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特許6992578リチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220105BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220105BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20220105BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220105BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01G11/22
H01G11/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018027544
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019145296
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大石 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 佳太郎
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-147177(JP,A)
【文献】岡田静子 外,安定同位体比(13C/12C)質量分析法による原油の炭素同位体比測定,石油技術協会誌,日本,1989年01月24日,Vol.54,No.2,pp.107-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/22
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に設けられた活物質層と、を備え、
前記活物質層は、リチウムイオンを吸蔵放出する活物質粒子と、バインダー及び導電助剤を含み、
前記導電助剤は、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-30~-26‰含有する炭素から構成され、
前記導電助剤の少なくとも一部は、前記活物質粒子の表面に付着している、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記炭素安定同位体 13 Cが、前記導電助剤において、前記活物質粒子との界面側に偏在していることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極と、セパレータと、前記セパレータを介して前記リチウムイオン二次電池用電極に対向する対極と、電解質とを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の正極材料(正極活物質)としてLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3等の層状化合物やLiMn等のスピネル化合物が用いられている。近年では、LiFePOに代表されるリン酸骨格を含む構造を持つ化合物やケイ酸、ホウ酸の構造を持つ化合物、硫化物系の化合物が正極材料として注目されている。
【0003】
これらの電極材料は電子伝導性が低いために、電子伝導性を付与するための導電助剤を加えて電極を作製することが一般的に行われている。導電助剤を加え、電子伝導性を高めることにより、高容量を発現したり、導電助剤としての炭素の比率を調整することによりサイクル特性を改善することが試みられている(特許文献1)。
【0004】
導電助剤としてはカーボンブラックのようなアモルファス状のカーボンを用いたり、黒鉛やカーボンナノチューブ、グラフェンなどが用いられている。
【0005】
これらの炭素質材料を用いることにより導電性を高めることができるが、これらの炭素質材料を用いてもサイクル特性を改善するには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-72062
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術の方法では未だ諸特性は満足されず、中でもサイクル特性の改善が求められている。
【0008】
本発明は、上記従来技術のサイクル特性の課題に鑑みてなされたものであり、サイクル特性を改善することが可能なリチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質層と、を備え、前記活物質層は、リチウムイオンを吸蔵放出する活物質粒子と、バインダー及び導電助剤を含み、前記導電助剤は、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-35~-20‰含有する炭素から構成され、前記導電助剤の少なくとも一部は、前記活物質粒子の表面に付着している。
【0010】
上記本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極を用いることでサイクル特性を改善する。
【0011】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記記載の電極と、セパレータを介して前記電極に対向する対極とを備え、前記セパレータは電解質を保持する。
【0012】
かかる構成により、優れたサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を用いることでサイクル特性を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る電極を用いたリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の活物質の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明の電極は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る電極、及び当該電極を用いたリチウムイオン二次電池100の模式断面図である。
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0017】
積層体30は、一対の正極10、負極20がセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものである。負極20は、板状(膜状)の負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14及び負極活物質層24がセパレータ18の両側にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード62,60が接続されており、リード60,62の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0018】
以下、正極10及び負極20を総称して、電極10、20といい、正極集電体12及び負極集電体22を総称して集電体12、22といい、正極活物質層14及び負極活物質層24を総称して活物質層14、24という。
【0019】
本実施形態に係る電極10、20は、集電体12、22と、活物質を含み上記集電体上に設けられた活物質層14、24と、を備える。活物質層14、24は、リチウムイオンを吸蔵放出する活物質粒子(以下、正極活物質又は負極活物質と表現することがある。また、正極活物質及び負極活物質を総称して活物質という。)、バインダー、及び、バインダーによって上記粒子の表面上に結着した、炭素から構成された導電助剤を含み、導電助剤は、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-35~-20‰含有する。
【0020】
以下、本実施形態に係る電極10、20について具体的に説明する。
(正極10)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。正極活物質層14は、正極活物質、導電助剤、バインダーを含むものである。バインダーは、正極活物質同士、導電助剤同士、及び、正極活物質と導電助剤を結合すると共に、これらをと正極集電体12とを結合している。
【0021】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出することができる材料であれば特に限定されず、公知の電池用の正極活物質を使用できる。正極活物質としては、例えば、遷移金属含有酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、硫化物よりなる1種類以上を含むものが活物質として挙げられる。遷移金属含有酸化物は、具体的には、リチウム元素と、Mn、Co、Ni、Al、Ba、Ca、Cu、Fe、Mg、Ti、V、Zn、W、Mo、Nb、Zrからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物であり、具体的には、LiCoO、LiNi0.85Co0.1Al0.05、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、Li1.2Mn0.55Ni0.3Co0.15、LiCo0.95Mg0.05、等が挙げられる。リン酸化合物としてはLiFePO、LiVOPO、Li(POなどが挙げられる。ケイ酸化合物としては、LiFeSiO、LiVOSiO、LiMnSiO、Li(FeMn)SiO等が挙げられる。ホウ酸化合物としてはLiFeBO、LiMnBO、LiVOBO等が挙げられる。硫化物としてはFeS等が挙げられる。
【0022】
導電助剤は、炭素から構成され、例えば、オイルファーネスなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。
【0023】
本発明において、炭素安定同位体比は、同位体質量分析装置によって測定し、数値は、下記式(1)にて算出した値である。
δ 13 C={(試料の 13 C/ 12 Cモル比)/(標準試料の 13 C/ 12 Cモル比)-1}×1000・・・(1)
【0024】
本実施形態に係る同位体質量分析装置を用いた測定において、標準試料は矢石の12Cが98.894%、13Cが1.106%のものを用いることができる。
【0025】
導電助剤が炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-35~-20‰含むことにより、電極は下記の効果を奏する。
【0026】
炭素安定同位体13Cは、12Cに比べ電子密度が高いと考えられており、12Cに対して13Cがある程度存在することによって、炭素から構成された導電助剤に分極が生じると考えられる。リチウムイオンを吸蔵放出する粒子においては、格子欠陥等により不安定化した部分には、分極が生じているものと考えられる。リチウムイオンを吸蔵放出する粒子の表面上に結着された導電助剤が、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-35‰以上-20‰以下含むと、分極を帯びた導電助剤がリチウムイオンを吸蔵放出する粒子の表面を安定化できるため、サイクル特性が向上する。
【0027】
一方、炭素安定同位体13Cが炭素安定同位体比δ13Cで-20‰より多いと、導電助剤を構成する炭素のうち13Cの割合が多くなるため、導電助剤の分極の程度が弱くなり、リチウムイオンを吸蔵放出する粒子の表面を安定化できず、サイクル特性が低下する。また、-35‰より少ないと、導電膜を構成する炭素のうち13Cの割合が少なくなるため、導電膜の分極が小さくなり、リチウムイオンを吸蔵放出する粒子の表面を安定化できず、サイクル特性が低下する。
【0028】
サイクル特性の低下を一層抑制する観点で、導電助剤は、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで、-33‰以上-22‰以下含むことが好ましく、-30‰以上-24‰以下含むことがより好ましい。
【0029】
炭素安定同位体13Cは、導電助剤において、活物質粒子との界面側に偏在していることが好ましい。13Cが導電助剤とリチウムイオンを吸蔵放出する粒子との界面に偏在していることにより、分極の大きな導電助剤が、直接的に、リチウムイオンを吸蔵放出する粒子へ作用を及ぼすことができる。これにより、リチウムイオンを吸蔵放出する粒子表面は、より安定化され、サイクル特性がより向上する。
【0030】
バインダーの材質としては、上述の結合が可能であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0031】
上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
【0032】
上記の他に、バインダーとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン(炭素数2~12)共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロース等を用いてもよい。
【0033】
バインダーとして、電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電材の機能も発揮するので、導電材を添加しなくてもよい。
【0034】
イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリエーテル化合物の架橋体高分子、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、LiBr、Li(CFSON、LiN(CSO等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0035】
正極活物質層14に含まれるバインダーの含有率は、活物質層の質量を基準として0.5~6質量%であることが好ましい。バインダーの含有率が0.5質量%未満となると、バインダーの量が少なすぎて強固な活物質層を形成困難になる傾向が大きくなる。また、バインダーの含有率が6質量%を超えると、電気容量に寄与しないバインダーの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向が大きくなる。また、この場合、特にバインダーの電子伝導性が低いと活物質層の電気抵抗が上昇し、十分な電気容量が得られなくなる傾向が大きくなる。
【0036】
(負極20)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0037】
負極活物質は特に限定されず、公知の電池用の負極活物質を使用できる。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出(インターカレート・デインターカレート、或いはドーピング・脱ドーピング)可能な黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、ケイ素、錫等のリチウムと化合することのできる金属、SiO、SiO、SnO等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)、Fe等を含む粒子が挙げられる。バインダー、導電助剤は、それぞれ、正極と同様のものを使用できる。
【0038】
次に、本実施形態に係る電極10,20の製造方法の一例について説明する。
(電極10,20の製造方法)
本実施形態に係る電極10,20の製造方法は、電極活物質層14,24の原料である塗料を、集体上に塗布する工程(以下、「塗布工程」ということがある。)と、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去する工程(以下、「溶媒除去工程」ということがある。)と、を備える。
【0039】
(塗布工程)
塗料を集電体12、22に塗布する塗布工程について説明する。塗料は、上記正極活物質又は負極活物質、上記バインダー、上記導電助剤、及び溶媒を含む。塗料には、これらの成分の他に、例えば、活物質の導電性をより高めるための導電材が含まれていてもよい。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0040】
活物質、バインダー、導電助剤、溶媒等の塗料を構成する成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。例えば、まず、活物質、導電助剤及びバインダーを混合し、得られた混合物に、N-メチル-2-ピロリドンを加えて混合し、塗料を調整する。
【0041】
上記塗料を、集電体12、22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0042】
(溶媒除去工程)
続いて、集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。除去法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0043】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10~50kgf/cmとすることができる。
【0044】
以上の工程を経て、本実施形態に係る電極を作製することができる。
【0045】
本実施形態に係る電極を正極又は負極の少なくとも一方に用いることにより、サイクル特性が向上する。
【0046】
ここで、上述のように作製した電極を用いたリチウムイオン二次電池100の他の構成要素を説明する。
【0047】
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解質溶液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解質溶液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解質溶液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB、LiFSI等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及び、ジエチルカーボネート等、又は、これらの水素原子をフッ素原子で置換した、フルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0049】
なお、本実施形態において、電解質は液状以外にゲル化剤を添加することにより得られるゲル状電解質であってもよい。また、電解質溶液に代えて、固体電解質(固体高分子電解質又はイオン伝導性無機材料からなる電解質)が含有されていてもよい。
【0050】
セパレータ18は、電気絶縁性の多孔体であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0051】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解質溶液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からの電気化学デバイス100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0052】
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0053】
そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0054】
以上、本発明の電極、当該電極を備えるリチウムイオン二次電池、及び、それらの製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本実施形態においては、溶媒中に活物質、バインダー、導電助剤を混合し、集電体に塗布しているが、例えば、活物質、バインダー、導電助剤をメカニカルミリング等によって機械的な作用によって導電助剤を活物質の表面上に結着させてもよい。
【0055】
例えば、本発明の電極は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子にも用いることができる。電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(カソードとして本発明の電極を用い、アノードに金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例
【0056】
(実施例1)
<導電助剤の作製>
環状炉を1Paまで減圧し、700℃に加熱した状態で、13Cの純度が99%の13Cメタンガスと12Cの純度が99.9%の12Cメタンガスとの混合ガス(12C/13C混合メタンガス)を流すことにより導電助剤である炭素粒子を得た。
【0057】
<正極の作製>
活物質粒子としてLiCoOを用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用い、上記方法により作製した炭素粒子を導電助剤として用いた。活物質とバインダーと炭素粒子をそれぞれ96.5質量%、1.5質量%、2質量%混合し、Nメチルピロリドン(MNP)を加えてスラリー状の塗料とし、アルミニウム箔に塗布、乾燥、圧延することにより、電極(正極)を作製した。
【0058】
<負極の作製>
活物質粒子としての一酸化ケイ素及び黒鉛の質量比1:9の混合物と、バインダーとしてのポリアミドイミド(PAI)とアセチレンブラックを混合したものとを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリーにおいて活物質とアセチレンブラックとPAIとの質量比が90:2:8となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体である銅箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、活物質層が形成された電極(負極)を得た。
【0059】
<リチウムイオン二次電池の作製>
作製した正極及び負極並びにセパレータを、所定の型に打ち抜いた。セパレータとしては、ポリエチレン多孔質膜とポリアミドイミドの多孔質層の2層構造を持つ膜を用いた。負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層し、正極及び負極のいずれか1つと、1つのセパレータとの組み合わせを1層として、これを6つ重ねて6層の積層体を作製した。電解液にはフルオロエチレンカーボネート(FEC)とジエチルカーボネート(DEC)を質量比で3:7となるように混合した溶媒に、LiPFが1Mとなるよう溶解させたものを電解液として用いた。上記積層体を、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0060】
(実施例2~9)
12Cの純度が99.9%の12Cメタンガスとの混合ガスの混合比を変えることにより12C/13C混合比を調整した炭素粒子を作製し、導電助剤として用いた。それ以外は実施例1と同様にして実施例2~9の評価用セルを作製した。
【0061】
(実施例10)
活物質粒子としてLiFePOを用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例6の評価用セルを作製した。
【0062】
(実施例11)
活物質粒子としてLiVOPOを用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例7の評価用セルを作製した。
【0063】
(実施例12)
活物質粒子としてLiNi0.85Co0.1Al0.05を用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例8の評価用セルを作製した。
【0064】
(実施例13)
活物質粒子としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例9の評価用セルを作製した。
【0065】
(比較例1、2)
12Cの純度が99.9%の12Cメタンガスとの混合ガスの混合比を変えることにより12C/13C混合比を調整した炭素粒子を作製し、導電助剤として用いた。それ以外は実施例1と同様にして比較例1、2の評価用セルを作製した。
【0066】
<サイクル特性の測定>
作製したリチウムイオン二次電池を用いて、充電レートを0.5C(25℃で定電流放電を行ったときに2時間で放電終了となる電流値)として充電し、1Cで放電するサイクルと繰り返し、初回のサイクルと300サイクル後の容量を比較し、容量維持率を求めた。
【0067】
【表1】
【符号の説明】
【0068】
10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・発電要素、50・・・ケース、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。
図1