(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】表層形成用塗布液の製造方法及び電子写真用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220105BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20220105BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220105BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 550
B05D7/00 H
B05D7/24 302L
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303B
(21)【出願番号】P 2018095019
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼村 友男
(72)【発明者】
【氏名】藤本 信吾
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-2371(JP,A)
【文献】特開2016-128241(JP,A)
【文献】特開2007-53715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0321893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
B05D 7/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の表層形成用塗布液の製造方法であって、
少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、
前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、
前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3とを有し、かつ、
前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする表層形成用塗布液の製造方法。
【請求項2】
前記電子写真用部材が、定着部材であることを特徴とする請求項1に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【請求項3】
前記工程1と前記工程2との前記時間間隔が、1時間以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【請求項4】
前記表面にヒドロキシ基を有する充填剤が、親水性の金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【請求項5】
少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の製造方法であって、
少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、
前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、
前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3と、
前記分散液Bを含む表層形成用塗布液を、前記基材上に塗布及び硬化して表層を形成する工程4を有し、かつ、
前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする電子写真用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用部材、例えば、定着部材を構成する表層形成用塗布液の製造方法と電子写真用部材の製造方法に関し、更に詳しくは、パーフルオロポリエーテル化合物と表面にヒドロキシ基を有する充填剤を含有する分散液を用いた表層形成用塗布液で、分散安定性に優れた表層形成用塗布液の製造方法とそれを用いた電子写真用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光体ドラム上に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成し、形成されたトナー像を記録用紙に転写し、転写されたトナー像を加熱定着することで、記録用紙上に画像を形成する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
このような電子写真方式の画像形成装置を構成する電子写真用部材においては、表面に離型性を求められる部材が多く、例えば、トナーの転写性とクリーニング性が求められる感光体、トナーの転写性が求められる中間転写体、溶融トナーが付着したメディアの分離性が求められる定着部材等が挙げられ、その中でも、特に溶融トナーが粘着性を有するために、定着部材に離型性を付与する要求が顕著である。
【0004】
定着装置においては、加熱された定着部材と、トナーが転写済みのメディアとが圧着され、加熱及び加圧処理により、メディア上でトナーの定着は行われるが、その工程の後では、定着部材とメディアを分離する必要がある。
【0005】
この定着部材とメディアとの分離性を確保するためには、定着部材の表層としてテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が現在広く用いられており、それに加え、分離爪やメディアの吸引、メディア先頭端部へのエア吹き付け等の補助手段等を加えることにより、分離性を高めている。
【0006】
しかしながら、現在、適用されている定着方法では、今後の印刷のより一層の高速化や、省エネルギーやコストダウンを目的とした補助手段レス、分離が困難なコシのない薄紙等のメディア種の拡大等の要望に対しては、いまだ不充分である。加えて、顧客損失に直結するマシンのダウンタイムを削減するために、部材のパーマネント化が求められており、このような状況に鑑み、定着部材とメディアとの分離性を高めるための、定着部材表層の改良が試みられている。
【0007】
例えば、特許文献1には、PFA等のフッ素ポリマー膜を強アルカリ処理した後、パーフルオロポリエーテル鎖を有するシランカップリング剤と反応させることによって、未処理のフッ素ポリマー膜に比べて優れた定着時の分離性を有する撥液膜とその製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1で開示されている製造方法では、形成される撥水膜は、極めて浅い表面部分にしかパーフルオロポリエーテル構造を導入することができないことが、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)によるエッチングで強アルカリ処理部が露出するとの記載から明らかであり、パーマネント化は困難である。
【0008】
また、特許文献2には、基板と、基板の上に配置された機能性層と、機能性層の上に配置された外側層とを備えた定着部材において、特定のパーフルオロアルキル構造を有する重合体をシロキサン含有架橋剤で架橋した膜を表層とすることより、オイルレス定着を可能とする定着部材が開示されている。特許文献2においては、導電性フィラー又は非導電性フィラーが存在してもよいとされているが、アルコキシシラン含有パーフルオロポリエーテルとは構造が異なり、またフィラーの分散性に関する記載や示唆は一切なされていない。
【0009】
また、特許文献3には、パーフルオロアルキル基を含むシランカップリング剤で処理した無機充填剤が分散された耐熱性エラストマーからなる表面層を有する電子写真用定着部材が開示されているが、パーフルオロポリエーテルと充填剤を用いた系での分散安定性に関する記載や示唆は一切なされていない。
【0010】
上述のとおり、パーフルオロアルキル構造を有する重合体等のフッ素ポリマー膜を定着部材の表層として形成することにより、単純に低表面エネルギー化し、高離型性を実現させる方法が広く検討されているが、このフッ素ポリマーはフッ素原子を豊富に含むため、離型性という点では優れた特性を備えている反面、多くの問題を抱えており、フッ素ポリマー以外の方法の探索が併せて行われている。
【0011】
例えば、フッ素ポリマー膜を用いた単純な低表面エネルギー化による離型性付与以外の高い離型性を実現する方法として、フッ素原子を豊富に含むパーフルオロポリエーテルモノマーに、充填剤、例えば、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して分散、表層表面に凹凸構造を形成することにより、接触面積の低減化により、離型性を高める検討がなされている。しかしながら、フッ素原子を豊富に含むパーフルオロポリエーテルモノマーと、表面にヒドロキシ基を有する充填剤の組み合わせでは、両者の間では表面エネルギーが大きく異なるため、表層形成用分散液等を調製する際に、分散性及び分散安定性が極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-022056号公報
【文献】特開2013-218324号公報
【文献】特開平10-10896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、分散安定性、及び離型性に優れ、高品質の電子写真画像が得られる電子写真用部材の表層形成用塗布液の製造方法と、それを用いた電子写真用部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の形成に用いる表層形成用塗布液の調製において、十分なシラノール構造を形成することにより、アルコキシシランのシラノール構造と、充填剤のヒドロキシ基との間に生じる相互作用(例えば、水素結合や共有結合)によって、表面エネルギーが大きく異なるアルコキシシランと充填剤との組み合わせの分散液においても、粒子の凝集やゲル化を生じることなく、優れたポットライフを有する表層形成用塗布液を得ることができることを見いだし、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
【0016】
1.少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の表層形成用塗布液の製造方法であって、
少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、
前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、
前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3とを有し、かつ、
前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする表層形成用塗布液の製造方法。
【0017】
2.前記電子写真用部材が、定着部材であることを特徴とする第1項に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【0018】
3.前記工程1と前記工程2との前記時間間隔が、1時間以上であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【0019】
4.前記表面にヒドロキシ基を有する充填剤が、親水性の金属酸化物微粒子であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の表層形成用塗布液の製造方法。
【0020】
5.少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の製造方法であって、
少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、
前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、
前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3と、
前記分散液Bを含む表層形成用塗布液を、前記基材上に塗布及び硬化して表層を形成する工程4を有し、かつ、
前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする電子写真用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分散安定性及び離型性に優れ、高品質の電子写真画像が得られる電子写真用部材の表層形成用塗布液の製造方法とそれを用いた電子写真用部材の製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明で規定する構成からなる表層形成用塗布液及び電子写真用部材の技術的特徴とその効果の発現機構は、以下のように推察される。
【0023】
上述のとおり、定着部材を構成する表層の離型性を高める方法としては、低表面エネルギー化を挙げることができるが、現在の一般的に適用されているテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)のみで所望の離型性を実現するには限界があった。
【0024】
対応策として、単純なPFA単独で低表面エネルギー化を達成することにより高離型性を達成する方法の他に、分子構造中にフッ素原子を多く含むパーフルオロポリエーテルモノマーに対し、更に充填剤を添加・分散して分散液を調製し、当該分散液を基材上に塗布・硬化して凹凸構造を有する表層を形成することにより、表面層における低表面エネルギー化と接触面積の低減により、高い離型性を達成することができる。
【0025】
この時、分散液を調製する過程において、第1ステップで、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液を調製する際に、所定の時間をかけて調製することにより、アルコキシシランのシラノール化を推進し、かつ調製環境として、密閉しない開放容器内で調製しうることにより、アルコキシシラン構造の加水分解により生じるアルコールを系外に容易に取り除くことにより、シラノール化を推進させることができる。
【0026】
次いで、十分なシラノール構造を形成することにより、アルコキシシランのシラノール構造と、充填剤のヒドロキシ基との間に生じる相互作用(例えば、水素結合や共有結合)によって、表面エネルギーが大きく異なるアルコキシシランと充填剤との組み合わせの分散液においても、粒子の凝集やゲル化を長じることなく、優れたポットライフを有する表層形成用塗布液を得ることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の表層形成用塗布液の製造方法の一例を示す工程フロー図
【
図2】本発明に係る表層を有する定着部材の構成の一例を示す概略図
【
図3】本発明に適用可能な画像形成装置の全体構成の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の表層形成用塗布液の製造方法は、少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の表層形成用塗布液の製造方法であって、少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3とを有し、かつ、前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0029】
本発明の実施形態としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記電子写真用部材が定着部材であることが、より優れた離型性を発揮させることができる点で好ましい。
【0030】
また、前記工程1と前記工程2との前記時間間隔を1時間以上とすることが、工程1における分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物のシラノール化を十分に推進することにより、より優れた分散液安定性を実現することができる点で好ましい。
【0031】
また、表面にヒドロキシ基を有する充填剤が、親水性の金属酸化物微粒子であることが、より優れた離型性を備えた表層を形成することができる点で好ましい。
【0032】
また、本発明の電子写真用部材の製造方法としては、少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の製造方法であって、少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを調製する工程1と、前記分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程2と、前記分散液Aと前記充填剤を含む混合液を分散して分散液Bを調製する工程3と、前記分散液Bを含む表層形成用塗布液を、前記基材上に塗布及び硬化して表層を形成する工程4を有し、かつ、前記工程1の開始時と前記工程2の開始時までの間に、開放状態で前記分散液Aを撹拌する時間間隔を設けることを特徴とする。
【0033】
以下、本発明の表層形成用塗布液及び電子写真用部材の構成要素、及び本発明を実施するための形態について、図を交えて詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。なお、各図の説明において、構成要素の末尾に括弧内で記載した数字は、各図における符号を表す。
【0034】
《表層形成用塗布液と電子写真用部材の製造方法》
少なくとも基材と表層からなる電子写真用部材の作製に用いる本発明の表層形成用塗布液を製造方法として、下記各工程を経て、表層形成用塗布液を調製し、当該表層形成用塗布液を用いて基材上に表層が形成して、電子写真用部材、より具体的には、定着部材を作製する。
【0035】
具体的な製造フローを、図を交えて説明する。
【0036】
図1は、本発明の表層形成用塗布液及び電子写真用部材の製造方法の一例を示す工程フロー図である。
【0037】
図1で示すように、本発明の表層形成用塗布液は、
1A)工程1:少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを、密閉しない状態で、開放系の調製釜を用いて調製する工程。
【0038】
1B)工程2:工程1で調製した分散液Aに、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を添加して混合液を調製する工程。本発明においては、分散液Aを調製する工程1の開始時と、分散液Aと充填剤を混合して混合液を調製する工程2の開始時までの間に、分散液Aの撹拌時間Tを設けることを特徴とする。
【0039】
1C)工程3:分散液Aと充填剤とを含む混合液を所望の分散機を用いて分散して、分散液Bを調製する工程。
【0040】
を経て製造される。
【0041】
また、電子写真用部材の製造方法では、
2A)無端状の基材を用意する。
【0042】
2B)無端状の基材上に、弾性層を形成して、積層体を作製する。
【0043】
1D)工程4:分散液Bを含む表層形成用塗布液を、2B)で作製した無端状の基材ベルト上に弾性層が形成されている積層体上に塗布及び硬化して表層を形成して、電子写真用部材を製造する。
【0044】
上記表層の形成は、例えば、スプレー塗布、ノズルやスリットを用いたスパイラル塗布、ディッピング塗布、ロールコーター塗布など公知の液体塗布方法によって形成することが可能である。
【0045】
1E)表層を形成した定着部材を、所定の温度で加熱処理した後、熱乾燥を行う。
【0046】
1F)最後に、定着部材を一定の温湿度環境下で調湿処理を行う。
【0047】
本発明の表層形成用塗布液の製造方法の特徴の一つは、工程1にて、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と水を含む分散液Aを、開放状態の釜で行う。これは、水による分子末端に有するアルコキシシランを加水分解してシラノール構造を形成するが、この加水分解により生じるアルコールを系外に取り除くことにより、平衡反応であるアルコキシシランのシラノール化を推進することができる。このため、上記反応系を開放系環境下で行うことにより、生成したアルコールの除去を容易にすることができる。
【0048】
開放状態の釜として、蓋を有しない構造でもよいが、外部からの浮遊物の混入を防止する観点からは、通気性を有する材料、例えば、メッシュ状布や長繊維で構成される不織布等を用いて覆ってもよい。また、必要に応じて、釜内の空間部に貯留しているアルコールを含む気体を、強制的に外部へ排出・換気する方法であってもよい。
【0049】
本発明の表層形成用塗布液の製造方法の特徴の他の一つは、分散液Aを調製する工程1の開始時と、分散液Aと充填剤を混合して混合液を調製する工程2の開始時までの間に、時間間隔として、分散液Aを撹拌する撹拌時間Tを設けることが特徴である。撹拌時間Tとしては、25℃で1時間以上であることが好ましく、25℃で10時間以上であることがさらに好ましい。
【0050】
また、この工程1を開始し、工程2を開始するまでの間の撹拌時間Tを短時間化すること自体は、触媒量の増加や加温によって可能であるが、反応の暴走による発熱やゲル(重合反応による不溶物)が生じるリスクがある。
【0051】
分散液Aの撹拌時間Tの上限は、特に限定されないが、加水分解が過剰に進行すること、ゲル化物の生成を考慮すると、25℃で数日以下、例えば、200時間以下であることが好ましい。また、ゲル生成を避けて長時間化すること自体は、水の減量や低温保存することによって可能であるが、生産コストを上げるデメリットが存在するだけである。
【0052】
また、本発明の表層形成用塗布液の製造方法の工程2においては、パーフルオロポリエーテル化合物と充填材を混合することにより、工程1で生成したアルコキシシランを加水分解してシラノール構造と、充填材が有するヒドロキシ基との間で生じる相互作用(水素結合や共有結合)により、分散液の分散安定性を向上させることができ、フッ素原子を豊富に含むパーフルオロポリエーテル化合物と充填剤により、異物や凝集物の発生がない優れた凹凸構造を有する表層を形成するができ、低表面エネルギー化と接触面積の低減化を実現し、離型性に優れたた定着部材を得ることができる。
【0053】
上記方法で作製される電子写真用部材(定着部材)は、電子写真方式の画像形成装置における定着装置に適用される。上記定着部材を有する画像形成装置は、上記の定着部材を有する以外は、記録媒体上の未定着のトナー画像を、定着部材を用いる加熱及び加圧によって上記記録媒体に定着させるための定着装置を有する公知の画像形成装置と同様に構成することができる。当該画像形成装置において、上記定着部材は、公知の電子写真方式の画像形成方法における定着工程に供される。
【0054】
定着部材の形態は、前述したように、定着スリーブであってもよいし、無端状の定着ベルトであってもよいが、定着時における排紙角を大きくしやすく上記分離性に有利な観点から、無端ベルト状であることが好ましい。
【0055】
[電子写真用部材の製造方法]
本発明に係る表層形成用塗布液を用いて製造する電子写真用部材としては、高度の離型性が求められる部材を挙げることができるが、その中でも、特に、定着部材に適用することが極めて有効である。
【0056】
以下、代表的な電子写真用部材である定着部材について説明する。
【0057】
〔定着部材〕
本発明に係る電子写真用部材は、少なくとも基材と表層を有し、更に好ましくは、基材、弾性層及び表層をこの順で積層された構造の定着部材である。
【0058】
本発明において、定着部材は、本発明の表層形成用塗布液の製造方法により調製された表層形成用塗布液を用いて形成された表層を有している以外は、基材、弾性層及び表層がこの順で重なるように配置されている公知の定着部材と同様に構成することができる。
【0059】
定着部材は、金属製の円筒の外周面に上記の3層が担持されて構成されている定着スリーブであってもよいし、上記の3層を有する無端状の定着ベルトであってもよい。
【0060】
定着部材の一例である定着ベルトの構成について、
図2で示す。
【0061】
図2は、本発明に係る表層を有する定着部材(定着ベルト)の構成の一例を示す概略図である。
図2の(a)は、本発明に係る表層を有する無端ベルト状の定着ベルト(1)の構成の一例を示す模式図であり、
図2の(b)は
図2の(a)で示される定着ベルト(1)に記載の領域Aを拡大した概略断面図である。
【0062】
定着ベルト(1)は、
図2の(b)で示すように、基材(2)、弾性層(3)及び表層(4)をこの順で積層してなる無端状のベルトである。
【0063】
以下、定着部材の各構成要素の詳細について説明する
(I:基材)
定着部材を構成する基材(2)は、例えば、耐熱性を有する樹脂(耐熱性樹脂)で構成される。本発明でいう「耐熱性」とは、電子写真方式の画像形成で、トナー画像の記録媒体への定着に上記定着部材を用いる際の温度、例えば、150~220℃の温度範囲において、変形することなく、十分に安定して所期の物性を発現することを意味する。
【0064】
上記耐熱性樹脂は、定着部材の上記の使用温度において実質的な変性及び変形を生じない樹脂から適宜に選ばれ、1種でも、2種以上併用してもよい。
【0065】
本発明に適用可能な耐熱性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン等を挙げることができる。その中でも、耐熱性の観点から、ポリイミドが好ましい。
【0066】
ポリイミドは、例えば、その前駆体であるポリアミド酸を200℃以上で加熱すること、又は触媒を用いることによる脱水及び環化(イミド化)反応を進めることによって得ることができる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを溶媒に溶解し、混合及び加熱による重縮合反応によって製造してもよいし、市販品を用いてもよい。上記ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の例としては、特開2013-25120号公報の段落(0123)~(0130)に記載の化合物を挙げることができる。
【0067】
耐熱性樹脂は、本発明に係る定着部材の基材を構成する主要材料であり、その含有量は、基材を形成するのに十分な量であればよい。基材における耐熱性樹脂の含有量は、基材作製時における成形性の観点から、基材全体積の40~100体積%であることが好ましい。
【0068】
基材(2)は、本発明が目的とする効果が得られる範囲においては、耐熱性樹脂以外の成分を更に含んでいてもよい。例えば、基材の構成材料として、耐熱性樹脂の他に、フィラーを含有していてもよい。当該フィラーは、例えば、基材の硬さ、伝熱性及び導電性の少なくとも一つの性能向上に寄与する成分である。当該フィラーは、1種でも、2種以上でもよく、フィラーの一例としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボン及び黒鉛等が挙げられる。
【0069】
本発明において、基材におけるフィラーの含有量は、多すぎると、基材の靱性が低くなって定着部材の定着性及び分離性が低くなることがあり、また、少なすぎると、例えば適度な導電性の付与などのフィラーによる所望の効果が不十分となることがある。このような観点から、基材におけるフィラーの含有量は、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、上記基材における上記フィラーの含有量の上限は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
(II.弾性層)
本発明に係る定着部材を構成する弾性層(3)は、定着ニップ部における定着部材の表面と、未定着のトナー画像を担持する記録媒体との接触性の向上に寄与する弾性を有する層であり、例えば、弾性材料で構成される。
【0071】
本発明に適用可能な弾性材料の一例としては、弾性樹脂材料を挙げることができ、その例には、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマー及びゴム材料が含まれる。中でも、上記弾性材料は、所期の弾性特性の他に耐熱性の観点から、シリコーンゴムであることが好ましい。
【0072】
上記シリコーンゴムは、1種でも2種以上併用してもよい。本発明に適用が可能なシリコーンゴムの例としては、ポリオルガノシロキサン又はその加熱硬化物、特開2009-122317号公報に記載の付加反応型シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0073】
当該ポリオルガノシロキサンの例としては、特開2008-255283号公報に記載の、両末端がトリメチルシロキサン基で封鎖され、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサンが代表例として挙げることができる。
【0074】
弾性層(3)の厚さは、例えば、伝熱性及び弾性を十分に発現させる観点から、5~500μmの範囲内であることが好ましく、50~350μmの範囲内であることがより好ましい。
【0075】
上記弾性層(3)は、本発明が目的とする効果を得ることができる範囲内において、上記の弾性樹脂材料以外の成分を更に含んでいてもよい。例えば、弾性層は、上記弾性材料の他に、弾性層の伝熱性を高めるための伝熱性フィラーを含んでいてもよい。当該フィラーの材料の例には、シリカ、金属ケイ素、アルミナ、亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボン及び黒鉛が含まれる。上記フィラーの形態は、限定されず、例えば、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末又は繊維状である。
【0076】
弾性層を構成する弾性材料における弾性樹脂材料の含有量は、伝熱性と弾性とを両立させる観点から、弾性層全体積に60~100体積%の範囲内であることが好ましく、75~100体積%であることがより好ましく、80~100体積%であることがさらに好ましい。
【0077】
(III.表層)
本発明に係る定着部材を構成する表層(4)は、少なくとも、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と、表面にヒドロキシ基を有する充填剤とを含む組成物の硬化物によって構成される。
【0078】
〈分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物〉
本発明に適用する分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物におけるパーフルオロポリエーテル化合物(以下、「PFPE」ともいう)は、パーフルオロアルキレンエーテルを繰り返し単位として有するオリゴマー又はポリマーである。
【0079】
パーフルオロアルキレンエーテルの繰り返し単位の構造の例には、パーフルオロメチレンエーテル、パーフルオロエチレンエーテル、パーフルオロプロピレンエーテルの繰り返し単位の構造が含まれる。
【0080】
その中でも、パーフルオロポリエーテルが、下記式(a)で表される繰り返し構造単位1、又は、下記式(b)で表される繰り返し構造単位2を有していることが好ましい。
【0081】
【0082】
【0083】
PFPEが、上記繰り返し構造単位1又は繰り返し構造単位2を有する場合、繰り返し構造単位1の繰り返し数m及び繰り返し構造単位2の繰り返し数nは、それぞれ0以上の整数であり、かつ、m+n≧1である。
【0084】
また、繰り返し構造単位1及び繰り返し構造単位2の両方を有する場合、繰り返し構造単位1と繰り返し構造単位2とは、ブロック共重合体構造を形成していてもランダム共重合体構造を形成していてもよい。
【0085】
分子末端にアルコキシシランを有するアルコキシシリル基に特に限定はないが、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などである。通常、アルコキシシリル基においてケイ素原子と結合しているアルコキシ基の炭素数は1~20程度である。
【0086】
アルコキシシリル基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基、ジメトキシメチル基、ジエトキシメチル基、ジエトキシエチル基などのジアルコキシアルキルシリル基、メトキシジメチル基、エトキシジメチル基、エトキシジエチル基などのモノアルコキシジアルキル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
アルコキシシリル基はPFPEの両末端に存在しても、片末端のみに存在してもかまわないが、表層として十分な強度を発揮するためには、両末端にアルコキシシリル基が存在する構成が好ましい。
【0087】
本発明に適用する分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物は、下記一般式(c)で表される化合物であることが好ましい。
【0088】
一般式(c)
B-A-CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2-A-B
上記一般式(c)において、Aは連結基を表し、Bはアルコキシシリル基を表し、m及びnは、それぞれ0以上の整数を表し、かつm+n≧1である。
【0089】
上記一般式(c)において、Bで表されるアルコキシシリル基は、上述したアルコキシシリル基と同様であり、当該化合物は、両末端にアルコキシシリル基が存在するものである。
【0090】
式中のm及びnは、それぞれ0以上の整数であり、かつ、m+n≧1である。上記mは2~20であることが好ましく、4~15であることがより好ましい。また、上記nは、2~20であることが好ましく、4~15であることがより好ましい。
【0091】
また、分子構造の両末端がアルコキシシランであるパーフルオロポリエーテル化合物と、分子構造の片末端がアルコキシシランであるパーフルオロポリエーテル化合物との混合物でもよい。当該混合物における、両末端がアルコキシシランであるパーフルオロポリエーテル化合物の割合は、80~100質量%の範囲内であることが好ましい。両末端がアルコキシシランであるパーフルオロポリエーテル化合物の割合が80質量%未満であると、表層の硬化性が不十分となる恐れがある。
【0092】
分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物の重量平均分子量Mwは、100~8000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、500~5000の範囲内である。
【0093】
分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物の市販品としては、両末端がトリエトキシシリル基であるSolvay社製の「Fluorolink S10」(「FLUOROLINK」は同社の登録商標である)等が挙げられる。
【0094】
〈充填剤〉
表層に含まれる充填剤は、表面にヒドロキシ基を有する充填剤である。このような充填剤は、その表面のヒドロキシ基が上記パーフルオロポリエーテル化合物のアルコキシシラン末端と一次結合を形成することによって、パーフルオロポリエーテル鎖同士の架橋や絡み合いを抑制するものである限り、特に限定はない。本発明において好適な充填剤としては、表面にヒドロキシ基を有する親水性の金属酸化物微粒子や、セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0095】
表面にヒドロキシ基を有する金属酸化物微粒子としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム等が挙げられ、シリカ、酸化チタン、酸化スズ等が好ましい。これら金属酸化物粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0096】
金属酸化物微粒子の粒径に特に限定はないが、通常、5nm以上、10μm以下であることが好ましく、30nm以上、1.0μm以下であることがより好ましい。5nm未満の様な小粒径過ぎると分散が困難となり、10μmを超える大粒径となると、その粒子により形成される凹凸構造にトナーが一時的に嵌まり込んで、本来意図しない箇所に定着されること、又は定着トナー表面が凹凸化されて可視光を散乱し、低光沢画像となる点で好ましくない。当該粒径は、公知の粒度分布装置を用いて求めることが可能である。
【0097】
ヒドロキシ基を有する充填剤として使用するセルロースナノファイバーにも特に限定はないが、その繊維幅は、通常、1~200nmの範囲内であることが好ましく、1~100nmの範囲内であることがより好ましい。また、セルロースナノファイバーの繊維長は、通常、1~200μmの範囲内であることが好ましく、1~100μmの範囲内であることがより好ましい。セルロースナノファイバーの繊維幅及び繊維長が上記範囲内であると、定着トナー表面が凹凸化されて低光沢となることがない点で好ましい。
【0098】
また、ヒドロキシ基を有する充填剤は、その疎水化度が0~20%の範囲内であることが好ましい。疎水化度が20%以下であれば、本発明の効果発現に必要なヒドロキシ基量が確保されるためと考えられる。
【0099】
本発明でいう疎水化度とは、次の方法で測定した値である。
【0100】
充填剤0.5gに、水とメタノールの比率を変えた混合溶液100mLを加えて振とうし、1晩静置し、目視浮遊量が0%となるメタノール濃度(容量%)を、充填剤の疎水化度とする。
【0101】
表層に含まれる当該充填剤の量に特に限定はないが、表層全体積の5~30体積%の範囲内であることが好ましく、5~20体積%の範囲内であることがより好ましい。充填剤の量が5体積%以上であれば、パーフルオロポリエーテル鎖同士の架橋や絡み合いを抑制して、表層の固体表面の分子運動性を向上させることが可能となる。また、充填剤の量が30体積%以下であれば、定着部材の表層に必要な性質を損なう恐れもない。
【0102】
なお、定着部材の表層に含まれる充填剤の量は、次の方法で確認することができる。例えば、金属酸化物微粒子のように有機物であるマトリクスに対して高い耐熱性を有する充填剤であれば、熱重量分析で500℃まで昇温したときの残分から算出できる。他の方法としては、ミクロトームなどで断面を作製して電子顕微鏡やレーザー顕微鏡観察画像を画像解析することで算出できる。
【0103】
更に、表層を構成する組成物には、上記分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物及び表面にヒドロキシ基を有する充填剤の他に、本発明における表層の特徴が損なわれない限り、他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分とは、アルコシシリル基以外の官能基を末端に有するパーフルオロポリエーテル化合物やPFA等の他の樹脂、アルコシキシリル基を有するパーフルオロポリエーテル以外の化合物、アルコキシシリル基の脱水縮合反応の触媒、一般的に定着部材の表層に含まれ得る、微粒子材料、添加剤等である。
【0104】
また、アルミニウムキレート剤を適用することができる。アルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0105】
表層の厚さは、その性能が発現される範囲から適宜に決めることができ、例えば、熱の伝達、弾性層の変形への追従及び離型性の発現の観点から、5~100μmの範囲内であることが好ましく、5~50μmの範囲内であることがより好ましく、5~30μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0106】
《画像形成装置》
本発明の表層形成用塗布液の製造方法により製造した表層形成用塗布液を用いて形成した表層を有する電子写真用部材の代表例である定着部材は、電子写真方式の画像形成装置に組み入れることができる。
【0107】
代表的な画像形成装置の一例について、図を交えて説明する。
【0108】
図3は、本発明に適用可能な画像形成装置の全体構成の一例を示す概略図である。
【0109】
図3に示す画像形成装置(10)は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式のカラー画像形成装置であり、主には、自動原稿搬送部(20)、スキャナー部(30)、画像形成部(40)、給紙部(50)、記憶部(60)、操作表示部(70)、制御部)100)等を備えて構成される。
【0110】
自動原稿搬送部(20)は、原稿(D)を載置する載置トレイや原稿(D)を搬送する機構及び搬送ローラー等を備えて構成され、原稿(D)を所定の搬送路に搬送する。
【0111】
スキャナー部(30)は、光源や反射鏡等の光学系を備えて構成され、所定の搬送路を搬送された原稿(D)又はプラテンガラスに載置された原稿(D)に光源を照射し、反射光を受光する。また、スキャナー部(30)は、受光した反射光を電気信号に変換して制御部(100)に出力する。
【0112】
画像形成部(40)は、イエロー作像部(Y)、マゼンタ作像部(M)、シアン作像部(C)、ブラック作像部(K)、中間転写ベルト(T)、定着装置(F)等を備えて構成される。
【0113】
その他には、感光体ドラム(41)、帯電装置(42)、露光装置(43)、現像装置(44)、一次転写ローラー(45)、中間転写ベルト(T)、二次転写ローラー(46)等を有するが、その詳細な構成の説明は省略する。
【0114】
本発明に係る表層を有する定着部材を具備する定着装置(F)は、
図3に示すように、主には、用紙(P)の下面側に配置される加熱搬送ローラー(搬送ローラー、F1)と、上面側に配置される定着ローラー(第1ローラー、F2)及び定着ローラー(F2)の上方に配置される加熱ローラー(第2ローラー、F3)と、本発明に係る定着部材である定着ベルト(F4)等、を備えて構成されている。定着装置(F)は、加熱搬送ローラー(F1)及び定着ローラー(F2)を加熱して圧接することにより形成されたニップ部に用紙(P)を通過させることで用紙(P)を加熱及び加圧して、転写されたトナー像を用紙(P)に定着させるとともに、当該用紙(P)を搬送方向下流側に搬送する。
【0115】
加熱搬送ローラー(F1)は、ゴムにより円筒状に形成され、加熱ローラー(F3)と同様、内部に高出力ヒーターを備えている。加熱搬送ローラー(F1)は、用紙(P)の搬送方向に対して順方向に回転し、搬送されてきた用紙(P)の非定着面を加熱及び加圧する。
【0116】
本発明に係る表層を有する定着部材を具備する定着装置では、定着部材の形態に応じた構成を有する公知の定着装置と同様に構成することができる。例えば、定着部材が上記定着ベルトである場合では、定着装置は、それを用いる構成、つまり二軸張架ベルト定着やパッド押圧ベルト定着、IHベルト定着などを実現する公知の構成を有することが好ましい。
【0117】
本発明において適用可能な画像形成装置の詳細につては、例えば、特開2017-173445号公報、同2017-194550号公報、同2018-4714号公報、同2018-5016号公報、2018-25691号公報、同2018-25691号公報、同2018-36449号公報、同2018-36587号公報、同2018-54758号公報、同2018-66768号公報等に記載されている画像形成装置や定着装置を参照することができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0119】
《表層形成用塗布液の調製》
〔表層形成用塗布液1の調製〕
(1)分散液Aの調製(工程1)
開放容器中に、アルコキシシラン末端を有するパーフルオロポリエーテル化合物(PFPE)として、Fluorolink S10(ソルベイ社製PFPEモノマー、両末端にトリエトキシシランを有する)を15質量部と、イオン交換水0.30質量部とを添加、混合し、開放容器の開口部を旭化成製の長繊維不織布であるクリーンワイパー「ベンコット」で覆った状態で、撹拌時間(T)として25℃で72時間要して、分散液Aを調製した。
【0120】
(2)分散液Aと充填剤による混合液1の調製(工程2)
次いで、上記調製した分散液Aにテトラヒドロフランの59質量部を添加・溶解したのち、ヒドロキシ基を有する充填剤として、テイカ社製のルチル型酸化チタン(略称:JR、平均一次粒子径:0.27μm、表面処理:なし)を7.4質量部混合して、混合液1を調製した。
【0121】
(3)分散液Bの調製(工程3)
上記調製した混合液1を、超音波ホモジナイザーを用いて分散させ、分散液Bを調製し、これを表層形成用塗布液1とした。
【0122】
〔表層形成用塗布液2の調製〕
上記表層形成用塗布液1の工程1における分散液Aの調製において、イオン交換水0.30質量部を、アルミニウムキレート化合物(アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、略称:A(W)、川研ファインケミカル製、略称:A(W))の0.075質量部とイオン交換水の0.15質量部に変更し、かつ25℃における撹拌時間(T)を72時間から10時間に変更した以外は同様にして、表層形成用塗布液2を調製した。
【0123】
〔表層形成用塗布液3の調製〕
上記表層形成用塗布液2の工程1における分散液Aの調製において、25℃における撹拌時間(T)を10時間から1時間に変更した以外は同様にして、表層形成用塗布液3を調製した。
【0124】
〔表層形成用塗布液4の調製〕
上記表層形成用塗布液1の工程1における分散液Aの調製において、25℃における撹拌時間(T)を72時間から192時間に変更した以外は同様にして、表層形成用塗布液4を調製した。なお、表層形成用塗布液4の工程2において、分散液Aをテトラヒドロフランに溶解させた段階で、極微量の透明ゲル粒子が目視できたため、アドバンテック製の定性濾紙No.101を用いて自然濾過を行って、当該透明ゲル粒子を除いた。
【0125】
〔表層形成用塗布液5の調製〕
上記表層形成用塗布液2の工程1における分散液Aの調製において、25℃における撹拌時間(T)を10時間から96時間に変更した以外は同様にして、表層形成用塗布液5を調製した。なお、表層形成用塗布液5の工程2において、分散液Aをテトラヒドロフランに溶解させた段階で、極微量の透明ゲル粒子が目視できたため、アドバンテック製の定性濾紙No.101を用いて自然濾過を行って、当該透明ゲル粒子を除いた。
【0126】
〔表層形成用塗布液6の調製〕
上記表層形成用塗布液1の工程1における分散液Aの調製において、25℃における撹拌時間(T)を設けずに、工程1~工程3まで連続して行った以外は同様にして、表層形成用塗布液6を調製した。
【0127】
〔表層形成用塗布液7の調製〕
上記表層形成用塗布液2の工程1における分散液Aの調製において、25℃における撹拌時間(T)を設けずに、工程1~工程3まで連続して行った以外は同様にして、表層形成用塗布液7を調製した。
【0128】
〔表層形成用塗布液8の調製〕
上記表層形成用塗布液2の工程1における分散液Aの調製において、開放容器に代えて、密閉容器を用い、撹拌時間(T)である10時間の間、容器内空間の気体の循環(更新)は行わない状態とした以外は同様にして、表層形成用塗布液8を調製した。
【0129】
《定着ベルトの作製》
〔定着ベルト1の作製〕
内径が99mm、長さが360mm、厚さが70μmの熱硬化性ポリイミド樹脂からなるベルト基材の内側に、外径が99mmのステンレス製の円筒状の芯金を密着させた。次いで、当該ベルト基材の外側に円筒金型を被せ、芯金と円筒金型を同軸で保持するとともに、両者の間にキャビティを形成した。
【0130】
次いで、当該キャビティにシリコーンゴム材料Aを注入し、加熱硬化して、厚さが200μmのシリコーンゴムAにより構成される弾性層を形成した。なお、シリコーンゴム材料Aは、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサン100質量部と、シリカ15質量部とを混合した組成物である。
【0131】
次に、上記のようにして作製したベルト基材と弾性層の無端状の積層体を、スパイラル塗布装置に張架して回転させ、コロナ処理を行った。
【0132】
次いで、無端状の積層体の外周面に、上記調製した表層形成用塗布液1をスパイラル塗布法にて塗布し、表層形成用塗布液1による塗膜を形成した。形成した塗膜を、100℃で1時間、次いで150℃まで昇温して熱乾燥させ、次に50℃、85%RHの環境下で4時間の加湿処理を施して、膜厚が10μmの表層を形成し、ベルト基材、弾性層及び表層をこの順で積層した定着ベルト1を作製した。
【0133】
〔定着ベルト2~8の作製〕
上記定着ベルト1の作製において、表層の形成に用いた表層形成用塗布液1を、それぞれ表層形成用塗布液2~8に変更した以外は同様にして、定着ベルト2~8を作製した。
【0134】
《表層形成用塗布液の評価》
〔分散安定性の評価〕
上記各表層形成用塗布液を用いて定着ベルトを作製した後、塗布液を貯留した釜の底部を目視観察し、白色沈殿物発生の有無を確認し、下記の基準に従い、塗布液の分散安定性を評価した。
【0135】
○:釜の底部に沈殿物の発生は全く認められず、かつ形成した表層面でも凝集物がない
△:釜の底部にごく微量の沈殿物の発生は認められたが、形成した表面層での凝集物の発生はなく、実用上許容される品質である
×:釜の底部に多量の白色沈殿物の発生が認めら、かつ形成した表面層でも凝集物が点在しており、実用上問題となる品質である。
【0136】
〔ゲル化耐性の評価〕
上記各表層形成用塗布液の調製において、工程2の調製した分散液Aにテトラヒドロフランを添加し溶解した段階での溶液中のゲル化物の有無を目視観察し、下記の基準に従って、ゲル化耐性の評価を行った。
【0137】
○:ゲル化物の発生が全く認められない
△:極微量のゲル化物の発生は認められるが、濾過処理を施すことにより、ゲル化物を容易に取り除くことができる
×:多量のゲル化物が発生し、濾過処理で目詰まりが生じ、ゲル化物を取り除くことが困難であり、固形分量が変化する。ことができない。
【0138】
《定着ベルトの評価》
〔画像品質の評価:画像欠陥の有無〕
上記作製した定着ベルト1~8のそれぞれを、フルカラー複写機「bizhub PRESS C1070」(コニカミノルタ株式会社製、「bizhub」は同社の登録商標)に装着した。記録媒体には、「mondi color copy A3 坪量:90g/m2」を使用した。また、定着ベルトの表面温度は、180℃とした。また、トナーには二成分現像剤を用い、そのトナー母体粒子の体積平均粒径は、6.5μmである。
【0139】
記録媒体へのマゼンタとイエローのトナーの付着量を各色4g/m2になるように調整して、二次色であるレッドのベタ画像を出力し、形成したベタ画像の画像欠陥の有無、具体的には、点状欠陥やざらつき感の有無を目視観察し、下記の基準に従って、画像品質の評価を行った。
【0140】
○:形成したベタ画像に、点状欠陥の発生やざらつき感が全くない
△:形成したベタ画像に、極弱い点状欠陥の発生やざらつき感が認められるが、実用上許容される品質である
×:形成したベタ画像に、強い点状欠陥の発生やざらつき感が認めら、実用に耐えない品質である
以上により得られた結果を、表Iに示す。
【0141】
【0142】
表Iに記載した結果より明らかなように、分子末端にアルコキシシランを有するパーフルオロポリエーテル化合物と、表面にヒドロキシ基を有する充填剤を用い、パーフルオロポリエーテル化合物を含む分散液を開放系容器で調製し、この分散液に充填剤を添加するまでに時間差を設けて調製した本発明の表層形成用塗布液は、比較例に対し、分散安定性及びゲル化耐性に優れていることが分かる。更に、本発明の表層形成用塗布液を用いて形成した表層を具備する定着ベルトは、比較例に対し、形成した画像において、点状欠陥の発生やざらつき感がなく、画像品質に優れることが分かる。また、本発明の表層形成用塗布液を用いて形成した表層を具備する定着ベルトは、画像形成時の記録媒体との離型性に優れていることを確認することができた。
【符号の説明】
【0143】
2 基材
3 弾性層
4 表層
10 画像形成装置
20 自動原稿搬送部
30 スキャナー部
40 画像形成部
41 感光体ドラム
42 帯電装置
43 露光装置
44 現像装置
45 一次転写ローラー
46 二次転写ローラー
47、48 クリーニング装置
T 中間転写ベルト
F 定着装置
F1 加熱搬送ローラー(搬送ローラー)
F2 定着ローラー(第1ローラー)
F3 加熱ローラー(第2ローラー、加熱部)
1、F4 定着ベルト
F5 センサー
F6 ローラー移動部
F7 規制部材
50 給紙部
60 記憶部
70 操作表示部
100 制御部(領域設定部、移動量設定部、ローラー制御部)