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特許6992579活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
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  • 特許-活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220105BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20220105BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20220105BHJP
【FI】
H01M4/587
H01G11/42
C01B32/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018027546
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019145297
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大石 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 佳太郎
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112080(JP,A)
【文献】国際公開第2017/103272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01G 11/42
C01B 32/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素安定同位体13C含む黒鉛から構成され、
前記黒鉛中における前記炭素安定同位体13Cの含有量は、炭素安定同位体比δ13Cで-25~-20‰である、負極活物質粒子。
【請求項2】
前記炭素安定同位体 13 Cは、前記黒鉛の表面、又は、前記黒鉛を構成する複数の炭素結晶子の界面に偏在していることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質粒子。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の負極活物質粒子を有する負極と、セパレータと、前記セパレータを介して前記負極に対向する正極と、電解質と、を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極活物質として、一般的に黒鉛が広く用いられている。黒鉛は層間に可逆的にリチウムイオンを挿入脱離することができる。黒鉛は安定的にリチウムイオンを挿入脱離できる一方で、リチウムイオンが溶媒から黒鉛の層間に移動し、黒鉛の層間をリチウムイオンが移動する速度が充電の速度を決める律速過程になっている。
【0003】
リチウムイオンの移動速度を速め、充電速度を高めるために、黒鉛の粒子径を小さくする等の試みがなされている(特許文献1)。黒鉛粒子を小さくすることにより見かけ上の充電速度が向上するが、リチウムイオンが層間を移動する速度は変化していない。従って、黒鉛の粒子径を小さくしても充電速度の向上には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-4307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の方法では未だ諸特性は満足されず、中でも充電レート特性を向上することが求められている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有するガス発生の課題に鑑みてなされたものであり、充電レート特性を向上することが可能な活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る活物質粒子は、炭素安定同位体13C含む黒鉛から構成され、前記黒鉛中における前記炭素安定同位体13Cの含有量は、炭素安定同位体比δ13Cで-30~-15‰である。
【0008】
上記本発明に係る活物質粒子及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を用いることで充電レート特性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る活物質粒子を用いることでリチウムイオン二次電池の充電レート特性が向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の活物質の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明の活物質粒子は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
<活物質粒子>
本実施形態に係る負極活物質粒子は黒鉛から構成される。黒鉛の成分元素である炭素は、12Cを主として含み、炭素安定同位体13Cを、炭素安定同位体比δ13Cで-30~-15‰含有する。
本発明において、炭素安定同位体比は、同位体質量分析装置によって測定し、数値は、下記式(1)にて算出した値である。本発明において、炭素安定同位体比は、同位体質量分析装置によって測定し、数値は、下記式(1)にて算出した値である。
δ 13 C={(試料の 13 C/ 12 Cモル比)/(標準試料の 13 C/ 12 Cモル比)-1}×1000・・・(1)
【0013】
本実施形態に係る同位体質量分析装置を用いた測定において、標準試料は矢石の12Cが98.894%、13Cが1.106%のものを用いることができる。
【0014】
黒鉛に炭素安定同位体13Cが炭素安定同位体比δ13Cで-30~-15‰含有されることにより、活物質粒子は下記の効果を奏する。
13Cは、12Cに比べ電子密度が高いと考えられており、12Cに対して13Cがある程度存在することによって、炭素から構成された黒鉛に分極が生じると考えられる。黒鉛が炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで-30‰以上-15‰以下含むと、活物質粒子には、結晶格子へのリチウムイオンの移動速度が向上する程度に分極が生じると推察される。これにより、上記黒鉛を用いた電極の充電レート特性が向上するものと考えられる。
【0015】
一方、炭素安定同位体13Cが炭素安定同位体比δ13Cで-15‰より多いと、黒鉛に含まれる炭素のうち13Cの割合が多くなるため、活物質粒子の分極の程度が弱くなり、結晶格子へのリチウムイオンの移動速度が低下し、充電レート特性が低下する。また、-30‰より少ないと、黒鉛に含まれる炭素のうち13Cの割合が少なくなるため、黒鉛の分極が小さくなり、結晶格子へのリチウムイオンの移動速度が低下する。これにより、上記黒鉛を用いた電極の充電レート特性が低下するものと考えられる。
【0016】
充電レート特性を一層向上する観点で、黒鉛は、炭素安定同位体13Cを炭素安定同位体比δ13Cで、-30‰以上-15‰以下含むことが好ましく、-25‰以上-20‰以下含むことがより好ましい。
【0017】
炭素安定同位体13Cは、黒鉛の表面、又は、黒鉛を構成する複数の炭素結晶子の界面に偏在していることが好ましい。リチウムイオンの移動速度は、炭素の層状構造の端部を通過する速度が律速となるものと考えられる。炭素の層状構造の端部は、黒鉛の表面、すなわち黒鉛と電解液との界面、又は、炭素の結晶子と結晶子との界面である。したがって、13Cが黒鉛と電解液との界面、又は、複数の炭素結晶子の界面に多く存在するほうが、負に分極した静電的な引力がリチウムイオンに作用し、リチウムイオンの移動速度が向上するものと推察される。
【0018】
活物質粒子の径は、0.1~30μmであることが好ましく、0.5~25μmであることがより好ましく、1~20μmであることがさらに好ましい。
【0019】
活物質粒子の径は、以下のように測定する。高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいて、活物質粒子の投影面積から投影面積円相当径を測定する。投影面積円相当径とは、活物質粒子の投影面積と同じ投影面積を持つ球を想定し、その球の直径(円相当径)を粒子径として表したものである。20個の活物質粒子に対してそれぞれ投影面積円相当径を測定し、その平均値を活物質粒子の径とする。
【0020】
活物質粒子は、例えば、下記の方法によって作製することができる。黒鉛の原料は石炭ピッチ、石油ピッチなどから選ばれる。同位体比率は産地により異なるため、適度に同位体比が異なる2種類以上の原料を混合することが好ましい。混合した原料は2800℃~3000℃で焼成し、黒鉛化する。
【0021】
<電極及び当該電極を用いたリチウム二次電池>
本実施形態に係る活物質粒子を用いた電極、及び当該電極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。本実施形態に係る電極は、集電体と、上記活物質粒子を含み上記集電体上に設けられた活物質層と、を備える電極である。図2は、当該電極を用いた本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の模式断面図である。
【0022】
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体30に接続された一対のリード60,62を備えている。
【0023】
積層体30は、一対の正極10、負極20がセパレータ18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものである。負極20は、板状(膜状)の負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14及び負極活物質層24がセパレータ18の両側にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード60,62が接続されており、リード60,62の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0024】
以下、正極10及び負極20を総称して、電極10、20といい、正極集電体12及び負極集電体22を総称して集電体12、22といい、正極活物質層14及び負極活物質層24を総称して活物質層14、24という。
【0025】
まず、電極10、20について具体的に説明する。
【0026】
(負極20)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。負極活物質層24は、活物質、結合剤、必要に応じた量の導電材を含むものである。結合剤は、活物質同士を結合すると共に、活物質と負極集電体22とを結合している。
【0027】
負極活物質として、本実施形態に係る活物質粒子を使用することができる。本実施形態に係る活物質粒子は、その性能が維持できる範囲において、黒鉛以外に微量の不純物が含まれる場合がある。
【0028】
結合剤の材質としては、上述の結合が可能であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0029】
上記の他に、結合剤として、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
【0030】
上記の他に、結合剤として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン(炭素数2~12)共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロース等を用いてもよい。
【0031】
結合剤として、電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、結合剤が導電材の機能も発揮するので、導電材を添加しなくてもよい。
【0032】
イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリエーテル化合物の架橋体高分子、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル等)のモノマーと、LiBF、LiPF、Li(CFSON、LiN(CSO、LiBOB、LiFSI等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0033】
負極活物質層24に含まれる結合剤の含有率は、活物質層の質量を基準として0.5~6質量%であることが好ましい。結合剤の含有率が0.5質量%未満となると、結合剤の量が少なすぎて強固な活物質層を形成できなくなる傾向が大きくなる。また、結合剤の含有率が6質量%を超えると、電気容量に寄与しない結合剤の量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向が大きくなる。また、この場合、特に結合剤の電子伝導性が低いと活物質層の電気抵抗が上昇し、十分な電気容量が得られなくなる傾向が大きくなる。
【0034】
導電材としては、例えば、カーボンブラック類、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0035】
(正極10)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。正極活物質層14は、活物質、結合剤、必要に応じた量の導電材を含むものである。結合剤、導電材は、それぞれ、負極と同様のものを使用できる。
【0036】
正極活物質の材質としては、特に限定されず、公知の電池用の正極活物質を使用できる。例えば、正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出することができる材料であれば特に限定されず、公知の電池用の正極活物質を使用できる。正極活物質としては、例えば、遷移金属含有酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、硫化物よりなる1種類以上を含むものが活物質として挙げられる。遷移金属含有酸化物は、具体的には、リチウム元素と、Mn、Co、Ni、Al、Ba、Ca、Cu、Fe、Mg、Ti、V、Zn、W、Mo、Nb、Zrからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物であり、具体的には、LiCoO、LiNi0.85Co0.1Al0.05、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、Li1.2Mn0.55Ni0.3Co0.15、LiCo0.95Mg0.05等が挙げられる。リン酸化合物としてはLiFePO、LiVOPO、Li(POなどが挙げられる。
【0037】
次に、本実施形態に係る電極10,20の製造方法について説明する。
(電極10,20の製造方法)
本実施形態に係る電極10,20の製造方法は、電極活物質層14,24の原料である塗料を、集体上に塗布する工程(以下、「塗布工程」ということがある。)と、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去する工程(以下、「溶媒除去工程」ということがある。)と、を備える。
【0038】
(塗布工程)
塗料を集電体12、22に塗布する塗布工程について説明する。塗料は、上記活物質、結合剤、及び溶媒を含む。塗料には、これらの成分の他に、例えば、活物質の導電性を高めるための導電材が含まれていてもよい。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0039】
活物質、結合剤、溶媒、導電材等の塗料を構成する成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。例えば、まず、活物質、導電材及び結合剤を混合し、得られた混合物に、N-メチル-2-ピロリドンを加えて混合し、塗料を調整する。
【0040】
上記塗料を、集電体12、22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0041】
(溶媒除去工程)
続いて、集電体12、22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。除去法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体12、22を、例えば80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0042】
そして、このようにして活物質層14、24が形成された電極を、その後、必要に応じて例えば、ロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10~50kgf/cmとすることができる。
【0043】
以上の工程を経て、本実施形態に係る電極を作製することができる。
【0044】
本実施形態に係る電極によれば、負極活物質として本実施形態に係る活物質粒子を用いるため、充電レート特性に優れた電極が得られる。
【0045】
ここで、上述のように作製した電極を用いたリチウムイオン二次電池100の他の構成要素を説明する。
【0046】
電解質は、正極活物質層14、負極活物質層24、及び、セパレータ18の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、本実施形態では、リチウム塩を含む電解質溶液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解質溶液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解質溶液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB、LiFSI等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及び、ジエチルカーボネート等、又は、これらの水素原子をフッ素原子で置換した、フルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0048】
なお、本実施形態において、電解質は液状以外にゲル化剤を添加することにより得られるゲル状電解質であってもよい。また、電解質溶液に代えて、固体電解質(固体高分子電解質又はイオン伝導性無機材料からなる電解質)が含有されていてもよい。
【0049】
セパレータ18は、電気絶縁性の多孔体であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0050】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解質溶液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からの電気化学デバイス100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図2に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0051】
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0052】
そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体12、負極集電体22にそれぞれ溶接し、正極10の正極活物質層14と負極20の負極活物質層24との間にセパレータ18を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールすればよい。
【0053】
以上、本発明の活物質粒子、それを用いた電極、当該電極を備えるリチウムイオン二次電池の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0054】
例えば、本発明の活物質粒子を用いた電極は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子にも用いることができる。電気化学素子としては、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例
【0055】
(実施例1~5、比較例1、2)
σ13Cが-20‰の石油ピッチとσ13Cが-25‰の石油ピッチを混合して所定のσ13Cの原料を作製した。さらに環状炉を1Paまで減圧し、700℃に加熱した状態で、13Cの純度が99%の13Cメタンガスと12Cの純度が99.9%の12Cメタンガスとの混合ガス(12C/13C混合メタンガス)を流すことにより炭素粒子を得た。13Cメタンガスと12Cメタンガスとの混合比を変化させることにより、12C/13C混合比を調整した。石油ピッチ原料とメタンガスから得られた炭素を混合し、アルゴン雰囲気中2800℃で焼成することにより、実施例1~5、比較例1、2の黒鉛を得た。
【0056】
得られた黒鉛の炭素安定同位体比δ13Cを測定した結果を表1に記載する。
<負極の作製>
活物質粒子としての上記により作製した黒鉛と、バインダーとしてのカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとアセチレンブラックを95:1:2:2で混合したものを、溶媒である水に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを集電体である銅箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、活物質層が形成された電極(負極)を得た。
【0057】
<正極の作製>
活物質としてLiCoOとポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアセチレンブラックを混合したものとを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリーにおいて、活物質とアセチレンブラックとPVDFとの質量比が96:2:2となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、電極(正極)を得た。
【0058】
<リチウムイオン二次電池の作製>
作製した正極及び負極並びにセパレータを、所定の型に打ち抜いた。セパレータとしては、ポリエチレン多孔質膜とポリアミドイミドの多孔質層の2層構造を持つ膜を用いた。負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層し、正極及び負極のいずれか1つと、1つのセパレータとの組み合わせを1層として、これを6つ重ねて6層の積層体を作製した。電解液にはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を質量比で3:7となるように混合した溶媒に、LiPFが1Mとなるよう溶解させたものを電解液として用いた。上記積層体を、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液を注入した後、真空シールし、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
<レート特性の測定>
作製したリチウムイオン二次電池を用いて、充電レートを0.2C(25℃で定電流放電を行ったときに5時間で放電終了となる電流値)として充電し、0.2Cで放電し、その後0.2Cで充電し、2Cで放電した。0.2Cで放電した場合と2Cで放電した場合の放電容量の比を求め、レート特性とした。
【0060】
【表1】
【符号の説明】
【0061】
10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・発電要素、50・・・ケース、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。
図1