(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】オイスターソースの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20220105BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20220105BHJP
【FI】
A23L27/10 B
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2019510169
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013403
(87)【国際公開番号】W WO2018181794
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2017069090
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】福井 良明
(72)【発明者】
【氏名】本間 弘行
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0262613(US,A1)
【文献】特開平10-165133(JP,A)
【文献】特開昭54-005057(JP,A)
【文献】特開昭62-224255(JP,A)
【文献】特開平08-298968(JP,A)
【文献】特開2005-210944(JP,A)
【文献】特開2013-153668(JP,A)
【文献】特開2005-348628(JP,A)
【文献】特開2011-182723(JP,A)
【文献】特開平02-283257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0026000(US,A1)
【文献】Nestle, Vietnam, Oyster Sauce,2007年09月,[retrived on 2018-05-22] http://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/769934/from_search/A8eOophvAg/?page=1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カキ抽出物およびショ糖を含有するオイスターソースの製造方法であって、
カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し10重量部~100重量部のショ糖を含有する混合物を、50℃以上100℃以下の温度で
30分以上100時間以下で加熱する工程を含
み、
該工程におけるカキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱時間と加熱温度との関係が、加熱温度をx(℃)、加熱時間をy(時間)とした場合に、-0.3333x+25.333≦y≦-2.0847x+206.85である、オイスターソースの製造方法。
【請求項2】
ショ糖の含有量が、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、18重量部~94重量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱温度が55℃以上95℃以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに調味料を添加する工程を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイスターソースの製造方法に関し、詳しくは、カキに由来する臭みが低減され、コク味が増強されて風味の向上したオイスターソースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オイスターソースは、カキを主原料とする調味料であり、カキを塩茹でした際に出る煮汁等を加熱濃縮し、粘度調整、調味、着色等を施して製造される。
オイスターソースは、独特の風味とアミノ酸、核酸のうま味、コク味を有し、広東料理をはじめとする中華料理に広く用いられるが、カキに由来する臭みにより、オイスターソースの風味が低下するという問題があった。
【0003】
それゆえ、オイスターソース等のカキ抽出物を含有する調味料組成物において、その風味を向上させることを目的とした検討がなされてきた。
たとえば、特許文献1には、カキ抽出物に特徴的なフレーバーを付与している成分を同定し、当該成分を、カキ抽出物を含有する調味料に添加して、その風味を向上させることが記載されている。カキ抽出物に特徴的なフレーバーを付与する成分としては、DMHF(4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone)、ソトロン(3-Hydroxy-4,5-dimethyl-2(5H)-furanone)、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸が挙げられている。
また、特許文献2には、カキの身肉に由来するタウリンに対し、カキ殻等に由来するカルシウムおよびマグネシウムの総量の含有量を30重量%以下とすることにより、カキの身肉由来の風味を増強し、雑味を低減できることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、カキ抽出物中から見出された成分であるとはいえ、フレーバー成分を添加するため、消費者の天然志向に合致しない恐れがあり、また、製造コストの上昇も懸念される。
特許文献2に記載された方法は、カキ抽出物中のタウリン含有量等を定量し、制御する必要があり、簡便な方法であるとはいえず、さらに、特許文献2では、カキに由来する臭みに対する効果についての言及もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-348628号公報
【文献】特開2011-182723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、新たな添加成分を用いることなく、従来の製造方法で用いられている原料を用いることにより、カキに由来する臭みが低減され、かつコク味が増強されて風味の向上したオイスターソースを製造する方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、従来は、カキ抽出物の加熱濃縮工程の後に添加されていたショ糖の一部または全部を、カキ抽出物の加熱濃縮工程において加え、カキ抽出物とともに、一定の条件下に加熱することにより、カキに由来する臭みが低減されてコク味が増強され、風味の向上したオイスターソースが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]カキ抽出物およびショ糖を含有するオイスターソースの製造方法であって、カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し10重量部~100重量部のショ糖を含有する混合物を、50℃以上100℃以下の温度で10分以上加熱する工程を含む、オイスターソースの製造方法。
[2]ショ糖の含有量が、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、18重量部~94重量部である、[1]に記載の製造方法。
[3]カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱温度が55℃以上95℃以下である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱時間が、加熱温度をx(℃)、加熱時間をy(時間)とした場合に、-0.3333x+25.333≦y≦-2.0847x+206.85である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]さらに調味料を添加する工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カキに由来する臭みが低減され、かつコク味が増強されて、風味が向上したオイスターソースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、風味の向上したオイスターソースの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称する)を提供する。
本発明の製造方法は、カキ抽出物およびショ糖を含有するオイスターソースの製造方法であって、カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し10重量部~100重量部のショ糖を含有する混合物を、50℃以上100℃以下の温度で10分以上加熱する工程を含む。
【0011】
本発明の製造方法において、カキ抽出物としては、食用に供し得るカキ、たとえば、マガキ(Crassostrea)属に属するカキおよびイタボガキ(Ostrea)属に属するカキの抽出物が用いられる。
マガキ(Crassostrea)属に属するカキとしては、マガキ(Crassostrea gigas)、イワガキ(Crassostrea nippona)、スミノエガキ(Crassostrea ariakesis)、シカメガキ(Crassostrea sikamea)等が挙げられ、イタボガキ(Ostrea)属に属するカキとしては、イタボガキ(Ostrea denselamellosa)、ヨーロッパヒラガキ(Ostrea edulis)等が挙げられる。
本発明においては、上記したカキ等から抽出して得られる抽出物を用いることができる。前記抽出物としては、通常の抽出方法を用いて得られた抽出物を、特に制限されることなく用いることができ、たとえば、上記したカキ等を、殻ごと、または剥き身もしくは剥き身の磨砕物として、熱水や加熱蒸気などを用いて煮熟抽出して得られる抽出物を用いることができる。
本発明においては、固形分含有量が5重量%以上のカキ抽出物を用いることが好ましい。なお、本明細書において、カキ抽出物の「固形分」とは、カキ抽出物の乾燥残分であって、塩化物を除くものをいう。
カキ抽出物としては、各種のカキより、上記のような処理を行って抽出物を調製して用いてもよいが、各社より、「オイスタージュース」、「カキエキス」、「オイスターエキス」等の名称で提供されている市販のカキ抽出物を用いることもできる。
【0012】
本発明において用いられるショ糖は、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)がα-1,2-グリコシド結合して生成される二糖類であり、砂糖の主成分である。
本発明においては、ショ糖として、これを主成分として含有する精製糖である上白糖や、結晶の取扱い性が良好なグラニュー糖が好ましく用いられ、グラニュー糖がより好ましく用いられる。
【0013】
本発明の製造方法には、オイスターソースに含有されるショ糖の一部または全部を、カキ抽出物と混合し、カキ抽出物およびショ糖を含有する混合物を加熱する工程が含まれる。
上記工程において、カキ抽出物と混合されるショ糖の量は、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、10重量部~100重量部であり、好ましくは15重量部~100重量部であり、より好ましくは18重量部~94重量部であり、さらに好ましくは18重量部~75重量部である。
上記工程において、カキ抽出物と混合されて加熱されるショ糖の量が少な過ぎると、カキ由来の臭みが十分には低減されない場合があり、カキ抽出物と混合されて加熱されるショ糖の量が多過ぎると、甘味が強くなり過ぎて、オイスターソースの風味の向上が得られない場合がある。
【0014】
カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱は、50℃以上100℃以下の温度にて、10分以上行う。
加熱温度が低い場合にはカキ由来の臭みが十分には低減されず、また、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物は通常水を含むため、100℃を超える加熱温度とすることは困難である。
なお、本発明の目的には、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱温度は、55℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。また、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱温度は、98℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましい。
【0015】
カキ由来の臭みを低減し、コク味を増強するためには、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物は、10分以上加熱することを要し、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上加熱する。
また、工業的な生産効率の観点および、過加熱による褐変や異風味の発生を防止する観点から、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱時間は、100時間以下であることが好ましく、65時間以下であることがより好ましい。
【0016】
さらに、カキ抽出物とショ糖を含有する混合物の加熱時間は、加熱温度との関係において定められることが好ましく、加熱温度をx(℃)、加熱時間をy(時間)とした場合に、-0.3333x+25.333≦y≦-2.0847x+206.85であることがより好ましい。
加熱時間y(時間)が短時間である場合には、カキに由来する臭みが低減されず、コク味の増強が得られない場合がある。
また、加熱時間y(時間)が長時間である場合には、カキの風味が低減し、焦げ風味や後味の酸味等、異風味が強くなる場合がある。
【0017】
本発明の製造方法により製造されるオイスターソースにおけるショ糖の全含有量が、上記工程にてカキ抽出物とともに加熱されるショ糖の量よりも多い場合、ショ糖の全含有量から上記加熱工程に添加されるショ糖を除いた残部は、上記加熱工程の後、カキ抽出物およびショ糖を含有する混合物を冷却した後に、前記混合物に添加される。
オイスターソースにおけるショ糖の全含有量は、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、通常13重量部~180重量部であり、好ましくは39重量部~103重量部である。
【0018】
また、本発明の製造方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、カキ抽出物およびショ糖を含有する混合物に、さらにショ糖以外の調味料や栄養成分を添加することができる。
ショ糖以外の調味料等としては、食塩、ショ糖以外の糖類(たとえば、ブドウ糖、果糖、乳糖、水あめ、果糖ブドウ糖液糖、デキストリン、デンプン等)、野菜(たとえば、ニンジン、タマネギ、セロリ、ハクサイ、キャベツ等)のエキス、海藻(たとえば、コンブ、ワカメ等)のエキス、キノコ(たとえば、マツタケ、シイタケ、シメジ等)のエキス、魚介類(たとえば、カツオ、サバ、アジ、イワシ、エビ、ホタテ等)のエキス、畜肉(たとえば、ビーフ、ポーク、チキン等)のエキス、タンパク質加水分解物、各種ビタミン類(たとえば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等)、各種ミネラル類(たとえば、マグネシウム、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、セレン等)、アミノ酸類(たとえば、DL-アラニン、L-イソロイシン、L-トリプトファン、L-トレオニン、L-バリン、L-リシン等)、しょうゆ(たとえば、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、しろしょうゆ、たまりしょうゆ、再仕込みしょうゆ、かえししょうゆ等)、酵母エキス、うま味調味料(たとえば、L-グルタミン酸ナトリウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、DL-アラニン、グリシン等のアミノ酸系調味料、イノシン酸二ナトリウム、グアニル酸二ナトリウム等の核酸系調味料、コハク酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム等の有機酸系調味料等)、甘味料(たとえば、アスパルテーム、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン等)、酸味料(たとえば、クエン酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸等)、苦味料(たとえば、カフェイン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物等)、香辛料(たとえば、オレガノ、コショウ、セージ、タイム、ローズマリー、ガーリック、ローレル、クローブ等)等が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のショ糖以外の調味料等は、上記のカキ抽出物とショ糖を含有する混合物を加熱する工程において添加してもよく、上記加熱工程の前もしくは後に添加してもよい。ただし、タンパク質加水分解物や水溶性ビタミン類等、熱に不安定な調味料等は、上記の加熱工程の後、冷却した後において添加することが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法においては、上記のカキ抽出物およびショ糖を含有する混合物を加熱する工程の後に、好ましくは、前記混合物を冷却する工程が含まれる。
なお、上記の加熱工程の後の混合物の冷却は、放冷、空冷、冷却水による冷却等、一般的な方法で行うことができる。
【0020】
さらにまた、本発明の製造方法においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、カキ抽出物およびショ糖を含有する混合物に、増粘安定剤(アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム等)、酸化防止剤(混合ビタミンE、エリソルビン酸ナトリウム等)、保存料(安息香酸ナトリウム、ソルビン酸等)、着色料(クチナシ黄色素、赤色2号等)等の一般的な食品添加物を添加することができる。
上記のような食品添加物は、必要に応じて、上記のカキ抽出物およびショ糖を含有する混合物を加熱する工程、または上記加熱工程の前もしくは後、あるいは上記冷却工程の前もしくは後等において、適宜添加され得る。
【0021】
本発明の製造方法は、上記のカキ抽出物およびショ糖を含有する混合物を加熱する工程、またはさらに上記混合物を冷却する工程に加えて、食品の製造において通常行われる工程、たとえば殺菌工程等を含むことができる。
殺菌工程としては、たとえば80℃~85℃で10分~15分間程度加熱処理することが、効率的であり、好ましい。
【0022】
本発明の製造方法により、カキに由来する臭みが低減され、かつコク味が増強されて風味が向上したオイスターソースを提供することができる。
【0023】
本発明はまた、本発明の製造方法により製造された、風味の向上したオイスターソースを提供する。
すなわち、本発明のオイスターソースは、カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し10重量部~100重量部のショ糖を含有する混合物を、50℃以上100℃以下の温度で10分以上加熱した物を含有する。
【0024】
本発明のオイスターソースにおけるカキ抽出物の含有量は、固形分重量にして通常0.8重量%~12.8重量%であり、ショ糖の含有量は、通常5重量%~70重量%である。
【0025】
本発明のオイスターソースは、さらに、上記したショ糖以外の調味料や栄養成分、一般的な食品添加物を含有し得る。
【0026】
本発明のオイスターソースは、カキに由来する臭みが低減され、コク味が増強されて、良好な風味を有する。
【実施例】
【0027】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0028】
[実施例1~5、比較例1、2]
カキ抽出物(「オイスタージュースYO-F」(厦門洋江食品有限公司製)、固形分含有量=16重量%)に対し、表1に示す量のグラニュー糖を添加、混合し、95℃で3時間加熱した後、前記混合物を10重量%水溶液となるように希釈して、実施例1~5および比較例2のオイスター試料を調製した。なお、カキ抽出物とグラニュー糖を混合したのみで、混合物を加熱せずに10重量%水溶液となるように希釈したものを比較例1のオイスター試料とした。
実施例1~5および比較例2の各オイスター試料について、カキに由来する臭みおよびオイスター試料のコク味を比較例1のオイスター試料と比較して、2名の評価者に、下記評価基準により評価させた。
<評価基準>
○;比較例1に比べて、カキに由来する臭みが低減され、コク味が増強されている。
△;比較例1に比べて、カキに由来する臭みが低減され、コク味が増強されているものの、甘味等の異風味が強い。
×;比較例1に比べて、カキに由来する臭みが低減されていない、またはコク味の向上を感じない。
評価結果を、評価者のコメントとともに表1に併せて示した。
【0029】
【0030】
表1に示されるように、カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、18.75重量部~62.5重量部のグラニュー糖を含有する混合物を加熱して調製した実施例1~3のオイスター試料では、カキ抽出物とグラニュー糖を単に混合して調製した比較例1のオイスター試料に比べて、カキに由来する臭みが低減され、コク味が向上したと評価された。カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、75重量部または93.75重量部のグラニュー糖を含有する混合物を加熱して調製した実施例4または5のオイスター試料では、甘味がやや強く感じられたものの、比較例1のオイスター試料に比べてカキに由来する臭みが低減され、コク味が向上したと評価された。
カキ抽出物と、カキ抽出物の固形分10重量部に対し、6.25重量部のグラニュー糖を含有する混合物を加熱して調製した比較例2のオイスター試料では、カキに由来する臭みが低減されないと評価された。
【0031】
[試験例1]加熱工程における加熱条件(温度および時間)の検討
カキ抽出物(「オイスタージュースYO-F」(厦門洋江食品有限公司製)、固形分含有量=16重量%)に、カキ抽出物の固形分10重量部に対し37.5重量部のグラニュー糖を添加、混合し、55℃~98℃の温度にて、1時間~62時間の間で時間を変化させて加熱した後、混合物を10重量%水溶液となるように希釈して、各試料を調製した。各試料について、カキに由来する臭み、コク味、その他の風味について、2名の評価者による官能評価を行い、カキに由来する臭みの低減およびコク味の向上が認められるか否か、ならびに、カキの風味および異風味について判定した。
上記において調製され、官能評価に供された試料について、それぞれの加熱温度における加熱時間(時間)により、表2に示した。表2中、網掛けを付して示される試料は、いずれも加熱工程の後に、カキに由来する臭みの低減およびコク味の向上が認められない、または加熱工程の後に、カキの風味の低減または異風味が認められると評価された試料である。カキに由来する臭みの低減効果、コク味の向上効果および風味に対する影響の観点から、表2中、網掛けを付して示される試料を調製した際の加熱時間は、適度な加熱時間の範囲の上限外または下限外であることが示される。
【0032】
【0033】
表2に示されるように、55℃で6時間加熱した試料および70℃で1時間加熱した試料は、カキに由来する臭みが残り、コク味が十分に付与されておらず、加熱工程による臭みの低減効果およびコク味の向上効果が十分ではないと評価された。
また、70℃で62時間、80℃で46時間、90℃で20時間および95℃で10時間それぞれ加熱した試料は、カキ独特の風味が弱く、焦げ風味や後味の酸味等の異風味が強く、加熱工程による風味に対する悪影響が認められると評価された。
【0034】
表2に示された結果に基づいて、加熱温度に対して加熱時間をプロットし、適度な加熱時間の範囲の下限となるデータおよび上限となるデータについてそれぞれ近似式を求めたところ、本発明の製造方法において、50℃以上100℃以下の加熱温度x(℃)に対し、加熱時間y(時間)が、-0.3333x+25.333≦y≦-2.0847x+206.85であることがより好ましいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上詳述したように、本発明により、カキに由来する臭みが低減され、コク味が増強されて、良好な風味を有するオイスターソースを提供することができる。
【0036】
本願は、日本国で出願された特願2017-069090を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。