(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】内燃機関のインレットダクト
(51)【国際特許分類】
F02M 35/10 20060101AFI20220105BHJP
F02M 35/12 20060101ALI20220105BHJP
F16L 55/02 20060101ALI20220105BHJP
F16L 9/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F02M35/10 101N
F02M35/12 H
F02M35/10 101E
F16L55/02
F16L9/12
(21)【出願番号】P 2017216711
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍介
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-332673(JP,A)
【文献】特開2010-053763(JP,A)
【文献】特開平11-343939(JP,A)
【文献】特開2009-293442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0262076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 35/10
F02M 35/12
F16L 55/02
F16L 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性の側壁を有する筒状の本体部と、
前記本体部における吸気流れ方向の上流側に設けられ、上流側ほど外周側に位置する内周面を有する筒状の吸入部と、を備えており、
前記本体部と前記吸入部とが圧縮成形された繊維成形体により一体成形されて
おり、
前記本体部の前記側壁は、高圧縮部と、前記高圧縮部よりも低い圧縮率にて圧縮成形された低圧縮部とを有しており、
前記本体部の前記側壁の外周面においては前記高圧縮部と前記低圧縮部とが段差を介して連なる一方、前記本体部の前記側壁の内周面においては前記高圧縮部と前記低圧縮部とが平らに連なっており、
前記吸入部の側壁全体が、前記高圧縮部により構成されている、
内燃機関のインレットダクト。
【請求項2】
前記吸入部の側壁全体が非通気性である、
請求項1に記載の内燃機関のインレットダクト。
【請求項3】
前記吸入部は、ファンネル形状をなしている、
請求項1または請求項2に記載の内燃機関のインレットダクト。
【請求項4】
前記本体部における吸気流れ方向の下流側に設けられた接続部を備えており、
前記本体部、前記吸入部、及び前記接続部は、前記繊維成形体により一体成形されている、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の内燃機関のインレットダクト。
【請求項5】
半割筒状をなす一対の半割体を有しており、前記半割体の各々が互いに突き合わされて接合されてなる、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の内燃機関のインレットダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性の側壁を有する内燃機関のインレットダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載内燃機関の吸気ダクトの管壁を不織布などの繊維成形体により形成したものが知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載の吸気ダクトでは、不織布などの通気性素材からなるポーラスダクトの下流側端部に硬質の合成樹脂材料からなる下流側ダクト部が接続されている。また、上記ポーラスダクトの上流側端部に硬質の合成樹脂材料からなる上流側ダクト部が接続されている。この上流側ダクト部には、ファンネル形状の吸気開口部が設けられている。
【0003】
こうした吸気ダクトでは、吸気音の音波がポーラスダクトの管壁を通過する際に吸収される。すなわち、吸気音の音波の圧力によって管壁を構成する繊維が振動するとともにその振動のエネルギが繊維同士の摩擦熱に変換されるなどして消費される。これにより、吸気ダクト内において吸気音の定在波が発生することを抑制でき、吸気騒音を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の吸気ダクトの場合、ポーラスダクトと上流側ダクト部とが別部材にて形成されている。そのため、両部材の接続部分における内周面に段差が生じることとなり、当該段差に起因して吸気ダクトの内部を流れる吸気の通気抵抗が増大するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、側壁に通気性を持たせることにより吸気騒音の低減を図りながらも、通気抵抗の増大を抑制することのできる内燃機関のインレットダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための内燃機関のインレットダクトは、通気性の側壁を有する筒状の本体部と、前記本体部における吸気流れ方向の上流側に設けられ、上流側ほど外周側に位置する内周面を有する筒状の吸入部と、を備えており、前記本体部と前記吸入部とが圧縮成形された繊維成形体により一体成形されている。
【0008】
同構成によれば、本体部の側壁が、圧縮成形された繊維成形体からなり、通気性を有している。このため、インレットダクト内において吸気音の音波の一部が上記側壁を通過する際に吸収されることで吸気騒音を低減することができる。
【0009】
また、上記構成によれば、本体部と吸入部とが圧縮成形された繊維成形体により一体成形されている。このため、本体部と吸入部とを各別に形成し、本体部と吸入部とを接続する構成に比べて、インレットダクトの構成が簡単となり、インレットダクトを容易に形成することができる。また、吸入部と本体部との境界部分の段差を無くすことができるため、当該段差に起因してインレットダクトの内部を流れる吸気の通気抵抗が増大することはない。
【0010】
したがって、側壁に通気性を持たせることにより吸気騒音の低減を図りながらも、通気抵抗の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、側壁に通気性を持たせることにより吸気騒音の低減を図りながらも、通気抵抗の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態における内燃機関のインレットダクトを示す斜視図。
【
図2】同実施形態のインレットダクトを構成する一対の半割体を互いに離間して示す分解斜視図。
【
図3】同実施形態のインレットダクトを示す断面図。
【
図4】同実施形態のインレットダクトの側壁の層構造を示す断面図。
【
図5】変形例におけるインレットダクトの側壁の層構造を示す断面図。
【
図6】他の変形例におけるインレットダクトを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1~
図4を参照して、一実施形態について説明する。なお、以降において、インレットダクト10内における吸気流れ方向の上流側及び下流側をそれぞれ単に上流側及び下流側と称する。
【0014】
図1及び
図3に示すように、内燃機関のインレットダクト10は、直線状の中心軸線を有するものであり、円筒状の本体部11、本体部11の上流側に設けられ、インレットダクト10の入口部を構成する円筒状の吸入部12、及び本体部11の下流側に設けられた円筒状の接続部13を有している。
【0015】
図3に示すように、本体部11は、軸線方向全体にわたって同一の内径を有している。
吸入部12は、ファンネル形状をなしており、上流側ほど内径が大きくされている。吸入部12の下流側端部の内径は、本体部11の内径と同一とされている。
【0016】
接続部13は、インレットダクト10の下流側の端部に位置するとともに本体部11の内径よりも大きい内径を有する拡径部13Aと、本体部11と拡径部13Aとの間に位置するとともに下流側ほど徐々に大きくされた内径を有する徐変部13Bとを有している。なお、接続部13の拡径部13Aが、同図に二点鎖線にて示すエアクリーナのインレット50に接続される。
【0017】
図1及び
図2に示すように、インレットダクト10は、半割円筒状をなす一対の半割体(第1半割体20及び第2半割体30)を有している。各半割体20,30は互いに同一形状を有している。各半割体20,30の周方向の両端には、外周側にそれぞれ突出する一対の接合部21,31がインレットダクト10の軸線方向全体にわたって設けられている。第1半割体20の接合部21と第2半割体30の接合部31とが互いに付き合わされて溶着により接合されている。
【0018】
本実施形態では、各半割体20,30を構成する本体部11、吸入部12、及び接続部13が、圧縮成形された繊維成形体によって一体成形されている。
次に、各半割体20,30を構成する繊維成形体について説明する。
【0019】
図4に示すように、インレットダクト10の側壁、すなわち本体部11の側壁11a、吸入部12の側壁12a、及び接続部13の側壁13aは、インレットダクト10の内周面を構成する内層15と、内層15の外周面に固定され、インレットダクト10の外周面をなす外層16とを備えている。
【0020】
内層15及び外層16を構成する各繊維成形体は、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)からなる芯部と、同PET繊維よりも融点の低い変性PETからなる鞘部(いずれも図示略)とを有する周知の芯鞘型の複合繊維からなる不織布と、PET繊維からなる不織布とにより構成されている。なお、上記複合繊維の鞘部をなす変性PETが繊維同士を結合するバインダとして機能する。
【0021】
変性PETの配合割合は、30~70%であることが好ましい。本実施形態では、変性PETの配合割合が50%とされている。
なお、こうした複合繊維としては他に、PETよりも融点の低いPP(ポリプロピレン)を有するものであってもよい。
【0022】
内層15及び外層16を構成する各繊維成形体の目付け量は共に、250g/m2~750g/m2であることが好ましい。本実施形態では、内層15及び外層16を構成する各繊維成形体の目付け量が共に400g/m2とされている。
【0023】
各半割体20,30は、所定の厚さ(例えば30~100mm)の上記不織布シートを熱圧縮(熱プレス)することにより成形されている。
次に、インレットダクト10の各部の形状について詳細に説明する。
【0024】
図1~
図3に示すように、本体部11の側壁11aは、複数の高圧縮部41と、互いに隣り合う高圧縮部41の間に位置し、高圧縮部41よりも低い圧縮率にて熱圧縮成形された通気性の複数の低圧縮部42とを有している。
【0025】
高圧縮部41の通気度(JISL1096,A法(フラジール形法))は、略0cm3/cm2・sとされている。また、高圧縮部41の板厚としては、0.5~1.5mmであることが好ましい。本実施形態では、高圧縮部41の板厚が0.7mmとされている。
【0026】
低圧縮部42の通気度は、3cm3/cm2・sとされている。また、低圧縮部42の板厚としては、0.8~3.0mmであることが好ましい。本実施形態では、低圧縮部42の板厚が1.0mmとされている。
【0027】
図1及び
図2に示すように、各高圧縮部41は、本体部11の周方向及び軸線方向にそれぞれ沿って延在する長辺及び短辺を有する矩形状をなしている。各高圧縮部41は、周方向に互いに間隔をおいて形成されるとともに、軸線方向に互いに間隔をおいて形成されている。
【0028】
低圧縮部42は、本体部11の軸線方向の全体にわたって同軸線方向に沿った直線状に延在するストレート部42Aと、本体部11の周方向に沿って延在する環状部42Bとを有している。
【0029】
図3に示すように、本体部11の側壁11aの外周面においては高圧縮部41と低圧縮部42とが段差43を介して連なる一方、本体部11の側壁11aの内周面においては高圧縮部41と低圧縮部42とが平らに連なっている。
【0030】
吸入部12の側壁12a全体は、高圧縮部41により構成されており、非通気性である。
接続部13の側壁13a全体は、低圧縮部42により構成されている。
【0031】
また、各半割体20,30の接合部21,31は、高圧縮部41により構成されており、非通気性である。
以上説明した本実施形態に係る内燃機関のインレットダクトによれば、以下に示す効果が得られるようになる。
【0032】
(1)インレットダクト10は、通気性の側壁11aを有する筒状の本体部11と、本体部11の上流側に設けられ、上流側ほど外周側に位置する内周面を有する筒状の吸入部12とを備えており、本体部11と吸入部12とが圧縮成形された繊維成形体により一体成形されている。
【0033】
こうした構成によれば、本体部11の側壁11aが、圧縮成形された繊維成形体からなり、通気性を有している。このため、インレットダクト10内において吸気音の音波の一部が上記側壁11aを通過する際に吸収されることで吸気騒音を低減することができる。
【0034】
また、上記構成によれば、本体部11と吸入部12とが圧縮成形された繊維成形体により一体成形されている。
このため、本体部11と吸入部12とを各別に形成し、本体部11と吸入部12とを接続する構成に比べて、インレットダクト10の構成が簡単となり、インレットダクト10を容易に形成することができる。
【0035】
また、吸入部12と本体部11との境界部分の段差を無くすことができるため、当該段差に起因してインレットダクト10の内部を流れる吸気の通気抵抗が増大することはない。
【0036】
したがって、本体部11の側壁11aに通気性を持たせることにより吸気騒音の低減を図りながらも、通気抵抗の増大を抑制することができる。
(2)吸入部12の側壁12a全体が非通気性である。
【0037】
こうした構成によれば、吸入部12の側壁12aを通じて外部の空気が吸われることがない。そのため、吸入部12の内面近傍における境界層の増大を抑制することができる。これにより、圧縮された繊維成形体により本体部11と吸入部12とを一体成形しながらも、吸入部12内における吸気の流れを一層円滑にすることができる。したがって、通気抵抗の増大を一層抑制することができる。
【0038】
(3)吸入部12がファンネル形状をなしている。
こうした構成によれば、吸入部12を通じて吸入される空気がその内周面のファンネル形状に沿って円滑に流れるようになり、同内周面からの吸気の剥離を抑制することができる。したがって、通気抵抗の増大を一層抑制することができる。
【0039】
(4)インレットダクト10は、本体部11の下流側に設けられた接続部13を備えている。本体部11、吸入部12、及び接続部13は、繊維成形体により一体成形されている。
【0040】
こうした構成によれば、インレットダクト10を構成する本体部11、吸入部12、及び接続部13が圧縮成形された繊維成形体により一体成形されているため、接続部をインレットダクト本体(本体部11及び吸入部12)とは別に形成し、接続部とインレットダクト本体とを接続する構成に比べて、インレットダクト10の構成が簡単となる。したがって、インレットダクト10を容易に形成することができる。
【0041】
(5)本体部11の側壁11aは、高圧縮部41と、高圧縮部41よりも低い圧縮率にて圧縮成形された低圧縮部42とを有している。また、本体部11の側壁11aの外周面においては高圧縮部41と低圧縮部42とが段差43を介して連なる一方、本体部11の側壁11aの内周面においては高圧縮部41と低圧縮部42とが平らに連なっている。
【0042】
こうした構成によれば、本体部11の側壁11aが高圧縮部41と低圧縮部42とを有している。そのため、高圧縮部41によりインレットダクト10の剛性を確保しつつ、低圧縮部42により吸気騒音の低減を図ることができる。
【0043】
(6)吸入部12の側壁12a全体が、高圧縮部41により構成されている。
こうした構成によれば、吸入部12の側壁12aを通じて外部の空気が吸われることがない。また、吸入部12の内面近傍における境界層の増大を抑制することができる。これにより、吸入部12内における吸気の流れを一層円滑にすることができる。したがって、通気抵抗の増大を一層抑制することができる。
【0044】
(7)インレットダクト10は、半割筒状をなす一対の半割体20,30を有しており、各半割体20,30が互いに突き合わされて接合されている。
こうした構成によれば、各半割体20,30を形成した後に各半割体20,30を互いに付き合わせて接合することによりインレットダクト10を形成することができる。このため、インレットダクト10を容易に形成することができる。
【0045】
<変形例>
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・上記実施形態のインレットダクト10の側壁を構成する内層15及び外層16の少なくとも一方に対して撥水処理を施すようにしてもよい。この場合、インレットダクト10の側壁を通じて雨水などがインレットダクト10の内部に浸入することを抑制できる。
【0046】
・インレットダクト10の側壁の層構造は上記実施形態において例示した2層構造を有するものに限定されない。他に例えば、
図5に示すように、内層15と外層16の間に中間層17を設けてもよい。この場合、各層15,16,17の少なくとも一方に対して撥水処理を施すようにしてもよい。
【0047】
・インレットダクト10は、一対の半割体によるものに限らない。例えば、帯状の繊維体を螺旋状に捲回するとともに熱成形することによってダクト本体を形成してもよい。この場合、ダクト本体の内周面を形成する繊維体の幅方向の端面同士を接合することにより、繊維体同士の間に段差が生じないようにすることが好ましい。
【0048】
・上記実施形態では、吸入部12の側壁12a全体を高圧縮部41により構成したが、吸入部の側壁を本体部11の側壁11aと同様な形状にすることもできる。すなわち、吸入部が、その側壁の外周面において高圧縮部41と低圧縮部42とが段差43を介して連なる一方、その内周面において高圧縮部41と低圧縮部42とが平らに連なっているものであってもよい。
【0049】
またこの場合、
図6に示すインレットダクト110のように、吸入部112の側壁112a全体を低圧縮部42により構成することもできる。この場合、吸入部112の側壁112aの外周面に非通気性のシート材を固定すれば、上記実施形態の効果(6)と同様な効果を奏することができる。
【0050】
・上記実施形態では、各半割体20,30を構成する本体部11、吸入部12、及び接続部13を一体成形したが、本体部11及び吸入部12を一体成形するとともに、これら本体部11及び吸入部12と接続部とを別部材にて構成することもできる。この場合、本体部及び吸入部を有する各半割体からなるインレットダクト本体に対して、例えば硬質樹脂材料からなる円筒状の接続部を接合すればよい。
【0051】
・吸入部12は、ファンネル形状をなすもの、すなわち湾曲した断面形状を有するものに限定されない。吸入部は、上流側ほど外周側に位置する内周面を有する筒状のものであればよく、例えば吸入部の内周面が上流側ほどインレットダクトの中心軸線から離間するように同中心軸線に対して所定の角度にて傾斜して延在するものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
10,110…インレットダクト、11…本体部、11a,12a,13a,112a…側壁、12,112…吸入部、13…接続部、13A…拡径部、13B…徐変部、15…内層、16…外層、17…中間層、20…第1半割体、21,31…接合部、30…第2半割体、41…高圧縮部、42…低圧縮部、42A…ストレート部、42B…環状部、43…段差、50…インレット。