御装置から第2データを取得する第2取得部と、
前記第1取得部において取得した第1データの品質と、前記第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、
前記判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、
を備え
、
前記第1取得部は、複数の第1データを取得し、複数の第1データのそれぞれには、端末装置から受信した時刻を示す時刻情報が含まれており、
前記第2取得部において取得した第2データは、時刻情報を含み、
前記判定部は、第1データに含まれる時刻情報と、第2データに含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、第1データの品質と第2データの品質とを比較することを特徴とする基地局装置。
【請求項3】
端末装置から第1データを取得する第1取得部と、
制御装置から第2データを取得する第2取得部と、
前記第1取得部において取得した第1データの品質と、前記第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、
前記判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、
を備え
、
前記送信部は、第2データを送信する際の送信電力よりも、第1データを送信する際の送信電力を小さくすることを特徴とする基地局装置。
【請求項4】
端末装置から第1データを取得する
第1取得ステップと、
制御装置から第2データを取得する
第2取得ステップと、
取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する
比較ステップと、
比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する
送信ステップと、
を含
み、
前記第2取得ステップは、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数のデータの中から、制御装置によって、最も品質が高いデータとして選択されたデータを第2データとして取得することを特徴とする送信方法。
【請求項5】
端末装置から第1データを取得する
第1取得ステップと、
制御装置から第2データを取得する
第2取得ステップと、
取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する
比較ステップと、
比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する
送信ステップと、
を含
み、
前記第1取得ステップは、複数の第1データを取得し、複数の第1データのそれぞれには、端末装置から受信した時刻を示す時刻情報が含まれており、
前記第2取得ステップにおいて取得した第2データは、時刻情報を含み、
前記比較ステップは、第1データに含まれる時刻情報と、第2データに含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、第1データの品質と第2データの品質とを比較することを特徴とする送信方法。
【請求項6】
端末装置から第1データを取得する
第1取得ステップと、
制御装置から第2データを取得する
第2取得ステップと、
取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する
比較ステップと、
比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する
送信ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム
であって、
前記第2取得ステップは、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数のデータの中から、制御装置によって、最も品質が高いデータとして選択されたデータを第2データとして取得することを特徴とするプログラム。
【請求項7】
端末装置から第1データを取得する
第1取得ステップと、
制御装置から第2データを取得する
第2取得ステップと、
取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する
比較ステップと、
比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する
送信ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム
であって、
前記第1取得ステップは、複数の第1データを取得し、複数の第1データのそれぞれには、端末装置から受信した時刻を示す時刻情報が含まれており、
前記第2取得ステップにおいて取得した第2データは、時刻情報を含み、
前記比較ステップは、第1データに含まれる時刻情報と、第2データに含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、第1データの品質と第2データの品質とを比較することを特徴とするプログラム。
【請求項8】
端末装置から第1データを取得する
第1取得ステップと、
制御装置から第2データを取得する
第2取得ステップと、
取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する
比較ステップと、
比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する
送信ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム
であって、
前記送信ステップは、第2データを送信する際の送信電力よりも、第1データを送信する際の送信電力を小さくすることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信技術に関し、特にデータを送信する基地局装置、送信方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムにおけるすべての基地局装置を共通の周波数で運用することがある。1つの端末装置から送信されたパケット信号を複数の基地局装置で受信した場合、各基地局装置の上位に接続された制御局は、複数の基地局装置から送られたパケット信号の中から品質の高いパケットを選択して、ネットワークに伝送する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような処理では、基地局装置間での事前の測定結果に基づいた処理が実行される。しかしながら、従来技術においては、基地局装置と制御局との間のネットワークの遅延を考慮していない。例えば、基地局装置がIP(Internet Protocol)ネットワークに接続される場合、IPネットワークでは、リアルタイムかつ定量的な予測、測定が困難な遅延が発生する。ある基地局装置から送られたパケット信号の品質が良くても、大幅なネットワーク遅延が発生すると、そのデータが制御局まで届くのが遅れ、制御局での選択対象にならない場合がある。このような場合、制御局が最良の品質のパケットを選択できない可能性があり、通信品質が低下する可能性があった。このようなリアルタイムかつ定量的な予測、測定が困難な遅延が発生する場合であっても、その遅延の影響を抑制することが求められる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、予期せぬ遅延が発生する場合でも通信品質に与える遅延の影響を低減する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の基地局装置は、端末装置から第1データを取得する第1取得部と、制御装置から第2データを取得する第2取得部と、第1取得部において取得した第1データの品質と、第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、を備える。第2取得部は、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数のデータの中から、制御装置によって、最も品質が高いデータとして選択されたデータを第2データとして取得する。
本発明の別の態様もまた、基地局装置である。この装置は、端末装置から第1データを取得する第1取得部と、制御装置から第2データを取得する第2取得部と、第1取得部において取得した第1データの品質と、第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、を備える。第1取得部は、複数の第1データを取得し、複数の第1データのそれぞれには、端末装置から受信した時刻を示す時刻情報が含まれており、第2取得部において取得した第2データは、時刻情報を含み、判定部は、第1データに含まれる時刻情報と、第2データに含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、第1データの品質と第2データの品質とを比較する。
本発明のさらに別の態様もまた、基地局装置である。この装置は、端末装置から第1データを取得する第1取得部と、制御装置から第2データを取得する第2取得部と、第1取得部において取得した第1データの品質と、第2取得部において取得した第2データの品質とを比較する判定部と、判定部の比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信部と、を備える。送信部は、第2データを送信する際の送信電力よりも、第1データを送信する際の送信電力を小さくする。
【0007】
本発明の別の態様は、送信方法である。この方法は、端末装置から第1データを取得する第1取得ステップと、制御装置から第2データを取得する第2取得ステップと、取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する比較ステップと、比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信ステップと、を含む。第2取得ステップは、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数のデータの中から、制御装置によって、最も品質が高いデータとして選択されたデータを第2データとして取得する。
本発明の別の態様もまた、送信方法である。この方法は、端末装置から第1データを取得する第1取得ステップと、制御装置から第2データを取得する第2取得ステップと、取得した第1データの品質と、取得した第2データの品質とを比較する比較ステップと、比較結果をもとに、第1データおよび第2データのうち、品質が高い方の少なくとも一部を送信する送信ステップと、を含む。第1取得ステップは、複数の第1データを取得し、複数の第1データのそれぞれには、端末装置から受信した時刻を示す時刻情報が含まれており、第2取得ステップにおいて取得した第2データは、時刻情報を含み、比較ステップは、第1データに含まれる時刻情報と、第2データに含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、第1データの品質と第2データの品質とを比較する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予期せぬ遅延が発生する場合でも通信品質に与える遅延の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例に係る通信システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の通信システムによる処理の概要を示す図である。
【
図3】
図1の通信システムによる送信処理の概要を示す図である。
【
図4】
図1の通信システムにおいてIPネットワークの遅延が発生した場合に想定される処理の概要を示す図である。
【
図6】
図5の第1取得部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図7】
図5の通信部から送信されるパケット信号のデータ構造を示す図である。
【
図9】
図8のパケット信号バッファ部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図10】
図8の通信部から送信されるパケット信号のデータ構造を示す図である。
【
図11】
図5の第2取得部に記憶されるデータのデータ構造を示す図である。
【
図12】
図5の基地局装置による送信処理を示すフローチャートである。
【
図13】
図1の通信システムにおける通信エリアの配置を示す図である。
【
図14】
図5の判定部に記憶される送信電力設定テーブルのデータ構造を示す図である。
【
図15】
図14の場合における通信エリアの配置を示す図である。
【
図16】実施例に係る基地局装置情報制御装置に記憶される別の送信電力設定テーブルのデータ構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。本発明の実施例は、基地局装置を介して互いに通信する複数の端末装置が含まれる通信システムに関する。本通信システムは、例えば、業務用無線システムに対応する。また、端末装置から基地局装置に向かう上りリンクの周波数(以下、「上り周波数」という)と、基地局装置から端末装置に向かう下りリンクの周波数(以下、「下り周波数」という)とは異なる。なお、上り周波数は、基地局装置における受信周波数に相当し、下り周波数は、基地局装置における送信周波数に相当する。一方、複数の基地局装置のそれぞれにおける上り周波数は同一であり、複数の基地局装置のそれぞれにおける下り周波数も同一である。以下では、1つの上り周波数と1つの下り周波数との組合せを「チャネル」ということもあるが、上り周波数または下り周波数の一方を「チャネル」ということもある。複数の基地局装置は制御装置に接続されており、制御装置は、各基地局装置を制御するとともに、基地局装置が端末装置からの発呼情報(送信情報)を受信した場合に、複数の基地局装置に、受信した発呼情報を転送する。これは、複数の基地局装置をまたいで、サイマルキャスト通信が実行されることに相当する。
【0012】
1つの端末装置は、音声情報が含まれた発呼情報を送信する。発呼情報を受信した複数の基地局装置のそれぞれは、発呼情報をIPパケット化することによってパケット信号を生成し、IPネットワークを介してパケット信号を制御装置に送信する。その際、基地局装置は、受信した発呼情報の品質に関する情報(以下、「品質情報」という)もパケット信号に格納する。制御装置は、複数の基地局装置のそれぞれから受信したパケット信号における品質情報を比較し、最高の品質情報が含まれたパケット信号の発呼情報を選択する。制御装置は、選択した発呼情報を複数の基地局装置のそれぞれが送信すべき時刻に関する情報(以下、「送信時刻」という)と発呼情報とが含まれたパケット信号を生成する。制御装置は、IPネットワークを介して、複数の基地局装置にパケット信号を送信する。複数の基地局装置は、パケット信号を受信すると、パケット信号に含まれた送信時刻が到来した場合に発呼情報を送信する。複数の端末装置は、発呼情報を受信して、音声を再生する。1つの端末装置を使用するユーザの発話が続く限り、このような処理は定期的に繰り返して続けられる。
【0013】
複数の基地局装置のそれぞれから制御装置への経路のうちの1つにおいて遅延が発生した場合、1つの基地局装置からのパケット信号の受信が、制御装置における発呼情報の選択に間に合わないこともある。その際、制御装置は、残りのパケット信号のうちの1つに含まれた発呼情報を選択して、前述の処理を実行する。当該1つの基地局装置は、制御装置からのパケット信号を受信すると、パケット信号に含まれた発呼情報を送信するが、パケット信号に含まれた発呼情報の品質よりも、受信した発呼情報の品質の方が高い場合がある。つまり、受信した発呼情報の品質よりも低い品質の発呼情報を送信する状況が発生する。
【0014】
本実施例では、IPネットワークの遅延によって1つの基地局装置からのパケット信号が制御装置に正常に受信されなかった場合に備えて、可能な範囲で基地局装置が最も品質の高い発呼情報を送信可能となる手段が設けられる。各基地局装置は、制御装置に送信すべきパケット信号に含まれる発呼情報をバッファに記憶する。また、各基地局装置は、記憶した発呼情報の品質と、制御装置からのパケット信号に含まれる発呼情報の品質とを比較し、前者の方が後者よりも高ければ、記憶した発呼情報を送信する。
【0015】
図1は、通信システム100の構成を示す。通信システム100は、IPネットワーク10、制御装置12、基地局装置14と総称される第1基地局装置14a、第2基地局装置14b、第3基地局装置14c、端末装置16と総称される第1端末装置16a、第2端末装置16b、第3端末装置16c、同期制御用基準装置20と総称される第1同期制御用基準装置20a、第2同期制御用基準装置20b、第3同期制御用基準装置20c、第4同期制御用基準装置20dを含む。ここで、通信システム100に含まれる基地局装置14の数は「3」に限定されず、端末装置16の数は「3」に限定されず、それらより多くてもよく、それらよりも少なくてもよい。
【0016】
複数の端末装置16、複数の基地局装置14は、前述のごとく、業務用無線システムに対応しており、各端末装置16は、1つ以上の基地局装置14を介して、音声通信を実行する。各端末装置16はPTT(Push To Talk)ボタンを備え、PTTボタンが押し下げられた端末装置16はユーザの音声を発呼情報として基地局装置14に送信する。複数の基地局装置14は、端末装置16からの発呼情報を受信すると、発呼情報が含まれたパケット信号を生成し、パケット信号をIPネットワーク10を介して制御装置12に送信する。その際、複数の基地局装置14は、発呼情報の品質として、受信感度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)、発呼情報のエラー率などを測定し、測定結果である品質情報もパケット信号に含める。
【0017】
制御装置12は、複数の基地局装置14からのパケット信号を受信し、各パケット信号に含まれた品質情報をもとに、最高の品質情報を含んだパケット信号の発呼情報を選択する。また、制御装置12は、選択された発呼情報に対する送信時刻を生成し、送信時刻と発呼情報とが含まれたパケット信号を、IPネットワーク10を介して複数の基地局装置14に送信する。ここで、制御装置12には、第4同期制御用基準装置20dが接続されており、第4同期制御用基準装置20dは、例えば、高精度NTP(Network Time Protocol)サーバ、GPS(Global Positioning System)受信装置である。第4同期制御用基準装置20dは、基準となる時刻(以下、「基準時刻」という)を生成し、制御装置12は、基準時刻をもとに送信時刻を生成する。
【0018】
複数の基地局装置14は、パケット信号を受信すると、パケット信号から送信時刻と発呼情報とを抽出する。各基地局装置14にも同期制御用基準装置20が接続されており、基地局装置14は、同期制御用基準装置20から取得した基準時刻が送信時刻を経過した場合に、発呼情報を送信する。ここで、第1同期制御用基準装置20aから第4同期制御用基準装置20dは、同期されているので、第1基地局装置14aから第3基地局装置14cは、発呼情報を同一のタイミングで送信する。そのため、通信システム100は、サイマルキャストシステムであるといえる。端末装置16は、基地局装置14からの発呼情報を受信する。
【0019】
図2は、通信システム100による処理の概要を示す。第1基地局装置14aから第3基地局装置14cからIPネットワーク10経由で制御装置12に送信されるパケット信号には発呼情報と、基地局装置14が端末装置16から発呼情報を受信した通話受信時刻が含まれる。制御装置12は各基地局装置14から受信したパケット信号をバッファに保存し、パケット信号内の通話受信時刻が数ミリsecの一定期間内に含まれるパケット信号のそれぞれに、同一の発呼情報が含まれていると見なす。制御装置12は、同一の発呼情報であると見なされた複数の発呼情報のうち、最も品質の高い発呼情報を選択する。
【0020】
制御装置12は、選択した発呼情報と、送信時刻とが含まれたパケット信号を生成し、パケット信号をIPネットワーク10経由で第1基地局装置14aから第3基地局装置14cに送信する。この送信時刻は、すべての基地局装置14において送信タイミングを一致させる目的で設定されるので、すべての基地局装置14に対して同じ値とされる。また、送信時刻は、IPネットワーク10の遅延時間を考慮した値とされる。
【0021】
図3は、通信システム100による送信処理の概要を示す。制御装置12は、パケット信号Nからパケット信号N+5を一定間隔で基地局装置14に送信する。基地局装置14は、各バッファに格納した後、パケット信号に含まれた送信時刻を抽出するとともに、同期制御用基準装置20から得られる基準時刻が送信時刻に到来した場合に、発呼情報を送信する。そのため、パケット信号Nからパケット信号N+5のそれぞれに含まれた発呼情報Nから発呼情報N+5が一定間隔で送信される。
【0022】
図4は、通信システム100においてIPネットワークの遅延が発生した場合に想定される処理の概要を示す。前述のごとく、IPネットワーク10では、予期できないネットワーク遅延が性質上発生する場合がある。このネットワーク遅延は回線の設置状態(ベストエフォート/ギャランティ等)やトラヒックの使用状況に左右され、定量的に予測することが極めて困難である。そのため、各基地局装置14が制御装置12へパケット信号を送信した後に予期せぬネットワーク遅延が発生した場合、制御装置12が正常にパケット信号を受信できない状態となる。第3基地局装置14cから送信されたパケット信号は、ネットワーク遅延により一定期間内に制御装置12に到着しない状態になっている。そのため、制御装置12における発呼情報の品質評価は、第1基地局装置14aおよび第2基地局装置14bからのパケット信号のみが対象となる。
【0023】
ここで、各基地局装置14が端末装置16より受信した発呼情報の品質が、第3基地局装置14cにおいて最も高く、第1基地局装置14aにおいて最も低い場合を想定する。しかしながら、第3基地局装置14cからの発呼情報は評価の対象にならないので、第3基地局装置14cからの発呼情報の品質が最も高いにもかかわらず、各基地局装置14には第2基地局装置14bからの発呼情報が配信される。その結果、各基地局装置14は品質が最高でない発呼情報を送信する。
【0024】
これに対応するための本実施例を説明するが、ここでは処理の時系列にしたがって、(1)基地局装置14での受信処理、(2)制御装置12での選択処理、(3)基地局装置14での送信処理の順に説明する。
【0025】
(1)基地局装置14での受信処理
図5は、基地局装置14の構成を示す。基地局装置14は、無線受信部30、第1取得部32、判定部34、通信部36、第2取得部38、検出部40、制御部42、無線送信部44を含む。検出部40は、
図1の同期制御用基準装置20に接続され、同期制御用基準装置20から基準時刻を順次取得する。無線受信部30は、業務用無線システムに対応した受信処理を実行することによって、端末装置16からの信号を受信する。ここで、無線受信部30は、1つの端末装置16からの発呼情報を受信すると、検出部40から基準時刻を通話受信時刻として取得する。発呼情報には音声情報が含まれる。また、無線受信部30は、通話受信時刻と発呼情報とを含むようにパケット信号を生成する。ここで、パケット信号は、例えば100ミリsec単位で生成される。無線受信部30は、パケット信号を第1取得部32に出力する。
【0026】
判定部34は、第1取得部32が受けつけたパケット信号に含まれた発呼情報の品質を判定する。前述のごとく、発呼情報の品質を示す指標としてRSSI、エラー率等が用いられる。判定部34は、測定結果を品質情報として第1取得部32に出力する。第1取得部32は、パケット信号を無線受信部30から取得するとともに、当該パケット信号に含まれた発呼情報の品質情報を判定部34から取得する。第1取得部32は、品質情報もパケット信号に含めてから、パケット信号を記憶する。そのため、第1取得部32は、送信パケット信号バッファ部ともいえる。
【0027】
図6は、第1取得部32に記憶されるデータのデータ構造を示す。通話受信時刻は端末装置16からの発呼情報を受信した時刻情報を示し、データ領域には端末装置16からの発呼情報および品質情報が記録される。第1取得部32は、一定数(例として5)のパケット信号を格納可能であり、バッファ数が上限に達している状態で新たにパケット信号を追記する場合、通話受信時刻が古いパケット信号から順に削除する。ここでは、通話受信時刻が「10:10:32:502」のパケット信号が新たに追記された場合、通話受信時刻が「10:10:32:002」であるNo.01のパケット信号が削除される。
図5に戻る。
【0028】
第1取得部32は追記されたパケット信号を通信部36に出力する。通信部36は、第1取得部32からのパケット信号を受けつける。通信部36は、
図1のIPネットワーク10に接続されており、IPネットワーク10経由で制御装置12にパケット信号を送信する。このような送信処理を実行する通信部36は送信部であるともいえる。
図7は、通信部36から送信されるパケット信号のデータ構造を示す。図示のごとく、通話受信時刻、発呼情報、品質情報が含まれる。
図5における他の構成要素の説明は後述する。
【0029】
(2)制御装置12での選択処理
図8は、制御装置12の構成を示す。制御装置12は、通信部50、パケット信号バッファ部52、判定部54、検出部56、パケット信号配信部58を含む。通信部50は、図示しないIPネットワーク10に接続されており、IPネットワーク10を介して、各基地局装置14からのパケット信号を受信する。通信部50は、パケット信号をパケット信号バッファ部52に出力する。
【0030】
検出部56は、
図1の同期制御用基準装置20に接続され、同期制御用基準装置20から基準時刻を順次取得する。パケット信号バッファ部52は、通信部50からパケット信号を受けつけるとともに、パケット信号を受けつけた基準時刻を検出部56から受けつける。パケット信号バッファ部52は、通信部50から受けつけたパケット信号を記憶する。
図9は、パケット信号バッファ部52に記憶されるデータのデータ構造を示す。送信元基地局装置名にはパケット信号を送信した基地局装置14の名称が記憶され、パケット信号受信時刻には制御装置12がパケット信号を受信した時刻が示され、通話受信時刻およびデータ領域にはパケット信号の内容がそのまま記録される。
図8に戻る。
【0031】
パケット信号配信部58は、パケット信号バッファ部52に記憶されたパケット信号内の通話受信時刻を参照し、以前受信した発呼情報とは同一でない発呼情報のパケット信号(新規の発呼情報のパケット信号)を特定する。新たに受信したパケット信号の通話受信時刻と、過去に受信したパケット信号の通話受信時刻との時間差が、所定値以下である場合に、新規の発呼情報と判定する。例えば、この所定値を5ミリsecとする。
図9の場合、No.03のパケット信号の通話受信時刻は「10:10:32:002」であり、No.04のパケット信号の通話受信時刻は「10:10:32:102」である。これらには100ミリsecの間隔があるので、No.03の発呼情報とNo.04の発呼情報は同一でないと判定される。その際、パケット信号配信部58は、No.04のパケット信号のパケット信号の受信時刻を始点としたタイマTを動作させる。すなわち、新規の発呼情報のパケット信号であると判定した場合、パケット信号配信部58は、そのパケット信号の受信時刻を始点としてタイマTを動作させる。タイマTの終了時刻はIPネットワーク10の回線速度等により設定され、本実施例では、例えば50ミリsecとされる。
【0032】
タイマTの終了時、
図9の場合、No.05の第2基地局装置14bからのパケット信号およびNo.06の第3基地局装置14cからのパケット信号を受信した状態となる。No.05およびNo.06のパケット信号の通話受信時刻はそれぞれ「10:10:32:102」「10:10:32:103」であり、タイマTを動作させたパケット信号の受信時刻との時間差が所定値以下である。そのため、No.04の発呼情報と同一の通話内容であると判定される。パケット信号配信部58は、判定部54にNo.04、No.05、No.06のパケット信号の品質情報の比較を指示する。判定部54は、No.04、No.05、No.06の品質情報から最も品質の高いパケット信号を特定し、パケット信号配信部58に通知する。
【0033】
パケット信号配信部58は、判定部54から通知されたパケット信号と、送信時刻とをもとにパケット信号を生成する。
図10は、通信部50から送信されるパケット信号のデータ構造を示す。図示のごとく、送信時刻、通話受信時刻、発呼情報、品質情報が含まれる。なお、
図10には示していないが、通信部50から送信されるパケット信号に、送信元基地局装置に関する情報(当該パケット信号を受信した基地局装置14を示す情報)を含めてもよい。
図8に戻る。送信時刻は、IPネットワーク10の回線速度等により設定される。例えば、最先の通話受信時刻の100ミリsec後の時刻が設定される。なお、品質情報が比較されたパケット信号No.04、No.05、No.06は、一定期間後にパケット信号バッファ部52から削除されてもよい。
【0034】
なお、判定部54における品質の判定は、例えば、次のようになされる。
(A)第1の方法は、RSSIを用いる方法である。この場合、品質情報には、基地局装置14における無線受信部30が発呼情報を受信した際のRSSI値が示される。判定部54は、比較対象の品質情報の中で、RSSI値が最も大きなものを選択する。
(B)第2の方法は、エラーに関する情報を用いる方法である。この場合、品質情報には、無線受信部30が発呼情報を受信した際の無線通信で発生したエラーの多さ(エラー数、エラー率など)を示す数値、またはエラー訂正処理によって訂正されたエラーの多さ(エラー数、エラー率など)を示す数値が示される。判定部54は、比較対象の品質情報の中で、エラーの程度を示す数値が最も小さなものを選択する。
【0035】
(C)第3の方法は、発呼情報を用いる方法である。判定部54は、各パケット信号の発呼情報を信号解析し、音声以外のノイズ成分を検出する。例えば、音声に特有な帯域以外の周波数成分や、時間的な振幅変化が所定値以上の成分をノイズ成分とすればよい。そして、比較対象の発呼情報の中で、ノイズ成分が最も小さなものを選択する。なお、判定部54は、音声成分とノイズ成分を両方算出し、それらの比であるSN比を算出し、SN比が最も位大きな発呼情報を選択してもよい。なお、この第3の方法を用いる場合は、各パケット信号の品質情報を省略可能である。
【0036】
また、第1の方法から第3の方法を組み合わせて、品質を判定してもよい。例えば、RSSI値をR、エラーの程度を示す数値をE、ノイズ成分を示す数値をNとして、式(1)に示す演算により総合的なスコアSを算出する。ここで、α、β、γは重み係数であり、α>0、β<0、γ<0である。そして、総合スコアSが最も大きなパケット信号を選択する。
S=αR+βE+γN 式(1)
パケット信号配信部58は、生成したパケット信号を通信部50に出力する。通信部50は、パケット信号をIPネットワーク10経由で第1基地局装置14aから第3基地局装置14cに送信する。
【0037】
(3)基地局装置14での送信処理
図5に示された基地局装置14の通信部36は、IPネットワーク10を介して制御装置12からのパケット信号を受信すると、パケット信号を第2取得部38に出力する。このような受信処理を実行する通信部36は受信部といえる。また、受信処理は送信処理がなされていない場合においてもなされる。
【0038】
第2取得部38は、通信部36からのパケット信号を取得する。第2取得部38はパケット信号を記憶する。そのため、第2取得部38は、受信パケット信号バッファ部ともいえる。なお、第2取得部38は、検出部40から基準時刻を受けつけており、パケット信号内の送信時刻が基準時刻を経過していた場合、当該パケット信号を記憶しない。
図11は、第2取得部38に記憶されるデータのデータ構造を示す。図示のごとく、送信時刻、通話受信時刻、データ領域が含まれ、データ領域には、発呼情報、品質情報が含まれる。このような第2取得部38は、複数の基地局装置14のそれぞれが端末装置16から受信した複数の発呼情報の中から、制御装置12によって、最も品質が高いデータとして選択された発呼情報を取得するといえる。
図5に戻る。
【0039】
ここで、判定部34、制御部42の処理を説明するために、
図12を使用する。
図12は、基地局装置14による送信処理を示すフローチャートである。制御部42は、検出部40から基準時刻を取得する(S100)。制御部42は、第2取得部38内のパケット信号内の送信時刻を監視し、基準時刻が送信時刻を経過しているパケット信号が存在するか否かを判定する(S110)。基準時刻が送信時刻を経過しているパケット信号が存在しない場合(S110のN)、S100に戻る。なお、S100に戻る前に、所定の時間処理を停止(スリープ)してもよい。基準時刻が送信時刻を経過しているパケット信号が存在する場合(S110のY)は、S120に進む。
【0040】
制御部42は、S110で基準時刻が送信時刻を経過していると判定したパケット信号(送信予定パケット信号)内の通話受信時刻を取得する(S120)。次に、制御部42は、第1取得部32内のパケット信号を対象にして、その通話受信時刻が、S120で取得した通話受信時刻と一定期間(例えば、数ミリsec)の範囲に含まれるパケット信号が存在するか否かを判定する(S130)。一定期間に含まれるパケット信号が存在しない場合(S130のN)、制御部42は第2取得部38内のパケット信号に含まれる発呼情報を送信する(S200)。その後、制御部42は第2取得部38から送信した発呼情報を含むパケット信号を削除する(S300)。
【0041】
一定期間に含まれるパケット信号が存在する場合(S130のY)、以下の処理が行われる。なお、一定期間に含まれる第1取得部32内のパケット信号を以下では「直接受信パケット信号」と称する。制御部42は、判定部34に、送信予定パケット信号と直接受信パケット信号とを通知する。2つのパケット信号の発呼情報あるいは品質情報そのものを通知してもよいし、これらの情報を記憶しているバッファのアドレスを通知してもよい。
【0042】
判定部34は、送信予定パケット信号に含まれた発呼情報の品質を評価する(S140)。判定部34は、直接受信パケット信号に含まれた発呼情報の品質を評価する(S150)。判定部34は、送信予定パケット信号および直接受信パケット信号のどちらの発呼情報の品質が優れているかを判定する(S160)。つまり、判定部34は、直接受信パケット信号に含まれる発呼情報の品質と、送信予定パケット信号に含まれる発呼情報の品質とを比較する。なお、このような比較は、直接受信パケット信号に含まれる時刻情報と、送信予定パケット信号に含まれる時刻情報との差が所定の条件を満たす場合になされる。また、比較には、制御装置12の判定部54と同様に、RSSI、エラーの程度、音声データに含まれるノイズのうちの少なくとも1つの情報が使用される。
【0043】
直接受信パケット信号の品質が高いと判定した場合(S160のY)、制御部42は第1取得部32内のパケット信号に含まれる発呼情報を送信する(S210)。直接受信パケット信号の品質が高くないと判定した場合(S160のN)、制御部42は第2取得部38内のパケット信号に含まれる発呼情報を送信する(S200)。その後、制御部42は第2取得部38から送信した発呼情報を含むパケット信号を削除する(S300)。
【0044】
なお、
図12には示していないが、制御装置12から配信されたパケット信号に、「送信元基地局装置名」を含めた上で、「送信元基地局装置名」がパケット信号を受信した基地局装置(当該基地局装置)の「基地局装置名」と一致する場合は、第1取得部32内を探す処理(S130)を省略し、第2取得部38内のパケット信号を送信してもよい(S200)。
図5に戻る。
【0045】
無線送信部44は、業務用無線システムに対応した送信処理を実行することによって、第1取得部32に記憶されたパケット信号に含まれた発呼情報、あるいは第2取得部38に記憶されたパケット信号に含まれた発呼情報を端末装置16に送信する。つまり、無線送信部44は、第1取得部32に記憶されたパケット信号に含まれた発呼情報、あるいは第2取得部38に記憶されたパケット信号に含まれた発呼情報のうち、品質が高い方を送信する。なお、端末装置16が無線通信システムの監視機能などを備えている場合に、無線送信部44は、品質データを含むパケット信号全体を送信してもよい。
【0046】
ここでは、このような構成による効果を具体的に説明する。
図6、
図11はそれぞれ第3基地局装置14cの第1取得部32、第2取得部38に記憶されたデータであるとする。
図9の制御装置12内のパケット信号バッファ部52では、
図9のごとく、同一の発呼情報としてNo.07にて第1基地局装置14a、No.08にて第2基地局装置14bからのパケット信号を受信している。一方、第3基地局装置14cは、それらと同一の発呼情報として、
図6におけるNo.03のデータを受信しているが、そのデータは、第3基地局装置14cからのパケット信号はIPネットワーク10の遅延により正常な時刻に制御装置12へ到達していない状態となっている。また、端末装置16から受信した発呼情報の品質が、「第3基地局装置14c(高品質)>第2基地局装置14b(中品質)>第1基地局装置14a(低品質)」であった場合を想定する。
【0047】
その場合、第3基地局装置14cのパケット信号は制御装置12において品質比較処理の対象とならないので、各基地局装置14には第2基地局装置14b(中品質)のパケット信号が配信される。従来技術であれば各基地局装置14は第2基地局装置14bが受信した中品質程度の発呼情報を送信するが、本実施例によれば第3基地局装置14cは自身の第1取得部32に保持している高品質な発呼情報を送信する。これによりIPネットワーク10で遅延が発生し基地局装置14から制御装置12へパケット信号が正常に送信できない場合でも、可能な範囲で各基地局装置14はより品質の高い発呼情報を送信できる。
【0048】
各基地局装置14が発呼情報の品質を判定することによって送信すべき発呼情報を切りかえた場合、ある基地局装置14は制御装置12からの発呼情報を送信し、別の基地局装置14は自身の発呼情報を送信する場合もある。これは、複数の基地局装置14から互いに異なった発呼情報が送信されることに相当する。
図13は、通信システム100における通信エリア18の配置を示す。各基地局装置14は、通信可能なエリアとして通信エリア18を形成する。具体的に説明すると、第1基地局装置14aは第1通信エリア18aを形成し、第2基地局装置14bは第2通信エリア18bを形成し、第3基地局装置14cは第3通信エリア18cを形成する。また、第1基地局装置14aから第3基地局装置14cでは同一のチャネルが使用されるので、第1通信エリア18aから第3通信エリア18cでも同一のチャネルが使用される。
【0049】
通信エリア18が重複する部分において異なった発呼情報が送信されると、干渉が発生する可能性がある。ここでは、第1基地局装置14a、第2基地局装置14bが制御装置12からの発呼情報を送信し、第3基地局装置14cが自身の発呼情報を送信する場合を想定する。その場合、第1通信エリア18aと第3通信エリア18cが重複する部分と、第2通信エリア18bと第3通信エリア18cが重複する部分とにおいて、干渉が発生する。
【0050】
これに対応するために、制御装置12からの発呼情報を送信するか、あるいは基地局装置14内に保持している発呼情報を送信するかに応じて、発呼情報を送信する際の送信電力を切りかえてもよい。
図14は、制御部42に記憶される送信電力設定テーブルのデータ構造を示す。送信電力設定テーブルには、発呼情報元(制御装置12あるいは基地局装置14)毎の送信電力が設定される。発呼情報元が制御装置12である場合には、送信電力には通常の通信エリア18を形成するための値が設定される。一方、発呼情報元が基地局装置14である場合には、送信電力には隣接する基地局装置と通信エリア18を重複させないための値が設定される。例えば、制御装置12からの発呼情報を送信する場合には送信電力が50Wに設定され、基地局装置14が保持している発呼情報を送信する場合には送信電力が30Wに設定される。つまり、無線送信部44は、基地局装置14が保持している発呼情報を送信する場合に、制御装置12からの発呼情報を送信する場合よりも送信電力を小さくする。
【0051】
図15は、
図14の場合における通信エリア18の配置を示す。これは、
図13と同様に示される。第3通信エリア18cは、第1通信エリア18a、第2通信エリア18bよりも狭くなる。これにより、第3通信エリア18cは、第1通信エリア18a、第2通信エリア18bに重複しなくなる。その結果、第1通信エリア18aと第3通信エリア18cとの間と、第2通信エリア18bと第3通信エリア18cとの間における干渉が発生しにくくなる。
【0052】
送信電力設定テーブルは、基地局装置14にではなく、IPネットワーク10に接続された基地局装置情報制御装置(図示せず)に記憶されてもよい。基地局装置情報制御装置は、各基地局装置14の通信エリア18の重複状態と、各基地局装置14が発呼情報を送信する際の送信電力を一元管理する。
【0053】
図16は、基地局装置情報制御装置に記憶される別の送信電力設定テーブルのデータ構造を示す。基地局装置名には各基地局装置14の名称が示され、発呼情報元は制御装置12あるいは基地局装置14の発呼情報元種別が示され、送信電力には制御装置12あるいは基地局装置14の送信電力値が示される。送信電力設定テーブルは、通信システム100の運用者が基地局装置14を設置した際、あるいは設置済み基地局装置14の設置場所を変更した場合等に更新される。各基地局装置14は任意のタイミングで基地局装置情報制御装置から送信電力値を取得し、発呼情報毎に発呼情報を送信する際の送信電力の切り変えを行う。また、基地局装置情報制御装置は制御装置12に含まれてもよい。
【0054】
上述の制御装置12および基地局装置14は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0055】
本実施例によれば、端末装置からの発呼情報の品質と、制御装置からの発呼情報の品質との比較結果をもとに、品質が高い方の発呼情報を送信するので、制御装置からの発呼情報の品質よりも端末装置からの発呼情報の品質の方が高い場合に、端末装置からの発呼情報を送信できる。また、複数の基地局装置のそれぞれが端末装置から受信した複数の発呼情報の中から、制御装置によって最も品質が高い発呼情報を受信する場合でも、当該発呼情報の品質よりも高い端末装置からの発呼情報を送信できる。また、端末装置からの発呼情報を制御装置に送信するので、端末装置からの発呼情報を制御装置において他の基地局装置からの発呼情報と比較させることができる。
【0056】
また、端末装置からの発呼情報の品質と、制御装置からの発呼情報の品質との比較結果をもとに、品質が高い方の発呼情報を送信するので、制御装置への経路において予期せぬ遅延や障害が発生する場合でも、通信品質に与える遅延や障害の影響を低減できる。また、IPネットワークの遅延により基地局装置から制御装置へパケット信号が正常に送信できなかった場合でも、基地局装置が一定数のパケット信号を保持するので、より高い品質の発呼情報を送信できる。また、基地局装置と制御装置間でネットワーク遅延が発生した場合でも可能な範囲で最も品質の高い発呼情報を送信できる。
【0057】
また、端末装置からの発呼情報に対する時刻情報と、制御装置からの発呼情報に対する時刻情報との差が所定の条件を満たす場合に、これらの品質を比較するので、同一の音声情報の内容が含まれた発呼情報の品質を比較できる。また、RSSI、エラーの程度、ノイズの少なくとも1つを比較するので、品質を正確に比較できる。また、制御装置からの発呼情報を送信する際の送信電力よりも、端末装置からの発呼情報を送信する際の送信電力を小さくするので、干渉の影響を低減できる。
【0058】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0059】
本実施例によれば、通信システム100では、業務用無線システムが使用されている。しかしながらこれに限らず例えば、業務用無線システム以外の携帯電話等の無線通信システムが使用されてもよい。本変形例によれば、システムの自由度を向上できる。
【0060】
本実施例によれば、制御装置12は、基地局装置14とは別に構成されており、IPネットワーク10を介して基地局装置14に接続される。しかしながらこれに限らず例えば、制御装置12は、いずれかの基地局装置14に含まれることによって、両者は一体的に構成されてもよい。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【0061】
本実施例によれば、制御装置12から、発呼情報の送信タイミングを指示するパラメータとして送信時刻が使用されている。しかしながらこれに限らず例えば、同期制御用基準装置20から得られるPPS(Pulse Per second)信号をもとに導出したカウンタ値が使用されてもよい。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【0062】
本実施例においてIPネットワーク10を例にして説明している。しかしながらこれに限らず例えば、ネットワークの伝送遅延時間が変動する他のネットワークであってもよい。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【符号の説明】
【0063】
10 IPネットワーク、 12 制御装置、 14 基地局装置、 16 端末装置、 18 通信エリア、 20 同期制御用基準装置、 30 無線受信部、 32 第1取得部、 34 判定部、 36 通信部、 38 第2取得部、 40 検出部、 42 制御部、 44 無線送信部、 50 通信部、 52 パケット信号バッファ部、 54 判定部、 56 検出部、 58 パケット信号配信部、 100 通信システム。