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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポット精紡機における巻き返し方法
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/08 20060101AFI20220105BHJP
   D01H 7/84 20060101ALI20220105BHJP
   D01H 15/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D01H1/08
D01H7/84
D01H15/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018025876
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019143252
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】冨永 直路
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康広
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-256434(JP,A)
【文献】特開平08-170227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するポットを回転させるとともに、所定の細さに引き伸ばされた糸を前記ポットの内壁に巻き付けてケークを形成するケーク形成ステップと、
前記ケーク形成ステップの完了前に糸切れ検知部により前記糸が切れたことを検知した場合に前記ケークの巻き終わり側の端部を検知するケーク端部検知ステップと、
前記ケーク形成ステップ完了後に前記開口部を通して前記ポット内にボビンを配置するボビン配置ステップと、
前記ケークの巻き終わり側の前記開口部を通して前記ケーク端部検知ステップで検知した前記ケークの端部と前記ケークの巻き終わり側の前記開口部との間の前記ポットの内壁に細長部材の先端を接触させる接触ステップと
を有するポット精紡機における巻き返し方法。
【請求項2】
前記接触ステップの後に、前記ポットの前記内壁に前記細長部材を接触させたまま前記細長部材を上昇させ、前記ケークの前記開口部側の端部に接触させる移動ステップを有する請求項1に記載のポット精紡機における巻き返し方法。
【請求項3】
前記ケーク端部検知ステップにおいて、前記糸が切れたことを検知するタイミングに基づいて、前記ケークの端部の位置を検知する請求項1又は2に記載のポット精紡機における巻き返し方法。
【請求項4】
前記ポットを複数有する場合に、前記接触ステップにおいて、複数の前記ポットの前記内壁に前記細長部材を同時に接触させる請求項1~のいずれか一項に記載のポット精紡機における巻き返し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機における糸切れ時の巻き返し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡方法の1つとして、円筒形のポットを用いるポット精紡方法が知られている。特許文献1に記載のポット紡績方法では、導糸管の外側に、導糸管と同軸に円筒形のボビンを配置している。そして、導糸管から紡出される糸に撚りを加えながら、ポットの内壁に糸を巻き付けてケークを形成した後、ボビンへの糸の巻き返しを開始する構成になっている。
【0003】
紡出中に何らかの原因で糸切れが発生した場合、糸通し部材の切刃をポットの内壁に形成されたケークに当てることでケークより糸を持ち上げて、再度ボビンへの糸の巻き返しを開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-256434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポット紡績方法では、ケークに切刃を当てたときに、ケークの最上層の糸ともにケークの下層の糸も持ち上げてしまい、ボビンへ複数の糸層が一度に巻き返される、多層巻き返しと呼ばれる不良が発生するという課題があった。多層巻き返しが発生するとボビンに大量の糸が絡まり、後工程で解舒できないという問題を引き起こす。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、多層巻き返しの発生を少なくすることができるポット精紡機における糸切れ時の巻き返し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポット精紡機における巻き返し方法は、開口部を有するポットを回転させるとともに、所定の細さに引き伸ばされた糸をポットの内壁に巻き付けてケークを形成するケーク形成ステップと、ケーク形成ステップの完了前に糸切れ検知部により糸が切れたことを検知した場合にケークの巻き終わり側の端部を検知するケーク端部検知ステップと、ケーク形成ステップ完了後に開口部を通してポット内にボビンを配置するボビン配置ステップと、ケークの巻き終わり側の開口部を通してケーク端部検知ステップで検知したケークの端部とケークの巻き終わり側の開口部側との間のポットの内壁に細長部材の先端を接触させる接触ステップとを有する。
【0008】
また、接触ステップの後に、ポットの内壁に細長部材を接触させたまま細長部材を上昇させ、ケークの開口部側の端部に接触させる移動ステップを有してもよい。
また、ケーク端部検知ステップにおいて、糸が切れたことを検知するタイミングに基づいて、ケークの端部の位置を検知してもよい
た、ポットを複数有する場合に、接触ステップにおいて、複数のポットの内壁に細長部材を同時に接触させてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開口部を有するポットを回転させるとともに、所定の細さに引き伸ばされた糸をポットの内壁に巻き付けてケークを形成するケーク形成ステップと、ケーク形成ステップの完了前に糸切れ検知部により糸が切れたことを検知した場合にケークの開口部側の端部を検知するケーク端部検知ステップと、ケーク形成ステップ完了後に開口部を通してポット内にボビンを配置するボビン配置ステップと、開口部を通して前記ケーク端部検知ステップで検知したケークの端部よりも開口部側のポットの内壁に細長部材を接触させる接触ステップとを有するので、多層巻き返しの発生を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るポット精紡機の上部の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係るポット精紡機の下部の構成例を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係るポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図5図1に示す導糸管の動作を説明する図である。
図6】ケーク形成ステップにおける図1に示す導糸管の動作を説明する図である。
図7】本発明の実施形態に係るボビンレール及び細長部材の動作タイミングを説明する図である。
図8】本発明の実施形態に係る巻き返しの第1の状態を説明する断面図である。
図9】本発明の実施形態に係る巻き返しの第2の状態を説明する断面図である。
図10図7に示すボビンレールの動作タイミング及びソレノイドの動作タイミングを説明する拡大図である。
図11】本発明の実施形態に係る巻き返しの第3の状態を説明する断面図である。
図12】本発明の実施形態に係る巻き返しの第4の状態を説明する断面図である。
図13】本発明の実施形態に係る巻き返しの第5の状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係るポット精紡機について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るポット精紡機のポットより上部の構成例を示す概略図である。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置10と、導糸管11と、ポット12と、ボビン支持部13と、を備えている。なお、これらの構成要素は、精紡の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は、複数の紡錘を備えるものであるが、図1ではそのうちの1つの紡錘の構成について説明する。
【0013】
(ドラフト装置)
ポット20の上方にはドラフト装置が設けられている。ドラフト装置10は、粗糸などの糸材料を所定の細さに引き伸ばす装置である。ドラフト装置10は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、糸材料の搬送方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17の順に配置されている。
【0014】
各々のローラ対15,16,17は、後述するドラフト駆動部の駆動に従って回転するものである。各々のローラ対15,16,17の単位時間あたりの回転数(rpm)を比較すると、ミドルローラ対16の回転数はバックローラ対15の回転数よりも高く、フロントローラ対17の回転数はミドルローラ対16の回転数よりも高い。このように各々のローラ対15,16,17の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置10は糸材料を細く引き伸ばす。以降の説明では、ローラ対の回転数を回転速度ともいう。ローラ対の回転数と回転速度とは互いに比例関係にある。
【0015】
(導糸管)
導糸管11は、ドラフト装置10で所定の細さに引き伸ばされた糸18をポット12内に導くものである。導糸管11は、細長い管状に形成されている。導糸管11を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。
【0016】
導糸管11は、ドラフト装置10の下流側に、ポット12と同軸に配置されている。導糸管11の下部は、ポット12内に挿入されている。導糸管11は、フロントローラ対17から糸供給管14を通して供給される糸18をポット12内に導く。ドラフト装置10で引き伸ばされた糸18は、たとえば、空気の旋回流を利用して糸供給管14に引き込まれた後、糸供給管14を通して導糸管11に導入される。導糸管11に導入された糸18は、導糸管11の下端部11aから紡出される。導糸管11は、後述する導糸管駆動部によって上下方向に移動可能に設けられている。
【0017】
フロントローラ対17と糸供給管14との間には糸センサ19が配置されている。なお、糸センサはフロントローラ対17と糸供給管14との間以外の任意の位置に配置してもよい。糸センサ19は、ドラフト装置10によって引き伸ばされる糸の状態を検出するセンサである。本実施形態においては、糸センサ19が検出する糸の状態の一例として、糸切れを挙げる。また、本実施形態では、一例として、発光器19aと受光器19bを組み合わせた光センサを用いて糸センサ19が構成されている。糸センサ19は、糸切れ検知部を構成している。
【0018】
(ポット)
ポット12は、ケーク28の形成と糸の巻き返しに用いられるものである。ポット12は、円筒形に形成されている。ポット12は、ポット12の中心軸回りに回転可能に設けられている。ポット12の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット12の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。
【0019】
ポット12は、後述するポット駆動部の駆動に従って回転するものである。ポット12の上端側には導糸管挿入口21が形成されている。導糸管挿入口21は、ポット12に導糸管11を挿入するための開口である。ポット12の下端部には開口部23が形成されている。導糸管挿入口21は、ポット12の内容積を規定する、内壁22の位置を基準とする直径(以下、「ポット内径」という。)よりも小さな直径で上向きに開口している。開口部23は、ポット内径と同じ直径で下向きに開口している。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係るポット精紡機のポットより下部の構成例を示す概略図である。
ポット精紡機1の下部には、ボビンレール26の上に載せられた円筒形のボビン25と、ボビン25を収容することができるポット20と、フィラー(細長部材)73と、ワゴンユニット75とが設けられている。ボビン25及び細長部材73は、ボビンレール26に沿って紡錘の数だけ複数配置されている。
【0021】
(細長部材)
ボビンレール26は、垂直方向に昇降可能に構成されている。ボビンレール26の下方には、スライドパイプ71がボビンレール26に沿って設けられている。スライドパイプ71は、ボビンレール26に固定されたスライダガイド72に、ボビンレール26に沿って水平方向に移動可能に支持されている。細長形状の細長部材73はボビンレール26を貫通し、図示しない支持手段によってスライドパイプ71に上下自在に支持されている。
【0022】
スライドパイプ71にはソレノイド74が設けられている。ソレノイド74がオン状態になることで、スライドパイプ71がボビンレール26に沿う方向に移動し、各細長部材73はボビンレール26に沿って水平方向に一斉に移動する。
【0023】
ワゴンユニット75は、細長部材73の下方をボビンレール26に沿って走行する。また、図示しないサーボモータにより上下する押上腕76を用いて、任意の細長部材73を持ち上げる。ワゴンユニット75が細長部材73を持ち上げた後、ボビンレール26の上昇動作で細長部材73がポット20の内側に位置する。
【0024】
図3は、本発明の実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、ポット精紡機1は、制御部51と、ドラフト駆動部52と、導糸管駆動部53と、ポット駆動部54と、ボビン駆動部55と、巻き返し手段駆動部56と、ソレノイド74と、ワゴンユニット75を備えている。
【0025】
(制御部)
制御部51は、ポット精紡機1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部51には、動作制御の対象として、ドラフト駆動部52、導糸管駆動部53、ポット駆動部54、ボビン駆動部55、巻き返し手段駆動部56、ソレノイド74及びワゴンユニット75が電気的に接続されている。また、制御部51には、糸センサ19が電気的に接続されている。糸センサ19は、ドラフト装置10で糸切れが発生した場合に、その旨を知らせる糸切れ発生信号を制御部51に出力する。
【0026】
(ドラフト駆動部)
ドラフト駆動部52は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の回転数で回転させるものである。ドラフト駆動部52は、制御部51からドラフト駆動部52に与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17を回転させる。
【0027】
(導糸管駆動部)
導糸管駆動部53は、導糸管11を動作させるものである。導糸管駆動部53は、導糸管11を上下方向に移動させるように動作させる。導糸管駆動部53は、制御部51から導糸管駆動部53に与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を上下方向に移動させる。
【0028】
(ポット駆動部)
ポット駆動部54は、ポット12を回転させるものである。ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の中心軸Kを回転中心としてポット12を回転させる。
【0029】
(ボビン駆動部)
ボビン駆動部55は、ボビン25を動作させるものである。ボビン駆動部55は、ボビン支持部13のボビン装着部27に装着されたボビン25を、ボビン支持部13およびボビンレール26と一体に上下方向に移動させるように動作させる。ボビン駆動部55は、制御部51から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、ボビン25を上下方向に移動させる。
【0030】
(巻き返し手段駆動部)
巻き返し手段駆動部56は、通常巻き返しを行う場合に図示しない巻き返し手段を動作させるものである。巻き返し手段駆動部56は、制御部51から与えられる巻き返し手段駆動信号に基づいて駆動することにより、巻き返し手段を動作させる。
【0031】
<ポット精紡方法>
続いて、本発明の実施形態に係るポット精紡方法について説明する。
図4は、ポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図4に示すように、ポット精紡方法は、紡出動作において、ケーク端部検知ステップS1と、細長部材位置調整ステップS2とを有する。また、巻き返し動作において、ボビン配置ステップS3と、接触ステップS4と、移動ステップS5と、細長部材退避ステップS6と、ボビン配置ステップS3Aと、巻き返し手段駆動ステップS7とを有する。
【0032】
ケーク端部検知ステップS1は、糸切れ時にケーク28のケーク下端部28b(図1参照)を検知するステップである。細長部材位置調整ステップS2は、糸切れが検知された錘に対応する細長部材73の位置を調整するステップである。巻き返し動作は、糸切れが発生した錘に対する細長部材73を用いた糸切れ巻き返しと、糸切れが発生していない錘に対する巻き返し手段を用いた通常巻き返しとからなる。糸切れ巻き返しは、ボビン配置ステップS3の後、接触ステップS4と、移動ステップS5と、細長部材退避ステップS6とを含んでいる。ボビン配置ステップS3は、ボビン25をポット12の内部に進入させて、巻き返しを開始する位置に配置するステップである。接触ステップS4は、細長部材73をポット12の内壁22の、ケーク下端部28bよりも下方に押し当てるステップである。移動ステップS5は、細長部材73をケーク下端部28bに向けて移動させるステップである。細長部材退避ステップS6とは、細長部材73を原位置に退避させるステップである。通常巻き返しは、ボビン配置ステップS3Aの後、巻き返し手段駆動ステップS7により巻き返し手段が駆動してボビン25へ巻き返しを行う。以下、各ステップに基づくポット精紡機1の動作について説明する。
【0033】
なお、ポット精紡機1を動作させる前は、糸供給管14に導糸管11が近接して配置されるとともに、ボビン支持部13のボビン装着部27にボビン25が装着され、かつ、ボビン25がポット12よりも下方に退避して配置されているものとする。
【0034】
(引き伸ばし動作)
最初に、引き伸ばし動作が図1に示すようにドラフト装置10を用いて行われる。ドラフト駆動部52は、制御部51から与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の回転速度で回転させる。これにより、粗糸などの糸材料は、各々のローラ対15,16,17の回転に従って搬送される。
【0035】
その際、制御部51は、バックローラ対15の回転速度をミドルローラ対16の回転速度よりも低速に設定するとともに、ミドルローラ対16の回転速度をフロントローラ対17の回転速度よりも低速に設定する。これにより、バックローラ対15とミドルローラ対16との間では、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。同様に、ミドルローラ対16とフロントローラ対17との間でも、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。
【0036】
その結果、粗糸などの糸材料は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17を順に通過しながら所定の細さに引き伸ばされる。こうして引き伸ばされた糸18は、その後、空気の旋回流を利用して糸供給管14に引き込まれた後、導糸管11に導入される。
【0037】
また、制御部51は、引き伸ばし動作の開始に先立って、ポット駆動部54にポット駆動信号を与えることにより、ポット12を所定の回転数で回転させる。
【0038】
(ケーク形成ステップ)
次に、ケーク形成ステップが、導糸管11とポット12を用いて行われる。導糸管駆動部53は、制御部51から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を所定量だけ下方に移動させる。また、ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の回転を継続する。なお、導糸管11を下方に移動させると、糸供給管14から導糸管11が離間した状態となる。また、糸供給管14から導糸管11に導入された糸18は、導糸管11の下端部11aから紡出される。
【0039】
導糸管11の下端部11aから紡出される糸18には、ポット12の回転による遠心力が働き、この遠心力によって糸18がポット12の内壁22に押し当てられて接触する。また、ポット12の内壁22に押し当てられた糸18は、ポット12の回転によって撚られる。その結果、導糸管11の下端部11aから紡出される糸18は、ポット12の回転によって撚りを加えられた状態でポット12の内壁22に巻き付けられる。
【0040】
また、導糸管駆動部53は、上記導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、図5に示すように、導糸管11を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管11の位置を相対的に下方に変位させる。これにより、ポット12の内壁22にケーク28が形成される。ケーク28は、ポット12の内壁22に巻かれた糸18によって形成される積層体である。
【0041】
図6は、ケーク形成ステップにおける導糸管の動作を説明する図である。図中の縦軸は、ポット中心軸方向における導糸管の位置を示し、横軸は時間を示す。
図6において、導糸管11は、まず、P1位置まで下降した後、P2位置まで上昇し、次いでP3位置まで下降した後、P4位置まで上昇する。つまり、導糸管11は繰り返し上下方向に往復移動する。この場合、導糸管11がP1位置に到達してからP3位置に到達するまでの期間T1、および、導糸管11がP2位置に到達してからP4位置に到達するまでの期間T2が、それぞれ一周期となる。また、導糸管11の位置を相対的に下方に変位させるため、P3位置はP1位置よりも低位となり、P4位置はP2位置よりも低位となる。P1位置とP3位置との上下方向のズレ量H1、および、P2位置とP4位置との上下方向のズレ量H2は、それぞれ一周期における導糸管11の変位ステップ量となる。つまり、導糸管11は、一定の周期で繰り返し上下方向への往復移動を繰り返しながら、一定の変位ステップ量ずつ下方に変位する。このような導糸管11の動作は、導糸管11がPm位置に到達するまで続く。この場合、P1位置は、図1に示すケーク28の巻き始め側の端部(以下、「ケーク上端部」ともいう。)28aを規定し、Pm位置は、同図に示すケーク28の巻き終わり側の端部(以下、「ケーク下端部」ともいう。)28bを規定する。
【0042】
制御部51は、導糸管駆動部53に導糸管駆動信号を与えることにより、図5および図6に示すように導糸管11を動作させる。これにより、ポット12の内壁22には図5に示すような形状でケーク28が形成される。本実施形態では、ケーク形成ステップにおいて、導糸管11の動作によりケーク28を形成した後、さらに次のようなステップを含む。
【0043】
制御部51は、導糸管11がPm位置に到達した後、導糸管11を所定量Lhだけ下方に移動させる。これにより、ポット12の内壁22には、図5に示すように、ケーク28のケーク下端部28bよりも開口部23側の領域22aに、ボビン25への巻き返し起点部となる糸部18aが巻き付けられる。この糸部18aは、1層で巻き付けてもよいし、複数層で巻き付けてもよい。糸部18aを1層で巻き付ける場合は、導糸管11をPm位置からPn位置へと下降させた段階で糸切りを行えばよい。また、糸部18aを複数層で巻き付ける場合は、導糸管11をPm位置からPn位置へと下降させてから、Pn位置よりも高い位置まで上昇させる動作を、少なくとも1回行った段階で糸切りを行えばよい。
【0044】
ここで、「糸切り」と「糸切れ」の違いについて説明する。
糸切りは、ポット12の内壁22に予め決められた所定量の糸18が巻かれた段階で意図的に行われるものである。これに対し、糸切れは、ポット12の内壁22に所定量の糸18が巻かれる前に何らかの理由によって途中で糸18が切れてしまう現象である。
【0045】
糸切りは、制御部51の制御下で行われる。具体的には、制御部51は、フロントローラ対17の回転を継続したまま、バックローラ対15およびミドルローラ対16の回転を共に停止するように、ドラフト駆動部52の駆動を制御する。これにより、ミドルローラ対16の下流側で糸18が強制的に切られる。
【0046】
(ケーク端部検知ステップ)
ケーク形成ステップの完了前に糸切れが発生した場合は、ケーク端部検知ステップS1が行われる。このケーク端部検知ステップS1は、糸切れが発生したポット12毎に行われる。糸切れが糸センサ19に検知されると、糸切れ発生信号を制御部51に出力する。このとき、制御部51は糸切れ発生信号が入力されたタイミングから、ケーク28のケーク下端部28bの位置を検知する。図6に示すように、例えば導糸管11がP1位置に到達してからP3位置に到達するまでの期間T1においては、P1より上方で糸切れが発生した場合はP1がケーク下端部28bとなり、下降中にP1に達してからP3に至るまでに糸切れが発生した場合は、糸切れ発生時の導糸管11の位置がケーク下端部28bとなる。このように、制御部51は、糸切れ発生信号が入力されたタイミングがどの期間であるかを判定することで、そのポット12におけるケーク下端部28bの位置を検知する。
【0047】
なお、糸切れが発生したポット12についてはそれ以上ケーク28が形成されないが、糸切れの発生していないポット12ではケーク形成ステップの終了までケーク28の形成が行われる。
【0048】
(細長部材位置調整ステップ)
次に、細長部材位置調整ステップS2においては、制御部51が、ワゴンユニット75(図2参照)に駆動信号を入力して糸切れの発生したポット12の位置まで走行させる。糸切れの発生したポット12の位置に到達したワゴンユニット75は、制御部51から駆動信号を入力されることにより、押上腕76を上昇させて細長部材73を持ち上げる。このとき図7に示すように、時間U1で細長部材73が持ち上げられたときの高さは、細長部材73の先端が初期位置であるA0から、後述する接触ステップS4においてケーク下端部28b(図5参照)の数ミリ下であるA1となるように持ち上げられる。細長部材73が持ち上げられたら、押上腕76は下降する。細長部材73は図示しない支持手段によって高さが保持される。
【0049】
(巻き返し動作)
巻き返し動作は、ケーク形成ステップが完了した後に行われる。なお、以降の図8図9図11図13においては、ケーク端部検知ステップS1において糸切れが検知されていたポット12を図示する。
【0050】
(ボビン配置ステップ)
ケーク形成ステップにおいて、糸切れが検知されていたポット12においては、ボビン配置ステップS3が行われる。ボビン配置ステップS3では、ポット駆動部54(図3参照)の駆動により、開口部23を通してポット12内にボビン25を配置する。ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の回転を継続する。ボビン駆動部55は、制御部51から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、ボビン支持部13を上方に移動させる。これにより、後述する図9に示すようにボビン装着部27(図1参照)に装着されているボビン25が、最高点の数mm下まで、共に上方に移動する。具体的には図7に示すように、時間U2から時間U3の間にボビンレール26の高さが初期位置B0から、ボビンレール26の最高点の数mm下であるB1まで上昇する。
【0051】
また、図8及び図9に示すように、ボビン25は、ポット12の開口部23を通してポット12内に進入する。一方、導糸管駆動部53は、制御部51から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を上方に移動させる。これにより、ポット12内では、ボビン25の進入に先立って、導糸管11の下端部11aがボビン25に接触しない位置へと退避する。
【0052】
また、ケーク端部検知ステップS1において糸切れを検知されていたポット12においては、細長部材73が図7に示すようにA1まで持ち上げられているので、図9に示すように、細長部材73はボビン25と共にポット12内に進入してA2の高さまで上昇する。
【0053】
(糸切れ巻き返し)
ケーク形成ステップにおいて糸切れが発生していた場合には、糸部18aが正常に形成されず、通常巻き返しによる巻き返しは行えない。しかし、糸切れが発生したポット12においては、多くの場合切れた糸の糸端はケーク28の下に位置しており、また、遠心力でポット12の内壁22に張り付いている。そのため、以下に示す糸切れ巻き返しが行われる。
【0054】
(接触ステップ)
糸切れ巻き返しにおいては、まず接触ステップS4が行われる。図7及び拡大図である図10に示すように、時間U3に制御部51から与えられるソレノイド駆動信号に基づいてソレノイド36(図2参照)がオンになることにより、スライドパイプ71がボビンレール26に沿って移動する。これにより、各細長部材73がボビンレール26に沿って水平方向へ移動する。また、図11に示すようにケーク端部検知ステップS1において糸切れを検知されていたポット12においては、細長部材73があらかじめ持ち上げられているので、細長部材73は、ポット12の内壁22に押し当てられて接触している。このときの細長部材73の先端高さは、ケーク28の下端部の数mm下である。
【0055】
細長部材73がポット12の内壁22に、細長部材73の先端高さがケーク28の下端部の数mm下となるように押し当てられることで、ポット12内にある切れた糸の端部が細長部材73に接触し、ポット12の中心軸K(図1参照)上に配置されたボビン25に巻き付き始める。したがって、多くの場合この接触ステップS4により、糸切れの発生したポット12においては、ポット12内の切れた糸の端部を巻き返し起点部として、ボビン25への巻き返しを開始することができる。
【0056】
(移動ステップ)
次に、移動ステップS5が行われる。ボビン駆動部55は、制御部51から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、図7図12に示すように、ボビンレール26を最高点B2まで上方に移動させる。これにより、ボビン25及び細長部材73が上昇する。細長部材73は、ポット12の内壁22に押し当てられたまま上方へ高さA2からA3までの距離Xを移動する。これにより、細長部材73の先端がケーク28のケーク下端部28bに押し当てられて接触する。
【0057】
切れた糸の端部が高さA2に位置していなかったため接触ステップS4でボビン25への糸18の巻き返しができなかった場合であっても、移動ステップS5において細長部材73の先端が糸端部に接触することで、ケーク28を形成する糸のうちケーク下端部28bの最上層の糸を巻き返し起点部として、糸切れ巻き返しを開始することができる。
【0058】
特許文献1に記載の糸切れ時の巻き返し方法では切刃をケークに当てていたために、ケークの最上層の糸ともにケークの下層の糸も持ち上げてしまい、多層巻き返しが発生していた。一方、この実施の形態では、ケーク端部検知ステップS1によりケーク下端部28bの高さを検知した後に、移動ステップS5により細長部材73の先端をケーク下端部28bに接触させるので、ケーク28の複数層の糸を一度に持ち上げることはなく、多層巻き返しを抑制することができる。
【0059】
あらかじめ設定された時間U4となったら、制御部51から与えられるソレノイド駆動信号に基づいて図10に示すようにソレノイド74がオフ状態となる。これにより、細長部材73が水平方向において元の位置に戻り、図13に示すように細長部材73が内壁22から離れる。
【0060】
(細長部材退避ステップ)
その後、ケーク28を形成しているすべての糸が図7に示すように時間U5においてボビン25に巻き返されると、細長部材退避ステップS6が行われる。制御部51は、ボビン駆動部55にボビン駆動信号を与えることにより、ボビンレール26を下降させる。その後、時間U6において、制御部51は図2に示すワゴンユニット75に駆動信号を与えることにより、押上腕76を昇降させて上昇していた細長部材73を下降させる。これにより、糸切れ巻き返しが終了する。
【0061】
(通常巻き返し)
また、ケーク形成ステップにおいて糸切れが検知していないポット12においては、図4に示すように通常巻き返しのためにボビン配置ステップS3Aが行われる。ボビン配置ステップS3Aは、上記ボビン配置ステップS3と同じ動作であり、ボビン配置ステップS3と同時に行われる。
【0062】
次に、巻き返し手段駆動ステップS7(図4参照)が行われる。図示しない巻き返し手段が糸部18a(図5参照)に接触することで、糸部18aはポット12の中心軸K(図1参照)上に配置されたボビン25に巻き付き始める。これにより、糸切れの発生していないポット12においては、ポット12内に排出された糸部18aを巻き返し起点部として、ボビン25への巻き返しを開始することができる。
【0063】
以上の動作により、管糸が巻かれたボビン25が得られる。管糸が巻かれたボビン25はボビン装着部27から取り外される。その後、空のボビン25がボビン装着部27に装着された後、上記同様の動作が行われる。
【0064】
このように、開口部23を有するポット12を回転させるとともに、所定の細さに引き伸ばされた糸18をポット12の内壁22に巻き付けてケーク28を形成するケーク形成ステップと、ケーク形成ステップの完了前に糸切れ検知部により糸18が切れたことを検知した場合にケーク28の開口部側のケーク下端部28bを検知するケーク端部検知ステップS1と、ケーク形成ステップの完了後に開口部23を通してポット12内にボビンを25配置するボビン配置ステップS3と、開口部23を通して前記ケーク端部検知ステップS1で検知したケークのケーク下端部28bよりも開口部側のポット12の内壁22に細長部材73を接触させる接触ステップS4とを有するので、多層巻き返しの発生を少なくすることができる。
【0065】
また、接触ステップS4の後に、ポット12の内壁22に細長部材73を接触させたまま細長部材73を上昇させ、ケーク28の開口部側のケーク下端部28bに接触させる移動ステップS5を有する。これにより、接触ステップS4において糸18をボビン25に巻き返せなかった場合でも、ケーク下端部28bから巻き返しを開始することができ、且つ多層巻き返しの発生を少なくすることができる。
【0066】
また、ケーク端部検知ステップS1において、糸が切れたことを検知するタイミングに基づいて、ケーク下端部28bの位置を検知するので、簡単な方法でケーク下端部28bの位置を検出することが可能である。また、ケーク下端部28bの細長部材73の先端を接触させるので、多層巻き返しを抑制することができる。
【0067】
また、ケーク28のケーク下端部28bを巻き返しの起点としているので、従来のポット精紡機におけるポットに対してポットの構成を大きく変更することなく多層巻き返しの発生を少なくすることができる。
【0068】
また、ポット12を複数有し、接触ステップS4において、複数のポット12の内壁22に細長部材73を同時に接触させるので、糸切れの発生した各ポット12を1つずつ巻き返す方法に対して精紡方法全体の時間が短縮されて生産性が向上する。
【0069】
なお、この実施形態においては、ポット精紡方法は移動ステップS5を備えていたが、移動ステップS5を備えなくともよい。経験的に多くの場合、糸切れ時の巻き返しの起点となる糸はケーク下端部28bから開口部23側の、ポット12の内壁22に張り付いているので、接触ステップS4において細長部材73を内壁22に押し当てることで巻き返しが可能である。
【0070】
また、この実施形態においては、リング精紡に転用可能なボビン25を用いるようにしたが、本発明はこれ以外のボビンを用いて実施することも可能である。
【0071】
また、この実施形態においては、光センサで構成された糸センサ19を用いていたが、他の検知方式の糸センサであってもよい。例えば、糸との接触により機械的に糸切れを検知する機械式の糸センサであってもよい。
【0072】
また、この実施形態においては、細長部材73をケーク下端部28bに接触させていたが、細長部材をケーク上端部28aに接触させてもよい。
また、図6に示すようなケーク形成ステップとは別のケーク形成ステップ(例えば、特開平4-308227号公報に開示されるようなステップ)であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 ポット精紡機、11 導糸管、12 ポット、18 糸、22 内壁、23 開口部、25 ボビン、28 ケーク、28b ケーク下端部(ケークの開口部側の端部)、73 細長部材、S1 ケーク端部検知ステップ、S3 ボビン配置ステップ、S4 接触ステップ、S5 移動ステップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13