(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】試料注入装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/18 20060101AFI20220105BHJP
G01N 30/24 20060101ALI20220105BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N30/18 E
G01N30/24 E
G01N35/10 E
(21)【出願番号】P 2020535342
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029380
(87)【国際公開番号】W WO2020031226
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】小森 優輝
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207392(JP,A)
【文献】特開平09-72920(JP,A)
【文献】特開2018-40682(JP,A)
【文献】特開2017-173044(JP,A)
【文献】特開2009-162536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0300035(US,A1)
【文献】特開2004-136236(JP,A)
【文献】特開2005-181143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
A61B 10/02
A61J 1/20
A61M 37/00
D04B 15/14
G01N 1/00
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の試料を吸引して内部に収容するとともに吸引した前記試料を吐出するための筒状の吸引吐出部を備え、
前記吸引吐出部の内壁の少なくとも前記試料が収容される部分には、前記内壁と前記試料との間に作用する界面張力を大きくするための表面処理が施され
、
前記吸引吐出部は、前記吸引吐出部が鉛直方向に沿うように配置された状態で、前記試料の下端の前記内壁と接触する下端接触位置が、前記吸引吐出部の先端の開口が形成された第1の高さ位置よりも上側で、かつ、前記表面処理が施された高さ位置である第2の高さ位置に位置するように、前記吸引吐出部の先端が前記試料の液面から上方に離れた位置において、前記試料を吸引するように構成されている、試料注入装置。
【請求項2】
前記内壁の少なくとも前記第2の高さ位置に対応する部分の近傍に前記表面処理が施されている、請求項1に記載の試料注入装置。
【請求項3】
前記内壁の少なくとも前記第1の高さ位置に対応する部分の近傍から前記第2の高さ位置に対応する部分の近傍まで前記表面処理が施されている、請求項2に記載の試料注入装置。
【請求項4】
前記吸引吐出部は、前記下端接触位置が前記第1の高さ位置の近傍に到達するまで前記試料を吸引した後に、前記下端接触位置が前記第2の高さ位置に到達するまで空気を吸引するように構成されている、請求項2または3に記載の試料注入装置。
【請求項5】
吸引された前記試料を内部に収容した状態の前記吸引吐出部を水平方向または鉛直方向のうちの少なくとも一方に移動させるための移動機構をさらに備え、
前記移動機構は、前記下端接触位置が、前記第2の高さ位置に位置している状態で、前記吸引吐出部を移動させるように構成されている、請求項2~4のいずれか1項に記載の試料注入装置。
【請求項6】
前記試料は、有機溶媒であり、
前記表面処理は、前記内壁の撥油性を高める処理を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の試料注入装置。
【請求項7】
前記内壁の撥油性を高める処理は、前記内壁に親水性の官能基を配置させる処理を含む、請求項6に記載の試料注入装置。
【請求項8】
前記吸引吐出部は、前記試料を内部に収容するシリンジの前端に取り付けられるニードルを含み、
前記ニードルの内壁の少なくとも前記試料が収容される部分には、前記表面処理が施されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の試料注入装置。
【請求項9】
前記ニードルは、前記シリンジに対して着脱可能に構成されており、
前記試料の種類に応じて、互いに異なる前記表面処理が施された前記ニードルに交換可能なように構成されている、請求項8に記載の試料注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料注入装置に関し、特に、液体の試料を吸引して内部に収容するとともに吸引した試料を吐出するための筒状の吸引吐出部を備えた試料注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の試料を吸引して内部に収容するとともに吸引した試料を吐出するための筒状の吸引吐出部を備えた試料注入装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ガスクロマトグラフ装置に試料を導入するためのシリンジ(円筒形の筒)と、液体の試料を収容する複数のバイアル(瓶)が載置されるターレット(載置台)と、を備えたガスクロマトグラフ装置用の試料注入装置が開示されている。上記特許文献1に記載の試料注入装置は、シリンジを上下方向に移動させるシリンジ駆動部と、シリンジ内で往復駆動されるプランジャ(棒状のピストン)と、シリンジの先端に設けられ内部に流路を有するニードル(吸引吐出部)と、を備えている。上記特許文献1に記載の試料注入装置は、プランジャを駆動させることにより、ニードルを介して、シリンジ内に液体の試料を吸引するとともにシリンジ内に吸引した試料を吐出するように構成されている。また、上記特許文献1に記載の試料注入装置は、ターレットに載置されたバイアルがシリンジの下方に位置するように、ターレットを水平方向に移動させるためのターレット駆動部を備えている。
【0004】
上記特許文献1に記載の試料注入装置では、ターレットをターレット駆動部によりシリンジの下方に水平移動させた後、シリンジをシリンジ駆動部によりターレットに載置されたバイアル内の試料にニードルが侵入するまで下方に移動させる。そして、プランジャを駆動させて、ニードルを介してシリンジ内に試料を吸引して試料を収容した後、シリンジをバイアルの上方に移動させる。そして、ターレットをターレット駆動部によりシリンジの下方以外の領域にシリンジの下方から水平移動させた後、シリンジをシリンジ駆動部によりシリンジ駆動部の下方に配置されたガスクロマトグラフ装置に向かって下方に移動させる。そして、ガスクロマトグラフ装置の試料導入部のセプタム(ゴム製の蓋)にニードルを貫通させ、ニードルの先端が試料導入部に侵入した状態で、プランジャを駆動させることにより、シリンジ内の試料を、ニードルを介してシリンジの外部に吐出してガスクロマトグラフ装置の試料導入部に注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、上記特許文献1に記載のような従来の試料注入装置では、ニードルがバイアル内の試料に侵入した状態でニードルを介してシリンジに試料を吸引するので、ニードル(吸引吐出部)内の流路には試料が満たされた状態(流路の根元部から先端部まで試料が存在する状態)になっていると考えられる。この状態でシリンジ(ニードル)を上下方向に移動させると、流路内の試料に作用する重力に加えて、シリンジ(ニードル)の加速または減速に起因してニードルの流路内の試料に下方向への力が生じるため、ニードルの流路内の試料がニードルの先端から外部に排出されてしまう場合があると考えられる。このため、上記特許文献1に記載のような従来の試料注入装置では、液体の試料をシリンジ(ニードル)に収容した状態でシリンジ(ニードル)を移動させる際に、ニードル(吸引吐出部)に収容されている試料がニードル(吸引吐出部)から液だれ(滴下)してしまうという問題点が考えられる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、吸引吐出部を移動させた場合でも、吸引吐出部に収容されている試料が吸引吐出部から液だれ(滴下)してしまうのを抑制することが可能な試料注入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における試料注入装置は、液体の試料を吸引して内部に収容するとともに吸引した試料を吐出するための筒状の吸引吐出部を備え、吸引吐出部の内壁の少なくとも試料が収容される部分には、内壁と試料との間に作用する界面張力を大きくするための表面処理が施され、吸引吐出部は、吸引吐出部が鉛直方向に沿うように配置された状態で、試料の下端の内壁と接触する下端接触位置が、吸引吐出部の先端の開口が形成された第1の高さ位置よりも上側で、かつ、表面処理が施された高さ位置である第2の高さ位置に位置するように、吸引吐出部の先端が試料の液面から上方に離れた位置において、試料を吸引するように構成されている。
【0009】
この発明の一の局面による試料注入装置では、上記のように、吸引吐出部の内壁の少なくとも試料が収容される部分には、内壁と試料との間に作用する界面張力を大きくするための表面処理が施されている。ここで、界面張力は、一般的に、界面(液体、気体および固体のうちのいずれか2つが接する面積)を小さくするように作用する力であるので、内壁と試料との間に作用する界面張力は、内壁と試料との界面を小さくする方向に作用する。したがって、表面処理が施されている内壁の部分において、内壁と試料との間に作用する界面張力を大きくすることによって、内壁と試料との界面を小さくする方向に作用する力を大きくすることができる。すなわち、内壁と試料との界面が小さくなるように、試料を吸引吐出部の内部に留める方向に作用する力を大きくすることができる。たとえば、試料が内部に収容された状態で筒状の吸引吐出部が鉛直方向に沿うように配置されている場合、内壁と試料との間に作用する界面張力は、内壁と試料との界面を小さくするように、重力により試料が垂れ下がる下方向とは反対の上方向に作用する。その結果、試料が吸引吐出部の外部に排出されるのを抑制することができるので、吸引吐出部に収容されている試料が吸引吐出部から液だれ(滴下)してしまうのを抑制することができる。
【0010】
また、この発明の一の局面による試料注入装置では、吸引吐出部は、吸引吐出部が鉛直方向に沿うように配置された状態で、試料の下端の内壁と接触する下端接触位置が、吸引吐出部の先端の開口が形成された第1の高さ位置よりも上側で、かつ、表面処理が施された高さ位置である第2の高さ位置に位置するように、吸引吐出部の先端が試料の液面から上方に離れた位置において、試料を吸引するように構成されている。これにより、上記下端接触位置が吸引吐出部の先端の開口が形成された位置よりも上側となるので、吸引吐出部の移動等に起因して吸引吐出部に収容された試料に下向きの力が作用することによって上記下端接触位置が下方に移動してしまった場合でも、上記下端接触位置が吸引吐出部の外部に達するのを抑制することができる。その結果、たとえば、上記下端接触位置が吸引吐出部の先端の開口が形成された位置となるように構成されている場合と比較して、試料が吸引吐出部の外部に排出されるのをより抑制することができるので、吸引吐出部に収容されている試料が吸引吐出部から液だれ(滴下)してしまうのをより抑制することができる。上記一の局面による試料注入装置において、好ましくは、内壁の少なくとも第2の高さ位置に対応する部分の近傍に上記表面処理が施されている。なお、第2の高さ位置に対応する部分の近傍とは、第2の高さ位置に対応する部分そのものと、第2の高さ位置に対応する部分の近傍との両方をも含むことを意味する。
【0011】
この場合、好ましくは、内壁の少なくとも第1の高さ位置に対応する部分の近傍から第2の高さ位置に対応する部分の近傍まで上記表面処理が施されている。このように構成すれば、吸引吐出部の移動等に起因して吸引吐出部に収容された試料に下向きの力が作用することによって、上記下端接触位置が下方に移動してしまった場合でも、上記下端接触位置を、上記表面処理が施された部分に確実に位置させることができる。
【0012】
上記内壁の少なくとも第2の高さ位置に対応する部分の近傍に表面処理が施されている構成において、好ましくは、吸引吐出部は、上記下端接触位置が第1の高さ位置の近傍に到達するまで試料を吸引した後に、上記下端接触位置が第2の高さ位置に到達するまで空気を吸引するように構成されている。このように構成すれば、空気を吸引した分だけ上記下端接触位置を上側に移動させることができるので、上記下端接触位置を第1の高さ位置から第2の高さ位置に容易に到達させることができる。
【0013】
上記内壁の少なくとも第2の高さ位置に対応する部分の近傍に表面処理が施されている構成において、好ましくは、吸引された試料を内部に収容した状態の吸引吐出部を水平方向または鉛直方向のうちの少なくとも一方に移動させるための移動機構をさらに備え、移動機構は、上記下端接触位置が、第2の高さ位置に位置している状態で、吸引吐出部を移動させるように構成されている。このように構成すれば、吸引吐出部を移動させる際に、上記下端接触位置が第2の高さ位置に位置している状態にすることができるので、吸引吐出部に収容された試料が吸引吐出部から液だれ(滴下)してしまうのを抑制しながら、吸引吐出部を移動させることができる。
【0014】
上記一の局面による試料注入装置において、好ましくは、試料は、有機溶媒であり、上記表面処理は、内壁の撥油性を高める処理を含む。このように構成すれば、撥油性の物質と油性の物質との界面では、界面を小さくする方向に界面張力が作用するので、内壁の撥油性を高めることによって、油性の有機溶媒と撥油製の内壁との間に作用する界面張力を容易に大きくすることができる。
【0015】
この場合、好ましくは、内壁の撥油性を高める処理は、内壁に親水性の官能基を配置させる処理を含む。このように構成すれば、親水性の官能基が配置された部分では撥油性が高まるので、内壁に親水性の官能基を配置させる処理により、内壁の撥油性を容易に高めることができる。
【0016】
上記一の局面による試料注入装置において、好ましくは、吸引吐出部は、試料を内部に収容するシリンジの前端に取り付けられるニードルを含み、ニードルの内壁の少なくとも試料が収容される部分には、上記表面処理が施されている。このように構成すれば、ニードルを移動させる際に、ニードルに収容された試料がニードルから液だれ(滴下)してしまうのを抑制することができる。その結果、液だれ(滴下)を抑制することができる試料注入装置を、ガスクロマトグラフ装置用の試料注入装置のようにニードルを備えた構成に適用することができる。
【0017】
この場合、好ましくは、ニードルは、シリンジに対して着脱可能に構成されており、試料の種類に応じて、互いに異なる上記表面処理が施されたニードルに交換可能なように構成されている。このように構成すれば、シリンジに対して着脱されるニードルを、試料の性質に合わせて、試料とニードルの内壁との間に作用する界面張力が適切な大きさになるニードルに交換することができるので、異なる種類の試料に対しても、ニードルに収容された試料がニードルから液だれ(滴下)するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、吸引吐出部を移動させた場合でも、吸引吐出部に収容されている試料が吸引吐出部から液だれ(滴下)してしまうのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による試料注入装置の全体構成を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態による試料注入装置におけるインジェクタの制御に関するブロック図である。
【
図3】インジェクタによる試料の吸引を説明するための図である。
【
図4】インジェクタによる試料の吐出を説明するための図である。
【
図5】インジェクタによる試料の吸引後の空気の吸引を説明するための図である。
【
図6】インジェクタにおけるニードルの拡大断面図である。
【
図7】(A)および(B)は、本発明の変形例による試料注入装置におけるニードルの拡大断面図である。
【
図8】本発明の変形例による試料注入装置の全体構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1~
図6を参照して、本発明の一実施形態による試料注入装置100の構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、試料注入装置100は、試料Sを分析するためのガスクロマトグラフ装置900に試料Sを注入するための装置である。試料注入装置100は、ターレット10と、インジェクタ20と、を備えている。
【0023】
ターレット10は、試料S等を収容するためのバイアル11が載置される載置台である。ターレット10には、複数のバイアル11が載置されている。試料注入装置100では、試料Sは、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒である。
【0024】
インジェクタ20は、分析対象の試料Sが収容されたバイアル11から試料Sを吸引してガスクロマトグラフ装置900の試料導入部910に試料Sを注入するように構成されている。インジェクタ20は、シリンジ21と、プランジャ22と、ニードル23と、を含む。なお、ニードル23は、請求の範囲の「吸引吐出部」の一例である。
【0025】
図3に示すように、シリンジ21は、試料Sを内部に収容可能なように鉛直方向(Z方向)に延びる筒状に形成されている。プランジャ22は、シリンジ21の内部に配置されるとともに、シリンジ21内をZ方向に移動可能に構成されている。
【0026】
ニードル23は、シリンジ21の前端(Z2側)に取り付けられている。ニードル23には、内部にZ方向に延びる流路が形成されている。ニードル23の流路は、後端(Z1側)がシリンジ21と接続されるとともに、前端(Z2側)には、開口23bが形成されている。なお、以下の説明では、ニードル23の前端を「先端」と呼ぶ場合がある。
【0027】
これにより、ニードル23の先端(Z2側)が試料Sに侵入した状態で、プランジャ22をシリンジ21内の前端側(Z2側)(
図3の左側の状態)から後端側(Z1側)(
図3の右側の状態)に移動させることにより、ニードル23の流路を介して、シリンジ21内に試料Sを吸引して収容すること(試料吸引動作)が可能である。また、
図4に示すように、シリンジ21内に試料Sを収容した状態で、プランジャ22をシリンジ21内の後端側(Z1側)(
図4の左側の状態)から前端側(Z2側)(
図4の右側の状態)に移動させることにより、ニードル23の流路を介して、シリンジ21内に収容した試料Sを吐出すること(試料吐出動作)が可能である。なお、
図3および
図4に示すように、シリンジ21内に試料Sを収容した状態では、ニードル23の流路にも試料Sが収容された状態となる。
【0028】
図3に示すように、試料吸引動作において、シリンジ21内およびニードル23内に吸引される試料Sの量は、プランジャ22をZ2側からZ1側に移動させることにより増加したシリンジ21内の容積と略等しい。また、
図4に示すように、試料吐出動作において、シリンジ21内およびニードル23内から吐出される試料Sの量は、プランジャ22をZ1側からZ2側へ移動させることにより減少したシリンジ21内の容積と略等しい。なお、
図3および
図4では、プランジャ22を、それぞれ、Z2側からZ1側に距離L1だけ移動させた例、および、Z1側からZ2側に距離L2だけ移動させた例を示している。
【0029】
ここで、本実施形態では、
図6に示すように、ニードル23は、ニードル23が鉛直方向(Z方向)に沿うように配置された状態で、試料Sの下端Saの内壁23aと接触する接触位置Sbが、ニードル23の先端の開口23bが形成された高さ位置P1よりも上側の高さ位置P2に位置するように、試料Sを吸引するように構成されている。詳細には、ニードル23は、接触位置Sbが高さ位置P1の近傍に到達するまで試料Sを吸引した後に、接触位置Sbが高さ位置P2に到達するまで空気Aを吸引するように構成されている。なお、接触位置Sbは、請求の範囲の「下端接触位置」の一例である。また、高さ位置P1および高さ位置P2は、それぞれ、請求の範囲の「第1の高さ位置」および「第2の高さ位置」の一例である。
【0030】
具体的には、
図5に示すように、試料吸引位置においてバイアル11内の試料Sをシリンジ21内に吸引した状態(
図3の右図の状態)のインジェクタ20を、インジェクタ駆動部31(
図2参照)によりZ1方向に移動させて、ニードル23の先端がバイアル11内の試料Sの液面から離れた状態(
図5の左図の状態)にする。そして、プランジャ22を、シリンジ21内の前端側(Z2側)から後端側(Z1側)に所定の距離L3だけ移動させる。これに伴い、
図6に示すように、ニードル23の先端の開口23bの側(Z1側)には、空気Aが吸引され、試料Sの下端Saの位置が上側(Z1側)に移動する。すなわち、重力により下に凸の形状を有する試料Sの下端Saのうち、ニードル23の内壁23aと接触する接触位置Sbが、開口23bが形成された高さ位置P1から、距離L3に応じた距離L3aだけ上側の高さ位置P2に移動する。
【0031】
図2に示すように、試料注入装置100は、インジェクタ駆動部31と、プランジャ駆動部32と、制御部33と、を備えている。なお、インジェクタ駆動部31は、請求の範囲の「移動機構」の一例である。
【0032】
インジェクタ駆動部31は、試料注入装置100において、インジェクタ20(
図1参照)を、水平方向(X方向)および鉛直方向(Z方向)に移動させることが可能に構成されている。インジェクタ駆動部31は、たとえば、パルス電力に同期して動作するパルスモータ(図示しない)を含む。
【0033】
図1に示すように、インジェクタ駆動部31(
図2参照)は、インジェクタ20を、試料吸引位置、貫通動作開始位置、試料吐出位置、等に移動させることが可能である。なお、「試料吸引位置」は、バイアル11内の試料Sをシリンジ21内に吸引する位置である。また、「貫通動作開始位置」は、シリンジ21内に吸引した試料Sをガスクロマトグラフ装置900の試料導入部910に注入するために、(試料導入部910の)ゴム製の蓋部材であるセプタム911を貫通させるための貫通動作を開始する位置である。また、「試料吐出位置」は、シリンジ21内の試料Sを試料導入部910内において吐出する位置である。
【0034】
本実施形態では、
図6に示すように、インジェクタ駆動部31は、接触位置Sbが、高さ位置P2に位置している状態で、ニードル23を移動させるように構成されている。具体的には、試料注入装置100では、試料吸引位置(の近傍)において、ニードル23の流路内に空気Aを吸引することにより、ニードル23の内壁23aと接触する接触位置Sbを、高さ位置P2に移動させた状態のまま、インジェクタ20を、試料吐出位置まで移動させる。
【0035】
図2に示すように、プランジャ駆動部32は、シリンジ21(
図3および
図4参照)内でプランジャ22(
図3参照)を鉛直方向(Z方向)に移動させることが可能に構成されている。プランジャ駆動部32は、たとえば、パルス電力に同期して動作するパルスモータ(図示しない)を含む。
【0036】
制御部33は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含んで構成されたコンピュータである。制御部33は、インジェクタ駆動部31およびプランジャ駆動部32により、それぞれ、インジェクタ20(
図3参照)およびプランジャ22(
図3参照)を移動させる制御を行うように構成されている。
【0037】
以上の構成により、試料注入装置100は、バイアル11内の試料Sをシリンジ21内に吸引するとともに、吸引した試料Sをガスクロマトグラフ装置900に導入することができる。なお、上述したように、インジェクタ20は、シリンジ21内に試料Sを収容した状態(すなわち、ニードル23の流路にも試料Sが収容された状態)で、インジェクタ駆動部31により、水平方向および垂直方向に移動する。このため、インジェクタ20の移動に伴ってニードル23の流路内の試料Sが外部に排出され、ニードル23から液だれ(滴下)してしまう可能性がある。
【0038】
そこで、本実施形態では、
図6に示すように、ニードル23の内壁23aの少なくとも試料Sが収容される部分に、内壁23aと試料Sとの間に作用する界面張力Fを大きくするための表面処理Vが施されている。詳細には、内壁23aの高さ位置P1に対応する部分の近傍から高さ位置P2に対応する部分の近傍まで内壁23aの撥油性を高める表面処理Vが施されている。
【0039】
具体的には、試料注入装置100では、ニードル23の内壁23aの高さ位置P1から、高さ位置P2の近傍かつ高さ位置P2よりもZ1側の高さ位置P3まで表面処理Vが施されている。表面処理Vは、内壁23aに、水酸基、アミノ基等の親水性の官能基を配置させることにより撥油性を高める処理である。表面処理Vは、プラズマ処理、塗装、等の皮膜処理により施される。
【0040】
これにより、内壁23aの表面処理Vが施された部分に試料Sが接している状態では、(油性の)有機溶媒である試料Sと撥油性が高められた内壁23aとの間の互いに反発するように作用する力が大きくなる。言い換えると、試料Sと表面処理Vが施された内壁23aとの界面を小さくするように作用する力(界面張力)が大きくなる。固体の分子は移動できないので、界面張力Fにより、固体と液体との界面において、液体の分子が移動する。たとえば、試料Sと空気Aと内壁23aとの交点に相当する接触位置Sbにおいて、試料Sに対して、上向き(Z1方向)の界面張力Fが作用する。したがって、試料Sと内壁23aとの間に作用する界面張力Fが大きくなることにより、試料Sをニードル23の流路内に留めるように作用する力が大きくなる。
【0041】
なお、本実施形態では、ニードル23は、シリンジ21に対して着脱可能に構成されている。すなわち、試料Sの種類に応じて、(各々の試料Sの性質に合わせた)互いに異なる表面処理Vが施されたニードル23に交換することが可能である。
【0042】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0043】
本実施形態では、上記のように、ニードル23の内壁23aの少なくとも試料Sが収容される部分に、内壁23aと試料Sとの間に作用する界面張力Fを大きくするための表面処理Vを施す。これにより、表面処理Vが施されている内壁23aの部分において、内壁23aと試料Sとの間に作用する界面張力Fを大きくすることによって、内壁23aと試料Sとの界面を小さくする方向に作用する力を大きくすることができる。すなわち、内壁23aと試料Sとの界面が小さくなるように、試料Sをニードル23の内部に留める方向に作用する力を大きくすることができる。その結果、試料Sがニードル23の外部に排出されるのを抑制することができるので、ニードル23に収容されている試料Sがニードル23から液だれ(滴下)してしまうのを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のように、ニードル23を、ニードル23が鉛直方向に沿うように配置された状態で、試料Sの下端Saの内壁23aと接触する接触位置Sbが、ニードル23の先端の開口23bが形成された高さ位置P1よりも上側の高さ位置P2に位置するように、試料Sを吸引するように構成する。また、内壁23aの少なくとも高さ位置P2に対応する部分の近傍に表面処理Vを施す。これにより、接触位置Sbがニードル23の先端の開口23bが形成された位置よりも上側となるので、ニードル23の移動等に起因してニードル23に収容された試料Sに下向きの力が作用することによって接触位置Sbが下方に移動してしまった場合でも、接触位置Sbがニードル23の外部に達するのを抑制することができる。その結果、接触位置Sbがニードル23の先端の開口23bが形成された位置となるように構成されている場合と比較して、試料Sがニードル23の外部に排出されるのをより抑制することができるので、ニードル23に収容されている試料Sがニードル23から液だれ(滴下)してしまうのをより抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように、内壁23aの高さ位置P1に対応する部分の近傍から高さ位置P2に対応する部分の近傍まで表面処理Vを施す。これにより、ニードル23の移動等に起因してニードル23に収容された試料Sに下向きの力が作用することによって、接触位置Sbが下方に移動してしまった場合でも、接触位置Sbを、表面処理Vが施された部分に確実に位置させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記のように、ニードル23を、接触位置Sbが高さ位置P1の近傍に到達するまで試料Sを吸引した後に、接触位置Sbが高さ位置P2に到達するまで空気Aを吸引するように構成する。これにより、空気Aを吸引した分だけ接触位置Sbを上側に移動させることができるので、接触位置Sbを高さ位置P1から高さ位置P2に容易に到達させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、試料注入装置100は、吸引された試料Sを内部に収容した状態のニードル23を水平方向および鉛直方向に移動させるためのインジェクタ駆動部31を備える。そして、インジェクタ駆動部31を、接触位置Sbが、高さ位置P2に位置している状態で、ニードル23を移動させるように構成する。これにより、ニードル23を移動させる際に、接触位置Sbが高さ位置P2に位置している状態にすることができるので、ニードル23に収容された試料Sがニードル23から液だれ(滴下)してしまうのを抑制しながら、ニードル23を移動させることができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、試料Sは、有機溶媒である。そして、表面処理Vを、内壁23aの撥油性を高める処理を含むように構成する。これにより、撥油性の物質と油性の物質との界面では、界面を小さくする方向に界面張力Fが作用するので、内壁23aの撥油性を高めることによって、油性の有機溶媒と撥油製の内壁23aとの間に作用する界面張力Fを容易に大きくすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、内壁23aの撥油性を高める処理を、内壁23aに親水性の官能基を配置させる処理を含むように構成する。これにより、親水性の官能基が配置された部分では撥油性が高まるので、内壁23aに親水性の官能基を配置させる処理により、内壁23aの撥油性を容易に高めることができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、ニードル23は、試料Sを内部に収容するシリンジ21の前端に取り付けられるニードルである。そして、ニードル23の内壁23aの少なくとも試料Sが収容される部分に、表面処理Vを施す。これにより、ニードル23を移動させる際に、ニードル23に収容された試料Sがニードル23から液だれ(滴下)してしまうのを抑制することができる。その結果、液だれ(滴下)を抑制することができる試料注入装置100を、ガスクロマトグラフ装置900用の試料注入装置のようにニードル23を備えた構成に適用することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、ニードル23を、シリンジ21に対して着脱可能に構成する。また、試料Sの種類に応じて、互いに異なる表面処理Vが施されたニードル23に交換可能なように構成する。これにより、シリンジ21に対して着脱されるニードル23を、試料Sの性質に合わせて、試料Sとニードル23の内壁23aとの間に作用する界面張力Fが適切な大きさになるニードル23に交換することができるので、異なる種類の試料Sに対しても、ニードル23に収容された試料Sがニードル23から液だれ(滴下)するのを抑制することができる。
【0052】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0053】
たとえば、上記実施形態では、ニードル23の内壁23aの高さ位置P1から高さ位置P3まで表面処理Vを施すように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、表面処理Vを、ニードル23の内壁23aの少なくとも高さ位置P2の近傍に施すように構成すればよい。たとえば、
図7(A)の変形例に示すように、表面処理Vを、ニードル223の内壁223aの高さ位置P2の近傍かつ高さ位置P2よりもZ2側の高さ位置P4から、高さ位置P3までに施すように構成してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、接触位置Sbが高さ位置P2に位置している状態で、ニードル23を移動させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、接触位置Sbが高さ位置P1に位置している状態で、ニードル23を移動させるように構成してもよい。この場合、接触位置Sbが高さ位置P1の近傍に到達するまで試料Sを吸引した後に、接触位置Sbが高さ位置P2に到達するまで空気Aを吸引する動作が省略される。また、
図7(B)の変形例に示すように、表面処理Vを、ニードル323の内壁323aの高さ位置P1から、高さ位置P1の近傍かつ高さ位置P1よりもZ1側の高さ位置P5まで施すように構成してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、試料Sが有機溶媒であり、内壁23aに、撥油性を高める表面処理Vを施すように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、試料が水性の場合、内壁23aに、アルキル基、フェニル基、単脂環基等の撥水性の官能基を配置させる表面処理を施すように構成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、インジェクタ20を、X方向およびZ方向に移動させることが可能に構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、インジェクタを、X方向およびZ方向に加えて、Y方向にも移動させることが可能に構成してもよい。この場合、Y方向に並べて配置されたバイアル内の試料をシリンジに吸引することができる。また、インジェクタを、Z方向のみに移動させるように構成してもよい。この場合、ターレットを水平方向に移動させ、バイアルをインジェクタの下方に位置させることにより、バイアル内の試料をシリンジに吸引するように構成すればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、試料Sを分析するためのガスクロマトグラフ装置900に試料Sを注入するための試料注入装置100において、ニードル23の内壁23aの少なくとも試料Sが収容される部分に、内壁23aと試料Sとの間に作用する界面張力Fを大きくするための表面処理Vを施すように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、液体の試料を吸引して内部に収容するとともに吸引した試料を吐出するための筒状の吸引吐出部を備えた他の種類の試料注入装置において、吸引吐出部の内壁の少なくとも試料が収容される部分には、内壁と試料との間に作用する界面張力を大きくするための表面処理を施すように構成してもよい。たとえば、本発明を、
図8に示す変形例における試料注入装置400のように、試料Sを分析するために、試料Sを希釈および分注するための装置(いわゆる、希釈分注装置)に適用することができる。
【0058】
図8に示すように、試料注入装置400は、試料用バイアル401と、溶媒用バイアル402と、希釈用シリンジ403と、切換え弁404と、分注ヘッド420と、を備えている。試料用バイアル401には、分析対象の試料Sが収容されている。溶媒用バイアル402には、試料Sを希釈するための希釈液である溶媒が収容されている。希釈用シリンジ403は、チューブ405を介して、溶媒用バイアル402および分注ヘッド420と接続されている。切換え弁404は、希釈用シリンジ403の接続先を、溶媒用バイアル402と分注ヘッド420とで切換え可能に構成されている。分注ヘッド420は、試料用バイアル401内の試料Sを吸引して収容するためのチップ423が着脱可能に取り付けられている。チップ423は、いわゆる、ディスポーザブルチップである。分注ヘッド420には、試料Sをチップ423に吸引するとともに、試料Sをチップ423から吐出するためのポンプ(図示しない)が設けられている。なお、チップ423は、請求の範囲の「吸引吐出部」の一例である。
【0059】
試料注入装置400では、分注ヘッド420のチップ423に、試料用バイアル401内の試料Sを吸引して収容した後、チップ423内に収容した試料Sを、希釈用シリンジ403に移動させる。そして、希釈用シリンジ403内の試料Sに対して、溶媒用バイアル402内の溶媒を所定の量だけ混合することにより、試料Sを所定の濃度に希釈する。そして、希釈用シリンジ403内の試料Sを分注ヘッド420のチップ423内に移動させる。そして、分注ヘッド420を、分析用バイアル406の試料注入位置に移動させた状態で、希釈された希釈用シリンジ403内の試料Sを、分注ヘッド420を介して分析用バイアル406に吐出する。試料Sを希釈する濃度を変更しながら、異なる濃度の試料Sを複数の分析用バイアル406に吐出することによって、分析用の異なる濃度の試料Sが作成される。
【0060】
試料注入装置400では、チップ423の内壁423aの少なくとも試料Sが収容される部分に、内壁423aと試料Sとの間に作用する界面張力Fを大きくするための表面処理Vが施されている。これにより、分注ヘッド420を移動させた場合でも、チップ423内に収容された試料Sが液だれ(滴下)するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0061】
21 シリンジ
23、223、323 ニードル(吸引吐出部)
23a、223a、323a、423a (吸引吐出部の)内壁
23b (吸引吐出部の先端の)開口
31 シリンジ駆動部(移動機構)
100、400 試料注入装置
423 チップ(吸引吐出部)
P1 高さ位置(第1の高さ位置)
P2 高さ位置(第2の高さ位置)
S 試料
Sa (試料の)下端
Sb 接触位置(下端接触位置)
V (内壁と試料との間に作用する界面張力を大きくするための)表面処理