(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】物品搬送装置
(51)【国際特許分類】
B65G 1/04 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
B65G1/04 531A
(21)【出願番号】P 2018511999
(86)(22)【出願日】2017-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2017014647
(87)【国際公開番号】W WO2017179528
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2016079547
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】塚本 邦博
【審査官】福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】実公昭49-010624(JP,Y1)
【文献】実開昭58-034877(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置であって、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられて
おり、
前記第1支持部材は、上下方向に沿う第1揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第2支持部材は、上下方向に沿う第2揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第1揺動軸心及び前記第2揺動軸心は、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1揺動軸心と前記第2揺動軸心とが、上下方向に見て前記上部レールの前記左右方向での中心となる仮想中心線上に位置する共通軸心であり、
前記第1支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第1ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第1ローラと反対側に位置する第1力点と、前記第2支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第2ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第2ローラと反対側に位置する第2力点との間に、前記第1付勢体及び前記第2付勢体としての弾性体が圧縮状態で配置され、
前記共通軸心から前記第1力点までの前記走行方向での距離と前記共通軸心から前記第2力点までの前記走行方向での距離とが等しく、かつ、上下方向に見て、前記共通軸心から前記第1ローラの回転軸心までの距離と前記共通軸心から前記第2ローラの回転軸心までの距離とが等しい、物品搬送装置。
【請求項2】
前記第1ローラ及び前記第2ローラの少なくとも一方の回転軸に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置が設けられている請求項
1に記載の物品搬送装置。
【請求項3】
前記回転抵抗付与装置は、前記回転軸の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置である請求項
2に記載の物品搬送装置。
【請求項4】
前記走行体の走行作動を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記回転抵抗付与装置の温度を監視し、前記回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、前記高温状態ではない通常状態に比べて前記走行体の上限走行速度を低く制限する請求項
3に記載の物品搬送装置。
【請求項5】
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置であって、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられて
おり、
前記第1ローラ及び前記第2ローラの少なくとも一方の回転軸に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置が設けられており、
前記回転抵抗付与装置は、前記回転軸の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置であり、
前記走行体の走行作動を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記回転抵抗付与装置の温度を監視し、前記回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、前記高温状態ではない通常状態に比べて前記走行体の上限走行速度を低く制限する、物品搬送装置。
【請求項6】
前記第1ローラ及び前記第2ローラの前記上部レールに対する押圧力は、前記少なくとも2つの案内ローラの前記上部レールに対する許容押圧力よりも大きく設定されている請求項1
から5のいずれか一項に記載の物品搬送装置。
【請求項7】
前記第1付勢体による付勢力を調節する第1調節機構と、前記第2付勢体による付勢力を調節する第2調節機構と、が設けられている請求項1
から6のいずれか一項に記載の物品搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面に設置された下部レールと、下部レールに案内されて下部レールに沿って走行する走行体と、走行体に立設されたマストと、マストの上端部に連結された上部フレームと、走行体の走行方向に沿って延在して上部フレームの移動を案内する上部レールと、物品を移載する移載装置を備えてマストに沿って昇降する昇降体と、を備え、上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て上部レールの両側に分かれて配置されて上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような物品搬送装置の一例として、走行体を停止させた時のマストの揺れの収束時間を短縮させるために、制動用の回転ローラを備えたブレーキ装置を、案内ローラに加えて上部フレームに設けたものがある(例えば、特開2003-267517号公報(特許文献1)の段落「0012」~「0018」及び
図3参照。)。
特許文献1の物品搬送装置では、ブレーキ装置(50)として、上下軸心周りに回転自在な制動ローラ(23)とガイドローラ(24)とを備えている。ブレーキ装置(50)は、物品搬送装置(A)が停止したときに、マスト(1)の上部を上部レール(7)に対してロックするものである。制動ローラ(23)は、走行方向と平面視で直交する左右方向で回転軸心が位置変更可能な状態で、かつ、付勢体であるスプリング(25)により上部レール(7)に押し当てる方向に付勢された状態で取り付けられている。ガイドローラ(24)は、上部フレームに対して回転軸心が固定された状態で取り付けられている。
特許文献1はこのような構成により、走行体である台車(18)を停止させた後にマスト(1)の上部を上部レール(7)に対してロックすることで、マストの揺れの収束時間の短縮を図っている。
なお、特許文献1の物品搬送装置においては、物品搬送装置(A)の走行中は、ブレーキ装置(50)が作動せず、制動ローラ(23)はスプリング(25)の力に抗して、上部レール(7)に軽く接して案内ローラとして機能する。このため、物品搬送装置(A)の上部が、一対の案内ローラ(9,9)、制動ローラ(23)、及びガイドローラ(24)により上部レール(7)に連結されることにより、上部フレームを備えた物品搬送装置(A)は上部レール(7)に沿って安定して走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、全高が高い大型のスタッカークレーンのように、マストの全長が長く重量が重い場合には、走行体を停止させた後のマスト上端の揺れ幅も大きく、しかも、マスト及びこれに連結されている上部フレームの慣性モーメントも大きくなる。
上記特許文献1の物品搬送装置におけるブレーキ装置(50)は、走行体である台車(18)の停止後に揺れているマスト(1)の上部を上部レール(7)に対してロックするものであるため、上述のような大型のスタッカークレーンに特許文献1の技術を適用するためには、マストの大きな揺れや慣性モーメントに対応するべく、ブレーキ装置として大きな制動力を発生させることができるものが必要となる。そのためには、パウダーブレーキ等の制動トルクの大きな制動装置が必要であるとともに、制動ローラ及び案内ローラの支持構造も含めてブレーキ装置の取付構造を堅牢にする必要がある。
【0005】
そこで、簡素な構成で走行体の停止後のマストの揺れを抑制できる物品搬送装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた物品搬送装置の特徴構成は、
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置において、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられており、
前記第1支持部材は、上下方向に沿う第1揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第2支持部材は、上下方向に沿う第2揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第1揺動軸心及び前記第2揺動軸心は、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1揺動軸心と前記第2揺動軸心とが、上下方向に見て前記上部レールの前記左右方向での中心となる仮想中心線上に位置する共通軸心であり、
前記第1支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第1ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第1ローラと反対側に位置する第1力点と、前記第2支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第2ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第2ローラと反対側に位置する第2力点との間に、前記第1付勢体及び前記第2付勢体としての弾性体が圧縮状態で配置され、
前記共通軸心から前記第1力点までの前記走行方向での距離と前記共通軸心から前記第2力点までの前記走行方向での距離とが等しく、かつ、上下方向に見て、前記共通軸心から前記第1ローラの回転軸心までの距離と前記共通軸心から前記第2ローラの回転軸心までの距離とが等しい点にある。
【0007】
上部フレームに対して回転軸心が固定状態で取り付けられた少なくとも2つの案内ローラが上部レールに案内されることにより上部フレームの位置が上部レールに対して規制された状態で、走行体が走行するので、走行方向で2つの案内ローラとは異なる位置において上部レール上を転動する第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対する左右方向の位置が走行に伴って変動しながら上部レール上を転動することになる。なお、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が変化する原因としては、案内ローラと上部レールとの間に存在し得る隙間や、マストの左右方向の振動や、上部フレーム及び上部レール等、装置の直線性の製作上の誤差や、装置の組み付け誤差等の影響が考えられる。
この点、本特徴構成によれば、第1ローラ及び第2ローラは、いずれも、左右方向に位置変更可能でかつ上部レールに押し当てる方向に付勢された状態で取り付けられているので、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が走行体の走行に伴って変動しても、第1ローラ及び第2ローラが上部レールに追従するように左右方向の位置が変化することができ、これにより、第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対して両側から適切に押圧された状態で上部レールを転動することになる。そのため、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力や制動装置を設けた場合の制動トルクによる制動力といったマスト上部に作用する制動力を走行中に安定して発生させることができる。走行中にマスト上部に作用する制動力により、走行体の減速時にマストが進行方向に傾倒するようなマストの弾性変形が抑制され、走行体が停止した後のマストの揺れが抑制できる。
このように、第1ローラ及び第2ローラによる制動力が発生している状態で走行体が走行することで、上部レールに対するマスト上部の移動を許容しながら、減速時に発生するマストの走行方向での弾性変形を規制できる。第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、上部レールに対する移動を許容する程度の制動力であるため、走行体の停止後にマストの揺れを大きな制動力で急激に規制する場合に比べて、第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、小さな制動力で済む。
したがって、第1ローラ及び第2ローラの支持構造を簡素にすることができ、制動装置を設けるにしても制動トルクが比較的小さな制動装置を設ければ済むので、簡素な構成で走行体の停止後のマストの揺れを抑制できる物品搬送装置を得ることができる。
また、この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラが走行方向で同じ位置に配置され、第1揺動軸心及び第2揺動軸心が走行方向で同じ位置に配置されることで、マスト上部に制動力を与える装置を走行方向でコンパクトに構成できる。また、第1ローラ及び第2ローラが走行方向で同じ位置で上部レールを挟み込むことで、第1ローラ及び第2ローラを上部レールに適切に押し当てることができる。
更に、この構成によれば、第1付勢体及び第2付勢体としての弾性体により同じ大きさの付勢力が、第1力点及び第2力点に作用する。そして、第1支持部材における第1力点及び第1ローラの回転軸心と、第2支持部材における第2力点及び第2ローラの回転軸心とは、上部レールの左右方向での中心となる仮想中心線に関して、対称に配置され、しかも、第1支持部材及び第2支持部材は、仮想中心線上に位置する共通軸心周りに揺動する。したがって、第1ローラと第2ローラとがバランス良く上部レールに対して押し当てられるので、走行体の走行中に発生させるマスト上部に対する制動力を適切に得ることができる。
【0008】
上記に鑑みた物品搬送装置の特徴構成は、
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置において、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられており、
前記第1ローラ及び前記第2ローラの少なくとも一方の回転軸に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置が設けられており、
前記回転抵抗付与装置は、前記回転軸の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置であり、
前記走行体の走行作動を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記回転抵抗付与装置の温度を監視し、前記回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、前記高温状態ではない通常状態に比べて前記走行体の上限走行速度を低く制限する点にある。
【0009】
上部フレームに対して回転軸心が固定状態で取り付けられた少なくとも2つの案内ローラが上部レールに案内されることにより上部フレームの位置が上部レールに対して規制された状態で、走行体が走行するので、走行方向で2つの案内ローラとは異なる位置において上部レール上を転動する第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対する左右方向の位置が走行に伴って変動しながら上部レール上を転動することになる。なお、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が変化する原因としては、案内ローラと上部レールとの間に存在し得る隙間や、マストの左右方向の振動や、上部フレーム及び上部レール等、装置の直線性の製作上の誤差や、装置の組み付け誤差等の影響が考えられる。
この点、本特徴構成によれば、第1ローラ及び第2ローラは、いずれも、左右方向に位置変更可能でかつ上部レールに押し当てる方向に付勢された状態で取り付けられているので、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が走行体の走行に伴って変動しても、第1ローラ及び第2ローラが上部レールに追従するように左右方向の位置が変化することができ、これにより、第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対して両側から適切に押圧された状態で上部レールを転動することになる。そのため、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力や制動装置を設けた場合の制動トルクによる制動力といったマスト上部に作用する制動力を走行中に安定して発生させることができる。走行中にマスト上部に作用する制動力により、走行体の減速時にマストが進行方向に傾倒するようなマストの弾性変形が抑制され、走行体が停止した後のマストの揺れが抑制できる。
このように、第1ローラ及び第2ローラによる制動力が発生している状態で走行体が走行することで、上部レールに対するマスト上部の移動を許容しながら、減速時に発生するマストの走行方向での弾性変形を規制できる。第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、上部レールに対する移動を許容する程度の制動力であるため、走行体の停止後にマストの揺れを大きな制動力で急激に規制する場合に比べて、第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、小さな制動力で済む。
したがって、第1ローラ及び第2ローラの支持構造を簡素にすることができ、制動装置を設けるにしても制動トルクが比較的小さな制動装置を設ければ済むので、簡素な構成で走行体の停止後のマストの揺れを抑制できる物品搬送装置を得ることができる。
また、この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力を所望の大きさとするために必要となる、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する押圧力を、回転抵抗付与装置によって第1ローラ及び第2ローラの少なくとも一方の回転抵抗が増大する分、小さく抑えることができる。この結果、第1付勢体及び第2付勢体の小型化や第1ローラ及び第2ローラの支持構造の簡素化によりマスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることができると共に、各部品の寿命が短くなることを抑制して当該装置の長寿命化を図ることもできる。
そして、この構成によれば、回転抵抗付与装置が回転軸の運動エネルギを他のエネルギ(電気エネルギ等)に変換する場合に比べて、回転抵抗付与装置の構成を簡素なものとすることができる。よって、マスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることや、当該装置のコスト低減を図ることができる。
更に、この構成によれば、回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える状況において、回転抵抗付与装置の温度が更に上昇することを抑制することができる。よって、回転抵抗付与装置の温度が過度に上昇することを回避することが可能となり、回転抵抗付与装置を構成する部品の耐久性や性能が熱により低下することを抑制することができる。
【0010】
物品搬送装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係るスタッカークレーンの全体側面図
【
図2】第1の実施形態に係るスタッカークレーンの上部拡大斜視図
【
図4】第1の実施形態に係るスタッカークレーンの上部拡大正面図
【
図5】第1の実施形態に係る制動ユニットの制動力の伝達モデルを示す平面図
【
図6】第2の実施形態に係るスタッカークレーンの上部拡大正面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施形態〕
物品搬送装置の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の物品搬送装置は、床面に設置された直線状に延在する下部レールR1と、下部レールR1と平行に配置されて直線状に延在する上部レールR2と、に案内されて走行するスタッカークレーン1を備えている。
【0013】
スタッカークレーン1は、下部レールR1上を転動する走行輪3を支持する走行体4と、当該走行体4の上部に走行方向(
図1にてXで示す方向。以降、走行方向Xという。)に離間して、上下方向(
図1にてZで示す方向。以降、上下方向Zという。)に沿って立設された一対のマスト5(第1マスト5A、第2マスト5B)と、第1マスト5A及び第2マスト5Bの上端部同士を接続する上部フレーム6と、一対の駆動チェーン10により吊り下げ状態で昇降駆動されて一対のマスト5の間の昇降経路を昇降する昇降体7と、を備えている。
【0014】
走行体4が備える走行輪3として、走行モータM1により駆動される走行駆動輪3aと、遊転自在な従動輪3bとが、走行体4の前端部と後端部とに設けられている。昇降体7には、移載対象箇所との間で搬送対象の物品Bを移載する移載装置8が設けられている。移載装置8は、搬送対象の物品Bを支持する物品支持部を平面視で走行経路に直交する方向(
図1にて紙面前後に貫通する方向。以降、左右方向Yという。)に出退させることで、搬送対象の物品Bを移動させて、物品Bを移載対象箇所との間で授受する。本実施形態では、移載装置8は、物品Bを載置支持する物品支持部を出退自在に備えたフォーク式の移載装置により構成される。また、移載対象箇所としては、例えば、スタッカークレーン1の走行経路の左右方向Yの両側に配置される物品収納棚における各収納部や、物品収納棚の走行方向Xの端部外方に設けられる入出庫用の授受箇所等が設定される。
【0015】
一対のマスト5のそれぞれは、上下に長尺な中空の角筒状体に形成されている。第1マスト5A及び第2マスト5Bのそれぞれにおける4つの外側面のうちの3つの外側面は、昇降体7の昇降を案内する案内面を形成している。すなわち、第1マスト5A及び第2マスト5Bのそれぞれは、上下方向Zに沿いかつ互いに逆の向きを向く一対の案内面と、走行方向Xで昇降体7が存在する方向を向く案内面とを備えている。昇降体7が備える複数の昇降案内ローラ9が、第1マスト5Aの3つの案内面と第2マスト5Bの3つの案内面に案内された状態で、駆動チェーン10が昇降モータM2により巻回作動することで、昇降体7がマスト5に沿って昇降する。
【0016】
このように、本実施形態の物品搬送装置は、床面に設置された下部レールR1に案内されて下部レールR1に沿って走行する走行体4と、走行体4に立設されたマスト5と、マスト5の上端部に連結された上部フレーム6と、走行体4の走行方向Xに沿って延在して上部フレーム6の移動を案内する上部レールR2と、物品Bを移載する移載装置8を備えてマスト5に沿って昇降する昇降体7とを備えている。なお、上部レールR2は、例えば、走行体4の走行経路の側脇に配置される単一の物品収納棚又は走行経路を挟んで配置される一対の物品収納棚の上端に設けられる複数の支持部材により支持される。
【0017】
このような構成により、スタッカークレーン1は、走行体4の走行作動、昇降体7の昇降作動、移載装置8の移載作動の組み合わせにより、搬送元の移載対象箇所で搬送対象の物品Bを受け取って、搬送先の移載対象箇所に搬送対象の物品Bを受け渡す搬送作業を処理する。なお、走行体4の走行作動、昇降体7の昇降作動、移載装置8の移載作動の各作動は、制御部Hにより制御される。
【0018】
本スタッカークレーン1は、搬送作業中における走行体4の減速時に発生するマスト5の走行方向Xでの弾性変形に起因する上部フレーム6の走行方向Xに沿う振動を抑制するために、上部フレーム6に制動ユニット12が設けられている。
【0019】
図2に示すように、上部フレーム6は、走行方向Xに分散して一対の案内ユニット11(第1案内ユニット11A及び第2案内ユニット11B)を備え、一対の案内ユニット11に走行方向Xで挟まれた位置に制動ユニット12を備えている。第1案内ユニット11Aは、走行方向Xで第1マスト5Aに対応する位置に設けられ、第2案内ユニット11Bは、走行方向Xで第2マスト5Bに対応する位置に設けられている。制動ユニット12は、走行方向Xで第1マスト5A及び第2マスト5Bの中間の位置に設けられている。
【0020】
上部フレーム6は、一対のマスト5の上端部に形成されたフランジ部5fが取付プレート13を介してボルト固定される底部6Bと、底部6Bの左右方向Yの両端縁から上下方向Zに沿って立ち上がる左右一対の側部6Sを備えている。なお、取付プレート13には上部アイドラ14が回転自在に支持されている。
【0021】
案内ユニット11は、ブラケット15により上部フレーム6の側部6Sに取り付けられている。ブラケット15は、上部レールR2の左右方向Yで両側に配置された一対の案内ローラ16を左右方向Yに並ぶ状態で、かつ、上下軸心Pg周りに回転自在に支持している。一対の案内ローラ16の配置間隔は、本実施形態では、上部レールR2の左右方向Yの長さと案内ローラ16の直径に基づいて、各案内ローラ16の外周面と上部レールR2の案内面との間に数ミリ(例えば1.5mm)の隙間が形成される規定値に設定されている。なお、一対の案内ローラ16の配置間隔を設計上の規定値通りに設置すると、上部レールR2及び上部フレーム6の製作精度等によっては、案内ローラ16が上部レールR2に押し付けられた状態となる場合があるが、その場合でも、各案内ローラ16が上部レールR2に対して左右方向Yに許容押圧力(本実施形態では150[Kgf])以下の力で押し当てられる距離に、上記の規定値が調整されている。
【0022】
このように、本実施形態の物品搬送装置における上部フレーム6は、上部レールR2に案内される上下軸心Pg周りに回転自在な2つの案内ローラ16を、上部フレーム6に対する位置が固定された状態で、走行方向Xの両端部に分散して2組備えており、各組における2つの案内ローラ16は、走行方向Xと平面視で直交する左右方向Yで上部レールR2の両側に分かれて配置されている。
【0023】
第1案内ユニット11A及び第2案内ユニット11Bの間に設けている制動ユニット12は、上下軸心周りに回転自在な第1ローラ18A及び第2ローラ18Bを、走行方向Xで同じ位置において上部レールR2に関して互いに反対方向から同じ押圧力にて上部レールR2に押し当てられた状態で備えている。以下、詳細に説明する。
【0024】
図2及び
図4に示すように、制動ユニット12は、上部フレーム6から左右方向Yに突出する姿勢で取り付けられている。左右方向Yに長尺の取付ブラケット17の基部17Bが上部フレーム6の側部6Sに取り付けられ、取付ブラケット17の基部17Bと左右方向Yで反対側となる先端部17Tが上部レールR2の直下の位置まで突出している。
【0025】
取付ブラケット17の先端部17Tに、第1ローラ18Aを第1上下軸心P1周りに回転自在に支持する第1支持部材19と、第2ローラ18Bを第2上下軸心P2周りに回転自在に支持する第2支持部材20と、が共通軸心Pc周りに各別に揺動自在に設けられている。
【0026】
第1支持部材19及び第2支持部材20は、水平面に沿って延在する板状部材にて構成されている。詳細な図示は省略するが、第1支持部材19は下面から膨出するボス部を備え、第2支持部材20は下面から下方に突出するピン部を備え、取付ブラケット17の先端部17Tに形成された上下に貫通するボス部17Hに、第1支持部材19のボス部がベアリングを介して回転自在に嵌合し、その第1支持部材19のボス部に、第2支持部材20のピン部がベアリングを介して回転自在に嵌合している。そして、取付ブラケット17のボス部17H、第1支持部材19のボス部、第2支持部材20のピン部、の各軸心が、上部レールR2の左右方向Yでの中心となる仮想中心線21上に位置する共通軸心Pcに一致するように配置されていることにより、取付ブラケット17に対して第1支持部材19及び第2支持部材20が、共通軸心Pc周りに各別に揺動自在となっている。
【0027】
このように、本実施形態に係る物品搬送装置では、第1支持部材19は、上下方向に沿う揺動軸心(共通軸心Pc)周りに揺動自在に上部フレーム6に支持され、第2支持部材20は、上下方向に沿う揺動軸心(共通軸心Pc)周りに揺動自在に上部フレーム6に支持されている。そして、共通軸心Pcは、上下方向に見て上部レールR2の左右方向Yでの中心となる仮想中心線21上に位置している。
【0028】
図3及び
図4に示すように、第1支持部材19の走行方向Xで第1ローラ18Aと反対側の位置に備えられた第1バネ受け板19Tと、第2支持部材20の走行方向Xで第2ローラ18Bと反対側の位置に備えられた第2バネ受け板20Tとの間において、圧縮状態のコイルバネ22が、左右方向Yに沿う軸心のボルト23に外嵌する状態で、配置されている。図示は省略するが、第1バネ受け板19T及び第2バネ受け板20Tにはボルト23のネジ部の外径よりも大きくかつコイルバネ22の内径よりも小さい貫通孔が形成されている。
【0029】
第2支持部材20には、ボルト23の基端部が螺合する螺合孔を備えたボルト支持体24が設けられている。ボルト支持体24に支持されているボルト23は、当該ボルト支持体24よりも先端側でボルト23に螺合するボルト位置設定用のナット26aを締め付けることにより、ボルト支持体24に対する移動が規制されている。ボルト23のナット26aより先端側には、コイルバネ22による押圧力を調整する押圧力調整用のダブルナット26bが設けられている。ダブルナット26bにより第2バネ受け板20Tの基端側への移動が規制されているので、第2バネ受け板20Tに入力されるコイルバネ22による押圧力がダブルナット26bに受け止められ、当該押圧力がボルト支持体24を介して第2支持部材20に伝達される。
【0030】
第1支持部材19には、ボルト23の先端部がその周方向に隙間が形成された状態で移動自在に挿通する挿通孔が形成された第1バネ受け板19T及びこの第1バネ受け板19Tを支持するボルト挿通体25が設けられている。ボルト挿通体25は第1バネ受け板19Tと面接触しており、第1バネ受け板19Tに入力されるコイルバネ22による押圧力がボルト挿通体25を介して第1支持部材19に伝達される。なお、第1バネ受け板19T及びボルト挿通体25に形成される挿通孔は、第1支持部材19と第2支持部材20とが共通軸心Pc周りに相対揺動した際に、第2支持部材20に支持されているボルト23の先端部と第1バネ受け板19T及びボルト挿通体25とが干渉しない大きさの径となっている。
【0031】
このような構成により、第1バネ受け板19Tと第2バネ受け板20Tとの間に配置された圧縮状態のコイルバネ22が、第1バネ受け板19Tと第2バネ受け板20Tとを左右方向Yで離間するように押圧し、その結果、共通軸心Pcを支点として力の方向が平面視で反転されて、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bが左右方向Yに沿って互いに接近する方向の力で上部レールR2に対して押し当てられる。
【0032】
つまり、本実施形態の物品搬送装置では、コイルバネ22の弾性変形力により、第1支持部材19は、
図3で共通軸心Pcを中心に反時計回りに回転する方向に付勢され、第2支持部材20は、
図3で共通軸心Pcを中心に時計回りに回転する方向に付勢されている。これにより、第1ローラ18Aが上部レールR2に
図3で下向きに押し当てられ、第2ローラ18Bが上部レールR2に
図3で上向きに押し当てられる。第1支持部材19と第2支持部材20とは、第1ローラ18Aの押圧力と第2ローラ18Bの押圧力とが均衡するように共通軸心Pc周りに双方が揺動できるので、両者の押圧力の均衡が取れた状態が維持される。
【0033】
図5に示すように、第1支持部材19において、左右方向Yで仮想中心線21に関して第1ローラ18Aと同じ側で走行方向Xで共通軸心Pcに関して第1ローラ18Aと反対側に位置する第1力点T1と、第2支持部材20において、左右方向Yで仮想中心線21に関して第2ローラ18Bと同じ側で走行方向Xで共通軸心Pcに関して第2ローラ18Bと反対側に位置する第2力点T2との間に、第1付勢体及び第2付勢体としての弾性体であるコイルバネ22が圧縮状態で配置されている。さらに、第1支持部材19及び第2支持部材20が基準姿勢である状態において、共通軸心Pcから第1力点T1までの走行方向Xでの距離L1と共通軸心Pcから第2力点T2までの走行方向Xでの距離L2とが等しい。基準姿勢とは、第2支持部材20が支持するボルト23の軸心、及び、第1支持部材19のボルト挿通体25が備えるボルト挿通孔の軸心の双方が左右方向Yに沿う姿勢である。
【0034】
また、上下方向Zに見て、共通軸心Pcから第1ローラ18Aの回転軸心(第1上下軸心P1)までの距離D1と共通軸心Pcから第2ローラ18Bの回転軸心(第2上下軸心P2)までの距離D2とが等しい。基準姿勢では、上下方向Zに見た場合の共通軸心Pcから第1力点T1までの距離r1と共通軸心Pcから第2力点T2までの距離r2とが僅かに異なるため、第1ローラ18Aの押圧力と第2ローラ18Bの押圧力とが均衡するように、第1支持部材19及び第2支持部材20の双方が共通軸心Pc周りに基準姿勢から僅かに(1度~3度程度)揺動した状態となっている。
【0035】
以上のように、本実施形態に係る物品搬送装置では、第1ローラ18Aを回転自在に支持する第1支持部材19が、第1ローラ18Aの回転軸心(第1上下軸心P1)を左右方向Yで位置変更可能な状態でかつ第1ローラ18Aを上部レールR2に押し当てる方向に第1付勢体としてのコイルバネ22により付勢された状態で取り付けられ、第2ローラ18Bを回転自在に支持する第2支持部材20が、第2ローラ18Bの回転軸心(第2上下軸心P2)を左右方向Yで位置変更可能な状態でかつ第2ローラ18Bを上部レールR2に押し当てる方向に第2付勢体としてのコイルバネ22により付勢された状態で取り付けられている。つまり、本実施形態では、第1支持部材19の第1揺動軸心と第2支持部材20の第2揺動軸心とが上下方向Zに見て上部レールR2の左右方向Yでの中心となる仮想中心線21上に位置する共通軸心Pcであり、第1付勢体と第2付勢体とが単一のコイルバネ22により兼用されている。
【0036】
上述の通り、ボルト23に螺合している押圧力調整用のダブルナット26bの螺合位置を変更することで、コイルバネ22の両端に位置する第1バネ受け板19T及び第2バネ受け板20Tの間隔を変更して、コイルバネ22の圧縮状態を変更できる。これにより、第1ローラ18Aの押圧力及び第2ローラ18Bの押圧力を調整して、制動ユニット12による制動力を適切な制動力に調節できる。つまり、本実施形態の物品搬送装置では、第1付勢体による第1支持部材19についての付勢力を調節する第1調節機構と、第2付勢体による第2支持部材20についての付勢力を調節する第2調節機構と、が兼用で設けられている。
【0037】
ここで、適切な制動力は、マスト5の下端部に発生する応力が過度に大きくならない範囲で、マスト5の上部を走行中に適切に制動できる制動力が好ましい。本実施形態では、制動ユニット12による制動力がそのような適切な制動力となるように、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの外周面のウレタン層と上部レールR2との摩擦係数、マスト5の重量及び剛性等を考慮して、第1ローラ18Aの押圧力及び第2ローラ18Bの押圧力を300~350[Kgf]の範囲で設定している。
【0038】
このように、本実施形態の物品搬送装置では、制動ユニット12が備える第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの上部レールR2に対する押圧力(300~350[Kgf])は、案内ユニット11が備える一対の案内ローラ16の上部レールR2に対する許容押圧力(150[Kgf])よりも大きく設定されている。
【0039】
第1支持部材19と第2支持部材20とは、第1ローラ18Aの押圧力と第2ローラ18Bの押圧力とが均衡するように共通軸心Pc周りに双方が揺動できるので、両者の押圧力の均衡が取れた状態が維持される。そのため、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bがバランスよく上部レールR2に押圧された状態が維持できるので、走行体4の走行状態(速度及び加減速度)が同じであれば走行方向Xでの走行体4の位置が異なっても制動ユニット12により同様の制動力が得られる。したがって、適切な制動力を得るための押圧力となるように制動ユニット12の調整作業が行い易い。
【0040】
そして、マスト上部に作用する制動ユニット12による制動力を走行体4の走行中に安定して得ることで、走行体4の減速時にマスト5が進行方向に傾倒するようなマスト5の弾性変形が抑制され、走行体4が停止した後のマスト5の揺れが抑制でき、走行体4の停止後いち早く移載装置8により物品Bの移載を行うことができる。
【0041】
〔第2の実施形態〕
物品搬送装置の第2の実施形態を
図6及び
図7に基づいて説明する。本実施形態では、制動ユニット12に回転抵抗付与装置40が設けられている点で、上記第1の実施形態とは異なる。以下では、本実施形態の物品搬送装置について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。特に明記しない点については、第1の実施形態と同様であり、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態に係る制動ユニット12は、上記第1の実施形態に係る制動ユニット12(
図4参照)に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置40を付加した構成となっている。回転抵抗付与装置40は、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの少なくとも一方の回転軸30に設けられる。
図6に示す例では、回転抵抗付与装置40は第2ローラ18Bの回転軸30に設けられており、回転抵抗付与装置40により第2ローラ18B(第2ローラ18Bの回転軸30)に回転抵抗が付与される。図示は省略するが、回転抵抗付与装置40が第1ローラ18Aの回転軸30に設けられる構成や、回転抵抗付与装置40が第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの双方の回転軸30に設けられる構成とすることもできる。
【0043】
図6に示すように、回転抵抗付与装置40は、第2ローラ18Bを回転自在に支持する第2支持部材20に固定されている。第2ローラ18Bと回転抵抗付与装置40とは、第2支持部材20を挟んで上下方向Zで互いに反対側に配置されており、第2ローラ18Bの回転軸30が、第2支持部材20を上下方向Zに貫通して回転抵抗付与装置40の内部まで延びるように配置されている。回転抵抗付与装置40は、回転軸30の運動エネルギを他のエネルギに変換することで、回転軸30に回転抵抗を付与する(回転軸30の制動力を得る)。
【0044】
本実施形態では、回転抵抗付与装置40として、回転軸30の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置を用いている。このような回転抵抗付与装置40として、磁石を利用して回転軸30に回転抵抗を付与する装置や、摩擦力(接触摩擦や流体の粘性摩擦等)を利用して回転軸30に回転抵抗を付与する装置を例示することができる。詳細は省略するが、磁石を利用して回転軸30に回転抵抗を付与する装置は、磁石(永久磁石等)によって形成される磁界の中で、回転軸30に連結された回転体が回転する構造を有する。そして、回転軸30の回転に伴い上記回転体に渦電流が発生することで、渦電流と磁石の磁界との相互作用により回転軸30に回転を止める方向の力(制動力)が作用すると共に、上記回転体に熱が発生する。
【0045】
回転抵抗付与装置40は、走行体4の走行状態に応じて回転抵抗の付与の有無が切り替えられるようには構成されておらず、走行体4の走行時(すなわち、回転軸30の回転時)には常に回転抵抗を回転軸30に付与するように構成されている。そのため、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの回転抵抗による制動力を所望の大きさとするために必要となる、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの上部レールR2に対する押圧力を、このような回転抵抗付与装置40が制動ユニット12に設けられない場合に比べて小さく抑えることができる。すなわち、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの上部レールR2に対する押圧力は、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bが上部レールR2に対して滑らない程度の大きさに少なくとも確保する必要があるが、回転抵抗付与装置40により第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの少なくとも一方の回転抵抗が増大する分、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの上部レールR2に対する押圧力を低減することができる。この結果、第1付勢体及び第2付勢体(本実施形態では、コイルバネ22)の小型化や第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの支持構造の簡素化により制動ユニット12の軽量化を図ることができると共に、各部品の寿命が短くなることを抑制して制動ユニット12の長寿命化を図ることができる。
【0046】
ところで、このように回転抵抗付与装置40として回転軸30の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置を用いる場合、走行体4の走行状況によっては、回転抵抗付与装置40の発熱量が回転抵抗付与装置40の放熱量を大きく上回る場合がある。回転抵抗付与装置40の温度が過度に上昇すると、回転抵抗付与装置40を構成する部品の耐久性や性能の低下(例えば、ベアリングの過熱による損傷や、磁石の減磁等)を招くおそれがある。この点に鑑みて、本実施形態では、走行体4の走行作動を制御する制御部Hが、回転抵抗付与装置40の温度を監視し、回転抵抗付与装置40の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、高温状態ではない通常状態に比べて走行体4の上限走行速度を低く制限するように構成されている。回転抵抗付与装置40の発熱量は一般に走行体4の走行速度が高くなるに従って大きくなるため、このように制御部Hを構成することで、回転抵抗付与装置40の温度が規定されたしきい値を超える状況において回転抵抗付与装置40の温度が更に上昇することを抑制して、回転抵抗付与装置40の温度が過度に上昇することを回避することが可能となる。
【0047】
具体的には、
図7に示すように、制御部Hは、走行制御部H1と温度監視部H2とを備えている。走行制御部H1は、走行モータM1を駆動制御して走行体4の走行作動を制御する機能部であり、温度監視部H2は、回転抵抗付与装置40の温度を監視する機能部である。温度監視部H2は、センサSeの検出情報に基づき、回転抵抗付与装置40の温度を直接的に又は間接的に監視する。そして、温度監視部H2は、回転抵抗付与装置40の温度が規定されたしきい値を超えるか否かの判定(すなわち、高温状態であるか否かの判定)を行い、その判定結果の情報を走行制御部H1に出力する。
【0048】
例えば、センサSeとして回転抵抗付与装置40の温度を検出する温度センサを設け、温度監視部H2が回転抵抗付与装置40の温度を直接的に監視する構成とすることができる。また、走行体4の走行作動を制御するために設けられている既存のセンサ(ロータリーエンコーダ等)をセンサSeとして用い、温度監視部H2が回転抵抗付与装置40の温度を間接的に監視する構成とすることもできる。この場合、温度監視部H2は、回転抵抗付与装置40の温度と相関のある物理量を監視し、当該物理量の大きさに基づき高温状態であるか否かの判定を行う。このような物理量として、回転軸30の回転速度や、走行体4の一定時間内(或いは1サイクル内)の走行距離を例示することができる。回転軸30の回転速度が高くなるに従って回転抵抗付与装置40の発熱量が大きくなるため、回転軸30の回転速度は回転抵抗付与装置40の温度と相関のある物理量といえる。また、一定時間内(或いは1サイクル内)の走行距離が長くなるに従って走行体4の平均走行速度が高くなり、回転抵抗付与装置40の発熱量が大きくなるため、一定時間内(或いは1サイクル内)の走行距離も回転抵抗付与装置40の温度と相関のある物理量といえる。なお、「1サイクル」とは、物品Bの搬送サイクルを意味し、例えば、上述した入出庫用の授受箇所と移載対象の収納部との間を1往復する走行体4の走行作動を、1サイクルとすることができる。
【0049】
なお、回転抵抗付与装置40の温度を検出する温度センサを設けない場合に、上記のように回転抵抗付与装置40の温度と相関のある物理量を監視することに代えて、回転抵抗付与装置40の推定温度を温度監視部H2が監視する構成とすることもできる。回転抵抗付与装置40の温度は、回転抵抗付与装置40の発熱量と放熱量とに基づき推定することが可能である。なお、回転抵抗付与装置40の発熱量は、回転軸30の回転速度に基づき推定することや、走行体4の走行実績に基づき推定(例えば、走行速度を走行距離で積分した値に基づき推定)することが可能である。
【0050】
走行制御部H1は、物品Bの搬送元と搬送先とを指定する搬送指令に基づいて、搬送元の移載対象箇所から搬送先の移載対象箇所まで走行体4を走行させる。走行制御部H1は、例えば、加速走行する加速期間、上限走行速度で定速走行する定速期間、減速走行する減速期間、及び、微速度で定速走行(クリープ走行)する微速期間が順に規定された走行速度パターンに従って、走行開始から走行停止までの走行体4の走行速度を制御する。そして、走行制御部H1は、温度監視部H2による高温状態であるか否かの判定結果に応じて、走行体4の上限走行速度を切り替える。具体的には、走行制御部H1は、高温状態での走行体4の上限走行速度を、通常状態での走行体4の上限走行速度(例えば、走行体4の定格走行速度)よりも低く設定する。
【0051】
詳細は省略するが、制御部Hは、マイクロコンピュータ等のプロセッサを備えると共にメモリ等の周辺回路を備え、これらのハードウェアと、プロセッサ等のハードウェア上で実行されるプログラムとの協働により、制御部Hの各機能が実現される。なお、
図1では制御部Hがスタッカークレーン1に設けられた構成を示しているが、制御部Hの少なくとも一部の機能がスタッカークレーン1とは独立に(すなわち、スタッカークレーン1と通信可能な別の装置に)設けられてもよい。
【0052】
〔別の実施形態〕(1)上記の各実施形態では、第1支持部材19及び第2支持部材20が上下軸心(共通軸心Pc)周りに揺動することで、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの回転軸心(P1,P2)が左右方向Yで位置変更されるものを例示したが、第1支持部材19及び第2支持部材20が左右方向Yに平行移動することで、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの回転軸心が左右方向Yで位置変更されるように構成してもよい。
【0053】
(2)上記の各実施形態では、第1付勢体及び第2付勢体が単一の弾性体(コイルバネ22)により兼用されるものを例示したが、第1付勢体と第2付勢体とを各別に設けてもよい。この場合、第1調整機構と第2調整機構とを第1付勢体及び第2付勢体に対応して各別に設けることが好ましい。
【0054】
(3)上記の各実施形態では、走行体4が走行方向Xに並ぶ前後一対のマスト5を備えたものを例示したが、走行体が単一のマスト5を備えたものでもよい。単一のマスト5の上端に連結される上部フレーム6は、一対のマスト5に連結される場合に比べて走行方向Xの長さを短くでき、走行方向Xで案内ローラ16に対して第1ローラ18A及び第2ローラ18Bを近付けて配置できる。そのため、案内ユニット11における一対の案内ローラ16の上下軸心Pgの左右方向Yでの中心位置と、制動ユニット12における第1ローラ18Aの第1上下軸心P1及び第2ローラ18Bの第2上下軸心P2の左右方向Yでの中心位置との差が左右方向Yで小さくなり、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bによりマスト5の上部を制動する場合に比較的有利となる。
【0055】
(4)上記第1の実施形態では、上部レールR2に押圧された状態で転動する第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの回転抵抗による制動力がマスト5の上部に作用するものを例示したが、制動ユニット12に第1ローラ18A及び第2ローラ18Bの一方又は双方を制動する制動装置(例えば、上記第2の実施形態の回転抵抗付与装置40と同様のもの)を設けて、制動装置の作動を制御する制御部が、走行体4の減速時に制動装置の制動トルクを発生させるように制御して、制動装置の制動トルクによる制動力を走行体4の走行中にマスト5の上部に作用させてもよい。この場合でも、第1ローラ18A及び第2ローラ18Bは、上部レールR2に対して両側から適切に押圧された状態で上部レールR2を転動するため、制動力を走行中に安定して発生させることができる。なお、制動装置を設けるにしても、走行体4の停止後にマスト5の揺れを大きな制動力で急激に規制する必要がないので、制動トルクが比較的小さな制動装置を設ければ済む。
【0056】
(5)上記の各実施形態では、走行体4を走行駆動する走行モータM1が走行体4に設けられた物品搬送装置を例示したが、走行モータM1を、例えば床面に固定する等、走行レールに対する位置が固定された状態で設けて、走行体4と走行モータM1とを、例えばベルトやチェーン等を用いた動力伝達機構により連結して、走行体4を走行駆動するように構成してもよい。
【0057】
(6)上記第2の実施形態では、回転抵抗付与装置40として、回転軸30の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置を例示したが、回転抵抗付与装置40として、回転軸30の運動エネルギを熱エネルギ以外のエネルギ(電気エネルギ等)に変換する装置を用いてもよい。例えば、回転抵抗付与装置40として、回転軸30の運動エネルギを発電機を用いて電気エネルギに変換して蓄電する装置(すなわち、回転軸30に回生制動力を作用させる装置)を用いることができる。また、制動ユニット12に、回転抵抗付与装置40が生成した熱エネルギを回収して他のエネルギ(電気エネルギ等)に変換するエネルギ変換装置を設けてもよい。
【0058】
以上、発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、上記各実施形態は、矛盾の生じない範囲で組み合わすことができる。
【0059】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した物品搬送装置の概要について説明する。
【0060】
物品搬送装置は、
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置において、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられており、
前記第1支持部材は、上下方向に沿う第1揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第2支持部材は、上下方向に沿う第2揺動軸心周りに揺動自在に前記上部フレームに支持され、
前記第1揺動軸心及び前記第2揺動軸心は、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記走行方向で同じ位置に配置され、
前記第1揺動軸心と前記第2揺動軸心とが、上下方向に見て前記上部レールの前記左右方向での中心となる仮想中心線上に位置する共通軸心であり、
前記第1支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第1ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第1ローラと反対側に位置する第1力点と、前記第2支持部材において、前記左右方向で前記仮想中心線に関して前記第2ローラと同じ側で前記走行方向で前記共通軸心に関して前記第2ローラと反対側に位置する第2力点との間に、前記第1付勢体及び前記第2付勢体としての弾性体が圧縮状態で配置され、
前記共通軸心から前記第1力点までの前記走行方向での距離と前記共通軸心から前記第2力点までの前記走行方向での距離とが等しく、かつ、上下方向に見て、前記共通軸心から前記第1ローラの回転軸心までの距離と前記共通軸心から前記第2ローラの回転軸心までの距離とが等しい点にある。
【0061】
上部フレームに対して回転軸心が固定状態で取り付けられた少なくとも2つの案内ローラが上部レールに案内されることにより上部フレームの位置が上部レールに対して規制された状態で、走行体が走行するので、走行方向で2つの案内ローラとは異なる位置において上部レール上を転動する第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対する左右方向の位置が走行に伴って変動しながら上部レール上を転動することになる。なお、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が変化する原因としては、案内ローラと上部レールとの間に存在し得る隙間や、マストの左右方向の振動や、上部フレーム及び上部レール等、装置の直線性の製作上の誤差や、装置の組み付け誤差等の影響が考えられる。
この点、本構成によれば、第1ローラ及び第2ローラは、いずれも、左右方向に位置変更可能でかつ上部レールに押し当てる方向に付勢された状態で取り付けられているので、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が走行体の走行に伴って変動しても、第1ローラ及び第2ローラが上部レールに追従するように左右方向の位置が変化することができ、これにより、第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対して両側から適切に押圧された状態で上部レールを転動することになる。そのため、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力や制動装置を設けた場合の制動トルクによる制動力といったマスト上部に作用する制動力を走行中に安定して発生させることができる。走行中にマスト上部に作用する制動力により、走行体の減速時にマストが進行方向に傾倒するようなマストの弾性変形が抑制され、走行体が停止した後のマストの揺れが抑制できる。
このように、第1ローラ及び第2ローラによる制動力が発生している状態で走行体が走行することで、上部レールに対するマスト上部の移動を許容しながら、減速時に発生するマストの走行方向での弾性変形を規制できる。第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、上部レールに対する移動を許容する程度の制動力であるため、走行体の停止後にマストの揺れを大きな制動力で急激に規制する場合に比べて、第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、小さな制動力で済む。
したがって、第1ローラ及び第2ローラの支持構造を簡素にすることができ、制動装置を設けるにしても制動トルクが比較的小さな制動装置を設ければ済むので、簡素な構成で走行体の停止後のマストの揺れを抑制できる物品搬送装置を得ることができる。
また、この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラが走行方向で同じ位置に配置され、第1揺動軸心及び第2揺動軸心が走行方向で同じ位置に配置されることで、マスト上部に制動力を与える装置を走行方向でコンパクトに構成できる。また、第1ローラ及び第2ローラが走行方向で同じ位置で上部レールを挟み込むことで、第1ローラ及び第2ローラを上部レールに適切に押し当てることができる。
更に、この構成によれば、第1付勢体及び第2付勢体としての弾性体により同じ大きさの付勢力が、第1力点及び第2力点に作用する。そして、第1支持部材における第1力点及び第1ローラの回転軸心と、第2支持部材における第2力点及び第2ローラの回転軸心とは、上部レールの左右方向での中心となる仮想中心線に関して、対称に配置され、しかも、第1支持部材及び第2支持部材は、仮想中心線上に位置する共通軸心周りに揺動する。したがって、第1ローラと第2ローラとがバランス良く上部レールに対して押し当てられるので、走行体の走行中に発生させるマスト上部に対する制動力を適切に得ることができる。
【0062】
ここで、前記第1ローラ及び前記第2ローラの少なくとも一方の回転軸に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置が設けられていると好適である。
【0063】
この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力を所望の大きさとするために必要となる、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する押圧力を、回転抵抗付与装置によって第1ローラ及び第2ローラの少なくとも一方の回転抵抗が増大する分、小さく抑えることができる。この結果、第1付勢体及び第2付勢体の小型化や第1ローラ及び第2ローラの支持構造の簡素化によりマスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることができると共に、各部品の寿命が短くなることを抑制して当該装置の長寿命化を図ることもできる。
【0064】
また、前記回転抵抗付与装置は、前記回転軸の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置であると好適である。
【0065】
この構成によれば、回転抵抗付与装置が回転軸の運動エネルギを他のエネルギ(電気エネルギ等)に変換する場合に比べて、回転抵抗付与装置の構成を簡素なものとすることができる。よって、マスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることや、当該装置のコスト低減を図ることができる。
【0066】
また、前記走行体の走行作動を制御する制御部を更に備え、前記制御部は、前記回転抵抗付与装置の温度を監視し、前記回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、前記高温状態ではない通常状態に比べて前記走行体の上限走行速度を低く制限すると好適である。
【0067】
この構成によれば、回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える状況において、回転抵抗付与装置の温度が更に上昇することを抑制することができる。よって、回転抵抗付与装置の温度が過度に上昇することを回避することが可能となり、回転抵抗付与装置を構成する部品の耐久性や性能が熱により低下することを抑制することができる。
【0068】
上記に鑑みた物品搬送装置の特徴構成は、
床面に設置された下部レールと、
前記下部レールに案内されて前記下部レールに沿って走行する走行体と、
前記走行体に立設されたマストと、
前記マストの上端部に連結された上部フレームと、
前記走行体の走行方向に沿って延在して前記上部フレームの移動を案内する上部レールと、
物品を移載する移載装置を備えて前記マストに沿って昇降する昇降体と、を備え、
前記上部フレームは、上下軸心周りに回転自在でかつ上下方向に見て前記上部レールの両側に分かれて配置されて前記上部レールに案内される少なくとも2つの案内ローラを、前記上部フレームに対する位置が固定された状態で備えている物品搬送装置において、
上下軸心周りに回転自在な第1ローラ及び第2ローラが、前記走行方向と上下方向に見て直交する左右方向で前記上部レールに関して互いに反対側に配置され、
前記第1ローラを回転自在に支持する第1支持部材が、前記第1ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第1ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第1付勢体により付勢された状態で取り付けられ、
前記第2ローラを回転自在に支持する第2支持部材が、前記第2ローラの回転軸心を前記左右方向で位置変更可能な状態でかつ前記第2ローラを前記上部レールに押し当てる方向に第2付勢体により付勢された状態で取り付けられており、
前記第1ローラ及び前記第2ローラの少なくとも一方の回転軸に、回転抵抗を付与する回転抵抗付与装置が設けられており、
前記回転抵抗付与装置は、前記回転軸の運動エネルギを熱エネルギに変換する装置であり、
前記走行体の走行作動を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記回転抵抗付与装置の温度を監視し、前記回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える高温状態であると判定した場合には、前記高温状態ではない通常状態に比べて前記走行体の上限走行速度を低く制限する点にある。
【0069】
上部フレームに対して回転軸心が固定状態で取り付けられた少なくとも2つの案内ローラが上部レールに案内されることにより上部フレームの位置が上部レールに対して規制された状態で、走行体が走行するので、走行方向で2つの案内ローラとは異なる位置において上部レール上を転動する第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対する左右方向の位置が走行に伴って変動しながら上部レール上を転動することになる。なお、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が変化する原因としては、案内ローラと上部レールとの間に存在し得る隙間や、マストの左右方向の振動や、上部フレーム及び上部レール等、装置の直線性の製作上の誤差や、装置の組み付け誤差等の影響が考えられる。
この点、本特徴構成によれば、第1ローラ及び第2ローラは、いずれも、左右方向に位置変更可能でかつ上部レールに押し当てる方向に付勢された状態で取り付けられているので、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する左右方向の位置が走行体の走行に伴って変動しても、第1ローラ及び第2ローラが上部レールに追従するように左右方向の位置が変化することができ、これにより、第1ローラ及び第2ローラは、上部レールに対して両側から適切に押圧された状態で上部レールを転動することになる。そのため、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力や制動装置を設けた場合の制動トルクによる制動力といったマスト上部に作用する制動力を走行中に安定して発生させることができる。走行中にマスト上部に作用する制動力により、走行体の減速時にマストが進行方向に傾倒するようなマストの弾性変形が抑制され、走行体が停止した後のマストの揺れが抑制できる。
このように、第1ローラ及び第2ローラによる制動力が発生している状態で走行体が走行することで、上部レールに対するマスト上部の移動を許容しながら、減速時に発生するマストの走行方向での弾性変形を規制できる。第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、上部レールに対する移動を許容する程度の制動力であるため、走行体の停止後にマストの揺れを大きな制動力で急激に規制する場合に比べて、第1ローラ及び第2ローラによる制動力は、小さな制動力で済む。
したがって、第1ローラ及び第2ローラの支持構造を簡素にすることができ、制動装置を設けるにしても制動トルクが比較的小さな制動装置を設ければ済むので、簡素な構成で走行体の停止後のマストの揺れを抑制できる物品搬送装置を得ることができる。
また、この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による制動力を所望の大きさとするために必要となる、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する押圧力を、回転抵抗付与装置によって第1ローラ及び第2ローラの少なくとも一方の回転抵抗が増大する分、小さく抑えることができる。この結果、第1付勢体及び第2付勢体の小型化や第1ローラ及び第2ローラの支持構造の簡素化によりマスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることができると共に、各部品の寿命が短くなることを抑制して当該装置の長寿命化を図ることもできる。
そして、この構成によれば、回転抵抗付与装置が回転軸の運動エネルギを他のエネルギ(電気エネルギ等)に変換する場合に比べて、回転抵抗付与装置の構成を簡素なものとすることができる。よって、マスト上部に制動力を与える装置の軽量化を図ることや、当該装置のコスト低減を図ることができる。
更に、この構成によれば、回転抵抗付与装置の温度が規定されたしきい値を超える状況において、回転抵抗付与装置の温度が更に上昇することを抑制することができる。よって、回転抵抗付与装置の温度が過度に上昇することを回避することが可能となり、回転抵抗付与装置を構成する部品の耐久性や性能が熱により低下することを抑制することができる。
【0070】
ここで、前記第1ローラ及び前記第2ローラの前記上部レールに対する押圧力は、前記少なくとも2つの案内ローラの前記上部レールに対する許容押圧力よりも大きく設定されていると好適である。
【0071】
この構成によれば、走行体の走行中に第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗による適切な制動力を得ることができ、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗を積極的に利用して、走行中のマスト上部の振れを規制することができる。なお、案内ローラの上部レールに対する許容押圧力は、案内ローラの支持強度や走行抵抗等を考慮して設定される。
【0072】
また、前記第1付勢体による付勢力を調節する第1調節機構と、前記第2付勢体による付勢力を調節する第2調節機構と、が設けられていると好適である。
【0073】
この構成によれば、第1ローラ及び第2ローラの上部レールに対する押圧力を各別に調節できるので、第1ローラ及び第2ローラの回転抵抗や制動装置を設ける場合の第1ローラ及び第2ローラで発生させる制動トルクを各別に調節できる。したがって、マストの全長や搬送対象物等で異なる物品搬送装置の固有振動数、走行体の走行能力(例えば、加減速度)等に応じて、走行体の走行中に発生させるマスト上部に対する制動力を適切な大きさに調節することができる。
【0074】
本開示に係る物品搬送装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。
【符号の説明】
【0075】
4 :走行体
5 :マスト
6 :上部フレーム
7 :昇降体
8 :移載装置
16 :案内ローラ
18A :第1ローラ
18B :第2ローラ
19 :第1支持部材
20 :第2支持部材
21 :仮想中心線
22 :コイルバネ(弾性体、第1付勢体、第2付勢体)
23 :ボルト
26b :ダブルナット(第1調節機構、第2調節機構)
30 :回転軸
40 :回転抵抗付与装置
B :物品
D1 :共通軸心から第1ローラの回転軸心までの距離
D2 :共通軸心から第2ローラの回転軸心までの距離
L1 :共通軸心から第1力点までの走行方向での距離
L2 :共通軸心から第2力点までの走行方向での距離
P1 :第1上下軸心(第1ローラの回転軸心)
P2 :第2上下軸心(第2ローラの回転軸心)
Pc :共通軸心(第1揺動軸心、第2揺動軸心)
R1 :下部レール
R2 :上部レール
T1 :第1力点
T2 :第2力点
X :走行方向
Y :左右方向
Z :上下方向