(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】オートサンプラ及び流体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/20 20060101AFI20220105BHJP
G01N 30/24 20060101ALI20220105BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N30/20 C
G01N30/24 Z
G01N30/26 M
(21)【出願番号】P 2019528228
(86)(22)【出願日】2017-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2017024483
(87)【国際公開番号】W WO2019008665
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】柳林 潤
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友祐
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-026938(JP,A)
【文献】国際公開第2006/023828(WO,A2)
【文献】特開2008-256654(JP,A)
【文献】米国特許第08047060(US,B2)
【文献】特表2009-530623(JP,A)
【文献】国際公開第2016/075503(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 1/00 - 1/44
G01N 35/00 -37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器から試料を吸入して採取する試料採取部と、
前記試料採取部により採取された試料を保持するサンプルループと、
移動相を送液する送液ポンプを有する送液流路が接続されるポンプポート、分析カラムへ通じる分析流路が接続されるカラムポート、前記サンプルループの一端が接続される第1ループポート及び前記サンプルループの他端が接続される第2ループポートを少なくとも含む複数の接続ポートを有するとともに、前記接続ポート間を連通させるための流路を有するロータを有し、前記ロータを回転させることによって前記各接続ポート間の連通状態を切り替える注入バルブと、を備え、
前記注入バルブは、前記ポンプポートと前記カラムポートとを連通させ、前記第1ループポート及び前記第2ループポートのいずれの接続ポートも前記ポンプポート及び前記カラムポートと連通させない試料充填状態、前記ポンプポートと前記カラムポートとを連通させると同時に前記第1ループポートを前記ポンプポート及び前記カラムポートと連通させ、前記第2ループポートを他のいずれの接続ポートとも接続させないことによって、又は、流体を注入させる流路が接続されていないか閉鎖された流路が接続されている他の接続ポートへ前記第2ループポートを接続することによって、前記第2ループポートを閉鎖し、前記サンプルループ内を加圧する中間状態、前記ポンプポートを前記第1ループポート又は前記第2ループポートのうちの一方の接続ポートと連通させると同時に前記カラムポートを前記第1ループポート又は前記第2ループポートのうちの他方の接続ポートと連通させる試料注入状態のいずれかの状態に選択的に切り替えられるように構成されている、オートサンプラ。
【請求項2】
前記注入バルブは、前記ポンプポートと前記カラムポートとを前記ロータの前記流路を介して連通させながら前記試料充填状態から前記中間状態へ切り替えられるように構成されている、請求項1に記載のオートサンプラ。
【請求項3】
前記注入バルブは、前記ポンプポート又は前記カラムポートと前記第1ループポートとの間の連通が維持された状態で前記中間状態から前記試料注入状態へ切り替えられるように構成されている、請求項1又は2に記載のオートサンプラ。
【請求項4】
前記ロータを駆動する駆動機構と、
前記駆動機構の動作を制御するように構成された制御部と、を備え、
前記制御部は、前記試料充填状態から前記中間状態への切替えに要する時間が前記中間状態から前記試料注入状態への切替えに要する時間よりも長くなるように、前記駆動機構による前記ロータの駆動速度を制御するように構成された圧力変動緩和動作部を備えている、請求項1から3のいずれか一項に記載のオートサンプラ。
【請求項5】
前記ロータを駆動する駆動機構と、
前記駆動機構の動作を制御するように構成された制御部と、を備え、
前記制御部は、前記注入バルブが前記試料充填状態から前記中間状態に切り替わった後、一時的に停止してから前記中間状態から前記試料注入状態に切り替わるように前記駆動機構の動作を制御するように構成された圧力回復動作部を備えている、請求項1から4のいずれか一項に記載のオートサンプラ。
【請求項6】
前記注入バルブは、シリンジポンプに通じる流路が接続されるポートを備え、前記試料充填状態において、前記シリンジポンプが通じる流路が接続されるポートを前記第2ループポートとのみ連通させるように構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のオートサンプラ。
【請求項7】
移動相を送液する送液ポンプを有する送液流路と、
試料を成分ごとに分離するための分析カラム、及び前記分析カラムで分離された試料成分を検出するための検出器を有する分析流路と、
試料を保持するためのサンプルループを有するとともに、前記送液流路と前記分析流路とを前記サンプルループを介さないで接続する試料充填状態、前記送液流路と前記分析流路とを前記サンプルループを介して接続する試料注入状態、前記送液流路と前記分析流路とを接続しながら前記サンプルループの一端のみを前記送液流路及び前記分析流路に接続し、前記サンプルループの他端を閉鎖させた中間状態のいずれかの状態に選択的に切り替えられる注入バルブを有する請求項1から6のいずれか一項に記載のオートサンプラと、を備えた流体クロマトグラフ。
【請求項8】
前記送液ポンプは、前記オートサンプラの前記注入バルブが前記試料充填状態から前記中間状態に切り替わるとき、又は前記中間状態となっているときに、前記注入バルブが他の状態になっているときよりも送液流量を大きくするように構成されている、請求項7に記載の流体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ(LC)や超臨界流体クロマトグラフ(SFC)などの流体クロマトグラフの分析流路に試料を自動的に注入するオートサンプラと、そのオートサンプラを用いた流体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフ(HPLC)のオートサンプラでは、ロータリー式の切替バルブが「注入バルブ」として一般に用いられる。注入バルブは、複数の接続ポートを有するステータと、それらの接続ポート間を連通させる流路を有するロータを備えている。そして、ロータを回転させることによって、連通する接続ポートの組合せが切り替えられる。
【0003】
注入バルブの接続ポートには、送液ポンプによって移動相が送液される送液流路のほか、分析カラムへ通じる分析流路、試料を一時的に保持するためのサンプルループが接続される。そして、注入バルブは、送液流路と分析流路とをサンプルループを介さずに接続する試料充填状態と、送液流路と分析流路とをサンプルループを介して接続する試料注入状態に選択的に切り替えられるように構成される。
【0004】
分析流路への試料注入動作は、次のようなステップにより実行される。まず、注入バルブが試料充填状態にされる。これにより、送液ポンプからの移動相がサンプルループを介さずに分析カラムへ直接的に流れる。このとき、サンプルループに試料が充填される。その後、注入バルブが試料注入状態に切り替えられ、サンプルループに充填された試料が移動相とともに分析カラムへ導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US8047060B2
【文献】US7917250B2
【文献】US8312762B2
【文献】US9435773B2
【文献】US8806922B2
【文献】特許第4955342号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
注入バルブが試料充填状態から試料注入状態へ切り替わる途中の状態では、送液流路と分析流路との間の連通が一時的に遮断され、送液流路内の圧力はさらに上昇し、分析流路内の圧力は低下する。このように、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態へ切り替えられる途中で送液流路と分析流路との間の連通が一時的に遮断されることにより、送液流路内と分析流路内に圧力変動が生じる。
【0007】
このような圧力変動を抑制するために、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態へ切り替わる途中も送液流路と分析流路との間を連通させるための流路をステータに設けることが提案されている(特許文献1参照。)。これにより、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態へ切り替わる途中も送液流路と分析流路との間の連通が遮断されないため、それに起因した圧力変動は抑制される。しかし、ステータにそのような流路を設けることは設計面から容易でなく、コストの増大にもなる。
【0008】
また、注入バルブは通常、試料充填状態から試料注入状態に切り替わる際に、送液流路とサンプルループの一端との間の接続、分析流路とサンプルループの他端との間の接続が同時にまたはわずかに時間差を設けてなされるように設計されている。しかし、注入バルブのステータやロータの加工組立誤差やロータの磨耗度合いによって、実際にはサンプルループの両端が設計意図通りに送液流路や分析流路と接続されないことがある。すなわち、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態に切り替えられるときに、サンプルループの一端側から先に加圧される場合と他端側から先に加圧される場合があり、不確定な要素となる。
【0009】
サンプルループ内に充填された試料は、サンプルループの一方の端部側から先に加圧されると他方の端部側へ移動するため、そのような不確定要素が存在すると分析結果にばらつきが生じ、再現性が損なわれる。
【0010】
ところで、試料が充填された後のサンプルループは大気圧となっている。このため、注入バルブを試料充填状態から切り替えてサンプルループに送液流路や分析流路を接続すると、送液流路内と分析流路内の圧力が瞬間的に低下する。このような圧力降下は一般に「圧力ショック」と呼ばれている。
【0011】
圧力ショックによって送液流路内の圧力が瞬間的に低下すると、移動相の送液流量や移動相の組成に変動が生じ、分析再現性を損なうという問題がある。特に、SFCの場合には、超臨界状態になる移動相の急激な圧力変動は、移動相への試料溶解度の変動を生じ、試料成分の析出などの不具合の原因となる。また、圧力ショックによって分析流路内の圧力が瞬間的に低下すると、分析カラム内を移動相が逆流し、分析カラムの寿命に悪影響を与えるという問題もある。これらの問題は、特許文献1に開示された技術では防止することができない。
【0012】
そこで特許文献2では、送液ポンプの定圧制御動作に同期して試料注入動作を実行することで、このような圧力ショックを抑制する技術が開示されている。しかしこの技術では圧力ショックを完全に抑制することが困難である。圧力ショックの瞬間においては、典型的には数uLの流量欠損が数msの短時間で発生する。そのため圧力ショックを完全に抑制しようとすると、送液ポンプが瞬間的に数uL/ms=数mL/s=数十mL/minの流量を増加しなければならない。これは典型的な最大流量が数mL/minである送液ポンプの能力を大きく超える。よって抑制しきれない圧力ショックが残存する。
【0013】
特許文献3から6では、サンプルループの外部または内部に設けられた加圧手段を動作させることで、試料注入動作の前にサンプルループを予備加圧し、圧力ショックを抑制する技術が開示されている。しかし、これらの技術は、最大で100MPaを超えるような圧力までサンプルループを予備加圧できるような加圧手段を必要とする。このような加圧手段は高コストであり、また加圧手段の駆動機構や高耐圧シール等の信頼性を担保するための新たな課題が生じる。
【0014】
そこで、本発明は、注入バルブの切替え時に発生する流路内の圧力の変動を抑制するとともに注入バルブの切替え時の不確定要素による分析結果への影響を低減することを目的とするものである。さらに、大気圧のサンプルループが接続されることによる圧力ショックを緩和し、分析再現性やカラム寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るオートサンプラは、試料容器から試料を吸入して採取する試料採取部と、前記試料採取部により採取された試料を保持するサンプルループと、移動相を送液する送液ポンプを有する送液流路が接続されるポンプポート、分析カラムへ通じる分析流路が接続されるカラムポート、前記サンプルループの一端が接続される第1ループポート及び前記サンプルループの他端が接続される第2ループポートを少なくとも含む複数の接続ポートを有するとともに、前記接続ポート間を連通させるための流路を有するロータを有し、前記ロータを回転させることによって前記各接続ポート間の連通状態を切り替える注入バルブと、を備えている。そして、前記注入バルブは、前記ポンプポートと前記カラムポートとを連通させ、前記第1ループポート及び前記第2ループポートのいずれの接続ポートも前記ポンプポート及び前記カラムポートと連通させない試料充填状態、前記ポンプポートと前記カラムポートとを連通させると同時に前記第1ループポートを前記ポンプポート及び前記カラムポートと連通させ、前記第2ループポートを閉鎖する中間状態、前記ポンプポートを前記第1ループポート又は前記第2ループポートのうちの一方の接続ポートと連通させると同時に前記カラムポートを前記第1ループポート又は前記第2ループポートのうちの他方の接続ポートと連通させる試料注入状態のいずれかの状態に選択的に切り替えられるように構成されている。
【0016】
すなわち本発明のオートサンプラは、サンプルループに試料を充填する際は注入バルブを試料充填状態にし、試料の充填が完了した後は注入バルブを中間状態に切り替えてサンプルループの一端のみを先に送液流路及び分析流路と接続する。その後、注入バルブを試料注入状態に切り替えてサンプルループを送液流路と分析流路との間に介在させることで、試料を分析流路へ注入する。このように、注入バルブを試料充填状態から試料注入状態へ直接的に切り替えるのではなく、試料充填状態から中間状態、中間状態から試料注入状態へ段階的に切り替えることで、サンプルループの一端が必ず他端よりも先に送液流路及び分析流路と接続されて加圧される。これにより、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態に切り替わる際にサンプルループのいずれの端部側から先に送液流路や分析流路と接続されるかについての不確定要素がなくなり、分析結果の再現性が向上する。
【0017】
さらに、注入バルブは、試料充填状態から中間状態に切り替わるときにポンプポートとカラムポートとの連通が維持されるので、これらの連通が一時的に遮断されることによる圧力の変動が抑制される。
【0018】
ここで、本発明に係るオートサンプラは、全量注入方式のものとループ注入方式のものの双方を含んでいる。ループ注入方式のオートサンプラでは、サンプルループの一端と他端の双方が注入バルブ14の接続ポートに常時接続されている。一方で、全量注入方式の場合は、試料の吸入と吐出を行なうためのニードルの基端側にサンプルループが設けられており、サンプルループの一方の端部は注入バルブの接続ポートに常時接続されているものの、サンプルループの他方の端部はニードルの先端がインジェクションポートに挿入されて接続されたときに注入バルブの接続ポートに接続される。したがって、本発明における「第1ループポート」及び「第2ループポート」は、サンプルループの一端又は他端が常時接続される接続ポートのほか、ニードルがインジェクションポートに挿入されて接続されたときにサンプルループの一端又は他端が接続される接続ポートをも含む。
【0019】
なお、「第1ループポート」、「第2ループポート」の区別は、注入バルブが中間状態となったときにポンプポート及びカラムポートと接続される接続ポートが「第1ループポート」である。
【0020】
また、注入バルブの中間状態において「第2ループポートを閉鎖する」とは、第2ループポートを他のいずれの接続ポートとも連通させないか、又は第2ループポートを他の接続ポートと連通させるものの,連通している他の接続ポートに流体を流通させる流路が接続されていないか,閉鎖された流路が接続されていることによって、サンプルループの他端側が密閉されていることを意味する。注入バルブが中間状態となって第1ループポートがポンプポート及び絡むポートと連通したときに、サンプルループの他端側が密閉されていることでサンプルループ内の圧力を送液流路及び分析流路と同程度の圧力にまで高めることができる。
【0021】
ところで、試料が充填された後のサンプルループは大気圧となっている。このため、注入バルブを試料充填状態から切り替えてサンプルループに送液流路や分析流路を接続すると、送液流路内と分析流路内の圧力が瞬間的に低下する。このような圧力降下は一般に「圧力ショック」と呼ばれている。
【0022】
圧力ショックによって送液流路内の圧力が瞬間的に低下すると、移動相の送液流量や移動相の組成に変動が生じ、分析再現性を損なうという問題がある。特に、SFCの場合には、超臨界状態になる移動相の急激な圧力変動は、移動相への試料溶解度の変動を生じ、試料成分の析出などの不具合の原因となる。また、圧力ショックによって分析流路内の圧力が瞬間的に低下すると、分析カラム内を移動相が逆流し、分析カラムの寿命に悪影響を与えるという問題もある。これらの問題は、特許文献1に開示された技術では防止することができない。
【0023】
そこで、本発明に係るオートサンプラでは、前記ロータを駆動する駆動機構と、前記駆動機構の動作を制御するように構成された制御部と、を備え、前記制御部は、前記試料充填状態から前記中間状態への切替えに要する時間が前記中間状態から前記試料注入状態への切替えに要する時間よりも長くなるように、前記駆動機構による前記ロータの駆動速度を制御するように構成された圧力変動緩和動作部を備えていることが好ましい。そうすれば、注入バルブが試料充填状態から中間状態へ切り替わる際の第1ループポートへの接続部分の流路抵抗が高くなる時間が長くなり、それによって送液流路内や分析流路内の移動相がサンプルループへ急激に流れ込むことが抑制される。これにより、注入バルブが試料充填状態から中間状態へ切り替わるときの圧力ショックが緩和される。
【0024】
また、本発明に係るオートサンプラでは、前記ロータを駆動する駆動機構と、前記駆動機構の動作を制御するように構成された制御部と、を備え、前記制御部は、前記注入バルブが前記試料充填状態から前記中間状態に切り替わった後、一時的に停止してから前記中間状態から前記試料注入状態に切り替わるように前記駆動機構の動作を制御するように構成された圧力回復動作部を備えていることが好ましい。注入バルブが中間状態に切り替えられた後でその状態が一定時間維持されれば、その間に注入バルブが中間状態に切り替えられて送液流路や分析流路にサンプルループが接続されたときの送液流量や移動相の組成の変動をある程度収束させることができる。これにより、送液流量や移動相の組成が安定した状態で分析流路への試料の注入を行なうことができ、分析結果の再現性が向上する。
【0025】
本発明に係る流体クロマトグラフは、移動相を送液する送液ポンプを有する送液流路と、試料を成分ごとに分離するための分析カラム、及び前記分析カラムで分離された試料成分を検出するための検出器を有する分析流路と、試料を保持するためのサンプルループを有するとともに、前記送液流路と前記分析流路とを前記サンプルループを介さないで接続する試料充填状態、前記送液流路と前記分析流路とを前記サンプルループを介して接続する試料注入状態、前記送液流路と前記分析流路とを接続しながら前記サンプルループの一端のみを前記送液流路及び前記分析流路に接続し、前記サンプルループの他端を閉鎖させた中間状態のいずれかの状態に選択的に切り替えられる注入バルブを有する上述のオートサンプラと、を備えたものである。
【0026】
なお、流体クロマトグラフとは、液体クロマトグラフ又は超臨界流体クロマトグラフを意味する。
【0027】
本発明に係る流体クロマトグラフの好ましい実施形態では、前記送液ポンプは、前記オートサンプラの前記注入バル試料充填状態から中間状態に切り替わるとき、又は中間状態となっているときに、前記注入バルブが他の状態になっているときよりも送液流量を大きくするように構成されている。これにより、注入バルブが中間状態に切り替えられて一時的に低下した送液流路内の圧力が本来の送液圧力にまで回復するまでの時間が短くなり、分析サイクルの高速化を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るオートサンプラでは、注入バルブを試料充填状態から中間状態、中間状態から試料注入状態へ段階的に切り替えることで、サンプルループの一端が必ず他端よりも先に送液流路及び分析流路と接続されて加圧されようになり、注入バルブが試料充填状態から試料注入状態に切り替わる際にサンプルループのいずれの端部側から先に送液流路や分析流路と接続されるのかという不確定要素がなくなり、分析結果の再現性が向上する。さらに、注入バルブは、試料充填状態から中間状態に切り替わるときにポンプポートとカラムポートとの連通が維持されるので、これらの連通が一時的に遮断されることによる圧力の変動が抑制される。
【0029】
本発明に係る流体クロマトグラフは、上記のオートサンプラを備えているので、流路内の圧力変動を抑制し、分析結果の再現性を向上させることができる。さらに、大気圧のサンプルループが接続されることによる圧力ショックを緩和し、分析再現性やカラム寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】流体クロマトグラフの一実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料充填状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図2】同実施例においてオートサンプラの注入バルブのロータが22.5度回転したときの流路構成を示す図である。
【
図3】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが中間状態となる直前の流路構成を示す図である。
【
図4】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが中間状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図5】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料注入状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図6】同実施例の1段階注入による分析動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】同実施例の2段階注入による分析動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】同実施例の3段階注入による分析動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】1段階注入による分析動作を行なったときの各流路の圧力波形を示す図であり、(B)は(A)における注入バルブを試料充填状態から中間状態へ切り替えた時間帯の圧力波形を拡大して示す図である。
【
図10】2段階注入による分析動作を行なったときの各流路の圧力波形を示す図であり、(B)は(A)における注入バルブを試料充填状態から中間状態へ切り替えた時間帯の圧力波形を拡大して示す図である。
【
図11】3段階注入による分析動作を行なったときの各流路の圧力波形を示す図であり、(B)は(A)における注入バルブを試料充填状態から中間状態へ切り替えた時間帯の圧力波形を拡大して示す図である。
【
図12】3段階注入による分析動作であって2段階目のロータ回転を
図11の3段階注入よりも低速で行なったときの各流路の圧力波形を示す図であり、(B)は(A)における注入バルブを試料充填状態から中間状態へ切り替えた時間帯の圧力波形を拡大して示す図である。
【
図13】流体クロマトグラフの他の実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料充填状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図14】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが中間状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図15】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料注入状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図16】流体クロマトグラフのさらに他の実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料充填状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図17】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが中間状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図18】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料注入状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図19】流体クロマトグラフのさらに他の実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料充填状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図20】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが中間状態となっているときの流路構成を示す図である。
【
図21】同実施例においてオートサンプラの注入バルブが試料注入状態となっているときの流路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るオートサンプラ及び流体クロマトグラフの一実施例について、図面を用いて説明する。
【0032】
まず、
図1を用いてオートサンプラ及び流体クロマトグラフの一実施例の構成について説明する。以下の実施例では、流体クロマトグラフの一例として液体クロマトグラフを説明する。
【0033】
この実施例の液体クロマトグラフはオートサンプラ2を備え、オートサンプラ2は注入バルブ14を備えている。注入バルブ14はロータリー式の切替バルブであり、複数の接続ポートA~Fを有する。注入バルブ14のロータ(図には表れていない)にはそれらの接続ポート間を連通させるための流路X、Y、Zが設けられており、ロータを回転させることによってこの流体クロマトグラフの流路構成が切り替えられるようになっている。
【0034】
オートサンプラ2は、注入バルブ14のほか、先端にニードル20を有し、ニードル20の基端側にサンプルループ18を有するサンプリング流路16と、ニードル20を鉛直方向と水平面内方向へ駆動する駆動機構(図示は省略)と、を備えている。これらは、試料容器22に収容された試料をニードル20の先端から吸入して採取する試料採取部をなしている。
【0035】
オートサンプラ2の注入バルブ14の接続ポートA~Eは同一円周上において反時計回りにその順に配列されており、接続ポートFは中央に配置されている。接続ポートAとB、接続ポートCとDの間及び接続ポートAとEの間にはそれぞれロータの回転角度90度に相当する間隔が設けられ、接続ポートBとCの間及び接続ポートDとEの間にはそれぞれロータの回転角度45度に相当する間隔が設けられている。
【0036】
注入バルブ14の接続ポートAにはサンプリング流路16の基端が接続され、接続ポートBにはシリンジ流路26が接続され、接続ポートCにはドレインへ通じる流路が接続され、接続ポートDにはインジェクションポート24が接続され、接続ポートEには送液ポンプ6a、6bによって溶媒が送液される送液流路4が接続され、接続ポートFには分析カラム10へ通じる分析流路8が接続されている。
【0037】
分析流路8上における分析カラム10の下流には、分析カラム10において分離された試料成分を検出するための検出器12が設けられている。シリンジ流路26は3方弁28を介してシリンジポンプ30の吸入・吐出口に接続されている。3方弁28には洗浄液を収容する容器も接続されており、シリンジポンプ30によって洗浄液を吸入し、シリンジ流路26を介して洗浄液を供給することができるようになっている。
【0038】
この実施例では、送液流路4が接続された接続ポートEがポンプポートをなし、分析流路8が接続された接続ポートFがカラムポートをなす。インジェクションポート24が接続された接続ポートDはニードル20がインジェクションポート24に挿入されて接続されたときにサンプルループ18の一方の端部と接続される。サンプリング流路16の基端が接続された接続ポートAはサンプルループ18の他方の端部と接続されている。したがって、これらの接続ポートAとDのいずれか一方が「第1ループポート」であり、他方が「第2ループポート」である。この実施例では、注入バルブ14が中間状態になったときに接続ポートDがポンプポートE及びカラムポートFと接続されるため、接続ポートDが「第1ループポート」をなし、接続ポートAが「第2ループポート」をなす。
【0039】
注入バルブ14のロータに設けられた流路Xは、接続ポートA~Eが設けられている円周と同一円周上に設けられたロータの回転角度45度分の長さの円弧とその円弧の一端(流路Z側の端部)と中央の接続ポートFとを結ぶように半径方向に伸びる直線からなる略L字状の形状を有する。流路YとZは接続ポートA~Eが設けられている円周と同一円周上に設けられたロータの回転角度90度分の長さの円弧状の流路である。流路X、Y、Zは互いの間にロータの回転角度45度分に相当する間隔を有する。
【0040】
注入バルブ14は、流路Xを介して接続ポートE-F間を連通させると同時に流路Yを介して接続ポートA-B間を連通させる試料充填状態(
図1の状態)、流路Xを介して接続ポートE-D-F間を連通させ、接続ポートAを他のいずれのポートとも連通させない中間状態(
図4の状態)、流路Yを介して接続ポートA-E間を連通させると同時に流路Xを介して接続ポートD-F間を連通させる試料注入状態(
図5の状態)のいずれかの状態に選択的に切り替えられるようになっている。
【0041】
注入バルブ14が試料充填状態になると、
図1に示されているように、送液流路4と分析流路8とが連通すると同時にサンプリング流路16とシリンジ流路26とが連通する。これにより、送液ポンプ6によって送液される移動相はサンプルループ18を介さずに直接的に分析流路8へ流れる。このとき、サンプリング流路16の基端はシリンジ流路26と連通しているため、シリンジポンプ30を駆動することによってニードル20の先端から試料の吸入を行なうことができる。ニードル20の先端から吸入された試料はサンプルループ18に充填される。
【0042】
注入バルブ14が中間状態になると、
図4に示されているように、インジェクションポート24が送液流路4及び分析流路8と連通する。このとき、ニードル20の先端がインジェクションポート24に挿入されて接続されていることで、サンプリング流路16が送液流路4及び分析流路8と接続された先端側から加圧される。
【0043】
注入バルブ14が試料注入状態になると、
図5に示されているように、送液流路4がサンプリング流路16の基端と連通し、インジェクションポート24が分析流路8と連通する。このとき、ニードル20の先端がインジェクションポート24に挿入されて接続されていることで、送液流路4と分析流路8との間にサンプルループ18が介在した状態となる。この状態では、送液流路4からの移動相によってサンプルループ18に充填された試料が分析流路8へ搬送され、分析カラム10に導入される。分析カラム10に導入された試料は成分ごとに分離し、各試料成分が検出器12によって検出される。
【0044】
注入バルブ14の中間状態(
図4の状態)は、試料充填状態(
図1の状態)からロータを時計回りに45度回転させた状態である。注入バルブ14を試料充填状態から中間状態へ切り替える間、接続ポートE-F間は流路Xを介して連通したままである。注入バルブ14を試料充填状態から中間状態へ切り替える間に送液流路4と分析流路8との間の連通が遮断されないので、送液流路4内及び分析流路8内の圧力変動が抑制される。
【0045】
注入バルブ14の試料注入状態(
図5の状態)は、中間状態(
図4の状態)からロータをさらに時計回りに45度回転させた状態である。注入バルブ14を中間状態から試料注入状態へ切り替える間、接続ポートD-F間は流路Xを介して連通したままである。一方で、接続ポートA-E間は注入バルブ14が試料注入状態になって初めて連通する。すなわち、この実施例では、注入バルブ14を試料充填状態、中間状態、試料注入状態の順に切り替えていくことで、試料充填後のサンプルループ18内が加圧される方向を常に一定にすることができる。
【0046】
図1に示されているように、注入バルブ14のロータを駆動する駆動機構(図示は省略)の動作は、制御部32によって制御される。制御部32は、オートサンプラ2専用のコンピュータ、液体クロマトグラフ専用のコンピュータ、又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるものである。制御部32は、液体クロマトグラフによる分析の各工程が実行されるように、注入バルブ14を適宜必要な状態に切り替えるように構成されている。
【0047】
液体クロマトグラフによる通常の分析動作について
図6のフローチャートを用いて説明すると、まず注入バルブ14を試料充填状態(
図1の状態)にし(ステップS1)、ニードル20の先端から試料を吸入してサンプルループ18に試料を充填する(ステップS2)。その後、注入バルブ14のロータを時計回りに90度、通常速度(高速)で回転させ、注入バルブ14を試料注入状態(
図5の状態)に切り替える(ステップS3)。注入バルブ14が試料注入状態になると、サンプルループ18に充填された試料が分析流路8へ導入され、試料の分析が行われる(ステップS4)。
【0048】
このように、注入バルブ14を試料充填状態(
図1の状態)から試料注入状態(
図5の状態)まで通常速度(高速)で切り替えて分析流路8に試料を注入することを、ここでは「1段階注入」と称する。注入バルブ14を試料充填状態から試料注入状態へ切り替える際に一瞬ではあるが中間状態を経るため、注入バルブ14内が試料注入状態になるまでの間にサンプルループ18内の圧力がある程度高められ、サンプルループ18内が加圧される方向を常に一定にすることができる。
【0049】
図9(A)は上記のような1段階注入による分析を行なったときの各流路の圧力波形であり、同図(B)は(A)において注入バルブ14が切り替えられてサンプルループ18の一端が送液流路4と分析流路8の間に接続された時間帯を拡大した図である。これらの図からわかるように、注入バルブ14のロータが回転し、注入バルブ14が中間状態になった瞬間、送液流路4と分析流路8の圧力が低下し、サンプルループ18の圧力が上昇している。
【0050】
図1に示されているように、制御部32は、上記のような1段階注入による分析に加えて、より多段階の注入による分析を実行することができるように、圧力回復動作部34と圧力変動緩和動作部36を備えている。圧力回復動作部34と圧力変動緩和動作部36は、所定のプログラムを演算素子が実行することによって得られる制御部32の機能である。
【0051】
圧力回復動作部34は、注入バルブ14の切替え動作に伴う送液流路4と分析流路8の圧力の低下を回復させる圧力回復動作を注入バルブ14に行なわせるように構成されている。圧力回復動作とは、注入バルブ14を試料充填状態(
図1の状態)から試料注入状態(
図5の状態)に切り替える際に、その途中の中間状態(
図4の状態)で一時的に停止させ、その後、試料注入状態(
図5の状態)に切り替える動作である。注入バルブ14が中間状態で停止している間に、送液流路4と分析流路8の間にサンプルループ18の一端が接続されたときに低下した送液流路4及び分析流路8内の圧力を回復させることができる。
【0052】
圧力変動緩和動作部36は、注入バルブ14の切替え動作時の圧力変動を緩和させる圧力変動緩和動作を注入バルブ14に行なわせるように構成されている。圧力変動緩和動作とは、注入バルブ14が試料充填状態(
図1の状態)から中間状態(
図4の状態)に切り替わるまでに要する時間が、中間状態(
図4の状態)から試料注入状態(
図5の状態)に切り替わるまでに要する時間よりも長くなるようにすることで、
図3のように注入バルブ14が中間状態になる直前の状態が切替えに要する時間を同等とした場合よりも長い時間存在するようにする動作である。注入バルブ14が中間状態になる直前の状態とは、サンプルループ18の一端が接続された接続ポートD(第1ループポート)と流路Xとが僅かに接続され、接続ポートDと流路Xとの接続部分の流路抵抗が、接続ポートE(ポンプポート)と流路Xとの接続部分の流路抵抗や、接続ポートF(カラムポート)と流路Xとの接続部分の流路抵抗よりも大きい状態である。このような状態が切替えに要する時間を同等とした場合よりも長い時間存在することで、サンプルループ18への移動相の流入が緩やかになり、送液流路4と分析流路8との間にサンプルループ18の一端が接続されたときの圧力の変動を緩やかなものにすることができ、圧力ショックが緩和される。このような動作は,試料充填状態(
図1の状態)から中間状態(
図4の状態)への切り替え時間の全部又は後半の一部において、ロータの駆動速度を通常速度よりも遅い低速にすることで実現される。ここで、通常速度とは注入バルブ14が中間状態(
図4の状態)から試料注入状態(
図5の状態)に切替わるときのロータの駆動速度である。
【0053】
上記の圧力回復動作を組み込んだ2段階注入による分析について、
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
まず、1段階注入による分析と同様に、注入バルブ14を試料充填状態(
図1の状態)にしてサンプルループ18への試料の充填を行ない(ステップS11、S12)、その後、注入バルブ14のロータを時計回りに45度、通常速度(高速)で回転させて中間状態(
図4の状態)にする(ステップS13)。注入バルブ14を中間状態で所定時間(例えば3秒間)停止させた後(ステップS14)、ロータを時計回りにさらに45度、通常速度(高速)で回転させて注入バルブ14を試料注入状態(
図5の状態)にし(ステップS15)、試料の分析を行なう(ステップS16)。
【0055】
上記の2段階注入による分析では、注入バルブ14を試料充填状態から中間状態に切り替えたときに低下した送液流路4及び分析流路8内の圧力を、注入バルブ14を中間状態で停止させている間に回復させることができる。そして、その後に注入バルブ14を試料注入状態にして分析を開始することで、流入バルブ14による切替えによって生じた移動相の送液流量や移動相の組成の変動の影響を抑制した状態で分析を開始することができ、分析結果の再現性を1段階注入による分析よりもさらに向上させることができる。
【0056】
図10(A)は上記の2段階注入による分析を行なったときの各流路の圧力波形であり、同図(B)は(A)において注入バルブ14が切り替えられてサンプルループ18の一端が送液流路4と分析流路8の間に接続された時間帯を拡大した図である。これらの図からわかるように、注入バルブ14が中間状態になった瞬間、送液流路4と分析流路8の圧力が低下しているが、注入バルブ14が一定時間、中間状態で維持されることによって送液流路4及び分析流路8内の圧力がある程度回復し、その後、注入バルブ14が試料注入状態に切り替えられた後も、これらの流路内の圧力が安定している。
【0057】
なお、注入バルブ14が試料充填状態から中間状態に切り替わるときや、注入バルブ14を中間状態で停止させている間に、送液ポンプ6による移動相の送液流量を大きくしてもよい。これにより、送液流路4や分析流路8内の圧力の回復速度が向上し、注入バルブ14を中間状態で停止させる時間をより短くすることができ、分析サイクルの高速化を図ることができる。送液流量の増加は,試料注入動作前の圧力を目標値とする定圧制御によっても良いし、所定の流量を所定の時間増加させる方法によっても良い。
【0058】
上記の圧力回復動作及び圧力変動緩和動作を組み込んだ3段階注入による分析について、
図8のフローチャートを用いて説明する。
【0059】
まず、1段階注入による分析、2段階注入による分析と同様に、注入バルブ14を試料充填状態(
図1の状態)にしてサンプルループ18への試料の充填を行ない(ステップS21、S22)、その後、
図2に示されているように、注入バルブ14のロータを時計回りに22.5度、通常速度(高速)で回転させる(ステップS23)。
図2の状態から、注入バルブ14のロータを時計回りにさらに22.5度、通常速度よりも遅い低速度で回転させ流入バルブ14を中間状態(
図4の状態)にする(ステップS24)。これにより、
図3のように注入バルブ14が中間状態になる直前の状態が、ロータを通常速度で回転させた場合に比べて長くとられ、圧力ショックが緩和される。注入バルブ14を中間状態で所定時間(例えば3秒間)停止させた後(ステップS25)、ロータを時計回りにさらに45度、通常速度(高速)で回転させて注入バルブ14を試料注入状態(
図5の状態)にし(ステップS26)、試料の分析を行なう(ステップS27)。
【0060】
上記の3段階注入による分析では、上記の2段階注入による効果に加えて、注入バルブ14が試料充填状態(
図1の状態)から中間状態(
図4の状態)に切り替わる直前の状態、すなわち接続ポートDと流路Xとの接続部分の流路抵抗が、接続ポートE(ポンプポート)と流路Xとの接続部分の流路抵抗や、接続ポートF(カラムポート)と流路Xとの接続部分の流路抵抗よりも大きい状態が、ロータを通常速度で回転させた場合よりも長くとられるので、送液流路4と分析流路8との間にサンプルループ18の一端が接続されたときの圧力ショックが緩和される。
【0061】
図11(A)は上記の3段階注入による分析を行なったときの各流路の圧力波形であり、同図(B)は(A)において注入バルブ14が切り替えられてサンプルループ18の一端が送液流路4と分析流路8の間に接続された時間帯を拡大した図である。これらの図から、サンプルループ18の一端が送液流路4と分析流路8の間に接続された瞬間の送液流路4及び分析流路8内の圧力の変動が、
図10よりもさらに緩やかになっていることが確認できる。これにより、圧力ショックが緩和され、移動相の送液流量や移動相の組成の乱れが抑制され、分析カラム10の寿命が向上する。
【0062】
図12は上記の3段階注入における圧力変動緩和動作のロータの駆動速度を
図11のものよりもさらに低速度にした場合の各流路の圧力波形である。この図から、分析流路8内の圧力の変動が
図11のものよりもさらに緩やかになっていることが確認できる。これにより、圧力変動緩和動作のロータの駆動速度を遅くするほど圧力ショックを緩和する効果が大きくなり、分析カラム10の寿命を向上させる効果が向上することがわかる。このことから、ロータの回転速度を適宜調整することで、分析サイクルの高速化とカラム寿命の向上の効果のバランスをとることができる。
【0063】
このような圧力変動緩和動作のさらなるメリットとして,前述の送液ポンプによる送液流量の増加動作との組合せが挙げられる。すなわち、圧力変動緩和動作によって送液流路4及び分析流路8内の圧力がより長い時間をかけて変動するため、変動を打ち消すための送液流量増加幅が小さく抑えられる。そのため、送液ポンプの送液能力内で圧力変動を打ち消すことが容易になる。
【0064】
なお、一般的な考え方では、注入バルブ14の切替えによる圧力ショックを抑制するために、切替バルブ14の切替えを高速で行なうことがよいとされてきた。これに対し、本発明者らは、圧力ショックが発生する瞬間、すなわちサンプルループ18が送液流路4や分析流路8に接続され始める段階でのロータの回転速度を遅くすればするほど、注入バルブ14の切替えによる圧力ショックが緩和されることを見出した。
【0065】
次に、オートサンプラ及び液体クロマトグラフの他の実施例について、
図13から
図15を用いて説明する。なお、
図13から
図15において、
図1から
図5に示されている構成要素と同じ機能を果たす構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0066】
この実施例のオートサンプラ2aの注入バルブ14aも、
図1から
図5を用いて説明した実施例のオートサンプラ2と同様に、試料充填状態(
図13の状態)、中間状態(
図14の状態)及び試料注入状態(
図15の状態)のいずれかの状態に選択的に切り替えられるように構成されている。
【0067】
注入バルブ14aの接続ポートA~Eは同一円周上において反時計回りにその順に配列されており、接続ポートFは中央に配置されている。接続ポートAとB、接続ポートCとDの間及び接続ポートDとEの間にはそれぞれロータの回転角度90度に相当する間隔が設けられ、接続ポートBとCの間及び接続ポートAとEの間にはそれぞれロータの回転角度45度に相当する間隔が設けられている。
【0068】
注入バルブ14aの接続ポートAにはサンプリング流路16の基端が接続され、接続ポートBにはシリンジ流路26が接続され、接続ポートCにはドレインへ通じる流路が接続され、接続ポートDにはインジェクションポート24が接続され、接続ポートEには分析流路8が接続され、接続ポートFには送液流路4が接続されている。
【0069】
接続ポートEはカラムポートをなし、接続ポートFはポンプポートをなす。この実施例では、
図1から
図5に示した実施例とは逆に、注入バルブ14aが中間状態(
図14の状態)になったときに接続ポートAがポンプポートE及びカラムポートFと接続されるように構成されている。したがって、接続ポートAが「第1ループポート」をなし、接続ポートDが「第2ループポート」をなす。
【0070】
注入バルブ14aのロータに設けられた流路Xは、接続ポートA~Eが設けられている円周と同一円周上に設けられたロータの回転角度45度分の長さの円弧とその円弧の一端(流路Y側の端部)と中央の接続ポートFとを結ぶように半径方向に伸びる直線からなる略L字状の形状を有する。流路YとZは接続ポートA~Eが設けられている円周と同一円周上に設けられたロータの回転角度90度分の長さの円弧状の流路である。流路X、Y、Zは互いの間にロータの回転角度45度分に相当する間隔を有する。
【0071】
この実施例では、注入バルブ14aのロータを、試料充填状態(
図13の状態)から反時計回りに45度回転させることによって中間状態(
図14の状態)になり、さらに反時計回りに45度回転させることによって試料注入状態(
図15の状態)になる。
【0072】
図1から
図5に示した実施例とは逆に、この実施例では、注入バルブ14aが中間状態になると、
図14に示されているように、サンプリング流路16の基端が送液流路4及び分析流路8と連通する。このとき、ニードル20の先端がインジェクションポート24に挿入されて接続されていることで、サンプリング流路16が基端側から加圧される。
【0073】
注入バルブ14aが試料充填状態及び試料注入状態になったときの流路構成は
図1から
図5の実施例と同様である。この実施例においても、
図7や
図8のフローチャートに示されるような、圧力回復動作や圧力変動緩和動作を組み込んだ多段階の注入による分析を行なうことができる。そのような多段階注入による分析を行なうことで、注入バルブ14aの切替えに伴う送液流路4及び分析流路8内の圧力変動を抑制することができ、分析結果の再現性の向上や分析カラム10の寿命の向上を図ることができる。
【0074】
図16から
図18は、オートサンプラ及び液体クロマトグラフのさらに別の実施例を示している。
図16から
図18においても、
図1から
図5に示されている構成要素と同じ機能を果たす構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0075】
この実施例のオートサンプラ2bの注入バルブ14bも、
図1から
図5を用いて説明した実施例のオートサンプラ2と同様に、試料充填状態(
図16の状態)、中間状態(
図17の状態)及び試料注入状態(
図18の状態)のいずれかの状態に選択的に切り替えられるように構成されている。
【0076】
この実施例の注入バルブ14bは、すべての接続ポートA~Fが同一円周上において反時計回りにその順に配列されている。接続ポートA-B間とC-D間にはそれぞれ、ロータの回転角度で80度分に相当する間隔が設けられている。接続ポートB-C間、D-E間及びE-F間にはそれぞれ、ロータの回転角度で40度分に相当する間隔が設けられている。
【0077】
注入バルブ14bのロータには、3つの円弧上の流路X、Y、Zが設けられている。流路X、Y、Zはいずれもロータの回転角度で80度分に相当する長さをもち、互いの間にロータの回転角度で40度分に相当する間隔をもつ。
【0078】
注入バルブ14bの接続ポートAにはサンプリング流路16の基端が接続され、接続ポートBにはシリンジ流路26が接続され、接続ポートCにはドレインへ通じる流路が接続され、接続ポートDにはインジェクションポート24が接続され、接続ポートEには分析流路8が接続され、接続ポートFには送液流路4が接続されている。
【0079】
接続ポートEはカラムポートをなし、接続ポートFはポンプポートをなす。この実施例では、
図1から
図5に示した実施例と同様に、注入バルブ14bが中間状態(
図17の状態)になったときに接続ポートDが流路Xを介してカラムポートE及びポンプポートFと接続されるように構成されている。したがって、接続ポートDが「第1ループポート」をなし、接続ポートAが「第2ループポート」をなす。
【0080】
この実施例では、注入バルブ14bのロータを、試料充填状態(
図16の状態)から時計回りに40度回転させることによって中間状態(
図17の状態)になり、さらに時計回りに40度回転させることによって試料注入状態(
図18の状態)になる。
【0081】
この実施例においても、
図7や
図8のフローチャートに示されるような、圧力回復動作や圧力変動緩和動作を組み込んだ多段階の注入による分析を行なうことができる。そのような多段階注入による分析を行なうことで、注入バルブ14bの切替えに伴う送液流路4及び分析流路8内の圧力変動を抑制することができ、分析結果の再現性の向上や分析カラム10の寿命の向上を図ることができる。
【0082】
図19から
図21は、オートサンプラ及び液体クロマトグラフのさらなる別の実施例を示している。
図19から
図21においても、
図1から
図5に示されている構成要素と同じ機能を果たす構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0083】
この実施例のオートサンプラ2cの注入バルブ14cも、
図1から
図5を用いて説明した実施例のオートサンプラ2と同様に、試料充填状態(
図19の状態)、中間状態(
図20の状態)及び試料注入状態(
図21の状態)のいずれかの状態に選択的に切り替えられるように構成されている。
【0084】
この実施例の注入バルブ14cも、
図16から
図18を用いて説明した実施例におけるオートサンプラ2bの注入バルブ14bと同様に、すべての接続ポートA~Fが同一円周上において反時計回りにその順に配列されている。接続ポートA-B間、C-D間及びD-E間にはそれぞれ、ロータの回転角度で80度分に相当する間隔が設けられている。接続ポートB-C間、E-F間及びA-F間にはそれぞれ、ロータの回転角度で40度分に相当する間隔が設けられている。
【0085】
注入バルブ14bのロータには、3つの円弧上の流路X、Y、Zが設けられている。流路X、Y、Zはいずれもロータの回転角度で80度分に相当する長さをもち、互いの間にロータの回転角度で40度分に相当する間隔をもつ。
【0086】
注入バルブ14bの接続ポートAにはサンプリング流路16の基端が接続され、接続ポートBにはシリンジ流路26が接続され、接続ポートCにはドレインへ通じる流路が接続され、接続ポートDにはインジェクションポート24が接続され、接続ポートEには分析流路8が接続され、接続ポートFには送液流路4が接続されている。
【0087】
接続ポートEはカラムポートをなし、接続ポートFはポンプポートをなす。この実施例では、
図13から
図15に示した実施例と同様に、注入バルブ14cが中間状態(
図20の状態)になったときに接続ポートAが流路Xを介してカラムポートE及びポンプポートFと接続されるように構成されている。したがって、接続ポートAが「第1ループポート」をなし、接続ポートDが「第2ループポート」をなす。
【0088】
この実施例では、注入バルブ14cのロータを、試料充填状態(
図19の状態)から反時計回りに40度回転させることによって中間状態(
図20の状態)になり、さらに反時計回りに40度回転させることによって試料注入状態(
図21の状態)になる。
【0089】
この実施例においても、
図7や
図8のフローチャートに示されるような、圧力回復動作や圧力変動緩和動作を組み込んだ多段階の注入による分析を行なうことができる。そのような多段階注入による分析を行なうことで、注入バルブ14cの切替えに伴う送液流路4及び分析流路8内の圧力変動を抑制することができ、分析結果の再現性の向上や分析カラム10の寿命の向上を図ることができる。
【0090】
以上において説明した実施例では、サンプルループ18に充填した試料の全量を分析流路8に注入する「全量注入方式」のオートサンプラを示しているが、本発明はこれに限定されず、「ループ注入方式」のオートサンプラについての同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
2,2a,2b,2c オートサンプラ
4 送液流路
6 送液ポンプ
8 分析流路
10 分析カラム
12 検出器
14 注入バルブ
16 サンプリング流路
18 サンプルループ
20 ニードル
22 試料容器
24 インジェクションポート
26 シリンジ流路
28 3方弁
30 シリンジポンプ
32 制御部
34 圧力回復動作部
36 圧力変動緩和動作部