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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】フォークリフト
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/08 20060101AFI20220105BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B66F9/08 M
F16F15/023 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017214919
(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2019085235
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三宅 数徒
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263137(JP,A)
【文献】特開2003-012114(JP,A)
【文献】特開平09-195567(JP,A)
【文献】特開2001-048496(JP,A)
【文献】特開平04-226300(JP,A)
【文献】特開2009-057161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0182237(US,A1)
【文献】登録実用新案第3007310(JP,U)
【文献】特表2009-542555(JP,A)
【文献】特開昭62-031706(JP,A)
【文献】実開昭59-002792(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/00-19/02
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に立設された一対のマストを備えるフォークリフトにおいて、
一対の前記マストには、一対の前記マストを連結するマストサポートと、前記マストサポートの下方に配置され、前記マストを前後に傾動させるティルトシリンダが連結されるティルトブラケットとが架け渡されており、
前記マストサポート及び前記ティルトブラケットは、略U字状であり、長手方向の各端部が前記マストの外面に各々固定されることにより、前記マストサポート及び前記ティルトブラケットの長手方向に延びる部位が、前記マストの後面より後方に位置しており、
前記マストの変形に伴って該マストに生じた変位エネルギを吸収するエネルギ吸収部材としてダンパを一対備え、前記ダンパは、外筒に対し出没可能なピストンロッド、及び前記外筒内で前記ピストンロッドに連結されたピストンを備え、前記ピストンには、前記外筒内に封入された流体の移動経路となる絞りが設けられており、
一対の前記ダンパは、前記マストサポートの長手方向に延びる部位と前記ティルトブラケットの長手方向に延びる部位とに襷掛けした状態で設置されていることを特徴とするフォークリフト。
【請求項2】
一対の前記ダンパのうちの一方の前記ダンパは、前記ダンパの軸方向一端である前記外筒の端部側が前記ティルトブラケットにおける一方の前記マスト側に配置されるとともに、前記ピストンロッドの前記外筒からの突出端側が前記マストサポートにおける他方の前記マスト側に配置され、一対の前記ダンパのうちの他方の前記ダンパは、前記ダンパの軸方向一端である前記外筒の端部側が前記ティルトブラケットにおける他方の前記マスト側に配置されるとともに、前記ピストンロッドの前記外筒からの突出端側が前記マストサポートにおける一方の前記マスト側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のフォークリフト。
【請求項3】
一対の前記ダンパは、互いに前後方向に離間して配置されている請求項1又は請求項2に記載のフォークリフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マストを備えるフォークリフトに関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトは、例えば特許文献1に開示されているように、車体の前部に立設された一対のマストを備え、一対のマストにリフトブラケットが昇降可能に支持されている。一対のマストは、それぞれアウターマストと、アウターマストの内側に配置されたインナーマストとを有する。また、リフトブラケットには、運搬物を積載するフォークが装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-57161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フォークに運搬物を載せてフォークリフトが走行している際、段差を乗り越えたとき等に車体には外力として衝撃が加わる。このとき、マストには、前後方向や左右方向への傾きや、捻れといった変形が生じ、この変形によって生じた応力によりマストが損傷する虞がある。
【0005】
本発明の目的は、マストに生じる応力を低減できるフォークリフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するためのフォークリフトは、車体の前部に立設された一対のマストを備えるフォークリフトにおいて、一対の前記マストには、一対の前記マストを連結するマストサポートと、前記マストサポートの下方に配置され、前記マストを前後に傾動させるティルトシリンダが連結されるティルトブラケットとが架け渡されており、前記マストサポート及び前記ティルトブラケットは、略U字状であり、長手方向の各端部が前記マストの外面に各々固定されることにより、前記マストサポート及び前記ティルトブラケットの長手方向に延びる部位が、前記マストの後面より後方に位置しており、前記マストの変形に伴って該マストに生じた変位エネルギを吸収するエネルギ吸収部材としてダンパを一対備え、前記ダンパは、外筒に対し出没可能なピストンロッド、及び前記外筒内で前記ピストンロッドに連結されたピストンを備え、前記ピストンには、前記外筒内に封入された流体の移動経路となる絞りが設けられており、前記一対の前記ダンパは、前記マストサポートの長手方向に延びる部位と前記ティルトブラケットの長手方向に延びる部位とに襷掛けした状態で設置されていることを要旨とする。
【0007】
これによれば、車体に外力が加わったとき、外力の加わり方に応じて、マストには、前後方向や左右方向への傾きといった変形が生じる。このマストの変形に伴い、マストには変位エネルギが発生するが、この変位エネルギをエネルギ吸収部材の変位エネルギに変換し、吸収する。その結果としてマストに生じる応力を低減できるとともに、マストの変形量を小さくできる。
【0008】
また、マストは金属製であるため、外力が加わると弾性変形し、周期振動が発生する。しかし、マストの変位エネルギをエネルギ吸収部材によって熱エネルギに変換し、吸収することで減衰力を発生させ、マストの周期振動を速やかに収束させつつ、マストに生じる応力を低減させる。よって、外力によってマストに変位エネルギが発生した際、その変位エネルギの全てをマストの変位エネルギとしたままにする場合と比べると、エネルギ吸収部材を用いたことで、マストに生じる応力を低減できる。
【0009】
また、フォークリフトについて、前記エネルギ吸収部材は、一対の前記マストに架け渡す状態に設置されたダンパであるため、ダンパにより変位エネルギの一部を吸収することで、マストに生じる応力を低減できる。また、エネルギ吸収部材を容易に構成することができる。
【0010】
また、フォークリフトについて、前記ダンパは、外筒に対し出没可能なピストンロッド、及び前記外筒内で前記ピストンロッドに連結されたピストンを備え、前記ピストンには、前記外筒内に封入された流体の移動経路となる絞りが設けられている
【0011】
これによれば、一対のマストが外力を受け、マストが変形した際、マストの変形に追従してピストンロッドが外筒に対し出没する。マストの変形によって生じた変位エネルギをピストンロッドの出没による変位エネルギに変換し、吸収することで、マストに生じる応力を低減できるとともに、マストの変形量を小さくできる。また、ピストンロッドの出没に伴ってピストンが移動する際、外筒内に封入された流体が絞りを通過する。流体が絞りを通過する際に発生する抵抗により、ピストンロッドの運動エネルギを熱エネルギに変換し、吸収することで減衰力を発生させ、マストの周期振動を速やかに収束させつつ、マストに生じる応力を低減できる。よって、ダンパにより変位エネルギの一部を吸収することで、マストに生じる応力を低減できる。
【0012】
また、フォークリフトについて、前記ダンパを一対備え、一対の前記ダンパは、一対の前記マストに襷掛けした状態に設置されているため、一対のマストが相対的に位置ずれする捻れが生じた際、各ダンパは、各マストの捻れに追従してピストンロッドが出没し、各マストの変形量を小さくしつつ、周期振動を収束させる。よって、一対のダンパにより、一対のマストが相対的に位置ずれする捻れを抑制できる。
【0013】
また、フォークリフトについて、一対の前記ダンパのうちの一方の前記ダンパは、前記ダンパの軸方向一端である前記外筒の端部側が前記ティルトブラケットにおける一方の前記マスト側に配置されるとともに、前記ピストンロッドの前記外筒からの突出端側が前記マストサポートにおける他方の前記マスト側に配置され、一対の前記ダンパのうちの他方の前記ダンパは、前記ダンパの軸方向一端である前記外筒の端部側が前記ティルトブラケットにおける他方の前記マスト側に配置されるとともに、前記ピストンロッドの前記外筒からの突出端側が前記マストサポートにおける一方の前記マスト側に配置されているのが好ましい。
また、フォークリフトについて、一対の前記ダンパは、互いに前後方向に離間して配置されているのが好ましい。
これによれば、一対のマストが相対的に位置ずれした捻れが生じた際、一対のダンパ同士が干渉することを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マストに生じる応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態のフォークリフトを示す側面図。
図2】フォークリフトの前部を示す平面図。
図3】マスト及びダンパを示す斜視図。
図4】ダンパを示す断面図。
図5】マスト及びダンパを示す後面図。
図6】(a)はマストに捻れが生じた状態を示す図、(b)はマストに傾きが生じた状態を示す図。
図7】別例のエネルギ吸収部材を示す後面図。
図8】別例のエネルギ吸収部材を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、フォークリフトを具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。まず、以下の説明において「前」「後」「左」「右」「上」「下」は、フォークリフトの運転者がフォークリフトの前方を向いた状態を基準とした場合の「前」「後」「左」「右」「上」「下」を示すものとする。
【0020】
図1に示すように、フォークリフト10は、車体12の前部に立設された一対のマスト13を備える。フォークリフト10は、両マスト13を前後に傾動させるティルトシリンダ14を備える。また、フォークリフト10は、車体12の前側下部に設けられた駆動輪15(前輪)と、車体12の後側下部に設けられた操舵輪16(後輪)と、を備える。フォークリフト10は、駆動輪15を駆動させる走行用モータ17を車体12に備える。さらに、フォークリフト10は、走行用モータ17に電力を供給するバッテリ18を備える。走行用モータ17は、バッテリ18から供給される電力によって駆動する。フォークリフト10は、走行用モータ17の駆動によって駆動輪15が駆動することで走行する。
【0021】
図2に示すように、各マスト13は、アウターマスト19と、各アウターマスト19の内側に配置されるインナーマスト20と、を有する。フォークリフト10は、一対のインナーマスト20に支持されたリフトブラケット23を備える。また、フォークリフト10は、リフトブラケット23に支持された左右一対のフォーク11を備える。
【0022】
図3又は図5に示すように、フォークリフト10は、左右一対のアウターマスト19を連結する第1アウターマストサポート21を備える。第1アウターマストサポート21は、一対のアウターマスト19の上端部同士を連結している。フォークリフト10を上から見た平面視では、第1アウターマストサポート21は略U字状である。第1アウターマストサポート21の長手方向の各端部が各アウターマスト19の外面に固定されている。第1アウターマストサポート21の長手方向に延びる部位は、アウターマスト19の後面より後方にある。
【0023】
フォークリフト10は、左右一対のアウターマスト19を連結する第2アウターマストサポート31を備える。第2アウターマストサポート31は、第1アウターマストサポート21より下側で一対のアウターマスト19同士を連結している。フォークリフト10を上から見た平面視では、第2アウターマストサポート31は略U字状である。第2アウターマストサポート31の長手方向の各端部が各アウターマスト19の外面に固定されている。第2アウターマストサポート31の長手方向に延びる部位は、アウターマスト19の後面より後方にある。
【0024】
図2に示すように、フォークリフト10は、左右一対のインナーマスト20を連結するインナーマストサポート22を備える。フォークリフト10を上から見た平面視では、インナーマストサポート22は矩形状である。また、フォークリフト10は、左右一対のリフトシリンダ24を有している。両リフトシリンダ24のピストンロッド24aは、インナーマストサポート22の長手方向の端部に連結されている。
【0025】
そして、両ピストンロッド24aの上下方向(鉛直方向)への移動によってインナーマストサポート22を介して左右一対のインナーマスト20が昇降動作する。これにより、リフトブラケット23が左右一対のインナーマスト20と共に昇降動作する。したがって、リフトブラケット23は、一対のマスト13に昇降可能に支持されている。
【0026】
また、図3又は図5に示すように、フォークリフト10は、左右一対のアウターマスト19に架け渡されたティルトブラケット25を備える。ティルトブラケット25は、第2アウターマストサポート31の下方に配置されている。フォークリフト10を上から見た平面視では、ティルトブラケット25は略U字状である。ティルトブラケット25の長手方向の各端部が各アウターマスト19の外面に固定されている。ティルトブラケット25の長手方向に延びる部位は、アウターマスト19の後面より後方にある。
【0027】
図1に示すように、ティルトブラケット25の長手方向の各端部の外面には、上述のティルトシリンダ14のピストンロッド14aが連結されている。そして、両ピストンロッド14aの前後方向への移動によってティルトブラケット25を介して左右一対のマスト13が前後に傾動する。
【0028】
フォークリフト10は、一対のダンパ40を備える。ダンパ40は、マスト13に生じた変位エネルギを吸収するためのエネルギ吸収部材として機能する。走行中のフォークリフト10が段差を乗り上げたとき等に生じる衝撃によって、マスト13には、前後方向や左右方向への傾きや、各マスト13の捻れ、さらには、一対のマスト13同士が相対的に位置ずれする捻れといった変形が生じる。これらの変形の際には、金属製のマスト13は弾性変形し、マスト13には変位エネルギが生じる。
【0029】
また、弾性変形したマスト13は、元の形状に戻ろうとするが、慣性が働いているため、元の位置を通り越して反対方向に再び変形する。こうした挙動が繰り返されることで、マスト13には周期振動が発生する。ダンパ40は、このマスト13に生じた変位エネルギを吸収するとともに、周期振動を収束させる。
【0030】
ダンパ40としては、一般的にオイルショックアブソーバー(オイルダンパ)と呼ばれるものが使用される。オイルショックアブソーバーとしては、単筒式と複筒式とがあるが、本実施形態では、単筒式を採用した。
【0031】
図4に示すように、ダンパ40は、外筒41を備える。外筒41の内部には、第1ピストン42が、外筒41の軸方向へ往復動可能に収容されている。外筒41の内部は、第1ピストン42によってオイル室41aとガス室41bとに区画されている。ダンパ40において、外筒41の軸方向に沿ったガス室41b側を軸方向一端側とし、オイル室41a側を軸方向他端側とする。オイル室41aには、オイルが充填され、ガス室41bには高圧のガスが充填されている。
【0032】
オイル室41aには、第2ピストン44が、外筒41の軸方向へ往復動可能に収容されている。第2ピストン44は、絞りとしてのポート44aを備える。第2ピストン44が移動する際、ポート44aをオイルが通過することで抵抗が発生し、この抵抗により、ダンパ40に減衰力が発生する。ポート44aの流路断面積が小さいほど抵抗が大きく減衰力が高くなり、ポート44aの流路断面積が大きいほど抵抗が小さく減衰力は低くなる。
【0033】
第2ピストン44には、ピストンロッド43の一端が連結され、ピストンロッド43の他端側は、外筒41の軸方向他端側から突出している。また、ダンパ40は、外筒41の軸方向一端側に取付部46を備え、ピストンロッド43は、外筒41の軸方向他端側から突出している。
【0034】
図3又は図5に示すように、一対のダンパ40のうちの一方のダンパ40を第1ダンパ40A、他方のダンパを第2ダンパ40Bとする。第1ダンパ40Aの取付部46は、ティルトブラケット25の長手方向一端部としての右端部に固定され、ピストンロッド43の突出端は、第2アウターマストサポート31の長手方向他端部としての左端部に固定されている。
【0035】
よって、第1ダンパ40Aは、外筒41の取付部46側が右側のマスト13側に配置され、ピストンロッド43の突出端側が左側のマスト13側に配置されている。したがって、第1ダンパ40Aは、一対のマスト13に架け渡された状態となるように、第2アウターマストサポート31とティルトブラケット25に連結されている。そして、第1ダンパ40Aは、外筒41の軸方向がマスト13の軸方向に対し斜めに交差する状態で配設されている。
【0036】
ティルトブラケット25の長手方向他端部としての左端部、及び第2アウターマストサポート31の長手方向一端部としての右端部には、ブラケット32が固定されている。ブラケット32は、略U字状である。ブラケット32の一端部は、ティルトブラケット25又は第2アウターマストサポート31に固定されている。ブラケット32の他端部は、ティルトブラケット25又は第2アウターマストサポート31の後面より後方へ離れた位置に配設されている。ブラケット32の他端部は、第1ダンパ40Aの外筒41よりも後方にある。
【0037】
そして、一対のブラケット32のうち、ティルトブラケット25に固定されたブラケット32には、第2ダンパ40Bの取付部46が固定され、第2アウターマストサポート31に固定されたブラケット32には、第2ダンパ40Bのピストンロッド43の突出端が固定されている。
【0038】
よって、第2ダンパ40Bは、外筒41の取付部46側が左側のマスト13側に配置され、ピストンロッド43の突出端側が右側のマスト13側に配置されている。したがって、第2ダンパ40Bは、一対のマスト13に架け渡された状態となるように、第2アウターマストサポート31とティルトブラケット25に連結されている。また、第2ダンパ40Bは、一対のブラケット32により、第1ダンパ40Aよりも後方に離れた位置に配置され、第1ダンパ40Aと干渉しない位置に配置されている。また、第2ダンパ40Bは、外筒41の軸方向がマスト13の軸方向に対し斜めに交差する状態で配設されている。第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bは、一対のマスト13に襷掛けした状態に設置されている。したがって、一対のダンパ40(第1ダンパ40A及び第2ダンパ40B)は、互いに前後方向に離間して配置されている。
【0039】
次に、フォークリフト10の作用を記載する。
図示しないが、リフトブラケット23を左右一対のインナーマスト20と共に上昇させ、フォーク11に積載した運搬物を上昇させた状態でフォークリフト10が走行している際、フォークリフト10が段差を斜めに乗り越えたとする。段差を乗り越える際、左右の駆動輪15が時間差を持って段差を乗り越え、車体12には外力としての衝撃が時間差を持って加わる。
【0040】
図6(a)に示すように、衝撃発生時点のずれ、及び運搬物の慣性力を原因として、一対のマスト13(図6(a)ではアウターマスト19のみ図示)それぞれに軸線を中心とした捻れが発生するとともに、一対のマスト13同士が相対的に位置ずれした捻れが生じる。
【0041】
例えば、左側のマスト13が後方にずれ、右側のマスト13が前方にずれた捻りが生じた時点では、後方にずれた左側のマスト13によって、第2アウターマストサポート31を介して第1ダンパ40Aのピストンロッド43が押圧され、第1ダンパ40Aのピストンロッド43は、外筒41に没入する。同時に、前方にずれた右側のマスト13によって、第2アウターマストサポート31を介して第2ダンパ40Bのピストンロッド43が引っ張られ、第2ダンパ40Bのピストンロッド43は、外筒41から突出する。
【0042】
捻りが生じた時点では、各マスト13の変位エネルギが、第1及び第2ダンパ40A,40Bのピストンロッド43の変位エネルギに変換され、各マスト13に生じた変位エネルギが吸収される。その結果として、各マスト13の変形量が小さくなる。
【0043】
各マスト13は、変形した後、変形前の位置に戻るが、慣性が働いているため、元の位置を通り越して反対方向に再び変形する。この繰り返しにより、マスト13には周期振動が発生する。第1及び第2ダンパ40A,40Bにおいて、ピストンロッド43は、マスト13の周期振動に追従して往復動する。ピストンロッド43が往復動する際、第2ピストン44のポート44aをオイルが通過する。ポート44aをオイルが通過する際に発生する抵抗により、ピストンロッド43の運動エネルギが熱エネルギに変換され、吸収されるとともに、減衰力が発生する。この減衰力によってマスト13の周期振動が収束される。
【0044】
よって、第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bにより、一対のマスト13の捻れが抑えられるとともに、周期振動が速やかに収束する。
また、図6(b)に示すように、一対のマスト13(図6(b)ではアウターマスト19のみ図示)が左側に傾いた場合、傾きが生じた時点では、左側のマスト13によって、第1ダンパ40Aのピストンロッド43が第2アウターマストサポート31を介して引っ張られ、第1ダンパ40Aのピストンロッド43は、外筒41から突出する。同時に、右側のマスト13によって、第2ダンパ40Bのピストンロッド43が第2アウターマストサポート31を介して押圧され、第2ダンパ40Bのピストンロッド43は、外筒41に没入する。
【0045】
傾きが生じた時点では、各マスト13の変位エネルギが、第1及び第2ダンパ40A,40Bのピストンロッド43の変位エネルギに変換され、各マスト13に生じた変位エネルギが吸収される。その結果として、各マスト13の変形量が小さくなる。
【0046】
また、各マスト13は、変形した後、変形前の位置に戻るが、慣性が働いているため、元の位置を通り越して反対方向に再び変形する。この繰り返しにより、マスト13には周期振動が発生する。第1及び第2ダンパ40A,40Bにおいて、ピストンロッド43は、マスト13の周期振動に追従して往復動する。ピストンロッド43が往復動する際、第2ピストン44のポート44aをオイルが通過する。ポート44aをオイルが通過する際に発生する抵抗により、ピストンロッド43の運動エネルギが熱エネルギに変換され、吸収されるとともに減衰力が発生する。この減衰力によってマスト13の周期振動が収束される。
【0047】
なお、一対のマスト13が右側に傾く場合もあるが、この場合は、第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bは、マスト13が左側に傾いた場合と反対の動きをして、マスト13の傾きを抑えつつ、周期振動を収束させる。よって、第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bにより、一対のマスト13の傾きが抑えられるとともに、周期振動が速やかに収束する。
【0048】
なお、図示しないが、一対のマスト13が前側又は後側に傾いた場合、傾きが生じた時点では、第1及び第2ダンパ40A,40Bのピストンロッド43が同時に外筒41から突出又は没入する。そして、各マスト13の変位エネルギが、第1及び第2ダンパ40A,40Bのピストンロッド43の変位エネルギに変換され、各マスト13に生じた変位エネルギが吸収される。その結果として、各マスト13の変形量が小さくなる。
【0049】
また、各マスト13は、変形した後、変形前の位置に戻るが、慣性が働いているため、元の位置を通り越して反対方向に再び変形する。この繰り返しにより、マスト13には周期振動が発生する。第1及び第2ダンパ40A,40Bにおいて、ピストンロッド43は、マスト13の周期振動に追従して往復動する。ピストンロッド43が往復動する際、第2ピストン44のポート44aをオイルが通過する。ポート44aをオイルが通過する際に発生する抵抗により、ピストンロッド43の運動エネルギが熱エネルギに変換されて吸収されるとともに減衰力が発生する。この減衰力によってマスト13の周期振動が収束される。よって、第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bにより、一対のマスト13の傾きが抑えられるとともに、周期振動が速やかに収束する。
【0050】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)マスト13の変形に伴って生じた変位エネルギをダンパ40の変位エネルギに変換し、吸収することができる。その結果として、マスト13の変形量を小さくできる。さらに、ダンパ40により、マスト13の周期振動を収束できる。よって、外力によってマスト13に変位エネルギが発生した際、その変位エネルギの全てをマスト13の変位エネルギとする場合と比べると、ダンパ40を用いることでマスト13に生じる応力を低減でき、マスト13が損傷することを抑制できる。
【0051】
(2)フォークリフト10は、一対のダンパ40を備える。各ダンパ40は、一対のマスト13に架け渡された状態となるように、第2アウターマストサポート31とティルトブラケット25に連結されている。このため、各ダンパ40によって、各マスト13の変形量を小さくできるとともに、周期振動を速やかに収束させることができる。
【0052】
(3)一対のダンパ40は、一対のマスト13に襷掛けした状態に設置されている。各ダンパ40は、各マスト13の変形に追従してピストンロッド43が出没する。よって、一対のダンパ40を襷掛け状態に設置することで、一対のマスト13が相対的に位置ずれする捻れも低減できる。
【0053】
(4)第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bは前後方向に離間して配置されている。このため、一対のマスト13に捻れが生じたときに、第1ダンパ40Aと第2ダンパ40Bが干渉することを防止できる。
【0054】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
図7に示すように、エネルギ吸収部材を、流体圧シリンダ50と、流体圧シリンダ50に接続された流体管51と、流体管51に接続された可変絞り52と、可変絞り52を介して流体管51に接続されたタンク54と、から構成してもよい。
【0055】
流体圧シリンダ50のシリンダチューブ50a内には、ピストン50bがシリンダチューブ50aの軸方向へ往復動可能に収容されている。ピストン50bには、ピストンロッド55の一端が接続されている。シリンダチューブ50a内は、ピストン50bによって第1圧力作用室50cと、第2圧力作用室50dに区画されている。第1圧力作用室50c及び第2圧力作用室50dには、流体として、オイルが充填されている。流体管51は、一端が第1圧力作用室50cに連通し、他端が第2圧力作用室50dに連通している。流体管51には、可変絞り52が設置されている。可変絞り52は、流体管51の流路断面積を調節可能である。可変絞り52にはタンク54が接続されている。
【0056】
そして、流体圧シリンダ50の軸方向一端であるシリンダチューブ50aの一端部側が一方(図7では右側)のマスト13側に配置され、ピストンロッド55側が他方(図7では左側)のマスト13側に配置されるように、流体圧シリンダ50はティルトブラケット25と第2アウターマストサポート31に連結されている。
【0057】
この構成において、マスト13に変形が生じた場合、ピストンロッド55は、シリンダチューブ50aに対し出没する。マスト13の変形に伴って生じた変位エネルギを、流体圧シリンダ50におけるピストンロッド55の変位エネルギに変換し、吸収することで、マスト13に生じる応力を低減できるとともに、マスト13の変形量を小さくできる。
【0058】
また、マスト13は弾性変形し、周期振動が発生するが、ピストンロッド55は、マスト13の周期振動に合わせて往復動する。ピストンロッド55が往復動する際、第1圧力作用室50c又は第2圧力作用室50dから流体管51へ流体が給排される。このとき、可変絞り52を流体が通過する。可変絞り52を流体が通過する際に発生する抵抗により、変位エネルギが熱エネルギに変換され、変位エネルギが吸収されるとともに減衰力が発生する。この減衰力によってマスト13の周期振動が収束される。よって、外力によってマスト13に変位エネルギが発生した際、その変位エネルギの全てをマスト13の変位エネルギとしたままにする場合と比べると、エネルギ吸収部材を用いたことで、マスト13に生じる応力を低減できる。
【0059】
なお、可変絞り52は、アキュムレータに変更してもよいし、固定絞りに変更してもよい。また、流体をエアとしてもよい。
図8に示すように、エネルギ吸収部材を、マスト13におけるアウターマスト19に貼り付けた制振材60としてもよい。制振材60の材質は、マスト13が変形した際の変位エネルギを吸収できるものであればよく、例えば、ゴム、銅、真鍮が挙げられる。制振材60は平板状である。制振材60は、マスト13におけるアウターマスト19の左右の外側面及び前後の外側面のほぼ全体に貼り付けられるのが好ましいが、アウターマスト19の外側面の一部に貼り付けられていてもよい。
【0060】
このように構成した場合、一対のマスト13が外力を受け、マスト13が変形した際、マスト13の変形に追従して制振材60が変形する。マスト13に生じた変位エネルギを制振材60の変形による変位エネルギに変換し、吸収することで、マスト13に生じる応力を低減できるとともに、マスト13の変形量を小さくできる。また、制振材60の変形により、減衰力を発生させ、マスト13の周期振動を収束させつつ、マスト13に生じる応力を低減できる。よって、制振材60により変位エネルギの一部を吸収することで、マスト13に生じる応力を低減できる。
【0061】
制振材60を銅又は真鍮製とした場合は、マスト13に生じる応力を低減する構造を簡単なものにできる。また、制振材60をゴム製とした場合は、低コストでマスト13に生じる応力を低減できる。
【0062】
○ 実施形態では、ダンパ40の取付部46をティルトブラケット25に連結し、ピストンロッド43を第2アウターマストサポート31に連結したが、ダンパ40の取付部46及びピストンロッド43をマスト13のアウターマスト19に直接連結してもよい。
【0063】
○ フォークリフト10は、エネルギ吸収部材としてダンパ40を備えるとともに、アウターマスト19の外面に貼着された制振材60を備えていてもよい。
○ ダンパ40は、複筒式であってもよい。
【0064】
○ ダンパ40における絞りは、ポート44aではなく、弁体であってもよいし、オリフィスであってもよい。
○ ダンパ40は、襷掛けせず、外筒41の軸線がマスト13の軸線と平行な状態で設置してもよい。
【0065】
○ ダンパ40を1本だけとし、一対のマスト13に架け渡す状態で設置してもよい。
○ フォークリフト10は、走行用モータ17によって駆動される電動式ではなく、エンジンによって駆動されるエンジン式であってもよい。
【0066】
○ 実施形態において、一対のマスト13は、各アウターマスト19の内側に2本以上のインナーマスト20を備える複数段式であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…フォークリフト、12…車体、13…マスト、40…エネルギ吸収部材としてのダンパ、41…外筒、43…ピストンロッド、44…第2ピストン、44a…絞りとしてのポート、50…流体圧シリンダ、50a…シリンダチューブ、50b…ピストン、50c…第1圧力作用室、50d…第2圧力作用室、51…流体管、52…可変絞り、54…タンク、55…ピストンロッド、60…制振材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8