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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220105BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20220105BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220105BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M50/562
H01M4/58
H01M4/136
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019510104
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013125
(87)【国際公開番号】W WO2018181667
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2017069453
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓子
(72)【発明者】
【氏名】室井 雅之
(72)【発明者】
【氏名】益子 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】小宅 久司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 知宏
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207540(JP,A)
【文献】国際公開第2007/135790(WO,A1)
【文献】特開2016-1600(JP,A)
【文献】特開2015-220110(JP,A)
【文献】特開2006-261008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 50/562
H01M 4/58
H01M 4/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体層と活物質層とが積層された電極層が、固体電解質層を介して複数積層された積層体と、
前記電極層の端面が露出された前記積層体の側面に接して形成された端子電極とを備え、
前記端子電極がCuを含み、前記活物質層および前記固体電解質層を形成している粒子の粒界のうち、前記端子電極近傍に存在する粒界にCu含有領域が形成されていることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記端子電極が、V、Fe、Ni、Co、Mn、Tiから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記活物質層または前記固体電解質層と前記端子電極との境界と、前記境界から前記活物質層側または前記固体電解質層側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域との最短距離が0.1~50μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質層が下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
LiAlTi12…(1)
(但し、前記一般式(1)中、f、g、h、iおよびjは、それぞれ0.5≦f≦3.0、0.01≦g<1.00、0.09<h≦0.30、1.40<i≦2.00、2.80≦j≦3.20を満たす数である。)
【請求項5】
少なくとも1層の電極層が、下記一般式(2)で表される化合物を含む活物質層を有することを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
LiAlTi12…(2)
(但し、前記一般式(2)中、a、b、c、dおよびeは、それぞれ0.5≦a≦3.0、1.20<b≦2.00、0.01≦c<0.06、0.01≦d<0.60、2.80≦e≦3.20を満たす数である。)
【請求項6】
前記電極層と前記固体電解質層とが、相対密度80%以上であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
本願は、2017年3月31日に、日本に出願された特願2017-69453号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ(PC)、携帯情報端末(パーソナルデジタルアシスタント(PDA))などの携帯小型機器の電源として広く使用されている。携帯小型機器で使用されるリチウムイオン二次電池では、小型化、薄型化、信頼性の向上が求められている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池として、電解質に有機電解液を用いたものと、固体電解質を用いたものとが知られている。電解質に固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池(全固体リチウムイオン二次電池)は、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、電池形状の設計の自由度が高く、小型化および薄型化が容易であり、電解液の液漏れなどが起きないため信頼性が高いという利点がある。
【0004】
全固体リチウムイオン二次電池としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1には、正極層と接続される正極端部電極及び/又は負極層と接続される負極端部電極が、導電性物質からなる導電性マトリックスが活物質を担持した構造を有し、正極端部電極及び/又は負極端部電極の断面における導電性物質の領域の面積(Sd)と活物質の領域の面積(Sk)との比(Sd/Sk)が90:10~40:60の範囲にある全固体型リチウムイオン二次電池が記載されている。特許文献1に記載の全固体リチウムイオン二次電池では、正極層と正極端子電極との接合、および負極層と負極端子電極との接合において、強固な接合が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2011-198692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の全固体リチウムイオン二次電池では、集電体層と活物質層とが積層された電極層が、固体電解質層を介して複数積層された積層体と、積層体の側面に接して形成された端子電極との接合強度が不十分であった。このため、外部からの衝撃によって、端子電極が積層体から剥離しやすいという不都合があった。また、従来の全固体リチウムイオン二次電池では、充放電に伴う活物質層の体積変化によって積層体から端子電極が剥離しやすいため、十分なサイクル特性が得られなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、集電体層と活物質層とが積層された電極層が、固体電解質層を介して複数積層された積層体と、積層体の側面に接して形成された端子電極との接合強度が良好である全固体リチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、端子電極の材料としてCuを含むものを用い、端子電極を形成する際の焼結条件を制御することにより、積層体の活物質層および固体電解質層を形成している粒子の粒界のうち、端子電極近傍に存在する粒界にCu含有領域を形成すればよいことを見出した。そして、積層体の活物質層および固体電解質層にCu含有領域を形成することで、積層体の活物質層および固体電解質層と端子電極との接合強度が強固となることを確認し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は、以下の発明に関わる。
【0009】
本発明の一態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池は、集電体層と活物質層とが積層された電極層が、固体電解質層を介して複数積層された積層体と、前記電極層の端面が露出された前記積層体の側面に接して形成された端子電極とを備え、前記端子電極がCuを含み、前記活物質層および前記固体電解質層を形成している粒子の粒界のうち、前記端子電極近傍に存在する粒界にCu含有領域が形成されている。
【0010】
上記態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池において、前記端子電極が、V、Fe、Ni、Co、Mn、Tiから選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0011】
上記態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池において、前記活物質層または前記固体電解質層と前記端子電極との境界と、前記境界から前記活物質層側または前記固体電解質層側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域との最短距離が0.1~50μmであってもよい。
【0012】
上記態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池において、前記固体電解質層が下記一般式(1)で表される化合物を含んでいてもよい。
LiAlTi12…(1)
(但し、前記一般式(1)中、f、g、h、iおよびjは、それぞれ0.5≦f≦3.0、0.01≦g<1.00、0.09<h≦0.30、1.40<i≦2.00、2.80≦j≦3.20を満たす数である。)
【0013】
上記態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池において、少なくとも1層の電極層が、下記一般式(2)で表される化合物を含む活物質層を有していてもよい。
LiAlTi12…(2)
(但し、前記一般式(2)中、a、b、c、dおよびeは、それぞれ0.5≦a≦3.0、1.20<b≦2.00、0.01≦c<0.06、0.01≦d<0.60、2.80≦e≦3.20を満たす数である。)
【0014】
上記態様にかかる全固体リチウムイオン二次電池において、前記電極層と前記固体電解質層とが、相対密度80%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る全固体リチウムイオン二次電池は、集電体層と活物質層とが積層された電極層が、固体電解質層を介して複数積層された積層体と、積層体の側面に接して形成された端子電極との接合強度が良好である。このため、外部からの衝撃による積層体からの端子電極の剥離を防止できる。また、充放電に伴う活物質層の体積変化に起因する積層体からの端子電極の剥離が生じにくいため、良好なサイクル特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態にかかる全固体リチウムイオン二次電池の断面模式図である。
図2】実施例2の全固体電池の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3図2の一部を拡大して示した拡大写真である。
図4A】熱処理後の試験体を切断した後の、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を観察した視野の写真である。
図4B】熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりCuのマッピング結果を示した写真である。
図4C】熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりVのマッピング結果を示した写真である。
図4D】熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりAlのマッピング結果を示した写真である。
図4E】熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりTiのマッピング結果を示した写真である。
図4F】熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりPのマッピング結果を示した写真である。
図5】熱処理後の試験体の図4A図4Fと同じ視野の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6図5の一部を拡大して示した拡大写真である。
図7図6における○で示した位置の元素分析結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
図1は、第1実施形態にかかる全固体リチウムイオン二次電池の断面模式図である。図1に示す全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」と略記する場合がある。)10は、積層体4と、第1外部端子5(端子電極)と、第2外部端子6(端子電極)とを備えている。
【0019】
(積層体)
積層体4は、集電体層1A(2A)と活物質層1B(2B)とが積層された電極層1(2)が、固体電解質層3を介して複数(図1では2層)積層されたものである。
2層の電極層1、2は、いずれか一方が正極層として機能し、他方が負極層として機能する。電極層の正負は、端子電極(第1外部端子5、第2外部端子6)にいずれの極性を繋ぐかによって変化する。
【0020】
以下、理解を容易にするために、図1において符号1で示す電極層を正極層1とし、符号2で示す電極層を負極層2とする。
正極層1と負極層2は、固体電解質層3を介して交互に積層されている。正極層1と負極層2の間での固体電解質層3を介したリチウムイオンの授受により、全固体電池10の充放電が行われる。正極層1および負極層2の積層数は、各1層以上であればよい。
【0021】
「正極層および負極層」
正極層1は、正極集電体層1Aと、正極活物質を含む正極活物質層1Bとを有する。負極層2は、負極集電体層2Aと、負極活物質を含む負極活物質層2Bとを有する。
【0022】
正極集電体層1A及び負極集電体層2Aは、導電率が高いことが好ましい。そのため、正極集電体層1A及び負極集電体層2Aには、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル等を用いることが好ましい。これらの物質の中でも、銅は正極活物質、負極活物質及び固体電解質と反応しにくい。そのため、正極集電体層1A及び負極集電体層2Aに銅を用いると、全固体電池10の内部抵抗を低減できる。なお、正極集電体層1Aと負極集電体層2Aを構成する物質は、同一でもよいし、異なってもよい。
【0023】
正極集電体層1A及び負極集電体層2Aは、それぞれ正極活物質及び負極活物質を含んでもよい。各集電体層1A、2Aに含まれる活物質の含有比は、集電体として機能する限り特に限定はされない。各集電体層1A、2A中の活物質の含有比は、例えば、体積比率で10~30%であることが好ましい。
【0024】
正極集電体層1Aが正極活物質を含むことにより、正極集電体層1Aと正極活物質層1Bとの密着性が向上する。また、負極集電体層2Aが負極活物質を含むことにより、負極集電体層2Aと負極活物質層2Bとの密着性が向上する。
【0025】
正極活物質層1Bは、正極集電体層1Aの片面又は両面に形成される。例えば、正極層1と負極層2のうち、積層体4の積層方向の最上層に正極層1が形成されている場合、最上層に位置する正極層1の上には対向する負極層2が無い。そのため、最上層に位置する正極層1において正極活物質層1Bは、積層方向下側の片面のみにあればよい。
負極活物質層2Bも正極活物質層1Bと同様に、負極集電体層2Aの片面又は両面に形成される。正極層1と負極層2のうち、積層体4の積層方向の最下層に負極層2が形成されている場合、最下層に位置する負極層2において負極活物質層2Bは、積層方向上側の片面のみにあればよい。
【0026】
正極活物質層1Bは、電子を授受する正極活物質を含み、導電助剤および/または結着剤等を含んでもよい。負極活物質層2Bは、電子を授受する負極活物質を含み、導電助剤および/または結着剤等を含んでもよい。正極活物質及び負極活物質は、リチウムイオンを効率的に挿入、脱離できることが好ましい。
【0027】
正極活物質及び負極活物質には、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。具体的には、LiAlTi12(a、b、c、dおよびeは、それぞれ0.5≦a≦3.0、1.20<b≦2.00、0.01≦c<0.0 6、0.01≦d<0.60、2.80≦e≦3.20を満たす数である。)で表される化合物、リチウムマンガン複合酸化物LiMnMa1-k(0.8≦k≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、LiNiCoMn(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMbPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO又はLiVOPO)、LiMnO-LiMcO(Mc=Mn、Co、Ni)で表されるLi過剰系固溶体、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<s<1.3、0.9<t+u+v<1.1)で表される複合金属酸化物等を用いることができる。
【0028】
正極活物質層1B及び/または負極活物質層2Bは、上記の中でも特に、LiAlTi12(a、b、c、dおよびeは、それぞれ0.5≦a≦3.0、1.20<b≦2.00、0.01≦c<0.06、0.01≦d<0.60、2.80≦e≦3.20を満たす数である。)で表される化合物を含むことが好ましい。正極活物質層1B及び/または負極活物質層2Bが上記化合物を含む場合、第1外部端子5および第2外部端子6を形成するための焼結に伴うVの酸化および還元により、第1外部端子5または第2外部端子6となる端子材料中に含まれるCuの酸化および還元が促進される。その結果、第1外部端子5及び/または第2外部端子6の近傍に存在する正極活物質層1B及び/または負極活物質層2Bを形成する粒子の粒界に、Cu含有領域が形成されやすくなる。
【0029】
負極活物質及び正極活物質は、後述する固体電解質層3に用いる電解質に合わせて、選択してもよい。
例えば、固体電解質層3の電解質としてLiAlTi12(f、g、h、iおよびjは、それぞれ0.5≦f≦3.0、0.01≦g<1.00、0.09<h≦0.30、1.40<i≦2.00、2.80≦j≦3.20を満たす数である。)の一般式で表される化合物を用いる場合は、正極活物質及び負極活物質にLiVOPO及びLiAlTi12(a、b、c、dおよびeは、それぞれ0.5≦a≦3.0、1.20<b≦2.00、0.01≦c<0.06、0.01≦d<0.60、2.80≦e≦3.20を満たす数である。)の一般式で表される化合物のうち一方又は両方を用いることが好ましい。このことにより、正極活物質層1B及び負極活物質層2Bと固体電解質層3との界面における接合が強固になる。
【0030】
正極活物質層1B又は負極活物質層2Bを構成する活物質には明確な区別がない。2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。
【0031】
「固体電解質層」
固体電解質層3に用いる電解質は、リン酸塩系固体電解質であることが好ましい。電解質としては、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い材料を用いることが好ましい。具体的には電解質として、LiAlTi12(f、g、h、iおよびjは、それぞれ0.5≦f≦3.0、0.01≦g<1.00、0.09<h≦0.30、1.40<i≦2.00、2.80≦j≦3.20を満たす数である。)の一般式で表される化合物、La0.5Li0.5TiOなどのペロブスカイト型化合物、Li14Zn(GeOなどのリシコン型化合物、LiLaZr12などのガーネット型化合物、Li1.3Al0.3Ti1.7(POやLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどのナシコン型化合物、Li3.25Ge0.250.75やLiPSなどのチオリシコン型化合物、LiS-PやLiO-V-SiOなどのガラス化合物、LiPOやLi3.5Si0.50.5やLi2.9PO3.30.46などのリン酸化合物、よりなる群から選択される少なくとも1種などを用いることができる。
【0032】
固体電解質層3は、上記の中でも特に、LiAlTi12(f、g、 h、iおよびjは、それぞれ0.5≦f≦3.0、0.01≦g<1.00、0.09<h≦0.30、1.40<i≦2.00、2.80≦j≦3.20を満たす数である。)の一般式で表される化合物を含むことが好ましい。固体電解質層3が上記化合物を含む場合、第1外部端子5および第2外部端子6を形成するための焼結に伴うTiの酸化および還元により、第1外部端子5または第2外部端子6となる端子材料中に含まれるCuの酸化および還元が促進される。その結果、第1外部端子5及び/または第2外部端子6の近傍に存在する固体電解質層3を形成する粒子の粒界に、Cu含有領域が形成されやすくなる。
【0033】
(端子電極)
第1外部端子5は、正極層1の端面が露出された積層体4の側面に接して形成されている。正極層1は、第1外部端子5に接続されている。また、第2外部端子6は、負極層2の端面が露出された積層体4の側面に接して形成されている。負極層2は、第2外部端子6に接続されている。第2外部端子6は、積層体4における第1外部端子5の形成されている側面とは別の側面に接して形成されている。第1外部端子5及び第2外部端子6は、外部と電気的に接続されている。
【0034】
第1外部端子5及び第2外部端子6はCuを含む。また、第1外部端子5及び第2外部端子6は、Cuの他に、V、Fe、Ni、Co、Mn、Tiから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。第1外部端子5及び第2外部端子6がこれらの元素を含む場 合、第1外部端子5および第2外部端子6を形成するための焼結に伴う上記元素の酸化および還元により、第1外部端子5または第2外部端子6となる端子材料中に含まれるCuの酸化および還元が促進される。その結果、第1外部端子5及び/または第2外部端子6の近傍に存在する固体電解質層3、正極活物質層1B及び/または負極活物質層2Bを形成する粒子の粒界に、Cu含有領域が形成されやすくなる。
【0035】
第1外部端子5及び第2外部端子6に含まれるV、Fe、Ni、Co、Mn、Tiから選択される少なくとも1種の含有量は、例えば、0.4~12.0質量%であることが好ましい。上記元素の含有量が0.4~12.0質量%であると、第1外部端子5および第2外部端子6を形成するための焼結におけるCu含有領域の形成を促進する効果が顕著となる。
【0036】
第1外部端子5及び第2外部端子6は、上記したいずれかの正極活物質または負極活物質を含んでいてもよい。第1外部端子5が正極活物質を含む場合、第1外部端子5と正極活物質層1Bの充放電に伴う体積変化の差が小さくなるため、第1外部端子5と正極活物質層1Bとの界面における接合がより一層強固になる。また、第2外部端子6が負極活物質を含む場合、第2外部端子6と負極活物質層2Bの充放電に伴う体積変化の差が小さくなるため、第2外部端子6と負極活物質層2Bとの界面における接合がより一層強固になる。
【0037】
次に、図1に示す本実施形態の全固体電池10に形成されているCu含有領域について、図2および図3を用いて説明する。図2は、本発明の全固体電池の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、後述する実施例2の全固体電池の写真である。図2は、全固体電池10の端子電極5(6)と、電極層1(2)の端面が露出された積層体4との接合部分の断面を撮影した写真である。図3は、図2の一部を拡大して示した拡大写真であり、図2における点線の枠内の拡大写真である。図2および図3における符号1A(2A)は集電体層を示し、符号1B(2B)は活物質層を示す。
【0038】
図2および図3に示す全固体電池10では、電極層1(2)の活物質層1B(2B)および固体電解質層3を形成している粒子22の粒界のうち、端子電極5(6)近傍に存在する粒界に、Cu含有領域21(図3における白い線状の部分)が形成されている。Cu含有領域21は、端子電極5(6)と一体化されており、端子電極5(6)に対するアンカー効果を有する。
【0039】
本実施形態において「端子電極近傍」とは、端子電極5(6)に接触する活物質又は固体電解質を含む、端子電極5(6)と活物質層1B(2B)又は固体電解質層3との接触部を意味する。すなわち、本発明は、端子電極5(6)と活物質又は固体電解質とが接合する接合部に、端子電極5(6)と活物質層1B(2B)又は固体電解質層3とがつながる部分(Cu含有領域21)を有することで、端子電極5(6)と活物質層1B(2B)又は固体電解質層3との接合強度を高めるものである。
Cu含有領域21のCu含有量は、活物質層1B(2B)および固体電解質層3を形成している粒子22と比較して高濃度である。
Cu含有領域21中のCu含有量は、50~100質量%であることが好ましく、90~99質量%であることが好ましい。Cu含有領域21中のCu含有量が多いほど、Cu含有領域21による積層体4と端子電極5(6)との接合強度を向上させる効果が高くなる。
【0040】
Cu含有領域21は、図2および図3に示す活物質層1B(2B)または固体電解質層3と端子電極5(6)との境界23と、境界23から活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域21との最短距離が0.1~50μmであることが好ましい。さらに、境界23とCu含有領域21との上記最短距離は1~10μmであることが好ましい。上記最短距離が0.1μm以上である と、Cu含有領域21を有することによる積層体4と端子電極5(6)との接合強度向上効果がより顕著となる。したがって、端子電極5(6)の積層体4からの剥離をより効果的に防止できる。また、上記最短距離が50μm以下であると、電極層1(2)の端面のうち積層体4の側面に露出されていない側の端面が、端子電極5(6)と電気的に接続されて短絡することを防止できる。
【0041】
境界23と、境界23から活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域21との最短距離は、全固体電池10の端子電極5(6)と積層体4との接合部分の断面を、例えば5000倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定できる。
具体的には、図3に示すように、測定する領域の境界23から活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に延びる各Cu含有領域21について、それぞれ両端を結ぶ最短距離L1、L2‥を測定する。そして、測定した最短距離L1、L2‥のうち、最も長い距離を「境界23と、境界23から活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域21との最短距離」とする。
上記最短距離を測定するために必要な活物質層1B(2B)または固体電解質層3と端子電極5(6)との境界23の長さは、十分な測定精度が得られるように200μm以上とする。
【0042】
また、端子電極5(6)が活物質を含んでいる場合、端子電極5(6)中の活物質を形成している粒子の粒界にCuが含まれていることが好ましい。この場合、端子電極5(6)と、活物質層1B(2B)との界面における接合がより一層強固になる。
【0043】
また、積層体4の端子電極5(6)との界面に存在する粒子の粒界の面積のうち、50%以上の粒界の面積がCu含有領域21であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。積層体4の端子電極5(6)との界面に存在する粒子の粒界のうち、Cu含有領域21である面積の割合が高いほど、端子電極5(6)に対するCu含有領域21のアンカー効果が高くなり、Cu含有領域21による積層体4と端子電極5(6)との接合強度を向上させる効果が高くなる。
【0044】
積層体4の端子電極5(6)との界面に存在する粒子の粒界の面積に対するCu含有領域21の割合は、以下に示す方法により算出できる。
全固体電池10の端子電極5(6)と積層体4との接合部分の断面を、例えば5000倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。得られたSEM写真により、積層体4の端子電極5(6)との界面、界面に存在する粒子の粒界、粒界がCu含有領域21であるか否かは、いずれも明瞭に判別できる。さらに、粒界がCu含有領域21であるか否かは、積層体4の端子電極5(6)との界面に存在する粒子の粒界をエネルギー分散型X線分析(EDS)して得られたCu分布により、確認できる。
【0045】
本実施形態では、SEM写真から算出した積層体4の端子電極5(6)との界面に存在する粒子の粒界における長さの総和を、粒界の面積とみなす。なお、上記の粒界の面積(粒界の長さの総和)を算出するために測定する粒子の数は、100個以上であることが好ましく、上記の粒界の面積を高精度で算出するために300個以上であることが望ましい。また、上記の粒界の面積(粒界の長さの総和)うち、SEM写真から算出したCu含有領域21である粒界の長さの総和を、Cu含有領域21の面積とみなす。このようにして得られた粒界の面積とCu含有領域21の面積とを用いて、上記の粒界の面積に対するCu含有領域21の面積の割合を算出する。
【0046】
また、積層体4の端子電極5(6)との界面のうち、50%以上の面積がCu含有領域21であることが好ましい。積層体4の端子電極5(6)との界面のうち、Cu含有領域21である割合が高いほど、Cu含有領域21による積層体4と端子電極5(6)との接合強度を向上させる効果が高くなる。
【0047】
(全固体電池の製造方法)
次に、全固体電池10の製造方法を説明する。
本実施形態の全固体電池10の製造方法は、集電体層1A(2A)と活物質層1B(2B)とが積層された電極層1(2)を、固体電解質層3を介して複数積層して積層シートを形成する積層工程と、積層シートの側面または積層シートを焼結してなる積層体4の側面に、端子電極層を形成して焼結し、端子電極5(6)を形成する焼結工程とを備える。
【0048】
(積層工程)
積層体4を形成する方法としては、同時焼成法を用いてもよいし、逐次焼成法を用いてもよい。
同時焼成法は、各層を形成する材料を積層した後、一括焼成により積層体を作製する方法である。逐次焼成法は、各層を順に作製する方法であり、各層を作製する毎に焼成工程を行う方法である。同時焼成法を用いた方が、逐次焼成法を用いる場合と比較して、少ない作業工程で積層体4を形成できる。また、同時焼成法を用いた方が、逐次焼成法を用いる場合と比較して、得られる積層体4が緻密になる。
【0049】
以下、同時焼成法を用いて積層体4を製造する場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、積層体4を形成するための焼成を、端子電極5(6)を形成するための焼成と同時に行う場合を例に挙げて説明する。
【0050】
同時焼成法は、積層体4を構成する各材料のペーストを作成する工程と、ペーストを用いてグリーンシートを作製する工程と、グリーンシートを積層して積層シートとし、これを同時焼成する工程とを有する。
まず、積層体4を構成する正極集電体層1A、正極活物質層1B、固体電解質3、負極活物質層2B、及び負極集電体層2Aの各材料をペースト化する。
【0051】
各材料をペースト化する方法は、特に限定されない。例えば、ビヒクルに各材料の粉末を混合してペーストが得られる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称である。ビヒクルには、溶媒、バインダーが含まれる。
かかる方法により、正極集電体層1A用のペースト、正極活物質層1B用のペースト、固体電解質3用のペースト、負極活物質層2B用のペースト、及び負極集電体層2A用のペーストを作製する。
【0052】
次いで、グリーンシートを作成する。グリーンシートは、作製したペーストをそれぞれPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムなどの基材上に塗布し、必要に応じて乾燥させた後、基材を剥離して得られる。
ペーストの塗布方法は、特に限定されない。例えば、スクリーン印刷、塗布、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用できる。
次に、作製したそれぞれのグリーンシートを、所望の順序、積層数で積み重ね、積層シートとする。グリーンシートを積層する際には、必要に応じアライメント、切断等を行う。
【0053】
積層シートは、以下に説明する正極活物質層ユニット及び負極活物質層ユニットを作製し、これを積層する方法を用いて作製してもよい。
まず、PETフィルムなどの基材上に、ドクターブレード法により固体電解質3用ペーストを塗布して乾燥し、シート状の固体電解質層3を形成する。次に、固体電解質3上に、スクリーン印刷により正極活物質層1B用ペーストを印刷して乾燥し、正極活物質層1Bを形成する。次いで、正極活物質層1B上に、スクリーン印刷により正極集電体層1A用ペーストを印刷して乾燥し、正極集電体層1Aを形成する。さらに、正極集電体層1A上に、スクリーン印刷により正極活物質層1B用ペーストを印刷して乾燥し、正極活物質層1Bを形成する。
【0054】
その後、PETフィルムを剥離することで正極活物質層ユニットが得られる。正極活物質層ユニットは、固体電解質層3/正極活物質層1B/正極集電体層1A/正極活物質層1Bがこの順で積層された積層シートである。
同様の手順にて負極活物質層ユニットを作製する。負極活物質層ユニットは、固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体層2A/負極活物質層2Bがこの順に積層された積層シートである。
【0055】
次に、一枚の正極活物質層ユニットと一枚の負極活物質層ユニット一枚とを積層する。この際、正極活物質層ユニットの固体電解質層3と負極活物質層ユニットの負極活物質層2B、もしくは正極活物質層ユニットの正極活物質層1Bと負極活物質層ユニットの固体電解質層3とが接するように積層する。これによって、正極活物質層1B/正極集電体層1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体層2A/負極活物質層2B/固体電解質層3がこの順で積層された積層シートが得られる。
【0056】
なお、正極活物質層ユニットと負極活物質層ユニットとを積層する際には、正極活物質層ユニットの正極集電体層1Aが一の端面にのみ延出し、負極活物質層ユニットの負極集電体層2Aが他の面にのみ延出するように、各ユニットをずらして積み重ねる。その後、ユニットを積み重ねたものの固体電解質層3が表面に存在しない側の面に、所定厚みの固体電解質層3用シートをさらに積み重ね、積層シートとする。
【0057】
次に、上記のいずれかの方法により作製した積層シートを一括して圧着する。
圧着は、加熱しながら行うことが好ましい。圧着時の加熱温度は、例えば、40~95℃とする。
【0058】
(焼結工程)
焼結工程では、集電体層1A(2A)の端面が露出された積層シートの側面に接して、端子電極5(6)となる端子電極層を形成して焼結し、端子電極5(6)を形成する。
第1外部端子5及び第2外部端子6となる端子電極層は、公知の方法により形成できる。具体的には例えば、スパッタ法、スプレーコート法、ディッピング法などを用いることができる。第1外部端子5及び第2外部端子6は、積層シートの表面のうち正極集電体層1Aおよび負極集電体層2Aが露出されている所定の部分にのみ形成する。このため、第1外部端子5及び第2外部端子6を形成する際には、積層シートの表面のうち第1外部端子5及び第2外部端子6を形成しない領域を、例えばテープなどを用いてマスキングを施してから形成する。
【0059】
次に、側面に端子電極層の形成された積層シートを焼結する。前記積層シートを、例えば、窒素、水素および水蒸気雰囲気下で500℃~750℃に加熱し脱バインダーを行う。その後、焼結工程においては、酸素分圧1×10-5~2×10-11atmの雰囲気中で室温~400℃まで昇温し、酸素分圧1×10-11~1×10-21atmの雰囲気中で400~950℃の温度で加熱する熱処理を行う。なお、酸素分圧は、センサー温度700℃の酸素濃度計で測定した数値である。
【0060】
このような熱処理を行った場合、室温~400℃までの昇温過程において、端子電極5(6)となる端子電極層に含まれるCuが、活物質層1B(2B)および固体電解質層3の粒界に酸化物(CuO)として拡散する。室温~400℃までの昇温過程における酸素分圧は、CuOの拡散を促進するために、1×10-5~2×10-11atmであることが好ましく、1×10-7~5×10-10atmであることがさらに好ましい。
【0061】
室温~400℃までの昇温過程において粒界に拡散したCuOは、400~950℃の温度での加熱過程で金属Cuに還元される。400~950℃の温度で加熱する際の酸素分圧は、CuOの還元を促進するために、1×10-11~1×10-21atmであることが好ましく、1×10-14~5×10-20atmであることがさらに好ましい。
【0062】
上記の熱処理において、400~950℃の温度で加熱する保持時間を制御することにより、Cu含有領域21の形成される粒界の範囲を制御できる。すなわち、上記の温度範囲での保持時間が短いと、Cu含有領域21の形成される粒界の範囲が狭くなり、上記の温度範囲での保持時間が長いと、Cu含有領域21の形成される粒界の範囲が広くなる。
具体的には、上記の温度範囲での保持時間を0.4~5時間とすることにより、活物質層1B(2B)または固体電解質層3と端子電極5(6)との境界23から、活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に最短距離で0.1~50μmの位置まで伸びるCu含有領域21を、活物質層1B(2B)および固体電解質層3を形成している粒子の粒界に形成できる。また、上記の温度範囲での保持時間を1~3時間とすることにより、上記の境界23から、活物質層1B(2B)側または固体電解質層3側に最短距離で1~10μmの位置まで伸びるCu含有領域21を、上記の粒界に形成できる。
【0063】
本実施形態では、温度と酸素分圧とを上記範囲とした熱処理を行うことにより、積層体4および端子電極5(6)が形成されると同時に、活物質層1B(2B)および固体電解質層3を形成している粒子の粒界のうち、端子電極5(6)近傍に存在する粒界にCu含有領域21が形成される。
【0064】
なお、上述した製造方法では、積層シートの側面に端子電極層を形成して焼結し、積層体4と同時に端子電極5(6)を形成したが、集電体層1A(2A)の端面が露出された積層シートを焼結してなる積層体4の側面に、第1外部端子5および第2外部端子6となる端子電極層を形成して焼結し、端子電極5(6)を形成してもよい。この場合、積層体4を形成するための積層シートの焼成は、端子電極5(6)を形成するための焼成とは別に、端子電極層を形成する前に行う。積層シートの脱バインダーは、例えば、窒素、水素および水蒸気雰囲気下で500℃~750℃に加熱することにより行う。積層シートの焼成は、例えば、窒素雰囲気下で600℃~1000℃に加熱することにより行うことが好ましい。焼成時間は、例えば、0.1~3時間とすることが好ましい。
【0065】
このようにして得られた全固体電池10は、端子電極5(6)がCuを含み、活物質層1B(2B)および固体電解質層3を形成している粒子の粒界のうち、端子電極5(6)近傍に存在する粒界にCu含有領域21が形成されている。このため、端子電極5(6)に対するCu含有領域21のアンカー効果によって、活物質層1B(2B)および固体電解質層3を含む積層体4と端子電極5(6)とが良好な接合強度で接合された全固体電池10となる。その結果、外部からの衝撃による積層体4と端子電極5(6)との剥離を防止できる。また、充放電に伴う活物質層1B(2B)の体積変化に起因する積層体4と端子電極5(6)との剥離を防止でき、良好なサイクル特性が得られる。
【0066】
前記積層シートの焼結体において、前記電極層と前記固体電解質層の相対密度が80%以上であってもよい。相対密度が高い方が結晶内の可動イオンの拡散パスがつながりやすくなり、イオン伝導性が向上する。
【0067】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例
【0068】
(実施例1~18、比較例1)
固体電解質層3/正極活物質層1B/正極集電体層1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体層2A/負極活物質層2B/固体電解質層3がこの順で積層されている積層シートを作製した。
正極活物質層1Bと固体電解質層3と負極活物質層2Bの組成を表1~3に示す。
正極集電体層1A及び負極集電体層2AとしてはCuを用いた。
【0069】
次に、正極集電体層1Aの端面が露出された積層シートの側面に、第1外部端子5となるペースト状の材料を塗布し、端子電極層を形成した。また、負極集電体層2Aの端面が露出された積層シートの側面に、第2外部端子6となるペースト状の材料を塗布し、端子電極層を形成した。
実施例2および実施例3では、端子電極5(6)の材料として、表1~3に示す端子電極含有材料を2.0質量%含有するCuを用いた。また、実施例1、4~18、比較例1では、端子電極5(6)の材料として、Cuを用いた。
【0070】
次に、側面に接して端子電極層の形成された積層シートを、以下に示す条件で熱処理して焼結し、積層体4と同時に端子電極5(6)を形成し、全固体電池を得た。
実施例1~18では、熱処理として、酸素分圧2×10-10atmの雰囲気中で室温~400℃まで昇温し、さらに酸素分圧5×10-15atmの雰囲気中で400~850℃まで昇温し、850℃の温度で酸素分圧5×10-15atmの雰囲気中で表1~3に示す保持時間で加熱する処理を行った。なお、酸素分圧は、センサー温度700℃の酸素濃度計で測定した数値である。
【0071】
比較例1では、熱処理として、酸素分圧2×10-10atmの雰囲気中で室温~850℃まで昇温し、850℃の温度で酸素分圧2×10-10atmの雰囲気中で表3に示す保持時間で加熱する処理を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
実施例1~18および比較例1の全固体電池について、上述した方法により、端子電極近傍に存在する活物質層および固体電解質層を形成している粒界に、Cu含有領域が形成されているか否かを調べた。その結果を表1~3に示す。
また、上述した方法により、活物質層または固体電解質層と端子電極との境界と、境界から活物質層側または固体電解質層側に延びる最も遠い位置に形成されているCu含有領域との最短距離を調べた。その結果を表1~3に示す。
【0076】
また、実施例1~18および比較例1の全固体電池について、以下に示す方法により、積層体4と端子電極5(6)との接合強度を調べた。その結果を表1~3に示す。
【0077】
「接合強度試験」
端子電極5、6の外面の中央にそれぞれ、端子電極5、6の表面に略垂直に、リード線を半田接合した。そして、ロードセル試験器により、端子電極5と端子電極6とを離間させる方向にリード線を引っ張る引張試験を行い、下記の基準により評価した。
○:積層体4と端子電極5(6)との接合部分が剥離する前に、積層体4が破壊した。
×:積層体4が破壊する前に、積層体4と端子電極5(6)との接合部分が剥離した。
【0078】
表1~3に示すように、実施例1~18の全固体電池は、端子電極近傍に存在する粒界にCu含有領域が形成されていた。実施例1~18の全固体電池は、接合強度試験の結果が全て○となり、積層体4と端子電極5(6)との接合強度が良好であった。
これに対し、比較例1では、Cu含有領域が形成されていなかった。これは、比較例1では、400~850℃において実施例1よりも高い酸素分圧2×10-10atmの雰囲気中で焼成したため、室温~400℃までの昇温した際に酸化及び拡散した端部電極層のCuが、金属Cuに還元されなかったためである。
Cu含有領域が形成されていない比較例1では、接合強度試験の結果が×となり、積層体4と端子電極5(6)との接合強度が不十分であった。
【0079】
(実験例)
PETフィルムからなる基材上に、ドクターブレード法によりペーストを塗布して乾燥し、組成が表1に示す実施例2の固体電解質層と同じである厚み20μmのシート状の第1層を形成した。次に、第1層上にスクリーン印刷によりペーストを印刷して乾燥し、組成が表1に示す実施例2の正極活物質層および負極活物質層と同じである厚み4μmの第2層を形成した。次いで、第2層上にスクリーン印刷によりペーストを印刷して乾燥し、LiVOPOを2.0質量%含有するCuからなる厚み4μmの第3層を形成した。その後、基材を剥離し、第1層と第2層と第3層とからなるユニットを作製した。
また、第1層を15枚形成し、これを全て積層(300μm)した。その後、15枚積層した第1層の上に、ユニットを積層して試験体とした。
【0080】
得られた試験体に、熱処理として、酸素分圧2×10-10atmの雰囲気中で室温~400℃まで昇温し、さらに酸素分圧5×10-15atmの雰囲気中で400~850℃まで昇温し、850℃の温度で酸素分圧5×10-15atmの雰囲気中で1時間保持する処理を行った。なお、酸素分圧は、センサー温度700℃の酸素濃度計で測定した数値である。
【0081】
「元素マッピング結果」
熱処理後の試験体を切断し、切断面の第3層近傍に存在する第2層の粒界を、エネルギー分散型X線分析(EDS)した。観察した視野の画像を図4Aに、得られたCu、V、Al、Ti、Pの元素マッピングの結果をそれぞれ図4B~Fに示す。
図4A図4Fに示すように、第3層の近傍に存在する粒界に、Cuを高濃度で含有するCu含有領域が形成されていることが確認できた。
【0082】
また、熱処理後の試験体について、図4A図4Fと同じ視野で走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。図5は、熱処理後の試験体の図4A図4Fと同じ視野の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図6は、図5の一部を拡大して示した拡大写真であり、図5における点線の枠内の拡大写真である。
図6における○で示した位置について、エネルギー分散型X線分析(EDS)を行った。その結果を表4および図7に示す。図7は、図6における○で示した位置のうち最も左の位置を原点(0.00の位置)としたとき、原点とその他の○で示した位置との距離と、各位置での元素濃度との関係を示したグラフである。表4は、原点から22.95nmの位置における各元素濃度の測定結果である。
【0083】
【表4】
【0084】
表4および図7に示すように、図6に示す白い部分はCuを高濃度で含有するCu含有領域であり、Cu含有領域のCu含有量は90質量%以上であることが分かった。
【符号の説明】
【0085】
1…正極層(電極層)、1A…正極集電体層(集電体層)、1B…正極活物質層(活物質層)、2…負極層(電極層)、2A…負極集電体層(集電体層)、2B…負極活物質層(活物質層)、3…固体電解質層、4…積層体、5…第1外部端子(端子電極)、6…第2外部端子(端子電極)、10…全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)、21…Cu含有領域、22…粒子。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7