(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】乗物用シートカバー
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20220105BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A47C31/02 Z
B60N2/58
A47C31/02 A
(21)【出願番号】P 2018059379
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 秀樹
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-206372(JP,A)
【文献】米国特許第02286181(US,A)
【文献】米国特許第02004098(US,A)
【文献】実開昭56-108705(JP,U)
【文献】実開平01-164900(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B60N 2/58
B68G 7/05
F16B 2/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート表面を被覆するカバーピースと、該カバーピースに結合されて所定部材に引き込まれて引掛けられる引掛け具と、を有する乗物用シートカバーであって、
前記引掛け具が、前記カバーピースに沿って結合される面状の本体プレートと、該本体プレートに形成されたスリットにより該本体プレートの一部を残して面外方向の双方向に撓むことのできる片持ち形状とされた撓み部と、を有し、
前記撓み部が、前記所定部材の引掛け構造に応じた面外方向の撓みにより前記所定部材に引掛け可能な鉤形状となる双方向の引掛構造を有
し、
前記所定部材が、前記カバーピースの引き込み方向から反対側に引き込まれる他のカバーピースに結合された別の引掛け具であり、
前記引掛け具と前記別の引掛け具とが互いに同一構造の共通部品から成る乗物用シートカバー。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートカバーであって、
前記
本体プレートに形成された前記スリットが、略U字状の切り込み形状とされて、前記撓み部が、前記スリットにより囲まれた片持ち形状とされる乗物用シートカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートカバーに関する。詳しくは、シート表面を被覆するカバーピースと、カバーピースに結合されて所定部材に引き込まれて引掛けられる引掛け具と、を有する乗物用シートカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗物用シートにおいて、シートパッドの表面に被覆されたシートカバーが、シートパッドの裏面側へと引き込まれて止着された構成が知られている(特許文献1)。具体的には、シートカバーの裏面側へと引き込まれる先の端末に、樹脂製のフックが縫合されており、同フックが反対側から引き込まれる相手側のフックに引掛けられて止着されることにより、裏面側に引き込まれた状態として保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、フックがその曲げられた側にしか引掛けられない構造であるため、相手側の形状をフックの引掛けられる向きに形成しなければならず、引掛けの作業や構造に制約が生じやすい。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、シートカバーの引込み部を自由度の高い引掛け構造で止着させられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の乗物用シートカバーは次の手段をとる。
【0006】
第1の発明は、シート表面を被覆するカバーピースと、カバーピースに結合されて所定部材に引き込まれて引掛けられる引掛け具と、を有する乗物用シートカバーである。引掛け具が、カバーピースに沿って結合される面状の本体プレートと、本体プレートに形成されたスリットにより本体プレートの一部を残して面外方向の双方向に撓むことのできる片持ち形状とされた撓み部と、を有する。撓み部が、所定部材の引掛け構造に応じた面外方向の撓みにより所定部材に引掛け可能な鉤形状となる双方向の引掛構造を有する。
【0007】
この第1の発明によれば、引掛け具に形成された撓み部により、所定部材が引掛け具の面外方向のどちら側に対応する引掛け構造を持つ構成とされていても、撓み部を対応する面外方向に撓ませて所定部材に引掛けることができる。
【0008】
第2の発明は、上述した第1の発明において、次の構成とされているものである。所定部材が、カバーピースの引き込み方向から反対側に引き込まれる他のカバーピースに結合された別の引掛け具である。
【0009】
この第2の発明によれば、カバーピース同士を引掛ける作業を、引掛け具の撓み部を相手側のカバーピースに結合された別の引掛け具の引掛け構造に応じた面外方向に撓ませて簡便に行うことができる。
【0010】
第3の発明は、上述した第2の発明において、次の構成とされているものである。引掛け具と別の引掛け具とが互いに同一構造の共通部品から成る。
【0011】
この第3の発明によれば、引掛け具の共通部品化を図ることができると共に、引掛け具と別の引掛け具とをそれぞれ互いにどちら側からも引掛けられる、より作業性の良い構成とすることができる。
【0012】
第4の発明は、上述した第1から第3のいずれかの発明において、次の構成とされているものである。本体プレートに形成されたスリットが、略U字状の切り込み形状とされて、撓み部が、スリットにより囲まれた片持ち形状とされる。
【0013】
この第4の発明によれば、撓み部を本体プレートにより枠状に囲った構成とすることができ、撓み部を捩れさせにくい態様で所定部材に引掛けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の乗物用シートカバーの概略構成を表した斜視図である。
【
図2】シートカバーの裏面側の引掛け構造を表した背面図である。
【
図3】
図2の引掛け構造が引掛けられる前の状態を表した背面図である。
【
図5】引掛け具同士を異なる向きで引掛けた状態を表した背面図である。
【
図6】他の実施例の乗物用シートカバーの概略構成を表した背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
始めに、実施例1の乗物用シートカバーが適用されたシート1(乗物用シート)の構成について、
図1~
図5を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。また、「シート幅方向」と示す場合には、シート1の左右方向を指すものとする。
【0017】
本実施例のシート1は、
図1に示すように、自動車の後部側座席として構成されており、着座乗員の背凭れ部となるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備えている。上述したシート1は、同列に3人掛け可能ないわゆるベンチシートとして構成されている。
【0018】
上述したシートクッション3は、着座乗員の荷重を弾性的に受け止める発泡ウレタン製のクッションパッド20と、同クッションパッド20の表面全体に被せ付けられてシートクッション3の意匠面を成すファブリック製のクッションカバー10と、を有する。ここで、上述したクッションカバー10が本発明の「乗物用シートカバー」に相当する。上述したクッションパッド20は、シートクッション3の基本形状を形作っており、その内部に線状の骨格を成す不図示のワイヤフレームが一体的にインサート成形されて形成された構成とされている。
【0019】
クッションカバー10は、シートクッション3の天板部を被覆する天板カバーピース11と、シートクッション3の前後左右の周囲側面を被覆するカマチカバーピース12と、が互いに1枚の袋形状を成す形に縫合されて形成されている。上述したクッションカバー10は、上述したクッションパッド20に表側から被せ付けられた後、その周囲側面に被覆されたカマチカバーピース12の下側の縁部が、それぞれ、クッションパッド20の裏面側に引き込まれて止着されることにより、全体がクッションパッド20の表面全体に広く張られた形に被覆された状態とされている。
【0020】
また、クッションカバー10は、上述した天板カバーピース11の所々の箇所が、クッションパッド20に形成された不図示の吊込み溝内に吊り込まれて止着されることにより、クッションパッド20の凹凸のある天板面形状に沿って浮きや皺を生じない密着した形に張設された状態とされている。ここで、上述した天板カバーピース11が本発明の「カバーピース」に相当する。
【0021】
詳しくは、上述した天板カバーピース11の不図示の吊込み溝内に吊り込まれる先の縁部には、帯状の引込み綿布13が縫合されており、同引込み綿布13が、上述した不図示の吊込み溝から裏側に貫通する通し孔21を通ってクッションパッド20の裏側へと引き込まれている。そして、上記クッションパッド20の裏側へと引き込まれた引込み綿布13は、他の通し孔21を通ってクッションパッド20の裏側へと引き込まれた別の引込み綿布13と止着されることにより、クッションパッド20の裏面側に引き込まれた形に保持された状態とされている。
【0022】
具体的には、
図2に示すように、上述したクッションパッド20の通し孔21を通って裏側へと引き込まれた引込み綿布13は、その先端側の縁部に縫合された樹脂製の引掛け具14が、対応する相手側の引込み綿布13の先端側の縁部に縫合された互いに共通部品から成る引掛け具14に引掛けられることで止着された状態とされている。上述した引掛け具14は、
図3~
図4に示すように、上述した引込み綿布13の先端側の縁部に沿って縫合された1枚の平板状の樹脂プレートから成る本体プレート14Aと、同本体プレート14Aの中央部に形成された略U字状のスリット14Bにより周囲を残して単独で撓める形に切り抜かれた片持ち状の撓み部14Cと、を有して構成されている。
【0023】
上述した本体プレート14Aは、ポリプロピレンの発泡樹脂から成る厚さ約1mmのプレート材によって形成されており、その周囲を残す中央部に、上述した略U字状のスリット14Bがプレスにより打ち抜かれて形成されている。そして、上述した本体プレート14Aは、
図4に示すように、上述した引込み綿布13に対して、そのスリット14BのU字の繋ぎ目のくる一辺が先端側の縁部に揃えられる形に重ね合わされた状態で、引込み綿布13の縁部に沿って縫合されている(縫合部14D)。
【0024】
上記構成の引掛け具14は、
図2~
図3に示すように、上述した対応する相手側の引掛け具14と次のように引掛けられて止着されている。先ず、上述した引掛け具14を、上述した縫合部14Dを支点に引込み綿布13から引き込み方向に捲り返して、スリット14BのU字の開口が引き込み方向に向けられた状態にする。そして、上述した引掛け具14を引き込み方向に引き込んで、同様に反対側から引き込まれた相手側の引掛け具14に近付けて、互いの撓み部14Cを相手側に向かって鉤状に起こし上げる形に押し撓ませながら相手側のスリット14B内に掛け入れるようにセットする。
【0025】
上記セットにより、各引掛け具14は、
図2に示すように、互いの撓み部14C同士が互いのスリット14Bの端部同士を当接させる形に掛け合わされた形となって、各々の引込み綿布13を相手側に向かって引き込んだ形に止着させた状態となる。なお、上述した引掛け具14同士の引掛け作業は、一方を他方に対して表裏どちらの面側に合わせるようにセットしても、上記と同様の作業で行うことができるようになっている。
【0026】
具体的には、
図4に示すように、上述した引掛け具14は、上述した撓み部14Cが上述したスリット14Bによって本体プレート14Aから面外方向のどちら側にも同じように押し撓ませられるように構成されている。したがって、
図5に示すように、上述した引掛け具14と相手側の引掛け具14とを
図2に示す面と反対側の面同士を合わせる向きに引き込んでも、上記と同様に互いの撓み部14Cを相手側に向かって鉤状に起こし上げる形に押し撓ませながら相手側のスリット14B内に掛け入れるようにセットすることで、互いに掛け合わせた状態とすることができる。
【0027】
このような引掛け構造とされていることにより、各引掛け具14を相手側の引掛け具14の向きに合わせて捩りながら引き込むことなく真っ直ぐ引き込んだ状態に止着することができるため、クッションカバー10を引き込む各引込み綿布13の帯幅全体に広く引き込みのテンションを掛けて、クッションカバー10を仕上がり良く張設することができる。また、各引掛け具14同士を表裏どちらの面側で合わせるようにセットしても、同様の引掛け作業で簡便に引掛けることができる。
【0028】
なお、上述した樹脂製の各引掛け具14同士の掛け合わされた構造物が周囲の部材と近接していて干渉音の発生が懸念される場合には、各引掛け具14の縫合された少なくとも一方の引込み綿布13に余長を持たせて周囲の部材との間に介在させる構成としてもよい。上記構成により、樹脂部材と周囲の部材との直接的な干渉に伴う異音の発生を抑制することができる。
【0029】
《まとめ》
以上をまとめると、本実施例のクッションカバー10は、次のような構成となっている。すなわち、シート表面を被覆するカバーピース(11)と、カバーピース(11)に結合されて所定部材(14)に引き込まれて引掛けられる引掛け具(14)と、を有する乗物用シートカバー(10)である。引掛け具(14)が、カバーピース(11)に沿って結合される面状の本体プレート(14A)と、本体プレート(14A)に形成されたスリット(14B)により本体プレート(14A)の一部を残して面外方向の双方向に撓むことのできる片持ち形状とされた撓み部(14C)と、を有する。撓み部(14C)が、所定部材(14)の引掛け構造に応じた面外方向の撓みにより所定部材(14)に引掛け可能な鉤形状となる双方向の引掛構造を有する。
【0030】
このような構成とされていることにより、引掛け具(14)に形成された撓み部(14C)により、所定部材(14)が引掛け具(14)の面外方向のどちら側に対応する引掛け構造を持つ構成とされていても、撓み部(14C)を対応する面外方向に撓ませて所定部材(14)に引掛けることができる。
【0031】
また、所定部材(14)が、カバーピース(11)の引き込み方向から反対側に引き込まれる他のカバーピース(11)に結合された別の引掛け具(14)である。このような構成とされていることにより、カバーピース(11)同士を引き込んだ状態に引掛ける作業を、引掛け具(14)の撓み部(14C)を相手側のカバーピース(11)に結合された別の引掛け具(14)の引掛け構造に応じた面外方向に撓ませて簡便に行うことができる。
【0032】
また、引掛け具(14)と別の引掛け具(14)とが互いに同一構造の共通部品から成る。このような構成とされていることにより、引掛け具(14)の共通部品化を図ることができると共に、引掛け具(14)と別の引掛け具(14)とをそれぞれ互いにどちら側からも引掛けられる、より作業性の良い構成とすることができる。
【0033】
また、本体プレート(14A)に形成されたスリット(14B)が、略U字状の切り込み形状とされて、撓み部(14C)が、スリット(14B)により囲まれた片持ち形状とされる。このような構成とされていることにより、撓み部(14C)を本体プレート(14A)により枠状に囲った構成とすることができ、撓み部(14C)を捩れさせにくい態様で所定部材(14)に引掛けることができる。
【0034】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の構成は、鉄道等の自動車以外の車両の他、航空機、船舶等の様々な乗物用に供されるシートカバーにも広く適用することができるものである。また、本発明の構成は、乗物用シートにおけるシートクッションの他、シートバックやヘッドレストやオットマン等の他のシート構造のシートカバーにも適用することができるものである。
【0035】
また、引掛け具の掛けられる所定部材は、シートフレームに結合されるワイヤフレームW(
図6参照)のようなシートカバーとは別体の部材から成るものであっても良い。また、上記引掛け具の掛けられる所定部材は、シートフレームのエッジやシートフレームから切り起こされた片やシートフレームに空けられた開口の縁等の部位に引掛け具を引掛ける構成であってもよい。
【0036】
また、引掛け具の本体プレートに撓み部を形成するスリットは、V字状や短冊状等のU字以外の形状から成るものであっても良い。また、スリットは、本体プレートの一辺から他辺に向かって切り込まれることで、上記一辺を自由端とする形に撓み部を形成するものであっても良い。
【0037】
また、引掛け具は、ポリプロピレンの発泡樹脂以外の樹脂から成るものであってもよく、金属等の樹脂以外の材料から成るものであっても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 シート(乗物用シート)
2 シートバック
3 シートクッション
10 クッションカバー(乗物用シートカバー)
11 天板カバーピース(カバーピース)
12 カマチカバーピース
13 引込み綿布
14 引掛け具(所定部材)
14A 本体プレート
14B スリット
14C 撓み部
14D 縫合部
20 クッションパッド
21 通し孔
W ワイヤフレーム