IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図1
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図2
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図3
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図4
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図5
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図6
  • 特許-可変圧縮装置及びエンジンシステム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】可変圧縮装置及びエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20220105BHJP
   F02B 75/04 20060101ALI20220105BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F02B75/32 B
F02B75/04
F02D15/02 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020520385
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020591
(87)【国際公開番号】W WO2019225729
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018101048
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108182(WO,A1)
【文献】特開2014-020375(JP,A)
【文献】実開平03-095013(JP,U)
【文献】特表2016-535838(JP,A)
【文献】特開2017-201148(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016113646(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/32
F02B 75/04
F02D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの圧縮比を変更可能な可変圧縮装置であって、
ピストンロッドと、
作動流体を昇圧するポンプと、
昇圧された前記作動流体が供給されることで前記ピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室が内部に形成されると共に前記ピストンロッドと接続されるクロスヘッドピンと、
前記流体室から前記作動流体を排出する排出機構と、
前記流体室へと供給される前記作動流体を案内すると共に前記クロスヘッドピン及び前記ポンプと接続される第1作動流体流路とを備え
前記排出機構は、前記流体室から排出される前記作動流体を案内するリリーフ流路と、
前記リリーフ流路に設けられると共に前記作動流体により駆動するスプール弁とを備え、
前記スプール弁を駆動させる前記作動流体を案内すると共に前記排出機構と接続される第2作動流体流路をさらに備える可変圧縮装置。
【請求項2】
前記第1作動流体流路は、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる揺動管に一体として設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項3】
前記第1作動流体流路は、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項4】
前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、
前記第1作動流体流路は、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項5】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路はいずれも、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる一の揺動管に一体として設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項6】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路は、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる複数の揺動管にそれぞれ一体として設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項7】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方は、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる揺動管に一体として設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項8】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方は、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる、請求項7に記載の可変圧縮装置。
【請求項9】
前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方は、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる、請求項7に記載の可変圧縮装置。
【請求項10】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路は、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能とされる複数のテレスコ管の内部にそれぞれ設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項11】
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方は、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項12】
前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方は、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる、請求項11に記載の可変圧縮装置。
【請求項13】
前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路はいずれも、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項14】
前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、
前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方は、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる、請求項1に記載の可変圧縮装置。
【請求項15】
前記クロスヘッドピンの内部に形成されると共に前記流体室と前記第1作動流体流路とを連通する供給流路を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載の可変圧縮装置。
【請求項16】
前記クロスヘッドピンの外周に設けられると共に前記流体室と前記第1作動流体流路とを連通する供給流路を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載の可変圧縮装置。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の可変圧縮装置を備える、エンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可変圧縮装置及びエンジンシステムに関する。
本願は、2018年5月25日に日本に出願された特願2018-101048号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、クロスヘッドを有する大型往復ピストン燃焼エンジンが開示されている。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、重油などの液体燃料と天然ガス等の気体燃料との両方での稼働が可能とされるデュアルフュエルエンジンである。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、液体燃料による稼働に適する圧縮比と気体燃料による稼働に適する圧縮比との双方に対応するため、油圧によりピストンロッドをクロスヘッドピンと相対的に移動させることで圧縮比を変更させる調整機構をクロスヘッド部分に設けている。
【0003】
また、特許文献2には内燃機関の可変圧縮比機構が開示され、特許文献3にはレシプロエンジンが開示され、特許文献4にはディーゼルエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2014-20375号公報
【文献】日本国実開昭59-40538号公報
【文献】日本国特表2005-511946号公報
【文献】日本国特開平8-170551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような圧縮比を変更する調整機構は、ピストンが下死点まで下降した際に、クロスヘッドピンに設けられたプランジャポンプ及びリリーフ弁をカムプレートと接触させることで稼働させ、油圧室内の作動油の供給及び排出を行っている。したがって、圧縮比の変更は、ピストンが下死点に位置する際にのみ実施可能であり、ピストンが下死点以外に位置する状態での異常燃焼時等に瞬時に圧縮比を変更することができない。
【0006】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされ、可変圧縮装置において、クランク角に関わらず圧縮比を変更可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、エンジンの圧縮比を変更可能な可変圧縮装置であって、ピストンロッドと、作動流体を昇圧するポンプと、昇圧された前記作動流体が供給されることで前記ピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室が内部に形成されると共に前記ピストンロッドと接続されるクロスヘッドピンと、前記流体室から前記作動流体を排出する排出機構と、前記流体室へと供給される前記作動流体を案内すると共に前記クロスヘッドピン及び前記ポンプと接続される第1作動流体流路と、を備える。
【0008】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様の可変圧縮装置において、前記排出機構が、前記流体室から排出される前記作動流体を案内するリリーフ流路と、前記リリーフ流路に設けられると共に前記作動流体により駆動するスプール弁とを備え、上記第1の態様の可変圧縮装置が、前記スプール弁を駆動させる前記作動流体を案内すると共に前記排出機構と接続される第2作動流体流路をさらに備える。
【0009】
本開示の第3の態様は、上記第1の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路が、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる揺動管に一体として設けられる。
【0010】
本開示の第4の態様は、上記第1の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路が、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる。
【0011】
本開示の第5の態様は、上記第1の態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、前記第1作動流体流路が、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる。
【0012】
本開示の第6の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路がいずれも、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる一の揺動管に一体として設けられる。
【0013】
本開示の第7の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路が、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる複数の揺動管にそれぞれ一体として設けられる。
【0014】
本開示の第8の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方が、前記クロスヘッドピンに接続されると共に揺動可能とされる揺動管に一体として設けられる。
【0015】
本開示の第9の態様は、上記第8の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方が、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる。
【0016】
本開示の第10の態様は、上記第8の態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方が、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる。
【0017】
本開示の第11の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路が、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能な複数のテレスコ管の内部にそれぞれ設けられる。
【0018】
本開示の第12の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置において、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方が、前記クロスヘッドピンの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられる。
【0019】
本開示の第13の態様は、上記12の態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか他方が、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる。
【0020】
本開示の第14の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路がいずれも、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる。
【0021】
本開示の第15の態様は、上記第2の態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの往復直線運動を回転運動に変換する、クランク軸と当該クランク軸及び前記クロスヘッドピンを互いに連結する連接棒とをさらに備え、前記第1作動流体流路及び前記第2作動流体流路のいずれか一方が、前記クランク軸の内部及び前記連接棒の内部に設けられる。
【0022】
本開示の第16の態様は、上記第1~第15のいずれか1つの態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの内部に形成されると共に前記流体室と前記第1作動流体流路とを連通する供給流路を備える。
【0023】
本開示の第17の態様は、上記第1~第15のいずれか1つの態様の可変圧縮装置が、前記クロスヘッドピンの外周に設けられると共に前記流体室と前記第1作動流体流路とを連通する供給流路を備える。
【0024】
本開示の第18の態様のエンジンシステムは、上記第1~第17のいずれか1つの態様の可変圧縮装置を備える。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、クランク角度に関わらず、流体室への作動流体の供給及び排出を行うことができる。したがって、クランク角度に関わらず、圧縮比を変更することが可能であり、適時に圧縮比変更が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの一部を示す模式断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る可変圧縮装置の機能を示す模式図である。
図4】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの第1変形例を示す模式断面図である。
図5】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの第2変形例を示す模式断面図である。
図6】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの第3変形例におけるクランク軸の部分断面側面図である。
図7】本開示の一実施形態に係るエンジンシステムの第3変形例における連接棒の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本開示におけるエンジンシステム100の一実施形態について説明する。
【0028】
本実施形態のエンジンシステム100は、例えば大型タンカなど船舶に搭載され、図1に示すように、エンジン1と、過給機200と、制御部300とを有している。なお、本実施形態においては、過給機200を補機として捉え、エンジン1(主機)と別体として説明する。但し、過給機200をエンジン1の一部として構成することも可能である。なお、過給機200は、本実施形態のエンジンシステム100に必須の構成要素ではなく、エンジンシステム100に設けられずともよい。
図1は、エンジンシステム100に設けられた後述する円筒状のシリンダライナ3aの中心軸に沿った縦断面図である。本実施形態では、シリンダライナ3aの中心軸線方向において、図1における後述する排気弁ユニット5が設けられている側を上側、後述するクランク軸11が設けられている側を下側と称する場合がある。シリンダライナ3aの中心軸に交差する方向を径方向と称する場合がある。シリンダライナ3aの中心軸方向から見た図を平面視と称する場合がある。
【0029】
エンジン1は、多気筒のユニフロー掃気ディーゼルエンジンとされ、天然ガス等の気体燃料を重油などの液体燃料と共に燃焼させるガス運転モードと、重油などの液体燃料を燃焼させるディーゼル運転モードとを実行可能なデュアルフュエルエンジンである。なお、ガス運転モードでは、気体燃料のみを燃焼させても良い。このようなエンジン1は、架構2と、シリンダ部3と、ピストン4と、排気弁ユニット5と、ピストンロッド6と、クロスヘッド7と、油圧部8(昇圧機構)と、連接棒9と、クランク角センサ10と、クランク軸11と、掃気溜12と、排気溜13と、空気冷却器14とを有している。また、シリンダ部3、ピストン4、排気弁ユニット5及びピストンロッド6により、気筒が構成されている。
【0030】
架構2は、エンジン1の全体を支持する強度部材であり、クロスヘッド7、油圧部8及び連接棒9が収容されている。また、架構2は、内部において、クロスヘッド7の後述するクロスヘッドピン7aが往復動可能とされている。
【0031】
シリンダ部3は、円筒状のシリンダライナ3aと、シリンダヘッド3bとシリンダジャケット3cとを有している。シリンダライナ3aは、円筒状の部材であり、ピストン4との摺動面が内側(内周面)に形成されている。このようなシリンダライナ3aの内周面とピストン4とにより囲まれた空間が燃焼室R1とされている。また、シリンダライナ3aの下部には、複数の掃気ポートSが形成されている。掃気ポートSは、シリンダライナ3aの周面に沿って配列された開口であり、シリンダジャケット3c内部の掃気室R2とシリンダライナ3aの内側とを連通している。シリンダヘッド3bは、シリンダライナ3aの上端部に設けられた蓋部材である。シリンダヘッド3bは、平面視において中央部に排気ポートHが形成され、排気溜13と接続されている。また、シリンダヘッド3bには、不図示の燃料噴射弁が設けられている。さらに、シリンダヘッド3bの燃料噴射弁の近傍には、不図示の筒内圧センサが設けられている。シリンダジャケット3cは、架構2とシリンダライナ3aとの間に設けられ、シリンダライナ3aの下端部が挿入された円筒状の部材であり、内部に掃気室R2が形成されている。また、シリンダジャケット3cの掃気室R2は、掃気溜12と接続されている。
【0032】
ピストン4は、略円柱状とされ、後述するピストンロッド6と接続されてシリンダライナ3aの内側に配置されている。また、ピストン4の外周面には不図示のピストンリングが設けられ、ピストンリングにより、ピストン4とシリンダライナ3aとの間隙を封止している。ピストン4は、燃焼室R1における圧力の変動により、ピストンロッド6を伴ってシリンダライナ3a内を上下方向に摺動する。
【0033】
排気弁ユニット5は、排気弁5aと、排気弁筐5bと、排気弁駆動部5cとを有している。排気弁5aは、シリンダヘッド3bの内側に設けられ、排気弁駆動部5cにより、シリンダ部3の排気ポートHを閉塞する。排気弁筐5bは、排気弁5aの端部を収容する円筒形の筐体である。排気弁駆動部5cは、排気弁5aをピストン4のストローク方向(摺動方向、上下方向)に沿う方向に移動させるアクチュエータである。
【0034】
ピストンロッド6は、一端(上端)がピストン4と接続され、他端(下端)がクロスヘッドピン7aと連結された長尺状部材である。ピストンロッド6の端部(下端部)は、クロスヘッドピン7aに挿入され、連接棒9が回転可能となるように連結されている。また、ピストンロッド6は、クロスヘッドピン7a側端部の一部の径が太く形成された太径部6a(図2参照)を有している。言い換えれば、ピストンロッド6の、クロスヘッドピン7a側の端部(下端部)の外周面には、径方向外側に突出する太径部6aが設けられており、よって太径部6aの外径はピストンロッド6の外径よりも大きい。また、ピストンロッド6は、中空とされ、内部に冷却油(作動油)が流通する不図示の冷却流路が形成されている。
【0035】
クロスヘッド7は、クロスヘッドピン7aと、ガイドシュー7bと、蓋部材7cとを有している。クロスヘッドピン7aは、ピストンロッド6と連接棒9とを移動可能に連結する円柱状部材であり、ピストンロッド6の端部(下端部)が挿入される挿入空間に、作動油(作動流体)の供給及び排出が行われる油圧室R3(流体室)が形成される。クロスヘッドピン7aの中心軸は、上下方向と略直交する方向に延びている。クロスヘッドピン7aの上部には、上方に向けて開口し太径部6aが上下摺動可能に挿入された挿入凹部が形成されている。上述した油圧室R3は、上記挿入凹部の底面と太径部6aの下面との間に設けられている。クロスヘッドピン7aには、中心よりも下側に、クロスヘッドピン7aの軸方向に沿って貫通する出口孔Oが形成されている。出口孔Oは、ピストンロッド6の不図示の冷却流路を通過した冷却油が排出される開口である。また、クロスヘッドピン7aには、油圧室R3と接続する供給流路R4と、油圧室R3と後述するスプール弁8dとを接続するリリーフ流路R5とが設けられている。また、クロスヘッドピン7aと蓋部材7cとにより囲まれて形成される空間は、上部油室R6とされ、冷却油としてピストンロッド6内の冷却流路へと供給される作動油の一部が貯留される。言い換えれば、上部油室R6は、蓋部材7cの下面と、クロスヘッドピン7aの上記挿入凹部の内周面と、ピストンロッド6の外周面と、太径部6aの上面とによって囲まれて形成されている。
【0036】
ガイドシュー7bは、クロスヘッドピン7aを回動可能に支持する部材であり、クロスヘッドピン7aに伴ってピストン4のストローク方向に沿って不図示のガイドレール上を移動する。ガイドシュー7bがガイドレールに沿って移動することにより、クロスヘッドピン7aは、ピストン4のストローク方向に沿う直線方向以外への移動が規制される。クロスヘッドピン7aは、その中心軸回りの回転運動も規制されている。蓋部材7cは、クロスヘッドピン7aの上部に固定され、ピストンロッド6の端部(下端部)が挿入される環状部材である。蓋部材7cは、クロスヘッドピン7aの上記挿入凹部の開口周縁部に設けられている。蓋部材7cの内径は、ピストンロッド6の外径と同等であり、太径部6aの外径よりも小さい。このようなクロスヘッド7は、ピストン4の直線運動を連接棒9へと伝達している。
【0037】
図2、3に示すように、油圧部8は、供給ポンプ8a(ポンプ)と、揺動管8bと、逆止弁8cと、スプール弁8dと、第1バルブ8eと、第2バルブ8fと、第3バルブ8gとを有している。また、ピストンロッド6、クロスヘッド7、油圧部8は、本開示における可変圧縮装置Aとして機能してもよい。また、スプール弁8d及びリリーフ流路R5は、本開示における排出機構15に相当する。
【0038】
供給ポンプ8aは、制御部300からの指示に基づいて、不図示の作動油タンクから供給される作動油を昇圧して後述する冷却用流路Ra、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcへと供給するポンプである。供給ポンプ8aは、船舶のバッテリの電力により駆動され、燃焼室R1に液体燃料が供給されるよりも前に稼働することが可能である。また、供給ポンプ8aから吐出される作動油は、3方に分岐されている。
【0039】
揺動管8bは、供給ポンプ8aと各気筒の供給流路R4、スプール弁8d及び上部油室R6とを接続する配管であり、クロスヘッドピン7aに伴って移動する上部油室R6と、固定された供給ポンプ8aとの間において、揺動可能とされている。揺動管8bはクロスヘッドピン7aに揺動可能に接続され、クロスヘッドピン7aが上下往復移動する際にもクロスヘッドピン7aとの接続が維持される構造であればよい。また、揺動管8b内には、図3に示すように、冷却用流路Raと、供給用流路Rb(第1作動流体流路、第1作動流体配管)と、排出機構用流路Rc(第2作動流体流路、第2作動流体配管)の3本の流路が形成されている。冷却用流路Raは、上部油室R6へと供給される作動油(冷却油)を案内する流路である。供給用流路Rbは、クロスヘッドピン7a内の供給流路R4、さらに油圧室R3へと供給される作動油を案内する流路である。排出機構用流路Rcは、スプール弁8dへと供給される作動油を案内する流路である。冷却用流路Ra、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcは、供給ポンプ8aにそれぞれ接続されている。
【0040】
逆止弁8cは、クロスヘッドピン7aの供給流路R4の例えば入口に設けられ、油圧室R3から供給用流路Rbへの作動油の逆流を防止する。
【0041】
スプール弁8dは、クロスヘッドピン7aのリリーフ流路R5の出口に設けられ、筒体8d1と弁体8d2とを備えている。筒体8d1は、有底円筒状とされ、内部に弁体8d2が収容される。すなわち、筒体8d1は、両端が閉塞された筒体である。また、筒体8d1は、下部周面(図3における下部)においてリリーフ流路R5と接続されると共に、上部周面(図3における上部)において排出機構用流路Rcと接続され、さらに下部周面に外部と連通する排出口が形成されている。この排出口は、リリーフ流路R5を介して筒体8d1に供給された作動油を外部に排出可能となっている。弁体8d2は、筒体8d1内で上下方向に移動可能とされ、ロッドとロッドの上下に設けられた2つの円柱状の弁部とを有しており、下部の弁部により筒体8d1の排出口を閉塞する。また、弁体8d2の上部の弁部と筒体8d1との間に形成される上部空間は、排出機構用流路Rcから供給される作動油により満たされる。排出機構用流路Rcを介した筒体8d1の上記上部空間への作動油の供給に応じて、弁体8d2は上下に移動し、よって弁体8d2が筒体8d1の排出口の開放と閉塞とを切り替えることができる。
なお、上記の説明における上下方向は、鉛直方向に限定されるものではなく、クロスヘッドピン7aへの取付姿勢により変化する。
【0042】
第1バルブ8eは、冷却用流路Raに設けられ、制御部300により制御される開閉弁である。第2バルブ8fは、供給用流路Rbに設けられ、制御部300により制御される開閉弁である。第3バルブ8gは、排出機構用流路Rcに設けられ、制御部300により制御される開閉弁である。
【0043】
図1に示すように、連接棒9は、クロスヘッドピン7aと連結されると共にクランク軸11と連結されている長尺状部材である。連接棒9は、クロスヘッドピン7aに伝えられたピストン4の直線運動を回転運動に変換している。クランク角センサ10は、クランク軸11のクランク角を計測するためのセンサであり、制御部300へとクランク角を算出するためのクランクパルス信号を送信している。
【0044】
クランク軸11は、気筒に設けられる連接棒9に接続された長尺状の部材であり、それぞれの連接棒9により伝えられる回転運動により回転されることで、例えばスクリュー等に動力を伝える。掃気溜12は、シリンダジャケット3cと過給機200との間に設けられ、過給機200により加圧された空気が流入する。また、掃気溜12には、空気冷却器14が内部に設けられている。排気溜13は、各気筒の排気ポートHと接続されると共に過給機200と接続される管状部材である。排気ポートHより排出されるガスは、排気溜13に一時的に貯留されることにより、脈動を抑制した状態で過給機200へと供給される。空気冷却器14は、掃気溜12内部の空気を冷却する装置である。
【0045】
過給機200は、排気ポートHより排出されたガスにより回転されるタービンにより、不図示の吸気ポートから吸入した空気を加圧して燃焼室R1に供給する装置である。
【0046】
制御部300は、船舶の操縦者による操作等に基づいて、燃料の供給量等を制御するコンピュータである。また、制御部300は、油圧部8を制御することにより、燃焼室R1における圧縮比を変更する。
制御部300はコンピュータから構成可能であり、このコンピュータは、CPU(中央処理装置)、記憶装置、及び入出力装置等を備える。記憶装置は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、及びSSD(Solid State Drive)等のうちの1以上を含む。入出力装置は、有線または無線で、排気弁駆動部5c、油圧部8の第1バルブ8e、第2バルブ8f及び第3バルブ8g、並びにクランク角センサ10と信号やデータ等のやり取りを行う。コンピュータは、記憶装置に保存されたプログラム等に基づいて所定の機能を果たすことができる。
【0047】
このようなエンジンシステム100は、不図示の燃料噴射弁より燃焼室R1に噴射された燃料を着火、爆発させることによりピストン4をシリンダライナ3a内で摺動させ、クランク軸11を回転させる装置である。詳述すると、燃焼室R1に供給された燃料は、掃気ポートSより流入した空気と混合された後、ピストン4が上死点方向に向けて移動することにより圧縮されて温度が上昇すると共に着火する。また、液体燃料の場合には、燃焼室R1において温度上昇することにより気化し、自然着火する。
【0048】
そして、燃焼室R1内の燃料が自然着火することで急激に膨張し、ピストン4には下死点方向に向けた圧力がかかる。これにより、ピストン4が下死点方向に移動し、ピストン4に伴ってピストンロッド6が移動され、連接棒9を介してクランク軸11が回転される。さらに、ピストン4が下死点に移動されることで、掃気ポートSより燃焼室R1へと加圧空気が流入する。排気弁ユニット5が駆動することで排気ポートHが開き、燃焼室R1内の排気ガスが、加圧空気により排気溜13へと押し出される。
【0049】
圧縮比を大きくする場合には、制御部300により供給ポンプ8aが駆動されると共に第2バルブ8fが開弁され、作動油が、ピストンロッド6を持ち上げることが可能な圧力となるまで加圧された後に、供給用流路Rb及び供給流路R4を介して油圧室R3へと供給される。これにより、油圧室R3の作動油の圧力により、ピストンロッド6の端部(太径部6a)が持ち上がり、これに伴ってピストン4の上死点位置が上方(排気ポートH側)に移動される。すなわち、ピストン4及びピストンロッド6がクロスヘッドピン7aから離れるように移動し、ピストン4の上死点位置が上方に変更され、よってエンジン1の圧縮比が上昇する。
【0050】
圧縮比を小さくする場合には、制御部300により、供給ポンプ8aが駆動されると共に第3バルブ8gが開弁され、作動油が排出機構用流路Rcを介して筒体8d1の上部空間へと供給される。これにより、筒体8d1の上部空間の圧力が上昇し、弁体8d2が下方へと移動されることで、排出口とリリーフ流路R5とが連通され、油圧室R3内の作動油が排出口より排出される。そして、油圧室R3の作動油が減少し、ピストンロッド6が下方(クランク軸11側)に移動され、これに伴ってピストン4の上死点位置が下方に移動される。すなわち、ピストン4及びピストンロッド6がクロスヘッドピン7aに近づくように移動し、ピストン4の上死点位置が下方に変更され、よってエンジン1の圧縮比が低下する。
【0051】
また、制御部300は、気体燃料から液体燃料へと切り替える際には、まず燃料を液体燃料へと切り替えた後に、上述の方法により圧縮比を上昇させる。また、制御部300は、液体燃料から気体燃料へと切り替える際には、まず上述の方法により圧縮比を下降させ、所望の圧縮比に到達した後に、燃料を気体燃料へと切り替える。
【0052】
本実施形態によれば、ピストン4の位置に関わらず制御部300が供給ポンプ8a、第2バルブ8f及び第3バルブ8gを駆動させることにより、油圧室R3への作動油の供給及び排出を行うことができる。したがって、エンジン1のクランク角度に関わらず、圧縮比を変更することが可能であり、ピストン4が下死点以外に位置する状態での異常燃焼時等に瞬時に圧縮比変更が可能となる。
【0053】
また、本実施形態によれば、リリーフ流路R5に設けられたスプール弁8dを作動油により制御することにより、圧縮比を低下させることが可能である。したがって、クロスヘッドピン7a内に作動油を供給することにより、油圧室R3内の作動油の排出が可能であり、単純な構成とすることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、クロスヘッドピン7a内に供給流路R4及びリリーフ流路R5を形成している。これにより、クロスヘッドピン7aの外部に配管を形成する必要がなく、クロスヘッドピン7aの配置が容易である。
【0055】
また、本実施形態によれば、冷却用流路Ra、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcを一体として揺動管8bに形成している。これにより、可変圧縮装置の構成を単純とすることが可能である。
【0056】
本実施形態の可変圧縮装置Aは、エンジン1の圧縮比を変更可能な可変圧縮装置であって、ピストンロッド6と、作動油(作動流体)を昇圧する供給ポンプ8aと、昇圧された上記作動油が供給されることでピストンロッド6が圧縮比を高める方向に移動される油圧室R3(流体室)が内部に形成されると共にピストンロッド6と接続されるクロスヘッドピン7aと、油圧室R3から作動油を排出する排出機構15と、油圧室R3へと供給される作動油を案内すると共にクロスヘッドピン7a及び供給ポンプ8aと接続される供給用流路Rb(第1作動流体流路)とを備える。
排出機構15は、油圧室R3から排出される作動油を案内するリリーフ流路R5と、リリーフ流路R5に設けられると共に作動油により駆動するスプール弁8dとを備え、可変圧縮装置Aは、スプール弁8dを駆動させる作動油を案内すると共に排出機構15と接続される排出機構用流路Rc(第2作動流体流路)をさらに備える。
供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcは、クロスヘッドピン7aに接続されると共に揺動可能とされる揺動管8bに一体として設けられる。
可変圧縮装置Aは、クロスヘッドピン7aの内部に形成されると共に油圧室R3と供給用流路Rbとを連通する供給流路R4を備える。
本実施形態のエンジンシステム100は、可変圧縮装置Aを備える。
【0057】
続いて、上記実施形態におけるエンジンシステム100の複数の変形例を以下に説明する。以下の説明において、上記実施形態の構成要素と同等の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0058】
(第1変形例)
図4は、上記実施形態に係るエンジンシステム100の第1変形例を示す模式断面図であって、クロスヘッドピン7aの中心軸線に直交する方向における横断面図である。
【0059】
上記実施形態においては、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcはいずれも、クロスヘッドピン7aに接続されると共に揺動可能とされる一の揺動管8bに一体として設けられている。すなわち、上記実施形態の可変圧縮装置Aは、一の揺動管8bを備えている。
この第1変形例においては、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcが、クロスヘッドピン7aに接続されると共に揺動可能とされる複数の揺動管8h及び8iにそれぞれ一体として設けられている。揺動管8h及び8iは、クロスヘッドピン7aの、シリンダライナ3a(図1参照)の中心軸線C1を挟んだ両側にそれぞれ接続されている。なお、揺動管8h及び8iは、クロスヘッドピン7aの互いに異なる位置に接続されていればよく、例えば、複数の揺動管8h及び8iがいずれも、クロスヘッドピン7aの一方の側に接続されてもよい。本変形例の可変圧縮装置Aは、複数の揺動管8h及び8iを備えている。
供給用流路Rbが、揺動管8hに一体に設けられている。言い換えれば、揺動管8hの内部領域が、供給用流路Rbの一部を構成している。排出機構用流路Rcが、揺動管8iに一体に設けられている。言い換えれば、揺動管8iの内部領域が、排出機構用流路Rcの一部を構成している。
【0060】
図4において、冷却用流路Raの記載は省略されているが、冷却用流路Raが揺動管8h及び8iの一方に一体として設けられてもよいし、クロスヘッドピン7aに接続されると共に揺動可能とされ且つ揺動管8h及び8iと異なる他の揺動管(図示せず)に一体として設けられてもよい。
【0061】
第1変形例においては、揺動管8h及び8iは、クロスヘッドピン7aの、ピストンロッド6の中心軸線C1を挟んだ両側にそれぞれ接続されているので、他の部材との干渉等により揺動管8h及び8iをいずれもクロスヘッドピン7aの一方の側に接続することが難しい場合であっても、揺動管8h及び8iを適切に架構2内に配置することができる。
なお、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcのいずれか一方が、クロスヘッドピン7aに接続されると共に揺動可能とされる一の揺動管に一体として設けられてもよい。
【0062】
(第2変形例)
図5は、上記実施形態に係るエンジンシステム100の第2変形例を示す模式断面図であって、図1に示すエンジンシステム100のクロスヘッド7及びその周辺の拡大断面図である。
クロスヘッドピン7aは、シリンダライナ3a(図1参照)の中心軸線C1方向に沿って往復直線移動する。本変形例の可変圧縮装置Aは、クロスヘッドピン7aの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管16を備えている。テレスコ管16は、クロスヘッドピン7aの往復直線移動方向に延びると共にシリンダジャケット3cに固定された外筒16aと、外筒16aに挿入され且つ上記直線移動方向に外筒16aと相対移動可能な内筒16bとを有している。テレスコ管16は、その内部で外筒16aから内筒16bに向けて作動油を流動可能に構成されている。外筒16aと内筒16bとの間の隙間は、当該隙間を介した作動油の漏出が抑制される大きさに設定されている。なお、外筒16aと内筒16bとの隙間に、作動油の漏出を防止するためのシール部材(Oリング等)を配置してもよい。
【0063】
外筒16aの上端(内筒16bから遠い側の端部)は、第2バルブ8fを介して供給ポンプ8aと接続されている。内筒16bの下端(外筒16aから遠い側の端部)は、クランク状に屈曲されており、図示しない締結部材やブラケット等を介してガイドシュー7bに接続されている。なお、内筒16bの下端は屈曲されず直線状であってもよい。内筒16bの内部領域は、ガイドシュー7bに形成された貫通孔R7を介してクロスヘッドピン7aの供給流路R4に連通している。なお、内筒16bの下端が直接にクロスヘッドピン7aに接続され、内筒16bの内部領域が、クロスヘッドピン7aの供給流路R4に直接に連通していてもよい。
本変形例では、供給用流路Rbが、テレスコ管16の内部に設けられている。言い換えれば、テレスコ管16の内部領域が、供給用流路Rbの一部を構成している。
【0064】
図5において、冷却用流路Ra及び排出機構用流路Rcの記載は省略されているが、冷却用流路Ra及び排出機構用流路Rcが、クロスヘッドピン7aの往復直線移動と共に伸縮可能とされ且つテレスコ管16と異なる2本のテレスコ管の内部にそれぞれ設けられてもよい。すなわち、冷却用流路Ra、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcが、クロスヘッドピン7aの往復直線移動と共に伸縮可能とされる複数のテレスコ管の内部にそれぞれ設けられてもよい。これら複数のテレスコ管は、中心軸線C1の一方側に設けられてもよいし、中心軸線C1を挟んだ両側にそれぞれ設けられてもよい。
【0065】
本変形例によれば、往復直線移動するクロスヘッドピン7aに対しても、テレスコ管16等を介して作動油を適切に供給することができる。
なお 、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcのいずれか一方が、クロスヘッドピン7aの往復直線移動と共に伸縮可能なテレスコ管の内部に設けられてもよい。
【0066】
(第3変形例)
図6は、上記実施形態に係るエンジンシステム100の第3変形例におけるクランク軸11の部分断面側面図である。図7は、上記実施形態に係るエンジンシステム100の第3変形例における連接棒9の斜視図である。
図6に示すように、本変形例のクランク軸11は、その中心軸線C2方向に延びるメインジャーナル11aと、メインジャーナル11aから中心軸線C2の径方向外側に変位し且つクランクアーム11bを介してメインジャーナル11aに連結された複数のクランクピン11cと、中心軸線C2を挟んでクランクピン11cと逆側に配置されたカウンターウェイト11dとを有している。メインジャーナル11a及びクランクピン11cはいずれも円柱状に形成され、クランクピン11cの中心軸線は上記中心軸線C2に平行している。
メインジャーナル11aは、架構2の図示しない軸受部材に回転可能に支持されている。クランクピン11cには、連接棒9が回転可能に連結されている。
本変形例の可変圧縮装置Aは、上記実施形態で示した構成要素に加え、クランク軸11と、当該クランク軸11及びクロスヘッドピン7aを互いに連結する連接棒9と、をさらに備えている。
【0067】
このようなクランク軸11には、第1クランクシャフト油孔11fと第2クランクシャフト油孔11gとの対が複数設けられている。第1クランクシャフト油孔11f及び第2クランクシャフト油孔11gは、互いに平行して直線状に延びており、いずれも中心軸線C2に対して傾斜している。なお、図6において、作動油の流れを矢印で示している。
【0068】
第1クランクシャフト油孔11fの一端は、メインジャーナル11aの外周面に開口した第1給油孔11hと連通している。第1クランクシャフト油孔11fの他端は、クランクアーム11bの外面で開口しているが、当該他端は図示しない油孔ブラインドプラグで閉塞されている。第1クランクシャフト油孔11fの両端の間の中間部は、クランクピン11cの外周面に開口した第1吐油孔11iと連通している。このような第1クランクシャフト油孔11fは、クランクアーム11bからメインジャーナル11aに向けてドリル等の切削工具を用いて形成することができる。なお、加工が可能であれば、第1クランクシャフト油孔11fを、メインジャーナル11aからクランクピン11cに向けてドリル等の切削工具を用いて形成し、メインジャーナル11a側の第1クランクシャフト油孔11fの端部を油孔ブラインドプラグで閉塞してもよい。第1クランクシャフト油孔11f、第1給油孔11h及び第1吐油孔11iの加工方法は特に限定されず、メインジャーナル11aからクランクピン11cに向けて作動油を供給可能な油孔が形成できればよい。
第1給油孔11hは、第2バルブ8fを介して供給ポンプ8aに接続されている。
【0069】
第2クランクシャフト油孔11gの一端は、メインジャーナル11aの外周面に開口した第2給油孔11jと連通している。第2給油孔11jは、第1給油孔11hと中心軸線C2方向において異なる位置に設けられている。第2クランクシャフト油孔11gの他端は、クランクアーム11bの外面で開口しているが、当該他端は図示しない油孔ブラインドプラグで閉塞されている。第2クランクシャフト油孔11gの両端の間の中間部は、クランクピン11cの外周面に開口した第2吐油孔11kと連通している。第2吐油孔11kは、第1吐油孔11iと中心軸線C2方向において異なる位置に設けられている。このような第2クランクシャフト油孔11gは、第1クランクシャフト油孔11fと同様に、クランクアーム11bからメインジャーナル11aに向けてドリル等の切削工具を用いて形成することができる。なお、加工が可能であれば、第2クランクシャフト油孔11gを、メインジャーナル11aからクランクピン11cに向けてドリル等の切削工具を用いて形成し、メインジャーナル11a側の第2クランクシャフト油孔11gの端部を油孔ブラインドプラグで閉塞してもよい。第2クランクシャフト油孔11g、第2給油孔11j及び第2吐油孔11kの加工方法は特に限定されず、メインジャーナル11aからクランクピン11cに向けて作動油を供給可能な油孔が形成できればよい。
第2給油孔11jは、第3バルブ8gを介して供給ポンプ8aに接続されている。
【0070】
図7に示すように、連接棒9は一方向に延びる長尺状の部材であり、その一端部にはクランク軸11のクランクピン11cが回転可能に挿入される第1挿通孔9a形成され、その他端部にはクロスヘッドピン7aが回転可能に挿入される第2挿通孔9bが形成されている。第1挿通孔9a及び第2挿通孔9bの開口方向は互いに同一であり、連接棒9の延在方向に直交している。
連接棒9は、上記一方向に延びる長尺状のロッド本体9cと、ロッド本体9cの一端に図示しない締結部材等を用いて連結されてロッド本体9cとの間に第1挿通孔9aを形成する略円弧状の第1キャップ9dと、ロッド本体9cの他端に図示しない締結部材等を用いて連結されてロッド本体9cとの間に第2挿通孔9bを形成する略円弧状の第2キャップ9eと、を有している。
【0071】
ロッド本体9cの内部には、その延在方向に延びる第1ロッド油孔9f及び第2ロッド油孔9gが形成されている。第1ロッド油孔9f及び第2ロッド油孔9gは、ロッド本体9cの延在方向に直交する方向、すなわち第1挿通孔9aや第2挿通孔9bの開口方向に並んで配置されている。
クランク軸11に設けられた第1クランクシャフト油孔11fを介してクランクピン11cの外周面と第1挿通孔9aの内周面との隙間に導入された作動油は、第1ロッド油孔9fに流入し、さらにクロスヘッドピン7a(図2参照)の外周面と第2挿通孔9bの内周面との隙間に導入されて、クロスヘッドピン7aの供給流路R4に流入する。
クランク軸11に設けられた第2クランクシャフト油孔11gを介してクランクピン11cの外周面と第1挿通孔9aの内周面との隙間に導入された作動油は、第2ロッド油孔9gに流入し、さらにクロスヘッドピン7aの外周面と第2挿通孔9bの内周面との隙間に導入されて、クロスヘッドピン7aのリリーフ流路R5に設けられたスプール弁8dにおける筒体8d1の上部空間へ流入する。
【0072】
すなわち、本変形例では、供給用流路Rbが、クランク軸11の内部及び連接棒9の内部に設けられる。言い換えれば、クランク軸11における第1給油孔11h、第1クランクシャフト油孔11f及び第1吐油孔11i、並びに連接棒9における第1ロッド油孔9fが、供給用流路Rbの一部を構成している。
さらに、本変形例では、排出機構用流路Rcが、クランク軸11の内部及び連接棒9の内部に設けられる。言い換えれば、クランク軸11における第2給油孔11j、第2クランクシャフト油孔11g及び第2吐油孔11k、並びに連接棒9における第2ロッド油孔9gが、排出機構用流路Rcの一部を構成している。
【0073】
図6において、冷却用流路Raの記載は省略されているが、冷却用流路Raが、クランク軸11の内部及び連接棒9の内部に設けられてもよい。
【0074】
本変形例によれば、クロスヘッドピン7aの外部にクロスヘッドピン7aと共に移動可能な揺動管やテレスコ管を設けることなく、クロスヘッドピン7aの供給流路R4やスプール弁8dに対して、クランク軸11及び連接棒9を介して作動油を供給することができる。
なお 、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcのいずれか一方が、クランク軸11の内部及び連接棒9の内部に設けられてもよい。
【0075】
以上、図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0076】
上記実施形態においては、クロスヘッドピン7a内に供給流路R4及びリリーフ流路R5を形成しているが、本開示はこれに限定されない。供給流路R4及びリリーフ流路R5は、クロスヘッドピン7aの外周(外部)に形成された配管とし、油圧室R3の底面に接続されてもよい。この場合、クロスヘッドピン7aの内部に流路を形成する加工を必要とせず、クロスヘッドピン7aを容易に製造することが可能となる。
【0077】
上記実施形態においては、スプール弁8dを作動させることにより油圧室R3内の作動油を排出しているが、本開示はこれに限定されない。例えば、揺動管8bの排出機構用流路Rcと接続された吸引用のポンプと、リリーフ流路R5とが接続された構成であってもよい。この場合、油圧室R3内の作動油は、吸引用のポンプにより吸引され、外部へと排出される。なお、上記実施形態の「スプール弁」は、一の流路を介した作動油の供給に応じて駆動され、他の流路における作動油の流通と停止とを切り替えられる弁を含む。
【0078】
上記実施形態においては、揺動管8bには、冷却用流路Raを設けているが、本開示はこれに限定されない。冷却用流路Raは、揺動管8bと別体の揺動管により上部油室R6と接続されてもよい。同様に、供給用流路Rbと、排出機構用流路Rcについても、それぞれ別体の揺動管によりクロスヘッドピン7aと接続されてもよい。
【0079】
上記実施形態においては、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcを一の揺動管に設けることが可能であり、第1変形例においては、複数の揺動管にそれぞれ設けることが可能である。第2変形例においては、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcを複数のテレスコ管にそれぞれ設けることが可能である。第3変形例においては、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcをいずれもクランク軸11の内部及び連接棒9の内部に設けることが可能である。しかしながら、本開示はこれらに限定されない。供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcの形成対象として、揺動管と、テレスコ管と、クランク軸11及び連接棒9とのうちの、1つまたは複数を選択してよい。例えば、供給用流路Rb及び排出機構用流路Rcのいずれか一方を揺動管に設け、いずれか他方をテレスコ管に設けてもよい。
【0080】
上記実施形態においては、排出機構15はリリーフ流路R5とスプール弁8dとを備えているが、本開示はこれに限定されない。排出機構15は油圧室R3から作動油を排出できる構成であればよく、例えば、油圧室R3に接続されたリリーフ流路と、このリリーフ流路に設けられ流通と閉塞とを切り替え可能な弁とを備えていればよい。この弁は例えば電磁弁であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 エンジン
2 架構
3 シリンダ部
3a シリンダライナ
3b シリンダヘッド
3c シリンダジャケット
4 ピストン
5 排気弁ユニット
5a 排気弁
5b 排気弁筐
5c 排気弁駆動部
6 ピストンロッド
7 クロスヘッド
7a クロスヘッドピン
7b ガイドシュー
7c 蓋部材
8 油圧部
8a 供給ポンプ(ポンプ)
8b 揺動管
8c 逆止弁
8d スプール弁
8d1 筒体
8d2 弁体
8e 第1バルブ
8f 第2バルブ
8g 第3バルブ
9 連接棒
10 クランク角センサ
11 クランク軸
12 掃気溜
13 排気溜
14 空気冷却器
15 排出機構
100 エンジンシステム
200 過給機
300 制御部
A 可変圧縮装置
H 排気ポート
S 掃気ポート
O 出口孔
R1 燃焼室
R2 掃気室
R3 油圧室
R4 供給流路
R5 リリーフ流路
R6 上部油室
Ra 冷却用流路
Rb 供給用流路(第1作動流体流路)
Rc 排出機構用流路(第2作動流体流路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7