(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】真空ポンプおよびバランス調整方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/64 20060101AFI20220105BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20220105BHJP
G01M 1/32 20060101ALI20220105BHJP
G01M 1/34 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F04D29/64 F
F04D19/04 D
G01M1/32
G01M1/34
(21)【出願番号】P 2018023910
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕章
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206345(JP,A)
【文献】実開昭62-018851(JP,U)
【文献】特開2003-071676(JP,A)
【文献】特開2015-048738(JP,A)
【文献】特開2008-144695(JP,A)
【文献】特開2010-121503(JP,A)
【文献】特開2011-012611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/64
G01M 1/32
G01M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランス調整用部材を複数のボルトを用いてポンプロータに固定する構成の回転体を備える真空ポンプにおいて、
前記複数のボルトには、軸芯に沿って第1の穴が形成された第1の中空ボルト、前記第1の穴とは穴径または穴深さが異なる第2の穴が軸芯に沿って形成された第2の中空ボルト、および、軸芯に沿った穴が形成されていない中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトが用いられている、真空ポンプ。
【請求項2】
請求項
1に記載の真空ポンプにおいて、
前記複数のボルトは、前記バランス調整用部材および前記ポンプロータを貫通し、それらを前記ポンプロータが固定される回転軸に共締めによりに固定する、真空ポンプ。
【請求項3】
請求項
1に記載の真空ポンプにおいて、
前記ロータ部品は、前記第1の中空ボルト、前記第2の中空ボルトおよび前記中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトにより前記ポンプロータに固定され、
前記ポンプロータは、前記ロータ部品を前記ポンプロータに固定する前記複数のボルトとは異なる複数のポンプロータ固定用ボルトによって前記回転軸に固定され、
前記複数のポンプロータ固定用ボルトには、軸芯に沿って第3の穴が形成された第3の中空ボルト、前記第3の穴とは穴径または穴深さが異なる第4の穴が軸芯に沿って形成された第4の中空ボルト、および、軸芯に沿った穴が形成されていない中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトが用いられている、真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記第1および第2の穴の少なくとも一方には、バランス調整用ネジが装着される雌ネジが形成されている、真空ポンプ。
【請求項5】
請求項
1に記載の真空ポンプにおけるバランス調整方法であって、
前記バランス調整用部材を複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトで前記ポンプロータに固定し、
前記回転体の第1のアンバランス量を計測し、
計測された前記第1のアンバランス量に基づいて、複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトの一部を前記第2の中空ボルトに交換し、
ボルト交換後の前記回転体の第2のアンバランス量を計測し、
計測された前記第2のアンバランス量に基づいて前記バランス調整用部材の一部を削除する、バランス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプおよびバランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプ等の真空ポンプでは、ポンプロータを備える回転体を数万r.p.m.という高速で回転して排気を行っている。回転体にアンバランスがあると振動が発生して静粛な運転を行わせることができないので、一般的には、組み立て後の回転体を高速回転させながら不釣合を測定し、アンバランスを修正するようにしている。アンバランス修正方法としては、特許文献1に記載されているように回転体の一部を削り取る方法や、特許文献2に記載のようにバランス修正用ネジを回転体に付加する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-021092号公報
【文献】特開2003-148389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アンバランス量が大きい場合には、除去する体積(すなわち削り量)が大きくなるという問題が生じ、また、バランス修正用ネジを回転体に付加する場合にはタップ周辺の応力的負荷が大きくなるという不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様による真空ポンプは、ポンプロータを複数のボルトを用いて回転軸に固定する構成の回転体、または、ロータ部品を複数のボルトを用いてポンプロータに固定する構成の回転体を備える真空ポンプにおいて、前記複数のボルトには、軸芯に沿って第1の穴が形成された第1の中空ボルト、前記第1の穴とは穴径または穴深さが異なる第2の穴が軸芯に沿って形成された第2の中空ボルト、および、軸芯に沿った穴が形成されていない中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトが用いられている。
さらに好ましい態様では、前記ロータ部品はバランス調整用部材である。
さらに好ましい態様では、前記複数のボルトは、前記バランス調整用部材および前記ポンプロータを貫通し、それらを前記ポンプロータが固定される回転軸に共締めによりに固定する。
さらに好ましい態様では、前記ロータ部品は、前記第1の中空ボルト、前記第2の中空ボルトおよび前記中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトにより前記ポンプロータに固定され、前記ポンプロータは、前記ロータ部品を前記ポンプロータに固定する前記複数のボルトとは異なる複数のポンプロータ固定用ボルトによって前記回転軸に固定され、前記複数のポンプロータ固定用ボルトには、軸芯に沿って第3の穴が形成された第3の中空ボルト、前記第3の穴とは穴径または穴深さが異なる第4の穴が軸芯に沿って形成された第4の中空ボルト、および、軸芯に沿った穴が形成されていない中実ボルトの内、少なくとも2種類のボルトが用いられている。
さらに好ましい態様では、前記第1および第2の穴の少なくとも一方には、バランス調整用ネジが装着される雌ネジが形成されている。
本発明の好ましい態様によるバランス調整方法では、前記ポンプロータの前記回転軸への固定、または、前記ロータ部品の前記ポンプロータへの固定を複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトで行い、前記回転体のアンバランス量を計測し、計測された前記アンバランス量に基づいて、複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトの一部を前記第2の中空ボルトに交換する。
本発明の好ましい態様によるバランス調整方法では、前記バランス調整用部材を複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトで前記ポンプロータに固定し、前記回転体の第1のアンバランス量を計測し、計測された前記第1のアンバランス量に基づいて、複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトの一部を前記第2の中空ボルトに交換し、ボルト交換後の前記回転体の第2のアンバランス量を計測し、計測された前記第2のアンバランス量に基づいて前記バランス調整用部材の一部を削除する。
本発明の好ましい態様によるバランス調整方法では、前記ロータ部品を複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトで前記ポンプロータに固定し、前記回転体の第1のアンバランス量を計測し、計測された前記第1のアンバランス量に基づいて、複数の前記中実ボルトまたは前記第1の中空ボルトの一部を前記第2の中空ボルトに交換し、ボルト交換後の前記回転体の第2のアンバランス量を計測し、計測された前記第2のアンバランス量に基づいて、前記第2の中空ボルトのいずれかの前記雌ネジに前記バランス調整用ネジを装着する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アンバランス調整のための削り量や、アンバランス調整用のネジを付加する場合の付加質量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明による真空ポンプの第1の実施の形態を示す図である。
【
図2】
図2は、ポンプロータとシャフトとの締結部の拡大図である。
【
図4】
図4は、アンバランス調整作業の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、アンバランス微調整方法の具体例を示す図である。
【
図8】
図8は、第3の実施の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、本発明による真空ポンプの第1の実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプ1の断面図である。ターボ分子ポンプ1は、回転翼40と固定翼30とで構成されるターボポンプ段と、円筒部41とステータ31とで構成されるネジ溝ポンプ段とを有している。ネジ溝ポンプ段においては、ステータ31または円筒部41にネジ溝が形成されている。回転翼40および円筒部41はポンプロータ4aに形成されている。ポンプロータ4aは、複数のボルト50,51により回転軸であるシャフト4bに締結されている。後述するように、ボルト50とボルト51とは構造が異なっている。ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト50,51で締結して一体とすることで、回転体4が形成される。
【0009】
ポンプ軸方向に配置された複数段の回転翼40に対して、複数段の固定翼30が交互に配置されている。各固定翼30は、スペーサリング33を介してポンプ軸方向に積層されている。シャフト4bは、ベース3に設けられた磁気軸受34,35,36によって非接触支持される。詳細な図示は省略したが、各磁気軸受34~36は電磁石と変位センサとを備えている。変位センサによりシャフト4bの浮上位置が検出される。なお、本実施の形態では磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明するが、本発明は磁気軸受式に限らず適用可能である。
【0010】
ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト締結した回転体4は、モータ10により回転駆動される。磁気軸受が作動していない時には、シャフト4bは非常用のメカニカルベアリング37a,37bによって支持される。回転体4をモータ10により高速回転すると、ポンプ吸気口側のガスは、ターボポンプ段(回転翼40、固定翼30)およびネジ溝ポンプ段(円筒部41、ステータ31)により順に排気され、排気ポート38から排出される。
【0011】
図2は、ポンプロータ4aとシャフト4bとの締結部の構成を示す図である。また、
図3は、
図2のA矢視図である。シャフト4bの締結面には、位置決め用の凸部43が形成されている。凸部43はポンプロータ4aの締結面に形成された位置決め用の凹部44に嵌合する。ボルト50,51は、ポンプロータ4aに形成された貫通孔42を貫通してシャフト4bの締結面に形成されたネジ穴45に螺合することで、ポンプロータ4aをシャフト4bに固定する。
【0012】
ボルト50は一般的な中実のボルトであるが、ボルト51には軸芯に沿って貫通穴510が形成されている。ボルト51の質量は、貫通穴510が形成されている分だけボルト50よりも軽い。一方、ボルト50、51の外形寸法(ボルトの長さ、ボルトの直径、ボルトのネジ径等)は共通である。従って、各々のネジ穴45には、ボルト50、51のいずれであっても螺合することができる。なお、符号511で示す部分は、ボルトヘッドに形成されている六角穴である。
図3に示すように、ポンプロータ4aをシャフト4bに締結するためのボルト50,51は合計で8本使用されている。
図3では、ボルト50が4本用いられ、ボルト51が4本用いられている。本実施の形態では、ポンプロータ4aをシャフト4bに固定するボルト50,51を回転体4のアンバランス修正用の部品としても利用している。その目的のために、質量の異なるボルト50,51を使用している。
【0013】
(アンバランス調整作業)
図4は、アンバランス調整作業の手順の一例を示すフローチャートである。ステップS10では、中実のボルト(標準のボルト)50を用いてポンプロータ4aをシャフト4bに固定する。ステップS20では、バランサーにより回転体4のアンバランス量を計測する。ステップS30では、ステップS20で計測されたアンバランス量が所定値(合格基準値)以内か否かを判定する。所定値以内と判定されるとアンバランス調整作業を終了する。この場合には、ポンプロータ4aをシャフト4bに固定しているボルトは、全て中実のボルト50ということになる。
【0014】
一方、ステップS30でアンバランス量が所定値を超過していると判定された場合にはステップS40へ進み、計測されたアンバランス量に基づいて8本のボルト50の内の一部を中空のボルト51に交換する。例えば、
図3に示す例は、矢印で示すB方向にアンバランス量があった場合の調整例である。ボルト50とボルト51との質量差をΔmとし、配置されたボルト50,51のポンプロータ4aの中心軸からの距離をRとすると、ボルト交換によるアンバランス修正量C(g・m)は次式(1)のようになる。
C=(1+√3)・Δm・R …(1)
【0015】
ステップS50では、ボルト交換後の回転体4のアンバランス量をバランサーにより計測する。ステップS60では、ステップS50で計測されたアンバランス量が所定値以内か否かを判定する。ステップS60で所定値以内と判定されると、アンバランス調整作業を終了する。一方、所定値を超過していると判定された場合には、ステップS70へ進んでさらにアンバランス微調整を行う。
【0016】
ステップS40のボルト交換により、アンバランス量は上述したアンバランス修正量C(g・m)だけ小さくなる。しかし、ステップS20で計測されたアンバランス量C1よりもアンバランス修正量Cの方が小さければ、修正後も矢印B方向に(C1-C)だけの微小なアンバランス量が残存し、逆に、C1<Cの場合にはB方向と反対方向に(C-C1)だけの微小なアンバランス量が発生することになる。
【0017】
ステップS70では、微小なアンバランス量を相殺するようなアンバランス微調整を行う。具体的な調整方法については後述する。ステップS70でアンバランス微調整を行ったならば、ステップS80でアンバランス量の計測を行い、ステップS90においてアンバランス量が所定値以内か否かを判定する。所定値以内と判定されるとアンバランス調整作業を終了し、所定値を超過していると判定されるとステップS70に戻って再びアンバランス微調整を行う。このようにして、アンバランス微調整によりアンバランス量が所定値以内となったならば、アンバランス調整作業を終了する。
【0018】
(アンバランス微調整)
図5は、上述したステップS70におけるアンバランス微調整の具体例を示す図である。
図5(a)に示す例では、ロータ部品としてアンバランス調整用のバランスリング60をさらに設け、符号Dで示すようにバランスリング60の一部を削除することでアンバランスの微調整を行う。ボルト50,51は、バランスリング60およびポンプロータ4aを貫通し、それらをシャフト4bに共締めによりに固定している。
【0019】
バランスリング60を用いたアンバランス微調整は、ボルト交換によるアンバランス修正後においても所定値を超えるアンバランス量が残存する場合に行われる。残存するアンバランス量を相殺するようにバランスリング60の図示右側の端部をドリル等により削除する。なお、バランスリング60の固定方法としては、後述するように(
図7参照)ポンプロータ4aをシャフト4bに固定するボルトとは別のボルトを用いてポンプロータ4aに固定する方法も有るが、
図5(a)のような共通のボルト50,51を用いた共締め構成とすることにより、部品点数の削減および作業性の向上を図ることができる。
【0020】
図5(b)は、アンバランス微調整の他の方法を示す図である。この場合も、ボルト交換によるアンバランス修正後において所定値を超えるアンバランス量が残存する場合に行われ、さらにボルト52を追加することによってアンバランス微調整を行うようにしている。ボルト51に設けられた貫通穴510には雌ネジ512が形成されており、その雌ネジ512の部分にアンバランス微調整用のボルト52が螺合するように固定されている。
【0021】
上述のように、本実施の形態では、ターボ分子ポンプ1はポンプロータ4aを複数のボルトを用いて回転軸であるシャフト4bに固定する構成(
図2参照)であって、複数のボルトには、軸芯に沿って貫通穴510が形成された中空のボルト51と、軸芯に沿って穴が形成されていない中実のボルト50とが用いられている。そのため、回転体4を固定している複数のボルト50の一部を中空のボルト51と交換することで、アンバランス調整を行うことが可能となる。その結果、アンバランス調整よるポンプロータ4aの削り量や、アンバランス調整用のネジを装着する場合の付加質量を小さく抑えることができる。
【0022】
また、
図5(a)に示すように、ロータ部品としてのバランスリング60を複数のボルトを用いてポンプロータ4aに固定する構成において、複数のボルトとして、軸芯に沿って貫通穴510が形成された中空のボルト51と、軸芯に沿って穴が形成されていない中実のボルト50とを用いるようにしても良い。そのような構成とすることで、
図2の構成の場合と同様に、複数のボルト50の一部を中空のボルト51と交換することで、ポンプロータ4aの削り量や、アンバランス調整用ネジを付加する場合の付加質量を低減することができる。
【0023】
さらにロータ部品がバランスリング60である場合には、複数のボルト50の一部を中空のボルト51と交換することでアンバランスの粗調整を行った後に、バランスリング60の一部を削除することでアンバランス微調整をすることができ、高精度なアンバランス調整を行うことが可能となる。また、ボルト交換によるアンバランス調整を併用することにより、従来のようにバランスリング60やポンプロータ4aの一部削除だけでアンバランス調整を行う場合に比べて、削除量を少量に抑えることができる。
【0024】
さらに、
図5(b)のようにボルト51の貫通穴510に雌ネジ512を形成する構成の場合、その雌ネジ512にバランス調整用のボルト52や止めネジ等を装着することで、アンバランス微調整を行うことが可能となる。その結果、バランスリング60の削除量をより小さくすることができると共に、バランスリング60を省略することも可能となる。
【0025】
従来、バランス調整用ボルトや止めネジ等を用いてバランス調整を行う場合には、付加質量を抑えるためにシャフト4bの中心軸から離れた位置にバランス調整用ボルトを付加するようにしている。そのため、バランス調整用ボルトは、中心軸から見てポンプロータ固定用ボルトの位置やバランスリング固定用ボルトの位置よりも外側の領域に配置される場合が多い。そのため、
図5(b)に示すように、ボルト52がポンプロータ4aを固定するボルト51と同軸に配置される場合の方が、遠心力によるタップ周辺への圧力的負荷を小さく抑えることができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態では、バランス調整を兼ねるボルト51に貫通穴510を形成したが、中空を形成するための穴は貫通していなくても良い。また、アンバランス調整の調整量をより細かく設定できるように、穴径や穴深さの異なる複数の中空ボルトを調整用のボルト51として用意しておき、計測されたアンバランス量に応じてそれらを組み合わせて用いるようにしても良い。また、ボルト51に形成する穴は、ボルト51の軸芯に沿って形成するのが好ましい。その理由は、穴がボルト軸芯からずれていると、ボルト51で締結する際の回転位置に応じてアンバランス調整量が異なるからである。
【0027】
-第2の実施の形態-
図6は第2の実施の形態を示す図であり、上述した
図2の場合と同様にポンプロータ4aとシャフト4bとの締結部を拡大したものである。第2の実施の形態では、ポンプロータ4aをシャフト4bに固定するボルトとして、貫通穴510が形成された中空のボルト51と、穴径のより小さな貫通穴530が形成された中空のボルト53とが用いられている。
【0028】
本実施の形態の場合には、締結目的のみで用いられているボルト53にも貫通穴530が形成されている。この貫通穴530は、ボルト53をシャフト4bのネジ穴400に螺合させたときに、ネジ穴400に気体が閉じ込められるのを防止するためのガス抜き用穴である。そのため、貫通穴530は貫通していることが必須である。真空ポンプを高真空で用いる場合には、ネジ穴400の部分に残留するガスがスローリークという形態で真空側へ漏れ出る場合があり、これが真空度に影響を及ぼすおそれがある。そのため、ポンプロータ固定用のボルトに貫通穴を形成して、真空引きしたときにネジ穴400の残留ガスが排出されるような構成とした。
【0029】
このようなガス抜き用の貫通穴は、アンバランスの調整に用いられる中空のボルト51の場合と比べ、穴径を大きくする必要はなく可能な限り小さい方が好ましい。例えば、深さ40(mm)の穴であれば,直径3(mm)程度あればガス抜き用の貫通穴として機能する。このように、ガス抜き用の貫通穴530が形成されたボルト53をポンプロータ固定用のボルトとして使用する場合にも、中空のボルト51を混在して用いることで、従来は固定用ボルトのみに使用されていたボルトをアンバランス調整の部材として利用することが可能となる。なお、本実施の形態のように穴径の異なる2種類のボルト51,53を用いる場合、
図4のアンバランス修正処理におけるステップS40では、処理内容を複数のボルト51の一部をボルト53で交換するという内容に置き換えられる。
【0030】
本実施の形態の場合においても、第1の実施の形態の場合と同様に、ボルト51の貫通穴510には雌ネジを形成し、その雌ネジ部分にアンバランス微調整用のボルト52を設けるようにしても良い。また、複数の穴径のボルト51を用いてより細かくアンバランス調整をできるようにしても良い。さらに、
図5(a)に示すようなバランスリング60を設けて、バランスリング60の一部を削除することでアンバランス微調整を行っても良い。
【0031】
さらにまた、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、穴径や穴深さの異なる複数の中空ボルトを調整用のボルト51として用意しておき、計測されたアンバランス量に応じてそれらを組み合わせて用いるようにしても良い。それにより、ボルト交換によるアンバランス調整の調整量をより細かく設定することができる。
【0032】
-第3の実施の形態-
図7は第3の実施の形態を示す図であり、上述した
図2の場合と同様にポンプロータ4aとシャフト4bとの締結部を拡大したものである。上述した
図5(a)に示す例では、バランスリング60とポンプロータ4aとを共通のボルト50,51で共締めにてシャフト4bに固定した。
【0033】
一方、本実施の形態では、
図7に示すように、ボルト50でポンプロータ4aをシャフト4bに固定し、バランスリング60は別のボルト54,55によりポンプロータ4aの上面に固定するようにした。ボルト55の中空部はネジ穴550となっており、アンバランス微調整用のボルト52をネジ穴550に装着することができる。ボルト50によるポンプロータ4aのシャフト4bへの固定は、シャフト側から行われる。最初の粗いアンバランス調整(
図4のステップS40におけるアンバランス調整)は、中実のボルト54の一部を中空のボルト55に交換することで行われる。
【0034】
なお、
図4のアンバランス調整方法を適用する場合、
図4のステップS70におけるアンバランス微調整は、ボルト55のネジ穴550にボルト52を装着することで行っても良いし、バランスリング60の一部を削除することで調整しても良い。
【0035】
(変形例)
図8は第3の実施の形態の変形例を示す図である。
図7に示す例ではポンプロータ4aのシャフト4bへの固定は中実のボルト50だけで行われていたが、
図8に示す変形例では中実のボルト50と中空のボルト51を混在させるようにした。すなわち、ボルト51で粗いアンバランス修正を行えるような構成とした。
【0036】
このように、
図8に示す変形例では、ポンプロータ4aは、ロータ部品であるバランスリング60をポンプロータ4aに固定するボルト54,55とは異なる複数のポンプロータ固定用のボルト50,51によってシャフト4bに固定され、ポンプロータ4aを固定するボルトに、軸芯に沿って貫通穴510が形成された中空のボルト51と、中実のボルト50とを用いている。その結果、ボルト54をボルト55に交換することによるアンバランス調整に加えて、ボルト50をボルト51に交換することによるアンバランス調整も行うことができ、より大きなアンバランス量の粗調整をより細かく行うことができる。
【0037】
さらに、
図8に示すように、中空のボルト55に微調整用のボルト52が螺合可能なネジ穴550を形成することで、ボルト52の追加によりアンバランスの微調整を行うことができる。すなわち、粗いアンバランス調整をボルト51で行った後にボルト52を利用して微調整を行い、さらに、バランスリング60を一部削除することでより細かな微調整を行うことが可能である。その結果、バランスリング60の削除量を最小限に抑えつつ非常に正確なアンバランス調整を行うことができる。
【0038】
なお、バランスリング60のポンプロータ4aへの固定に関しては、
図8に示すように中実のボルト54に中空のボルト55を混在させても良いし、全てをボルト54としても良い。また、
図8に示す構成の場合も、
図2の場合と同様に、中空のボルト51として、穴径または穴深さが異なる複数のボルトを設定しても良く、同様の効果を奏することができる。
【0039】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、ターボ分子ポンプに限らず、他の種類の分子ポンプにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…ターボ分子ポンプ、4…回転体、4a…ポンプロータ、4b…シャフト、50~55…ボルト、60…バランスリング、400,550…ネジ穴、510,530…貫通穴、512…雌ネジ