(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】グラジエント送液の濃度正確性を測定する方法及びその方法を実行する機能を有する液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/34 20060101AFI20220105BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20220105BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N30/34 Z
G01N30/26 A
G01N30/86 J
(21)【出願番号】P 2020523499
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046695
(87)【国際公開番号】W WO2019234955
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018109120
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 覚
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-234524(JP,A)
【文献】特開2006-313093(JP,A)
【文献】特開2007-101564(JP,A)
【文献】特表2013-518286(JP,A)
【文献】MAGEE H. Megan et al.,“Measure Your Gradient”: A new way to measure gradients in high performance liquid chromatography,Journal of Chromatography A,2014年,1369,P73-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶媒と第2溶媒の混合液からなる移動相を前記移動相中における前記第2溶媒の濃度を所定の設定値に調整して送液することができる送液部を有するとともに前記送液部からの移動相が流れる分析流路上に分離カラム及び検出器が設けられている液体クロマトグラフィー分析システムにおける、前記送液部によ
るグラジエント送液の濃度正確性を測定するための方法であって、
前記第1溶媒として、前記検出器による検出対象成分を含まない有機溶媒含有液を用い、前記第2溶媒として、前記検出対象成分を含み、当該検出対象成分を前記分離カラムに実質的に保持させない有機溶媒濃度に調整された有機溶媒含有液を用い、前記分析流路上に前記分離カラムが設けられている状態で移動相中における前記第2溶媒の濃度の設定値を時間的に変化させながら前記移動相を送液し、前記検出器の検出信号に基づいて各設定値で送液された移動相中における前記第2溶媒の実際濃度を求め、前記グラジエント送液の濃度正確性を測定する方法。
【請求項2】
前記第1溶媒は水とメタノールの混合液であり、前記第2溶媒はカフェインを含有する水とメタノールの混合液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1溶媒と第2溶媒の混合液からなる移動相を前記移動相中における前記第2溶媒の濃度を所定の設定値に調整して送液することができる送液部と、
前記送液部からの移動相が流れる分析流路と、
前記分析流路上に設けられ、前記分析流路中に注入された試料を分離するための分離カラムと、
前記分析流路上における前記分離カラムよりも下流に設けられ、前記分離カラムにおいて分離した試料成分を検出するための検出器と、
前記第1溶媒として前記検出器による検出対象成分を含まない有機溶媒含有液を用い、前記第2溶媒として前記検出対象成分を含み、当該検出対象成分を前記分離カラムに実質的に保持させない有機溶媒含有液を用い、移動相中における前記第2溶媒の濃度の設定値を時間的に変化させながら前記移動相を送液し、前記検出器の検出信号に基づいて各設定値で送液された移動相中における前記第2溶媒の実際濃度を求め
、グラジエント送液の濃度正確性を測定するように構成されたグラジエント正確性測定部と、を備えている液体クロマトグラフィー分析システム。
【請求項4】
前記第1溶媒は水とメタノールの混合液であり、前記第2溶媒はカフェインを含有する水とメタノールの混合液である、請求項3に記載の液体クロマトグラフィー分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCシステム(液体クロマトグラフィー分析システム)の性能評価の項目の1つであるグラジエント送液の正確性を測定するための方法と、その方法を実行する機能を有するLCシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCシステムの性能を評価するための測定項目として、ノイズ・ドリフト測定やグラジエント送液の濃度正確性測定、再現性測定などがある。
【0003】
ノイズ・ドリフト測定では、移動相を一定流量で送液し、そのときの検出器信号のノイズ値とドリフト値をそれぞれ測定する。
【0004】
グラジエント送液の濃度正確性測定では、水とカフェイン水溶液の2種類の液を移動相溶媒として用い、移動相中におけるカフェイン水溶液の濃度の設定値を時間的に変化させながら送液し、各設定値での送液時のカフェインの実際濃度を検出器信号に基づいて測定する。求めた実際濃度と設定値との差分が所定値以下(例えば、差分の設定値に対する割合が1%以下)であれば、グラジエント送液の濃度が正確であると評価することができる。
【0005】
再現性測定では、テスト試料を用いた分析を複数回実施し、ピーク面積の変動率を測定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラジエント送液の濃度正確性測定では、分析流路上に分離カラムが設けられていると、カフェインが分離カラムに保持されて濃縮されてしまい、送液部によるグラジエント送液の正確性を正しく評価することができない。そのため、グラジエント送液の濃度正確性測定を実施する際には、分析流路から分離カラムを取り外した状態にする必要がある。
【0007】
一方で、ノイズ・ドリフト測定や再現性測定は分析流路上に分離カラムを設けた状態で実施される。したがって、LCシステムの性能評価を実施する際に、グラジエント送液の濃度正確性測定を実行するときにだけ、作業者が分離カラムを分析流路から取り外さなければならず、すべての測定項目を連続的に実行することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、LCシステムの性能評価のための複数の測定項目を連続して実行できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る方法は、第1溶媒と第2溶媒の混合液からなる移動相を前記移動相中における前記第2溶媒の濃度を所定の設定値に調整して送液することができる送液部を有するとともに前記送液部からの移動相が流れる分析流路上に分離カラム及び検出器が設けられているLCシステムにおける、前記送液部による前記グラジエント送液の濃度正確性を測定するための方法である。当該方法では、前記第1溶媒として、前記検出器による検出対象成分を含まない有機溶媒含有液を用い、前記第2溶媒として、前記検出対象成分を含み、当該検出対象成分を前記分離カラムに実質的に保持させない有機溶媒濃度に調整された有機溶媒含有液を用いる。そして、前記分析流路上に前記分離カラムが設けられている状態で移動相中における前記第2溶媒の濃度の設定値を時間的に変化させながら前記移動相を送液し、前記検出器の検出信号に基づいて各設定値で送液された移動相中における前記第2溶媒の実際濃度を求め、前記グラジエント送液の濃度正確性を測定する。
【0010】
すなわち、本発明に係る方法では、送液部によって送液される第1溶媒と第2溶媒のいずれにも有機溶媒を含有する有機溶媒含有液を用い、分析流路を流れる移動相中の第2溶媒濃度がいかなる場合であっても、検出対象成分が分離カラムに実質的に保持されないようにする。これにより、分析流路上に分離カラムが設けられている状態でも、分離カラムによる検出対象成分の保持の影響を受けずにグラジエント送液の濃度正確性測定を実行することが可能である。したがって、本発明の方法を適用したグラジエント送液の濃度正確性測定は、ドリフト・ノイズ測定や再現性測定といった測定項目と連続して実行することができる。
【0011】
検出対象成分の一例はカフェインであり、有機溶媒の一例はメタノールである。すなわち、前記第1溶媒として水とメタノールの混合液を用いることができ、前記第2溶媒としてカフェインを含有する水とメタノールの混合液を用いることができる。
【0012】
本発明に係るLCシステムは、第1溶媒と第2溶媒の混合液からなる移動相を前記移動相中における前記第2溶媒の濃度を所定の設定値に調整して送液することができる送液部と、前記送液部からの移動相が流れる分析流路と、前記分析流路上に設けられ、前記分析流路中に注入された試料を分離するための分離カラムと、前記分析流路上における前記分離カラムよりも下流に設けられ、前記分離カラムにおいて分離した試料成分を検出するための検出器と、を備えたものであって、上述のグラジエント送液の濃度正確性の測定方法を実行する機能を備えるものである。すなわち、本発明に係る液体クロマトグラフは、前記第1溶媒として前記検出器による検出対象成分を含まない有機溶媒含有液を用い、前記第2溶媒として前記検出対象成分を含む有機溶媒含有液を用い、移動相中における前記第2溶媒の濃度の設定値を時間的に変化させながら前記移動相を送液し、前記検出器の検出信号に基づいて各設定値で送液された移動相中における前記第2溶媒の実際濃度を求め、前記グラジエント送液の濃度正確性を測定するように構成されたグラジエント正確性測定部を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る方法では、検出対象成分が分離カラムに実質的に保持されないように、第1溶媒と第2溶媒のいずれにも有機溶媒を含有する有機溶媒含有液を用いているので、分析流路上に分離カラムが設けられている状態でも、分離カラムによる検出対象成分の保持の影響を受けずにグラジエント送液の濃度正確性の測定を実行することができる。これにより、グラジエント送液の濃度正確性の測定をドリフト・ノイズ測定や再現性測定といったLCシステムの性能評価のための測定項目と連続して行なうことができる。
【0014】
本発明に係るLCシステムは、上述のグラジエント送液の正確性の測定方法を実行する機能を備えているので、分析流路に対する分離カラムの着脱作業を行なうことなく、LCシステムの性能評価のための複数の測定項目を連続的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】LCシステムの一実施例を概略的に示す流路構成図である。
【
図2】同実施例において実行されたグラジエント送液の正確性の測定結果を示すグラフである。
【
図3】LCシステムの性能評価の一連の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るグラジエント送液の正確性の測定方法及びその機能を備えるLCシステムの一実施例について説明する。
【0017】
図1に示されているように、LCシステムは、分析流路2、送液部4、オートサンプラ6、分離カラム8、検出器10及び演算制御装置12を備えている。
【0018】
送液部4は、第1溶媒を送液するための送液ポンプ14と、第2溶媒を送液するための送液ポンプ16と、送液ポンプ14、16によって送液される第1溶媒と第2溶媒を混合するためのミキサ18と、を備えている。ミキサ18で混合された第1溶媒と第2溶媒の混合液が移動相として分析流路2を流れる。送液部4は、ミキサ18で混合される第1溶媒と第2溶媒からなる移動相中の第2溶媒の濃度が、演算制御装置12から与えられる設定値になるように送液ポンプ14、16の動作速度を調整する機能を有する。
【0019】
オートサンプラ6、分離カラム8及び検出器10は、送液部4からの移動相が流れる分析流路2上において上流側からその順に設けられている。オートサンプラ6は分析流路2中に試料を注入するためのものである。分離カラム8は、オートサンプラ6によって分析流路2中に注入された試料を分離するためのものである。分離カラム8はカラムオーブン20内に収容されている。カラムオーブン20は分離カラム8の温度を設定された温度に制御するためのものである。検出器10は分離カラム8において分離した試料成分を検出するためのものである。
【0020】
演算制御装置12は、送液部4、オートサンプラ6及びカラムオーブン20の動作制御を行なう機能を有するとともに、検出器10で得られる検出信号に基づいて種々の演算やクロマトグラムの作成を行なう機能を有する。演算制御装置12はさらに、機能としてグラジエント正確性測定部22を備えている。演算制御装置12は専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現される。グラジエント正確性測定部22は演算制御装置12に設けられている演算素子が所定のプログラムを実行することによって得られる機能である。
【0021】
グラジエント正確性測定部22は、当該LCシステムの性能評価のための測定項目の1つであるグラジエント送液の濃度正確性の測定を実行するように構成されている。グラジエント送液の濃度正確性の測定では、メタノールなどの有機溶媒を含有する有機溶媒含有液を第1溶媒として用い、カフェインなどの検出器10による検出対象成分を含む有機溶媒含有液を第2溶媒として用いて、予め設定されたタイムプログラムにしたがって移動相中における第2溶媒の濃度の設定値を時間的に変化させ、各設定値で移動相が送液されているときの移動相中における第2溶媒の実際濃度を検出器10からの検出信号に基づいて求める。
【0022】
第2溶媒の実際濃度は、第2溶媒濃度の設定値が0(%)のときの検出信号強度をS(0)、第2溶媒濃度の設定値が100(%)のときの検出信号強度をS(100)、第2溶媒濃度の設定値がk(%)のときの検出信号強度をS(k)として、次式により求めることができる。
(S(k)-S(0))/(S(100)-(S(0))
【0023】
上記式により求めた実際濃度と設定値との差分が基準値(例えば設定値の1%)以下であれば、送液部4による移動相のその設定値に対する濃度調整が正確であると評価される。
【0024】
図2は、グラジエント送液の濃度正確性の測定の際に得られたクロマトグラムの一例である。この測定では、水とメタノールの混合液(水とメタノールの体積比率=7:3)を第1溶媒として用い、カフェインが添加された水とメタノールの混合液(水とメタノールの体積比率=7:3、カフェイン濃度=20ppm)を第2溶媒として用いた。また、分離カラム8としてODSカラムを用い、吸光度検出器10にて波長272nmの吸光度を測定した。送液部4に対する移動相中の第2溶媒濃度の設定値のタイムプログラムは以下のとおりである。
時間(分) 第2溶媒濃度の設定値(%)
0~10 0
10~20 10
20~30 50
30~40 90
40~50 100
50~60 0
【0025】
第2溶媒濃度の各設定値とそのときの信号強度、その信号強度に基づいて求められる第2溶媒濃度の実際濃度は以下のとおりである。
設定値(%) 信号強度(μV) 実際濃度(%)
0 1 -
10 107402 10.09
50 530675 49.88
90 957999 90.04
100 1064022 100
【0026】
上記の測定結果をみれば、第2溶媒濃度の設定値が10%、50%、90%のときの実際濃度はいずれも設定値±1%の範囲内にあり、送液部4による移動相のグラジエント濃度の調整が正確であると評価することができる。
【0027】
このように、第1溶媒及び第2溶媒のいずれにも有機溶媒を含有させ、検出器10による検出対象成分(カフェイン)が分離カラム8によって実質的に保持されないようにすることで、分析流路2上に分離カラム8が設けられている状態でも、グラジエント送液の濃度正確性の測定を正確に実施できることがわかる。分析流路2上に分離カラム8が設けられている状態でグラジエント送液の濃度正確性の測定を行なうことができるため、
図3に示されているように、LCシステムの性能評価の各測定項目、すなわち、ノイズ・ドリフト測定、グラジエント送液の濃度正確性測定及び再現性測定を連続して行なうことができる。
【0028】
なお、上記実施例では、送液部4として高圧グラジエント方式のものを用いているが、本発明は低圧グラジエント方式の送液部を備えるLCシステムにおいても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
2 分析流路
4 送液部
6 オートサンプラ
8 分離カラム
10 検出器
12 演算制御装置
14,16 送液ポンプ
18 ミキサ
20 カラムオーブン
22 グラジエント正確性測定部